<あらすじ>
王太子セシルは10歳の折、バーティアを婚約者に迎えた。
前世の記憶を持つという彼女は、ここはかつてプレイした乙女ゲームの世界であり、自分は悪役令嬢であると言う。
突飛な発言は、退屈だったセシルの心に好奇心を芽吹かせる。
<レビュー>
かなり作画にこだわりのあった作品でした。
バラのような細かな背景や、執務室のような本に囲まれた部屋など、背景もしっかりと描き込まれています。
それでいて、アニメーションとして見やすい塩梅に調整されていて、視覚的に楽しめた印象が強いです。
1クールを見た総評としては、努力型の悪役令嬢もので、安定感のある作品でした。
一方で、シナリオとして尖ったものはそこまで多くなかったと思います。
むしろ、感情の薄い美形王子、悪役令嬢に転生した心優しいヒロイン、乙女ゲームの世界観に縛られたシナリオ進行。
さらに、ヒロインを取り巻くイケメンや美女たち。
人物配置から見ると、徹底して“悪役令嬢ものを見たい視聴者”に向けた、ド直球の悪役令嬢ものです。
それだけに、安心感はありました。
そして、期待を上回ったのが第8話以降です。
この手の作品は、おおむね元となったゲームのヒロインがラスボスになり、最終回で打ち倒して終幕、というパターンが多いと思います。
しかしこの作品は、その「ラスボスヒロイン」を第8話で成敗してしまいます。
全12話なので、4話も残して最終決戦、作中で言う「ギャフン」が決着してしまうわけです。
ですが、そこからが一段と面白かったです。
ゲームのシナリオを、光の精霊の力で体験するセシル王子を、1話分の尺を使って描きます。
私は、これはヒローニアの救済だと受け取りました。
悪役令嬢であるはずのバーティアが、悪役令嬢として機能しなかった。
その結果、ラスボス扱いになってしまったのがヒローニアです。
この作品において、バーティアとヒローニアは、光と影のような関係性だと思います。
本来の影、つまり悪役であるバーティアが光側に立ってしまったので、本来の光であるヒローニアが影側に落ちてしまった。
ヒローニアは乙女ゲームを知っていました。
本来のルートも知っていました。
ヒローニア視点から見れば、王子を救えるのは自分だけだったはずです。
それなのに、悪役令嬢であるバーティアが機能しない。
だからヒローニアは、無理やりにでもバーティアを悪役令嬢として機能させようとした。
では、なぜそこまでしてヒローニアはセシル王子を攻略したかったのか。
その部分に触れたことで、彼女もまた単なる悪ではなかった、という救いが生まれていたように感じます。
本来のルートをセシル王子に見せることで、ヒローニア側の事情も描いていたのだと思います。
このシーンのおかげで、ヒローニアの処遇が北の修道院送りという過酷な結末でありながら、ただの罰では終わっていません。
失った光の精霊を取り戻せるかもしれない。
そういう希望のある未来への一歩として機能していました。
悪役令嬢側だけではなく、元ゲームのヒロイン側もしっかりケアする。
登場人物を大切にする。
作者の物語に対する気持ちが伝わってくるようなシナリオ構成でした。
そのうえで、最終話ではバーティアとセシルの結婚式まで描き切ります。
幕引きもとても綺麗で、1クールを通して満足度の高い作品でした。
作画・シナリオともに良質な作品だったと思います。