この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
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「人間よ、お前はこの件で、多くの苦しい判断を迫られたのだろう。よかろう、ついて来い」
そういうと光が強くなり、場面は見たこともない城の玉座へ移る。大種族神から大仲に知識が流れてくる。
この玉座に座りうな垂れている男が「種族神」であることも即座に理解できた。
種族神はゆっくり顔をあげると、落ち着いた声で大仲に向かって声をかける。いや、正確には大仲の隣に立つ見慣れぬ大柄な老人「大種族神」に向けた言葉だ。
「大種族神様。用件は察しております。やはり、私はどうしてもこの醜い種族に加護を与える気にはなれません。ご自由に処分してください」
大仲から見た、種族神の表情、所作は永田町で何度見た引責辞任を決意した議員の姿に重なった。そのうえで「処分を任せる」という全面降伏は議員生命の進退を任せる硬い決意を感じざるを得なかった。
ーー神もまたルールに縛られる。ルールを逸脱してまで、何を成そうとしたのか
大仲の脳裏に、一つの疑問がよぎった。
大種族神は長髭を撫でながら一歩前にでる。
「そう焦るでない。まずは、眷属共を戻してやろう」
そういうと、髭を一本抜いて息を吹きかけた。髭は青白く強烈に発光し、すぐに消えてしまう。だが次の瞬間、そこには人型へ戻った三体のUFBが立っていた。
立ち上る粉塵。まとわりつく熱。焦げた匂い。
それらが、三体を戦場から強制的にこの場へ引き戻したことを物語っていた。
髭をたくわえた個体は無傷に近かった。不思議と知るはずのない名が浮かぶ。彼はヴァロンというらしい。
女性型の個体――サーチは無数の細かい怪我を負っていた。
そして何度もR連隊と交戦した筋肉質の個体――名はベルガン。片翼を大きく損傷し、よく見れば腕や足にも深い傷を負っている。
突然の転移、そして人型への強制変形の影響なのか、三体とも四肢の感覚を調整するようにぎこちなく体勢を立て直す。
数十秒かけてようやく動きを取り戻す。動くようになった首を左右に振って状況を確認する。まるで敵を捜すような殺気だった動作。
だが、そこが居城であると確認すると、三体のUFBはお互いを見つめ合い、自分の体を見回して暫く無言で立ち尽くしていた。
そして女性型の個体がベルガンの深い傷を見つけると、慌てて肩を貸し怪我を気遣うような表情を見せた。
やがて三体は、自然と種族神の元へ集まってゆく。
「ヴァロン、サーチ、ベルガン。すまなかった。人間時代の感情に流され、気がついたらここに座っていた。大種族神様の御前だ膝をつけ」
その言葉で初めて大種族神に気付く三体は慌てて膝をつき頭を下げる。
種族神が三体に手のひらを向けると、彼らの傷は瞬時に回復した。
三体に対して大種族神はこう話しかける。
「お前達から見た、この行動をどう見る?審判か?天罰か?それとも別の何かか?」
ヴァロンはサーチを見つめ、サーチとベルガンは互いを見つめ合い、すぐに答えは出さない。転移の際に連れてきた焦げた匂いが次第に弱まっていく。
大種族神は三体に視線を送るが、決して急かすような視線ではない。むしろ、いくらでも待つ。そういった面持ちだ。
大仲はこの時確信した。UFBは単純な怪物ではない。複雑な関係と、感情を持った生物なのだと。返答次第では創造主たる種族神の進退が決まる。
それを察して最適な返答をアイコンタクトで相談しているのだ。
口火を切ったのは意外にも種族神だった。彼はあきらめたように言う。
「この三体に、竜化中の明確な記憶はありません。私が竜化させる際に知性を奪ってしまいました。正気を失い、殺戮衝動に駆られただけです」
するとベルガンが咄嗟に声を上げた。
「ちがいます!確かに衝動はあった。抗えないほどに。しかし、神は俺たちのコアを汚していない。ですから、進言します。今回の件は人間が神の眷属であるサーチを傷つけたことによります。これは天罰であります」
サーチとヴァロンが続いた。
「私のコアに残った記録を共有いたします。私は鉛の船と戦いました。しかし、仲間を思う人間の強い意志に私のコアは共感し、行動を変えました。これが証拠です」
「大種族神様。軍師ヴァロンと申します。種族神のルールでは虐殺は大罪。今回の騒動は虐殺。これは事実かもしれません。ですが、神は人間時代に同族から受けた深い傷を再び刺激されたのです。それゆえの激昂です。まだ誕生して間もない神の失態。これこそが次なる成功への体験であると確信しています」
ーーかばっている。まるでR連隊の連中が記者や野党議員からの追及から私を守ってくれた時のようだ。
ーー筋肉質の男、あれは足立だな。感情的でありながら、論点をずらすことで救う。よく似ている。
ーー女型、あれがサーチか。防雷が九死に一生を得たのは事実。都合の悪い部分はあえて言わないところは、仲原そっくりだな。
ーー軍師ヴァロン。あれは津田さんに近い。すべてを見込んだうえで、それを反転させる話題の誘導力。正論だが答えを決めた上手い言い回しだ。
それぞれの意見が出揃ったところで、大種族神は審議を始める。
大仲の横にいた大種族神が語る。
「虐殺。守護すべき種族への行為としては最悪です。解任すべき」
すると、全く同じ姿の大種族神がベルガンの横にフワリ現れた。大仲の横にいる大種族神は消えていない。
ベルガンの横に現れた大種族神はこう語る。
「だが、人は神の眷属を傷つけた。これは種族神に対する冒とく。天罰としてとらえるべきであろう」
続いてサーチの後ろにも大種族神が現れる。
「ふむ。人から見れば虐殺。だが、見逃した例もある。神が悪に落ちたとは早計ではないか?」
そしてヴァロンの前に現れた大種族神も続く
「虐殺は事実。天罰としても殺しすぎである。だが、この種族神のコアには大きな傷がある。どうみるか?」
最後に種族神の後ろに大種族神が現れた。
「まだ若い神だ。過ちも犯すだろう。だが虐殺は許されぬ。コアの傷がある限りまた繰り返すであろう」
大仲の横にいた大種族神がそれぞれの意見をまとめ、髭を撫でる。
何人もの大種族神の分身はそれぞれに主張を展開し、その議論での役割を終えると消えていく。
一つ、また一つ、大種族神の分身は消え、最後に本体が残った。
「結論が出た」
「消滅だ。多角的に考慮をしても虐殺は相殺しきれぬ。ゆえにルールに則り種族神は消滅とする。」
その時、大仲の隣にもう一人の大種族神が現れた。
「待て、その権力の執行に対して是正の意図が明確であるか。」
大仲の心の代弁者である。大仲は感じていた。この事件で死んだ人々の犠牲。これは活かされなければならない。
種族神が消えてしまえば、犠牲は種族神を交代させるための数字になってしまう。
「結論が出てから、もう一人の私が出てくることは珍しい。強い思い……再考に値しよう」
すると二人の大種族神は少し離れたところで議論を交わすと、一人が消え、残った一人が種族神の前に立った。
「下す。二百年の眠りにつけ。執行は7日後。二百年眠れ。さすればコアは癒え、再発もあるまい。異論はあるか?」
神はうつむいたまま、絞り出す声で訴えた。
「二百年、承知しました。ですが、その間、種族神が不在になってしまいます。代行者を立ててもよろしいでしょうか」
「好きにせい」
そういうと、裁きのために顕現していた大種族神そのものが、ゆらりと光へ溶けた。
その瞬間に張りつめていた空気が弛緩した。
「神様!!」
飛びついたのはサーチだった。ベルガンが慌ててサーチを抑止する。ヴァロンは穏やかな表情でやり取りを見つめていた。
大仲は複雑だった。今の政治家でこれほどのカリスマ性をもつ人物がいただろうか。腹を探り合い、損得を計算し、そのうえで感情で衝突する。
永田町はそういう場所だった。どちらが良いか悪いか大仲にも分からない。だが、この光景をみて羨ましいと思う気持ちは本物であった。
その気持ちを反すうしていると、少しずつ思考が鈍くなるのを感じた。
自分の手足がさらに薄くなり、意識も鮮明さを失っていく。
ーーこれが本当の死なのか。
ーー思い残すことは沢山あるが、あとは託して休ませてもらおう。なんだかとても疲れた……。
大仲は眠るように瞳を閉じると体は完全に消え、その魂は天界へと昇って行った。
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