2026年7月28日火曜日

人類アンチ種族神 -エピローグ- 1-2 やさしさ

※本エピソードは本編「人類アンチ種族神のV章⑮」以降のエピローグになります。

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仲原は、隊長の部屋で男性向け雑誌を発見していた。


そして、一段と強くついた折り目のあるページ。理由は想像にたやすい。


そのページには、筋肉など微塵も感じさせない「いかにも」な女性が、表現のしようのないポーズで写っていた。


「なるほど?」


声が漏れる。どう見ても戦力としては弱い。この無駄な肉に隊長は何を思うのか……。


とりあえず付せんを貼り、赤いマジックで一言書いておく「注目!」


そして本棚に戻し、再び掃除の任務に戻った。


その頃、足立は焦っていた。原因は、今朝突然決まった仲原の「世話係」任務である。


急な出来事だったため、いわゆる「秘蔵のコレクション」を、慌ててタンスの後ろへ隠してきた。


しかし、足立は内心、分かっていた。


仲原も陸自の人間だ。足立が慌てて何かを隠したことなど、確実に見抜かれている。


規則を重んじる仲原のことだ。どんな冷ややかな目で見られるのだろうか。


足立は思わず、バスの降車ボタンを連打した。



「ただいま! 変なものを見せて申し訳――」


途中まで言いかけた足立の言葉は、美しく整頓された空間へ吸い込まれていった。


「これが俺の部屋か?」


思わず玄関の外へ戻り、部屋番号を確認してしまう。


「お疲れ様です、隊長! いえ、陸将殿!」


「ああ、お疲れ。あの、段ボールとゴミの山は?」


「片付けておきました。幸い、この宿舎はいつでもゴミを出せますので、ゴミは分別して廃棄しました。段ボールは、中身が書いてあるものだけ開封して収納。何も書かれていないものは、部屋の隅にまとめ、備蓄用の資材ケースへ収めて目立たないようにしてあります」


脱衣所も、これまた美しかった。


毎回、手のひらでこすらなければ姿が映らなかった鏡は、水垢一つない新品のように輝いていた。

脱ぎ散らかした服も下着もすべて消え、風呂場の床は本来の色を取り戻していた。


「まるで高級ホテルみたいだ……」


鏡に映る額の汗をみて、足立は我に返る。コレクションの回収だ。


仲原を置き去りにするようにすれ違うと、急いで自室に戻った。


自室も凄かった。まるでモデルルームのように美しく、それでいて移動動線などが最適化された配置。


デザイン的な美しさと機能美、そのクオリティーの高さに、思わず声がでる。


「おいおい。このベッドも本棚も二人以上で組み立てるヤツ……」


そう言いかけて、視線を向けた先で特に目を引いたのは、足立の秘蔵コレクションだった。


大きな付せんが貼られ、赤い太字で「注目!」と書かれている。


「ちょ、ちょっと!」


足立は慌てて秘蔵コレクションを本棚から抜き取り、胸に抱えて隠した。


そこへ、ちょうど仲原がやってきた。


足立は思わず、禁断の質問を口にしてしまう。


「見……見たのか?」


「はい。男性向け雑誌に興味はありませんでしたが、陸将殿の私物でしたので、内容を確認しました」


「なんで付せん?」


「深く折り目が付いておりましたので」


仲原の視線に温度はなく、感情は一切読み取れない。数秒の沈黙の後、少し表情を崩した仲原はこう付け足した。


「このようなものは、宿舎への持ち込みは禁止されております。今回は急に押しかけた私にも非がありますので、本件は忘れます。ですが、次は見かけ次第、報告させていただきます」


これは目の前で捨てるしかない。足立は数年来の秘蔵の友人を泣く泣くゴミ箱に投げ捨てた。


その様子を見た仲原は、なにか一仕事終えたような声のトーンに変わる。


「では、隊長……いえ、陸将殿。食事の準備ができております」


「あ、ああ、それからさ、隊長でいいよ。その方が呼びやすいだろう?」


「しかし、現在は所属も異なります」


「はぁ。そんじゃ、陸将として命ずる。仲原一佐は今後私を隊長と呼びたまえ」


「……。はい。隊長殿」


「よし、じゃあ飯を食おう」


足立がテーブルに目を向けると、豪華な料理が並んでいた。


しかし、大きな違和感がある。食器が一人分しかないのだ。


「ん? 食器が足りなかったか?」


「いえ、私は任務ですので。陸将…いえ隊長殿と同じテーブルには…」


足立は何も言わずに、食器棚に向かうと、いくつかの食器を取り出し、テーブルに並べた。


「なぁ仲原。あんまりさ、陸将扱いをしないで欲しいんだよなぁ。階級よりもさ、戦友だろ」


「し、しかし…」


「一緒に二階級特進した戦友じゃないか!」


「その言い方はやめて下さい。何となく縁起が悪いので」


「わかったよ!でもさ、なぜ津田大臣が直々に、一佐に昇進した仲原に俺の世話係なんてさせたと思う?」


仲原は顎に手を当て数秒間思考するとすぐに答えを出した。


「…!階級を越えて情報の共有を…」


「そうだよ。平たく言えば、職務上では話せないような内容もお互いに共有しろってことだよ」


「それなのに、陸将殿、陸将殿って、硬いんだよなぁ。もっと仲良くしようぜ」


「まったく。私の捉え方次第ではセクハラですよ」


「そういう捉え方はしないだろ。さ、食べようぜ!」


やれやれといった面持ちで仲原もテーブルに着く。


「それで隊長。護衛対象はいかがですか?」


「直球だなぁ。まぁそうだな、詳しいことは理解できん。だが、表の計画と裏の計画がありそうだな」


「表と裏ですか。裏とは?」


「わからん!」


「まぁ護衛なんて眺めているだけだからなぁ、正直、天才同士の会話なんて聞いてても退屈で死んじゃうよ」


「細かく聞いたところで、面倒そうに解説されるのも癪だしなぁ」


その時、足立の箸が止まる。


「ん!」


「これは美味しいな!」


「ああ、それは塩分を控えても味がぼやけないよう、レモン果汁を使用しました。酸味で食べやすくなり、ビタミンも摂取できます」


「仲原は優しいよなぁ」


「は?」


「いや、だってさ、任務としての世話なんだから、食事なんて携帯食料でもいいわけだろ。バランスが良ければいいわけだし」


「はぁ」


「でもさ、食材を買ってきて料理をしてくれるじゃない」


そう言って、足立は仲原の手製のサラダを美味しそうに口へ運んだ。


「いえいえ、私は幼いころから任務は100%では足りない、110%で達成しろと育てられてきました。手料理は、その10%ですよ」


仲原はそう言うと、照れくさそうに箸を進めた。


「10%ねぇ」


そう言って笑う足立を見て、仲原は不思議な気持ちになった。

この人は、手料理に何の価値を見ているのだろうか。携帯食料か、手料理か。そんなに気にするようなことなのだろうかと。

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