そして翌日、候補者の4人の元に神は再び訪れた。
最初はボンズ・タラ・ケリス。彼の答えは変わっていた。
「神よ、私はじっくり考えて結論を出しました。代行者は辞退します。私が作りたいものは世界ではない。昨日の篠原さんの言葉で気づいてしまいました。AIにも相談し、これがベストだと思います」
ベルガンは不満そうに尋ねた。
「お前が作ったオモチャで、世界を不安定にすればいい。作りたいものを使って神の代行をすればいい。簡単だろ?今なら撤回してもいいぜ?」
それでも返事は変わらなかった。
神はボンズに承諾を得たうえで、大種族神などの重要な記憶を消去し、王 雨桐の元へ向かう。
王 雨桐は神を見ると膝をついてこう述べた。
「神よ、お許しください。代行者の責務。私には重すぎると思います。私が代行者になれば私を核とした組織が出来てしまう。200年後に神と対峙してしまう未来を想像してしまったのです」
これを聞いたヴァロンがつい口を挟む。
「まてまて、もう1日考えたらどうだ。お前は候補者の中で組織を一番理解している。たしかに貴女は一時的にでも頂点に立つタイプではない。それは認めよう。だが、ならば我ら3眷属が表向きの頂点に立とう。その後ろで代行者として人々を導いてはどうだ?」
王 雨桐は何も言わず深く頭を下げた。
ヴァロンはその姿に決意の強さを感じ、それ以上は何も言わなかった。サーチの腕から少し力が抜けたのを神は目の端で追っていた。
王 雨桐も同様に記憶を処理し、大荻山 勝利の自宅へ移動した。
大荻山はパニックになっていた。
「神!神!神様!!聞いてください!代行者候補になったこと、そしてクソ女に言われた事実無根の妄言を、俺の親友たちに話したのです。そしたら”ついに壊れた”と言われ、縁を切られてしまいました。俺の大切なカネが!人脈が!」
サーチは黙って首を振り、ヴァロンが視線で神に否定を突き付ける。
神は大荻山に、縁を修復する代わりに代行者に関する全ての記憶を消していいかと尋ね、大荻山は頭が大きく上下に振って承諾した。神が大荻山の頭に手をかざすと、消えかけた光の筋が数本はるか彼方に伸びていた。サーチがその線に軽く触れ干渉すると光は強くなり光の線として機能を取り戻す。全ての筋が元に戻ると神は大荻山から記憶を消して、篠原の元へと向かった。
篠原はR連隊の研究室に足立、仲原と3人で神を待ち構えていた。
そして開口一番にこう言い当てた。
「全ての代行者候補が辞退した。そんな顔を眷属のみなさまがしてますねぇ。まぁそうですよねぇ。ふふふ。これで私が辞退したらぁ、残りの数日で代行者を決めるの大変そうですねぇ。お気持ちおっ察ししますぅ」
すると神はこう返した。
「お前が昨日、彼らに言葉の毒を盛ったからだろう。やられたよ。ああ、見事だ。やはりお前は面白い。おまけに、私がキレることを封じるために、観測者まで用意して。その能力、ますます興味深くなったよ」
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
3時間前、篠原は足立・仲原と作戦会議を行っていた。
まずは篠原からのこれまでの経緯と、神災の正体。竜の暴走と大種族神の審判。ポイントを絞って共有した。そしてこう語る。
「この神災を止めるためには、無能な代行者か人類に都合の良い代行者を立てるしかないんですよねぇ。そこで、お二人に協力をお願いしたいのですぅ」
「とりあえず、ボンズくんの使っているAIにはハッキングをしておきました。代行者についての相談には全力否定するよう昨日のうちに仕込み済みですぅ」
「王 雨桐にはメールを送っておきましたぁ。あなたが代行者になれば神を超える組織が組成可能だと。そして世界は貴方のものだと、ただ神との戦いは長きにわたるだろうと。ゆーとんはぁ裏の権力者タイプですぅ表で戦争なんて嫌でしょうねぇ」
これを聞いた足立がため息交じりに口を挟む。
「お前さ、マジで優秀だけど、本当に怖いよなぁ。つまり他の候補者は戦う前に離脱させるわけだろ。王 雨桐のプライベートメールアドレスなんて陸自のDBでも機密扱いなんだぞ!まったく」
仲原は眉をひそめて追及する。
「やり方には賛同しかねますが、そうなると残りは大荻山ですか。父親を失ったとは言え彼の人脈は厄介ですね」
この発言に一瞬場が和んだ。
「いやいや、仲原。大荻山は無視していいよ。あのタイプはプライドを刺激されると必ず誰かに愚痴をこぼす。こぼす相手は父親から受け継いだ要人だろう。要人が無能な若者から神だ代行者だと喚き散らせば結果は明白。自爆だよ」
さらに篠原が補足する。
「まぁ、お馬鹿さんですからぁ無謀にも残る可能性もありますねぇ。でもぉ昨日の眷属たちの表情からしてぇ、選んだら神への信頼が揺らぎそうですしぃ。その状態で無能な代行者なんて手のひらで転がせば大丈夫ですよぉふふふ」
自分の懸念が、足立と篠原には瞬時に考慮されていた。そして、それがすでに「大した脅威ではない」と結論づけられていたことに、あとから気づいた仲原は、少し耳を赤く染めてすぐに話題を変えた。
「で?私たちを呼んだ理由は何ですか?」
「あぁ。それですぅ。最初に結論ですが、私が代行者になって人類の最低保証になろうと思いますぅ」
「もちろん、まだまだ知りたいことは多いしぃ、神の能力にも興味があります。そこでぇ、この状況を作ったのですぅ。
候補者が私以外『全滅』となれば、神は焦りますぅ。私を代行者にするために、妥協もすると思うのですぅ。
そこで私は、足立隊長とぉ、仲原さんをぉ、私の協力者としてぇ、二百年の不老不死を与えるように条件を出そうと思いますぅ。
えへ。それで、二百年の人類の統治はお任せしてぇ、私は観察と研究を楽しもうかと思います。
あっ、違いますよぉ。怠けたいのではなく、ほらぁ、適材適所って『ゆーとん』も言ってた、あれですぅ」
200年の寿命。足立と仲原は顔を見合わせた。そして足立が少し困った表情で切りだした。
「おいおい、それは勝手だろ。俺はいいよ、もぅいい、定年まではしっかり働くからさぁ余生は楽をさせてくれよ」
仲原も続く
「私もです。200年の寿命。そんなものは人間の理(ことわり)から外れてしまう。私は人間として生きたい」
これを聞いた篠原は軽く笑うと切り返した。
「ではぁ、私がぁ一人で代行者をやった場合、どうなるでしょうねぇ。
人類を守っているつもりでも、世界を実験室に変えて、好き勝手に観察しちゃうかもしれませんよぉ。
その時、止められるのはぁ、あのUFBの三眷属ですがぁ……。
さすがに代行者とはいえ、神の力を持った私にぃ、どこまで抵抗できますかねぇ。
そこにお二人がいれば、少なくとも平手打ちはできると思うのですよぉ」
篠原の視線に仲原が映る。それを遮るように足立が改めて口にする。
「お前さ、マジで優秀だけど、本当に怖いよなぁ。はぁ…200年の労働かぁせめて20代に若返ったりしないかなぁ」
それを承諾ととらえた篠原は、作戦の続きを話し始める。
「唯一のリスクは、神が私の工作に気付いて、感情的に私を殺すことですぅ。
竜の件を考慮すれば、あの神は後先を考えないようですからぁ、五十%くらいはありえますぅ。
その安全装置として、お二人にはこのまま、神との交渉に同席して欲しいのですぅ。
足立隊長は、R連隊の重要人物ですぅ。
そして三佐は、あの白い竜を威嚇した実績がありますぅ。
これでぇ、もし神が私を殺せばぁ、目撃者である貴方がたも殺すことになりますぅ。
それは、大種族神の猶予に対する不義理となりますぅ。
つ・ま・り。
お二人がいるだけで、神は私に手出しできない。
そういうことですぅ。
あと、お二人も神様を見てみたいですよねぇ」
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
時は現在にもどる。
篠原に説得され、渋々同席した足立と仲原。そこへ神がやってきた。
神は篠原の工作、思考を即座に理解すると「やられた」と興味深そうに不敵にほほ笑んだ。
だがヴァロンの眉間には大きなしわが出来ていた。
余裕のある神とは違い、少し低い声で篠原に語り掛ける。
「おい女。この方は貴様ら人間の種族神である。こざかしい小細工で手を煩わせることは不敬だと思え。神が選んだ候補を潰した上に護衛を付けて待ち受けるとは神の代わりに私が罰を与えてやろうか」
それに答えたのは篠原ではなく、神だった。
「いいんだ、ヴァロン。篠原の良さはこの場をコントロールする計画力。そして僅かな情報から大きな理解を得て相手の立場を越えてくる観察力と思考力。各候補の良さは確かにあった。とくに大荻山は、神の代行者として独裁的な立場になれば
素晴らしいスキルセットの持ち主だった。だが、篠原の才能はその力を発揮させる前に芽を摘むところにある。これが強いんだ」
その話を聞いて足立が思わず小さくうなずく、その姿を仲原が厳しい目で睨みつけ、足立は目をそらしてごまかした。
神は饒舌に篠原に促した。
「なぁ篠原、私が渡した僅かな代行者関連の記憶で、どこまで推理したのか、言葉にしてみてよ。私は神だから思考を読もうと思えば読めてしまう。だから隠す必要はない。篠原の口から能力を証明すれば、まぁヴァロンも黙るだろう」
篠原はいつもの調子で話し出した。
「ではぁ、最初にぃ。隊長と仲原さんはぁ保険ですがぁ、この場で私が死ぬ確率は0%ですぅ。ずっと疑問に思っていたのですぅ。神様たちは転移や記憶の操作が可能ですぅ。つまりチートどころか万能に近い存在だと思いますぅ。本当に人類に試練を与えるだけなら
こんな戦争ごっこをしなくても、大仲大臣や、足立隊長、仲原さん、そして私のような対抗勢力の急所を殺すか、記憶を奪って廃人にしてしまえばいいはずですぅ。ではなぜ、それをしないのか?答えはルールにあるとおもいましたぁ。
大種族神様の件をみてもぉ、神の世界にもルールがありますぅ。そのルール内でしか神様は動けない。だからー、こんな方法を取るのですぅ」
ヴァロンの目に一層の力が入る。
「女。神は確かに万能だ。何を疑う余地がある」
篠原はゆっくりとヴァロンに向かいながら話し始めた。
「万能ならぁ。なぜ代行者を捜しているのですかー?」
一言でヴァロンの視線が一瞬揺らぐ。篠原はその様子を観察し確信したように進めた。
「それはぁ。きっと神様が寝ていると不都合があるんですぅ。なんでしょうねぇ。サーチちゃんたちがぁ出来なくてぇ、神様しかできないことですよねぇ」
2,3秒口を閉した篠原は、笑顔で結論を出した。
「エーテルですぅ!神様の記憶に大種族神様の審判のシーンがありましてぇ。神様はエーテルを3眷属に大量に流し込み、強制的に竜化させたと・・・」
「これぇ。裏を返せば、3眷属の皆様は自分で竜化できない。つまりぃ、エーテルを生み出せるのは神様のみ。神様が眠るとぉ眷属の皆さんはエネルギーの供給が絶たれてしまう。
そんなところですかぁ?。ねぇ神様」
神は余裕の表情のままヴァロンに話しかけた。
「な、面白いだろ?ヴァロン。この感じだと、他にもいろいろ感づいてそうだぜ?まだ続けさせるかい?」
ヴァロンは足立と仲原を僅かに目の端でとらえると。
「いえ。これ以上は。代行者としての素質はゼロではなさそうです」
口調は穏やかだが、明らかにヴァロンの表情は厳しい。
篠原はこれを見て、本題に入る。
「ではぁ。私がぁ代行者になるのかという、お話ですぅ」

