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2026年7月28日火曜日

人類アンチ種族神 -エピローグ- 1-2 やさしさ

※本エピソードは本編「人類アンチ種族神のV章⑮」以降のエピローグになります。

ーーー

仲原は、隊長の部屋で男性向け雑誌を発見していた。


そして、一段と強くついた折り目のあるページ。理由は想像にたやすい。


そのページには、筋肉など微塵も感じさせない「いかにも」な女性が、表現のしようのないポーズで写っていた。


「なるほど?」


声が漏れる。どう見ても戦力としては弱い。この無駄な肉に隊長は何を思うのか……。


とりあえず付せんを貼り、赤いマジックで一言書いておく「注目!」


そして本棚に戻し、再び掃除の任務に戻った。


その頃、足立は焦っていた。原因は、今朝突然決まった仲原の「世話係」任務である。


急な出来事だったため、いわゆる「秘蔵のコレクション」を、慌ててタンスの後ろへ隠してきた。


しかし、足立は内心、分かっていた。


仲原も陸自の人間だ。足立が慌てて何かを隠したことなど、確実に見抜かれている。


規則を重んじる仲原のことだ。どんな冷ややかな目で見られるのだろうか。


足立は思わず、バスの降車ボタンを連打した。



「ただいま! 変なものを見せて申し訳――」


途中まで言いかけた足立の言葉は、美しく整頓された空間へ吸い込まれていった。


「これが俺の部屋か?」


思わず玄関の外へ戻り、部屋番号を確認してしまう。


「お疲れ様です、隊長! いえ、陸将殿!」


「ああ、お疲れ。あの、段ボールとゴミの山は?」


「片付けておきました。幸い、この宿舎はいつでもゴミを出せますので、ゴミは分別して廃棄しました。段ボールは、中身が書いてあるものだけ開封して収納。何も書かれていないものは、部屋の隅にまとめ、備蓄用の資材ケースへ収めて目立たないようにしてあります」


脱衣所も、これまた美しかった。


毎回、手のひらでこすらなければ姿が映らなかった鏡は、水垢一つない新品のように輝いていた。

脱ぎ散らかした服も下着もすべて消え、風呂場の床は本来の色を取り戻していた。


「まるで高級ホテルみたいだ……」


鏡に映る額の汗をみて、足立は我に返る。コレクションの回収だ。


仲原を置き去りにするようにすれ違うと、急いで自室に戻った。


自室も凄かった。まるでモデルルームのように美しく、それでいて移動動線などが最適化された配置。


デザイン的な美しさと機能美、そのクオリティーの高さに、思わず声がでる。


「おいおい。このベッドも本棚も二人以上で組み立てるヤツ……」


そう言いかけて、視線を向けた先で特に目を引いたのは、足立の秘蔵コレクションだった。


大きな付せんが貼られ、赤い太字で「注目!」と書かれている。


「ちょ、ちょっと!」


足立は慌てて秘蔵コレクションを本棚から抜き取り、胸に抱えて隠した。


そこへ、ちょうど仲原がやってきた。


足立は思わず、禁断の質問を口にしてしまう。


「見……見たのか?」


「はい。男性向け雑誌に興味はありませんでしたが、陸将殿の私物でしたので、内容を確認しました」


「なんで付せん?」


「深く折り目が付いておりましたので」


仲原の視線に温度はなく、感情は一切読み取れない。数秒の沈黙の後、少し表情を崩した仲原はこう付け足した。


「このようなものは、宿舎への持ち込みは禁止されております。今回は急に押しかけた私にも非がありますので、本件は忘れます。ですが、次は見かけ次第、報告させていただきます」


これは目の前で捨てるしかない。足立は数年来の秘蔵の友人を泣く泣くゴミ箱に投げ捨てた。


その様子を見た仲原は、なにか一仕事終えたような声のトーンに変わる。


「では、隊長……いえ、陸将殿。食事の準備ができております」


「あ、ああ、それからさ、隊長でいいよ。その方が呼びやすいだろう?」


「しかし、現在は所属も異なります」


「はぁ。そんじゃ、陸将として命ずる。仲原一佐は今後私を隊長と呼びたまえ」


「……。はい。隊長殿」


「よし、じゃあ飯を食おう」


足立がテーブルに目を向けると、豪華な料理が並んでいた。


しかし、大きな違和感がある。食器が一人分しかないのだ。


「ん? 食器が足りなかったか?」


「いえ、私は任務ですので。陸将…いえ隊長殿と同じテーブルには…」


足立は何も言わずに、食器棚に向かうと、いくつかの食器を取り出し、テーブルに並べた。


「なぁ仲原。あんまりさ、陸将扱いをしないで欲しいんだよなぁ。階級よりもさ、戦友だろ」


「し、しかし…」


「一緒に二階級特進した戦友じゃないか!」


「その言い方はやめて下さい。何となく縁起が悪いので」


「わかったよ!でもさ、なぜ津田大臣が直々に、一佐に昇進した仲原に俺の世話係なんてさせたと思う?」


仲原は顎に手を当て数秒間思考するとすぐに答えを出した。


「…!階級を越えて情報の共有を…」


「そうだよ。平たく言えば、職務上では話せないような内容もお互いに共有しろってことだよ」


「それなのに、陸将殿、陸将殿って、硬いんだよなぁ。もっと仲良くしようぜ」


「まったく。私の捉え方次第ではセクハラですよ」


「そういう捉え方はしないだろ。さ、食べようぜ!」


やれやれといった面持ちで仲原もテーブルに着く。


「それで隊長。護衛対象はいかがですか?」


「直球だなぁ。まぁそうだな、詳しいことは理解できん。だが、表の計画と裏の計画がありそうだな」


「表と裏ですか。裏とは?」


「わからん!」


「まぁ護衛なんて眺めているだけだからなぁ、正直、天才同士の会話なんて聞いてても退屈で死んじゃうよ」


「細かく聞いたところで、面倒そうに解説されるのも癪だしなぁ」


その時、足立の箸が止まる。


「ん!」


「これは美味しいな!」


「ああ、それは塩分を控えても味がぼやけないよう、レモン果汁を使用しました。酸味で食べやすくなり、ビタミンも摂取できます」


「仲原は優しいよなぁ」


「は?」


「いや、だってさ、任務としての世話なんだから、食事なんて携帯食料でもいいわけだろ。バランスが良ければいいわけだし」


「はぁ」


「でもさ、食材を買ってきて料理をしてくれるじゃない」


そう言って、足立は仲原の手製のサラダを美味しそうに口へ運んだ。


「いえいえ、私は幼いころから任務は100%では足りない、110%で達成しろと育てられてきました。手料理は、その10%ですよ」


仲原はそう言うと、照れくさそうに箸を進めた。


「10%ねぇ」


そう言って笑う足立を見て、仲原は不思議な気持ちになった。

この人は、手料理に何の価値を見ているのだろうか。携帯食料か、手料理か。そんなに気にするようなことなのだろうかと。

2026年7月7日火曜日

人類アンチ種族神 【エピローグ】 1-1 足立のコレクション

※本エピソードは本編「人類アンチ種族神のV章⑮」以降のエピローグになります。

 本編とは違い、サブキャラクターに視点を合わせて不定期で掲載します。

ーーー

篠原涼音が代行者になってから、二十日が過ぎた。足立はデスランドの会議室で、篠原の警護に当たっていた。とはいえ、気は抜けきっていた。


対ドラゴン戦で損耗したR連隊は再編され、タラメアからの戦力も一部補充されたことで、二国同盟軍と改称された。


足立は、その同盟軍で「篠原代行者 特別護衛部 直属陸将」という仰々しい肩書をもらっていた。


だからこそ、ぼやかずにはいられない。


「ふぁぁ。なーにが陸将だよ。結局、篠原の護衛じゃねーか。大体、代行者様に護衛なんているのかねぇ」


冷めた視線の先では、篠原がヴァロンと何やら計画を練っていた。


そこへ、ベルガンがやってきた。


「足立。暇なら計画を共に考えたらどうだ?」


「むりむり。あの二人の会話を理解できるのは、未来のスパコンくらいだよ。お前も暇そうじゃないか、ベルガン」


「まぁな。査定の再開は五年後だというし、デスランドにいる代行者を警護しろと言われてもなぁ」


「そうそう。世界中のどのシェルターよりも安全な場所に、何の脅威が来るんだろうねえ」


足立とベルガンは、事実上無意味なポジションに溜め息をつくしかなかった。


サーチは違うらしい。報告では、篠原の指示で、代行者に否定的な勢力の粛清を行っているという。自慢の索敵能力と代行者の視界をリンクさせて目標を捕捉し、あえて民衆の前で殺害し、次のターゲットへ向かう。その繰り返しだと聞いている。


「ベルガンは粛清に行かないのか?」


「フン! 俺様が行くと恐怖を煽りすぎると、ヴァロンに止められた」


「お互い、上には逆らえないか。暇だねぇ」


「うるせえよ。でも、意外だな。もっと粛清に反対するのかと思ってたぜ」


足立は天井を見上げながら、うつろに答える。


「最初は反対したけどなぁ。でもリストを見てみれば……」


足立は言葉を切り、一瞬だけベルガンに視線を移す。


ーーまぁ、リストの内容は知ってるか。


思考を挟むと言葉をつづけた。


「自分の宗教を守るために教徒へ自爆テロを命じようとしていたり、対立を煽る武器商人だったり。普通に危険人物なんだよなぁ」


これを聞いたベルガンも例を並べる。


「それに、他国の工作員だったり、領土を侵略しようとする軍隊だったり……人間共の強欲さは筋金入りだ!お前も大変だな!」


足立は視線を戻さないまま、力なく締めくくった。


「結局、サーチちゃんが頭を粛清しているおかげで、被害が減ってるんだよなぁ」


「フハハ!」


こうして足立の一日は過ぎ、彼は埼玉にある宿舎へ帰った。宿舎と言っても、幹部クラスが使う堅牢なマンションである。


部屋に入ると、買い置きしていたカップラーメンを食べ、酒を飲んで寝る。それが足立のルーティンだった。入居して十五日。しかし、未開封の段ボールとゴミの山が、足立の私生活を物語っていた。


組み立てられていないベッドのマットレスに散らばったゴミを無造作にかき分け、天井を見つめていると、段々と意識が薄れていく。


「暇だと思っていても、やっぱり敵の居城にいるのは疲れるのかねぇ……」


「反抗勢力の危険人物や工作員を使った見せしめか。大仲さんが聞いたらブチ切れそうだなぁ……」


一言ぼやくと、足立は眠りについた。


翌日。


「ピンポン」


早朝に呼び鈴が鳴った。


「なんだぁ、もう。交代まで三時間もあるじゃないか……寝かせてくれぇ」


足立は、もぞもぞとマットレスに戻ろうとした。


「ピンポン」


「うるさいなぁ。そういや、この宿舎は簡単には入れないはずだが……」


足立はハッと起き上がると、枕もとの銃を取った。


ゆっくりとドアへ近づき、物陰から声を返す。


「誰だ?」


すると、意外な声が返ってきた。


「隊長……いえ、陸将殿。私です、仲原です!」


仲原は、「篠原代行者 特別護衛部 行動監視室」に異動になったはずだ。


チェーンをかけたまま、ゆっくりとドアを開けると、笑みを浮かべた仲原が立っていた。


「お久しぶりです! 隊長!」


「お、おう。ちょっと散らかってるんで、重要な用件なら会議室で聞くよ」


「いえ、お気遣いには及びません! 入れていただけますか?」


そう言うと、仲原は一枚の紙を差し出してきた。


「ん? なんだこれ。津田防衛大臣からの指示書? いや、手紙か……」


「拝啓 足立君。新職務ご苦労。噂で、君の私生活が荒れていると聞いた。多忙なのは分かるが、一応、君は陸将だ。周囲の視線も気にしてほしい。そこで、週三回、仲原一佐を君の世話係として向かわせる。旧知の仲だろう。宿舎の管理だけではなく、愚痴なども聞いてもらうといい」


手紙を読んで、足立は理解した。


つまり、部屋を片付けろ。まともな生活をしろ。そして、篠原の状況を仲原と共有しろ、ということだ。本命は最後の共有だろうな。そうなると、会議室も使えない。入れるしかないか。


足立は諦めてチェーンを外した。


玄関に入った仲原が、一瞬、動きを止め、思わず声が漏れる。


「隊長。こ、この臭いは? いえ、それより廊下の半分がゴミと段ボールで通れませんが?」


「言ったろ! ちょっと散らかってるって……」


仲原が少し怖い目つきで足立を睨みつける。


「この緩んだ空気の正体が分かりました!まずは掃除、洗濯、ゴミ出し。今から着手させていただきます!」


「マジかよ!」


足立は急いで、読み散らかした雑誌を回収しに部屋へ戻った。


「隊長!どうしたのですか!」


足立は追ってくる仲原をかわし、自室の奥に積まれた秘蔵コレクションを即座に隠すのであった。

2026年6月30日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_5/5_神の毒》(完結バージョン)

 神は余裕の表情のままヴァロンに話しかけた。


「な、面白いだろ?ヴァロン。この感じだと、他にもいろいろ感づいてそうだぜ?まだ続けさせるかい?」


ヴァロンは足立と仲原を僅かに目の端でとらえると。


「いえ。これ以上は。代行者としての素質はゼロではなさそうです」


口調は穏やかだが、明らかにヴァロンの表情は厳しい。


篠原はこれを見て、神の方へ振り返り、満面の笑みのまま切り出した。


「証明は出来たようですがぁ、私が代行者になるかどうかはぁ、実はまだ迷っていますぅ」


ヴァロンが小声でうなる。


「……対立候補を潰しておいて保留?神を相手に、よくもそこまで言えたものだ。」


神は余裕のまま、優しく篠原に微笑んだ。その表情は、少なくともサーチの知る神が人間へ向けるものではなかった。サーチはこの光景に違和感と困惑を覚えヴァロンに人間側に聞こえないようにエーテル通信で尋ねた。


「ヴァロン。あの神様が、ここまで好き勝手に立ち回る彼女に激昂しないのは何故でしょう?まさか他の代行者候補が決まっているのですか?」


「いや、代行者には、神との相性適正がある。我らの神と適正のある代行者は世界レベルでも数人のはず。それはない。おそらく、神は彼女を代行者にするつもりだ。いや、彼女が代行者になれば他はどうでもいい。そう見えるな」


「そうですか、神様の余裕は本物のようです。交渉の状況としては悪いはずなのに……」


「サーチ、神に怒りの感情が見えたらすぐに知らせてくれ。神のために我々が人間どもを守らねば。私があの男の軍人(足立)を、サーチは女の軍人(仲原)を、ベルガンは篠原を守れ。分かったな」


三眷属が目くばせを交えて交信している姿を見て、少し嬉しそうな神。そのまま本題に入る。


「迷っている?交渉としてはイマイチだなぁ。その演出をするのならば大荻山は残すべきだった。全員脱落させたら、本気度がバレちゃうだろ。で、代行者になる条件はなんだい?人類の保護はダメだよ。試練を課して守るべき種族か引き続き観察してくれないと困るからね」



「大荻山はぁ、実はちょっと想定外でしたぁ。自滅はすると思いましたが、まさか神の情報を他人に口外して信じてもらえると思うなんてぇ、雑でもいいので、相手の反応を一手先まで想像すれば、意味のなさに気が付くと思ったのにぃ」

「予定よりも早く退場してしまったのでぇ、ちょっと焦りましたぁ」


その笑顔はスッと消えると篠原はトーンを落として神へ告げた。


「な・の・で、単刀直入に言いますねぇ。足立隊長と仲原三佐、この二人も代行者にしてください。私ってぇ人類を導いたり裁いたりするタイプじゃないんですぅ。神様ならご存じだと思いますがぁ観察とか実験が私の長所なんですぅ

 ということで、足立隊長がぁ試練を作ってぇ私が観察してぇ、仲原三佐が執行する。代行者の役割を分担していいならぁ代行者になってもいいですよぉ」


この発言に反応したのは意外にもベルガンだった。


「おいおい。調子にのってるのか?神聖な代行者を、お友達と分担したいだ?てめぇ。こっちが本当に手を出せないと信じているのなら、指の1・2本折って分からせてもいいんだぜ?」


ヴァロンは表情を変えず、サーチの通信網に意識を乗せた。


「止めろベルガン。こちらの格が下がる。だがもう今さらだ。だったら脅すのなら指ではない。目だ。目を潰すと言ってみろ」


ベルガンは腕をすぅっと上げると篠原を指さした。そして


「えーっと、ああ、それとも、その大きな瞳を、潰して差し上げた方がよいかな?」


篠原は咄嗟に後ずさる。だが、何かに気が付くとヴァロンに向かって、わざと大きな声で言い返した。


「足立隊長!大発見ですぅ!三眷属は音声以外の通信手段を持ってますぅ!」


ヴァロンが思わず口を挟む。


「何を根拠に!まだ、何か駆け引きでもしたいのかな?」


篠原はヴァロンに振り向くと、ニヤリと笑って言い返した。


「特攻隊長君はプライドがあって真っすぐなんです。思考回路は感情と直列で繋がっていますぅ」


「でもぉ、今の発言は感情とぉ行動の間にぃ。観察と思考が入っていますぅ。」

「咄嗟に出る言葉は人格がでますからぁ。この中であれば、これはヴァロンさんの思考回路ですぅ」


ヴァロンの顔が一層険しくなった。


その瞬間、神が声をあげて笑った。


「あはははは。一本取られたな。さて、本題だ。代行者の分割は不可能だ。複数の代行者が対立した場合、神の戦争が始まってしまう。それは世界の終焉だ」


「だが、足立、仲原両名の寿命を代行者とリンクすることは可能だ。本人の同意があれば……だけどな」


篠原が笑顔のまま神の方に振り返る


「同意ですかぁ。そこはぁ強制的にぃできませんかぁー?」


神もまた笑顔で返す。


「出来る。だが、あまたの生命が等しく持つ権利を同意なく奪うことは、その人物に死ぬこと以上の苦しみを課すことになるが、よいのかな?」


篠原は、足立と仲原にゆっくりと視線を送りその表情を観察した。


「隊長はぁ、右の口角が下がってますぅ。仲原さんはぁ、まぁ説明するまでもなく、怒ってますねぇ。はぁ」


視線を天井に向ける篠原、誰に向けるわけでもない言葉が漏れた。


「まぁ、死ねないというのは、普通に嫌ですよね。私ですら孤独な二百年は正直さびしい。でもこの瞬間が人類のターニングポイント。間違えるわけにはいかない…かぁ」


覚悟を決めた篠原は神に向けて答えた。


「いいですよ。代行者を引き受けましょう。神様相手に交渉してみましたがぁ、今回は負けを認めますぅ!」


こうして翌日「人神融合の儀」と呼ばれる代行者への権能付与の儀式が行われることになった。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆ 


翌日。



デスランドの入り口で待つ三眷属に、篠原そして足立と仲原が招かれた。


足立はその地に足を踏み入れると、一言漏らす


「こんな建造物が空中に浮いていたのか…。中世の城?いや砦?のような構造だな…」


仲原は目を見開いて周囲を警戒しながら呼応する。


「はい。外見は破損していましたが、内部は無傷でした。そんな報告を、津田さんに伝えるのが恐ろしいです」


篠原は興奮しているものの、一人でブツブツと何かを考えていた。


「城は浮いている。でもぉ私たちは城の床を歩いている。装飾品や建造様式も重力を前提とした形状ですぅ。ニュートンもここでは閉口してしまいますねぇ」


三眷属に先導され、儀式の間へ入る。


教会のチャペルのように、並んだ椅子と、1段高い舞台がある空間だ。最前列にはすでに大種族神が座っていた。


篠原はサーチに呼び止められ、足立と仲原は三列目の中央から左側に座るようヴァロンに促される。


その後、ヴァロンとベルガンは当然のように三列目の右側に座った。


すると空いていた席に、様々な形の光の塊がポポポッと現れる。塊は次第に人の形に変化し、全ての座席を埋め尽くした。


すると舞台袖から神が現れて、中央で一礼すると、こう宣言した。


「私は罰を受け二百年の間、眠ります。その間の代行者をこれより誕生させましょう。人神融合の儀を執り行います。候補者前へ」


その言葉を合図に、儀式の間の照明は落ち、篠原にスポットライトが当たる。いつの間にか篠原の服は白いドレスに変えられており、純白のドレスがキラキラと光を反射した。


サーチは戸惑う篠原の手を取って、中央の通路を歩き、篠原を神の前へとゆっくりと誘う。


参列客の表情は読み取れないが、篠原の顔、姿を記憶するように視線は一か所に集まっていた。


そして、前から3列目まで篠原を連れてきたサーチも神に一礼をするとベルガンの隣に座った。


篠原の脳にサーチの声が聞こえる。


「そこから先はご自分の足でお進みください。中央のステップを登ってください。その後は、振り返り神々に一礼。そして神と向き合い一礼。それだけです」


ヴァロンの声も聞こえてくる。


「振り返った際に参列客を観察することは不敬に当たる。お気を付けください。お知り合いがいるだろう。そこだけを見るといい」


篠原は小さくうなずくと、ゆっくりと歩を進め、ステップを登りきる。そして後ろを振り返った。


彼女への強い視線がさらに強くなる。篠原は足立を見つめ、一礼すると、逃げるように神へと振り返る。


そのまま一礼すると、口から言葉が無意識に飛び出す。


「私、篠原涼音は、代行者となるべく人神融合の儀をお受けします」


にこりと笑う神に篠原は小声で抗議する。


「あれだけぇ意志とか同意とか言ってたのにぃ、宣言は強制なんですねぇ」


すると神は小声で答える。


「ふっ。強制ではないよ。その宣言は君の決意でセリフが変わる。決意無きものは宣言ができない。神々の前で嘘は許されないからね。」


そう言うと、手を差し伸べた。


篠原は恐る恐る、その手を取る。


すると、急に背景が変わる。光に包まれた暖かい世界。参列客も、足立も、三眷属もいない。


ただ神が目の前に全裸で立っていて、気づけば篠原もドレスが消えていた。


触れあった手が、次第に神の中に吸い込まれていくような感覚が篠原を襲う。不思議な感覚、本来あるべき物理的な境界線が溶けて同化するような感覚だ。細胞1つ1つが神の肉体と重なると篠原に強烈な快楽を与える。その快楽は肉体的なものではない。多幸感、安心、感動、様々な喜びをひと固まりとして受け取るような未知の刺激。


その未知の刺激が、細胞単位で何度も篠原を襲う。


強烈な感覚に色香を帯びた声をあげる篠原。しかし、神と重なっている部分は、手から腕、そして体とゆっくりと面積を広げていく。


全身が神と同化した時、篠原は大きな声を上げると気を失ってしまった。


気づくと、舞台の上に戻っており、ドレスを着た篠原の眼前には神が立っていた。


「あっ」


篠原は一声、漏らすと、腰が砕けその場に座り込んでしまった。


すると、観客席から大きな拍手が送られる。篠原は必死に足立と仲原を捜しだす。二人はポカンとして状況を把握していないようだ。


――ズキン


二人を見た瞬間に体全体に痛みが走る。その瞬間に見えていた光景が一気に変わる。人型の光の塊に見えていた神々が何の神なのか認識できるようになった。中には良くない神もいた。ヴァロンが目を合わせるなと助言した意味も理解できた。


だが一方で、足立と仲原の見え方も変わっていた。一言で言うと異物感である。先ほどまでは安心して目線を置ける先だったはずの二人。しかし、今は違った。神々と並んで座る異物のようにみえた。そこには培われたはずの絆は色を失っていた。


その後、神が二、三分ほど宣誓の歌を歌い、照明が暗転すると大種族神を含む、参列者は足立・仲原・三眷属を残して消えていた。


誰も、人神融合の儀の終わりを告げてはいない。だが、篠原は自分が代行者になったことをすぐに理解した。なぜなら視界から入る情報量が全く違うからだ。空気の流れ、気持ちの淀み、死角にあるはずの彫刻の形など、まるで数千機の分野別ドローンの画面を1つに集約したような高濃度の情報の渦であった。


「これが神の視界…」


篠原が目に力を込めようとする、すると強い光が襲い、バランスを崩す。神はそっと後ろから彼女を支えると、耳元でささやいた。


「徐々に慣らした方がいい、今は…そうだな、視界の情報量を1%にしておくといい。」


そういうと篠原の手をとり、目を覆う。篠原は無意識に1%を復唱した。


再び目を開けると、見慣れた世界に戻っていた。若干、見えてはいけないものが見えてはいたが、ようやく周囲が見渡せるようになった。


篠原はゆっくりとステップを降りて、真っ先にサーチの前に立った。


「作法を教えてくれてぇ。助かりましたぁ」


そう言って軽く頭を下げると、ヴァロンにも一言


「あんなに警戒していたのにぃ、助言をくれるなんてぇ。ヴァロンはツンデレさんですねぇ~!」


ヴァロンは目線を逸らす。


篠原はその様子を見ると笑顔になって足立と仲原の元へ駆けつけた。


「足立隊長!仲原三佐!篠原涼音、代行者になってきましたぁ!」


その口調に足立も仲原もほっとした笑みを見せる。篠原は笑顔のまま少し声を小さくして二人に告げた。


「せめて寿命があるうちだけでも、そばにいて下さいね」


二人は無言でうなずいた。



こうして人神融合の儀は終わり、三人が儀式の間を出ると、そこはR連隊の研究室だった。


足立がぼやく


「儀式が済んだら、さっさと帰れってことかぁ? もう少し要塞の中を見学したかったのになぁ」


それを聞いた篠原はケラケラと笑うと返した。


「もうすぐ私の居城になりますからぁ、好きなだけ見ていいですよ!」


仲原はそれを聞くと少しさびしそうに言葉を足した。


「本当にもう代行者なんだな。で、居城を観察して何かわかったのか?」


その言葉に、篠原はいつもの笑顔で答える。


「立派な居城でしたぁ!あそこから二百年間も人類をしっかり査定しちゃいますよぉ!」


足立が査定という言葉に敏感に反応した。


「おいおい。神災が人災に変わるだけとか、やめてくれよ!」


「駄洒落ですかぁ!足立隊長もオジサンですねぇ」


仲原も釘をさす。


「目に余るようなら代行者であろうと、止めて見せるからな」


その言葉に篠原は不敵な笑みを浮かべていた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


一方、デスランドの大広間では、その様子を神と三眷属が覗いていた。


ヴァロンが嬉しそうに神に声をかける。


「上手く繕っているようですな。」


神も上機嫌だ。


「ああ、人神融合の儀は人と神の交わり。権能の一部だけを都合よく引き継げはしない。私の持つこの人間への感情も引き継いだはずだ」


サーチは不安そうだ。


「融合した直後ですから、まだ人の記憶が強いのでしょう。あの自然な振る舞いがいつまで続くでしょうか」


ヴァロンがその不安を制する。


「問題ない。代行者の変質は完了している。今の会話の中に、否定も肯定もない。情報の提供もない。彼女は人間側に戻ったように見せながら、有益な話は何一つしていない。日常を演じているのだ。内側から食い破るためにな。恐ろしい代行者だ」


ベルガンも余裕を見せる。


「人間風情が、代行者を止めて見せるなんて笑えるぜ。俺ら眷属を忘れているんじゃないのか!」



神はそのやり取りを優しいまなざしで見ていると、話を始めた。


「仲良くやれそうでよかったよ」


そしてベルガンを見つめると


「ベルガン、お前は余計なことを考えるな。だが、失敗からは学べ。お前のコアには成長の回路が多く入れてある。二百年後の姿が楽しみだ」


そのまま、サーチへ視線を移す


「サーチ、共感能力を使い代行者のサポートを頼んだ。あとベルガンが暴走したら止めてくれ。お前のコアの愛情の回路は強いはずだ」


続けて視線をヴァロンへ向ける。


「ヴァロン。お前の頭脳は戦闘に特化している。代行者の頭脳をうまく使え。お前のコアには統率の回路が多重にめぐっている。代行者と知恵比べを楽しむといい、二百年後、お前は未来を予測できる力を持つだろう」


そういうと、神は席を立ち三眷属に告げた。


「これで別れだ。眠りにつくまでの間、一人にしてくれないか」


それを聞くと、三眷属は席を立ち神の元へ駆け寄った。そして口々に別れの言葉をかける。


神は別れ際に、サーチにだけこう言った。

「今夜執務室へ来てくれないか」

サーチは黙ってうなずいた。



夜。サーチが執務室を訪れると、神は空間に映像を浮かべていた。


映っているのはどこか神の面影を持つ孤児らしき二人の兄妹だった。


サーチはその映像に近づいた。


「もしやこれは、神様の?」


神はこれまで見せたことのない複雑な悲しそうで愛しそうな笑顔で答えた。


「ああ。俺と妻の子だ。査定で傷つかぬよう加護を与えていたが、私が眠れば薄れてしまう。二人に神の加護を定着させてくれないか」


サーチはすぐに察した。


「代行者から隠すおつもりですか?」


「ああ、融合の儀で篠原の観察眼が、私のコアに一瞬触れた。おそらく子供の存在に気付いたはずだ。人間の神の子。篠原に見つかればどうなるか」


神はサーチに強く頼んだ。


「だから頼む、子供たちと篠原の縁を完全に断ち切ってくれ、そして加護を定着させ生涯交わることのないようにしてやってくれ」


そういうと、二筋の光の線が子供たちから彼方に伸びて行く。それは縁と呼べないほどの細い線。サーチは光の線に触れると線を断ち切った。


その後、今度は神の手から光の線が子供たちに巻きついて行く。そしてサーチが触れると、ひときわ大きく光ると体の中へ消えていった。


サーチは優しく報告した。


「神の加護を魂に定着させました。これで神が眠っても加護は定着し、その子孫にまで引き継がれるでしょう」


それを聞いた神は安堵の表情で返した。


「これで肩の荷が下りた気がするよ。ありがとうサーチ」


サーチは何も言わずに執務室をあとにした。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


眠りの日、神は光の空間に横たわっていた。


そこに篠原が現れる。二人はあの日のように何も身に着けていない。


神は目を閉じたまま篠原に問う。


「二百年、どう使うつもりだ?」


篠原は優しい笑顔で答えた。


「腐敗した今の社会は、早々に破壊しましょう。そしてエーテルを中心とした新しい社会実験を行いたいと思います」


神は皮肉を漏らした。


「お友達が悲しむぞ」


それでも篠原は考えを変えなかった。


「計画を練るのに五十年程度使えば、人間なんて短命ですから。足立隊長、仲原三佐も天寿を全うするでしょう。それからでも十分です」


「そうか……それを聞いて安心した。まぁやり過ぎるなよ。俺のようにならないようにな」


「承知しました。神様」


篠原の不敵な笑顔に不安と期待を覚えた神は、こうして二百年の眠りについた。


神は消えゆく意識の中で考えていた。


ーー二百年の眠りで私の憎悪は消えてしまうだろう。

ーーだが、代行者に憎悪は引き継がれた。人間よ、試練を越え、変革を見せるのだ。二百年後、代行者の憎悪が消えた世界で目覚めることを願う……


ー完ー

2026年6月16日火曜日

【コラム】『人類アンチ種族神』の連載を経て

こんばんは。管理人の緑茶です。


さて、本日は現在推敲中の『人類アンチ種族神』を題材に、執筆作業で苦労している点や、1年間の執筆で得た経験をご紹介したいと思います。


目的は、これから小説を書こうと思っている方への参考資料です。


あくまで私が実際に書いてみて感じたことなので、すべての人に当てはまるわけではありません。

ただ、これから長編を書いてみたい方や、途中で筆が止まってしまった方の参考になれば幸いです。


では始めます。


① 初めての長編ほど、プロットがあると楽です。


まずこれです。


粗くてもいいので、起承転結を最初に書いておくとかなり楽です。


例)


起:朝起きたら幽体離脱ができるようになっていた。

承:幽体離脱を楽しんだ。

転:霊術師と出会い、悪霊退治をすることになる。

結:悪霊を倒したが、幽体離脱の力は失ってしまった。


このくらい粗くても、ないよりはずっと楽です。


物語を書いている途中で迷ったときに、

「今はどこへ向かっている話なのか」

を確認できるからです。


② 人物と世界をデザインします。


主人公、ヒロイン、住んでいる世界や時代などをここで決めます。


これは反省ですが、人物像を抽象的に作ってしまうと、執筆後半にかなり苦労します。


主要な登場人物は、できるだけ細かく設定しておいたほうが楽です。

脳内で主人公やヒロインがある程度会話できるくらいまで育てておくと、後半の執筆がかなり進めやすくなります。


この作業をしておくと、後半は登場人物が勝手に動くようになってくれます。


もちろん、本当に勝手に動くわけではありません。

ただ、「この人物ならこう言う」「この状況ならこう動く」という芯が作者の中にあるので、キャラクターがぶれにくくなります。


③ 結末は最初に考えておくと楽です。


多くのWEB小説が完結しません。


個人的な分析ですが、「見せたい場面」や「楽しそうな設定」から書き始めて、最後の着地を決めていないケースも多いのではないかと思います。


もちろん、書きながら終わりを決めていく方法もあります。

商業レベルの作家や、物語を走らせながら整えられる人なら、それでも十分可能だと思います。


ゴールのないマラソンは、やはり非常にハードです。


最終話の細部まで決める必要はありません。

しかし、「この物語はどこに着地するのか」というゴールだけは、ある程度決めておいたほうが楽だと思います。


『人類アンチ種族神』の場合は、すでに1話目の時点で最終話の結末は決まっていました。


④ スランプで書けなくても、物語との接点は切らさないほうがいいです。


長い執筆期間の作品では、どうしても筆が乗らない時期があります。


そのときに完全に筆を止めてしまうと、再開するときにかなりのパワーが必要でした。


1行でも2行でもいいので、執筆習慣は崩さない。

あるいは、本文が書けない日でも、次の展開のメモだけ残す。

キャラクターのセリフだけ書く。

設定を見直す。


それだけでも、物語との接点を保つことができます。


もちろん、無理をして壊れる必要はありません。

休むこと自体は悪いことではないと思います。


ただ、完全に離れてしまうと戻るのが大変なので、少しでも作品に触れておくことは大事だと感じました。


――――


終わりに。


長々と講釈できるほど売れているわけではないので、これはあくまで、実際に執筆してみた私の経験談です。


皆様には、皆様に合ったやり方が他にもあるかもしれません。


ただ、もしうまくいかなくてやり方を変えようと思ったときに、この記事が少しでも参考になれば幸いです。


お互い、よい執筆活動ができるといいですね!


私も最終話の推敲作業を全力で行っています!

2026年6月14日日曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_5/5_神の毒》(未完結バージョン)

 ※人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_5/5_神の毒》を掲載しますが

まだ、私が納得していない状態ですので、途中までとなります。


最後の最後、結末部分は納得がいくまで推敲して、改めて掲載します。

2026年6月2日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_4/5_天才の毒》

そして翌日、候補者の4人の元に神は再び訪れた。


最初はボンズ・タラ・ケリス。彼の答えは変わっていた。


「神よ、私はじっくり考えて結論を出しました。代行者は辞退します。私が作りたいものは世界ではない。昨日の篠原さんの言葉で気づいてしまいました。AIにも相談し、これがベストだと思います」


ベルガンは不満そうに尋ねた。


「お前が作ったオモチャで、世界を不安定にすればいい。作りたいものを使って神の代行をすればいい。簡単だろ?今なら撤回してもいいぜ?」


それでも返事は変わらなかった。


神はボンズに承諾を得たうえで、大種族神などの重要な記憶を消去し、王 雨桐の元へ向かう。


王 雨桐は神を見ると膝をついてこう述べた。


「神よ、お許しください。代行者の責務。私には重すぎると思います。私が代行者になれば私を核とした組織が出来てしまう。200年後に神と対峙してしまう未来を想像してしまったのです」


これを聞いたヴァロンがつい口を挟む。


「まてまて、もう1日考えたらどうだ。お前は候補者の中で組織を一番理解している。たしかに貴女は一時的にでも頂点に立つタイプではない。それは認めよう。だが、ならば我ら3眷属が表向きの頂点に立とう。その後ろで代行者として人々を導いてはどうだ?」


王 雨桐は何も言わず深く頭を下げた。


ヴァロンはその姿に決意の強さを感じ、それ以上は何も言わなかった。サーチの腕から少し力が抜けたのを神は目の端で追っていた。


王 雨桐も同様に記憶を処理し、大荻山 勝利の自宅へ移動した。


大荻山はパニックになっていた。


「神!神!神様!!聞いてください!代行者候補になったこと、そしてクソ女に言われた事実無根の妄言を、俺の親友たちに話したのです。そしたら”ついに壊れた”と言われ、縁を切られてしまいました。俺の大切なカネが!人脈が!」


サーチは黙って首を振り、ヴァロンが視線で神に否定を突き付ける。


神は大荻山に、縁を修復する代わりに代行者に関する全ての記憶を消していいかと尋ね、大荻山は頭が大きく上下に振って承諾した。神が大荻山の頭に手をかざすと、消えかけた光の筋が数本はるか彼方に伸びていた。サーチがその線に軽く触れ干渉すると光は強くなり光の線として機能を取り戻す。全ての筋が元に戻ると神は大荻山から記憶を消して、篠原の元へと向かった。


篠原はR連隊の研究室に足立、仲原と3人で神を待ち構えていた。


そして開口一番にこう言い当てた。


「全ての代行者候補が辞退した。そんな顔を眷属のみなさまがしてますねぇ。まぁそうですよねぇ。ふふふ。これで私が辞退したらぁ、残りの数日で代行者を決めるの大変そうですねぇ。お気持ちおっ察ししますぅ」


すると神はこう返した。


「お前が昨日、彼らに言葉の毒を盛ったからだろう。やられたよ。ああ、見事だ。やはりお前は面白い。おまけに、私がキレることを封じるために、観測者まで用意して。その能力、ますます興味深くなったよ」


◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


3時間前、篠原は足立・仲原と作戦会議を行っていた。


まずは篠原からのこれまでの経緯と、神災の正体。竜の暴走と大種族神の審判。ポイントを絞って共有した。そしてこう語る。


「この神災を止めるためには、無能な代行者か人類に都合の良い代行者を立てるしかないんですよねぇ。そこで、お二人に協力をお願いしたいのですぅ」


「とりあえず、ボンズくんの使っているAIにはハッキングをしておきました。代行者についての相談には全力否定するよう昨日のうちに仕込み済みですぅ」


「王 雨桐にはメールを送っておきましたぁ。あなたが代行者になれば神を超える組織が組成可能だと。そして世界は貴方のものだと、ただ神との戦いは長きにわたるだろうと。ゆーとんはぁ裏の権力者タイプですぅ表で戦争なんて嫌でしょうねぇ」


これを聞いた足立がため息交じりに口を挟む。


「お前さ、マジで優秀だけど、本当に怖いよなぁ。つまり他の候補者は戦う前に離脱させるわけだろ。王 雨桐のプライベートメールアドレスなんて陸自のDBでも機密扱いなんだぞ!まったく」


仲原は眉をひそめて追及する。


「やり方には賛同しかねますが、そうなると残りは大荻山ですか。父親を失ったとは言え彼の人脈は厄介ですね」


この発言に一瞬場が和んだ。


「いやいや、仲原。大荻山は無視していいよ。あのタイプはプライドを刺激されると必ず誰かに愚痴をこぼす。こぼす相手は父親から受け継いだ要人だろう。要人が無能な若者から神だ代行者だと喚き散らせば結果は明白。自爆だよ」


さらに篠原が補足する。


「まぁ、お馬鹿さんですからぁ無謀にも残る可能性もありますねぇ。でもぉ昨日の眷属たちの表情からしてぇ、選んだら神への信頼が揺らぎそうですしぃ。その状態で無能な代行者なんて手のひらで転がせば大丈夫ですよぉふふふ」


自分の懸念が、足立と篠原には瞬時に考慮されていた。そして、それがすでに「大した脅威ではない」と結論づけられていたことに、あとから気づいた仲原は、少し耳を赤く染めてすぐに話題を変えた。


「で?私たちを呼んだ理由は何ですか?」



「あぁ。それですぅ。最初に結論ですが、私が代行者になって人類の最低保証になろうと思いますぅ」


「もちろん、まだまだ知りたいことは多いしぃ、神の能力にも興味があります。そこでぇ、この状況を作ったのですぅ。


候補者が私以外『全滅』となれば、神は焦りますぅ。私を代行者にするために、妥協もすると思うのですぅ。


そこで私は、足立隊長とぉ、仲原さんをぉ、私の協力者としてぇ、二百年の不老不死を与えるように条件を出そうと思いますぅ。


えへ。それで、二百年の人類の統治はお任せしてぇ、私は観察と研究を楽しもうかと思います。


あっ、違いますよぉ。怠けたいのではなく、ほらぁ、適材適所って『ゆーとん』も言ってた、あれですぅ」



200年の寿命。足立と仲原は顔を見合わせた。そして足立が少し困った表情で切りだした。


「おいおい、それは勝手だろ。俺はいいよ、もぅいい、定年まではしっかり働くからさぁ余生は楽をさせてくれよ」


仲原も続く


「私もです。200年の寿命。そんなものは人間の理(ことわり)から外れてしまう。私は人間として生きたい」


これを聞いた篠原は軽く笑うと切り返した。



「ではぁ、私がぁ一人で代行者をやった場合、どうなるでしょうねぇ。


人類を守っているつもりでも、世界を実験室に変えて、好き勝手に観察しちゃうかもしれませんよぉ。


その時、止められるのはぁ、あのUFBの三眷属ですがぁ……。


さすがに代行者とはいえ、神の力を持った私にぃ、どこまで抵抗できますかねぇ。


そこにお二人がいれば、少なくとも平手打ちはできると思うのですよぉ」



篠原の視線に仲原が映る。それを遮るように足立が改めて口にする。



「お前さ、マジで優秀だけど、本当に怖いよなぁ。はぁ…200年の労働かぁせめて20代に若返ったりしないかなぁ」


それを承諾ととらえた篠原は、作戦の続きを話し始める。


「唯一のリスクは、神が私の工作に気付いて、感情的に私を殺すことですぅ。


竜の件を考慮すれば、あの神は後先を考えないようですからぁ、五十%くらいはありえますぅ。


その安全装置として、お二人にはこのまま、神との交渉に同席して欲しいのですぅ。


足立隊長は、R連隊の重要人物ですぅ。


そして三佐は、あの白い竜を威嚇した実績がありますぅ。


これでぇ、もし神が私を殺せばぁ、目撃者である貴方がたも殺すことになりますぅ。


それは、大種族神の猶予に対する不義理となりますぅ。


つ・ま・り。


お二人がいるだけで、神は私に手出しできない。


そういうことですぅ。


あと、お二人も神様を見てみたいですよねぇ」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


時は現在にもどる。


篠原に説得され、渋々同席した足立と仲原。そこへ神がやってきた。


神は篠原の工作、思考を即座に理解すると「やられた」と興味深そうに不敵にほほ笑んだ。


だがヴァロンの眉間には大きなしわが出来ていた。


余裕のある神とは違い、少し低い声で篠原に語り掛ける。


「おい女。この方は貴様ら人間の種族神である。こざかしい小細工で手を煩わせることは不敬だと思え。神が選んだ候補を潰した上に護衛を付けて待ち受けるとは神の代わりに私が罰を与えてやろうか」


それに答えたのは篠原ではなく、神だった。


「いいんだ、ヴァロン。篠原の良さはこの場をコントロールする計画力。そして僅かな情報から大きな理解を得て相手の立場を越えてくる観察力と思考力。各候補の良さは確かにあった。とくに大荻山は、神の代行者として独裁的な立場になれば

 素晴らしいスキルセットの持ち主だった。だが、篠原の才能はその力を発揮させる前に芽を摘むところにある。これが強いんだ」


その話を聞いて足立が思わず小さくうなずく、その姿を仲原が厳しい目で睨みつけ、足立は目をそらしてごまかした。


神は饒舌に篠原に促した。


「なぁ篠原、私が渡した僅かな代行者関連の記憶で、どこまで推理したのか、言葉にしてみてよ。私は神だから思考を読もうと思えば読めてしまう。だから隠す必要はない。篠原の口から能力を証明すれば、まぁヴァロンも黙るだろう」


篠原はいつもの調子で話し出した。


「ではぁ、最初にぃ。隊長と仲原さんはぁ保険ですがぁ、この場で私が死ぬ確率は0%ですぅ。ずっと疑問に思っていたのですぅ。神様たちは転移や記憶の操作が可能ですぅ。つまりチートどころか万能に近い存在だと思いますぅ。本当に人類に試練を与えるだけなら

 こんな戦争ごっこをしなくても、大仲大臣や、足立隊長、仲原さん、そして私のような対抗勢力の急所を殺すか、記憶を奪って廃人にしてしまえばいいはずですぅ。ではなぜ、それをしないのか?答えはルールにあるとおもいましたぁ。

 大種族神様の件をみてもぉ、神の世界にもルールがありますぅ。そのルール内でしか神様は動けない。だからー、こんな方法を取るのですぅ」


ヴァロンの目に一層の力が入る。


「女。神は確かに万能だ。何を疑う余地がある」


篠原はゆっくりとヴァロンに向かいながら話し始めた。


「万能ならぁ。なぜ代行者を捜しているのですかー?」


一言でヴァロンの視線が一瞬揺らぐ。篠原はその様子を観察し確信したように進めた。


「それはぁ。きっと神様が寝ていると不都合があるんですぅ。なんでしょうねぇ。サーチちゃんたちがぁ出来なくてぇ、神様しかできないことですよねぇ」


2,3秒口を閉した篠原は、笑顔で結論を出した。


「エーテルですぅ!神様の記憶に大種族神様の審判のシーンがありましてぇ。神様はエーテルを3眷属に大量に流し込み、強制的に竜化させたと・・・」


「これぇ。裏を返せば、3眷属の皆様は自分で竜化できない。つまりぃ、エーテルを生み出せるのは神様のみ。神様が眠るとぉ眷属の皆さんはエネルギーの供給が絶たれてしまう。

 そんなところですかぁ?。ねぇ神様」


神は余裕の表情のままヴァロンに話しかけた。


「な、面白いだろ?ヴァロン。この感じだと、他にもいろいろ感づいてそうだぜ?まだ続けさせるかい?」


ヴァロンは足立と仲原を僅かに目の端でとらえると。


「いえ。これ以上は。代行者としての素質はゼロではなさそうです」


口調は穏やかだが、明らかにヴァロンの表情は厳しい。


篠原はこれを見て、本題に入る。


「ではぁ。私がぁ代行者になるのかという、お話ですぅ」

2026年5月26日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_3/5_代行者候補》

 篠原は無表情でその様子を見ながらつぶやいた。


「これがリアルな死……。大臣でも兵士でも民間人でも等しく死ぬ。そっか、いつか私も。」


そう言うと顔色を悪くして空を眺めた。黒煙に染まった空は篠原の気持ちを表しているようだった。


2日後、津田議員は大仲大臣の遺言により、正式に防衛大臣に任命された。


野党議員でありながら異例の就任であるが、その実は与党も含め誰も引き受けない重責職を押し付けられた形だ。


その頃、デスランドでは神による休眠中の代行者選定が行われていた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


崩れた居城デスランドは外見上そのままだが、内部構造は神の力で修復されていた。


重い空気の中、会議室では議論が交わされていた。


「ですから!サーチもヴァロンもわかっておりません!神様の代行者に相応しいのは、人情があって強くてカッコイイ人物であるべきです!カリスマです!」


ベルガンの大声が響く。サーチがため息交じり返す。


「代行者の任期は200年。カリスマよりも人間を理解できる人物であるべきです。無難に過ごし、神様のお目覚めを待つのです」


ヴァロンも黙っていない。


「そうではない。代行者だぞ。代行するモノだ。何を代行する?神は何をされてきた?わかるだろう。人類の査定だ。守護すべき種族であるか継続して調査すべきなのだ」


神はそれを聞きながらほんの少し笑みを漏らしていた。

そして切り出した。


「まてまて、この二日間、俺の力で候補を4人に絞った。それを見てから意見を聞かせてくれ」


そういうと、4人の人物の映像が順に宙に映し出される。


「まずは一人目、タラメアの ボンズ・タラ・ケリス。彼は青年時代に紛争に巻き込まれ、両親兄弟を失っている。ゆえに争いを強く憎む人物だ。

 だが彼はトップクラスの兵器開発者。世界中の悪を倒し、世界を平和にするために兵器を作る。思想が俺に近い。だが倒すべき悪とは誰の悪なのか、気づかぬ所が面白い」


青い研究服に身を包んだ、30代くらいの眼鏡をかけた男性だ。



「そして二人目、華花人民国(かなじんみんこく)の 王 雨桐(おう ゆーとん)。彼女は人材運用の天才だ。人の行動から心理や特性を見抜き、適材適所で10社以上の大企業を生み出した。それでも目立たないのは自身がトップに立たず、適切な人材をトップに据えるためだ。

 その力は組織的に人類を導くには最適だ。だが、彼女の判断には本人の意思が入らない。体力があれば体を使う仕事へ、器用であれば職人へ、だが、それは人類が幸福になるのか、ただ効率よく飼われるのか。そこが面白い」


30代前半の容姿端麗。長い黒髪に鋭い目つきの女性だ。


「次は三人目、日本の 篠原 涼音(しのはら すずね)。国内で上位3人に入る頭脳の持ち主だ。特に知識欲が強く僅かな情報からでも思考を巡らせ多くの事実を推測する。

 ヴァロンと戦った鉛の船の指揮官だ。冷静沈着、人間に対しても俯瞰的で思い入れも特にない。欠点らしい欠点は知性と体験の剥離だが、経験を積めば見込みがある」


どこかの施設で机にしがみつき、何かのプランを練っている篠原が映る。


「最後は4人目、こいつも日本。大荻山 勝利(おおぎやま かつのり)。権力者の長男だ、父親の影響で国内外への人脈も広い。損得勘定と状況判断能力は父親よりも優れている。この男は今はまだ凡人だ。

 だが秘めた才能は財を築いた父から引き継いでいる。目的を達成するために手段を問わない冷徹さ。そして必ず達成させる実行力はその片鱗だ。才能だけではなく父親と同じく他者を道具として認識している歪みが興味深い」


20歳前半の体格のいい男が、大きなソファーに偉そうに座り、両脇に女性を座らせている。


神は4人を紹介すると改めて眷属に意見を求めた。


まずベルガンは不満そうだ。


「神様、これらは戦いに出て役に立ちますかねえ?特に大荻山。見るからに我先にと逃げ出しそうですよ!ボンズは面白そうですが、王や篠原はサーチやヴァロンで十分ですよ!」


つぎにサーチ。


「王 雨桐。組織を作る天才。組織を作るのは神の特権。代行者が勝手にすべきではないと思います。ボンズと大荻山は代行者の器とは思えません。篠原は神様に近いものを感じます。それが少し怖いです。」


最後にヴァロン


「なるほど。まず、ボンズ。この男にエーテルを持たせれば面白い反応が期待できます。つぎに王 雨桐、我々眷属が作った組織を運営させればうまく活用できそうです。

 篠原 涼音、鉛の船の指揮官。戦術的には惜しいところでしたが教育すればよき士官になりそうでした。大荻山。あの男の息子ですか、能力は高そうですが思想は再教育でしょう」


このコメントに神は黙ってうなずいて聞いている。

そしてこう切り返した。


「大荻山は、まだ若い。再教育は200年もあれば変わるだろう。王 雨桐については問題は組織力ではなく人類への情だろうな。篠原の良さは戦ではない、その観察力だ。50年後、再戦したら負けるんじゃないのかヴァロン!。

 ボンズのエーテル研究は面白そうだ。エーテルを使った兵器で眷属とは違う脅威を人類に与えることができそうだな」


ヴァロンは、からかわれて苦笑しつつも、こうまとめた。


「実際に話してみなければ結論は出ないでしょう。本人の意思も聞いてみたいところです。いかがでしょう神様、彼らをこのデスランドに召集してみては?」


「ふむ。代行をお願いするわけだから呼びつけるのも気が引ける。今回は俺の失態が招いているしな。こちらから出向くとしよう」


そういうと、パチンと指を鳴らし空中に光の環を作り出した。その光は一瞬で神と3眷属を飲み込むとその場から消え、遠く離れたタラメアの一室で球体となって表れて、彼らを放出した。


目の前には自宅で本を読んでいたボンズが、驚いて硬直していた。


「やぁボンズ。私は神だ。詳しい話は脳に直接送るので理解してくれよ」


すると神はボンズにすぅっと指を向ける。その瞬間、ボンズの脳内に大種族神の審判、神の代行者選定など、これまでの経緯がまるでゲームのセーブデータのように一瞬で焼き付いた。


「な、なるほど・・・。それで私の元に。私が代行者となれば素晴らしいエーテルと科学を融合させた兵器で人類に脅威を。そして判定AIを作り出し査定を行いましょう。そして悪を根絶やしにし、平和な社会を構築して見せます」


その言葉を聞くと、神は再びパチンと指を鳴らす。再び光の輪が現れ、神と3眷属、ボンズを王 雨桐のオフィスへ転送した。


神は同じように王 雨桐に記憶の一部を転送する。怯えていた王 雨桐も理解をすると落ち着いて話し出す。


「神様、私が代行者となれば200年後、あなたが驚くような理想郷を作ってみせましょう。そこの皆さんとも共存共栄できる素晴らしい人間の世界をお見せしますわ。

 私はこう思うのです。なぜ人は、あえて困難な道へと迷い込むのでしょう。なぜ、正しき道を選べないのでしょうか。それはきっと、まだ知らないからです。本当に帰るべき場所を……」


王 雨桐の慈悲に満ちた瞳にサーチが、思わず半歩下がってしまう。迷いのない真っすぐなまなざしにサーチの共感能力が作用したのだ。


次は篠原、ではなく、大荻山の豪邸だった。ヴァロンが呟く。


「なるほど、本命は最後ですか……」


神が現れた瞬間、大荻山は大慌てで袖机から銃を取り出すと、何も聞かずに反射的に発砲した。しかし弾丸は一瞬で速度を失い地面に落ちる。すると、横にいた女性を神に投げつけると、そのままソファーを飛び出し出口へ逃げようとする。

当然、サーチがこれを捕らえ、やっと記憶の転送となった。ベルガンの冷めた目が彼に刺さる。


「神なら神と言ってくださいよ!この大荻山、人脈には自信があります。神の手勢を汚すことなく人間を神に従属させて見せますよ。その時は私にもポストをお願いいたします」


ヴァロンのため息とともに、再び転送、全員がR連隊臨時研究室の所長室に移動した。


篠原は一瞬驚いたが、すぐに言葉を返した。


「大荻山?王 雨桐?それにボンズ・タラ・ケリス?・・・えっと、ここはR連隊の研究室に何か御用ですか?所長の篠原は席を外していますが・・・」と嘯いた。


しかし神が記憶を転送するとすぐに理解する。


「代行者ですか。見返りは不老不死に近い寿命。はぁ、魅力的ですがぁ、意外と不老不死も大変そうですしぃ、少し考えていいですかぁ?」


神に対しても変わらぬ態度にサーチの心がチクリとする。篠原は続ける。


「ただぁ ボンズ・タラ・ケリスさんはぁ本質的に開発者なので、モノづくりに没頭するでしょうねぇ、神になれば何でも作れる。それは恐ろしい兵器ができるでしょうねぇ。虐殺の」

「それに 王 雨桐さんはぁ組織力が最大の魅力ですがぁ、強力な王がいる場合はあんまりいらないんですよねぇ。むしろ求心力がある部下は分裂の火種っていうかぁ」

「あと大荻山はぁ、あなたの人脈は父上のものですからぁ、今後は衰退するのではぁ?むしろ少し衰退がはじまってるマスよね。腕時計が最新型の特注品ではなくなってますしぃ」

「そう考えると、私以外微妙でありますねぇー。神様1日もらえますか?」


神は黙ってうなずいた。

その後、それぞれは元の場所に転送されていった。篠原に罵詈雑言を浴びせる大荻山をみて、再びヴァロンがため息をついた。


その頃、日本では津田防衛大臣の着任演説が行われていた。


「国民の皆様。防衛大臣に着任いたしました、津田です。


先日のドラゴン発生時、政府が情報をフェイクニュースと断定したことについて、一部SNSなどで批判の声が上がっています。

そのご指摘は、重く受け止めています。


しかし当時、国民の皆様の間に大規模なパニックが起きていれば、被害はさらに拡大していた可能性があります。

皆様が冷静さを保ち、道路網が機能していたからこそ、大仲前大臣と有志のR連隊は赤い竜を舞浜方面へ誘導し、埼玉での被害を大きく抑えることができました。


神奈川方面でも、陸上自衛隊と航空自衛隊によるかく乱行動により、被害の拡大を防ぐことができました。

避難誘導に多くの人員を割かずに済んだことも、作戦遂行に大きく寄与しています。


政府の判断に対する批判は、私たちが受け止めるべきものです。

そのうえで、国民の皆様の冷静な行動とご協力に、心より感謝申し上げます。


最後に、大仲前大臣についてお伝えします。


大仲前大臣は、最後まで赤い竜と対峙しました。

回収されたブラックボックスの記録から、最終的に自らの命を賭して攻撃を行ったことも確認されています。


少なくとも、あの判断は保身のためのものではありませんでした。

国民を守ろうとした、その一点だけは、どうか知っておいていただきたい。


以上をもちまして、私の着任の挨拶とさせていただきます」


大仲大臣の自爆は、世論に大きなインパクトを与えた。広がりつつあった政府への不満。千葉の住人の80%が死亡したという事実で広がっていた不安。これらが最小限の被害であったという認識が広がったのだ。


そして翌日、候補者の4人の元に神は再び訪れた。


2026年5月19日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_2/5_リアルな死》

 この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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舞浜までは20分、防雷は修復できそうな対空機関砲を修理、船体に積もった瓦礫の撤去に追われていた。


篠原は双眼鏡で舞浜方面を第一艦橋からじっと見ていた。


やがて20分後、肉眼でも陸地がうっすらと水平線に見えてくる。甲板で撤去作業をしていた足立の無線に篠原が問いかける。


「足立さん、25式指揮装甲車ってみたことありますか?」


「ああ、連隊の活動で何度か使ったな。それがどうした?」


「いえ、大きなタクティカルアンテナがある車両ですよね。ボンネットにRとでも書きましたか?」


「ん?ああ、R連隊専用の25式指揮装甲車だと分かるようになー。だからそれがどうしー」


足立は何かを察すると、瓦礫を海に投げ捨てて第一艦橋へ向かった。心臓が締め付けられる。他の隊員を押しのけてブリッジを駆け上がると篠原の元へ汗だくでやってきた。


「指揮装甲車が見えたのか!どうなった!」


篠原は黙って双眼鏡を渡す。


そこに映ったものは、運転席部分と中央の2ヵ所に穴の開いたスクラップだった。燃え残った一部に特徴的なタクティカルアンテナ。そしてボンネットにRの一部分が見えていた。


竜の姿はすでにないが、まだ一部の車両は黒煙をあげている。


直後にクシャルボコスから偵察ドローンが飛び立つ。


誰も何も言えない時間が流れ次第に陸地が近づいてきた。


防雷の甲板にはクシャルボコスからタブレットを積んだドローンが飛んできた。タブレットには偵察ドローンの映像が映し出され、そこに映されたものは黒い大地。瓦礫の山。そして人の肉片。


生命を一切感じない死の世界。


10分後、偵察ドローンにより安全が確認された死の大地に足立、仲原、そして山口と名前を変えた篠原、リークと海兵隊20名が上陸した。


真っ先に指揮装甲車の残骸に向かう足立と仲原、篠原は少し顔色が悪い。モニター画面で見るものとは情報量の違う本物の戦地に戸惑っていた。

不満げだったリークも、焦げた土を踏んだ瞬間、そこに広がる惨状に言葉を失った。


そんな中でも足立の声が響く。


「仲原、ブラックボックスは回収できるか!」


「指揮装甲車のブラックボックスは、D6型です!核でも落ちない限り残るはずです!」


二人は瓦礫を押しのける。瓦礫に飲まれた軍用車は本来なら簡単には掘り起こせない。だが二人は正解を知りたい一心で掘り起こす。自分の骨が軋む音も聞こえない。砕けた破片が頬かすめても気が付かない。


その様子を見ていたタラメアの海兵隊も無言で手を貸した。足立が助手席のドアを引きはがし閉まらないように抑え、仲原が助手席の下にあるブラックボックスに手を伸ばす。


ドアに支えられていた瓦礫の重みが、車体のフレームへ一気にのしかかる。


「ギッギギ」


潰れそうになる車体を屈強な男が咄嗟に支えた。


「キョウダーイ。なるべくイソグ OK?」


リークの腕から流れた血が、ポタポタと仲原の背中に落ちる。仲原は小柄な体型を活かして車体からブラックボックスを回収する。


仲原が指揮装甲車を離れ、足立とリークが息を合わせてその場を離れると、ガシャンと大きな音を立てて指揮装甲車は使命を終えた。


リークは無線で技師を呼ぶとブラックボックスの解析を指示する。


技師は背負ってきた携帯機器をブラックボックスに接続すると、後ろにいる足立に声をかけた。


「同盟国として、タラメアに解除コードの共有を」


足立は無言でうなずくと、技師に近づいて耳元で一言。


「俺が直接入力する。同盟国は解除コードよりも中身が知りたいだろ?」


そういうと、答えも聞かずに手元を体で隠し入力し、音声を再生させる。


それは、壮絶な戦いと大仲の最後をノイズ交じりに記録していた。


リークが無言で十字を切った。


「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


声を上げたのは意外にも足立だった。


「一人で竜に特攻なんて駄目ですよ大臣!あなたにはできることがあった!あなたにしかできないことがあった!あなただからできることがあった!」


「なぜ?なぜですか大臣!R連隊は貴方が作った連隊です。あなたが先に逝ってどうしますか?」


「おれが、竜を起さなければ、あああああああああ!!!」


地面を叩きつける手に大粒の涙が落ちる。仲原も顔を伏せているが、頬をつたった涙が焦げた地面に落ちた。


篠原は無表情でその様子を見ながらつぶやいた。


「これがリアルな死……。大臣でも兵士でも民間人でも等しく死ぬ。そっか、いつか私も。」


そう言うと顔色を悪くして空を眺めた。黒煙に染まった空は篠原の気持ちを表しているようだった。

2026年5月12日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_1/5_舞浜へ》

 この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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大種族神が判決を終えたころ、防雷は東京湾を抜けエーテル圏を離脱していた。


無線が回復すると、篠原は安堵した表情も見せず、埼玉の国有シェルターに設置されたR連隊本部に無線を入れる。


しかし、応じる者はいない。


足立が目線を下げるながら辛そうに語る。


「本部の全チャンネル応答なし。無線は千葉にも、埼玉全域に届いているはず。本部を移動したとしても応答はあっていい。」


「これはもう……。くそ!俺たちが眠れる竜を起こしてしまったせいだ!」


それを聞いた仲原は、表情を崩さずにこれを否定する。


「隊長。今回の作戦は防衛大臣勅命であります。作戦としても有効でした。しかし、竜は想定をはるかに超えていました。これは隊長の責ではありません。」


それを聞いた篠原は、襟を正すと反論する。


「では誰の責任だと?私ですかぁ?私が竜を想定したプランを作らなかったからですかぁ?くだらないですねぇ。今は情報の収集が最優先ですぅ。

 責任とか後悔とか怒りとかぁ、それは後でやっといてくださぁい」


その言葉に反射的に応戦しようとした仲原を遮ると、無線のチャンネルを変える。AI篠原に声を変更すると大仲へのホットラインチャンネルを叩く。


これを見た足立は察した。


「そうだよなぁ。本部が応答しない。その可能性は高いよなぁ。大仲大臣ッ頼む!」


「ザザザザ・・・・」


無線のノイズから声が聞こえてくる。


「こちらは、防衛大臣代行、津田です。手短にお名前とご用件をお願いします」


無線の後ろで自衛隊らしき人々が、何かを誘導したり設営しているような命令・金属音が聞こえてくる。


「津田議員。篠原です。防雷は主力火器90%以上を損失。現在東京湾を離脱しクシャルボコスと北上中です。大仲大臣は千葉ですか?」


「……ああ、君か。そうだ。君のプラン通りに舞浜へ竜の誘導作戦中だ!もう舞浜についているころだろう。すまんが避難民の対応で手いっぱいだ、そちらは足立、いなければ艦長の判断で動いてくれ」


そういうと無線は切れる。篠原はチャンネル切り替えクシャルボコスのリーク大佐に連絡する。


「兄弟。舞浜に要救助者がいる。火力が欲しい、一緒に来てくれるか」


「キョウダーイ。それはノーだ。同盟国のギムは果たしたハズでーす」


「確かに。だが要救助者は要人です。それもかなりのVIPです。自衛隊のDBから秘匿兵器の情報を消せるかもしれませんよ?」


「ハハハハッ。魅力的な提案だが、やはりノーです。一度公になった情報はすでに無価値でーす。ドラゴン退治とは釣り合いませーん」


「そうですか。兄弟。クイズです。満載排水量: 約120,000トン、動力: A1B加圧水型原子炉 4基、カタパルト: 電磁式カタパルト、積載能力80機、両舷ミサイル有効射角0から90度、換装方式、タラメア23式、AIリンケージ航法搭載。これは何でしょうね?」


「……。同盟国に対するハッキング。オイキョウダイ。オシオキが必要か?」


声のトーンが1つ下がった大佐の言葉に


「ハッキング?これはクイズですよ。冗談は抜きにしても並走していれば分かることを並べただけです。私はこういうの得意でして……もう少し細かくヒントを出しましょうか?」


「篠原!キサマッ。5分まて!」


「3分待ちましょう」


ブツリと切れた無線。容易に激昂するリークを想像し、足立と仲原は顔を見合わせた。


「なんであんなに煽るんですか!」


仲原が苛立ちを隠せない。


「えへ!だってリークっちはー、沸点低いでしょー。冷静に考えてぇ半壊の防雷と空母、フリゲート艦だけでぇ竜なんて戦えないですよぉ。だ・か・ら、ちょっと興奮させてぇ、他の海兵が冷静な意見を言いにくくしておきましたぁ」


「では?意図的に?」


仲原の質問を無視して、舞浜への航行ルートを篠原が確認していると、無線がなる。


「いいだろう!クシャルボコスおよび護衛艦は、同盟国の要人救助に加勢する。デカイ見返りがなければ、防雷は不慮の事故で沈む覚悟をシロ!」


一方的に無線がきれると、護衛艦の副砲が防雷に照準を合わせつつも、進路を舞浜に合わせたのだった。

2026年5月5日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑭_2/2_断罪》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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「人間よ、お前はこの件で、多くの苦しい判断を迫られたのだろう。よかろう、ついて来い」


そういうと光が強くなり、場面は見たこともない城の玉座へ移る。大種族神から大仲に知識が流れてくる。


この玉座に座りうな垂れている男が「種族神」であることも即座に理解できた。


種族神はゆっくり顔をあげると、落ち着いた声で大仲に向かって声をかける。いや、正確には大仲の隣に立つ見慣れぬ大柄な老人「大種族神」に向けた言葉だ。


「大種族神様。用件は察しております。やはり、私はどうしてもこの醜い種族に加護を与える気にはなれません。ご自由に処分してください」


大仲から見た、種族神の表情、所作は永田町で何度見た引責辞任を決意した議員の姿に重なった。そのうえで「処分を任せる」という全面降伏は議員生命の進退を任せる硬い決意を感じざるを得なかった。


ーー神もまたルールに縛られる。ルールを逸脱してまで、何を成そうとしたのか


大仲の脳裏に、一つの疑問がよぎった。


大種族神は長髭を撫でながら一歩前にでる。


「そう焦るでない。まずは、眷属共を戻してやろう」


そういうと、髭を一本抜いて息を吹きかけた。髭は青白く強烈に発光し、すぐに消えてしまう。だが次の瞬間、そこには人型へ戻った三体のUFBが立っていた。


立ち上る粉塵。まとわりつく熱。焦げた匂い。

それらが、三体を戦場から強制的にこの場へ引き戻したことを物語っていた。


髭をたくわえた個体は無傷に近かった。不思議と知るはずのない名が浮かぶ。彼はヴァロンというらしい。

女性型の個体――サーチは無数の細かい怪我を負っていた。

そして何度もR連隊と交戦した筋肉質の個体――名はベルガン。片翼を大きく損傷し、よく見れば腕や足にも深い傷を負っている。


突然の転移、そして人型への強制変形の影響なのか、三体とも四肢の感覚を調整するようにぎこちなく体勢を立て直す。


数十秒かけてようやく動きを取り戻す。動くようになった首を左右に振って状況を確認する。まるで敵を捜すような殺気だった動作。


だが、そこが居城であると確認すると、三体のUFBはお互いを見つめ合い、自分の体を見回して暫く無言で立ち尽くしていた。


そして女性型の個体がベルガンの深い傷を見つけると、慌てて肩を貸し怪我を気遣うような表情を見せた。


やがて三体は、自然と種族神の元へ集まってゆく。


「ヴァロン、サーチ、ベルガン。すまなかった。人間時代の感情に流され、気がついたらここに座っていた。大種族神様の御前だ膝をつけ」


その言葉で初めて大種族神に気付く三体は慌てて膝をつき頭を下げる。

種族神が三体に手のひらを向けると、彼らの傷は瞬時に回復した。


三体に対して大種族神はこう話しかける。


「お前達から見た、この行動をどう見る?審判か?天罰か?それとも別の何かか?」


ヴァロンはサーチを見つめ、サーチとベルガンは互いを見つめ合い、すぐに答えは出さない。転移の際に連れてきた焦げた匂いが次第に弱まっていく。

大種族神は三体に視線を送るが、決して急かすような視線ではない。むしろ、いくらでも待つ。そういった面持ちだ。



大仲はこの時確信した。UFBは単純な怪物ではない。複雑な関係と、感情を持った生物なのだと。返答次第では創造主たる種族神の進退が決まる。

それを察して最適な返答をアイコンタクトで相談しているのだ。


口火を切ったのは意外にも種族神だった。彼はあきらめたように言う。



「この三体に、竜化中の明確な記憶はありません。私が竜化させる際に知性を奪ってしまいました。正気を失い、殺戮衝動に駆られただけです」


するとベルガンが咄嗟に声を上げた。


「ちがいます!確かに衝動はあった。抗えないほどに。しかし、神は俺たちのコアを汚していない。ですから、進言します。今回の件は人間が神の眷属であるサーチを傷つけたことによります。これは天罰であります」


サーチとヴァロンが続いた。


「私のコアに残った記録を共有いたします。私は鉛の船と戦いました。しかし、仲間を思う人間の強い意志に私のコアは共感し、行動を変えました。これが証拠です」


「大種族神様。軍師ヴァロンと申します。種族神のルールでは虐殺は大罪。今回の騒動は虐殺。これは事実かもしれません。ですが、神は人間時代に同族から受けた深い傷を再び刺激されたのです。それゆえの激昂です。まだ誕生して間もない神の失態。これこそが次なる成功への体験であると確信しています」


ーーかばっている。まるでR連隊の連中が記者や野党議員からの追及から私を守ってくれた時のようだ。


ーー筋肉質の男、あれは足立だな。感情的でありながら、論点をずらすことで救う。よく似ている。

ーー女型、あれがサーチか。防雷が九死に一生を得たのは事実。都合の悪い部分はあえて言わないところは、仲原そっくりだな。

ーー軍師ヴァロン。あれは津田さんに近い。すべてを見込んだうえで、それを反転させる話題の誘導力。正論だが答えを決めた上手い言い回しだ。


それぞれの意見が出揃ったところで、大種族神は審議を始める。


大仲の横にいた大種族神が語る。


「虐殺。守護すべき種族への行為としては最悪です。解任すべき」


すると、全く同じ姿の大種族神がベルガンの横にフワリ現れた。大仲の横にいる大種族神は消えていない。


ベルガンの横に現れた大種族神はこう語る。


「だが、人は神の眷属を傷つけた。これは種族神に対する冒とく。天罰としてとらえるべきであろう」


続いてサーチの後ろにも大種族神が現れる。


「ふむ。人から見れば虐殺。だが、見逃した例もある。神が悪に落ちたとは早計ではないか?」


そしてヴァロンの前に現れた大種族神も続く


「虐殺は事実。天罰としても殺しすぎである。だが、この種族神のコアには大きな傷がある。どうみるか?」


最後に種族神の後ろに大種族神が現れた。


「まだ若い神だ。過ちも犯すだろう。だが虐殺は許されぬ。コアの傷がある限りまた繰り返すであろう」


大仲の横にいた大種族神がそれぞれの意見をまとめ、髭を撫でる。

何人もの大種族神の分身はそれぞれに主張を展開し、その議論での役割を終えると消えていく。


一つ、また一つ、大種族神の分身は消え、最後に本体が残った。


「結論が出た」


「消滅だ。多角的に考慮をしても虐殺は相殺しきれぬ。ゆえにルールに則り種族神は消滅とする。」


その時、大仲の隣にもう一人の大種族神が現れた。


「待て、その権力の執行に対して是正の意図が明確であるか。」


大仲の心の代弁者である。大仲は感じていた。この事件で死んだ人々の犠牲。これは活かされなければならない。

種族神が消えてしまえば、犠牲は種族神を交代させるための数字になってしまう。


「結論が出てから、もう一人の私が出てくることは珍しい。強い思い……再考に値しよう」


すると二人の大種族神は少し離れたところで議論を交わすと、一人が消え、残った一人が種族神の前に立った。


「下す。二百年の眠りにつけ。執行は7日後。二百年眠れ。さすればコアは癒え、再発もあるまい。異論はあるか?」


神はうつむいたまま、絞り出す声で訴えた。


「二百年、承知しました。ですが、その間、種族神が不在になってしまいます。代行者を立ててもよろしいでしょうか」


「好きにせい」


そういうと、裁きのために顕現していた大種族神そのものが、ゆらりと光へ溶けた。

その瞬間に張りつめていた空気が弛緩した。


「神様!!」


飛びついたのはサーチだった。ベルガンが慌ててサーチを抑止する。ヴァロンは穏やかな表情でやり取りを見つめていた。


大仲は複雑だった。今の政治家でこれほどのカリスマ性をもつ人物がいただろうか。腹を探り合い、損得を計算し、そのうえで感情で衝突する。

永田町はそういう場所だった。どちらが良いか悪いか大仲にも分からない。だが、この光景をみて羨ましいと思う気持ちは本物であった。


その気持ちを反すうしていると、少しずつ思考が鈍くなるのを感じた。


自分の手足がさらに薄くなり、意識も鮮明さを失っていく。


ーーこれが本当の死なのか。

ーー思い残すことは沢山あるが、あとは託して休ませてもらおう。なんだかとても疲れた……。


大仲は眠るように瞳を閉じると体は完全に消え、その魂は天界へと昇って行った。

2026年4月28日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑭_1/2_境界線》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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「……ここは?」


大仲が目を覚ますと、そこは不思議な光に包まれた、暖かく、どこか満たされた空間だった。

遠くから初めて聞くメロディなのに、なぜか懐かしいクラシックが聞こえてくる。


「竜は?R連隊の状態は?国民の退避状態は?」


我に返ると、多くの想いが心の中から湧き上がる。


しかし、それは声にする必要がない。とても不思議な現象で思考がそのまま空間に放たれるのだ。

この時初めて大仲は、自分の肉体の変化に気が付いた。


「なんだこれは、透けている?怪我も治っているし、体も軽い、まるで二十代の頃のような――」


その時、老人と思われる声がどこからともなく、聞こえてくる。


「…お前は死んだのだ」


「私が?ここはどこですか?」


大仲は内心察していた。TNTを体に巻いて竜へ飛び込んだ。それで生きているはずもない。


「ふむ。ここは人間界と神の世界の境界線。お前に分かりやすく例えると三途の川というらしいな」


「それで、竜はどうなりましたか?国民の避難は?」


光の空間に渦のような鏡が現れ、片翼を負傷し、重い足取りで埼玉へ戻る赤い竜の姿。そして津田が陣頭に立ち避難民の指示を

警察・自衛隊・ボランティアなど彼が使える人脈を活用して必死に行う姿が映し出される。


「被害は最小限に。篠原はやはり天才だった。竜の首は取り損ねたか、だが、私の命は届いたようだ…うん」


大仲はやっと腰を下ろし、声の主に問う。


「私は死んだのだろう。あなたはエンマ大王か何かだろうか。地獄行は覚悟の上だ。手早く願いたい」


すると、声の主は軽く笑うと語り掛ける。


「ほっほっほ。天国や地獄という概念は人間が作り上げたもの、この先にあるのは天界のみだ。そこでの過ごしかた次第でどちらにもなり得る世界だよ」


「それよりも、ひとつ尋ねたい」


「この未曽有の事件。この事件を起こしたのは、人間の種族神だ。そして私は彼の上位の存在である大種族神。すべての種族神を束ねるものだ」


大仲の理解を待たず、大種族神は続ける。


「お前から見た、この事件を"神が起こしたもの"とした場合、お前はこれをどう見る?審判か?天罰か?それとも別の何かか?」


15秒ほどの沈黙。


この間、大仲はどこか懐かしさを感じていた。自衛隊から転身し若手議員の頃、同じような場面があった。


面識もないが、権威だけは感じ取れる上層部からの突発的な質問。


意図も、正解も、相手の思考もわからない。だが、間違えば大きな代償を負う。


大仲は、こういう場面での立ち振る舞いは決めていた。


ーー正確に、そして冷静に、要点だけではなく自分の考えを素直に答える。


その経験から、大仲の答えは意外と早く出た。



「これは虐殺です。私は政治に生きた人間です。人間基準になりますが、全体としてこの事象は2つに分けて考えられます」


「1、これは竜が出現する前です。都外は安全という暗黙のルールがあり、許される行動ではありませんが、神による事象ということを勘案しますと、腐敗した人間政治に対する問い、もしくは試練とも取れます」


「2、竜が出たあとです。私から見た竜の行動は無差別に人類を殺すことを目的とした殺戮行為です。問いや試練といった領域は逸脱しており、一言で言えば虐殺。これが私の結論です」


ここまで淡々と話していた大仲だが、最後に少し語気を強める。


「政治に生きた人間として、私はこの一点で判断しました。権力の執行に、是正の意図があるか。竜の行動には殺戮以外の意図がない」


声の主は納得したような声で続けた。


「そうか。私は大種族神として本件で死んだ全ての人物に同じ質問をしてきた。竜が出る前は人間側の社会に対する不満もあった。だが、竜に殺された人々は多くが虐殺・理不尽と嘆く。分かった。もういいだろう。仕方がない介入を行うか」


「人間よ、お前はこの件で、多くの苦しい判断を迫られたのだろう。よかろう、ついて来い」



2026年4月21日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑬_3/3_大仲晴彦》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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3分後、大仲が戻ってみると。

11名のR連隊隊員が、輸送機に乗り深々と敬礼していた。
大仲は彼らの元へ駆け寄ると、事前に準備していた指示書を渡す。

「本R連隊分隊は、防衛大臣の任において避難民の安全確保任務を命ずる。後方にて任務にあたり、以後の指示は津田防衛大臣臨時代行に従うこと」

これを読み上げると、一人一人と目をしっかりと見て握手し輸送機を見送った。


残った290名の表情は総じて厳しいものだった。


最初の作戦は、埼玉の内陸に進みつつある赤い竜を、埼玉の第2駐屯基地へ誘導する事だった。この基地は、荒川が近く、あとは荒川を下ることで、自然と舞浜方面へ誘引できる。

作戦は思いのほか順調に進んだ、赤い竜が光るもの、反撃するものに惹かれやすい性質が簡単に看破でき、この習性を利用したのだ。

大仲は違和感を覚える。

ーーこの竜はなんだ?確実に人口密集地を狙う知性はある。だが、なぜか挑発には簡単に乗ってくる。
ーーその割に、監視ドローンなど一見無害な兵器にも対応を怠らない。ドローンを知っているのか?

R連隊は後退しつつ、ドローン、迫撃砲、機動軽戦車これらを巧みに使い竜を舞浜へと引き寄せる。当然、多数の犠牲者を伴う過酷な作戦である。

ドローンで注意を引きつつ、部隊は後退し高火力兵器で注意を反らす。その隙にドローンは退避し次の地点へ誘導する。
マニュアル通りの熟練した連携だが、地上部隊もドローンも視線にとらえてしまいえば、ブレスで焼き払われる。

空中で被弾したドローンが焼かれ火球となって連隊を襲う。仲間をかばうために瓦礫を飛び出して対戦車ロケットランチャーを放った兵は、赤い竜の尾に一蹴されると、まるでブリキの人形のように二つに割れた。

血と硝煙の匂い、ブレスで融けた瓦礫の数々がR連隊のたどった後退の軌跡を、一筋の線のように見せていた。

橋一つ、区画1つを進むたびに、多くの兵器と犠牲が払われた。

それでも、大仲はあきらめない。一人の命を必ず何かの結果と結び付ける。

やがて部隊は大仲の搭乗する指揮装甲車と、機動装甲車1台まで損耗しながら、舞浜付近に後退することができた。かつてリゾート地として有名な場所だ。

しかし、既に飛び去った黒い竜がこの地を瓦礫と炎に包まれた地獄に変えていた。

あまりの惨状に一人の隊員がボソリとつぶやく
「陸地側から海側に向けて焼かれている。誰一人逃げることはできなかっただろうな・・・」
だが、無人だからこそ、赤い竜を引き付けるのにはちょうど良い。

大仲は衛星無線を取ると津田へ繋ぐ。

「津田さん。舞浜への誘導は成功です。部隊は90%を失いましたが……」

津田が何かを言おうとするが大仲は構わず続ける。

「国民を、避難した人々を、そしてこの作戦で失われた多くの自衛隊の家族をよろしくお願いします」

ーーこれでいい、あとは全力を尽くすのみだ。

無線を切って一呼吸すると大仲は残ったR連隊に最後の指示を出す。

「これより、指揮装甲車に積んだTNTを使い、赤い竜の機動力を奪う」

傷だらけの兵士が問う

「どうやって接近するおつもりですか?ブレスで焼き払われればTNTが引火してしまいます!」

大仲は案を持っていた。

「目だ!目を狙って全火器で挑発する。これまでの戦闘でヤツは必ず目で捕捉してからブレスを放っている」
「煙や障害物で捕捉できない相手には物理攻撃を優先している。その習性を利用する!」

傷だらけの兵士は軽く笑うと

「もう、避難も進んでいるでしょう。機動力は冥途の土産みたいなもんですかね!」

とうなずいた。

装甲車が舞浜の海岸沿いに停車すると、すぐに上空から赤い竜が追ってきた。

2台は持てる火器を全て投入し、竜の目を狙う。左右にかわし勢いが落ちる竜。

激しい攻撃でついに地面に足を付けると、翼を盾にして体当たりの姿勢に入る。

「よし!来るぞ!!」

大仲は手に持ったTNTの起爆ボタンを握りしめる。背後にはTNT爆薬の入った箱。TNT特有の甘い匂いが大仲に”死”を直感させる。

だが、次の瞬間、信じられないことが起きる。

「大臣!竜が停止。いえ!大きく後退しました!」

ーーあり得ない。TNTを察知した?こいつはTNTの威力を知っている??

大仲の思考はすぐに切り替わる。

「駄目だ!距離を取られると目を狙えない!作戦中止!!散開!!」

車両は二手に分かれ距離を取る、瓦礫の陰には歩兵が潜み、竜を呼び込もうと挑発する。

先ほどの兵士が大仲に呼びかけた

「あの竜、思ったよりも賢いですなぁ。本能的なものかも知れませんが…」

ーーそうだ、知性があるようには見えない。だが、なんだ、この竜は妙に我々人類と戦い慣れている。

そのとき、想定外の事態が起こる。対UFB用の耐熱装甲の装甲車に円状の穴が開き、直後に爆音と共に爆発する。

距離を取った竜から放たれたのは、面制圧のブレスではない。まるで高熱のレーザーのような一閃。障害物などを全て溶かし
貫通する熱線だった。

「こんな攻撃が、大臣!これはもう時間稼ぎも限界かもしれませんね。」

そういうと、兵士は指揮装甲車を飛び降りて少し離れた瓦礫に身を隠した。

ついに指揮装甲車には運転手、射撃手、大仲の3人となった。

大仲は、何かないかと車中を見渡す。すると、固定式の簡易マシンガンが目に入る。

ーーこれなら・・・

「私は簡易マシンガンを使って応戦する。瓦礫の陰で止めてくれ。設置は私が行う。すまないが準備をする間に、君らはマシンガンの荷下ろししてもらえるか?」

車体が隠れるくらいの瓦礫に隠れ停車すると、運転手と射撃手が二人がかりで固定式の簡易マシンガンを急いで下ろす。大仲は車中で何やら体に大量の物体を巻き付けて、急いで降車する。

射撃手が思わず、その防護服の下に忍ばせた物体に興味を持つ。しかし、大仲は二言。

「マシンガンの予備弾薬をできるだけ体に巻き付けた。多少重たいが、存分に撃ってやるさ」

「さぁ、あとは私が。できるだけ離れて、設置時間を稼いでくれ」

指揮装甲車は、指揮官大仲を残し速度を上げる。指揮装甲車は備え付けの機銃と、弾数の少ない対戦車ランチャーを併用し竜の注意を引き付ける。

竜は特にこの指揮装甲車を警戒しているようで、一定の距離を保ちつつ、貫通熱線を幾度も放つ。

悪路にもかかわらず、対戦車ランチャーの土煙で死角を作り出し、2度、3度と貫通熱線を紙一重でかわし竜を挑発する。

遮蔽物に隠れた兵士が、移動しながら時折攻撃することで的を絞らせない連携はR連隊がいかに訓練を積んだ部隊であるかを物語っていた。

だがそれも、長くは続かない、一人、また一人と熱線に撃たれていく。

そしてついに指揮装甲車も熱線の直撃を受けて一際大きく戦場に散っていった。

最後に残ったのは、大仲一人。SPも歩兵も装甲車も残っていない。

大仲は簡易マシンガンの横に堂々と立ち、竜へ向かって叫ぶ。

「おい。そこの赤いの!私が最後の一人だ。かかってこい!」

すぐに竜が熱線の発射態勢に入る。大仲は急いでくぼんだ地形に身を隠す。

光の一閃は頭上を照らす。激しい熱風、飛び散る溶けたコンクリートが大仲の皮膚を焼く、コンクリートの溶けた臭いが鼻を突く。
だが、大仲はその痛みを意識することすらなかった。

すぐさま、くぼみを飛び出るともう一度声をかける

「人間一人に、チマチマ遠距離攻撃なんて、随分臆病な竜だな!私の兵士の方が勇敢だった!」

この言葉に赤い竜は意外にも反応する。1mほどふわりと上昇すると、超低空飛行で大仲の眼前までやってきた。大仲は竜の腹に向けて
マシンガンを撃つが、簡易的なこの武器では硬い皮膚に弾かれて大きなダメージは与えられない。

赤い竜はその様子を一瞬眺めていたが、すぐに体をひねると尾でマシンガンごと大仲を薙ぎ払う。

だがこの行動は大仲に読まれていた。

大仲は、サブマシンガンを踏み台にすると竜の首元へ飛び込んだ。
そして一言。

「お前、やっぱり日本語を理解してたんだな・・・」

竜が顔を向けた瞬間、大仲は内ポケットにしまっていたTNT爆薬の起爆装置を押す。マシンガンを指揮装甲車から下ろしている間に、彼は
自分の体にマシンガンの弾薬ではなくTNT爆薬を巻き付けていた。

白い光と激しい爆風が竜を包む。そしてすぐに大きな爆発音が、R連隊の隊員の遺体を包み込む。
完全な至近距離でのTNT爆破は、赤い竜の右の翼を大きく損傷させた。大仲の決死の反撃も、寸前で竜に察知され、翼で防御されてしまったのだ。
だが、これで赤い竜は飛ぶことができなくなった。

宙に舞った大仲のドッグタグが反射し、キラリと輝いた。

2026年4月14日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑬_2/3_決断》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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竜は口を開けブレスの態勢に入る。艦長と足立は握手を交わし死に際とは思えない優しい笑みを浮かべる。

熱が収束する瞬間に、足立の前に仲原が立つ。まるで足立をかばうように。

艦長と足立とは違う、まだあきらめていない、その鋭いまなざしは白い竜に向けられる。

数秒で収束した炎は猛烈な熱を帯びて放たれる。だが放たれた先は司令塔ではなかった。真上に放たれたブレスは炎の雨となって防雷を包み込む。

白い竜はしばらく仲原を見つめると、それ以上の破壊は行わず、神奈川方面へと飛び去った。

こうして防雷とタラメア軍は九死に一生を得て、太平洋へと離脱することに成功した。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆

同時刻 埼玉 国有シェルター

防衛大臣の大仲は、このUFB要塞攻略作戦の指揮を担っていた。

モニターには「通信途絶」と書かれた埼玉駐屯基地と神奈川側駐屯基地に配置されたレールガンの情報が赤く点滅している。

大仲は両手の拳を強く握りしめ、篠原の残したメモを睨みつけていた。

そこには「防雷」が負けた場合のプランがいくつもケース別に並んでいる。

ーープラン12:防雷と要塞が共倒れになった場合。
ーープラン23:要塞を落とした後、クシャルボコスに撃沈された場合。
ーープラン35:防雷が一方的に負けた場合。

異常なほどのプランの多さは、篠原らしいとも言える。レールガンの損失をうけて、大仲はプランの大半を占める「防雷が敗北したケース」を中心に改めて目を通していた。

その時、早期警戒基地から緊急連絡が入る。

「大仲大臣!防雷は未確認の大型UFBによって大破。太平洋上へ撤退中!」

大破と聞いて、大仲は一瞬世界が暗転した。しかし、撤退と聞き、少なくとも何人かの人命は守られた。その事実に胸をなでおろす。

しかし安堵している場合ではない。レールガンと防雷を失った場合の篠原のプランを実行するためだ。

ーープラン03:防雷・クシャルボコスが敗北し、レールガンまで失った場合。
書き出しは「最悪のパターンです」とある。

このプランは、主力兵器を失った埼玉・神奈川はUFBの報復攻撃を受ける可能性が高く、全県民を他県への避難を推奨するものだった。

埼玉だけでも東京からの避難民も含め、750万人の一斉避難は現実的ではない。
大仲はすぐに津田へ連絡を取る。

「大仲です。内密ですがUFB要塞攻略作戦は失敗です。私は退避の指揮を取ります。防衛大臣の臨時代行をお願いします」

津田のため息交じりの返答が聞こえる。
「承知した。だが、750万も退避させるあてはあるのか?」
「あります。まずは、津田さん、あなたや議員、要人などこの国の主権を守る人はすぐに政府の用意した車両で県外へ脱出してください。座標はお送りしておきます」

「大仲。君はどうする?」
「こちらの目途が立てば高速ヘリで脱出します」
この言葉を聞いて津田は声のトーンが落ちる。
「大仲大臣。あなたも主権を守る一員です。目途も大切じゃが、その目途は早めに切り上げて…」

津田の言葉を遮るように緊急無線が入る。
「大臣!こちら埼玉第3駐屯地です!赤い竜の攻撃を受けています!!輸送機が多数破壊されました!」
緊急無線の背景に、爆発音や叫び声が聞こえる。地面の揺れる足音のような衝撃音。

津田の無線を即座に切ると、1分。天井に揺れる蛍光灯を見つめた。

ーー竜だって?我々は何と戦っている。いや、それはいい、750万の一斉避難。それは無理だ。
ーー念のために集めた輸送機も何往復できるか。
ーーしかし時間がない。…日本の未来を最優先とすれば、地獄で詫びるしかないか。

大仲は何かを決意し、無味無臭のコーヒーを一気に飲み干すと、そのまま国民に向けた緊急会見を行った。

「防衛大臣の大仲です。みなさま、一部のUFBが埼玉での活動を確認されました。地域は限定されていますが、念のため県外への避難をお願いします。
 今回の対象は、30歳以下の男性、女性、医療関係者、特定技術者の皆様になります。これは予防的な避難ですので、移動が体力的に難しい方は
 ご自宅で待機されて構いません。シェルターも解放しておきますのでシェルターに自主避難も可能です。
 時期ですが、今、この瞬間から行動を開始していただきます。詳しくは30分後に防衛相のHPに掲載します。また最寄りの自衛隊にお問い合わせください」

緊急会見に質疑応答はなかった。だが、カメラを切った大仲の表情は苦渋に満ちていた。

記者からは「なぜ、全員避難ではないのか?」「緊急性が曖昧だ」「30歳を基準とした根拠は?」などと質問が飛んだが、背を向けて表情を見ることすらなかった。

大仲は残っているR連隊を埼玉シェルターに集結させた。数は補充要員も含めても約300名である。

その間も、赤い竜は人口密集地を狙い手あたり次第人々を襲っていた。

篠原が事前にプランしていた台本には、全てAIのフェイクニュースとすることで24時間は稼げる。そう記されていた。

そのため、この大虐殺の様子は大仲の徹底した情報統制で、すべてフェイクニュースとして扱われた。

TVでは政府の依頼を受けたコメンテーターが、竜を不謹慎なAI動画であると断定しつつ、本当だったら撮影せず逃げるようにと繰り返し訴えた。

だが、現実は巨大なショッピングモールが強襲され、僅か数分で2万人が瓦礫に消えた。
緊急招集されたR連隊は12時間で埼玉シェルターに集結した。

それでもその間に、50万もの国民が命を落としており、情報統制も早くも崩れ始めている。
大仲の前に並ぶ、R連隊の面々からは熱気が上がり、獣じみた匂いと汗にまみれた服装から、不眠不休で集結したことを語っていた。

「R連隊の皆様、足立・仲原が不在のため、私が指示を代行します。事前に秘匿通達した通り、UFBの新個体と思われる”赤い竜”が埼玉の内陸部へ向けて移動中です。
 今、この瞬間も、多くの国民の命が失われている状況です。我々の使命は、命の危険がある人々から危険を排除することです。討伐したい。私もその気持ちです。
 しかし、危険の排除を優先します。ですから、すでに無人となっている千葉の舞浜方面への誘導を最優先とします。国民から物理的に離す。これを第一とします」

隊員から動揺の声が上がる。

千葉には黒い竜がいる。この事実もすでに共有されていたからだ。

一人の隊員が小声でつぶやく

「つまり、できる限り舞浜方面へ後退しつつ、討伐しろってことか…いや、ちがうな。討伐だったらここで地の利を生かして迎え撃つ。討伐は不可能。そういうことだな…」

大仲は動揺する隊員に声を大きくして告げる。

「諸君に家族がいることは分かっている。諸君らが未来ある人材であることも承知の上だ。だからこそだ、家族と、そして家族の未来を守るために、諸君らの未来を
 私に預けてくれないか。その代償には足りないとは思うが、私も最後までこの作戦に参加する。頼む、日本の未来のために」

そして一機の輸送機を指さした。

「これから3分。私は席を外す。この作戦に参加できないものは、輸送機に乗ってくれ。ここで退いて未来の戦いに力を発揮してもらうことも大切な決断だ。
 逃亡や弱腰とは誰にも言わせない。今を守るか、未来を守るのか諸君らの意思で決めて頂きたい」

3分後、大仲が戻ってみると……

2026年4月7日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑬_1/3_逆鱗》

 ⑬は長編のため3分割で掲載します。

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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ついに人間の感情が神を完全に飲み込み、神は怒りに満たされる。


眼下に横たわる3体の体を宙に浮かせる。瞬く間に再生させる。だがそれでは終わらない。


神から生成され大量のエーテルが洪水のように3体のコアに流れ込む。


やがて三体は黒・赤・白のエーテルの巨大な球体に包まれた。


球体は5mほどの大きな卵のような形になる。神は卵を指でひと叩きする。


その瞬間、球体がメキメキと嫌な音を立てる。骨が砕ける音、肉が引き裂かれるような音である。

同時に肉の焦げる独特な異臭があたりを覆う。


神は怒り燃えた眼光でそれを凝視する。


変化はすぐに形になり、3体は鋭い牙、硬質な角、強大な翼、太く長い尾をもつ生物へと姿を変えたのだ。


ヴァロンから変化した竜。ベルガンから変化した赤い竜。そしてサーチから変化した白い竜。


「ヴアァァァァ」


雄たけびを上げる姿に理性や知能は感じない。


神は短く彼らに告げる。


「皆殺しだ」


白い竜はデスランドを飛び降りて防雷へ向かう。赤い竜は埼玉方面へ、黒い竜は千葉方面へ飛び去った。


「人間どもは、俺の大切なものをいつも傷つける。ならば、ならばいっそ、もう。消えてしまえ」


神は空に向かって小さく呟くと、荒れた庭園を引き返し、玉座へ戻っていった。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 防雷


観測班から、緊急連絡が入る。


「UFB上空から、大型の未確認飛行物体接近中!主砲の射線を避けています!」


防雷とデスランドの距離は僅か数キロである、この至近距離で戦艦の砲弾を避けるなどあり得る話ではない。


篠原は艦長に詰め寄る。


「少しでいい!直接見れるようにして!」


緊迫した口調。取りついているUFBはもういない。艦長は即座にシャッターを開ける。


篠原は待ちきれない様子でしゃがみこみ、開きつつあるシャッターの隙間から、未確認飛行物体をさがす。


それはすぐに見つかった。防雷の砲撃を回転するようにかわしながら真っすぐ向かってきていた。


白く輝く優雅な姿に一瞬目を奪われる。


「はっ、これは、これはだめ……竜!竜です!!急いで転進!退却です!」


そういうと、すぐに通信機を取った。


「……死にたくなければ我に続け!」


乱暴に通信機を叩きつけ、クシャルボコスへ告げた篠原は、その足で足立にしがみつくと

まるで子供のように震えて動かなくなってしまった。


艦長・足立・仲原はこの様子をみて、即座に行動に移す。


「こちら艦長。防雷180度転進!機関最大! 足立隊長!足止めできるか?」


「主砲は当たらないねえ!あのデカさだ。対空機関砲でも減速しないんじゃないか?」


「転進する!主砲は接近する竜を狙え!使用可能な対空機関砲は竜へ最大連射!」


既に満身創痍の防雷は大きな波をあげて退避を試みる。


その瞬間、この戦闘でも経験したことのない大きな衝撃が防雷を襲う。艦長の目に信じられない光景が映る。

防雷の主砲が竜の爪でもぎ取られ、まるでおもちゃのように海中へ投げ捨てられた。


ーー逃げ切れなかった。その絶望は確信にも近い。


「主砲1番、通信途絶!」


その報告を聞いている最中に、再び衝撃が走る。主砲2番がもぎ取られ、宙を舞っていた。


「主砲2番も、通信途絶です!」


射撃管制にいた足立が篠原を振りほどき、駆け寄った。


「艦長、これはもうダメでしょ」


「ああ、こんな隠し玉、反則ですなぁ」


白い竜と足立の目線が合う。


足立がぼそりとこぼす。


「俺だけで済ませてもらえないかねー。なんてな…」


竜は口を開けブレスの態勢に入る。艦長と足立は握手を交わし死に際とは思えない優しい笑みを浮かべる。

2026年3月31日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑫》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


ヴァロンの勝利宣言から20分程前


防雷の司令塔では、ヴァロンの消耗戦に苦戦する篠原、足立、仲原が奮闘していた。


足立が篠原に助言する。


「上空を旋回しているUFBは明らかに、こちらの弾切れを狙ってるぞ!どうする篠原!」


篠原は数秒ほど思考すると


「船は頭上に弱い…。ここは続けるしかありません。できるだけ主砲と副砲で投石部隊を狙いましょう!」


仲原がすぐに命令に落とす。


「対空機関砲は旋回部隊に警戒!ただし、挑発に乗るな!無駄玉は減らして!」

「主砲・副砲は、投石部隊を狙え!大きい瓦礫を持っている分狙いやすい。外さないでね!」


これに防雷の艦長も助力する。


「主舵10!副砲の射角を確保しろ!陸からの距離を維持。投石部隊を疲弊させろ!」


篠原がしびれを切らす。


「隊長ーっ。例のあれは射撃準備できましたかー?そろそろ出番ですぅ!」


足立は時計を見ると、少し表情を曇らせる。まだ早い。


「埼玉側だけならー。神奈川はあと10分!」


その瞬間、防雷が大きく揺れる。傾く船体。小柄な篠原の体がふわりと浮いて、篠原が思わず声を上げる。


足立は冷静だ。


「どうした!」


通信兵からの返答も早い。


「左舷に大きな波です!直撃ではありません!」


仲原がすぐに分析する。


「数tの瓦礫が高高度から近海に落ちたのでしょう!」


足立はすぐに艦長に回避行動を依頼すると、篠原の元へ行く。


「大丈夫か?怪我は?」


いつもは余裕のある篠原だが、表情だけは取り繕っていた。だが、顔色は青ざめ、手足は震えている。


戦艦が至近弾などで大きく揺れる。それは不思議な事ではない。足立も仲原も、すでに次の命令を考えている。


だが、篠原だけは違った。知識でしか知らなかった“揺れる戦場”を、初めて自分の身体で知った。


「瓦礫が左舷に直撃!」


さらに、瓦礫が船体を叩いた瞬間、その衝撃は恐怖に変わった。


弾幕をすり抜けた瓦礫が、防雷の鋼鉄の船体で砕けて土煙を上げた。


篠原が溜まらず指示を出す。


「防雷が先に落ちてしまいます!挟撃開始です!」


仲原が口を挟む。


「まだ神奈川は撃てませんよ!」


すぐに篠原が返す。


「あれは、埼玉側が敵に察知された場合のプランCです。防雷の全主砲とレールガンの波状攻撃があれば、あの質量の浮遊要塞でも破壊可能です!」


その時、千葉県の海岸沿いにある木更津から発光弾が上がる。


足立がそれを見て奥歯をかむ。


「篠原!埼玉のレールガンが敵に発見された。攻撃される前に撃つしかない」


仲原が篠原を待たずに指示を出す。


「全主砲回頭。目標UFB要塞!できるだけ中央を狙え!着弾タイミングをレールガンに合わせる。一斉射撃態勢で指示を待て!」


瓦礫の破片を被った、砲塔がギギギと音を立てながらデスランドへ向く。


仲原が時計を見ながらカウントを始める。


「5,4,3,・・・」


それを足立が制止する。


「まて!様子がおかしい!射線上で黒煙が既に上がっている!」


レールガンの射線上に立つ肉の壁がデスランドへの直撃を避ける。やがて、再び木更津から発光弾が上がる。


「篠原、埼玉のレールガンが攻撃を受けている。これ以上は不可能だ!」


篠原はすぐに切り替える。


「神奈川は?あと3分ですか!」


足立が声を張る。


「持ちこたえるぞ!!」


だが、この不測の事態を察するかのように、いままで旋回していた部隊が防雷の前方、後方から一気に襲い掛かる。


艦長も負けていない。大きな船体を狭い東京湾の中で大きく旋回させる。


「旋回!対空機関砲の射線を確保しろ!!」


旋回していても、1m前後の瓦礫の破片が何度も船体にあたる。むろんダメージはない。だが、質量の高い物質が鋼鉄を叩く低い音が、死神の声のように響く。


至近距離に落ちる落下物は大きなしぶきを上げ、防雷に降り注いだ。


艦長が足立に目線を送る。足立が頷くと、艦長が答える。


「取りつかれるぞ!ブリッジ遮蔽!」


足立も続く。


「主砲を防衛に戻せ!押し返せ!」


さらに仲原も答える。


「1番2番3番は前面のUFB,4番5番は後方のUFB、副砲は撃ち漏らしを狙え!警備兵はライフルを持って持ち場へ!侵入させるな!」


強化ガラスの前に、鋼鉄のシャッターが、降りる。


篠原が思わず止める。


「まって!目を閉じてしまえば戦況が見えない!!観察できなくなっちゃう!」


その時、足立はゆっくりと閉まるシャッターの向こうに、神奈川方面の上空に白い筋を見つける。レールガンである。


「くそ!主砲を動かした瞬間にこれか!戻せるか仲原!」


「無理です!砂塵の影響か回頭速度が低下しています」


その言葉が終わる前にデスランドの上空に灼熱の花が咲いた。


篠原は赤色に染まった司令塔を飛び出ると、らせん階段を駆け上がり第2艦橋へ向かう。

揺れる船体で何度も体を壁に打ち付けながら、彼女が見たものは、UFBに取りつかれ、火力を失っていく防雷の姿だった。


「神奈川のレールガンは?!」


数発飛んでいた神奈川のレールガンも、その後の動きはない。


ふと神奈川側の海側、三崎口付近で発光弾が上がる。


「え?神奈川も・・?速い。対応速度が速すぎる。宇宙から監視されてるとでも言いたいの?」


そこへ足立が追ってきた。


「何やってんだ!死にたいのか!!隔壁が閉鎖されるぞ!」


足立は篠原を軽々と抱きかかえると、らせん階段を下りる。


「規格外すぎて忘れていたが、この子も初陣か。もう少し気を配るべきだったか……」


独り言を挟みつつもすぐに司令塔に戻る。確認した仲原はすぐに隔壁を閉鎖。すると、おもむろに席を立ち座り込む篠原の前に座る。


「パシッ」


突然篠原に平手打ちをする仲原。


「違うんです!私は観察をー」


震える体を無理やり押し込めて、篠原が反論しようとする。だが新兵の心境など何度も見てきた仲原にごまかしは通用しない。


「怯えるな!あなたの仕事は何だ?指揮系統の人間が戦闘中に司令塔を出る意味が分かってますか!」


この言葉に、篠原は返す言葉もない。


まぁまぁと二人の間に体をねじ込んで、仲裁に入る足立。すると足立には仲原の拳が飛ぶ。


「あなたも指揮系統の人間でしょう!!」


しかし反射的に避ける足立。これでもかと、裏拳による追撃も軽く手で押さえると、落ち着けと訴えた。そして艦長を呼び寄せると小声で話し出す。


「どうする艦長。あんまり状況は良くないよなぁ。防雷の主砲は前方を向いたまま回頭不能。対空機関砲も取りついたUFBに破壊され70%が使用不能だぜ」


艦長が絞るような声で発言する。


「これはもう艦を放棄するしかないのか。脱出艇も出せないが。エンジンが生きているうちに太平洋のど真ん中でUFBを乗せたままガス欠。これが最善ですかね」


太平洋。この言葉が篠原に刺さる。恐怖でいっぱいだった思考に、ほほの痛みとは別の何かが見える。


ーー神奈川が失敗した場合のプラン。


その思考が走ると篠原の目に力が戻る。


「そうです。太平洋ぉ!そうですぅ!そうですぅ!勝てます!勝てますよぉぉ!」


突然いつもの篠原にもどり驚く一同。


篠原は急いで通信機を取る。これはクシャルボコスとつながっているものだ。


「聞こえますか兄弟」


篠原の呼びかけに応じたのは、撤退したはずのリークだった。


「オソイデスネー マチクタビレマシター ジュンビデキテマス カウント60 ソノゴ 30 オッケー?」


篠原は「ありがとう」と一礼すると、艦長に依頼する。


「60秒以内に防雷をデスランドに向けてください」


瀕死の防雷は一度後退すると、大きく舵を切り、船体をデスランドへ向ける。60秒後、防雷の上に灼熱の花が咲く。


クシャルボコスの焼夷弾だ。花は防雷に取りついてたUFBを次々に溶かしていく。


篠原はいつもの調子で足立に頼む。


「足立たいちょー!30秒後にぃ。可能限りデスランドへ主砲をおねがいしまぁす!」


急な出来事に驚く足立。


「主砲?おいおい立ち直りが速すぎだろ」


無駄口を聞き流し仲原がすぐに動く。自席に戻ると指示を出す。


「使用可能な主砲は射角をUFBの要塞へ向け!20秒後に一斉連射。弾がなくなるまで撃ちまくれ!」


20秒後、クシャルボコスの護衛艦の艦砲射撃がデスランドを揺らす。それに合わせるように防雷の主砲が火を吹いた。


守るもののいないデスランドは瞬く間に砲弾の雨を受ける。いたるところで着弾による爆発が発生し、燃え上がる。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


--僅か1分前のデスランド



ヴァロンが勝ったと油断した瞬間、鉛の船は「まだやれる」と言わんがごとく旋回できなく主砲を船体ごと回すことでデスランドへ再び砲塔を向ける。


落ち着いてヴァロンは取りついた兵に砲身の破壊を命じる。


その時、あの灼熱の花が、デスランドではなく鉛の船の上空で花開いた。灼熱の花びらが取りついた兵を霧散させていく。


これで1500をほぼ失ったヴァロンは、不敵な笑みを漏らす。


そして、少し離れた位置にいる兵を動員しようとしたとき、強い衝撃がデスランドを襲う。


ーー何事だ!


即座に索敵を開始する。すると、鉛の船の4km後方にタラメアのフリゲート艦を発見する。


「空母の護衛艦か!」


盤外から現れた伏兵に、思考を傾ける。だが、その思考は結果を出さなかった。


防雷の主砲がヴァロンのいる執務室を直撃した。激しい衝撃で廊下に吹き飛ぶヴァロン。すると眼前には、激しい砲撃損傷する城が目に入る。


俯瞰で物を見ていたヴァロンの手の届く範囲は、すでに破壊されていたのだ。


ヴァロンは急いでサーチとベルガンの回収へ向かう。2人とも意識はない。直撃すれば消えてしまう。


硝煙の匂いがデスランドが標的となっていることをヴァロンに告げる。


神の元へ急ぐヴァロン。だが、その後ろに防雷の弾丸が迫る。


一瞬世界が輝いた。サーチのシールドとは異次元の薄く美しいシールドがヴァロン、サーチ、ベルガンを守った。神である。


神は砲撃でヴァロンが傷ついたことを知り駆けつけたのだ。


シールドの中は、驚くほど静寂に満ちていた。何度も砲弾の雨がシールドに触れる。だが砲弾はシールドに触れた瞬間に高熱に達し、赤く染まりドロリと溶け落ちる。シールド内に匂いも煙も入ってこない。衝突した音も衝撃もすべてがかき消され、まるで無音の映画をみているような錯覚に落ちる。


しかし、助けに来る道中で何度か被弾したのだろう。神自身に傷も何もないが、服には黒く焦げたあとが見える。


ヴァロンは神の姿を確認すると、翼の力が抜け、そのまま二人を抱えて仰向けに倒れた。


神のはじっとその様子を見ていた。不思議な感覚だった。この三体は特殊個体。手間をかけたことは事実。だが、それ以上の情はない。ハズだった。


だが、傷ついた3体を見ていると神の中の何かが、次第に熱を帯びていく。


ーーこんな傷は一瞬で治せる。熱くなるなよ俺…


そう言い聞かせる。だが、先ほどまで無駄話をしていた臣下が、地面に伏している状況を見ていると、その熱は冷めることはなく、次第に融点まで登っていく。


神の中にある人の記憶、その中でも自分の大切な何かを壊された記憶が、冷静になろうとする神の精神を強制的に怒りへといざなっていく。


ーーそうだった。人間達は常にそうだ。俺から大切なものを奪う。

ーー大丈夫。今回は失わない。俺は神。もう無力ではない。

ーーだが失わなければいいのか?人間はいつも理不尽に大切なもの傷つける。


神と人の思考が交錯し、神の意識が人間の感情に押し負けていく。

神の周囲で圧縮されたエーテルがパチパチと音を立ててはじけ、一瞬だけ激しく発光する。

やがて発光の感覚が短くなり、数が増える。


「うあああああああああああああああ!!!!!」


ついに人間の感情が神を完全に飲み込み、神は怒りに満たされる。


眼下に横たわる3体の体を宙に浮かせる。瞬く間に再生させる。だがそれでは終わらない。


神から生成され大量のエーテルが洪水のように3体のコアに流れ込む。


ヴァロンが察した。


「神よ!静まり給え!!神よ!あなたは人間の種族神です!!神よ!!」


それにベルガンも続く


「これはダメです!神よ!俺はこんな方法で強くなりたいわけじゃない!神よ!」


サーチは言葉は発しない。しかしサーチの感覚共有が強い悲しみと恐怖を伝播した。


やがて三体は黒・赤・白のエーテルの巨大な球体に包まれた。


それは、大神災の始まりを意味していた。

2026年3月24日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑪》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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リークと篠原の共闘作戦によって、デスランド周辺のUFBを一掃した戦艦「防雷」だったが、篠原はデスランドから次の部隊が現れると予測する。


その予測は的中した。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


2時間前 デスランド大広間。


ベルガン、サーチ、ヴァロンが神と相談をしている。もちろん議題は「防雷」の対応である。


神は上機嫌だった。


「みたかヴァロン。特殊個体を投入しなくても一般兵だけでタラメアの陸軍は敗走。余裕じゃないか」


ヴァロンはため息交じりに応じる。


「神よ。必然の結果です。あまり遊び過ぎないよう。やりすぎると大種族神様の目に触れてしまいます」


"大種族神"その名を出されて神は気分を損ねる。


「大丈夫だ。ルールの範囲で痛めつけているだけさ。それより次は……ほら、タラメアと日本の海戦が始まりそうだぞ!」


防雷の姿を神の力で映し出す。


すぐにベルガンがくらいつく。


「これは大きい。全身鋼の船。私が沈めてきましょう!今沈めてきましょう!」


勢いよく飛び出そうとするベルガンをサーチが引き留めようとした。だがその行動よりも先に神の声が響く。


「駄目だ!ベルガン!お前は今から始まる人間同士の醜い戦いを見学しろ!俺の楽しみを理解しろ!」


一段と深いため息。ヴァロンだ。


「それが人間の種族神のお言葉ですか…。ですがベルガンやめておけ。あの船はお前とは相性が悪い」


神がその言葉にさらに重ねる。


「エーテルの範囲内で、一般兵で対応する。それが今回のルールだ。何度も言わせるな!」


相性が悪いと言われ感情的になるものの、神から制止され立ち尽くすベルガンにサーチが目で膝をつけと合図する。


渋々膝をつき、神が投影した防雷を俯瞰で見るベルガン。タラメアの空母と防雷が戦えばベルガンが見てもタラメアは負ける。弾の撃てない機関銃など、原始的な斧にも劣る。


ベルガンはタラメアが負け、残った鋼の船を神の兵が倒す際には指揮官として名乗り出ようと考えていた。


停泊する防雷に気付かぬ空母は徐々に距離を詰め、ついには防雷の射程に入ってようやく減速した。


防雷から1機のグライダーが空母に向かって飛んでいく。


神から声が漏れる。


「さぁ始まるぞ!何としても機密を守りたいタラメアと、主権をかけて反撃する日本の海戦だ!!」


だが、見つめる先では一向に戦う気配はない。神は苛立ちながら考える。


ーーそうか。鋼の船を見て劣勢を察したのか。なかなかタラメアも優秀じゃないか。


神はデスランドの周辺を飛行していた一般兵に指示を出す。鋼の船を攻撃しろと。


ーー手助けしてやろう。さぁ戦え!!


不規則に飛行していたガーゴイル(一般兵)は、吸い寄せられるように一斉に防雷に向く。そして攻撃を始めた。すると防雷の対空機関砲も一斉に命がともり、迎撃を始めた。


ヴァロンが一言漏らす。


「対応が速すぎる」


これに神も同意する。


「ああ、あの船、我々が攻撃することを予測していたな。海上は割と手薄にしてやったはずだが勘のいい指揮官でもいるのか?」


だが神に焦りはない。千を越える一般兵の群れが黒い渦になり防雷へ波状攻撃を仕掛ける。この状態でタラメアに討たれれば貧弱な彼らの通常兵器でもラインを超える。神は板挟みになっている鋼の船に興味を惹かれる。


ーーさあどうする。沈むか?逃げるのか?いや、勘の良い指揮官だ。相打ちが最善だと気がつくかもしれないな。


同様にヴァロンもこの盤面の行く末に意識を奪われる。ベルガンに至っては目を輝かせ、強靭な火力で一般兵に対抗する防雷に見入っている。


サーチだけは、やや冷ややかに思考していた。


ーーどうしてこうも、争いごとが好きなのか……。あんな鋼の船は私とベルガンで連携すればすぐに沈むのに……


だが、その日常は、一瞬で壊れることになる。


タラメアの放ったミサイルは鋼の船の頭上を越え、神の居城デスランドの上空を目指したのだ。サーチはすぐに感じ取る。何か危険なものが降ってくる。


サーチはいち早く大広間を飛び出すと、シールドを展開しながら城を飛び出した。眼前には2本のミサイルが白い線を引いて飛来していた。高度が高い。


一気に加速上昇し上空にシールドの傘を開こうとした瞬間、側面に大きな衝撃が走る。


ーー撃たれた?


これを見たベルガンも我に返り広間を飛び出す。ヴァロンも神も止める間もなかった。


撃たれたサーチだが、エーテル濃度の濃いデスランド上空では無意識の方位であろうと、サーチのシールドは貫通しない。

だが、強い刺激臭がサーチを包み込む。さらに鋼の船から追撃の発砲音が響く。避ければ上空のミサイルが炸裂してしまう。サーチはシールドを全開にして迎え撃つ。


ーーこざかしい!人間!


防御に集中したサーチのシールドは固い。衝撃を受けることすらなく追撃の弾丸はシールドに弾かれる。


だが、その火花がまるで導火線のようにシールドをすり抜け、内部に侵入してきた。


ーーこれは可燃性のガス!


気づいた瞬間に爆発が起こる。固く閉じたシールドの内部で発生したガスの爆発は超高圧の高熱の刃となってサーチの肉体に制御不能なダメージを与えた。


サーチは全身を焼かれ、五感が失われていくのをスローモーションのように感じていた。聞き覚えのある声が聞こえるような気がした。


その声はベルガンのものだった。


ベルガンは重力に負けて落下するサーチを限界まで優しく受け止めると、すぐにデスランドへ引き返す。そして城の中に戻るとソファに寝かせ、僅かに残るサーチの息を確認する。


城の上空ではミサイルが炸裂し、灼熱の花が守備兵を溶かしていた。


ーー俺はなぜ。なぜいつもサーチを守れない!!!!!


ベルガンの心も烈火のごとく怒りに燃えた。


弓で引かれた一筋の弓矢のごとく、すさまじい速度で城を出ると鋼の船へ一直線に怒りの矛先を向ける。


神の咎めも問わない。自分の未熟さを全てこの船に叩きこみ、罰でも何でも受け止める。強い意志を持った特攻だった。


その特攻に防雷の対空機関砲は即座に反応する。


ヴァロンも我に返る。


「駄目だベルガン!読まれている!」


思わず神も声が出る。


「上昇しろ!!直撃するぞ!!」


神やヴァロンの声は聞こえていた。だが軌道は変わらない。ベルガンは直撃してもかまわない。サーチの痛みを少しでも分かりたい。そんな気持ちに支配され軌道を変えることなく速度を上げる。


視線の先には転進し後退する空母の姿。


ーー逃がすか!


視線を外した瞬間に防雷の対空機関砲が一斉に火を吹いた。重い衝撃が一気にベルガンの体力と速度を削る。まだブレスの範囲には遠い。むしろガードを崩す隙すら無い重い連撃に、ベルガンが回避を試みる。


無数の弾丸はベルガンの再加速を許さない。一呼吸、一拍でも隙があればこの程度の弾幕なら回避ができる。隙を待とうにもすさまじい速度でベルガンの体力は削られていく。


ーーうおおおお!!!


声を上げることすら許されぬ状況が、皮肉にもベルガンの理性を引き戻す。


ヴァロンの指示がエーテルを伝って聞こえてくる。


「10秒後に残存戦力を鋼の船に総動員する。その隙に戻れ!!」


長い10秒がベルガンの体力を容赦なく削っていく。


ーー持たない。


ベルガンの体が弛緩しかけたとき、弾幕が一瞬途切れた。ベルガンに加速の機会が訪れた。大きく息を吸い消耗した羽根を無理やり展開し、180度回転すると、左右に揺れるように城へ戻った。結果的に回避行動になっていたが、傷んだ翼がもたらした偶然だった。


城に戻ると、最後の力を振り絞ってサーチの部屋に戻る。飛び出したときに開けっ放しになっていた扉の前でベルガンの意識は途切れてしまう。


ヴァロンはベルガンの帰還を確認すると、神に参戦の許可を乞おうと視線を移す。


その目に入ったものは、先ほどまでの神ではない。神自身も戸惑うほどの怒りを帯びていた。


ーー許可の是非もない。


確信したヴァロンは、デスランド内にいた兵に召集をかける。


「招集だ!神に牙をむいた天罰をくれてやる!」


デスランド内には1500の兵が残っていた。もっとも、都内全域ではまだ数十万の兵もいる。だがこの戦力を使うことはヴァロンのプライドが許さなかった。


城の背面から一斉に兵が下りていく。降りた兵は半数に分かれ、片方は鋼の船の上空を旋回し、弾を浪費させる。もう一方は地上に降りると瓦礫を抱え上昇し、鋼の船めがけて上空から投げつけた。コンクリート塊は、一瞬で粉々に砕かれ鋼の船の火力を物語る。


それでも投石攻撃は続く。ヴァロンはじっと待っている。大きな船だが弾は無限ではない。そしてじっくりと観察する。僅かな砂の破片が、船の細かい隙間に入り込み、ほんの僅かに動きが鈍くなる様子を。熱を帯び、連射速度が落ちてくる状況を冷静に、蜘蛛が獲物を弱らせるように、確実に追い詰めていく。


そして違和感に気付く。


ーー鋼の船の指揮官は優秀だ。

ーーこの持久戦を想定していないはずがない。

ーーなぜ主砲まで対空防衛に回している?


その先に、篠原の存在を感じ、思考が流れ込んだ。


「囮だ」


ヴァロンは索敵を開始する。サーチを失い範囲は狭い。だがポイントを絞ればそれなりの情報は一般兵の目で集められる。


候補地をいくつか潰し、荒川に沿って索敵していると一斉射撃態勢に入っているロングレンジレールガンを発見する。

デスランドは浮遊しているが移動はしていない。狙いはこれだ。


すぐに射線上に兵を飛ばす。直線で飛来するロングレンジレールガンの弾は、兵を肉の壁にすれば軌道がそれる。


兵の動きを察するようにロングレンジレールガンが火を放つ。だが、炸裂する前に肉の壁に阻まれる。20ほどの兵を割き、レールガンを潰しにかかる。この状態でもヴァロンは手駒1500から作戦を立て続ける。


プライド。それもあった。だがヴァロンの中に不謹慎だが高揚する何かがあった。


不意に鋼の船の主砲がデスランドを向く。


ヴァロンは対空機関砲を確認すると、確信した。


ーー鋼の船は限界だ。


「総攻撃!」


僅かな守備兵を残し、上空を旋回し疲弊を誘っていた部隊と投石部隊が挟み込むように鋼の船に迫る。


対空機関砲の死角を狙った前後からの攻撃には主砲を使うしかない。主砲の先端がデスランドから離れる。


投石が命中したのか、僅かに主砲の旋回速度も遅くなっていた。


主砲が火を吹き、ガーゴイルの群れの先端が被弾するが、その衝撃を避けた部隊が距離を詰める。


その時、デスランドの上空に再び灼熱の花が咲く。


神奈川県側からの攻撃だ。埼玉に集結させていたレールガンの一部を、神奈川に移動していたようだった。


僅かに残った守備兵が灼熱の花に飲まれ、霧散する。


ついにヴァロンは1500以外の兵を動かす。神奈川沿いにいた兵が一気にレールガンを強襲する。デスランドの上空に灼熱の花が何発か炸裂するが、もはや守る兵もおらず、城壁や園庭に熱波が降り注ぎ城の大地が紅蓮に染まる。



その間も、鋼の船に距離を詰める攻撃部隊。


ついに鋼の船はガーゴイルに取りつかれ、煙を上げていく。一つ、また一つと対空機関砲は無力化されていく。


主砲は再びデスランドを狙おうとするが、取りついた部隊がこれを阻止、鋼の船はもはや糸に絡めて取られた蝶だった。


--勝負あり。


ヴァロンは鋼の船の指揮官に敬意を示す。


だが、この一瞬の油断を見逃さない人物がいた。

2026年3月17日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑩》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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篠原から送られた座標・射角はほぼ垂直に近い、前方の防雷とそれを取り巻くUFBのはるか頭上を飛び越えて、デスランドの頭上を狙う軌道だった。


ーーなるほど。艦砲射撃では不可能な軌道でも、クシャルボコスのミサイルなら…というわけか。


リークは軌道の軍事的価値をすぐに理解すると、指示を出した。


「両舷ミサイル、弾頭換装!焼夷弾に切り替えろ!自動信管をタイマー式に変更。カウント30だ!」


ーー灼熱の雨。R連隊が使った戦術を怪物の居城に使うとは。恐ろしいやつだ。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


その頃、防雷では足立・仲原・篠原が奮戦していた。


足立が迫りくるUFBの群れを凝視しつつ、指示を出す。


「主砲発射!目標UFB要塞!」


この命令を仲原が即座に分解する。


「主砲1番、2番、逐次射撃、目標UFB要塞。撃て!」


UFBの層の一番厚い部分に46cmの鉛球がめり込んでいく。衝撃で何体ものUFBが霧散するが、貫通には至らない。


しかし、2発、3発と同じ箇所を狙われると、デスランドを守るためにUFB側の陣形が崩れる。


「いいぞ!対空機関砲、弾幕を張れ!」


圧倒的な数量差。しかし、主砲による牽制と、機関砲による掃射を巧みに使い、UFBを一切防雷に寄せ付けない。


防雷の艦長も唸る。


「なんという豪胆で、繊細な戦い方だ。あいつらは陸自だろ。こんなに的確に操船するなんて・・・」


篠原が頷きながらそれに答える。


「対UFB戦は経験が重要なのですよ。足立さんはぁ何度も戦ってるからぁ無意識に相手の行動パターンを覚えつつあるのでしょうね!」


「クシャルボコス、換装を始めた模様!」


報告が割って入る。


「ほぉらぁ。あの大佐ぁシッカリ私の意図を読み取ったみたいですねぇ。戦える軍人さんはぁただの軍人さんですがぁ、行間をよめる軍人さんはぁ素晴らしい軍人さんですぅ!」


「隊長~っ。あと1分で空母が焼夷弾かクラスターを撃ちますよぉ、準備お願いしま~す」


仲原がこれに反応する。


「交戦中です!緊張感を持ってください!」


足立がいさめる。


「はいはい。主砲撃ち方やめ!クシャルボコスの面制圧兵器に合わせて換装し、一舷射撃準備!」


仲原が腑に落ちない表情のまま各所に指示を出す。


「主砲1番、3番。撃ち方やめ!2番、4番。30秒後に撃ち方やめ!一舷射撃準備!1番、3番はUFB特殊弾に換装」


10秒、20秒、対空機関砲が近づこうとするUFBを容赦なく霧散させていく。


足立の表情が曇る。


「早くしてくれよ!主砲抜きじゃ、さすがにキツイぞこれ!」


30秒…すべて主砲が沈黙する。


「クシャルボコス、両舷からミサイル発射。射角・座標共にこちらの依頼通りです!」


はるか頭上を越える二筋の雲。その雲に向けてデスランドから白い何かが飛び出した。


篠原が嬉しそうに叫ぶ。


「来ました!サーチちゃん!今ですよ!」


仲原が即座に指示を出す。


「撃て!!!」


この言葉をきっかけに、防雷の主砲が、デスランドから飛び出したサーチへ一斉に火を吹く。


大きな爆発音。見るまでもなく命中。しかし大きなダメージは見受けられない。


仲原は事前の作戦通り指示を続ける。


「2番、4番。撃て!」


再度、巨大な弾丸がサーチのシールドに激突する。


すると、炸裂した炎はまるで魔法のようにサーチのシールドを貫通し、巨大な爆発をシールド内で発生させる。


サーチのシールドが消え、明らかに意思を失い落下する彼女を、城から飛び出したベルガンが慌てて回収、デスランドへ連れ戻した。


その刹那、デスランドの上空で二つの美しい花が開く。それは化学反応で数千度に達する灼熱の炎の花。


花はゆっくりと高度を下げると、デスランドを防衛していたUFBを溶かしていく。


「クシャルボコス!2射目発射!」


唖然としていた防雷のクルーに再び緊張感が戻る。


通信機からリークの声が響く。


「キョーダイ。アニの テダスケは マダイルノカ?」


篠原がAIボイスに切り替えて応じる。


「兄上。転進されたし。護衛艦をつれて電子妨害外へ。貴艦が沈んでは国際問題だ」


暫くの沈黙、そしてリークの笑い声が聞こえる。


その間に二射目のミサイルが炸裂、一度焼かれたデスランドの上空を再度高温の花が咲く。


通信を切った篠原が予言する。


「メチャクチャに怒り狂った特攻ちゃんがきますよ。真っすぐ来ますぅ!防雷の対空機関砲で迎撃おねがしまぁす!」


足立の指揮が行動に変える。


「右舷対空機関砲は特殊個体に注意!直線で来るのなら当てられる!勢いを殺したら二度と加速させるな!」


予想通り、デスランドからひときわ大きい個体が防雷めがけて一直線に接近してくる。


対空機関砲が射程に入ると、一斉に迎撃を開始する。ベルガンは勢いを削がれ、左右に逃げようとする。だが、防雷の対空機関砲は一撃が重く、すぐに動きが鈍る。


――仕留められる!


足立が確信した瞬間、かろうじて灼熱花から逃れていた残りのUFBが一斉に防雷に襲い掛かる。


ベルガンのみを捕らえていた対空機関砲も、これに対応を迫られた。そのわずか十数秒の隙だが、射線から離れることができたベルガンは左右に揺れながらデスランドへと消えていった。



篠原が上機嫌で告げる。


「できれば仕留めたいところでしたねぇ。でもこれでぇ敵の既存戦力は全滅ですぅ。ここからが本番ですよぉ。賢い子。軍師みたいな子が出てくるはずですぅ!敵の動きが一気に複雑になりますよぉ!」


「足立さん、埼玉から半分移動したあれぇ。使えますかぁ?」


足立は誇らしげに答える。


「ああ。2ヵ所とも準備万端だ! みんな、ここが踏ん張りどころだぞ!!」


言葉通り、時を開けずにデスランドから新たなUFBが現れる。


だが、それはただのUFBではなかった。

2026年3月10日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑨》

 この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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怒りに我を忘れたリークは短距離ミサイルの弾頭を核へと変え、池袋を射程に収めるために東京湾へ向かっていた。


東京湾の手前まで来ると、電子妨害はレーダーを殺し、目視警戒を余儀なくされるほどだったが、すでに上陸作戦で経験済みのリークは動じることなく東京湾へと船を進める。


「護衛艦はここで待て!あの篠原のことだ。核は読んでいるだろう。核を撃つ前に沈める‥‥合理的だが、指揮官として作戦が浅い」


護衛艦はギリギリ最低限の電子機器が機能する地点で停泊し、東京湾へ近づく船舶があれば、無条件に破壊するミッションに入る。


単身東京湾へ進む空母クシャルボコス。操舵手が不安そうにリークの様子をうかがう。


「クシャルボコスとはいえ、単身で敵陣へ入って大丈夫でしょうか…」


「この電子妨害下での脅威は、怪物だけだ。総員機銃を取れ。有効なのは確認済みだ。対空砲は手動モードで散弾弾頭を使え」


この言葉と同時に電子戦オペレーターが、紙に書かれた池袋への射角と起爆タイマーの時間を持ってくる。


リークはその情報を眺めつつ、低い声でうなる。


「精密機器が使えないなら、使えるところで結果を出し、持ち込めばいい。簡単なことだ」


時間と共に表面的な怒りは消えつつあったが、リークの瞳の奥にはなお怒りに滾る炎が宿っていた。


20分後、湾内に入る。


すると靄の中に艦影のようなものが見え始めた。靄の中の艦影からクシャルボコスへ1機のグライダーが射出される。


リークは双眼鏡を手に取ると、グライダーを確認する。グライダーには日本とタラメアの国旗が両翼に書かれ、その後ろに光ケーブルらしいものが光って見える。


ーー罠か?いや、この状況で罠を張る意味は薄い。日本の先制攻撃と見るべきか?


リークが思案していると、艦影からモールス信号が送られる「ツ・ウ・シ・ン・キ・ヲ・ウ・ケ・ト・レ」


ゆっくりと近づいてくるグライダー。双眼鏡を覗くリークはその奥に僅かに見える黒い点を発見する。


ーー怪物だ。即座に理解したリークは応戦命令を優先する。


「怪物が来るぞ!前方の艦影が囮になるはずだ!抜けてきたヤツらを叩き落とせ!」


驚くほどの速さで、前方の艦影に近づく怪物。しかし、リークはさらに驚愕することになる。艦影が怪物に対して迎撃を始めるとその風圧で靄がブワッと晴れ、その姿が鮮明になる。


その姿はまるで旧世界大戦時を思わせる、巨大な鉄の塊。46cm砲と思われる巨大な砲塔を前後に備え、両舷には無数の対空機関砲。普段なら鉄くずともいえる旧式の戦艦であった。だがリークは即座に理解する。このエリアに限定すれば、この巨艦は最適解であると。


4km離れたクシャルボコスにも戦闘音が伝わってくる。響く重低音と、機械的な機関砲の音が空母内まで届いた。


クシャルボコスの高官たちはリークの顔を見る。高官たちの顔色だけで、答えは十分だった。


戦況に気を取られていると、グライダーはもう、空母の数百メートル目前まで迫っていた。リークは腹をくくりグライダーを回収する。すると、グライダーは想像以上にシンプルで、機体のほとんどは格納スペースだった。格納スペースには黒い通信機と思われる丸い機器が入っていた。そして案の定、光ケーブルが内部から伸び、巨艦とつながっているようだった。


「爆弾では?」


一人のクルーが呟くと、甲板がパニックになりかける。だがリークの一言ですぐに収束する。


「あの巨艦の主砲であれば、姑息な手を使う必要ない。つまりこれは間違いなく通信機だ」


スイッチを捜すリークを見ていたかのように、球体からAI篠原の声がする。


「聞こえますか。篠原です」


無線もろくに使えず、レーダーも効かないような状況で、肉声のようにクリアな通信に、リークは思わず応じてしまう。


「なぜ精密機器が使える」


AI篠原は予想通りの答えに即答する。


「私はこの現象をずっと観察して気づいたのです。この電子妨害は我々もまた利用できると。そんなことより、あなたに知らせがある」


球体を囲む船員とリークは顔を見合わせて、電子妨害を利用できることよりも大きな知らせに興味が移る。


リークはハンドサインで工兵に球体を船室に運ばせると、話を続けた。


「一体何の知らせだ?いまさら退避勧告でもないだろ。俺はお前にもムカついてるんだ。こんな球は海に投げ捨ててもいいんだぜ」


篠原は全く動じない。


「その割にはご丁寧に船室に引き込んでもらったようで。丁重な扱いに感謝します」


別にカメラやセンサーが付いているわけではなかった。ただ声の反射が変わったことで篠原は状況をすぐに分析してしまったのだ。


そして本題に入る。


「私怨は後で聞きましょう。私も兄弟を自称する大佐が研究室に無断で侵入した。

 これについては、意図を聞きたいと思っていたところです」


リークの顔が濁る。単独侵入はごく限られた士官しか知らない極秘行動である。それを暴かれた動揺が、わずかに顔に出た。


篠原はたたみかけるように続ける。


「あなたの目的は既に破綻しました。あなたのミッションは秘匿兵器の残骸の処理。ですが、残念ながら我々が既に解析し、自衛隊のDBに登録してしまいました。

 AIを用いた相互リンクシステム。二台の車両を役割特化させることで強みを倍増させる。その新世代兵器としての発想は素晴らしい。

しかし、部品の組み合わせは良くない。政治的な関与でしょう。最善を選べないのはつらいですね。兄弟」


突然の秘匿情報の解析結果に、士官たちのざわめきはさらに強まっていく。


「本当か?ブラフじゃないのか?」

「いや、もし本当だとしたら、もう攻撃する意味は…」

「残骸を回収したのか?衛星写真ではそんな様子はないが‥‥」


リークだけは確信していた。手段はわからない。だが確実に解析されている。


「転進。本国へ帰投する」



先ほどまでとはまるで別種の、力の抜けた命令だった。核使用という重圧が去ったのだと、タラメア兵たちにもすぐに伝わる。艦内の空気はわずかに日常を取り戻した。


だが、篠原の通信は終わっていない。


「大佐。手ぶらで転進ですか。ずいぶん丸くなられた。東京湾への侵攻は明らかに領海侵犯です。軍事裁判が待っていますが」


リークは無言で拳を握る。


「大佐、あなたは我が国の兄弟として我々を支援するために、東京湾に侵攻したのです。我々の任務はお台場に浮くUFBの居城デスランドの破壊」


「この戦艦『防雷』は電子機器を使っていません。射角、射撃統制は私の観察と暗算。そして指揮は足立隊長の経験です。情報をリンクします。そちらも手動で照準を合わせてください。ともに撃ちましょう兄弟」


すぐさま、球体の側面に文字が浮かぶ。


それは、現在の空母の位置から、正確にデスランドを攻撃するための座標情報であった。


「防雷の火器でUFBの大半を引き付けます。そのすきにその射角で直上から通常ミサイルを叩きこんでください。電子制御は全てオフ。大丈夫です。当たります」


この会話の最中もずっとUFBの波状攻撃を受けている防雷。しかし、武骨な鉄の塊は皮肉にもUFBに対してこれ以上のない強さを誇っていた。


ーー勝てる。そしてあの高官の死に花を添えられる。


リークの決断は誰よりも早い。

2026年3月3日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑧》

 この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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密集した車列から1組のYA-24とDD-24が、急加速で離脱したのである。緩やかに後退していた車列から飛び出した2台、まるで群れから離れた子ヤギのように怪物の的になる。


リークが無線で怒鳴る

「どこの馬鹿だ!撤退だといっただろう!前進してどうする!戻れ死にたいのか!」


返事を返したのは、あの髭の高官だった。

「大佐、このままではどのみち全滅です。全滅すれば、ここにもまたタラメアの国家機密が残ってしまう」

「こちらで敵を引き付けているうちに残存部隊を連れて空母へ。我々は180秒後に自爆します」


リークは喉元まででた否定の言葉を飲み込むと一言、全兵士が凍り付くような恐ろしい声で無線を取った。

「エンジン全開。索敵ドローンは離散命令を出して放棄。全力で撤退する。急げ!」


怪物を迎撃しながら緩やかに後退していた車列だったが、YA-24は射撃を止めDD-24の牽引コネクタとの接続を優先する。


ガチャン、と重々しい音を立てて牽引コネクタが噛み合う。

戦闘で埃をかぶった鋼鉄のパーツ同士が、土煙を上げて強制的に連結された。これは本来、自陣内でDD-24を高速輸送するための機構であり、実戦で使われることはない。DD-24側の操縦系を完全に奪ってしまうからだ。


だが、DD-24の馬力不足を補うという点では、これ以上にない方式である。

結合が終わった車両から順に次々と急加速で戦闘地域を離れるタラメア軍。悪路もYA-24の馬力があれば速度が落ちることはない。


リークが指示を出す。


「DD-24は追撃してくる怪物を落とせ!同胞の犠牲によって、包囲網は崩れた。後方に専念しろ!」


その無線を切った直後、ひときわ明るい閃光が車列を後方から包み込む。

そして波のような衝撃波の直後、轟雷のような炸裂音が響く。高官のYA-24とDD-24が自爆したのだ。


YA-24の自爆は弾薬室の誘爆を誘う設計だ。DD-24も端末AIの下にある自爆専用の特殊燃料によって超高温で燃え上がる。

誘爆による衝撃で高温の特殊燃料が飛散し火球のような状態になり、怪物の大半は瞬時に灰と化し霧散した。


その光景は、まるでリークに「行け」と告げているのかの様であった。


その火球を逃れ追ってきた数体も、YA-24に牽引されたDD-24の機銃で迎撃し、リークは九死に一生を得た。


舞浜に接舷していた揚陸艦に戻れたのは、6台。失ったのは高官の率いた部隊2台と、撤退中に破損し動けなくなった車両を放棄して自爆させた2台。

あの状況からの撤退行動での帰還率としては100点に近い。


だが、リークの表情は極めて厳しいものだった。兵士はみな一言も発することはない。視線も合わせない。人の皮を被った猛獣のような黒い怒りに包まれたリークはクシャルボコスへ帰還すると、さらに衝撃を受けることになる。


今回の戦闘データを解析していた中枢AIが、自衛隊から渡された「偽のデータ」を判別していたのだ。この偽のデータがAIの判断に僅かな遅延を生んでいた。

違和感の正体に気が付いたリークの脳裏に、AI篠原の顔が浮かぶ。


ーー島国の小国が私を欺いた?篠原に喰わされたのか?いや、今思えば不自然な点があった。私の質問に答えた大仲の表情は明らかに動揺していた。

この私が見逃した?いや、秘匿施設の強襲を読まれていた。想定されていなければこれほど巧妙な偽のデータは作れない。


「う、うああああ!」


限界を迎えた感情のリミッターが弾け飛び、リークは硬い船体を拳で何度も叩きつけた。だが、小国に出し抜かれたという屈辱も、失った同胞の痛みも、そんなことで紛れるはずがない。理性で抑え込んでいたはずのド黒い殺意が、獣のような唸り声となって彼の喉から溢れ出した。


「これよりクシャルボコスは東京湾に入り、短距離ミサイルで池袋を更地に戻す。核弾頭に換装しろ!」


太平洋に停泊していたクシャルボコスは護衛のフリゲート艦「エルズワン」「アルイントス」を引き連れて、東京湾へ錨を上げた。


これは、髭の高官がリスクが高すぎると否定した案に、核を上乗せした最悪の決断だ。しかし、憎悪に燃えたリークは高官の死を作戦失敗の一コマにするのではなく作戦成功の功労者にする。そのことしか頭にはなかった。


移動を始めて僅か3分で日本側からのホットラインが入る。


「告ぐ。クシャルボコスの領海侵犯は認めない。転身されたし」


この声にリークは聞き覚えがあった。そう、防衛大臣の大仲の声だ。リークは自分を欺いた大仲に低い声で返す。


「大仲。楽には死ねんぞ」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


1時間前、R連隊作戦司令部


大仲、津田、といった大物政治家と

足立、仲原、とその上官、自衛隊の制服組。

そして、モニター越しにUFB研究室長の篠原が参加した話し合いが行われていた。


タラメアの敗走を受け、篠原が核が来ると予想したためだ。


「本当に勧告なしに核を撃つのか?」


津田が半信半疑で篠原に問う。


「撃ちます。撃たざるを得ません。タラメアは既に同盟国である我が国の極秘施設に侵入。情報の強奪。強制的な上陸作戦と国際的な一線を何度も越えています

 国際的批判という対価を払って、負けました、では済みません。威信にかけて絶対に作戦を成功させる必要があります」


大仲が話を割るように聞き返す。


「だが、撃ったところでクラスターの時のように作動しないのではないか?」


これに対し篠原はやや溜め息交じりに返す。


「クシャルボコスの間接射撃の射程は30kmです。時限式信管にしておけば軌道は弾道軌道。爆発は時限タイマー式。場合によっては成功します。

 タイマーの方式次第ではありますが」


それを聞いた足立は驚いた。席から立ちあがるとAI篠原を指さしてこう聞いた。


「お前、それはつまり、クシャルボコスが東京湾に入るってことだぞ!」


足立のこの反応に喜ぶ篠原は饒舌になる。


「その通りですぅ。電子妨害を回避しつつ、池袋の付近に核弾頭を落とそうとすると、結構射程がギリギリなんですぅ。上空の風向きも考慮するとぉ完全に湾内にはいる感じになりますねー」


足立はそれを聞いてさらに興奮が収まらない。


「大仲さん、核を積んだ空母を東京湾にいれることは容認できません!内政干渉の域を超えて、もう侵略行為ですよ!」


その時、自衛隊の緊急連絡が入る。


「空母クシャルボコス、護衛艦エルズワン・アルイントスを連れ東京湾へ接近中!」


大仲は執務室に戻るとホットラインを手に取った。


「告ぐ。クシャルボコスの領海侵犯は認めない。転身されたし」


だが、リークの声は以前の「キョウダーイ」とふざけていたトーンとはまるで違った。低く、声だけでも強い怒りと憎悪を感じる恐ろしい声だった。


「大仲。楽には死ねんぞ」


その声に、篠原の予言の信ぴょう性の高さを感じ取った大仲は、R連隊作戦司令部に戻ると状況を説明した。


そして宣言する。


「海上自衛隊の予備兵器だった263番で対応する。用意はできているか仲原三佐」


仲原はここぞとばかりに声を張って答えた。


「263番は物理兵装に換装を終え、現在は客船に偽装し茨城沖に停泊中です。また、正式配属に伴い艦名を改めました。防雷(ボウライ)とお呼びください」


この決断は、すでに篠原に促されていた。


ーー討たれる前に撃つ。


大仲は宣言する。


「防雷抜錨。目標空母クシャルボコス。狂人の船から主権と本土を守れ!……電子妨害のエリア内で撃沈せよ!」

2026年2月24日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑦》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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池袋に取り残された大国タラメアの最新鋭兵器、YA-24とDD-24の残骸。この残骸は国家機密の塊であることからタラメアのリーク大佐は残骸の回収、もしくは破壊を計画した。


太平洋上の安全海域にいる空母から、クラスター弾頭を取り付けたミサイルで残骸の破壊を試みたが、神の作り出したエーテルの干渉により不発に終わる。


リーク大佐は、次の手段として自衛隊を牽制しつつ、千葉県舞浜付近の海岸線から上陸作戦を強行する。


千葉から都内に入ると小規模なUFBとの交戦が始まった。だが、エーテル濃度はまだ低いエリアであり、光ケーブルによって通信を確保された兵器はタラメア自慢のAIが火器管制と索敵を最適化し、UFBを圧倒して撃破、車列は海岸から敷設された中継リールを引きながら池袋へ向けて前進していた。


都内に入ってから30分後、異変が発生し始める。


リークのもとへ、同種の報告が相次いだ。


「大佐、GPSの精度が低下しています。各車両の自己座標にズレが出ています」

「レーダー範囲が大幅に減少。これでは目視索敵とたいして変わりません」

「地形計測機器に異常。高低差の誤認が発生!」


どれも電子機器の異常を知らせるものだ。


それでも第二、第三と押し寄せるUFBの群れを次々と倒し、池袋への折り返し地点まで到達した。


電子機器の異変はついに兵器の根幹部分にも及ぶ。


光ケーブルで接続しているはずの索敵ドローンが、操縦不能になり次々と落下し始める。もともとマルチコプター型のドローンは小回りが利く代わりに各プロぺラの制御が難しく、内蔵している姿勢制御装置が操縦を大きくアシストしていた。


この姿勢制御装置が「天地を間違える」「方角を見失う」など、あり得ないほど原始的なエラーを発生させて操縦を困難にしたのだ。


このころから揚陸艦との通信も頻繁に途絶するようになる。車列と揚陸艦も複数の極細光ケーブルで接続されている。電波干渉のような現象は発生しないはずだった。


リーク大佐に同伴していた髭の高官は、大佐に呼びかけた。


「30%のドローンが落ちました。これ以上、目を失うのは危険です。AIも通信環境の悪化でパフォーマンスが出ません。撤退の決断を」


しかしリーク大佐は30秒応答しなかった。やがて足で指揮車両の椅子を蹴り飛ばし、決断する。


「転進。一旦クシャルボコスへ帰投する」


傲慢なリーク大佐であったが、この髭の高官とは長い付き合いだった。いくつもの窮地を共に生き延びた仲だった。リークは判断に迷ったとき、この高官の意見を聞き入れることが最善だと知っていたのだ。


ーー電子妨害の強さが自衛隊の報告とはまるで違う。やつらに喰わされたか?いや、大荻山もドローン戦術で戦ったログがある。

ーー負傷者を出す前に引き、フリゲート艦を連れて東京湾から艦砲射撃に切り替えるか。


最新鋭の空母「クシャルボコス」は空母でありながら左右に短距離ミサイルの発射口を持っている。核弾頭をも搭載可能なミサイルを発射でき、衛星誘導で射程100km。間接射撃で射程30kmを誇る。一世代前の護衛艦並みの性能である。


池袋は東京でも内陸に位置するため一度は捨てた案がリーク大佐の頭をよぎった。東京湾に入り、艦砲射撃で池袋エリアを潰す。だが、これは高官の猛反発によって廃案になったものだった。


なぜなら、護衛のフリゲート艦2隻の艦砲は有効射程20km前後で池袋には届かない。そのため旗艦である空母が東京湾に入ることになるからだ。


熱くなった頭を無理やり理性で、抑え込み転進を決断したリーク大佐の車列に再びガーゴイルの群れが襲い掛かる。


先頭の車両から無線が鳴る。


「大佐。前方、および左側面から怪物多数。電波妨害により総数不明。目視できる範囲で最低でも約50!」


リーク大佐よりも先に高官が無線を返す。


「各DD-24のAIリンク状況を報告しろ!」


「途絶」「途絶」「途絶」「途絶」「途絶」


どの車両も本国のAI本体とのリンクは切れている。これは端末AIのみでの戦闘を意味していた。


高官はすぐに注意を促す。


「いいか!オフラインでのAIは段違いに性能が落ちる。だが決して手動に切り替えるな。空中から高速滑空してくる怪物はAIに任せ、人間はサブマシンガンで撃ち漏らしを潰せ!撤退優先!」


リークも呼応する


「それでいい!撤退だ。あの程度のブレスならこの24シリーズなら耐えきれる!端末AIでも人間様10人分の処理性能だ。任せていい!」


だが、戦況は一瞬で傾いた。


順調に接近する怪物を撃退していた端末AIだが、徐々にその距離が縮む。リークが感じていた違和感。AIの再計算がほんの僅かに対応を遅延させていたのだ。


そして一匹の名もない怪物が瓦礫の裏に傷ついて落ち、揚力を失いながら低空で滑り、瓦礫の陰から車列へ飛び出して接近した。


すぐにサブマシンがこれを迎撃する。かすめる銃弾が怪物の体に傷をつけ、やがて体ごとスピンし地面に接触、停止した。


だが怪物は絶命の前に、ブレスを車列に放つ。


リーク大佐の予想通り、YA-24,DD-24は致命的なダメージは受けていない。だが、リンクしている極細光ケーブルはこの熱に耐えることはできなかった。YA-24とDD-24は相互リンクすることで真価を発揮する。YA-24単体には射撃統制用のAIはなくDD-24の端末AIがDD-24の対空機銃とセットで運用する設計だからだ。


DD-24とのリンクが切れたYA-24の主砲と副砲は一斉に追跡機能が停止。かろうじて射線上に敵が入ると自動的にロックオンし撃墜する程度に鈍化した。


DD-24の対空機銃だけでは威力に欠け、20もの怪物が500m圏内まで接近する。


リークが即座に指示を飛ばす「各車、無線リンクに切り替えろ。これだけ密集していれば電波妨害もくそもない!」


光ケーブルが切れた状態で放った無線。届くかどうかも分からなかったが、結果はすぐに出る。


放漫な射撃をしていたYA-24の主砲と副砲が息を吹き返し、一番近い敵から撃退し始めた。


だがリークは気づいていた。


ーー近すぎる。


近代戦において500mなど無いに等しい距離だ。もはやAIを以てしても完全に撃退するには物理的な限界がある。計算が追いついても、砲塔が追いつかない。


自衛隊の情報によれば、怪物は1tの人型パワードスーツを軽く持ち上げて上空から放り投げたという。大荻山の戦闘ログでもDD-24の後部ハッチを力任せに開けた形跡がある。


そんな相手に歩兵は出せない。しかし、密集隊形である以上、機銃も副砲も同士撃ちの危険があるため、AIは使わない。


ーー全滅する・・・。


リークに「全滅」が近い未来として浮かぶ。


だが、その未来を覆す事態が発生した。