この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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舞浜までは20分、防雷は修復できそうな対空機関砲を修理、船体に積もった瓦礫の撤去に追われていた。
篠原は双眼鏡で舞浜方面を第一艦橋からじっと見ていた。
やがて20分後、肉眼でも陸地がうっすらと水平線に見えてくる。甲板で撤去作業をしていた足立の無線に篠原が問いかける。
「足立さん、25式指揮装甲車ってみたことありますか?」
「ああ、連隊の活動で何度か使ったな。それがどうした?」
「いえ、大きなタクティカルアンテナがある車両ですよね。ボンネットにRとでも書きましたか?」
「ん?ああ、R連隊専用の25式指揮装甲車だと分かるようになー。だからそれがどうしー」
足立は何かを察すると、瓦礫を海に投げ捨てて第一艦橋へ向かった。心臓が締め付けられる。他の隊員を押しのけてブリッジを駆け上がると篠原の元へ汗だくでやってきた。
「指揮装甲車が見えたのか!どうなった!」
篠原は黙って双眼鏡を渡す。
そこに映ったものは、運転席部分と中央の2ヵ所に穴の開いたスクラップだった。燃え残った一部に特徴的なタクティカルアンテナ。そしてボンネットにRの一部分が見えていた。
竜の姿はすでにないが、まだ一部の車両は黒煙をあげている。
直後にクシャルボコスから偵察ドローンが飛び立つ。
誰も何も言えない時間が流れ次第に陸地が近づいてきた。
防雷の甲板にはクシャルボコスからタブレットを積んだドローンが飛んできた。タブレットには偵察ドローンの映像が映し出され、そこに映されたものは黒い大地。瓦礫の山。そして人の肉片。
生命を一切感じない死の世界。
10分後、偵察ドローンにより安全が確認された死の大地に足立、仲原、そして山口と名前を変えた篠原、リークと海兵隊20名が上陸した。
真っ先に指揮装甲車の残骸に向かう足立と仲原、篠原は少し顔色が悪い。モニター画面で見るものとは情報量の違う本物の戦地に戸惑っていた。
不満げだったリークも、焦げた土を踏んだ瞬間、そこに広がる惨状に言葉を失った。
そんな中でも足立の声が響く。
「仲原、ブラックボックスは回収できるか!」
「指揮装甲車のブラックボックスは、D6型です!核でも落ちない限り残るはずです!」
二人は瓦礫を押しのける。瓦礫に飲まれた軍用車は本来なら簡単には掘り起こせない。だが二人は正解を知りたい一心で掘り起こす。自分の骨が軋む音も聞こえない。砕けた破片が頬かすめても気が付かない。
その様子を見ていたタラメアの海兵隊も無言で手を貸した。足立が助手席のドアを引きはがし閉まらないように抑え、仲原が助手席の下にあるブラックボックスに手を伸ばす。
ドアに支えられていた瓦礫の重みが、車体のフレームへ一気にのしかかる。
「ギッギギ」
潰れそうになる車体を屈強な男が咄嗟に支えた。
「キョウダーイ。なるべくイソグ OK?」
リークの腕から流れた血が、ポタポタと仲原の背中に落ちる。仲原は小柄な体型を活かして車体からブラックボックスを回収する。
仲原が指揮装甲車を離れ、足立とリークが息を合わせてその場を離れると、ガシャンと大きな音を立てて指揮装甲車は使命を終えた。
リークは無線で技師を呼ぶとブラックボックスの解析を指示する。
技師は背負ってきた携帯機器をブラックボックスに接続すると、後ろにいる足立に声をかけた。
「同盟国として、タラメアに解除コードの共有を」
足立は無言でうなずくと、技師に近づいて耳元で一言。
「俺が直接入力する。同盟国は解除コードよりも中身が知りたいだろ?」
そういうと、答えも聞かずに手元を体で隠し入力し、音声を再生させる。
それは、壮絶な戦いと大仲の最後をノイズ交じりに記録していた。
リークが無言で十字を切った。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
声を上げたのは意外にも足立だった。
「一人で竜に特攻なんて駄目ですよ大臣!あなたにはできることがあった!あなたにしかできないことがあった!あなただからできることがあった!」
「なぜ?なぜですか大臣!R連隊は貴方が作った連隊です。あなたが先に逝ってどうしますか?」
「おれが、竜を起さなければ、あああああああああ!!!」
地面を叩きつける手に大粒の涙が落ちる。仲原も顔を伏せているが、頬をつたった涙が焦げた地面に落ちた。
篠原は無表情でその様子を見ながらつぶやいた。
「これがリアルな死……。大臣でも兵士でも民間人でも等しく死ぬ。そっか、いつか私も。」
そう言うと顔色を悪くして空を眺めた。黒煙に染まった空は篠原の気持ちを表しているようだった。