<あらすじ>(公式より一部抜粋)
アトーフェラトーフェの追撃を振り切り、久しぶりの我が家に帰宅した夜、ヒトガミが現れ助言を行う。ルーデウスがその助言に従おうとすると、謎の人物が現れる――。「俺は、未来から来た」突如現れた老人はそうルーデウスに告げる。老人はこれからルーデウス自身に降りかかるという残酷で悲惨な出来事、そして、そのすべての元凶について語る……。
<レビュー>
ナナホシのエピソードから一転、未来から「もう一人の自分」が現れ、重要な忠告を残して死んでいく。第11話Bパートから始まる、衝撃的なエピソードのレビューです。
まず注目したいのが、第11話Bパート冒頭の入浴シーンです。この場面には、ルーデウスの心境を表現する役割と同時に、彼の身体に残る大きな傷を視聴者へもう一度見せる役割もあったように感じます。
ルーデウスの胸には、大きな星型の傷跡があります。これは第1期第21話、龍神オルステッドとの戦いで胸を貫かれたときに残った傷です。現実時間では約5年前に放送されたエピソードなので、傷の由来を忘れている視聴者も少なくないと思います。
その傷を、第12話直前でもう一度見せる。
そして第12話では、老人となった未来のルーデウス、いわゆる「老デウス」が、自分は未来から来たルーデウス本人だと語り始めます。
第12話の長めのAパートでは、老デウスがヒトガミに騙され、家族を失い、苦しみ、努力を続け、それでも最後には絶望を味わった未来が語られます。そして彼は、残された命を使って過去の自分へ警告するためにやって来ました。
当然、現在のルーデウスは簡単には信用しません。
老デウスは、自分が未来から来たことを証明するため、ルーデウスの前世に関する秘密や、現在のルーデウスしか知らないような情報を語ります。それを聞いたルーデウスも、少しずつ「本当かもしれない」と考え始めます。
しかし、それでも完全には信じきれません。
当然です。
突然老人が現れ、
「俺は未来のお前だ」
「このままだとお前は不幸になる」
「嫌なら俺の言うことを聞け」
と言われても、普通ならすぐには信じられないでしょう。
老デウスが語る未来の情報も、この時点ではまだ確認できません。前世の情報についても、仮に記憶を読み取るような何らかの手段が存在すると疑えば、完全な証明とは言い切れません。
そこで最後に効いてくるのが、あの傷です。
老デウスが死亡したあと、ルーデウスは彼の遺体を確認します。すると老人の胸にも、自分と同じ位置に大きな傷が残っています。さらに身体の同じ位置にあるホクロまで確認し、そこでようやくルーデウスは確信します。
これは、本当に未来から来た自分なのだと。
ここまでの情報の積み方が非常にうまいです。
最初は「未来から来た」という本人の主張。次に、前世を含む秘密の情報。そして最後に、本人の身体にしか残っていない傷やホクロという身体的特徴。
言葉による証拠から、身体そのものによる証拠へ段階的に信憑性を上げていくことで、作中のルーデウスだけではなく、視聴者まで同時に納得させています。
特に胸の傷は、第1期第21話で実際に描かれたものです。約5年前の戦闘で負った傷が、ここでは「未来の自分」を証明するための本人確認として再び使われる。
この使い方はかなり巧妙だと思いました。
そしてこの一連の流れが、非常に『無職転生』らしいです。
簡単に済ませようと思えば、前世の名前を知っている。それだけでルーデウスが信じても最低限の理由として成り立ち、物語自体は進められます。
しかし、それでは視聴者側に、
「そんな簡単に信じるの?」
というご都合主義的な違和感が残る可能性があります。
そこで、老デウスの長い語り芝居と、何重にも重ねた状況証拠を使う。
ルーデウス自身に疑わせ、確認させ、最後には自分で答えへ到達させる。
そうすることで、ルーデウスが未来の自分を信じる瞬間と、視聴者がそれを信じる瞬間を一致させています。
物語を大きく動かす設定を出すとき、視聴者が自然に受け入れてくれるとは限りません。
だからこそ、受け入れられるように物語を丁寧に構成する。
この丁寧さと巧妙さが、『無職転生』の面白さの一つなのだろうと思わされるエピソードでした。
そして、老デウスの話にはさらりと「エリス」の名前も登場します。
第3期序盤で描いたエリス修行編と、現在のルーデウス側の物語をここで再びつなぎ、今後本筋へ戻ってくるエリスへの橋渡しまで済ませています。
過去の傷を現在の証拠として再利用し、未来の情報を現在の行動へつなぎ、さらに別の場所で進んでいたエリスの物語まで接続する。
この情報の出し方には、改めて脱帽しました。



