この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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竜は口を開けブレスの態勢に入る。艦長と足立は握手を交わし死に際とは思えない優しい笑みを浮かべる。
熱が収束する瞬間に、足立の前に仲原が立つ。まるで足立をかばうように。
艦長と足立とは違う、まだあきらめていない、その鋭いまなざしは白い竜に向けられる。
数秒で収束した炎は猛烈な熱を帯びて放たれる。だが放たれた先は司令塔ではなかった。真上に放たれたブレスは炎の雨となって防雷を包み込む。
白い竜はしばらく仲原を見つめると、それ以上の破壊は行わず、神奈川方面へと飛び去った。
こうして防雷とタラメア軍は九死に一生を得て、太平洋へと離脱することに成功した。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
同時刻 埼玉 国有シェルター
防衛大臣の大仲は、このUFB要塞攻略作戦の指揮を担っていた。
モニターには「通信途絶」と書かれた埼玉駐屯基地と神奈川側駐屯基地に配置されたレールガンの情報が赤く点滅している。
大仲は両手の拳を強く握りしめ、篠原の残したメモを睨みつけていた。
そこには「防雷」が負けた場合のプランがいくつもケース別に並んでいる。
ーープラン12:防雷と要塞が共倒れになった場合。
ーープラン23:要塞を落とした後、クシャルボコスに撃沈された場合。
ーープラン35:防雷が一方的に負けた場合。
異常なほどのプランの多さは、篠原らしいとも言える。レールガンの損失をうけて、大仲はプランの大半を占める「防雷が敗北したケース」を中心に改めて目を通していた。
その時、早期警戒基地から緊急連絡が入る。
「大仲大臣!防雷は未確認の大型UFBによって大破。太平洋上へ撤退中!」
大破と聞いて、大仲は一瞬世界が暗転した。しかし、撤退と聞き、少なくとも何人かの人命は守られた。その事実に胸をなでおろす。
しかし安堵している場合ではない。レールガンと防雷を失った場合の篠原のプランを実行するためだ。
ーープラン03:防雷・クシャルボコスが敗北し、レールガンまで失った場合。
書き出しは「最悪のパターンです」とある。
このプランは、主力兵器を失った埼玉・神奈川はUFBの報復攻撃を受ける可能性が高く、全県民を他県への避難を推奨するものだった。
埼玉だけでも東京からの避難民も含め、750万人の一斉避難は現実的ではない。
大仲はすぐに津田へ連絡を取る。
「大仲です。内密ですがUFB要塞攻略作戦は失敗です。私は退避の指揮を取ります。防衛大臣の臨時代行をお願いします」
津田のため息交じりの返答が聞こえる。
「承知した。だが、750万も退避させるあてはあるのか?」
「あります。まずは、津田さん、あなたや議員、要人などこの国の主権を守る人はすぐに政府の用意した車両で県外へ脱出してください。座標はお送りしておきます」
「大仲。君はどうする?」
「こちらの目途が立てば高速ヘリで脱出します」
この言葉を聞いて津田は声のトーンが落ちる。
「大仲大臣。あなたも主権を守る一員です。目途も大切じゃが、その目途は早めに切り上げて…」
津田の言葉を遮るように緊急無線が入る。
「大臣!こちら埼玉第3駐屯地です!赤い竜の攻撃を受けています!!輸送機が多数破壊されました!」
緊急無線の背景に、爆発音や叫び声が聞こえる。地面の揺れる足音のような衝撃音。
津田の無線を即座に切ると、1分。天井に揺れる蛍光灯を見つめた。
ーー竜だって?我々は何と戦っている。いや、それはいい、750万の一斉避難。それは無理だ。
ーー念のために集めた輸送機も何往復できるか。
ーーしかし時間がない。…日本の未来を最優先とすれば、地獄で詫びるしかないか。
大仲は何かを決意し、無味無臭のコーヒーを一気に飲み干すと、そのまま国民に向けた緊急会見を行った。
「防衛大臣の大仲です。みなさま、一部のUFBが埼玉での活動を確認されました。地域は限定されていますが、念のため県外への避難をお願いします。
今回の対象は、30歳以下の男性、女性、医療関係者、特定技術者の皆様になります。これは予防的な避難ですので、移動が体力的に難しい方は
ご自宅で待機されて構いません。シェルターも解放しておきますのでシェルターに自主避難も可能です。
時期ですが、今、この瞬間から行動を開始していただきます。詳しくは30分後に防衛相のHPに掲載します。また最寄りの自衛隊にお問い合わせください」
緊急会見に質疑応答はなかった。だが、カメラを切った大仲の表情は苦渋に満ちていた。
記者からは「なぜ、全員避難ではないのか?」「緊急性が曖昧だ」「30歳を基準とした根拠は?」などと質問が飛んだが、背を向けて表情を見ることすらなかった。
大仲は残っているR連隊を埼玉シェルターに集結させた。数は補充要員も含めても約300名である。
その間も、赤い竜は人口密集地を狙い手あたり次第人々を襲っていた。
篠原が事前にプランしていた台本には、全てAIのフェイクニュースとすることで24時間は稼げる。そう記されていた。
そのため、この大虐殺の様子は大仲の徹底した情報統制で、すべてフェイクニュースとして扱われた。
TVでは政府の依頼を受けたコメンテーターが、竜を不謹慎なAI動画であると断定しつつ、本当だったら撮影せず逃げるようにと繰り返し訴えた。
だが、現実は巨大なショッピングモールが強襲され、僅か数分で2万人が瓦礫に消えた。
緊急招集されたR連隊は12時間で埼玉シェルターに集結した。
それでもその間に、50万もの国民が命を落としており、情報統制も早くも崩れ始めている。
大仲の前に並ぶ、R連隊の面々からは熱気が上がり、獣じみた匂いと汗にまみれた服装から、不眠不休で集結したことを語っていた。
「R連隊の皆様、足立・仲原が不在のため、私が指示を代行します。事前に秘匿通達した通り、UFBの新個体と思われる”赤い竜”が埼玉の内陸部へ向けて移動中です。
今、この瞬間も、多くの国民の命が失われている状況です。我々の使命は、命の危険がある人々から危険を排除することです。討伐したい。私もその気持ちです。
しかし、危険の排除を優先します。ですから、すでに無人となっている千葉の舞浜方面への誘導を最優先とします。国民から物理的に離す。これを第一とします」
隊員から動揺の声が上がる。
千葉には黒い竜がいる。この事実もすでに共有されていたからだ。
一人の隊員が小声でつぶやく
「つまり、できる限り舞浜方面へ後退しつつ、討伐しろってことか…いや、ちがうな。討伐だったらここで地の利を生かして迎え撃つ。討伐は不可能。そういうことだな…」
大仲は動揺する隊員に声を大きくして告げる。
「諸君に家族がいることは分かっている。諸君らが未来ある人材であることも承知の上だ。だからこそだ、家族と、そして家族の未来を守るために、諸君らの未来を
私に預けてくれないか。その代償には足りないとは思うが、私も最後までこの作戦に参加する。頼む、日本の未来のために」
そして一機の輸送機を指さした。
「これから3分。私は席を外す。この作戦に参加できないものは、輸送機に乗ってくれ。ここで退いて未来の戦いに力を発揮してもらうことも大切な決断だ。
逃亡や弱腰とは誰にも言わせない。今を守るか、未来を守るのか諸君らの意思で決めて頂きたい」
3分後、大仲が戻ってみると……