2026年5月26日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑮_3/5_代行者候補》

 篠原は無表情でその様子を見ながらつぶやいた。


「これがリアルな死……。大臣でも兵士でも民間人でも等しく死ぬ。そっか、いつか私も。」


そう言うと顔色を悪くして空を眺めた。黒煙に染まった空は篠原の気持ちを表しているようだった。


2日後、津田議員は大仲大臣の遺言により、正式に防衛大臣に任命された。


野党議員でありながら異例の就任であるが、その実は与党も含め誰も引き受けない重責職を押し付けられた形だ。


その頃、デスランドでは神による休眠中の代行者選定が行われていた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


崩れた居城デスランドは外見上そのままだが、内部構造は神の力で修復されていた。


重い空気の中、会議室では議論が交わされていた。


「ですから!サーチもヴァロンもわかっておりません!神様の代行者に相応しいのは、人情があって強くてカッコイイ人物であるべきです!カリスマです!」


ベルガンの大声が響く。サーチがため息交じり返す。


「代行者の任期は200年。カリスマよりも人間を理解できる人物であるべきです。無難に過ごし、神様のお目覚めを待つのです」


ヴァロンも黙っていない。


「そうではない。代行者だぞ。代行するモノだ。何を代行する?神は何をされてきた?わかるだろう。人類の査定だ。守護すべき種族であるか継続して調査すべきなのだ」


神はそれを聞きながらほんの少し笑みを漏らしていた。

そして切り出した。


「まてまて、この二日間、俺の力で候補を4人に絞った。それを見てから意見を聞かせてくれ」


そういうと、4人の人物の映像が順に宙に映し出される。


「まずは一人目、タラメアの ボンズ・タラ・ケリス。彼は青年時代に紛争に巻き込まれ、両親兄弟を失っている。ゆえに争いを強く憎む人物だ。

 だが彼はトップクラスの兵器開発者。世界中の悪を倒し、世界を平和にするために兵器を作る。思想が俺に近い。だが倒すべき悪とは誰の悪なのか、気づかぬ所が面白い」


青い研究服に身を包んだ、30代くらいの眼鏡をかけた男性だ。



「そして二人目、華花人民国(かなじんみんこく)の 王 雨桐(おう ゆーとん)。彼女は人材運用の天才だ。人の行動から心理や特性を見抜き、適材適所で10社以上の大企業を生み出した。それでも目立たないのは自身がトップに立たず、適切な人材をトップに据えるためだ。

 その力は組織的に人類を導くには最適だ。だが、彼女の判断には本人の意思が入らない。体力があれば体を使う仕事へ、器用であれば職人へ、だが、それは人類が幸福になるのか、ただ効率よく飼われるのか。そこが面白い」


30代前半の容姿端麗。長い黒髪に鋭い目つきの女性だ。


「次は三人目、日本の 篠原 涼音(しのはら すずね)。国内で上位3人に入る頭脳の持ち主だ。特に知識欲が強く僅かな情報からでも思考を巡らせ多くの事実を推測する。

 ヴァロンと戦った鉛の船の指揮官だ。冷静沈着、人間に対しても俯瞰的で思い入れも特にない。欠点らしい欠点は知性と体験の剥離だが、経験を積めば見込みがある」


どこかの施設で机にしがみつき、何かのプランを練っている篠原が映る。


「最後は4人目、こいつも日本。大荻山 勝利(おおぎやま かつのり)。権力者の長男だ、父親の影響で国内外への人脈も広い。損得勘定と状況判断能力は父親よりも優れている。この男は今はまだ凡人だ。

 だが秘めた才能は財を築いた父から引き継いでいる。目的を達成するために手段を問わない冷徹さ。そして必ず達成させる実行力はその片鱗だ。才能だけではなく父親と同じく他者を道具として認識している歪みが興味深い」


20歳前半の体格のいい男が、大きなソファーに偉そうに座り、両脇に女性を座らせている。


神は4人を紹介すると改めて眷属に意見を求めた。


まずベルガンは不満そうだ。


「神様、これらは戦いに出て役に立ちますかねえ?特に大荻山。見るからに我先にと逃げ出しそうですよ!ボンズは面白そうですが、王や篠原はサーチやヴァロンで十分ですよ!」


つぎにサーチ。


「王 雨桐。組織を作る天才。組織を作るのは神の特権。代行者が勝手にすべきではないと思います。ボンズと大荻山は代行者の器とは思えません。篠原は神様に近いものを感じます。それが少し怖いです。」


最後にヴァロン


「なるほど。まず、ボンズ。この男にエーテルを持たせれば面白い反応が期待できます。つぎに王 雨桐、我々眷属が作った組織を運営させればうまく活用できそうです。

 篠原 涼音、鉛の船の指揮官。戦術的には惜しいところでしたが教育すればよき士官になりそうでした。大荻山。あの男の息子ですか、能力は高そうですが思想は再教育でしょう」


このコメントに神は黙ってうなずいて聞いている。

そしてこう切り返した。


「大荻山は、まだ若い。再教育は200年もあれば変わるだろう。王 雨桐については問題は組織力ではなく人類への情だろうな。篠原の良さは戦ではない、その観察力だ。50年後、再戦したら負けるんじゃないのかヴァロン!。

 ボンズのエーテル研究は面白そうだ。エーテルを使った兵器で眷属とは違う脅威を人類に与えることができそうだな」


ヴァロンは、からかわれて苦笑しつつも、こうまとめた。


「実際に話してみなければ結論は出ないでしょう。本人の意思も聞いてみたいところです。いかがでしょう神様、彼らをこのデスランドに召集してみては?」


「ふむ。代行をお願いするわけだから呼びつけるのも気が引ける。今回は俺の失態が招いているしな。こちらから出向くとしよう」


そういうと、パチンと指を鳴らし空中に光の環を作り出した。その光は一瞬で神と3眷属を飲み込むとその場から消え、遠く離れたタラメアの一室で球体となって表れて、彼らを放出した。


目の前には自宅で本を読んでいたボンズが、驚いて硬直していた。


「やぁボンズ。私は神だ。詳しい話は脳に直接送るので理解してくれよ」


すると神はボンズにすぅっと指を向ける。その瞬間、ボンズの脳内に大種族神の審判、神の代行者選定など、これまでの経緯がまるでゲームのセーブデータのように一瞬で焼き付いた。


「な、なるほど・・・。それで私の元に。私が代行者となれば素晴らしいエーテルと科学を融合させた兵器で人類に脅威を。そして判定AIを作り出し査定を行いましょう。そして悪を根絶やしにし、平和な社会を構築して見せます」


その言葉を聞くと、神は再びパチンと指を鳴らす。再び光の輪が現れ、神と3眷属、ボンズを王 雨桐のオフィスへ転送した。


神は同じように王 雨桐に記憶の一部を転送する。怯えていた王 雨桐も理解をすると落ち着いて話し出す。


「神様、私が代行者となれば200年後、あなたが驚くような理想郷を作ってみせましょう。そこの皆さんとも共存共栄できる素晴らしい人間の世界をお見せしますわ。

 私はこう思うのです。なぜ人は、あえて困難な道へと迷い込むのでしょう。なぜ、正しき道を選べないのでしょうか。それはきっと、まだ知らないからです。本当に帰るべき場所を……」


王 雨桐の慈悲に満ちた瞳にサーチが、思わず半歩下がってしまう。迷いのない真っすぐなまなざしにサーチの共感能力が作用したのだ。


次は篠原、ではなく、大荻山の豪邸だった。ヴァロンが呟く。


「なるほど、本命は最後ですか……」


神が現れた瞬間、大荻山は大慌てで袖机から銃を取り出すと、何も聞かずに反射的に発砲した。しかし弾丸は一瞬で速度を失い地面に落ちる。すると、横にいた女性を神に投げつけると、そのままソファーを飛び出し出口へ逃げようとする。

当然、サーチがこれを捕らえ、やっと記憶の転送となった。ベルガンの冷めた目が彼に刺さる。


「神なら神と言ってくださいよ!この大荻山、人脈には自信があります。神の手勢を汚すことなく人間を神に従属させて見せますよ。その時は私にもポストをお願いいたします」


ヴァロンのため息とともに、再び転送、全員がR連隊臨時研究室の所長室に移動した。


篠原は一瞬驚いたが、すぐに言葉を返した。


「大荻山?王 雨桐?それにボンズ・タラ・ケリス?・・・えっと、ここはR連隊の研究室に何か御用ですか?所長の篠原は席を外していますが・・・」と嘯いた。


しかし神が記憶を転送するとすぐに理解する。


「代行者ですか。見返りは不老不死に近い寿命。はぁ、魅力的ですがぁ、意外と不老不死も大変そうですしぃ、少し考えていいですかぁ?」


神に対しても変わらぬ態度にサーチの心がチクリとする。篠原は続ける。


「ただぁ ボンズ・タラ・ケリスさんはぁ本質的に開発者なので、モノづくりに没頭するでしょうねぇ、神になれば何でも作れる。それは恐ろしい兵器ができるでしょうねぇ。虐殺の」

「それに 王 雨桐さんはぁ組織力が最大の魅力ですがぁ、強力な王がいる場合はあんまりいらないんですよねぇ。むしろ求心力がある部下は分裂の火種っていうかぁ」

「あと大荻山はぁ、あなたの人脈は父上のものですからぁ、今後は衰退するのではぁ?むしろ少し衰退がはじまってるマスよね。腕時計が最新型の特注品ではなくなってますしぃ」

「そう考えると、私以外微妙でありますねぇー。神様1日もらえますか?」


神は黙ってうなずいた。

その後、それぞれは元の場所に転送されていった。篠原に罵詈雑言を浴びせる大荻山をみて、再びヴァロンがため息をついた。


その頃、日本では津田防衛大臣の着任演説が行われていた。


「国民の皆様。防衛大臣に着任いたしました、津田です。


先日のドラゴン発生時、政府が情報をフェイクニュースと断定したことについて、一部SNSなどで批判の声が上がっています。

そのご指摘は、重く受け止めています。


しかし当時、国民の皆様の間に大規模なパニックが起きていれば、被害はさらに拡大していた可能性があります。

皆様が冷静さを保ち、道路網が機能していたからこそ、大仲前大臣と有志のR連隊は赤い竜を舞浜方面へ誘導し、埼玉での被害を大きく抑えることができました。


神奈川方面でも、陸上自衛隊と航空自衛隊によるかく乱行動により、被害の拡大を防ぐことができました。

避難誘導に多くの人員を割かずに済んだことも、作戦遂行に大きく寄与しています。


政府の判断に対する批判は、私たちが受け止めるべきものです。

そのうえで、国民の皆様の冷静な行動とご協力に、心より感謝申し上げます。


最後に、大仲前大臣についてお伝えします。


大仲前大臣は、最後まで赤い竜と対峙しました。

回収されたブラックボックスの記録から、最終的に自らの命を賭して攻撃を行ったことも確認されています。


少なくとも、あの判断は保身のためのものではありませんでした。

国民を守ろうとした、その一点だけは、どうか知っておいていただきたい。


以上をもちまして、私の着任の挨拶とさせていただきます」


大仲大臣の自爆は、世論に大きなインパクトを与えた。広がりつつあった政府への不満。千葉の住人の80%が死亡したという事実で広がっていた不安。これらが最小限の被害であったという認識が広がったのだ。


そして翌日、候補者の4人の元に神は再び訪れた。


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