この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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リークと篠原の共闘作戦によって、デスランド周辺のUFBを一掃した戦艦「防雷」だったが、篠原はデスランドから次の部隊が現れると予測する。
その予測は的中した。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
2時間前 デスランド大広間。
ベルガン、サーチ、ヴァロンが神と相談をしている。もちろん議題は「防雷」の対応である。
神は上機嫌だった。
「みたかヴァロン。特殊個体を投入しなくても一般兵だけでタラメアの陸軍は敗走。余裕じゃないか」
ヴァロンはため息交じりに応じる。
「神よ。必然の結果です。あまり遊び過ぎないよう。やりすぎると大種族神様の目に触れてしまいます」
"大種族神"その名を出されて神は気分を損ねる。
「大丈夫だ。ルールの範囲で痛めつけているだけさ。それより次は……ほら、タラメアと日本の海戦が始まりそうだぞ!」
防雷の姿を神の力で映し出す。
すぐにベルガンがくらいつく。
「これは大きい。全身鋼の船。私が沈めてきましょう!今沈めてきましょう!」
勢いよく飛び出そうとするベルガンをサーチが引き留めようとした。だがその行動よりも先に神の声が響く。
「駄目だ!ベルガン!お前は今から始まる人間同士の醜い戦いを見学しろ!俺の楽しみを理解しろ!」
一段と深いため息。ヴァロンだ。
「それが人間の種族神のお言葉ですか…。ですがベルガンやめておけ。あの船はお前とは相性が悪い」
神がその言葉にさらに重ねる。
「エーテルの範囲内で、一般兵で対応する。それが今回のルールだ。何度も言わせるな!」
相性が悪いと言われ感情的になるものの、神から制止され立ち尽くすベルガンにサーチが目で膝をつけと合図する。
渋々膝をつき、神が投影した防雷を俯瞰で見るベルガン。タラメアの空母と防雷が戦えばベルガンが見てもタラメアは負ける。弾の撃てない機関銃など、原始的な斧にも劣る。
ベルガンはタラメアが負け、残った鋼の船を神の兵が倒す際には指揮官として名乗り出ようと考えていた。
停泊する防雷に気付かぬ空母は徐々に距離を詰め、ついには防雷の射程に入ってようやく減速した。
防雷から1機のグライダーが空母に向かって飛んでいく。
神から声が漏れる。
「さぁ始まるぞ!何としても機密を守りたいタラメアと、主権をかけて反撃する日本の海戦だ!!」
だが、見つめる先では一向に戦う気配はない。神は苛立ちながら考える。
ーーそうか。鋼の船を見て劣勢を察したのか。なかなかタラメアも優秀じゃないか。
神はデスランドの周辺を飛行していた一般兵に指示を出す。鋼の船を攻撃しろと。
ーー手助けしてやろう。さぁ戦え!!
不規則に飛行していたガーゴイル(一般兵)は、吸い寄せられるように一斉に防雷に向く。そして攻撃を始めた。すると防雷の対空機関砲も一斉に命がともり、迎撃を始めた。
ヴァロンが一言漏らす。
「対応が速すぎる」
これに神も同意する。
「ああ、あの船、我々が攻撃することを予測していたな。海上は割と手薄にしてやったはずだが勘のいい指揮官でもいるのか?」
だが神に焦りはない。千を越える一般兵の群れが黒い渦になり防雷へ波状攻撃を仕掛ける。この状態でタラメアに討たれれば貧弱な彼らの通常兵器でもラインを超える。神は板挟みになっている鋼の船に興味を惹かれる。
ーーさあどうする。沈むか?逃げるのか?いや、勘の良い指揮官だ。相打ちが最善だと気がつくかもしれないな。
同様にヴァロンもこの盤面の行く末に意識を奪われる。ベルガンに至っては目を輝かせ、強靭な火力で一般兵に対抗する防雷に見入っている。
サーチだけは、やや冷ややかに思考していた。
ーーどうしてこうも、争いごとが好きなのか……。あんな鋼の船は私とベルガンで連携すればすぐに沈むのに……
だが、その日常は、一瞬で壊れることになる。
タラメアの放ったミサイルは鋼の船の頭上を越え、神の居城デスランドの上空を目指したのだ。サーチはすぐに感じ取る。何か危険なものが降ってくる。
サーチはいち早く大広間を飛び出すと、シールドを展開しながら城を飛び出した。眼前には2本のミサイルが白い線を引いて飛来していた。高度が高い。
一気に加速上昇し上空にシールドの傘を開こうとした瞬間、側面に大きな衝撃が走る。
ーー撃たれた?
これを見たベルガンも我に返り広間を飛び出す。ヴァロンも神も止める間もなかった。
撃たれたサーチだが、エーテル濃度の濃いデスランド上空では無意識の方位であろうと、サーチのシールドは貫通しない。
だが、強い刺激臭がサーチを包み込む。さらに鋼の船から追撃の発砲音が響く。避ければ上空のミサイルが炸裂してしまう。サーチはシールドを全開にして迎え撃つ。
ーーこざかしい!人間!
防御に集中したサーチのシールドは固い。衝撃を受けることすらなく追撃の弾丸はシールドに弾かれる。
だが、その火花がまるで導火線のようにシールドをすり抜け、内部に侵入してきた。
ーーこれは可燃性のガス!
気づいた瞬間に爆発が起こる。固く閉じたシールドの内部で発生したガスの爆発は超高圧の高熱の刃となってサーチの肉体に制御不能なダメージを与えた。
サーチは全身を焼かれ、五感が失われていくのをスローモーションのように感じていた。聞き覚えのある声が聞こえるような気がした。
その声はベルガンのものだった。
ベルガンは重力に負けて落下するサーチを限界まで優しく受け止めると、すぐにデスランドへ引き返す。そして城の中に戻るとソファに寝かせ、僅かに残るサーチの息を確認する。
城の上空ではミサイルが炸裂し、灼熱の花が守備兵を溶かしていた。
ーー俺はなぜ。なぜいつもサーチを守れない!!!!!
ベルガンの心も烈火のごとく怒りに燃えた。
弓で引かれた一筋の弓矢のごとく、すさまじい速度で城を出ると鋼の船へ一直線に怒りの矛先を向ける。
神の咎めも問わない。自分の未熟さを全てこの船に叩きこみ、罰でも何でも受け止める。強い意志を持った特攻だった。
その特攻に防雷の対空機関砲は即座に反応する。
ヴァロンも我に返る。
「駄目だベルガン!読まれている!」
思わず神も声が出る。
「上昇しろ!!直撃するぞ!!」
神やヴァロンの声は聞こえていた。だが軌道は変わらない。ベルガンは直撃してもかまわない。サーチの痛みを少しでも分かりたい。そんな気持ちに支配され軌道を変えることなく速度を上げる。
視線の先には転進し後退する空母の姿。
ーー逃がすか!
視線を外した瞬間に防雷の対空機関砲が一斉に火を吹いた。重い衝撃が一気にベルガンの体力と速度を削る。まだブレスの範囲には遠い。むしろガードを崩す隙すら無い重い連撃に、ベルガンが回避を試みる。
無数の弾丸はベルガンの再加速を許さない。一呼吸、一拍でも隙があればこの程度の弾幕なら回避ができる。隙を待とうにもすさまじい速度でベルガンの体力は削られていく。
ーーうおおおお!!!
声を上げることすら許されぬ状況が、皮肉にもベルガンの理性を引き戻す。
ヴァロンの指示がエーテルを伝って聞こえてくる。
「10秒後に残存戦力を鋼の船に総動員する。その隙に戻れ!!」
長い10秒がベルガンの体力を容赦なく削っていく。
ーー持たない。
ベルガンの体が弛緩しかけたとき、弾幕が一瞬途切れた。ベルガンに加速の機会が訪れた。大きく息を吸い消耗した羽根を無理やり展開し、180度回転すると、左右に揺れるように城へ戻った。結果的に回避行動になっていたが、傷んだ翼がもたらした偶然だった。
城に戻ると、最後の力を振り絞ってサーチの部屋に戻る。飛び出したときに開けっ放しになっていた扉の前でベルガンの意識は途切れてしまう。
ヴァロンはベルガンの帰還を確認すると、神に参戦の許可を乞おうと視線を移す。
その目に入ったものは、先ほどまでの神ではない。神自身も戸惑うほどの怒りを帯びていた。
ーー許可の是非もない。
確信したヴァロンは、デスランド内にいた兵に召集をかける。
「招集だ!神に牙をむいた天罰をくれてやる!」
デスランド内には1500の兵が残っていた。もっとも、都内全域ではまだ数十万の兵もいる。だがこの戦力を使うことはヴァロンのプライドが許さなかった。
城の背面から一斉に兵が下りていく。降りた兵は半数に分かれ、片方は鋼の船の上空を旋回し、弾を浪費させる。もう一方は地上に降りると瓦礫を抱え上昇し、鋼の船めがけて上空から投げつけた。コンクリート塊は、一瞬で粉々に砕かれ鋼の船の火力を物語る。
それでも投石攻撃は続く。ヴァロンはじっと待っている。大きな船だが弾は無限ではない。そしてじっくりと観察する。僅かな砂の破片が、船の細かい隙間に入り込み、ほんの僅かに動きが鈍くなる様子を。熱を帯び、連射速度が落ちてくる状況を冷静に、蜘蛛が獲物を弱らせるように、確実に追い詰めていく。
そして違和感に気付く。
ーー鋼の船の指揮官は優秀だ。
ーーこの持久戦を想定していないはずがない。
ーーなぜ主砲まで対空防衛に回している?
その先に、篠原の存在を感じ、思考が流れ込んだ。
「囮だ」
ヴァロンは索敵を開始する。サーチを失い範囲は狭い。だがポイントを絞ればそれなりの情報は一般兵の目で集められる。
候補地をいくつか潰し、荒川に沿って索敵していると一斉射撃態勢に入っているロングレンジレールガンを発見する。
デスランドは浮遊しているが移動はしていない。狙いはこれだ。
すぐに射線上に兵を飛ばす。直線で飛来するロングレンジレールガンの弾は、兵を肉の壁にすれば軌道がそれる。
兵の動きを察するようにロングレンジレールガンが火を放つ。だが、炸裂する前に肉の壁に阻まれる。20ほどの兵を割き、レールガンを潰しにかかる。この状態でもヴァロンは手駒1500から作戦を立て続ける。
プライド。それもあった。だがヴァロンの中に不謹慎だが高揚する何かがあった。
不意に鋼の船の主砲がデスランドを向く。
ヴァロンは対空機関砲を確認すると、確信した。
ーー鋼の船は限界だ。
「総攻撃!」
僅かな守備兵を残し、上空を旋回し疲弊を誘っていた部隊と投石部隊が挟み込むように鋼の船に迫る。
対空機関砲の死角を狙った前後からの攻撃には主砲を使うしかない。主砲の先端がデスランドから離れる。
投石が命中したのか、僅かに主砲の旋回速度も遅くなっていた。
主砲が火を吹き、ガーゴイルの群れの先端が被弾するが、その衝撃を避けた部隊が距離を詰める。
その時、デスランドの上空に再び灼熱の花が咲く。
神奈川県側からの攻撃だ。埼玉に集結させていたレールガンの一部を、神奈川に移動していたようだった。
僅かに残った守備兵が灼熱の花に飲まれ、霧散する。
ついにヴァロンは1500以外の兵を動かす。神奈川沿いにいた兵が一気にレールガンを強襲する。デスランドの上空に灼熱の花が何発か炸裂するが、もはや守る兵もおらず、城壁や園庭に熱波が降り注ぎ城の大地が紅蓮に染まる。
その間も、鋼の船に距離を詰める攻撃部隊。
ついに鋼の船はガーゴイルに取りつかれ、煙を上げていく。一つ、また一つと対空機関砲は無力化されていく。
主砲は再びデスランドを狙おうとするが、取りついた部隊がこれを阻止、鋼の船はもはや糸に絡めて取られた蝶だった。
--勝負あり。
ヴァロンは鋼の船の指揮官に敬意を示す。
だが、この一瞬の油断を見逃さない人物がいた。