2026年3月3日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑧》

 この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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密集した車列から1組のYA-24とDD-24が、急加速で離脱したのである。緩やかに後退していた車列から飛び出した2台、まるで群れから離れた子ヤギのように怪物の的になる。


リークが無線で怒鳴る

「どこの馬鹿だ!撤退だといっただろう!前進してどうする!戻れ死にたいのか!」


返事を返したのは、あの髭の高官だった。

「大佐、このままではどのみち全滅です。全滅すれば、ここにもまたタラメアの国家機密が残ってしまう」

「こちらで敵を引き付けているうちに残存部隊を連れて空母へ。我々は180秒後に自爆します」


リークは喉元まででた否定の言葉を飲み込むと一言、全兵士が凍り付くような恐ろしい声で無線を取った。

「エンジン全開。索敵ドローンは離散命令を出して放棄。全力で撤退する。急げ!」


怪物を迎撃しながら緩やかに後退していた車列だったが、YA-24は射撃を止めDD-24の牽引コネクタとの接続を優先する。


ガチャン、と重々しい音を立てて牽引コネクタが噛み合う。

戦闘で埃をかぶった鋼鉄のパーツ同士が、土煙を上げて強制的に連結された。これは本来、自陣内でDD-24を高速輸送するための機構であり、実戦で使われることはない。DD-24側の操縦系を完全に奪ってしまうからだ。


だが、DD-24の馬力不足を補うという点では、これ以上にない方式である。

結合が終わった車両から順に次々と急加速で戦闘地域を離れるタラメア軍。悪路もYA-24の馬力があれば速度が落ちることはない。


リークが指示を出す。


「DD-24は追撃してくる怪物を落とせ!同胞の犠牲によって、包囲網は崩れた。後方に専念しろ!」


その無線を切った直後、ひときわ明るい閃光が車列を後方から包み込む。

そして波のような衝撃波の直後、轟雷のような炸裂音が響く。高官のYA-24とDD-24が自爆したのだ。


YA-24の自爆は弾薬室の誘爆を誘う設計だ。DD-24も端末AIの下にある自爆専用の特殊燃料によって超高温で燃え上がる。

誘爆による衝撃で高温の特殊燃料が飛散し火球のような状態になり、怪物の大半は瞬時に灰と化し霧散した。


その光景は、まるでリークに「行け」と告げているのかの様であった。


その火球を逃れ追ってきた数体も、YA-24に牽引されたDD-24の機銃で迎撃し、リークは九死に一生を得た。


舞浜に接舷していた揚陸艦に戻れたのは、6台。失ったのは高官の率いた部隊2台と、撤退中に破損し動けなくなった車両を放棄して自爆させた2台。

あの状況からの撤退行動での帰還率としては100点に近い。


だが、リークの表情は極めて厳しいものだった。兵士はみな一言も発することはない。視線も合わせない。人の皮を被った猛獣のような黒い怒りに包まれたリークはクシャルボコスへ帰還すると、さらに衝撃を受けることになる。


今回の戦闘データを解析していた中枢AIが、自衛隊から渡された「偽のデータ」を判別していたのだ。この偽のデータがAIの判断に僅かな遅延を生んでいた。

違和感の正体に気が付いたリークの脳裏に、AI篠原の顔が浮かぶ。


ーー島国の小国が私を欺いた?篠原に喰わされたのか?いや、今思えば不自然な点があった。私の質問に答えた大仲の表情は明らかに動揺していた。

この私が見逃した?いや、秘匿施設の強襲を読まれていた。想定されていなければこれほど巧妙な偽のデータは作れない。


「う、うああああ!」


限界を迎えた感情のリミッターが弾け飛び、リークは硬い船体を拳で何度も叩きつけた。だが、小国に出し抜かれたという屈辱も、失った同胞の痛みも、そんなことで紛れるはずがない。理性で抑え込んでいたはずのド黒い殺意が、獣のような唸り声となって彼の喉から溢れ出した。


「これよりクシャルボコスは東京湾に入り、短距離ミサイルで池袋を更地に戻す。核弾頭に換装しろ!」


太平洋に停泊していたクシャルボコスは護衛のフリゲート艦「エルズワン」「アルイントス」を引き連れて、東京湾へ錨を上げた。


これは、髭の高官がリスクが高すぎると否定した案に、核を上乗せした最悪の決断だ。しかし、憎悪に燃えたリークは高官の死を作戦失敗の一コマにするのではなく作戦成功の功労者にする。そのことしか頭にはなかった。


移動を始めて僅か3分で日本側からのホットラインが入る。


「告ぐ。クシャルボコスの領海侵犯は認めない。転身されたし」


この声にリークは聞き覚えがあった。そう、防衛大臣の大仲の声だ。リークは自分を欺いた大仲に低い声で返す。


「大仲。楽には死ねんぞ」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


1時間前、R連隊作戦司令部


大仲、津田、といった大物政治家と

足立、仲原、とその上官、自衛隊の制服組。

そして、モニター越しにUFB研究室長の篠原が参加した話し合いが行われていた。


タラメアの敗走を受け、篠原が核が来ると予想したためだ。


「本当に勧告なしに核を撃つのか?」


津田が半信半疑で篠原に問う。


「撃ちます。撃たざるを得ません。タラメアは既に同盟国である我が国の極秘施設に侵入。情報の強奪。強制的な上陸作戦と国際的な一線を何度も越えています

 国際的批判という対価を払って、負けました、では済みません。威信にかけて絶対に作戦を成功させる必要があります」


大仲が話を割るように聞き返す。


「だが、撃ったところでクラスターの時のように作動しないのではないか?」


これに対し篠原はやや溜め息交じりに返す。


「クシャルボコスの間接射撃の射程は30kmです。時限式信管にしておけば軌道は弾道軌道。爆発は時限タイマー式。場合によっては成功します。

 タイマーの方式次第ではありますが」


それを聞いた足立は驚いた。席から立ちあがるとAI篠原を指さしてこう聞いた。


「お前、それはつまり、クシャルボコスが東京湾に入るってことだぞ!」


足立のこの反応に喜ぶ篠原は饒舌になる。


「その通りですぅ。電子妨害を回避しつつ、池袋の付近に核弾頭を落とそうとすると、結構射程がギリギリなんですぅ。上空の風向きも考慮するとぉ完全に湾内にはいる感じになりますねー」


足立はそれを聞いてさらに興奮が収まらない。


「大仲さん、核を積んだ空母を東京湾にいれることは容認できません!内政干渉の域を超えて、もう侵略行為ですよ!」


その時、自衛隊の緊急連絡が入る。


「空母クシャルボコス、護衛艦エルズワン・アルイントスを連れ東京湾へ接近中!」


大仲は執務室に戻るとホットラインを手に取った。


「告ぐ。クシャルボコスの領海侵犯は認めない。転身されたし」


だが、リークの声は以前の「キョウダーイ」とふざけていたトーンとはまるで違った。低く、声だけでも強い怒りと憎悪を感じる恐ろしい声だった。


「大仲。楽には死ねんぞ」


その声に、篠原の予言の信ぴょう性の高さを感じ取った大仲は、R連隊作戦司令部に戻ると状況を説明した。


そして宣言する。


「海上自衛隊の予備兵器だった263番で対応する。用意はできているか仲原三佐」


仲原はここぞとばかりに声を張って答えた。


「263番は物理兵装に換装を終え、現在は客船に偽装し茨城沖に停泊中です。また、正式配属に伴い艦名を改めました。防雷(ボウライ)とお呼びください」


この決断は、すでに篠原に促されていた。


ーー討たれる前に撃つ。


大仲は宣言する。


「防雷抜錨。目標空母クシャルボコス。狂人の船から主権と本土を守れ!……電子妨害のエリア内で撃沈せよ!」

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