この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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「……ここは?」
大仲が目を覚ますと、そこは不思議な光に包まれた、暖かく、どこか満たされた空間だった。
遠くから初めて聞くメロディなのに、なぜか懐かしいクラシックが聞こえてくる。
「竜は?R連隊の状態は?国民の退避状態は?」
我に返ると、多くの想いが心の中から湧き上がる。
しかし、それは声にする必要がない。とても不思議な現象で思考がそのまま空間に放たれるのだ。
この時初めて大仲は、自分の肉体の変化に気が付いた。
「なんだこれは、透けている?怪我も治っているし、体も軽い、まるで二十代の頃のような――」
その時、老人と思われる声がどこからともなく、聞こえてくる。
「…お前は死んだのだ」
「私が?ここはどこですか?」
大仲は内心察していた。TNTを体に巻いて竜へ飛び込んだ。それで生きているはずもない。
「ふむ。ここは人間界と神の世界の境界線。お前に分かりやすく例えると三途の川というらしいな」
「それで、竜はどうなりましたか?国民の避難は?」
光の空間に渦のような鏡が現れ、片翼を負傷し、重い足取りで埼玉へ戻る赤い竜の姿。そして津田が陣頭に立ち避難民の指示を
警察・自衛隊・ボランティアなど彼が使える人脈を活用して必死に行う姿が映し出される。
「被害は最小限に。篠原はやはり天才だった。竜の首は取り損ねたか、だが、私の命は届いたようだ…うん」
大仲はやっと腰を下ろし、声の主に問う。
「私は死んだのだろう。あなたはエンマ大王か何かだろうか。地獄行は覚悟の上だ。手早く願いたい」
すると、声の主は軽く笑うと語り掛ける。
「ほっほっほ。天国や地獄という概念は人間が作り上げたもの、この先にあるのは天界のみだ。そこでの過ごしかた次第でどちらにもなり得る世界だよ」
「それよりも、ひとつ尋ねたい」
「この未曽有の事件。この事件を起こしたのは、人間の種族神だ。そして私は彼の上位の存在である大種族神。すべての種族神を束ねるものだ」
大仲の理解を待たず、大種族神は続ける。
「お前から見た、この事件を"神が起こしたもの"とした場合、お前はこれをどう見る?審判か?天罰か?それとも別の何かか?」
15秒ほどの沈黙。
この間、大仲はどこか懐かしさを感じていた。自衛隊から転身し若手議員の頃、同じような場面があった。
面識もないが、権威だけは感じ取れる上層部からの突発的な質問。
意図も、正解も、相手の思考もわからない。だが、間違えば大きな代償を負う。
大仲は、こういう場面での立ち振る舞いは決めていた。
ーー正確に、そして冷静に、要点だけではなく自分の考えを素直に答える。
その経験から、大仲の答えは意外と早く出た。
「これは虐殺です。私は政治に生きた人間です。人間基準になりますが、全体としてこの事象は2つに分けて考えられます」
「1、これは竜が出現する前です。都外は安全という暗黙のルールがあり、許される行動ではありませんが、神による事象ということを勘案しますと、腐敗した人間政治に対する問い、もしくは試練とも取れます」
「2、竜が出たあとです。私から見た竜の行動は無差別に人類を殺すことを目的とした殺戮行為です。問いや試練といった領域は逸脱しており、一言で言えば虐殺。これが私の結論です」
ここまで淡々と話していた大仲だが、最後に少し語気を強める。
「政治に生きた人間として、私はこの一点で判断しました。権力の執行に、是正の意図があるか。竜の行動には殺戮以外の意図がない」
声の主は納得したような声で続けた。
「そうか。私は大種族神として本件で死んだ全ての人物に同じ質問をしてきた。竜が出る前は人間側の社会に対する不満もあった。だが、竜に殺された人々は多くが虐殺・理不尽と嘆く。分かった。もういいだろう。仕方がない介入を行うか」
「人間よ、お前はこの件で、多くの苦しい判断を迫られたのだろう。よかろう、ついて来い」
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