この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
-----
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
ヴァロンの勝利宣言から20分程前
防雷の司令塔では、ヴァロンの消耗戦に苦戦する篠原、足立、仲原が奮闘していた。
足立が篠原に助言する。
「上空を旋回しているUFBは明らかに、こちらの弾切れを狙ってるぞ!どうする篠原!」
篠原は数秒ほど思考すると
「船は頭上に弱い…。ここは続けるしかありません。できるだけ主砲と副砲で投石部隊を狙いましょう!」
仲原がすぐに命令に落とす。
「対空機関砲は旋回部隊に警戒!ただし、挑発に乗るな!無駄玉は減らして!」
「主砲・副砲は、投石部隊を狙え!大きい瓦礫を持っている分狙いやすい。外さないでね!」
これに防雷の艦長も助力する。
「主舵10!副砲の射角を確保しろ!陸からの距離を維持。投石部隊を疲弊させろ!」
篠原がしびれを切らす。
「隊長ーっ。例のあれは射撃準備できましたかー?そろそろ出番ですぅ!」
足立は時計を見ると、少し表情を曇らせる。まだ早い。
「埼玉側だけならー。神奈川はあと10分!」
その瞬間、防雷が大きく揺れる。傾く船体。小柄な篠原の体がふわりと浮いて、篠原が思わず声を上げる。
足立は冷静だ。
「どうした!」
通信兵からの返答も早い。
「左舷に大きな波です!直撃ではありません!」
仲原がすぐに分析する。
「数tの瓦礫が高高度から近海に落ちたのでしょう!」
足立はすぐに艦長に回避行動を依頼すると、篠原の元へ行く。
「大丈夫か?怪我は?」
いつもは余裕のある篠原だが、表情だけは取り繕っていた。だが、顔色は青ざめ、手足は震えている。
戦艦が至近弾などで大きく揺れる。それは不思議な事ではない。足立も仲原も、すでに次の命令を考えている。
だが、篠原だけは違った。知識でしか知らなかった“揺れる戦場”を、初めて自分の身体で知った。
「瓦礫が左舷に直撃!」
さらに、瓦礫が船体を叩いた瞬間、その衝撃は恐怖に変わった。
弾幕をすり抜けた瓦礫が、防雷の鋼鉄の船体で砕けて土煙を上げた。
篠原が溜まらず指示を出す。
「防雷が先に落ちてしまいます!挟撃開始です!」
仲原が口を挟む。
「まだ神奈川は撃てませんよ!」
すぐに篠原が返す。
「あれは、埼玉側が敵に察知された場合のプランCです。防雷の全主砲とレールガンの波状攻撃があれば、あの質量の浮遊要塞でも破壊可能です!」
その時、千葉県の海岸沿いにある木更津から発光弾が上がる。
足立がそれを見て奥歯をかむ。
「篠原!埼玉のレールガンが敵に発見された。攻撃される前に撃つしかない」
仲原が篠原を待たずに指示を出す。
「全主砲回頭。目標UFB要塞!できるだけ中央を狙え!着弾タイミングをレールガンに合わせる。一斉射撃態勢で指示を待て!」
瓦礫の破片を被った、砲塔がギギギと音を立てながらデスランドへ向く。
仲原が時計を見ながらカウントを始める。
「5,4,3,・・・」
それを足立が制止する。
「まて!様子がおかしい!射線上で黒煙が既に上がっている!」
レールガンの射線上に立つ肉の壁がデスランドへの直撃を避ける。やがて、再び木更津から発光弾が上がる。
「篠原、埼玉のレールガンが攻撃を受けている。これ以上は不可能だ!」
篠原はすぐに切り替える。
「神奈川は?あと3分ですか!」
足立が声を張る。
「持ちこたえるぞ!!」
だが、この不測の事態を察するかのように、いままで旋回していた部隊が防雷の前方、後方から一気に襲い掛かる。
艦長も負けていない。大きな船体を狭い東京湾の中で大きく旋回させる。
「旋回!対空機関砲の射線を確保しろ!!」
旋回していても、1m前後の瓦礫の破片が何度も船体にあたる。むろんダメージはない。だが、質量の高い物質が鋼鉄を叩く低い音が、死神の声のように響く。
至近距離に落ちる落下物は大きなしぶきを上げ、防雷に降り注いだ。
艦長が足立に目線を送る。足立が頷くと、艦長が答える。
「取りつかれるぞ!ブリッジ遮蔽!」
足立も続く。
「主砲を防衛に戻せ!押し返せ!」
さらに仲原も答える。
「1番2番3番は前面のUFB,4番5番は後方のUFB、副砲は撃ち漏らしを狙え!警備兵はライフルを持って持ち場へ!侵入させるな!」
強化ガラスの前に、鋼鉄のシャッターが、降りる。
篠原が思わず止める。
「まって!目を閉じてしまえば戦況が見えない!!観察できなくなっちゃう!」
その時、足立はゆっくりと閉まるシャッターの向こうに、神奈川方面の上空に白い筋を見つける。レールガンである。
「くそ!主砲を動かした瞬間にこれか!戻せるか仲原!」
「無理です!砂塵の影響か回頭速度が低下しています」
その言葉が終わる前にデスランドの上空に灼熱の花が咲いた。
篠原は赤色に染まった司令塔を飛び出ると、らせん階段を駆け上がり第2艦橋へ向かう。
揺れる船体で何度も体を壁に打ち付けながら、彼女が見たものは、UFBに取りつかれ、火力を失っていく防雷の姿だった。
「神奈川のレールガンは?!」
数発飛んでいた神奈川のレールガンも、その後の動きはない。
ふと神奈川側の海側、三崎口付近で発光弾が上がる。
「え?神奈川も・・?速い。対応速度が速すぎる。宇宙から監視されてるとでも言いたいの?」
そこへ足立が追ってきた。
「何やってんだ!死にたいのか!!隔壁が閉鎖されるぞ!」
足立は篠原を軽々と抱きかかえると、らせん階段を下りる。
「規格外すぎて忘れていたが、この子も初陣か。もう少し気を配るべきだったか……」
独り言を挟みつつもすぐに司令塔に戻る。確認した仲原はすぐに隔壁を閉鎖。すると、おもむろに席を立ち座り込む篠原の前に座る。
「パシッ」
突然篠原に平手打ちをする仲原。
「違うんです!私は観察をー」
震える体を無理やり押し込めて、篠原が反論しようとする。だが新兵の心境など何度も見てきた仲原にごまかしは通用しない。
「怯えるな!あなたの仕事は何だ?指揮系統の人間が戦闘中に司令塔を出る意味が分かってますか!」
この言葉に、篠原は返す言葉もない。
まぁまぁと二人の間に体をねじ込んで、仲裁に入る足立。すると足立には仲原の拳が飛ぶ。
「あなたも指揮系統の人間でしょう!!」
しかし反射的に避ける足立。これでもかと、裏拳による追撃も軽く手で押さえると、落ち着けと訴えた。そして艦長を呼び寄せると小声で話し出す。
「どうする艦長。あんまり状況は良くないよなぁ。防雷の主砲は前方を向いたまま回頭不能。対空機関砲も取りついたUFBに破壊され70%が使用不能だぜ」
艦長が絞るような声で発言する。
「これはもう艦を放棄するしかないのか。脱出艇も出せないが。エンジンが生きているうちに太平洋のど真ん中でUFBを乗せたままガス欠。これが最善ですかね」
太平洋。この言葉が篠原に刺さる。恐怖でいっぱいだった思考に、ほほの痛みとは別の何かが見える。
ーー神奈川が失敗した場合のプラン。
その思考が走ると篠原の目に力が戻る。
「そうです。太平洋ぉ!そうですぅ!そうですぅ!勝てます!勝てますよぉぉ!」
突然いつもの篠原にもどり驚く一同。
篠原は急いで通信機を取る。これはクシャルボコスとつながっているものだ。
「聞こえますか兄弟」
篠原の呼びかけに応じたのは、撤退したはずのリークだった。
「オソイデスネー マチクタビレマシター ジュンビデキテマス カウント60 ソノゴ 30 オッケー?」
篠原は「ありがとう」と一礼すると、艦長に依頼する。
「60秒以内に防雷をデスランドに向けてください」
瀕死の防雷は一度後退すると、大きく舵を切り、船体をデスランドへ向ける。60秒後、防雷の上に灼熱の花が咲く。
クシャルボコスの焼夷弾だ。花は防雷に取りついてたUFBを次々に溶かしていく。
篠原はいつもの調子で足立に頼む。
「足立たいちょー!30秒後にぃ。可能限りデスランドへ主砲をおねがいしまぁす!」
急な出来事に驚く足立。
「主砲?おいおい立ち直りが速すぎだろ」
無駄口を聞き流し仲原がすぐに動く。自席に戻ると指示を出す。
「使用可能な主砲は射角をUFBの要塞へ向け!20秒後に一斉連射。弾がなくなるまで撃ちまくれ!」
20秒後、クシャルボコスの護衛艦の艦砲射撃がデスランドを揺らす。それに合わせるように防雷の主砲が火を吹いた。
守るもののいないデスランドは瞬く間に砲弾の雨を受ける。いたるところで着弾による爆発が発生し、燃え上がる。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
--僅か1分前のデスランド
ヴァロンが勝ったと油断した瞬間、鉛の船は「まだやれる」と言わんがごとく旋回できなく主砲を船体ごと回すことでデスランドへ再び砲塔を向ける。
落ち着いてヴァロンは取りついた兵に砲身の破壊を命じる。
その時、あの灼熱の花が、デスランドではなく鉛の船の上空で花開いた。灼熱の花びらが取りついた兵を霧散させていく。
これで1500をほぼ失ったヴァロンは、不敵な笑みを漏らす。
そして、少し離れた位置にいる兵を動員しようとしたとき、強い衝撃がデスランドを襲う。
ーー何事だ!
即座に索敵を開始する。すると、鉛の船の4km後方にタラメアのフリゲート艦を発見する。
「空母の護衛艦か!」
盤外から現れた伏兵に、思考を傾ける。だが、その思考は結果を出さなかった。
防雷の主砲がヴァロンのいる執務室を直撃した。激しい衝撃で廊下に吹き飛ぶヴァロン。すると眼前には、激しい砲撃損傷する城が目に入る。
俯瞰で物を見ていたヴァロンの手の届く範囲は、すでに破壊されていたのだ。
ヴァロンは急いでサーチとベルガンの回収へ向かう。2人とも意識はない。直撃すれば消えてしまう。
硝煙の匂いがデスランドが標的となっていることをヴァロンに告げる。
神の元へ急ぐヴァロン。だが、その後ろに防雷の弾丸が迫る。
一瞬世界が輝いた。サーチのシールドとは異次元の薄く美しいシールドがヴァロン、サーチ、ベルガンを守った。神である。
神は砲撃でヴァロンが傷ついたことを知り駆けつけたのだ。
シールドの中は、驚くほど静寂に満ちていた。何度も砲弾の雨がシールドに触れる。だが砲弾はシールドに触れた瞬間に高熱に達し、赤く染まりドロリと溶け落ちる。シールド内に匂いも煙も入ってこない。衝突した音も衝撃もすべてがかき消され、まるで無音の映画をみているような錯覚に落ちる。
しかし、助けに来る道中で何度か被弾したのだろう。神自身に傷も何もないが、服には黒く焦げたあとが見える。
ヴァロンは神の姿を確認すると、翼の力が抜け、そのまま二人を抱えて仰向けに倒れた。
神のはじっとその様子を見ていた。不思議な感覚だった。この三体は特殊個体。手間をかけたことは事実。だが、それ以上の情はない。ハズだった。
だが、傷ついた3体を見ていると神の中の何かが、次第に熱を帯びていく。
ーーこんな傷は一瞬で治せる。熱くなるなよ俺…
そう言い聞かせる。だが、先ほどまで無駄話をしていた臣下が、地面に伏している状況を見ていると、その熱は冷めることはなく、次第に融点まで登っていく。
神の中にある人の記憶、その中でも自分の大切な何かを壊された記憶が、冷静になろうとする神の精神を強制的に怒りへといざなっていく。
ーーそうだった。人間達は常にそうだ。俺から大切なものを奪う。
ーー大丈夫。今回は失わない。俺は神。もう無力ではない。
ーーだが失わなければいいのか?人間はいつも理不尽に大切なもの傷つける。
神と人の思考が交錯し、神の意識が人間の感情に押し負けていく。
神の周囲で圧縮されたエーテルがパチパチと音を立ててはじけ、一瞬だけ激しく発光する。
やがて発光の感覚が短くなり、数が増える。
「うあああああああああああああああ!!!!!」
ついに人間の感情が神を完全に飲み込み、神は怒りに満たされる。
眼下に横たわる3体の体を宙に浮かせる。瞬く間に再生させる。だがそれでは終わらない。
神から生成され大量のエーテルが洪水のように3体のコアに流れ込む。
ヴァロンが察した。
「神よ!静まり給え!!神よ!あなたは人間の種族神です!!神よ!!」
それにベルガンも続く
「これはダメです!神よ!俺はこんな方法で強くなりたいわけじゃない!神よ!」
サーチは言葉は発しない。しかしサーチの感覚共有が強い悲しみと恐怖を伝播した。
やがて三体は黒・赤・白のエーテルの巨大な球体に包まれた。
それは、大神災の始まりを意味していた。