※本エピソードは本編「人類アンチ種族神のV章⑮」以降のエピローグになります。
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仲原は、隊長の部屋で男性向け雑誌を発見していた。
そして、一段と強くついた折り目のあるページ。理由は想像にたやすい。
そのページには、筋肉など微塵も感じさせない「いかにも」な女性が、表現のしようのないポーズで写っていた。
「なるほど?」
声が漏れる。どう見ても戦力としては弱い。この無駄な肉に隊長は何を思うのか……。
とりあえず付せんを貼り、赤いマジックで一言書いておく「注目!」
そして本棚に戻し、再び掃除の任務に戻った。
その頃、足立は焦っていた。原因は、今朝突然決まった仲原の「世話係」任務である。
急な出来事だったため、いわゆる「秘蔵のコレクション」を、慌ててタンスの後ろへ隠してきた。
しかし、足立は内心、分かっていた。
仲原も陸自の人間だ。足立が慌てて何かを隠したことなど、確実に見抜かれている。
規則を重んじる仲原のことだ。どんな冷ややかな目で見られるのだろうか。
足立は思わず、バスの降車ボタンを連打した。
「ただいま! 変なものを見せて申し訳――」
途中まで言いかけた足立の言葉は、美しく整頓された空間へ吸い込まれていった。
「これが俺の部屋か?」
思わず玄関の外へ戻り、部屋番号を確認してしまう。
「お疲れ様です、隊長! いえ、陸将殿!」
「ああ、お疲れ。あの、段ボールとゴミの山は?」
「片付けておきました。幸い、この宿舎はいつでもゴミを出せますので、ゴミは分別して廃棄しました。段ボールは、中身が書いてあるものだけ開封して収納。何も書かれていないものは、部屋の隅にまとめ、備蓄用の資材ケースへ収めて目立たないようにしてあります」
脱衣所も、これまた美しかった。
毎回、手のひらでこすらなければ姿が映らなかった鏡は、水垢一つない新品のように輝いていた。
脱ぎ散らかした服も下着もすべて消え、風呂場の床は本来の色を取り戻していた。
「まるで高級ホテルみたいだ……」
鏡に映る額の汗をみて、足立は我に返る。コレクションの回収だ。
仲原を置き去りにするようにすれ違うと、急いで自室に戻った。
自室も凄かった。まるでモデルルームのように美しく、それでいて移動動線などが最適化された配置。
デザイン的な美しさと機能美、そのクオリティーの高さに、思わず声がでる。
「おいおい。このベッドも本棚も二人以上で組み立てるヤツ……」
そう言いかけて、視線を向けた先で特に目を引いたのは、足立の秘蔵コレクションだった。
大きな付せんが貼られ、赤い太字で「注目!」と書かれている。
「ちょ、ちょっと!」
足立は慌てて秘蔵コレクションを本棚から抜き取り、胸に抱えて隠した。
そこへ、ちょうど仲原がやってきた。
足立は思わず、禁断の質問を口にしてしまう。
「見……見たのか?」
「はい。男性向け雑誌に興味はありませんでしたが、陸将殿の私物でしたので、内容を確認しました」
「なんで付せん?」
「深く折り目が付いておりましたので」
仲原の視線に温度はなく、感情は一切読み取れない。数秒の沈黙の後、少し表情を崩した仲原はこう付け足した。
「このようなものは、宿舎への持ち込みは禁止されております。今回は急に押しかけた私にも非がありますので、本件は忘れます。ですが、次は見かけ次第、報告させていただきます」
これは目の前で捨てるしかない。足立は数年来の秘蔵の友人を泣く泣くゴミ箱に投げ捨てた。
その様子を見た仲原は、なにか一仕事終えたような声のトーンに変わる。
「では、隊長……いえ、陸将殿。食事の準備ができております」
「あ、ああ、それからさ、隊長でいいよ。その方が呼びやすいだろう?」
「しかし、現在は所属も異なります」
「はぁ。そんじゃ、陸将として命ずる。仲原一佐は今後私を隊長と呼びたまえ」
「……。はい。隊長殿」
「よし、じゃあ飯を食おう」
足立がテーブルに目を向けると、豪華な料理が並んでいた。
しかし、大きな違和感がある。食器が一人分しかないのだ。
「ん? 食器が足りなかったか?」
「いえ、私は任務ですので。陸将…いえ隊長殿と同じテーブルには…」
足立は何も言わずに、食器棚に向かうと、いくつかの食器を取り出し、テーブルに並べた。
「なぁ仲原。あんまりさ、陸将扱いをしないで欲しいんだよなぁ。階級よりもさ、戦友だろ」
「し、しかし…」
「一緒に二階級特進した戦友じゃないか!」
「その言い方はやめて下さい。何となく縁起が悪いので」
「わかったよ!でもさ、なぜ津田大臣が直々に、一佐に昇進した仲原に俺の世話係なんてさせたと思う?」
仲原は顎に手を当て数秒間思考するとすぐに答えを出した。
「…!階級を越えて情報の共有を…」
「そうだよ。平たく言えば、職務上では話せないような内容もお互いに共有しろってことだよ」
「それなのに、陸将殿、陸将殿って、硬いんだよなぁ。もっと仲良くしようぜ」
「まったく。私の捉え方次第ではセクハラですよ」
「そういう捉え方はしないだろ。さ、食べようぜ!」
やれやれといった面持ちで仲原もテーブルに着く。
「それで隊長。護衛対象はいかがですか?」
「直球だなぁ。まぁそうだな、詳しいことは理解できん。だが、表の計画と裏の計画がありそうだな」
「表と裏ですか。裏とは?」
「わからん!」
「まぁ護衛なんて眺めているだけだからなぁ、正直、天才同士の会話なんて聞いてても退屈で死んじゃうよ」
「細かく聞いたところで、面倒そうに解説されるのも癪だしなぁ」
その時、足立の箸が止まる。
「ん!」
「これは美味しいな!」
「ああ、それは塩分を控えても味がぼやけないよう、レモン果汁を使用しました。酸味で食べやすくなり、ビタミンも摂取できます」
「仲原は優しいよなぁ」
「は?」
「いや、だってさ、任務としての世話なんだから、食事なんて携帯食料でもいいわけだろ。バランスが良ければいいわけだし」
「はぁ」
「でもさ、食材を買ってきて料理をしてくれるじゃない」
そう言って、足立は仲原の手製のサラダを美味しそうに口へ運んだ。
「いえいえ、私は幼いころから任務は100%では足りない、110%で達成しろと育てられてきました。手料理は、その10%ですよ」
仲原はそう言うと、照れくさそうに箸を進めた。
「10%ねぇ」
そう言って笑う足立を見て、仲原は不思議な気持ちになった。
この人は、手料理に何の価値を見ているのだろうか。携帯食料か、手料理か。そんなに気にするようなことなのだろうかと。
