2026年7月7日火曜日

人類アンチ種族神 【エピローグ】 1-1 足立のコレクション

※本エピソードは本編「人類アンチ種族神のV章⑮」以降のエピローグになります。

 本編とは違い、サブキャラクターに視点を合わせて不定期で掲載します。

ーーー

篠原涼音が代行者になってから、二十日が過ぎた。足立はデスランドの会議室で、篠原の警護に当たっていた。とはいえ、気は抜けきっていた。


対ドラゴン戦で損耗したR連隊は再編され、タラメアからの戦力も一部補充されたことで、二国同盟軍と改称された。


足立は、その同盟軍で「篠原代行者 特別護衛部 直属陸将」という仰々しい肩書をもらっていた。


だからこそ、ぼやかずにはいられない。


「ふぁぁ。なーにが陸将だよ。結局、篠原の護衛じゃねーか。大体、代行者様に護衛なんているのかねぇ」


冷めた視線の先では、篠原がヴァロンと何やら計画を練っていた。


そこへ、ベルガンがやってきた。


「足立。暇なら計画を共に考えたらどうだ?」


「むりむり。あの二人の会話を理解できるのは、未来のスパコンくらいだよ。お前も暇そうじゃないか、ベルガン」


「まぁな。査定の再開は五年後だというし、デスランドにいる代行者を警護しろと言われてもなぁ」


「そうそう。世界中のどのシェルターよりも安全な場所に、何の脅威が来るんだろうねえ」


足立とベルガンは、事実上無意味なポジションに溜め息をつくしかなかった。


サーチは違うらしい。報告では、篠原の指示で、代行者に否定的な勢力の粛清を行っているという。自慢の索敵能力と代行者の視界をリンクさせて目標を捕捉し、あえて民衆の前で殺害し、次のターゲットへ向かう。その繰り返しだと聞いている。


「ベルガンは粛清に行かないのか?」


「フン! 俺様が行くと恐怖を煽りすぎると、ヴァロンに止められた」


「お互い、上には逆らえないか。暇だねぇ」


「うるせえよ。でも、意外だな。もっと粛清に反対するのかと思ってたぜ」


足立は天井を見上げながら、うつろに答える。


「最初は反対したけどなぁ。でもリストを見てみれば……」


足立は言葉を切り、一瞬だけベルガンに視線を移す。


ーーまぁ、リストの内容は知ってるか。


思考を挟むと言葉をつづけた。


「自分の宗教を守るために教徒へ自爆テロを命じようとしていたり、対立を煽る武器商人だったり。普通に危険人物なんだよなぁ」


これを聞いたベルガンも例を並べる。


「それに、他国の工作員だったり、領土を侵略しようとする軍隊だったり……人間共の強欲さは筋金入りだ!お前も大変だな!」


足立は視線を戻さないまま、力なく締めくくった。


「結局、サーチちゃんが頭を粛清しているおかげで、被害が減ってるんだよなぁ」


「フハハ!」


こうして足立の一日は過ぎ、彼は埼玉にある宿舎へ帰った。宿舎と言っても、幹部クラスが使う堅牢なマンションである。


部屋に入ると、買い置きしていたカップラーメンを食べ、酒を飲んで寝る。それが足立のルーティンだった。入居して十五日。しかし、未開封の段ボールとゴミの山が、足立の私生活を物語っていた。


組み立てられていないベッドのマットレスに散らばったゴミを無造作にかき分け、天井を見つめていると、段々と意識が薄れていく。


「暇だと思っていても、やっぱり敵の居城にいるのは疲れるのかねぇ……」


「反抗勢力の危険人物や工作員を使った見せしめか。大仲さんが聞いたらブチ切れそうだなぁ……」


一言ぼやくと、足立は眠りについた。


翌日。


「ピンポン」


早朝に呼び鈴が鳴った。


「なんだぁ、もう。交代まで三時間もあるじゃないか……寝かせてくれぇ」


足立は、もぞもぞとマットレスに戻ろうとした。


「ピンポン」


「うるさいなぁ。そういや、この宿舎は簡単には入れないはずだが……」


足立はハッと起き上がると、枕もとの銃を取った。


ゆっくりとドアへ近づき、物陰から声を返す。


「誰だ?」


すると、意外な声が返ってきた。


「隊長……いえ、陸将殿。私です、仲原です!」


仲原は、「篠原代行者 特別護衛部 行動監視室」に異動になったはずだ。


チェーンをかけたまま、ゆっくりとドアを開けると、笑みを浮かべた仲原が立っていた。


「お久しぶりです! 隊長!」


「お、おう。ちょっと散らかってるんで、重要な用件なら会議室で聞くよ」


「いえ、お気遣いには及びません! 入れていただけますか?」


そう言うと、仲原は一枚の紙を差し出してきた。


「ん? なんだこれ。津田防衛大臣からの指示書? いや、手紙か……」


「拝啓 足立君。新職務ご苦労。噂で、君の私生活が荒れていると聞いた。多忙なのは分かるが、一応、君は陸将だ。周囲の視線も気にしてほしい。そこで、週三回、仲原一佐を君の世話係として向かわせる。旧知の仲だろう。宿舎の管理だけではなく、愚痴なども聞いてもらうといい」


手紙を読んで、足立は理解した。


つまり、部屋を片付けろ。まともな生活をしろ。そして、篠原の状況を仲原と共有しろ、ということだ。本命は最後の共有だろうな。そうなると、会議室も使えない。入れるしかないか。


足立は諦めてチェーンを外した。


玄関に入った仲原が、一瞬、動きを止め、思わず声が漏れる。


「隊長。こ、この臭いは? いえ、それより廊下の半分がゴミと段ボールで通れませんが?」


「言ったろ! ちょっと散らかってるって……」


仲原が少し怖い目つきで足立を睨みつける。


「この緩んだ空気の正体が分かりました!まずは掃除、洗濯、ゴミ出し。今から着手させていただきます!」


「マジかよ!」


足立は急いで、読み散らかした雑誌を回収しに部屋へ戻った。


「隊長!どうしたのですか!」


足立は追ってくる仲原をかわし、自室の奥に積まれた秘蔵コレクションを即座に隠すのであった。

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