2025年8月19日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑪ 大規模攻勢_3》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐が連隊長の足立《あだち》昭介《しょうすけ》に報告する。


「連隊長。荒川渡河の状況報告です。現状、UFBを特殊弾で殲滅した区域への橋の建設は完了しました。」


細かい報告はこのようだった。

<渡河完了状況>

・地面冷却用の特殊車両・・・20台

・25式戦車・・・・・・・・・・・・・・20台

・25式耐熱装甲車・・・・・・・・40台

・25式対空対地迎撃車両・・・40台


全体の75%が渡河完了、ということだ

レールガンや迫撃砲は射程が届くため、渡河は行わない。


足立は直ぐに次の指令を出した。


「特殊弾で生き残ったUFBの反撃がくるぞ。ここからが本番だ。気を引き締めていけ! 全車両、安全装置解除。UFBは発見次第撃て」


ほどなくして、足立の予測は的中する。


埼玉から池袋方面に長く伸びた車列の側面や前方の上空からUFBの強襲が始まる。


しかし、特殊弾によって遮蔽物がすべて溶け落ちた視界の良い地形のおかげで、UFBを早期に発見し、近づかれる前に戦車や装甲車の積んだ大口径の対空砲がロックオンできる。


この対空砲の威力はガーゴイルを一撃で粉砕できる。この地域は、神が戦闘を長く楽しむためエーテルの濃度を薄めており、精密機器も正常に動作する。


これにより、レーダーで発見したUFBを即座に対空砲に送信し、自動で迎撃することが可能になっていた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻、神の居城デスランド


神と指揮官であるヴァロンは、神が映し出した最前線の状況を、まるで映画を鑑賞するような緩い空気で眺めていた。


時折ヴァロンが口を開く


「創造主様。ガーゴイルですが個体としては人間の3倍の強さを誇りますが、人間の兵器が相手では劣勢のようです。増援を出しますか?」


しかし、神はこれを受け入れない。神は瞬時に数万のガーゴイルを生産できる。だがこれは人間を守護するに値するかを見定める余興。


持ち駒を無限に増やすのは得策ではないと考えていた。


「ヴァロン。つまらないことを言うなよ。人間が全力で戦っているのだから、彼らの基準で戦ってやろうよ。エーテルの濃度も少し下げたから近代兵器も使えるし、どのくらいもつのか興味が湧かないか?」


ヴァロンは神の言動に納得はしつつも、指揮官として意見を出す。


「しかし、よく考えましたな。通常の進軍であればあのように車列を組んで進むことはないでしょう。ですが、視界の良い地形と、我らガーゴイルが近接戦闘を得意としていることを考慮して、どこから攻撃しても接近する前に複数の兵器から迎撃可能になっています」


神は嬉しそうにうなずく


「うんうん、戦車、装甲車、対空車両の配置もいい。お互いの兵器が弱点をカバーしたすばらしい車列じゃないか。これは、池袋まで行けるんじゃないか?」


その時、ヴァロンに行動不能のベルガンから通信が入る。


「ヴァロン!ベルガンだ!なんだこれは!地面は灼熱のマグマのようで思うように歩けん!しかも翼をやられて浮上もできん!サーチの映像情報も来ない!どうなってる!」


人間の予測不能な攻撃で、行動不能になったことでイラだつベルガン。神も聞いている通信にもかかわらず苛立ちが伝播する。


「落ち着けベルガン。それは人間の高温特殊砲撃の影響だ。荒川から池袋の範囲すべてが、そんな状況だ。お前は耐熱性能が高いので無事だが、周囲の同胞は全滅した」


「はぁ?全滅?クソがぁぁ。ん?サーチはサーチもやられたのか!!!!」


「安心しろ、高高度を飛行していたため直撃はしていない。だが、熱波と閃光、加えて轟音で感覚器官にダメージ。いまは神の城へ帰還中だ」



「サーチがダメージ?うおおああああ!人間ッ!矮小《わいしょう》な存在でありながら、神に作られた特別な我らを害するなんて!万死に値する!」


このやり取りを見ていた神は、一つの遊びを思いついた。


「ベルガン。俺だ。後方のガーゴイルをお前のもとに向かわせる。そいつに薬を持たせておくので飲むといい損傷が修復され飛べるようになるだろう。そのまま、そのガーゴイル5万の指揮をとり、ポイント122付近へ迎って敵の進軍部隊を壊滅せよ」


通信を切ると神はヴァロンに話しかけた


「指揮を代行してすまなかったな。ただ、このまま池袋まで無難に到着されてもつまらないだろ?秋葉にいるガーゴイル5万をベルガンの指揮下に入れて戦わせたら面白そうじゃないか」


そういうと、何もない空間から緑色の液体の入った瓶を生み出した。


「これがベルガンの修復材。まぁ破損した部分を自動的に補うエーテルの塊だけどね」


手元に出した瓶を、そのまま宙になげると瓶は煙のように消えてしまう。


「これで秋葉のガーゴイルに渡したので、あとは戦況を見守ろう。おっと、今回はベルガンのターンだからね、ヴァロンは余計なことは言わないでよね」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


30分後


ベルガンのもとに、薬を持ったガーゴイルと5万のガーゴイルがやってきた。薬を飲むとベルガンの翼はボロボロと崩れ去る。また皮膚などに受けた損傷部分もパリパリと音を立てて崩れていった。その直後、緑の光が損傷個所を包み込み、新しい翼、新しい皮膚がベルガンにあたえられた。


「これが神の力。うおおおおおおおおお!」


勢いよく浮上すると、5万のガーゴイルに指示を出す。


ポイント122へ向かう。100体の分隊を10分隊作成しろ、本隊の前に出て障害を排除するんだ。


残りは3万の1部隊編成で先行する。先行する100体分隊へ続け、万が一100体分隊で欠員がでたら増援に入り、100体分隊を維持しろ。


残った1万9千は後方の俺と来い、敗走する雑兵を掃討する。一人も生かして返すな!


指示を出すと、隊列を形成しベルガンは自衛隊の車列の先端に向かって行動を開始した。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


居城デスランド。


ヴァロンは驚いていた。


「あのベルガンが指揮を。翼が回復したら怒りに任せて全軍突撃コースかと思いましたが・・・」


神も楽しそうだ。


「だろ?筋力重視の個体だが知能だって小隊長個体よりも高い。激情していても最低限の冷静さは持っていたな」


「ま、ヴァロンに比べたら分隊の組成も、陣形も稚拙《ちせつ》極まりないがな」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


10分後、ベルガンの指揮する100体分隊の視界は、自衛隊の車列を捉えた。


ベルガンは細かい指示を出す。


「まずは高度100mに2分隊。300mに2分隊、残りは50mに分かれろ、左右の間隔あけて陣形を整えろ!」


すぐさま、100体分隊が陣形に合わせる。


「よし、高度100m隊は滑空しつつ、ブレスで攻撃しろ!30秒後に、50m隊が滑空開始、さらに30秒後に300m隊が滑空開始」


「これでブレスに気を取られた人間を、上空から高速攻撃しつつ、低空から大量のガーゴイルが襲う。人間の車列に潜り込み混乱しているところへ、3万が増援。これで壊滅だ。敗走するだろうが、それは俺たちが全て殺し、神の力を思い知らせてやる!」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


3分前。自衛隊早期警戒車両


「UFBの大群を発見。約3万。指示をーー」


これを聞いた仲原は無線を取る。


「連隊長。本命が来ましたね」


「ああ、三佐の作戦に移行する。戦車部隊に次ぐ発光弾用意!早期警戒車両は後方のレールガンに座標を送れ!大まかでいい!」


仲原は自分の作戦に自信はあったが、それでも不安は隠せない。


「連隊長。彼らは高度を上げて滑空で速度を上げてくるでしょうか?」


「来るさ。先ほどの攻撃で、遠距離攻撃を警戒するはずだ。ならどうする。速度を上げるために高度を上げて滑空するしかない。だが高度を上げた瞬間に、発光弾を撃つ。これで再びヤツラは光に飲まれ視界を失う。そうなれば高速滑空は不可能。そこへ後方のレールガンから高熱の特殊弾を再度叩き込む。半分、1万~2万はこれで消滅だ」


数分後


「UFBの先方が分隊に分かれ、高度300、100、50に移動しました!」


足立は読みが当たってやや興奮気味に


「来るぞ!発光弾発射」


25式戦車から再び、真夏の3倍の光量の発光弾が空中に放たれる。すべてが光の中に溶けて視界は失われる。


「UFB移動速度減少。視界を奪いました」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 ベルガン


落ち着き始めた空に再び閃光が走る。


「くそ!何も見えん!滑空中止!同胞と衝突するぞ!」


「人間の対応が早い!ワナか?いったん引く、後退!!」


ガーゴイルが転身しようとしたその時、聞き覚えのある発砲音が聞こえる


「ドドドドドド」


ほぼ同時に、あの雨、灼熱の雨が降り始めた。


高度300mにいた部隊は瞬時に消滅。

100m、50mも数秒遅れて消滅した。


その後ろにいた3万の部隊は2万が消滅、残り1万もダメージを受けていた。


かろうじて後方にいたベルガンの部隊だけが残された状態だった。


「この攻撃。何度も何度も同胞を忌々《いまいま》しい!だが、今回は違う。俺が!このベルガンが無傷で残っている!」


「残兵を本体に戻せ!人間達はこの攻撃で再び、俺らを一掃したと思っている!そこを突く!」


「1km後退!高度20まで降下し、待機。今度はこちらが待ち伏せしてやる!!」


発光が消え、夜が戻る。闇の縁で、逆襲の弓が静かに引き絞られていた。


2025年8月17日日曜日

青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない(赤城郁実編)

<あらすじ>

咲太の中学時代のクラスメイトで、現在は同じ大学の看護学科に通う赤城郁実。

ある日、SNSに書き込んだ夢が次々と正夢になると噂されている「#夢見る」の話を聞き……。


<レビュー>

今回のヒロインである赤城郁実の思春期症候群は、「パラレルワールドの自分と入れ替わる」という現象でした。

これは、1期で描かれた「桜島麻衣と豊浜のどかの姉妹入れ替わり」に近い、発展型といえる構造です。

前回の広川卯月編よりも、SF的な設定が強く打ち出されており、シリーズの原点に近い不思議さが戻ってきた印象で楽しめました。


ただ、視聴中にいくつかの疑問も残りました。


たとえば、パラレルワールドの自分と体に文字を書くことで連絡が取れるという設定、

そして同窓会で誰からも赤城が認識されなくなるという描写。

これらは、単一の症候群としては整合性に欠けているように感じられました。


視聴者の理解としては、

「入れ替わり」(姉妹編の亜種)

「体の異変」(かえで編の要素)

「存在が認識されない」(麻衣編の要素)


の3種類の思春期症候群がミックスされたような状況に見え、やや混乱を招く構成になっていたとも言えます。

1期に比べて物語構造が複雑化した影響か、説明不足が少し気になりました。


一方で、これらの説明不足は、今後明かされていくであろう2期のメインキャラクター「霧島透子」に関わる伏線である可能性もあり、「わざと謎を残している」と考えれば納得がいく部分もあります。


毎回、1期のヒロインたちがチラリと登場し、成長した姿を見せてくれる構成は非常に好印象です。

特に「双葉理央」が説明役として続投していることで、物語全体の骨格に一貫性が保たれていると感じます。


物語は後半に突入し、いよいよ「霧島透子」の行方を追う本筋が動き出します。

この不思議な連鎖が、どのように繋がっていくのか――今後の展開が非常に楽しみです。




2025年8月14日木曜日

異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~ ~6話

 <あらすじ>

ユーザーランキング1位を獲得した伝説のプレイヤー・伊良拓斗は、入院中に意識を失う。

気が付くと、彼はまるでゲームの中のような世界「イドラギィア大陸」に降り立っていた──。


<レビュー>

本作のレビューは今回で2回目です。

今回は特に第5話の展開を中心に振り返りたいと思います。


ここまで、内政を中心に比較的平和的な路線で進行してきた本作ですが、5話ではついに作品の裏の顔とも言える「残虐な描写」が表に出てきました。


導入としては、聖騎士が主人公の支配する森へ無理やり侵入しようとする、というもの。しかし、この程度の理由で即座に過激な手段に出るのは、動機としてやや薄く感じられました。

「ユーザーランキング1位」の知略を持つ主人公であれば、相手を森に誘導した上で騙して撤退させるなど、より狡猾な対応があってもよかったように思います。


実際、作中でも語られていたように、調査団を全滅させれば相手の警戒レベルは当然上がります。

これを逆手に取って、相手を欺いたり誤魔化したりできていれば、主人公の知的な魅力がより際立ち、印象的な展開になった可能性もあったでしょう。


とはいえ、作り手の視点から見れば、4話にわたって地味な内政パートが続いた後に、緩急をつけるためのバトル回を挟むという判断は非常によく理解できます。

実際、このエピソードは物語のアクセントとしてよく機能しており、ヒロインの強さや冷酷さがしっかりと表現された見応えのある回でした。


特に、聖騎士との戦いにおいて、あえて手の内を隠して戦い、

「もしかしたら勝てるかも」と思わせたうえで一気に絶望へ突き落とす──という演出は、悪役主人公としてのカタルシスが非常に強く、シリーズ随一の名シーンだったと感じます。


作画についても、相手に絶望を与える瞬間の表情やカメラワーク、演出が非常に優れており、

この作品の持つ「残虐さ」や「容赦のなさ」を映像としてしっかり成立させていました。

特に、**悪い笑みを浮かべるヒロインの邪悪な表情(誉め言葉です)**は非常に印象的でした。


バトルシーン全体も、単なる戦いというよりは一方的な蹂躙劇。

まるで遊んでいるかのように描かれつつ、戦闘開始 → 前衛崩壊 → 聖騎士の反撃 → 聖騎士敗北 → 残党敗走 → 足止め → 全滅 → 絶望、という一連の流れがテンポよく繋がっており、アニメ的な演出力が光る構成になっていたと思います。


次回は「同盟国の模索」がテーマになるようですが、まだ第6話。

今後もまた、あのような冷徹かつ衝撃的な展開が待ち受けているのではないかと思うと、思わずワクワクしてしまいます。




2025年8月10日日曜日

軽い日記的なもの【お知らせ】

こんばんは!管理人の緑茶です。


次回(8/12)の更新は休載となります。本来は火曜日の小説更新日ですが、今回は木曜日または日曜日に振り替え予定です。


休載理由は毎年恒例の帰省です。行き先は、電波がほとんど届かない「陸の孤島」のようなど田舎。

祖母も高齢になってきたため、今年から滞在日数を短縮することになりました。大人数で押しかけると何かと負担が大きいので、親戚同士で話し合い、前半組と後半組に分けて帰省する方式に。中1日だけは全員が揃い、顔合わせができるようにしています。


前半・後半ともに滞在日数は短くなったものの、合計すれば例年とほぼ同じ。ただし一度に集まる人数が減るため、祖母への負担も軽くなるはずです。


個人的には、毎年目にする“巨大昆虫”も密かな楽しみです。信じられないほど大きなバッタやクモなど……あれを見たあとだと、自宅で遭遇するGが可愛く思えるほど。


ちなみに出発は明日。ですが、なんとクーラーボックスが破損してしまいました。これから急いで買いに行ってきます(執筆時:8/10 AM)。


それでは、引き続き本サイトをよろしくお願いいたします。




2025年8月7日木曜日

転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 第2期(一部レビュー)

<あらすじ>

魔術への探求心が止まらないロイドが次に目をつけたのは「神聖魔術」!

その習得のため、教会を訪れるロイドたちだったが……?

原作シリーズ累計発行部数800万部突破の異世界魔術バトルファンタジーが、いよいよ新章“教会編”に突入!


<レビュー>

第2期第5話までのレビューです。


本作は、かつて魔術師だった主人公が転生し、圧倒的な魔力と知識を持った状態でさらに魔術を極めていく物語です。

第1期では、魔術の実験や知識探求の描写が印象的でしたが、第2期では実戦パートと仲間の活躍に焦点が当てられている印象です。


第1期後半からの傾向として、仲間たちが苦戦する敵を、主人公が軽く片づけるという爽快展開が特徴でしたが、

第2期ではその描写がさらに強化されています。


また、コミカルな描写が随所に挿入されており、特に戦闘中にゆるい画風を織り交ぜることで、主人公の“圧倒的な余裕”を際立たせる演出が多く見られます。

仲間たちが驚くシーンでも同様の演出が使われており、メリハリをつけるための工夫だと思われます。


ただ個人的には、この日常系のゆるい画風がバトルシーンに入り込むことで、せっかくの緊張感が削がれてしまうようにも感じました。視聴者によって好みが分かれそうです。


第2期全体の印象としては、テンポがやや落ち着いた分、会話やサブキャラクターの掘り下げが増え、群像劇的な雰囲気が出てきたように思います。

特に、サブキャラクターたちが苦戦し、主人公が最後に圧倒的な力で片をつけるという「当て馬構造」はより顕著になりました。

主人公が“ラスボス的なポジション”として悠然と構えているような描写も目立ちます。


その一方で、視聴者の中には「どうせ最後は主人公が出てきて勝つんでしょ」という先の展開が読めてしまう点に対して、

緊張感が薄れると感じる人もいるかもしれません。


この点に関しては、最強系主人公の圧倒的制裁を楽しむ層と、出来レース的な展開を退屈に感じてしまう層に評価が分かれそうです。


演出やテンポに変化はあるものの、物語の骨格や演出の流れは第1期をしっかり踏襲しており、

第1期を楽しめた方なら、今期も十分楽しめる内容になっていると思います。

魔術バトルとスーパーチート主人公の魅力を引き続き堪能できる第2期。今後の展開にも期待です!




2025年8月5日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑩ 大規模攻勢_2》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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夜明けまであと1時間。


月夜の中で、私有シェルター救出連隊の隊長、足立《あだち》昭介《しょうすけ》と先遣隊《せんけんたい》は、暗闇で動かないUFBの座標情報を1000以上

後方に設置したロングレンジレールガンの射撃管制機能に登録していた。


ロングレンジレールガンには、対地面制圧用の弾薬が装填されていた。


この弾薬は高度200mで炸裂し、小型の特殊弾を散布する。特殊弾は散布後数秒で化学反応を起こし、数千度の高熱を発し落下する。この熱は地上に灼熱の雨となって降り注ぎあらゆるものを燃やし、溶かしてしまう。


副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐が、心配そうに足立へ確認する。


「私有シェルター場所への落下は制御していますが、離れていてもこの高熱に耐えられるでしょうか?」


足立は作り笑いで答える。


「大丈夫だ。私有シェルターのほとんどが核を想定している。直撃しなければ問題ない」


その時に、防衛大臣の大仲《おおなか》晴彦《はるひこ》から指令が入る。


「射撃開始180秒前」


ロングレンジレールガンが座標を最適化し、連射モードで動き出す。


また、通常の25式迫撃砲も、ロングレンジレールガンのダミーとして配置されており、これらもレールガンの射撃管制機能と接続され、射程に応じて実際に使用される。


「装填開始」


各迫撃砲も足立の指示で対地面制圧用の弾薬が装填される。



「3・・・、2・・・、1・・・」


大仲のカウントダウンが進む。


「ゼロ」


月明かりの夜空に200発の光の玉が炸裂する。


仲原が即座に確認する。


「足立連隊長。先遣隊の戦車から発光弾の一斉発射を完了。池袋から荒川付近までの全区域が光に飲まれました」


足立は即座に作戦を進める。


「よし、これでヤツラの目は奪った。暗闇から真夏の3倍の光量だ!光の弾幕でUFBの視界はゼロ。射撃管制機能を解放。砲撃開始!」


前回の戦いでは、最初の砲撃で脅威を察知したUFBに場所を視認され強襲された。その教訓から発光弾で視界を奪ってから砲撃を行ったのだ。



「ドドドドド」



レールガンの高い射撃音と迫撃砲の低い射撃音が混ざり合い、地鳴りのような音を立てた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻、埼玉県内の山頂。


TV局のリポーターは、数キロ先の森林から無数の光の筋が、池袋方面に伸びていくのを発見した。


「作戦が始まったのでしょうか!」


実況を始めた直後、無数の雷鳴のような轟音《ごうおん》が山頂を揺らした。


「すごい音圧です!これは発砲音でしょうか?」


耳を抑えながら必死に解説をするが、イヤホンに中継車から指示が飛ぶ。


「もっと大きな声で!」


「すごい音圧です!これは発砲音でしょうか!!!」


怒鳴るような発声でもわずかに聞こえる程度だった。


その裏で一人のスタッフがその攻撃をみてつぶやいた。


「綺麗‥‥‥。まるで虹色の光線が地平線に吸われていくみたい」


そのライブを映したSNSではコメントの投稿が止まらない。


<これはもう戦争じゃね?>

<何?あれ全部ミサイル?>

<本気の自衛隊マジ怖い>

<ガーゴイル終了のお知らせ>

<これがリアル地ならしだw>


そのほとんどが、勝利を確信したコメントであふれていた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


池袋から1キロほど埼玉に近づいた付近。


レールガンと迫撃砲から放たれた無数の砲弾が地上を灼熱の海に変えていた。


付近の再開発ビルが熱で一瞬にして骨格だけを残し崩れ落ちた


ガーゴイル達は混乱し、飛び上がろうとする者、物陰に隠れようとする者、どの個体も何が起こったか

把握をしていなかった。


「ガアアァァ!!」「ギィィィア」と叫び熱波に溶かされていく。


また、自衛隊が存在すら知らない特殊個体。サーチやベルガンにもこの攻撃は影響を与えていた。


サーチは自身の長所である、感知能力があだとなり、視覚・聴覚を奪われた。


「何が起きた?熱?光?音?ベルガン!ヴァロン!状況を!!」


平衡感覚を失ったサーチは、呼びかけながらかろうじてグライダーのように翼を広げ、お台場方面に滑空していた。


ベルガンは強い熱波を浴びたが、耐熱性能の高さに助けられた。

だが、溶ける大地に足を取られ、身動きが取れない状態になっていた。


「クソッ。なんだこれは!高熱で翼をやられたか!」


混乱はしていないものの、正体不明の攻撃にイラだつベルガン。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


神の居城デスランド



「創造主様。攻撃が始まりました。」


ヴァロンが冷静に分析をしつつ、神へ報告する。


「正常なのはヴァロンだけか。ベルガンは行動不能。サーチは撤退中。思ったより面白いじゃないか」


「ガーゴイルも随分減ったな。巻き添えも含めて10万は消えたか」


神は笑みが止まらない。

必死に攻撃する自衛隊。状況伝えようと奮闘するレポーター。弾薬の雨に混乱するガーゴイル。熱で霧散するガーゴイル。

少し手間をかけた特殊個体の状況。どのシーンも神の心を高揚させる。


「創造主様。サーチの視覚共有が途絶。以降、私では敵位置の再計測が困難です」


「ならば俺が見てみよう。どれどれ。ふむ。荒川に橋を架けているようだな。よいアイディアじゃないか」


2時間で即席の橋を作ることができる架橋兵器。前回と違い、既存の橋を使わずに渡河を試みる工夫にも神には楽しみとして映った。

まるで、蟻がアリジゴクを工夫して脱出している姿を観察する子供のような視線だった。


ーー迎撃か?いやまだ現場の小隊長ガーゴイルに任せてみるか?指揮ならヴァロンを使うか?


神の妄想が捗る。


神の目には架橋兵器の後ろに並ぶ25式戦車、25式耐熱装甲車、25式対空対地迎撃車両なども映る。


ーー絶対に成功させるという意思を感じる。特に指揮をしている二人の人間の作戦は見事だ。


足立と中原である。二人は連携してガーゴイルを一層した区域から橋を架けて部隊を送り込む指揮を行っていた。


対地面制圧用の弾薬の効果で高温になった大地に特殊な金属片をドローンで散布していた。この金属に先頭車両がジェル状の液体を噴射すると急激に温度が下がる。まるで科学の実験のような作戦だが、短時間で揃う物資を巧みに使った作戦だった。


だが、このまま進めばエーテルの濃度が上がり、先頭車両やドローンが制御不能になるのは明白だった。


神はその点についても迷っていた。誘い込んで長く楽しむか。エーテルの洗礼を受けさせて反応を楽しむか。どちらにしようかと。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻、内閣シェルター内作戦本部


大仲大臣と津田議員がならんでモニターを見つめていた。自衛隊からは絶えず状況が報告される。


「荒川渡河開始します」


「侵入区域周辺、地上・上空ともに敵影なし」


「着弾地点の数か所でプロパンガスが爆発している模様。想定の範囲内です」


悪い報告はない


だが、大仲の表情は厳しかった。


「津田議員。どう思います?自衛隊の制服組は順調だといいますが・・・・・・・」


津田も表情は冴えない。


「ふむ。難しい法案を通す過程に置き換えると・・・・・・なにか引っ掛かりますね」


二人は神の存在を知らない。だが長年永田町で駆け引きを経験した猛者としては、なにか得体のしれない懸念を感じていた。


そんな中、舞岡は違った。


「見てよ見てよ!圧倒的じゃない自衛隊!強い強い!!!いけー!!いけー!!!」


「はぁ」


大仲と津田のため息が懸念をより強くした。

2025年8月3日日曜日

気絶勇者と暗殺姫(一部レビュー)

 <あらすじ>

勇者トトは、3人の美女――シエル、アネモネ、ゴアから突然パーティーへと誘われる!

女性耐性がゼロで、少しドキドキしただけで気絶してしまう極度の人見知り勇者と、

それぞれの目的のために勇者の命を狙う3人の美女が繰り広げる、ハーレムDEATHラブコメディ!


<レビュー>

女性耐性ゼロの勇者・トトと、3人の美女たちによるハーレム作品です。

ただし本作は、「仲良しハーレム」ではなく、お互いがトトを奪い合うギスギス感を楽しむタイプのハーレムものになっています。


そして注目すべきは、3人の女性キャラが本当にトトを好きで集まってきたわけではなく、

暗殺対象として勇者を狙っているという設定です。

その上で、トト自身が女性に免疫がなさすぎて、すぐに気絶してしまうという“隙だらけな勇者”として描かれていることで、

ラブコメと緊張感が絶妙に同居する独特の空気感を生んでいます。


作画は、いわゆる深夜アニメの標準的なレベルといった印象ですが、

戦闘やアクションシーンでは、止め絵や効果演出を巧みに使いながら躍動感を演出しており、

動かしすぎずに迫力を出す工夫が随所に感じられ、アニメ演出としても非常に参考になります。


また、3人のヒロインの「裏表の使い分け」も見どころです。

パーティーメンバーとして仲よくふるまう“表の顔”と、勇者を暗殺しようとする“裏の顔”。

その切り替えは、表情・所作・声のトーンといった面に明確に現れており、

とても分かりやすく、かつキャラの印象を深める効果があります。


これらの描き分けは、少しコミカルな演出としても機能しており、作品全体のテンポや魅力を引き上げているように感じます。


単話視聴では本作の良さが少し伝わりにくい面もあるため、

ぜひ第1話からネット配信などで、じっくりと視聴してみることをおすすめします。

ギスギス系ハーレム×ラブコメ×暗殺サスペンスという独特のジャンルを、テンポよく仕上げた意欲作です!



2025年7月31日木曜日

【日記】軽い日記的なもの「生態系」

こんばんは!


炎天下で職場の野菜の手入れをしていたところ、小さな畑(花壇)の中に、一つの生態系ができあがっていることを発見しました。

暑さで動く気力もなく……しばらくぼんやりと観察していたのですが、想像以上によくできていたので、メモ代わりに日記として残しておきたいと思います。


発端は、ゴーヤやキュウリの枯れ葉問題でした。

5月に植えたナス・キュウリ・ゴーヤは、暑さと天候の良さも手伝って、どれも大株に育ちました。

そして、それに伴って大量の枯れ葉が発生するようになったのです。


花壇の中だけでは納まりきらず、通路にまで黄ばんだ葉が落ちてしまうようになり、清掃会社の方からは「ここの清掃はやりがいがありますなぁ」と冗談まじりに言われてしまうほどでした。

そこで私たちは、落ち葉を見かけると拾い、花壇内に戻すようにしていました。


その落ち葉に、大量のダンゴムシとミミズが発生しました。

彼らは植物の老廃物を分解する「分解者」で、ダンゴムシは生きた葉も食べますが、落ち葉があるとそちらを優先的に食べるようです。

大量の虫が落ち葉を食べてフンを出し、そのフンが土壌の養分となって、野菜たちはさらに大きく育ちます。


その大きくなった葉を狙って現れたのが、バッタ・アブラムシ・カメムシたち。

密集しすぎた葉を食べてしまい、花にはミツバチやチョウも訪れてきます。


この虫たちを狙って登場したのが、カマキリ。

かなり大きな個体がいて、どこから来たのか、何匹か常駐しているようでした。

また、アブラムシを狙ってやってくるのがテントウムシ。こちらも団体で来ているようで、視点を変えれば必ず2〜3匹は見えるほどの密度で生息しています。


カマキリはともかく、テントウムシの食欲がとにかくすごい。

アブラムシのコロニーを一気に壊滅させてしまいます。

カマキリは大きなバッタなど、獲物としてのサイズ感を重視して狩っている様子でした。


しかし、この花壇の頂点はカマキリではありませんでした。

その地位にいたのはカナヘビです。

名前に「ヘビ」とつきますが、トカゲの仲間で、毎年見かける存在です。

今年は特に数が多く、しかも個体が大きい。動くとガサガサッと葉が揺れるほどの存在感で、正直ちょっと迫力がありすぎてかわいくないです(笑)。


とはいえ、小さくて可愛い個体もたくさんいます。尻尾の色からして若い個体のようで、成長の過程が見て取れました。


カナヘビはなんでも食べます。

ダンゴムシ、アブラムシ、バッタ、カメムシ……もしかすると、カマキリまで捕食しているかもしれないほどの勢いです。


それでも、花壇の生態系における最上位ではありません。

カナヘビを狙って、スズメ・カラス・名前のわからない鳥たちが朝と夕にやってきます。

彼らの狙いはカナヘビだけでなく、カメムシにも及びます。

どうやらカメムシの匂い攻撃も通じないのか、積極的に捕食している様子でした。


バッタのように瞬間的に逃げられるわけでもなく、カマキリのように反撃できるわけでもないため、

カメムシは鳥たちにとって狙いやすい存在なのかもしれません。


そして、鳥のフンもまた植物の栄養になります。


こうして、この小さな花壇には、分解者・草食昆虫・肉食昆虫・爬虫類・鳥類といった様々な生き物が集い、

お互いの「食」を通じてつながり合いながら暮らしていることに気がつきました。


朦朧とした意識の中でその光景を眺めていたら、なぜかとても楽しい気分になりました。

王様が城下町を見渡しているような──そんな不思議な感覚だったかもしれませんね。


こうして繁栄した花壇の野菜を、最終的に人間が食べる。

この花壇は、小さなスケールで完結する完璧な縮図だったのだと思いました。

2025年7月29日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑨ 大規模攻勢_1》

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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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神災《じんさい》から39日が経過した。


この日、ついに私有シェルターに取り残された人々を救うための、1000人規模の自衛隊。呼称「R連隊」が作戦を開始した。


深夜2時。


埼玉シェルターを出た先遣隊は東京と埼玉の県境にある荒川で偵察ドローンを展開していた。この偵察ドローンも、無線方式ではなく光ケーブルを使った有線式のもので、月明かりだけでも十分に映像を捉え、地上のガーゴイル達を映し出す。


先遣隊の中に、連隊長である足立と副長の仲原の姿があった。


足立は偵察ドローンの映像を見て確信した。


「仲原三佐、やはり予想通りだ。ヤツらも視覚に頼っている以上、夜間の飛行は少ない。ほとんどが地上におり、動くものも少ない」


仲原は興奮気味の足立に同調するように言葉を返す。


「寝ているのとは違いますね。刺激がないので反応していないような感じです」


「ああ、あいつらは人間を見つければ襲ってくる。いなければ探す。しかし、暗闇では探すこともできない。だからこそ、ああして夜明けを待っているのだろう」


「よし仲原、やつらの位置を特定して片っ端から後方のレールガンへ座標を送れ」


こうして、地上にいるガーゴイル達は、何も察知できないままレールガンの射撃管制機能に座標登録されていく。


「まだ撃つなよ。できるだけ多くの座標を送るんだ」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


同時刻、埼玉シェルターGゲート付近。



テレビ局のリポーターが暗闇の中スタンバイをしていた。


先遣隊からは数キロ離れた位置、荒川の下流。川から少し埼玉側に入った山の上でテレビクルーが中継を始めたのだ。


迷彩服を着た若い女性リポーターが険しい表情でモニターに映る。


「ここは、埼玉県にある小さい山の山頂です。この後、自衛隊による私有シェルターの民間人救出作戦が始まるとの情報を得ました。我々は独占生中継で放送したいと思います!」


この放送が始まると、政府官邸は慌ただしくなった。


議員の怒鳴り声が聞こえる。


「おい!極秘作戦だぞ!なんで中継されているんだ!今すぐ止めさせろ!」


ところが、この放送は中継車には強力な通信機器が搭載されており、エーテル濃度が薄い埼玉側では依然、地上光ファイバーが生きていた。その回線を強力な送信装置で掴み、ネットへ直流配信していた。

その為、TV局に放送を止めるように連絡を入れても、スマホやPCで中継が続いてしまう。

TV放送だけを止めても意味がなかった。抜け穴に気が付いたTV局も、一度はやめた中継を再開し逆に話題性を高めてしまった。


これは、舞岡議員が仕組んだパフォーマンスだった。懇意のTV局長に作戦の場所、時間を漏洩し独占配信させようと画策したのだ。

当然中止要請が入ることは想定しており、スタッフの携帯電話はすべて回収し中継車の金庫に入れさせた。

これにより、ロケ部隊は外部から隔離され、中止の指示を聞くことはない。


しかも、ロケ地を詳しく言わないように指示しているため、TV局のスタッフや政府関係者が現地へ行こうにも場所が分からないのだ。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


同時刻、内閣シェルター内、作戦本部。


防衛大臣の大仲のもとに自衛隊の制服組が詰め寄る。


「大臣!作戦前に情報が洩れている!即刻作戦を中止すべきです!」


他の制服組も続く


「もしUFBがこの中継を見ていたら救出どころじゃありません。自衛隊の隊員の命が危ない!」


大仲も想定外の事態に「中止」の二文字が脳裏に浮かぶ。


だが、その声を遮るように舞岡議員の声が大音量のマイクに乗って響き渡る。


「おいおいおい、そんな弱腰でどうするの!中継をちゃんと見た方がいいですよ!迫撃砲の場所もばれてない。時間も正確にはばれていない。作戦内容もばれてない。規模もばれてない。なーんにも、なんにも漏れていませんよ!おそらくTV局が話題作りにでっち上げた番組がたまたま作戦とかぶってしまった。それだけじゃないですか!」


津田議員や大仲大臣が何かを言い返そうとしても、マイクのボリュームが絞られており舞岡議員の発言だけが作戦本部を支配した。


直後に大仲大臣の席に官僚の一人が駆け寄る。

「放送設備が故障したようです。舞岡議員のマイク以外のマイクは電源が切れました!」


そんな都合のいい故障はあり得ない。何らかの方法で意図的に起こした状況なのは明白だった。だが、追及しようにも声が届かない。

大仲大臣の黙れのジェスチャーを横目に、舞岡は持論をマイクにのせる。


「ちょうどいいじゃないですか!民間人を助ける自衛隊の有志を国民に、直接見てもらいましょう!もしかしたら私有シェルターの人々も視聴できるかもしれません。そうしたら、ほら、私たちが頑張っている姿も見せられるじゃないですか!」


津田議員は即座に察した。


--この男、私有シェルターに残された自分の支援者にアピールするために極秘情報を漏らしたな。

--なんという。なんという思慮のない男だ。もし作戦が失敗したら全国民が自衛隊に対して不信感を抱くことになるんだぞ!せっかく大仲大臣が不安を払しょくしているのに台無しだ。


津田は席を立つと、大仲の隣に座り、耳元で声をかけた。これなら舞岡のマイクの雑音も通らない。


「大臣。今回ばかりは野党としてではなく、同じ国会議員として言わせてもらいます。作戦の中止の決断をアナタがしてはいけない。続行もおなじだ。決断をすれば責任が生まれる。ここはこらえて、決断を現場に任せてみてはどうだろうか」


この発言は完全に議員として失言である。だが、この局面で大仲大臣への政治的なダメージは避けるべき。議席ではなく国益を考えた発言だった。


大仲もこの発言には驚いたが、津田議員の真っすぐな真剣なまなざしに少し冷静に考えた。そして責任の所在は自分にあるとしながらも、現場の意見を聞いてみることに価値は見出した。


大仲は作戦本部の別室へ移動すると、足立に無線で問う。


「作戦の実施がマスコミにバレている。中止か継続か。最終的には私が決めるが現場の意見を聞かせてくれ」


足立は仲原とアイコンタクトをとると即答する。


「継続を支持します。ドローンでの偵察状況見る限りですが、UFBに目立った動きはありません。またヤツラの知性で中継をみたところで理解できないでしょう。いま、まさにかなりの数のUFBをレールガンでロックオンしています。この好機は逃したくはありません」


大仲は無線を切ると目を閉じて情報を整理した。


そして答えは出た。


2025年7月27日日曜日

追放者食堂へようこそ!(一部レビュー)

 <あらすじ>

超一流の冒険者パーティーを追放されたデニス。

憧れだった“自分のお店を開く”という夢を叶え、

看板娘のアトリエとともに、人情食堂がついに開店!


<レビュー>

Lv99の料理人・デニスが営むこの食堂には、なぜかパーティーを追放されたり、居場所を失った人々が自然と集まってきます。

彼らの悩みに耳を傾け、温かい料理をふるまう──そんな人情味あふれる展開が作品の基本構造です。


この作品の特徴は、「美味しい料理で元気づけて終わり」ではなく、

場合によっては食堂を休業してでも、悩みを抱えた相手を直接助けに行くところにあります。

なにしろデニスはLv99。ダンジョンも敵もほぼ無双できてしまうという、圧倒的な実力を持っています。


それでいて主人公は“おじさん系”キャラ。

温和で包容力があり、戦力を誇示せず、むしろ力を表に出さないことで、物語に落ち着いた温かみを生み出しています。


実際には、相手の悩みに耳を傾け、アドバイスを送り、料理を提供し、

その上で本当に必要なら力を使って解決するという構造になっており、

視聴者が共感しやすく、納得できる流れが作られています。


最強系主人公でありながら、それを前面に出さず、

むしろ控えめに振る舞う姿勢が「おじさん主人公」らしい魅力となっています。

力をあえて見せず、相手が本当に困ったときにだけ助ける──

これはいわば“水戸黄門”的な古典演出であり、誰にでも分かりやすく、安心して見られる構成です。


基本的には1話完結型のため、途中からでも十分に楽しめます。

料理の作画も非常にクオリティが高く、深夜に観るとお腹が空いてくること請け合い。

心もお腹も温まる、非常におすすめの作品です!




2025年7月24日木曜日

青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない ~3話(一部レビュー)

 <あらすじ>

空気を読み、ファッションも周囲の女子学生たちに合わせて、グループに溶け込む卯月。

普段と違う様子に、咲太は彼女の「思春期症候群」を疑う。


スイートバレットが出演するお台場での合同ライブの日、

不調を抱えていた卯月を心配する咲太は、麻衣とともにライブ会場を訪れる。


そして、スイートバレットのパフォーマンス中、卯月の声が突然出なくなってしまう──。


<レビュー>

今回のヒロイン「卯月」の思春期症候群は、「空気を読めるようになる」というものでした。

この「空気」というキーワードは、第1期でもたびたび使われていた要素であり、

ある意味で原点回帰ともいえるシリーズ構成になっていたと感じました。


物語としては、芸能活動が多忙になる中で、卯月が「空気を読めない」ことに悩みを抱えるようになります。

芸能の現場は多くの人間が関わる世界。その中で空気を読めないという性質は、卯月の中で将来への不安として膨らんでいたのかもしれません。


そんな卯月が思春期症候群によって「空気を読める」ようになったことで、

彼女本来の魅力――つまり天真爛漫で周囲に流されない明るさ――を失ってしまいます。


長所を失った卯月は現実を直視しすぎてしまい、芸能活動そのものに希望を見出せなくなっていきます。

そこへ咲太が現れ、仲間たちもまた現実を理解したうえで夢を追っていることを伝えます。

卯月は自らの悩みを克服し、再びスイートバレットに戻る決意を固めます。


物語の導線は丁寧で、ラストの演出も感動的でした。


ただ一方で、思春期症候群の“非現実感”が薄れてきている点はやや気になりました。

第1期では「認識されなくなる」「同じ日を繰り返す」「人格の分裂」など、現実離れした現象が中心でした。

対して今回は「空気を読めない→読めるようになる」という、成長にも解釈できる描写です。


しかも、今回も咲太が“治してあげる”という構図ですが、

「空気が読めるようになった自分を受け入れて進む」という選択肢も物語として十分あり得たはずです。

むしろその方が、卯月にとっては長期的な意味で成長につながった可能性もあるのではないでしょうか。


そのため、感情移入しづらい印象が残ったのが正直な感想です。


ただし、シナリオ以外の要素はとても良かったです。


まずは桜島麻衣。メインヒロインとして、高校生時代よりも大人っぽい作画になっており、

性格にも少し余裕が感じられ、咲太との関係の進展も自然に伝わってきました。

運転免許を取得したことなども描かれ、出番は少なめながらも、咲太と共に“成長している”ことが強く伝わり、非常に好印象でした。


また、麻衣の異母妹である豊浜のどかの描写も素晴らしかったです。

表情や顔つきが、かつての麻衣に少しずつ似てきており、姉妹としての絆がじんわりと感じられる、感動的なシーンになっていました。


作画全体も非常に良く、そしてこの2期シリーズ全体に漂う「サンタクロースの謎」の匂わせも、

少しずつ興味を掻き立ててくる構成で、見応えがあります。


卯月編の次はどのような物語になるのか──

今後の展開がとても楽しみな作品です!




2025年7月22日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑧ 大規模攻勢》

神災《じんさい》から38日が経過した。


大仲《おおなか》大臣の組織した、私有シェルター救出作戦部隊、通称「R連隊」は埼玉シェルターの軍事用会議室にて最後の人員調整を行っていた。


議題はこのR連隊の連隊長と副隊長の選抜である。


激論が真夜中の蛍光灯を揺らす。机を挟んで向かい合うのは――


防衛大臣 大仲《おおなか》晴彦《はるひこ》


立国平和党 津田《つだ》一郎《いちろう》


帝都復権党 舞岡《まいおか》幸三《こうぞう》


自衛隊幕僚・秘匿兵器開発部門長


他、与野党を代表する有力議員である。



大仲は熱弁した。


「連隊長についてですが、まずはUFBとの交戦経験をもつ、敵を知る人物が必要です。我々はUFBの正体を把握していません。

 必要なのは、実戦の肌感覚を持つ人物、少しでも、敵を知る人物ということです」


この言葉を聞いた舞岡議員は、この作戦の重要性を強く打ち出した。むろんこれは方便で、本音としてはシェルターに取り残されている

重鎮にして帝都復権党の資金源、大荻山《おおぎやま》 剛三郎《ごうざぶろう》の救出である。

前回の失敗を強く叱責されており、再び救出作戦に失敗すれば、大荻山から資金提供を絶たれるか、舞岡本人の議員生命が危ないのだ。


舞岡議員が拳で天板を鳴らす。


「大仲さん、その口ぶりでは敗戦の将に挽回の機会を与えたいように聞こえますが?まさか、一度敗北している指揮官を再起用したりしませんよね?」



大仲は意を決して発言する。


「敗戦の将ですか、確かにそうなのかもしれません。しかし、言い方を変えれば交戦経験者であります。しかも貴重な生還者でもあります。

 私が任命したい足立《あだち》 昭介《しょうすけ》は確かに完璧とは言えないかもしれません。だけどこれだけは言えます。

 足立が一番マシです。いくら座学の成績の良い指揮官でも、実戦経験に勝るものはありません。足立自身も、前回の戦闘を執念深く

 解析し、今、自衛隊の中でUFBにかなり詳しい人物となっております。ですから、隊長には足立を推薦します。対案があればお聞かせください」


苦しいが正論でもある。だが舞岡は納得しない。いやできないのだ。


「正気ですか大臣。野球で例えるのなら、ホームランを打たれまくったピッチャーを、翌日また起用するようなものですよ?敗戦の経験者が敗戦回数を

増やすだけですよ!しかも今回は連隊規模です。野球でいえば国威をかけたオリンピックですよ!またホームラン打たれたら謝罪じゃ済みませんよ!」


この声に反応したのは意外な人物だった。


「えー。立国平和党の津田です。まず舞岡議員、この作戦は人の命がかかっています。救出対象はもちろん自衛隊員の命も等しくかかっています。

 その作戦と野球と一緒にしちゃぁいけないと思いますよ。それとも舞岡議員は足立さんよりも適任者をご存じですか?」


まるで子供をたしなめるような、低いトーンの語り口調に舞岡は感情が高まったものの、対案として出せる人材はいない。むしろ対案を出して万が一失敗した場合の

リスクを考慮すると対案を出したくないまであった。


苦し紛れに一言


「津田さん、私も本気なんです。連隊規模を投入して失敗は許されえないと思うのです。ですから、大仲大臣のいう、経験者ではなく、私としては

 大仲議員が連隊長をお務めになるべきだと思っています」


議員を戦場の指揮官にする。苦し紛れの一言は議会に失笑を誘う。津田は空気をコントロールする。


「舞岡議員、少し冷静になりましょう。政《まつりごと》のプロである大仲大臣が、実戦の指揮をとれるわけがないですよ。大仲議員は確かに元自衛官です。

 しかし、もう20年も前の話ですよ?現役でUFBとの交戦経験をもつ指揮官と、20年も自衛隊を離れていた経験もない指揮官。こんなものは

 天秤にものりませんよ」


舞岡は思慮の浅い発言の足元を見事にすくわれて、完全にこの調整会議での発言力を失った。


さら津田は続ける。


「大仲大臣。気持ち的には私も舞岡議員と同じく、不退転の決意で挑むべきだと思います。その為には、少しでも勝てる見込みを上げておきたいのです。

 その足立さんで、勝算はあるんですよね?」


舞岡にかぶせる形で自身にダメージはなく、大仲に全責任を負わせる。熟練した舌戦の達人である。


大仲も退路を断たれて進むしかない。


「あります。連隊長には足立。副長に仲原《なかばら》香《かおり》三佐をつけます。二人とも前回の救出作戦の指揮官・副官であり経験者。そして

 生還者です。前回の交戦で全滅を免れたのは二人の資質によるものが多いと思います。そのうえで敗因はやはり戦力不足でありました。

 その部分は私も反省しなければならないと思います。ですから、今回は早急に集められる戦力を結集し、この二人に託すことで絶対に

 成功できるとは言えませんが、一番マシな選択であると私は確信しています」


こうして、足立・仲原を連隊長・副長に据えた、R連隊は翌日には作戦会議を経て出陣することとなった。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


調整後の会議室。


出席していた議員たちは声を潜めて話している。


「大臣を連隊長にするなんて、舞岡議員は正気なんだろうか」


「あれですよ、パトロンの重鎮から強い圧力を受けてるらしいですよ」


「ああ、彼に生殺与奪権を握らせるなんて、舞岡議員も若いですな」


「本当にそう思いますよ。議員に支援者は不可欠ですが相手は慎重に選ばないと、議員生命にかかわりますからね」


「しかし、それで焦って大臣を連隊長にとは、思慮の方も浅そうですな」


「ははは、何人か声に出して失笑してましたね」


小さい声だが、舞岡の耳には大音量の罵倒のように、脳に突き刺さった。

彼は顔を真っ赤に染めて怒りと悔しさ、敗北感が混ざり合った表情で会議室を足早に立ち去って行った。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


デスランドの玉座。ヴァロンは高空投影の戦力図を眺め、唇を歪めた。


「連隊規模、長射程……人間の玩具が集まってきてますね」


玉座の上で神は短く笑う。


「退屈しのぎには丁度いい。――へし折るか。花を持たせるか。どちらが楽しめるかな」


その夜の月は、神の不敵な笑みを照らしていた。

2025年7月21日月曜日

【お知らせ】休載のお知らせ

 こんばんは!管理人の緑茶です。


本日の更新ですが、青ブタの卯月編のまとめを掲載する予定でしたが、伝えたいことがうまくまとまらない記事になってしまい、ボツにしました。

大変恐縮ではございますが、本日は代原もなく、やむなく休載とさせていただきます。


申し訳ございません。


2025年7月17日木曜日

異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~ ~2話(新)

<あらすじ>

ユーザーランキング一位を獲得した伝説のプレイヤー・伊良拓斗は、入院中に意識を失う。

気が付くと拓斗は、まるでゲームの中のような世界、イドラギィア大陸に降り立っていた──。

<レビュー>

本作は、異世界転移モノのファンタジー作品です。

派手なバトルというよりも、建国や内政を中心にじっくり楽しむタイプの作品です。


ゲームの世界に転生し、主人公が地道に勢力を拡大していく「立身出世型」の物語は、ある意味で王道とも言える展開でしょう。

その一方で、後発作品ならではの宿命として、既存作品の影響が多少見られるため、それを探しながら見るのも楽しみの一つです。


注目したいのは、主人公とヒロインの対話の多さです。

主人公が一方的に思いつきで突っ走るのではなく、

・発案

・ヒロインとの相談

・実行

・軌道修正

と、段階を踏んだ試行錯誤が描かれています。


ヒロインは少し天然系ながらもしっかりサポートしてくれる存在で、

この二人の関係性が丁寧に描かれている点も、本作の魅力の一つです。


今のところ物語は平和に進行していますが、

公式ページの主人公の紹介には、以下のような一文があります:

「いわゆるコミュ障である。内政と平和を好むが、敵には容赦しない苛烈な一面も」

今後、外敵との接触を通して、彼の“苛烈な側面”がどのように発揮されるのか、非常に楽しみです。


また、主人公は「緊急生産」というスキルを持っており、

知っているものであれば大体なんでも生み出せるという、かなりのチート能力を持っています。

ただし、MPの概念がゲーム時代と同様に存在し、使用には制限があります。


この“制限付き万能スキル”をどう使いこなしていくのか──

内政・外交の戦略にどのように活かされていくのかも注目ポイントです。


総じて、定番ながら丁寧に作られた作品という印象です。

興味を持たれた方は、ぜひご視聴されてみてはいかがでしょうか!




2025年7月15日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑦ 救出作戦2》

神災《じんさい》から35日が経過した。


内閣シェルター内の防衛省会議室。


防衛省の制服組、秘匿兵器開発部門の責任者が大きな声が超高性能防音室の壁面に吸収されていく。


「認められるわけがないでしょう!!!」


「他国からの攻撃に備えた、ロングレンジ・レールガンを10台も東京に集めるのは不可能です!」


怒りの矛先は防衛大臣の大仲《おおなか》である。先日失敗した救出作戦の第2回の準備に

本土防衛用の射程の長いレールガン。もちろん超極秘兵器を10台も投入するというのだ。


他国に存在を知られることすら禁忌とされているものを、公に出す。

しかも10台も出してしまえば、この国の防衛力を世界に宣伝してしまうことになり、国を守るための重要なカードを

1枚どころか何枚も失うことになりかねない。


しかし大仲も引かなかった。


「前回の戦いで、通常の誘導型レールガンでは射程距離の問題で、UFBに気付かれた場合にUFBとの接触まで30秒しかなく

 多くの犠牲がでました。つまり、今、必要なものは、UFBと距離を置いて安全な後方から長い射程で攻撃できる、ロングレンジな

 レールガンだということです!」


責任者はそれでも納得していない。


「大臣。民意を得て勢いがあるのは存じています。ですが、これは国防用の秘匿兵器です。万が一、マスコミや他国のスパイに

 撮影でもされれば、辞任じゃすみませんよ!大臣の家族にも不幸があるやもしれません。その覚悟はありますか!」


大仲は即答する。


「ある。だが、だからこそ、偽装工作を依頼している。レールガンではなく、迫撃砲に偽装して出してくれと依頼しているのです。

 ロングレンジの迫撃砲なら公開された既存兵器です。問題ないでしょう!」


「ありますよ!東京に10台も集めれば国土防衛網に歪みが生じます。他国に侵略の隙を与えるおつもりか!」


「隙ですか。今、首都である東京がこの状態で隙のない国土防衛網が機能していますか?していませんよ。していたら東京をUFBに

 焼き尽くされたりしていない」


大仲は少しうつ向くと、意を決したように顔を上げて訴えた。


「あまり、こういうことは言いたくなかったのですが、今、多くの人が苦しみ、多数の死者が出ているのは防衛省の失態でしょう!

 少しでも助けられる命を、少しでも救う。その為に兵器を出すのを拒むのは、失態に失態を重ねる行為だと

 なぜわかってもらえないのですか?」



防衛省のトップが防衛相の失態を指摘する。これは正論を盾にした禁じ手である。相手が国家でもテロ組織でも、未確認の生物でも

国土を守るのが防衛相の仕事。今の東京は国土を守れているとは言えない。


責任者は強く大仲を睨む。しかし、言い返す言葉はない。失態を重ねるなと言われ、その責を問うような圧力をかけられれば

彼に残された発言は一つ「YES」だけなのだ。



◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同日、国会



大仲は連日のように野党から救出作戦失敗の責任を追及されていた。


中心は舞岡議員だ。1日でも早く民間のシェルターへ救出に行くように執拗に攻め立てている。


「大仲大臣。あなた人の心があるんですか?だってそうでしょう。もう一か月も私有シェルターの人々は怪物に怯え、食糧や燃料の残量に怯え

 疲弊しきっていますよ。なぜ救出しないのですか?」


大仲が答えようとすると、遮って舞岡議員は発言を続ける。


「私には分かります、大仲大臣は、神奈川、千葉、埼玉方面の3シェルターに避難した

 一般の人々が助かればよい。大勢の安全のためには少数の犠牲はどうでもいい。そういうことでしょう」


そういうと、自分に正義があるといわんばかりに、質疑の書類をバンと叩いた。

その音に呼応するように、帝都復権党の議員がヤジを入れる。


「それじゃあ独裁者じゃないか!」


「命は数字じゃないんだぞ!」


「全員助けるのが仕事だろう!」


その時、大仲が手を挙げて議長から発言権を得る。


「先ほどですが、次の救出部隊の組成を行いました。詳しい内容は国防上の観点で申し上げられませんが、投入する戦力は小国なら殲滅できる程度です。

 人数も前回の少数精鋭ではなく、1連隊となります。これで必ずや取り残された人々を救出できるでしょう」


この発言に場内が大きくざわついた。


自衛隊の小隊規模の行動であれば、それは救出作戦として容認される通常の活動の範囲である。


しかし、連隊規模となると、通常の活動ではなく内戦である。自国の中で敵性勢力と戦争をするという意思表明なのだ。


大仲はたたみかけた


「兵器も、前回の機動性重視の機動部隊ではなく、各地からロングレンジ・迫撃砲を移送します。射程20㎞です。埼玉から東京23区すべてが射程に入ります」


この発言に与党も驚きを隠せない。


「馬鹿な。射程20㎞の迫撃砲?そんなものはもう短距離弾道ミサイルじゃないか」


「迫撃砲とは、そんなに射程がでるのか?」


「命中精度は大丈夫なのか?」


そこへ、あの秘匿兵器開発部門の責任者が登壇する。


「その点は私からご説明します。この兵器は25式滑空迫撃砲と言います。通常の迫撃砲との違いは弾丸に姿勢制御翼が搭載されていることで、これにより

 自由落下ではなく、あらかじめ狙ったポイントへ自立的に滑空して着弾します」


この答弁はあらかじめ大仲と握っていた嘘である。さすがに20㎞も飛翔する迫撃砲はない。本来のロングレンジ迫撃砲の射程はせいぜい10㎞前後だ。


しかし、舞岡を黙らせるのには十分な材料だった。


「この兵器は出力に比例して、かなりの大型兵器になります。移送に3日。準備に2日。作戦実行は6日後が最短です」


舞岡がすかさず、手を挙げて発言を試みるが、これを大仲が遮る。


「遅い。2日で移送。1日で準備。作戦は4日後に行う」


これも計画通りの発言だ。

そもそも、自走式のロングレンジ・レールガンは半日で埼玉に集められる。しかし、偽装に時間がかかる。これが2日。これを見越して作戦は4日後が最短だと

秘匿兵器開発部門の責任者と話がついているのだ。


こうして、2回目の救出作戦の計画は始まったのだった。


2025年7月14日月曜日

【日記】超かるい日記的なもの ~雑記~

 こんばんは!管理人の緑茶です。

急な寒暖差で風邪をひいてしまい、今日は短めの日記記事になります。(ヘックショイ)


①野菜系

・庭に植えていたゴーヤなんですが、暖かかったせいかすでに実が付き始めています。スーパーで値段をみたところ、まだ一本200円!ゴーヤが金のなる木に見えました(笑)

間もなく8月になれば98円くらいになるんでしょうねー。ゴーヤを生産しているので98円でも最盛期のゴーヤは利益が出ると思います。最盛期はゴーヤの花の独特な匂いが畑に充満し、それこそ見逃して腐らせてしまうくらいに大量にそして高速に育つのです。

②青春ブタ野郎系

・2話まで見ました。ちょっと難しいというか1クールや映画みたいに問題が明確に可視化されず「今何の話?」と聞かれると「アイドルが自分探ししている話」みたいに答えてしまう視聴者が多そうです。

やや“思春期症候群”と結びつけづらく、戸惑うかもしれませんね。読解力と想像力が問われそうな感じです。


③ドラクエ系

・劇場オープンについては活動レポートに書いたので、モンスターバトルロードについて。

毎回思うのですが、耐性が重要なレグナードとか入れないでほしいです。ブレス100にしていないライト勢がしにまくり。かなりストレスを感じているようでした。

あとは報酬系はナーフされたといいますが、あまり気になりませんでした。確かにチケットは減りましたが、だいたいカンストして捨てていることを考えると、チケットはキャンペーンに合わせた金策用になるので多すぎるとキャンペーンがナーフされそうな気がします。


以上です!

やや書きなぐり気味なのと、青春ブタ野郎の酷評がきになりますが、青春ブタ野郎に関しては基本的に面白いという前提の上で、1期目と比べてという意味なので誤解のないようにお願いします!










2025年7月11日金曜日

活動レポート 2025年6月

管理人の緑茶です。こんばんは!

今回は先月の活動レポートとなります。

【実績】

 作家関連のお仕事は・・・・0(ZERO!)

 今月も安定の0!(ZERO!)でした。

【雑感】

『レビューの話題』------------------

春アニメの最終回と夏アニメのレビューを掲載しました。

現在、文章の構成や癖を修正中のため、少々読みづらい部分があるかもしれませんが、できるだけ整理し、分かりやすい記事を目指しています。


青春ブタ野郎シリーズについては、今後〇〇編ごとにレビューしていきたいと思います。

レビューの着眼点がやや偏っていると感じつつも、それを一つの基準として残しつつ、作品ごとに魅力的な視点を加えるスタイルにしていく予定です。


『DQXの話題』------------------

今月はあまり時間が取れず、イベントや週課のみの参加でした。

グランゼドーラの劇場がオープンするそうですが、有料とのことで少し残念です。

100円程度なら試してみようかと思えますが、2200円は普通のライブ配信と同じ価格帯なので、気軽に試すには少々高額です。


個人的には、オープン記念としてドラクエのPVを無料で視聴できるようにして、そこから少額課金に移行する形が理想的だったのではと感じました。

ユーザーのニーズや端末環境を確認した上で、後に「本格配信」として通常料金へ戻す方が商業的にも良さそうです。


また、初心者向けの初心者講座の無料シアターと、有料シアターを分けてもよかったのではとも思います。


『YouTubeの話題』----------------

「鳥人間コンテスト」を視聴しました。

海外版もあるようで、海外はエンタメ要素が強く、日本は技術力重視の傾向があるなど、同じテーマでも見せ方が大きく異なるのが興味深かったです。


技術といえば、過去には「ヘリコプター部門」なるものも存在していました。

個人や団体で挑むには超高難度で、離陸の難しさや、羽の回転と本体の回転を相殺する制御技術など、個人で搭載するには難易度が高すぎたようです。

現在では部門自体が消滅しているようですが、当時の挑戦は非常に面白いものでした。


『小説の話題』----------------

「人類アンチ種族神」を週1で投稿中です。

構想から執筆まで非常に難航しており、読みやすさ、描写のわかりやすさ、キャラの魅力、シナリオの緩急など、毎回試行錯誤の連続です。


ChatGPTにも添削を頼んでいますが、誤字脱字を見逃したり、意図的な比喩表現を「誤り」と指摘したりするため、頼りすぎは禁物。

あくまで校正ツールの一つとして捉えるのが良さそうです。


『その他の話題』----------------

米の価格高騰が話題になっていましたが、大臣交代後に一気に値下がりし始めました。

急な変化には裏があるのではと少し心配になります。


近くのスーパーでは、備蓄米が通常通りに並ぶようになりましたが、一般の米と比べて値段のインパクトが大きいためか、別コーナーで販売されていました。

しかし、レジで備蓄米を持って並んでいたところ、他のお客さんが私の備蓄米を見て購入を切り替えていた場面がありました。

意外と消費者は銘柄にそこまでこだわっていないのかもしれませんね。


ちなみに備蓄米、普通に美味しかったです。ただし、夜に炊いて朝食べると味が少し落ちるので、食べきるか冷凍するのがおすすめです。

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 以上で今回の活動レポートは終わりです。
 
 それでは長文お付き合いありがとうございました!
 
 今月も引き続き更新しますのでズズズイッとよろしくお願いします!!

2025年7月8日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑥ 神の御心》

◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆

〈デスランド、神の居城の王座――神災から27日目〉

――これは、まだ誰も知らない上空の出来事。


神である俺は、居城の王座に座り少しぼんやりしていた。

何度かヴァロンから人間達の蹂躙状況を聞く。

しかし、人間としていて生きた時代に受けた悪意は、神の力で断罪した。

その結末が俺から人間達への興味を失わせる。


「暇だ。暇だぁぁぁ!」


つい声として出てしまうくらいに俺は暇を持て余している。

俺が作り出したガーゴイル。1体で人間3人分の戦力に相当する。

これが50万も放たれたのだ。東京は掌中に収めたといって過言ではない。

散発的に行われる人間の反撃も、俺やヴァロン達が手を出すほどの脅威もなく

遭遇の報告を聞いて、意識を向けてみた時には、早々に人間側は全滅していた。


その時、現場のガーゴイル達を統率する「ちょっと良いガーゴイル」正式名称は小隊長個体から報告が入った。


「創造主様。未知なる兵器を携えた自衛隊の小隊を発見」


「埼玉方面から、ポイント101の橋へ向かっています」


俺は直ぐに意識を向けた。急がないとまた全滅してしまうからだ。俺にとっては

動画サイトのショート動画程度のエンターテインメントだが、ライブで見れるものは

見て楽しみたい。


意識を向けると、自衛隊の最新鋭兵器を並べた1個小隊が荒川へ向かっていた。

兵器の中にはレールガンまである。昨年ロールアウトしたばかりの兵器を投入するなんて

自衛隊の本気を感じざるを得ない。


俺は即座に指示をだす。小隊長個体だが、知的レベルはヴァロン達とは比較にならない。

当然理解力も乏しいので、ヴァロンを使うよりも俺が直接情報を付加して言葉で命令したほうが早い。


「気づかぬふりをして、2体を荒川付近に潜ませろ。あとは出方を待て」


地図情報や潜伏方法、出方を待つ陣形など細かい部分は情報として直接小隊長の脳へ送る。



やがて、埼玉と東京を分断する荒川の手前で小隊は停止すると、ドローンを飛ばして偵察行動を開始した。


--おいおい。そんな精密機器がエーテルの充満するエリアで使えるはずがないだろう。


俺は暇をつぶしたいがゆえに、最低限だが彼らに協力してやることにした。


--エーテルの濃度を少し下げてやるか。無線が使える程度にしておけば、多少楽しめるだろう。


その後、ドローンを使った弾道誘導で最新兵器が何体かのガーゴイルを倒した。

強じんなガーゴイルも、対戦車を想定した兵器の攻撃が直撃すれば一撃で爆散してしまう。


別にガーゴイルが何体倒されようと俺は気にもとめない。

彼らは定めた規則に沿って動いている生体ロボットに過ぎないからだ。

そもそもエーテルで構成されている肉体なので「生体」と言っても「生体風」なのだが。


彼らに与えた基本概念はこうだ。


1.神の命令は絶対である

2.神への危害/予兆は即時、これを排除する。

3.1.2に反しない限りできるだけ味方を攻撃してはいけない。また可能な限り協力する。

4.1.2.3.を遵守して、人間を襲う


これだけだ。

あとは行動範囲などは神の命令として、今は東京から主体的に出ることを禁じている。


俺は小隊長個体に相手の出方で臨機応変に対応しろと命じてみた。

だが、1体、2体と倒されても指示を出す気配はない。


一方、潜んでいた2体のガーゴイルは自衛隊の発砲音に反応し、撃退を開始した。

これは恐らく「2.神への危害/予兆は即時、これを排除する。」に抵触したからだろう。


自衛隊の最新鋭兵器相手だが、ガーゴイルの性能は素晴らしいものだった。

急降下飛行による加速。

その速度を利用して重い兵器を空中へ持ち上げ、落下させることで破壊した。


自衛隊の二足歩行兵器のカーボン素材を使った自慢の防御性能も、高度50mからの落下は想定していない。

瞬時に近接戦では破壊が難しい相手の弱点を突いた的確な判断である。


それに加え、陣形が崩れた自衛隊の懐に飛び込んで歩兵を狙うことで、自衛隊に立て直す隙を与えない。


計算ではないだろうが、人間を狩る生体兵器としては合格点の戦術だ。


想定外だったのは、自衛隊の中に全滅と同士討ちを天秤にかけ、全滅回避のために仲間ごと機銃でガーゴイルを

薙ぎ払うことができる胆力の持ち主がいたこと。


そして増援が到着する前に、撤退を判断し速やかに撤収した判断力のある人物がいたことだ。


--面白い人間を発見した。


俺は暇つぶしの1シーンから、楽しめそうな素材を見つけてしまった。俺の知る醜悪な人間とは違うタイプの人類。

生かすに足るものか、俺の種族神としての本能が好奇心で踊っていた。


さらにもう一つ、今回の戦闘で小隊長個体の性能不足も明らかになった。

まず判断が遅い。判断しても配下への命令が曖昧で「増援に行け」としか命令せず、配下は飛行するのか歩いていくのか

そもそもどの地点に増援に行くのか混乱を極めていた。


結局、増援が到着したころには2体のガーゴイルは倒れ、自衛隊は撤退していた。


改善の余地がある。創造主としての俺も少し楽しくなってきた。

2025年7月6日日曜日

青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない 1話(新)

 <あらすじ>

大学に入学して半年。

高校時代からの友人や恋人である桜島麻衣に加え、新たな出会いも得て、

穏やかなキャンパスライフを過ごしていた梓川咲太。

しかし、授業に現れた卯月の様子に、咲太は違和感を覚える――。


<レビュー>

ついに始まりました、今期の注目作品です。


まずは楽曲面から。前期のキャッチーな印象とは異なり、今期はやや大衆向けに寄せた印象です。

オープニング・エンディングともに、何度聴いても耳に心地よく、疲れない楽曲構成となっています。

これは、制作サイドの方針が「尖った深夜アニメ」から「ヒットを狙う深夜アニメ」へと変化した結果とも言えそうです。


作画についても、SNS上では細かな意見も見られますが、全体的に非常に高いクオリティです。

特にキャラクターの動きには、制作者のこだわりが随所に感じられ、深夜アニメとは思えないレベルのアニメーションでした。

また、舞台が高校から大学へと移ったことに合わせて、登場人物たちの年齢的な成長も丁寧に描かれており、

もともと大人っぽかったヒロインたちを老けさせることなく、美しく成長させた描き分けにはアニメーターの技術力と作品への情熱を感じました。


物語的には第1話ということで、新キャラを含めた登場人物の導入と、新章の幕開けをほんの少し見せる構成となっており、

詳細なキャラ紹介こそありませんが、「サンタクロースの夢を見ない」から視聴を始めた新規層にも、

最低限の関係性が理解できるよう工夫されており、既存ファンにも新規視聴者にも配慮された構成でした。


印象的な演出として、サンタクロース姿の女性も登場し、視聴者の知的好奇心を刺激しながら第1話を終えています。

今後の展開が楽しみになる、期待値の高い導入でした。


期待を裏切らない完成度の高い作品ですので、ぜひ配信サイトなどで視聴してみてはいかがでしょうか。

非常におすすめです!



2025年7月3日木曜日

アポカリプスホテル(終)

<あらすじ>

人類がいなくなり、長い年月が流れた地球。

日本の首都・東京の銀座にあるホテル『銀河楼』では、

ホテリエロボットのヤチヨと従業員ロボットたちが、

オーナーの帰還と、再び人類のお客様を迎える日を待っていた。


そしてついに、人類が帰還する。


<レビュー>

地球に取り残された職業ロボットたちの、ほぼ永遠にも思える日常を描いた作品です。

地球外生命体との接触をきっかけに、止まっていた時間が動き出し、次第に活気が戻ってきます。


その様子を、ヤチヨの視点からコミカルに描いた物語でした。

派手なバトルはありませんが、ホテル業務を愚直に繰り返すヤチヨが、

少しずつ人間のような感情を持ち始め、ロボットでありながら悩んだり喜んだりする姿には、

コミカルな作風の中にも深い感動がありました。


最終話直前までは「人類滅亡ルートか?」と思わせる展開でしたが、

実は人類は惑星間航行船で生き延びており、健在でした。


しかも、それなりの人数と文明も維持していることが判明します。

しかし、長年地球を離れ、整備された船内で生活していたことから、

人類は汚染耐性を大きく失っていました。

現在の地球は徹底的に浄化され、かつてないほどきれいな大気が充満しているにもかかわらず、

人類が宇宙服を脱いだ瞬間、アレルギー反応により倒れてしまうのです。


それでも、宇宙服を着用すれば滞在できることが証明され、

ヤチヨたちは「母星としての地球」ではなく「宿泊先=ホテルとしての地球」を提案し、

人類との新たな関係性を築くことになります。


視聴者としては、「人類が戻らなければロボットの修理もできない」という前提がある中で、

観光客という形でも人類との接点が生まれたことで、ヤチヨたちの“未来の安心”が担保されたように感じられ、

とても心地よい読後感を残す作品でした。


派手な展開はありませんが、どのエピソードもテーマ性に富んでおり、興味深く視聴できました。

配信などで視聴してみてはいかがでしょうか。




2025年7月1日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑤ 代償と推論》

神災《じんさい》から30日が経過した。


埼玉側シェルター内の救出部隊待機室。


部下を15人も失った隊長の足立《あだち》 昭介《しょうすけ》は、あの日のガーゴイルとの戦いの映像を寝る間もなく凝視していた。

そこへ副隊長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐がやってきた。


仲原は純粋に驚いた。足立の一人反省会は24時間、不眠のはずなのに、いまだ続いていた。



「隊長。まだ見てるんですか?交戦時間はたったの180秒ですよ。そんなに見直しても死んだ隊員は返ってきませんよ」


「わかってる。だが15人も失ったんだ。この180秒からできる限りヤツらの情報を入手するんだ」


目が座って、クマができた足立の表情。だが目の奥には怒りにも似た何か執念のようなものが輝いていた。


「しかし、180秒の映像ではほとんど何も分からないと分析チームも言ってますが……」


足立は仲原の方を振り返るとモニターを指さした。

足立の分析はこうだ。


1.ガーゴイルの敵認識の能力


 「では三佐。ガーゴイルは対岸いた。我々の発砲音に気が付いて上空に上がって視認したあと、一直線に襲っている。これをどう見る?」


 「音に反応して、飛び上がり、即座に我々を認識する視力を持っている。つまり、音が聞こえる。離陸能力が高い。視力もよい。こんなところでしょうか?」


 足立はため息をつくと、慣れた手つきでガーゴイルの映像を拡大した。


 「まず、敵は未知の生物だ。そこから弱点を探さねばならない。このシーンで分かるやつらの弱点は、目視しないと敵の位置を把握できないということだ。

  当たり前のようだが、コウモリのように視覚以外の空間把握器官がないことがわかる」


 ⇒【つまり、ヤツラも目に頼っている】


2.ガーゴイルの飛行性能


 「それだけではない。飛び上がった時の高度にも疑問がある。荒川の周囲一帯を見渡すために上昇したとしても高度が高すぎる。高度を上げすぎれば我々からも発見しやすく

  我々との直線距離も伸びてしまう。なのになぜ、ここまで上昇した?」


 「知性がないからですか?」


 「かもしれん、三佐はタカを知っているか?タカという鳥は、高速で獲物を狩るイメージがあるが、じつは水平飛行は80km/hくらいなんだ。だが、急降下飛行になると

  300km/hを超える。奴らは並行飛行が苦手で急降下したかったというのが私の仮説だ」


 「確かに……こうしてみると上昇時の映像がなく、憶測にはなりますが我々を視認してから急降下しているように見えます。この速度が異常に早く我々の陣形を崩しました」


 ⇒【水平飛行は苦手。急降下することで速度を得る】


3.ガーゴイルの陣形


 「このシーンではまだわかることがあるぞ」


 「まだあるんですか?」


 「ああ、これは偵察の情報との合わせ技なんだが、ヤツラは荒川の対岸付近にいた。そして作戦前の偵察情報をもとにした観測地点の地図がこれだ」


 「!!見事に荒川を挟んで埼玉側に1匹もいませんね」


 「そうだ。人間の軍隊なら渡河《とか》の問題があるだろうが、飛行できるヤツらがなぜ荒川を超えない?」


 「縄張りですかね?」


 「かもしれん。だが我々を発見したら躊躇なく超えてきた。これは縄張りというより防衛線。つまり指揮系統が存在すると見て取れないか?」


 ⇒【荒川を境界線とした防衛陣形】


4.ガーゴイルの知的レベル


 「そうなると、ヤツラの知性は相当高いことになりますよ?」

 

 「そうだ、でだ、次に我々が強襲されているシーンだ。2体のガーゴイルに蹂躙された形だが、二体の位置取りと向きを見て何か感じないか?」


 「……これは、互いに背中を守りながら機動的に、連携して戦っている???」


 「ああ、訓練されたものではないが、味方を認識し背後を互いにカバーしている。少なくとも霊長類クラス。もしくはライオンのような高度な集団戦闘技術が必要だ。」


 「加えて、この戦闘でヤツラは一度も炎を吐いていない。これも同士討ちを警戒したとみれば妥当な行動だと思わないか?」


 「そうですね。私も格闘技の経験がありますが、味方との協力戦闘は瞬発的な判断能力や相手の行動予測などの知性が問われます」


 ⇒【霊長類クラスの知性。もしくは集団戦に長けた戦闘技術を持っている】


5.導き出した答え


 「だとすれば、どうだ。指揮官、もしくは群れのリーダーがどこかにいて、これを叩けばーー」


 「そうだ。統制を失い瓦解する可能性もある!」


 仲原は興奮した面持ちで、立ち上がる。


 「すぐにこの情報を大仲大臣に!」


 だが、足立はそれを静止した。


 「まだだ、まだ情報が得られるはずだ。もっと決定的な何かを探すんだ!」


二人の分析は明け方まで続くのであった。



◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  


その頃、帝都復権党本部。


極秘に引かれた光ファイバーを使用し私設のシェルターと党本部で話し合いが行われた。


帝都復権党からは舞岡氏。シェルター側の代表は、日本有数の実力者、大荻山《おおぎやま》 剛三郎《ごうざぶろう》である。


大荻山は、淡々と話を進めた。


「昨日の救出作戦。これはどういうことですか?池袋に最短でくるルートと聞いていますが、荒川も渡れず撤退したそうですが?」


大荻山は帝都復権党の資金源として、大きな影響力があり、舞岡の議員バッジを取り上げることなど簡単にできる。

それゆえに、舞岡は対応に苦しんでいる。


「そのことですが、防衛省の大仲議員が一般の避難民の安全を優先するので、救出部隊の規模が小さく、この件は本日の国会で追及いたします」


「一般人ねぇ。その一般人の生活を支えているのは誰ですか?経済を回して衣食住を提供しているのは誰ですか?守るべき対象を間違えていると思わないかね?」


「そうなんです!あの、大仲議員は大衆ウケばかりで、救うべき人々を間違っている。私は何度も国会で提言しましたが、全く聞く耳を持たず。ですから救出作戦の失敗も大仲議員の失策でして、私は帝都復権党として大荻山さんを一番に助けられるように計画を作っているのですが、大仲議員が邪魔をするので進まないのです!」


大荻山はやや低いトーンで舞岡に迫る。


「1日に3億だ。私が動かしていたカネだ。このカネが動かせない状況を賢い君ならわかるだろう。舞岡君。きみが最優先にすべきことは何かね?」


怯えた様子の舞岡は苦し紛れに答えを返す。


「ですが、自衛隊は防衛大臣の管轄です。せめて防衛大臣が大仲でなければ……!!!!」


数秒の沈黙が重鎮の思考を感じさせる。


「大仲か。ふむ嫌いではなかったが」

2025年6月29日日曜日

機動戦士ガンダム Gundamジークアクス(終)

 <あらすじ>

宙に浮かぶスペース・コロニーで平穏に暮らしていた女子高生・アマテ・ユズリハ。彼女は、ある日現れた謎の少女・ニャアンと出会ったことで、非合法なモビルスーツ決闘競技《クランバトル》の世界へと巻き込まれていきます。

「マチュ」というエントリーネームを名乗ったアマテは、専用機「GQuuuuuuX ジークアクス」を駆り、熾烈なバトルの日々に身を投じることになります。


<レビュー>

最終回(第12話)を迎えた『ジークアクス』は、ガンダムファン向けの濃厚なネタと盛り沢山の演出によって、“お祭り”的なフィナーレを迎えた作品でした。RX‑78‑2ガンダムの再登場や、シャア役の池田秀一氏の起用、そして挿入歌「Far Beyond the Stars」など、ファン心理を揺さぶる展開が見事に詰め込まれています


一方で、展開の速さゆえに、初見や宇宙世紀初心者には理解が難しく、情報量の多さや説明不足を感じる場面もありました。ガンダム用語や歴史へのフォローが薄いため、「ガノタ」向けに特化した構成と言えるでしょう


またストーリーとしては、先の読めない意外性とファンサービスの連続で、SNSでも「製作者に翻弄された感覚が楽しい」と高評価を得ています。


作画面ではオリジナルキャラと旧作のデザインが明確に描き分けられ、CGと2Dアニメの融合という新しい映像表現にも挑戦。戦闘シーンの迫力やスタジオカラーとサンライズによる強力タッグも遺憾なく発揮されています

ただし、「最終回の巨大化展開やカップリング演出の意図が掴みにくい」「登場人物のその後が不明」といったモヤモヤも残ります。


総じて、ガンダムファンにとっては強く刺さる作品ではあるものの、一般向けにはやや内輪感の強い内容になっている点は否めません。

『Gundamジークアクス』は、宇宙世紀ガンダムファンにはたまらない演出とネタの洪水で、作り手の情熱が伝わる一作でした。とはいえ、初見やライト層には入りづらい展開の速さもあるため、「ガンダムをある程度知っているなら必見」、そうでない場合は予備知識を持って視聴するのがおすすめです。



2025年6月26日木曜日

完璧すぎて可愛げがないと婚約破棄された聖女は隣国に売られる(終)

 <あらすじ>

ジルトニア王国の聖女フィリア・アデナウアーは、類まれなる才能と力を持ちながら無表情すぎるがゆえに「可愛げがない」と婚約破棄され、隣国パルナコルタへ売られてしまいます。そこでも歓迎を受けず冷遇されると思いきや、国民や第二王子オスヴァルトに心から受け入れられ、彼女の知らなかった温かな日々が始まります。


<レビュー>

追放系のよくあるパターンとは異なり、本作はフィリアが聖女としての資質を失ったわけではなく、むしろ複数の聖女が存在する世界観を巧みに利用し、彼女自身の成長と新天地での役割に焦点を当てています。そのため、ジルトニア王国の危機が大袈裟に描かれることもなく、むしろパルナコルタでのフィリアが人々を救い、信頼を勝ち得ていく過程が丁寧に描かれているのが魅力です。


キャラクターたちにもそれぞれバックグラウンドがあり、悪役や脇役が単なる記号として扱われず、視聴者として感情移入しやすい仕立てになっています。フィリア自身も、初めはロボットのように無表情でしたが、次第に感情を取り戻し、笑顔を見せるようになる過程は美しく、最終話まで一本の軸がブレずに描かれていました。


聖女モノとしては珍しく、姉妹愛などにも着目しており聖女系のテンプレートを活かしながらも独自性の目立つ作品です。


また、演出面も抜かりありません。TVアニメは2025年4月~6月に放送され、オープニング「愛とか。」(歌:りりあ。)やエンディング「Sister」(歌:WON)など、楽曲にも作品の雰囲気がよくマッチしています。


重厚な設定と緻密なキャラ描写に裏打ちされた、聖女追放モノとしてのテンプレートを上回る上質な傑作です。恋愛展開や世界観、キャラクターの成長がバランスよく構成されており、安心しておすすめできる1クール作品でした。




2025年6月24日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決④ 救出》

 神災《じんさい》から27日が経過した。


前日の閣議決定でこの日、私有シュエルター救出部隊が設立された。


隊長は足立《あだち》 昭介《しょうすけ》である。


簡易的な結成式典で大仲大臣が壇上に立つ。


「みなさん。今回は急な招集に応じていただきありがとうございます。今、私有シェルターに取り残された人々は飢えや、渇き、燃料問題に苦しんでいるかもしれません。

 みなさんの、お力でどうか彼らを救出していただきたい。」


「ですが、私は私有シェルターの皆様と同じくらいに、自衛隊の皆様にも損害を出さないようにしていただきたい。命さえあれば、何度でも救出に挑戦できます。

 どうかこの私の思いも忘れずに、今回の任務にあたってください」


大仲が壇を降りると、副隊長・仲原《なかばら》香《かおり》三佐が代わって前へ。


「本隊は救出部隊であって討伐部隊ではない。指示を誤解するな」


そう釘を刺すと、兵器の編成を発表した。


「偵察ドローン ×20 機 + ドローン母艦(ベース)×1

 二七式自走レールガン ×3 / 二七式戦車(特装)×2

 特殊耐熱装甲車 ×2 / 耐熱輸送車 ×3

 二七式迫撃砲 ×1

 人型パワーユニット(二足歩行)×2」


「以上 8 種類 の最新装備、要員五十名。質問は?」


「すべて陸路で、航空支援は……?」


「航空機はこのエリアで計器異常が頻発する。原因不明。よって陸路のみ」と仲原。


この発表に隊員がざわつく


「27式ってどれも最新鋭じゃないか」

「人型パワーユニットは秘匿兵器じゃないか」

「国内に3台しか存在しないドローンベース(ドローンの母艦)が配備されるのか!」

「自分レールガンを見るの初めてです」


「質問はないな。次にルートを説明する。我々は埼玉シェルターのDゲートから地上へ出る。国道17号で荒川を渡り、池袋付近のシェルターの救出。救護者は輸送車に乗せそのままDゲートへ帰還する。

 昨日の索敵では、このあたりは怪物も少なく、本隊の戦力で制圧は可能と判断している」


「その後、輸送車の後退を荒川まで援護し、再び進軍、新宿、渋谷と行軍する。なお、この辺りは地獄のど真ん中だ。避けたいところだがシェルターも多い。一日目の行軍は以上である。質問はあるか?」


「つまり航空支援のない代わりに戦車と自走砲で進路を切り開いて進めと。その為の最新鋭兵器ですか・・・」


「そうだ。これらは1台1台が各地方の切り札として配置されていたものだ。大仲大臣が職権を行使して無理やり集結させたものだ。我が国の陸戦兵器の最新鋭はここに集結している。 諸君の働きにも期待している」


そういうと、中原はひな壇を降りた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


6時間後


荒川付近


「隊長。偵察ドローンが怪物を発見しました。数7です」

「誘導レーザー照射。レールガンとリンクしろ」

「ドローン1、飛行中の目標の1体に照射しました。」

「よし、撃て!」


キィィィィン。電圧の高まる独特の音がする。その直後、ドンと音速を突き破る衝撃がはしる。


「弾着確認。目標を粉砕しました」


一撃で怪物を破壊する威力に隊員たちから思わず声が上がる。


「すごい」

「これはいけるぞ!」


「ドローン1、飛行中の次の目標に照射完了」


キィィィィン。ドン!


「弾着確認。この目もを粉砕しました。しかし、のこり5体は高度が低く、射線がとれません」


「ふむ。リンクを迫撃砲に切り替えろ」


迫撃砲は放物線を描くため、遮蔽物があっても攻撃が可能なのだ。


「ドローン1、地上の目標の1体に誘導レーザー照射しました。」


「27式発射!」


ボゥン


レールガンとは違い、低く火薬特有の爆発音が響く。


「弾着確認。・・・土埃が酷いな・・・」


数秒の沈黙があたりを包む


「目標粉砕!こちらの威力も十分です!」


「おおおお!!!」


主力兵器の活躍に部隊は沸いた。その時


「隊長!8時の方向より怪物接近!数2。はやい!接触まで20秒」


物陰からガーゴイルの奇襲を受ける。


「人型展開!!時間を稼げ!!総員車両に退避!!」


人型のパワーユニットが8時の方向を向く。しかし、携行サーベルを構える前にガーゴイルはユニットを強襲。


そのまま空高く持ち上げて50mほど上昇し、ユニットを地面にたたき落とす。


「うあああああぁぁぁ・・・・」

「ザザッザザッ」


一瞬で途切れた悲鳴と無線で、状況は伝播した。


落下した破片が、車両に退避しようとしている兵士を襲う。


その混乱を狙ったように、ガーゴイルが急降下し、混乱を極める部隊を蹂躙する。


ーー全滅する。


誰もが思ったその時、戦車の機銃が味方の死体ごとガーゴイルをハチの巣にする。


撃ったのは中原副隊長だ。車中で待機していた彼女は、味方の状況を即座に判断すると、2体のガーゴイルが近づいた瞬間を狙い

まとめて機銃で薙ぎ払った。


それを見た足立隊長は声を荒げる


「まだ生きていた隊員もいたかもしれないのに、何故撃った!1発目2発目は威嚇、3発目から当てろと習わなかったのか!」


「隊長!これは実践です。威嚇なんてしていたら全滅していました。確かに生きていたかもしれません。ですが全滅とどちらを選ばれますか?」


「どちらも選ばん!仲間の犠牲を出さずに敵を無力化する方法を考えるのが士官だアホたれ!」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


同時刻・地下、防衛省指揮所。


地下司令室。モニターには赤い “重要事項” の文字。


大仲は無線越しの報告に目を閉じた。「生存 35うち負傷 11、死亡15 以上」


近くにいた官僚が思わず声に出る。


「出撃から6時間で、最新鋭機の精鋭部隊が・・・」


隣席の幕僚が囁く。「いえ、正体不明の相手です。想定より被害が少ない、という見方も……」


官僚たちの動揺に大仲が声を上げる。


「撤退。即時撤退だ!」


これまで以上に険しい表情に、誰もが大仲の心情を察し冷静を取り戻した。


この日、50名の隊員のうち15名を失い、救出作戦は荒川を渡ることなく失敗に終わったのであった。

2025年6月22日日曜日

片田舎のおっさん、剣聖になる(終) レビュー

 <あらすじ>

片田舎で細々と道場を営む中年の剣術師範、ベリル・ガーデナント。

かつて剣の高みを目指していた日々は遠い過去となり、今では落ち着いた暮らしを送りながらも、その鍛錬の成果によって「片田舎の剣聖」と呼ばれるまでの腕前に至っていました。


<レビュー>

物語のクライマックスでは、ベリルが王権と宗教の対立に巻き込まれ、自らの弟子と戦うことになります。そして、王から「聖剣」として認められることで、ひとつの区切りを迎えました。


本作の特徴は、いわゆる“無双系”作品でありながら、主人公ベリルが「偽りの謙遜」ではなく、「本心からの謙遜」を貫く点にあります。

彼は常に控えめでありながらも、「おっさん」としての決断力や人生経験に裏打ちされた落ち着きを随所で見せ、戦いを避けながらも必要な場面ではしっかりと行動に出ます。その姿勢が、作品全体に安心感と説得力を与えていました。


戦闘シーンは非常に緊張感があり、ただの力任せではない「技」と「知恵」による戦いが魅力的です。

相手の戦闘スタイルや癖、間合いを読み、状況に応じてスピードや体術を柔軟に使い分けるなど、ベリルならではの老練な戦い方が描かれており、「異常な身体能力」や「派手なスキル演出」で押し切るタイプの無双作品とは一線を画しています。まさに“静かな凄み”といった印象です。


また、恋愛要素や子育て要素といったサブストーリーもよく練られており、作品全体の味わいを深めていました。

特に、ミュイとの同居生活では、食事のシーンが幾度となく描かれ、それが二人の関係の変化を自然に伝えてくれました。

戦い以外のベリルの人間としての成長が表現されていたのも、本作の魅力の一つです。


恋愛的な描写としては、アリューシアがベリルに想いを寄せている様子が描かれましたが、ベリル本人は気づくことなく、アリューシア自身も「彼が幸せになるのであれば自分でなくてもいい」と語る場面がありました。彼女の本心がどこにあるのかは視聴者の想像に委ねられていますが、恋愛が大きく進展することはなく、余韻を残す形になっています。


なお、本作は2期の制作がすでに決定しているため、こうしたヒロインたちとの関係性については、今後さらに掘り下げられることが期待されます。


とはいえ、タイトルにもある「片田舎のおっさん、剣聖になる」というテーマは、1クールの中でしっかりと描き切られており、非常に満足度の高い締めくくりとなっていました。

ラストの静かな余韻も含め、心に残る作品だったと思います。


「派手さ」よりも「深み」で魅せる、静かな熱量に満ちた異色の無双作品でした。

ベリルという主人公の在り方が物語全体に芯を通し、見ごたえのある戦闘と人間味に満ちた日常描写が高い完成度で融合していました。

続編となる2期が、今から楽しみです。




2025年6月19日木曜日

機動戦士ガンダム Gundamジークアクス(一部レビュー)

<あらすじ>

宙に浮かぶスペース・コロニーで平穏に暮らしていた女子高生・アマテ・ユズリハ。彼女は、ある日現れた謎の少女・ニャアンと出会ったことで、非合法なモビルスーツ決闘競技《クランバトル》の世界へと巻き込まれていきます。

「マチュ」というエントリーネームを名乗ったアマテは、専用機「GQuuuuuuX ジークアクス」を駆り、熾烈なバトルの日々に身を投じることになります。


<レビュー>

本作は、1stガンダムの世界とは異なる“別世界線”を描いた新しいガンダム作品です。ファーストガンダムの象徴的な要素を一部受け継ぎつつ、まったく新しいオリジナル要素を大胆に組み込むことで、独自の世界観を築いています。


第1話はオリジナルの時間軸で物語がスタートします。戦争終結後の静かな始まりから、非合法のモビルスーツバトル《クランバトル》に至るまで、段階的に世界観を紹介していく構成です。しかし、この作品の真価が発揮されるのは第2話からだと感じます。


2話では、ファーストガンダム第1話の展開を大きく改変し、アムロがまったく活躍せず、ガンダムとホワイトベースがまさかのシャアによって鹵獲(ろかく)されてしまいます。さらに、ガンダムは赤く再塗装され、赤い機体として新たに登場しますが、直後に謎の現象により焼失。以降は、緑色に再塗装された旧ホワイトベースのみが“1stの名残”として残る形になります。


このような予想外の展開は、新規ファンにとっては斬新に映り、旧作ファンにとってもインパクトのある構成だと感じました。1話で大胆なオリジナル要素を示し、2話で懐かしいキャラクターと設定を登場させるという二段構えの構成が、非常に巧みに機能している印象です。


また、1stガンダムの名物キャラたちが、令和の高精細なアニメーションで当時と変わらないキャラクターデザインのまま登場している点も魅力的です。キャラデザインに関しては、本作オリジナルのキャラクターと、1stから継承されたキャラクターが明確に描き分けられており、まるで異なるアニメ作品のキャラが1つの世界に共存しているような、不思議な視覚効果もあります。


作画や演出も非常に力が入っており、展開スピードも目を見張るものがあります。次々に新しい要素が投入されるため、「これは本当に1クールで収まるのか?」と不安になるほどの情報量と広がりを感じさせる構成です。


設定の奥深さや勢力構図の緻密さから考えると、むしろ4クール(1年放送)でも問題なく構成できるだけの下地がありそうです。それほどまでに本作の世界観は広く、しかも物語の進行が早いため、視聴者は常に集中して物語を追わなければ置いていかれてしまうほどです。


今回のレビューでは、1話・2話を中心とした「さわり」の紹介に留めておりますが、間もなく迎える最終回を経て、改めて全体を通した総合的なレビューをお届けしたいと考えています。


『Gundamジークアクス』は、ファーストガンダムの伝統を引き継ぎながらも、大胆かつスピーディーにオリジナリティを展開していく、熱量の高いガンダム作品です。

ガンダムシリーズファンはもちろん、新規のアニメファンにも強くおすすめしたい、今期注目の1作です。



2025年6月18日水曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決③ 野党vs野党》

神災《じんさい》から25日が経過した。


防衛省の大臣である、大仲《おおなか》 晴彦《はるひこ》は野党の攻勢に苦しんでいた。


ーー早く国民を安全な場所へ避難させないと。

ーーしかし、今や避難民は10万人になっている。


人口140万人の大都市東京。あの大災害で10万人もの人々が国有シェルターに避難できたのは、大仲大臣のスピードのある政策と的確な意思決定の成果である。

だが皮肉にも、この人数が避難先の選定に大きな影を落としていた。


ーー1万でも、2万でもいい。受け入れ先はないのか。


大仲は、あらゆる分野の受け入れ先と調整をしていたが、数万人の単位の避難先となると簡単にはみつからない。

そこへ追い打ちをかけるのが野党「帝都復権党」の掲げる「地上奪還論」だ。


SNSの巧みに使い、大仲を弱腰と揶揄《やゆ》し、世論の大きな流れとして「避難よりも奪還」という風潮が時間とともに増していた。


国会答弁では野党第一党である「立国平和党」が地上奪還案を野党内で提案を取りまとめ中という形で、帝都復権党の攻勢を抑えてくれているが、世論も地上奪還に流れていく中で苦しい国会が続いた。


この日、ついに帝都復権党の舞岡議員が立国平和党の制止を無視して切り込んだ。


「大仲大臣。もうすぐ災害からひと月が立ちますよ。いつまで国民を地下に閉じ込めておくつもりですか?」


大仲も切り返す。


「シェルター内の状況は安定しています。自警団方々の協力もあって治安もいい。食料も燃料も十分にあります。

 そのうえで、やはり県外への脱出も必要ですから、受け入れ先と調整をしています。

 まずは、医療が必要な方を率先して2日後に脱出できるように、受け入れ先の病院が必死にベットを準備してくれています」


先ほど調整がついた内容をカードして切りかえす。病院の確保について、この数日で調整できたことは、昼夜を問わない大仲と官僚たちの成しえた奇跡にも近い。


だが、舞岡は止まらない


「医療が必要な人を逃がす。そんなの当然ですよ。では大臣、その他の多くの避難民について、いつ、どのように脱出できるのでしょうか?」


「舞岡さん、まさに今、その調整をしています。シェルターには10万人もの人々がいるんです。安全にかつ、継続的に避難できる場所、避難ルートには慎重になるべきです。

 先ほど申し上げたように、シェルターは安定しています。国民の安全を考えるのも私の仕事だと認識しています」


「そうでしょう。10万人の避難なんて難しいのです。ですから大臣、私たち帝都復権党が最初から申し上げたように、地上奪還が最も現実的で優先すべき課題ではありませんか?」


すかさず立国平和党の津田が割り込む


「舞岡さん、その計画は立国平和党と帝都復権党で提案書を作成している最中です。ここで大臣に提案しても大臣も判断に困ると思いますよ。提案書をもって、別途議論しませんか?」


野党第一党の党首である津田の心証を悪くして提案書が遅れることを危惧した舞岡はトーンを落とした。


「わかりました。では、最後に一言だけ大臣に進言をして答弁を終えます。」


「大仲防衛大臣、自衛隊のレールガンは何のために開発したんですか?地下鉄の防衛に100両近い戦車は必要ですか?東京にある歴史的な建造物、私有のシェルターに取り残された人々は放置ですか?

 防衛大臣というのは避難誘導係でしょうか。国土を防衛しないんですか?以上です」


この発言は中継を聞いていた神災を受けていない地域を中心に、大きな共感を生んだ。


「弱腰大臣」「地上奪還」「自衛隊は国土を守れ」と地方の国民が声を上げ始め、大仲の活動に支障をきたすほどであった。


当初は形だけの「地上奪還計画案」を作成する予定であった立国平和党も、ある程度まじめに取り組まざるをおえない状況に追い込まれた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


翌日の国会。



まずは、大仲が現状を説明。


続いて津田が地上奪還計画に切り込んだ。


「帝都復権党の皆様と協議している地上奪還計画についてお話します。大仲大臣はずっと県外脱出をお考えでしたが、私はこれが実際の避難民の皆様のご希望なのか、この点についてずっと疑問でした。

 普通に考えて、住み慣れた土地を捨てて知らない土地に避難をするのは誰だって心配があるのではないでしょうか?」


この切り出しに、帝都復権党が前の面りに声を上げる。


「そうだ!」

「シェルターの人々の気持ちも考えろ!」

「地上を奪還するしかないだろう!」


だが津田の奇策に絶句することになる。


「この3日間、3つのシェルターの避難民の方々に私を含め、立国平和党の議員が現地の声を聴いてきました」


「私は驚きました。どのシェルターの幅広い年齢層、しかも性別を問わない皆様が、大仲大臣をとても高く評価されているんです。皆さん避難生活に不満はあるそうです。ですが、それ以上に

 大仲大臣への感謝の気持ちが大きいと。我々の調査では他県への脱出に対して賛成75%反対20%無回答5%という結果です」


「また脱出するとしたらどれくらい待てるか?という質問には3ヵ月が一番多く、中には無期限でもよいという意見もありました。明日ですか。医療が必要な人が避難できれば、健康な大多数の方の避難には

 少し時間がもらえるということが分かりました」


思わぬ援護に大仲は内心驚いていた。野党第一党の津田はいわば与党で大仲の最大のライバルであった。

だが、津田も単なる擁護ではおわらない。


「ただ、地上の奪還に関しては、期限を定めずにしてほしいという声が80%以上ありました。ですから、私は大仲大臣の進める脱出計画と、平行して地上奪還案も時間をかけて精査していくことで

 確実性があがると思います。どうですか大臣?」


事実上の地上奪還計画の「延期」である。


この発言に舞岡は声を上げずにはいられない。


「津田さん。何を言ってるんですか?早々に地上を奪還しないと、私有シェルターの人々が死んでしまいますよ!津田さんまで弱腰でどうするんですか!!」


無断発言に議長から注意を受ける舞岡を横目に津田が手を挙げてマイクに立つ。


「私有のシェルターについては、確かにそうですね。私も少し配慮が足りておらず、捕捉します。地上の奪還と私有のシェルターの救出は別軸で進める方向で大臣には考えていただきたい。

 私有ですので、何日分の備蓄があるのか。耐久性の詳細も分かりません。国民の救出は自衛隊の任務であり、これは流石に大臣にも早急にご対応いただきたいと思います」


こうして、地上奪還計画は「延期」、救出計画のみ早急に実行というシナリオが成立した。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


帝都復権党 控室──本会議終了直後


「舞岡さん!なんで延期に同意したんですか!!」


帝都復権党のNo2の議員が早々に詰め寄った。


「せざるを得ない!反対したら津田は必ずいうぞ ”帝都復権党の支持基盤である富裕層を助けたいだろ”ってな」


「そんなこと全国中継で言われたらウチも、支持者も大損害だ。うちらの都合で自衛隊を動かすように受け止められたら選挙も大敗決定だ!」


その言葉に帝都復権党の議員も、苦々しい顔で見つめあった。


ーーこの代償は必ず払わせるぞ。津田ぁぁ


舞岡の怨念が控室にこだまするようだった。


2025年6月17日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決② 野党の追及》

神災《じんさい》から20日が経過した。


防衛省の大臣「大仲 晴彦《おおなか はるひこ》」の大胆でスピード感のある政策の効果もあり、東京の生存者は私有のシェルターに避難している富裕層と、国有シェルターに避難している一般人。そして政府の閣僚や事務次官があつまる内閣シェルターに分かれて生き延びていた。

 

ガーゴイルは東京23区を中心に無数に地上と上空にはいかいしている。そんな状況でも、地下鉄に関しては自衛隊によって治安は守られ、申請すればシェルター間の往来も許されていた。


目先の脅威が去ると、大仲大臣への野党議員の追及が本格化してきた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


内閣シェルターにて答弁が行われていた。


質問しているのは、野党第一党「立国平和党」の党首「津田 一郎《つだ いちろう》」だ。


「まずは大仲大臣。スピード感のある避難対応について、私個人として非常に評価すべきだと感じております」


「その前提でお話ししますが、大切なことは持続可能であることであります。各シェルターにあと何日くらいの食料、燃料が残されているのかご回答ください」


大仲はまっすぐに手を挙げると、マイクに立つ。


「その件について、何日という期限はお伝え出来ません。なぜなら、食糧も燃料も日々、自衛隊の皆様、そして民間の方々が補充していただいており、変動しているからです。一つ言えるのは、その補充がすべて止まったとしても最低10日間の備蓄は各シェルターにあります。食料が必要としている人に食事を届ける。これについてはどのシェルターについても十分に対応可能であります」


再び津田が質問する


「では大臣、埼玉のシェルターも十分に備蓄があると。あのシェルターは一度破棄されたものを修繕して使用しています。食料も燃料も全く備蓄されていなかったと思いますが、改善されたと認識してよいですか?」


「はい。埼玉については当初こそ食糧が不足気味ではありました。しかし埼玉の商社の方、農家の方、一般の方から本当に多くのご支援をいただき、今では他のシェルターと同等の備蓄を行っています。これには大臣として、協力していただいた全ての方に感謝を申し上げたいと思います」


質問者の津田は、わずかに笑みを浮かべ少しうなずくと質問を終えた。備蓄状況については津田も事前に知っていた。これは"あえて"追及という形で大臣に答弁を迫り、国民にシェルターの状況を知らせ、安心させる津田流のパフォーマンスであった。


次に野党「帝都復権党」の「舞岡 幸三《まいおか こうぞう》」の質問だ


「大仲大臣はスピード感を重視したといいますが、その結果として地下鉄の駅に向かう途中に多くの国民が命を落としています。自衛隊を地上に派遣して、地上にも避難経路を作らなかった責任をお聞かせください」


再び大仲が回答する


「大臣である私が、決断し権限の下でおこないました。当然責任は私にあり、その一つとして今、説明責任を果たしています」


舞岡は声を大きくして追及する。


「では説明してください。見殺しになった国民への責任はどう取られるおつもりか?」


この攻撃的な質問にも大仲は屈しない。


「見殺しといいますが、どこから避難してくるのか予測もできない状況でした。その状態でむやみに自衛隊を地上に出せば、地上は危険な状態ですので、自衛隊にも被害がでる恐れがありました。それに、これは後から自衛隊員から聞いて驚いたのですが、自衛隊の皆さんは地下鉄の入り口で待機して、避難民を見つけた場合は、危険を顧みず地上へ出て地下鉄へと誘導したそうです。私は、防衛省の担当大臣として、彼らを代表しているわけですから、彼らの勇気ある行動を称賛《しょうさん》することはあっても、見殺しにしたという認識には断固否定します。」


舞岡はそれでも勢いを止めない


「あなたが地下鉄へ避難を促したばかりに、隠れていた場所から移動して死亡した人も沢山いる。それを称賛するなんて理解できません。では質問を変えます。リスクを負ってシェルターに避難した人々ですが、ずっとこのままとはいきません。地上の奪還はどうされるお考えですか?」



「舞岡さん、奪還というのはつまり自衛隊を地上へ出す計画があるかということでしたら、計画はありません。シェルターの方々は時期を見て県外に脱出していただくつもりです。今、一番大切なのは地上の奪還ではありません。生き残った人々の命であります」


「それはご冗談ですよね?大臣の発言は未曽有の災害に直面したら、東京を捨てるということですよ?東京に資産を持つ人、思い出のある人、なによりもこの国の首都をテロリストに明け渡せというのでしょうか?」


この言葉に呼応するように「帝都復権党」の議員たちが声を上げる


「そうだー」

「首都だぞ、首都!」

「皇居を放棄するんですか!」

「無責任すぎるぞ!」


一気に過熱する議場。


「静粛に!」


議長が静止をかけるが「帝都復権党」のヤジは止まらない。


すると先ほどの津田が手を挙げてマイクに立った。


「野党を代表して申し上げます。地上の件ですが。これについては私も思うところはあります。今、「立国平和党」の党内で提案をまとめています。よろしければ「帝都復権党」の皆様もご参加いただき、作成しませんか?」


野党第一党と協力を組める。この美味しい話に「帝都復権党」は直ぐに乗った。


「では、大仲大臣、地上については我々「立国平和党」と「帝都復権党」で提案を少し協議のお時間をいただきますが、お出ししますので、大仲大臣だけではなく、与党の皆様でこれを吟味していただければと思います」


こうして、議会は何とか終了したが、「帝都復権党」を中心とする地上奪還派が勢いを持つ結果となってしまった。



◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


立国平和党 控室──本会議終了直後



「……代表、いまの発言、党の了承は得ていませんよね?」


控室の空気が一瞬凍る。

言ったのは、一期目の若手議員・矢部(やべ)だった。

不安と苛立ちがまざりあった声。周囲の同僚も、どこか同調するように目を向けている。


津田は、テーブルの上の書類を手に取ると一瞬矢部を見て、すぐに視線を落とし椅子に腰を下ろす。

そして、ゆっくりと水をひとくち飲み、テーブルに戻した。


「……まぁ。これも政治だよ。」


それだけを言って、視線を矢部に返さない。

控室の空気がまた、ざわつく。

その沈黙を断ち切るように、ひとりの年配議員がゆっくりと立ち上がった。


「矢部君、そして君たちも。あの発言を“地上奪還の開始宣言”と受け取ってはいけないよ」


「……でも、あれじゃまるで、我々も計画を持っているように──」


「“持っているように見せる”必要があった、ということだ」


矢部が困惑を露わにすると、年配議員は歩を進めてそっと手を肩に置いた。


「舞岡議員は、党派を越えた復興協議の場を“自分の理想を語る場”にしていた。

 津田代表は、ああいう場で感情を煽られて政治が停滞するのを、何よりも恐れている。

 現場ではまだ自衛隊が必死に活動を続けている。時間が、命を左右することもある。そういうことだよ」


「でも……じゃあ、地上奪還は、やるんですか? 代表の言葉を信じた国民が──」


「“計画書”は作るさ。だが、中身のページは白紙でいい。

 ページ数と予算目録だけ、派手にしておけばそれで良い。

 あれは“見せる計画”だ。“やる計画”じゃない」



若手たちは黙り込んだ。

その言葉の重みを、それぞれの心で咀嚼《そしゃく》していた。


年配議員は落ち着いたトーンで咀嚼《そしゃく》を助ける。

「理想を語る時間が、現実を壊してしまうこともあるということだよ」



机の端で、津田は依然として書類に視線を落とし、何も言わなかった。

ただ静かに、一行ずつ赤ペンを走らせていた。

まるで、騒がしさなど聞こえていないかのように。


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編集後記:明日、定例外更新で対決③を掲載します。

2025年6月15日日曜日

片田舎のおっさん、剣聖になる 7〜11話(一部レビュー)

<あらすじ>

片田舎で道場を営むしがない剣術師範の中年男、ベリル・ガーデナント。

剣士としての頂点を目指した日々は遠い昔のこととなり、長年の鍛錬によって極めたその剣の腕は、今や“片田舎の剣聖”と称されるほどの領域に達していた――。


<レビュー>

今期の注目ファンタジー作品のひとつです。

前半では、年配の剣士である主人公が名だたる剣豪や魔法使いたちと戦い、圧倒的な強さを見せつける「無双展開」が続きました。しかし後半では、娘のような存在との同居生活が始まり、要人の護衛や国策への協力など、剣の実力だけでなく「剣聖」としての社会的な責務も担うようになってきました。


この手の無双系作品は、最初から最後まで力押しで進むパターンが多いのですが、本作では世界観を丁寧に広げながらも、主人公の「剣士としての強さ」という軸をぶらさずに物語を進めており、構成の巧みさを感じます。読者を引き込む力も十分にある作品だと思います。


今期のラストは、隣国における「宗教団体」と「国王軍」の政権争いに巻き込まれ、なんと宗教側の指導者が主人公の元弟子だった――という衝撃の展開で終わりそうです。


また、伏線として騎士団の女団長との恋愛の可能性や、娘の成長、魔法系勢力との戦いなどが残されたままなので、ぜひ第2期でこれらのエピソードを描いてほしいと期待しています。


なお、本作ではまだ主人公が正式に「剣聖」と名乗る場面は登場していません。ラノベアニメでは「とりあえず1クールやって終わる」作品も多く見られますが、できることなら最後まできちんと描き切ってほしいと思わせる完成度の高い物語です。


CGを上手に活用してはいるものの、アクションシーンが多く作画の負担も大きそうなので、仮に2期が決まったとしても、制作にはある程度の時間がかかりそうな印象を受けます。


とはいえ、時間がかかってもぜひ続きを観たいと思わせるだけの魅力があります。


単なるバトルものではなく、恋愛や日常も丁寧に描かれているため、ファンタジー作品がお好きな方には幅広くおすすめできるアニメです。




2025年6月12日木曜日

活動レポート 2025年5月

管理人の緑茶です。こんばんは!

 

今回は先月の活動レポートとなります。


【実績】

 

 作家関連のお仕事は・・・・0(ZERO!)

 今月も安定の0!(ZERO!)でした。


【雑感】

『レビューの話題』------------------

アニメ、ドラマ、ゲームと幅広いジャンルを掲載しました。特にドラマのレビューは難しさを痛感しています。アニメは絵や演出から制作者の苦労が想像できますが、一方不慣れなドラマについては役者のセリフや演技が台本通りなのかアドリブなのか判断しにくく、カメラワークもアニメとは異なる技術が評価されるのでレビューに苦戦しています。それらの点で、ドラマをレビューするにはもっと勉強が必要だと感じました。


『DQXの話題』-------------------

竜術士4人+海賊(応援要員)構成でVer.3フィールドにいるイーギュアなどの強敵に挑みました。すべてがドラゴラム一択のため、引ければ勝ち、引けなければ負けのシンプルな構成です。海賊の応援で必殺チャージ率が25%ほど上がり、3人以上がドラゴラムを放てる場面がありました。ただし全滅すると復帰に手間がかかるため、ネタとしては面白いのですが繰り返しにはあまり向いていない点もあります。


『Youtubeの話題』-----------  

小説連載が始まり視聴時間が減りました。主にUnreal Engine 5の技術系動画をチェックしています。ただし、中級以上の内容になると前提知識がある方向けになりすぎて、初心者にはついていきにくくなる印象です。一方で「みなみよつば」さんのRPGツクールMZ解説は初心者を常に意識していて非常に参考になっています。


『小説の話題』-------------------

「人類アンチ種族神」の連載を開始しました。数年かけた構想で、導入部は残虐描写を多めにしています。プロットでは性的描写も検討しましたが、今回は残虐描写に絞りました。2話完結型の予定でしたが、V話以降は少し長めの展開になります。人類側の描写も増え、読みやすくなると思います。


『その他の話題』-------------------

6月に入り、夏野菜の植え付け後半戦です。プランターは大きめにして、水分が飛びやすい季節に備えましょう。虫被害なら葉裏のチェックを忘れずに。手袋を使えば刺される心配も軽減できます。家庭菜園は物価上昇の対策にもなりますので、このタイミングで始めてみてはいかがでしょうか。


以上、5月の活動レポートでした。

今月もお付き合いいただき、ありがとうございました!


これからもズズズイッとよろしくお願いいたします!!

2025年6月10日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決① 防衛大臣》

神災から10日目、都心の地下シェルターで政府の対策会議が行われていた。


このシェルターは都内5か所にある、他のシェルターや他県のシェルターと光ケーブルで接続されていた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


その日、防衛省の大臣である真田 権蔵《さなだ ごんぞう》が国民に向けてメッセージを発信していた。



既にスカイツリーが機能していないため、放送は神奈川や大阪といった電波塔を持つ地域を中継して

全国民へ発信している。



真田は淡々と呼びかける。


「みなさん、落ち着いて行動してください。現在東京は謎の怪物。えー。我々はこれを“未確認飛来生物(UFB)”と呼んでおりますが、えー。現在情報を収集しており、対策を検討する準備の話し合いを始めようとしております。えー。東京都全域にUFBが確認されており、えー。都民の皆様におきましては、えー。お住いの地方自治体からの指示に従い、えー。最善の行動をとっていただきますよう、お願いいたします」


この放送はインターネットにもアップされ、SNSを中心に実質ゼロ回答と非難を浴びた。半日後に再度放送が行われ真田大臣から釈明はあったものの、その内容が「未曽有の状況であり、各人の判断が最良と言わざるを得ない」というもので、その発言が無責任すぎるとの批判をあおり、翌日には辞任に追い込まれた。


この有事に、担当大臣の辞任は政府にとって大きな打撃となり、総理は元自衛官という異色の経歴をもつ大仲 晴彦《おおなか はるひこ》を急遽後任に抜擢した。


議員としては、まだ若い48歳の大臣の誕生である。


大仲大臣は翌日には就任会見を開いた。


「昨日より防衛省の大臣に任命されました、大仲 晴彦《おおなか はるひこ》です。現在、我が国は危機的な状況にあります。昨日の就任から、つい先ほどまで夜を徹して事務方と優先すべき事項を話してきました」


「結論を申し上げますと、まずは国民。とくに被害の大きい首都圏で、今、この瞬間も救助を必要としている人を迅速に助けることが必要です!」


「経験のない国難に対し、軽率に動くべきではないという意見もあると思います。しかし私は大臣としてスピード感をもって対応することが大切だと思います」


「そこで、国の所有するシェルターを解放します。シェルターは2か所、神奈川県側と千葉県側にあります。詳しい場所は防衛省のホームページに、このあと、1時間後には掲載できる見込みです」


「シェルターの解放時期ですが、これも自衛隊のみなさんと、一部民間の皆様のお力でなんとか12時間後には、第一陣としてケガ人や高齢者、妊婦など緊急性がある方を各シェルターで10,000名ずつ受け入れられる見込みです」


「また、第一陣受け入れ後、6時間程度の準備を経て第二陣として、女性と子供を各シェルターで10,000名ずつ受け入れます」


「男性の皆様には大変申し訳ないのですが、まずは体力の少ない人々を優先することにしました。この件については私が大臣としての権限と責任をもって決断いたしました」


「男性の皆様には、少し遠いのですが埼玉県側に現在急ピッチで使用されていなかったシェルターの再整備を進めております。こちらは、地元の建設業者さまのご協力で、すでに作業が始まっており24時間後には解放できる見込みです」


「埼玉県側のシェルターの広さは十分にありますので性別、年齢問わず無制限に受け入れる準備を進めております。家族が離れ離れになるのがどうしてもつらい方は、ご家族でこちらのシェルターに避難してください」


「次に避難方法です。都内の地上部はUFB・・・みなさんの間ではガーゴイルと呼ばれる怪物が、数多く目撃されております。そのため、比較的安全な地下鉄に自衛隊を展開し、地下鉄網を避難ルートにできるよう昨晩から、地下鉄内のガーゴイルの排除を行いました。すでに幾つかのルートで安全が確保されましたので、まずは最寄りの地下鉄へ行き、自衛隊の指示に従っていただければ地上よりも数倍安全にシェルターまで移動できるように調整いたしました」


「医療体制や、食糧問題、抜本的なUFBへの対応などの課題はありますが、まずは緊急を要する方へスピード感を持った避難を優先したいと思います」


「以上を持ちまして就任会見といたします。今、私がお伝えした内容はこの後すぐに文字に起こして、防衛省のホームページおよび、私のSNSでも発信いたしますので、聞き取れない部分などございましたらご確認ください。」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


一礼して、大臣が壇上を下りようとすると、リモート参加の記者の一人が声を上げた。


「ヨウツベ新聞の田中と申します。大臣、避難優先順位についてですが、“女性と子供”を第二陣に含め、“健康な男性”を後回しにするとの方針は、性別による明確な線引きと受け取れます。これは現代の価値観において不適切ではないですか?」


会場が一瞬ざわつく。


だが、大仲は間髪入れずに返答した。


「不適切かもしれません。けれど、私は“助けられる命”を先に助ける決断をしました。議論している時間で、誰かが死亡するかもしれない。それが今の東京です」


「しかし、その線引きに納得できない男性もいます。命の価値に差をつけたと批判される可能性もありますが?」


「批判は承知の上です。命の価値に差をつけたわけではありません。体力、移動力、環境耐性を総合して、現時点で危険度が最も高い層を優先した。それだけです。全員を守れるよう尽力します。が、段階的対応が必要です」


別の記者がマイクをONにする。


「エックス新聞の今村です。地下鉄網の避難ルートは画期的ですが、すでに停電している路線もあります。通気や照明などインフラの確保はできているのでしょうか?」


「限界はあります。ただ、自衛隊が先行してポータブル電源と投光器、空調ファンを展開しています。完璧ではありませんが、屋外よりは遥かに安全です」


その直後、会見場の隅に控えていた防衛省事務次官が静かに近寄り、声を低くして耳打ちした。


「大臣、よろしいでしょうか」


「……ああ、何か?」


「このまま細かいシェルターの話に及ぶと、まだ調整中で実現性の乏しい部分に関しても言質を取られてしまいます」


「……わかってる。けれど、もう言った。やるしかない」


「大臣、それは政治的には無謀かと」


大仲は、しばし無言で次官の目を見つめて、少しだけ語気を強めた。


「“政治的に正しい”だけじゃ、子供は守れない。君も、それくらいはわかってるだろ?」


事務次官は目を伏せ、何も言わなかった。


この会見は国内に賛否を巻き起こした。


「政府は都民しかみていない」「地下鉄の駅に行けたら苦労はしない」といった否定的なものから「国有シェルターの稼働には前大臣が6か月かかると言っていたのにすごい」「地下鉄に戦車がいた。心強い」など肯定的なものまでさまざまな意見が飛び交ったが、この発言の時間よりも早く、実際には各シェルターに多くの人々が本当に避難ができる状態になり、大仲大臣は一定の評価を得るに至った。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


一方、シェルターの会議室では、野党関係者や他省庁から派遣された幹部たちがざわついていた。


「……勝手に決めすぎじゃないか?」


「確かに早いが、我々の確認もなく隠し玉の埼玉シェルターを公表するとは」


「そもそも“無制限に受け入れる”など、政治的なアピールにしても言い過ぎだ」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


だがその夜──


大仲のSNSには、地下鉄から避難した家族の感謝が次々に投稿された。


「赤ちゃんと一緒に地下鉄へ向かったら、自衛隊の人が助けてくれました」

「息子がケガをしていたのですが、担架でシェルターまで連れて行ってくれました」


その一つひとつの投稿が、大仲の表情を引き締める。


「──責任は取る。全部、俺が引き受ける」


誰にも聞かれないように、彼はもう一度自分にそう言い聞かせた。

2025年6月8日日曜日

【スイッチ2】マリオカート ワールド(レビュー)

奇跡的に抽選に当選し、初日からマリオカート ワールドをプレイできたので

自慢・・・もといレビューします。 

<概要>

2025年6月5日にNintendo Switch 2と同時発売された『マリオカート ワールド』は、シリーズ初のオープンワールド形式を採用した最新作です。最大24人でのレースや新モード「サバイバル」など、多彩な要素が追加され、従来のマリオカートとは一線を画す進化を遂げています。


<レビュー>

本作は、任天堂のフラッグシップタイトルとして、期待を裏切らないクオリティを誇っています。どの場面を切り取っても楽しさが溢れており、キャラクター選択やオンラインマッチング中、さらにはプレイ中も常にワクワク感が持続します。


特筆すべきは、周回プレイの中でも新たな発見がある点です。多彩なギミックやルートが配置されており、周回するたびに新しいルートを見つけたり、見た目が変わるアイテムを入手して使用可能なキャラクターが増えたりと、ユーザーを飽きさせない工夫が随所に見られます。


また、サバイバルモードでは、24台でのレースが可能となり、チェックポイントごとに下位の数名が脱落していく形式が採用されています。この新しいモードは、プレイヤーに緊張感と興奮を提供し、何度も挑戦したくなる魅力があります。


グラフィック面でも、Nintendo Switch 2の性能を活かし、美麗な映像と滑らかな動作を実現しています。特に、天候や時間帯の変化がリアルに表現され、臨場感あふれるレース体験を提供しています。


マリオカートというタイトルを消費するのではなく、さらに魅力を追加して付加価値をつけ、タイトルのもつ総合力を上げていく戦略は、ほとんどのソフトメーカーがビックタイトルの作品名を消費して売り上げを上げていく中で真逆の制作方式を取れるのは任天堂という組織の強みだろうと思います。


『マリオカート ワールド』は、シリーズの伝統を守りつつ、新たな要素を大胆に取り入れた意欲作です。オープンワールド形式や新モードの追加により、これまでのマリオカートとは一味違った楽しみ方が可能となっています。シリーズファンはもちろん、新規プレイヤーにもおすすめできる一作です。




2025年6月5日木曜日

【ドラマ】ジョフウ~女性に××××って必要ですか?~(終)(レビュー)

<あらすじ>

ひょんなことから“パラディーソ”という女性用風俗店の内勤として働くことになったアカリ(山崎紘菜さん)。最初は男性セラピストと女性客のマッチングに悪戦苦闘しながらも、「セックスレスを解消したい」「彼氏を含めて身の回りの男性に疲れてしまった」など、多様なお悩みを持つお客様に寄り添っていきます。個性豊かなセラピストたちと協力しながら、アカリ自身も少しずつ成長していくお仕事ドラマです。


<レビュー>

原作が未完のため、ドラマも完全な結末には至らず、「俺たちの戦いはこれからだ」風のエンディングとなっていました。


テーマが「女性向け風俗」ということで、地上波ドラマとしてはかなり攻めた内容ですが、アダルトビデオのような露骨な描写ではなく、ムードや言葉、心のつながりに重きを置いたシーンが多く、感情の流れに沿った丁寧な描写が印象的でした。演出は繊細で、女性視点から描かれていることもあり、官能的でありながらも安心して観ることができる作りになっています。


主演の山崎紘菜さんは、どこか新垣結衣さんを思わせる柔らかく自然な演技で、重くなりがちなテーマを明るくコミカルに包んでくれました。男性キャスト陣がイケメン揃いという中で、彼女がヒロインとしての存在感をしっかり放っていたのも見どころの一つです。


この作品は「女性向け風俗」を描いたものでありながら、むしろ男性にもおすすめしたい内容でした。というのも、基本的に女性視点で描かれているため、恋愛や接し方に不安を抱える男性にとって、異性との関係を考える一つの参考になるかもしれないからです。


特に最終話では、アカリが恋人との別れに心を病み、自らサービスを利用することで「風俗=性サービス」だけではない、心のケアとしての役割を強く印象づけました。この描写によって、女性風俗に対する偏見を和らげるきっかけにもなると思います。


また、全体を通して、「風俗に甘えすぎない」「距離感を大切にする」「ハマりすぎない」といったメッセージも込められており、利用を肯定するだけでなく啓蒙的な一面もきちんと描かれていました。


脚本は原作者のヤチナツさんの意見も反映されており、コミカルな作風です。しかし実際に女性風俗利用者への取材を重ねて制作されたこともあって、現実的かつリアルな人間ドラマとして描かれています。


タイトルから敬遠されがちな作品ですが、性に対する先入観を一度外して観てみると、「人との距離感」「心の癒やし」「働くことの意味」など、深いテーマが込められた良質なヒューマンドラマだと感じました。性別を問わず、18歳以上の方には一度観ていただきたい作品です。

※一定の性描写はありますので、18歳未満にはお勧めしません。



2025年6月3日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅳ《復讐ⅱ 前編・後編》(6/10:後編を追加)

弁護士である私は、あの日の記憶を繰り返していた。



——神災。

空が裂け、黒いモヤが都市を包み、人々が焼かれ、逃げ惑い、倒れた。


あの日、私は二人の国会議員とともに、訴訟に関する打ち合わせをしていた。

騒動が始まるとすぐにSPが議員を近くの国有シェルターへ誘導を始めた。

同席していた私もこのシェルターへ同行を許され、命を拾った。


シェルターは外見は大きめの雑居ビル。地上部が3階あり屋上にはヘリポートもあった。

3階は「通信室」と「ヘリの備品の格納庫」、2階は「いくつかの会議室」と「大ホール」、1階は「侵入者に備えた検疫施設」

地下は5階もあり、こちらが本命らしい


このシェルターですべての生活が完結する、国有シェルターの1つだった。


本来なら、この施設は国会議員とその親族のみが入れる。彼らの指紋が登録されておりパスワードを入力すると

その指紋を読み取り、指紋とパスワードが一致するとシェルターの扉が開く仕組みだ。


私が到着したときには、議員の親族が数名程、先に避難していた。


その中に「婆様」と呼ばれる老婆がおり、どうやら議員の母親で議員を含む親族の仕切り役として

議員以上に厚遇されていた。


やがて、続々と議員の他の家族もやってきた。その頃はまだ秩序があって、議員とその家族以外の人間

つまり私のような部外者も、同行していればシェルターに入ることができた。


だが、生存者の救助で扉を開けるたびに怪物に襲われる危険があり、二日目からは完全に閉鎖された。


そして議員の「婆様」を頂点とする一族は当然のように、私やSPたち、そして初日に逃げ込んできた数十人の一般人を下僕のように使い始めた。


私は不安になって懇意にしていた議員に尋ねた。

「もし私の家族がこの近くにいたら、シェルターに入れてもらえるだろうか?」


シェルターの収容定員は250名。200人以上の余裕があった。

だが返答は、冷たく「No」だった。


扉を開ければ怪物が入り込む可能性がある。一般人のために銃弾の浪費は許されない——それが、彼らの線引きだった。

この議員の汚職を法廷で無関係の人物に擦り付け、助けてやった恩は感じていないらしい。


次に、一族を束ねる「婆様」に同じことを訊いた。

彼女は考える素振りもなく「開ける利点はない」と言い捨てた。


私は「婆様」にも過去に恩を売っていた。彼女の孫が半グレを殺したとき、「事故死」として無罪を勝ち取った。だがその記憶もないらしい。


——恩など、もはや価値を持たない。私は確信した。


三日目、老婆の指示でシェルター内の区画整理が行われた。

危険な地上部を一族以外の避難区域とし、私たちはそこで寝起きすることになった。


地上階には空調もなく、建物の外では怪物の咆哮と人々の断末魔だけがこだましていた。 SPすらも動揺を隠せず、恐怖と憔悴《しょうすい》で暴動が起きるのは時間の問題だった。


そのとき、衛星通信が奇跡的に信号を拾い、携帯電話が使用可能になった。監視当番だった私は、真っ先に妻や愛人にショートメールを送った。

「麻布の金物センターへ来い。シェルターがある」

それだけだ。


すると、妻と、数人の愛人から返信があった。

それぞれ、自分の位置とシェルターまでの所要時間が書いてあった。概ね数時間後に到着するようだ。


だがこのままでは、到着してもシェルターの扉は開かれない。

そこで私はあるSPに話を持ちかけた。

「このままでは恐怖で暴動が起きる。SPであるお前たちは議員やその一族を守らねばならない。だが相手は数十人の一般人だ。混乱すれば、SP側にも死傷者が出る。お前たちはそれでも命令に従って死ぬのか?それを避けるためには、一族から主導権を奪うしかない」


SPは少し相談すると。

「報酬次第では、協力してもいい。先生のような“交渉のプロ”が指揮を執るなら、むしろ安心できますよ」

と快諾した。どうやら、弁護士として鍛えた交渉術が功を奏した。


——こうして私は、SPを掌握した。


議員たちは、SPに騙されて地下へ誘導され、監禁された。 彼らは知恵も話術もあり、万が一この場を切り抜ければ、SPたちを再度掌握し、私の支配を覆しかねない——その危険性があった。


老婆も同様に排除すべき対象だった。

一族の象徴としての立場をもち、彼女の言葉は民衆の心を一つにまとめる力を持っていた。

私がこの場所を制圧し、王として君臨するためには、彼女の存在はあまりに大きすぎた。



しかし、老婆は疑り深く応じなかった。

時間が過ぎる中で、先に監禁した議員の姿がみえないと、異変を察知しはじめた。

徐々に「婆様」とその一族がざわつき始める。


ーー駄目だ。話術では「婆様」に勝てない。それならーー


私は武力制圧を決断した。 「老婆の足を撃ち抜け。護衛の男も関節を外して無力化しろ」


乾いた銃声。悲鳴。混乱。


空気は一瞬にして塗り替えられた。

それは、支配者の交代を告げるようだった。


だが老婆は、まだ声をあげた。

「冷静に!我らは名門の血族。選ばれし者だ。恐怖に屈するな——誇りを持て!」


その言葉に、一族の目が輝きを取り戻しかけた。


私は強い焦りを感じた。ここで老婆に場を支配されれば、再び一族が団結してしまう。


「ババアを殺せ。婆様の一族の男は全員射殺しろ」


SPは淡々と動いた。

あのうるさい「婆様」の額に丸い穴が開くと、目から赤い液体が噴き出した。

同じように、一族の男たちも、あっという間に崩れ落ちた。


「死体は外に捨てろ。議員の目に触れさせるな。ババアの一族の女や子供も全員目撃者だ。シェルターの外へ追い出せ」


反論の声はなかった。


扉の前で、一人の少年が振り返った。

鋭い眼差し。殺意に満ちた目。


その母親が同じ目をして吐き捨てた。 「婆様の無念は忘れない。生き延びて、お前の家族、友達、すべてを皆殺しにしてやる」



この目を法廷で何度か見た。狂人の目だ。失うことを恐れず、冷静に計画的を練って目的達成のために手段を択ばない狂人の目。


——直感が危険信号を送る


私は直ぐにSPにインカムを通じて指示を出した。


「外に出たらすぐ殺せ。見逃すな」


数時間後、私の家族が次々とシェルターに到着した。もちろん外の死体は怪物に殺されたと説明した。


家族を救出し、排除すべき一族がいなくなったあと、私が最も警戒すべきは監禁している議員たちの反撃だと考えていた。

彼らは言葉で人を操る力を持っている。もしSPたちが議員側につけば、この王国の支配は崩れる。そうなれば私の家族が危険だ。

その危険を未然に防ぐため、SPたちには遠隔操作式の小型爆弾を首に装着させた。


首に爆弾を装着されたSPたちは、ただ黙って頷いた。


連絡が付いたすべての家族が到着した頃、私はようやく地下1階にあった応接室の高級なソファーに腰を下ろす。


——俺の王国が、完成した。


そして、第四日目が明けた。

(後編へ続く)

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6/10 : 後編をアップするタイミングがないので、前編の後ろに後編を追記しました
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人類アンチ種族神Ⅳ《復讐ⅱ 後編》

その衝撃は、突如「ドン」という爆音とともに始まった。

建物全体が横に揺れ、弁護士は即座にSPを連れて警備室へ向かった。

「どうした、何があった?」

警備当番が答える。
「突然、外部扉の温度が急上昇し、破損しました!」

——外部扉が? 厚さ30センチ、核攻撃にも耐えるはずだ。

「内部扉は?」「すでに破壊されています。怪物が侵入中、保護扉はまだ健在です」

「よし、保護扉の内側の隔壁を閉じろ。時間の問題だ」

警備当番が不安を漏らす。「隔壁の強度では時間稼ぎにも……」

「だからこそSPを配置する。隔壁を背にして357マグナムで迎撃すれば、奴らに避ける場所はない」

SPの一人が口を挟む。「弾が心もとないですよ。全弾使い切るかも」

「構わん。3人は隔壁へ。残りは私に同行しろ」

弁護士は全館放送で告げる。
「怪物が侵入。隔壁を閉鎖し、SPが排除に当たる。一般人は隔壁の外に退避せよ」

警備当番にも避難を命じ、自らは地下3階へと向かった。

◆ ◆ ◆

その頃、ガーゴイルたちは攻撃準備を整えていた。

「こちらヴァロン。ファイアバレット再発射まであと120秒。サーチ、警戒を続けろ」

上空から索敵するサーチは、ベルガンの攻撃力に興味を抱いていた。
自分にはない能力。直撃を避けられるか、無力化できるか。計算が止まらなかった。

そして120秒後、2発目のファイアバレットが発射された。
轟音が空を震わせる。

◆ ◆ ◆

一方、地上のベルガンは満足していた。今度の任務は“手応え”がある。

1枚目の扉を破壊し、2枚目の耐熱扉は鉄骨を剣代わりにして突破。

次の保護扉も、再びファイアバレットの出番だ。

2発目を撃った直後、内部から357マグナムの銃弾が降り注いだ。
高熱で立ちこめた蒸気が視界を奪う。
ベルガンは崩れた扉の陰に潜み、息を殺した。

——通常のガーゴイルには真似できない行動だ。

やがて蒸気が晴れた。
3人のSPが、静寂に気を緩めた瞬間だった。

ベルガンは中央のSPに飛びかかり、心臓を貫く。
その身体を盾に突進し、右のSPの頭を尻尾で砕き、左のSPの喉を切り裂いた。

ー最高だ。
たった、4秒の戦闘時間にベルガンは手ごたえを楽しんでした。


◆ ◆ ◆

だが、余韻を楽しむ時間もなくヴァロンから次の指示が入る。

「周囲に隠れている一般人は無視していい、地下3階にいる弁護士を確保しろ」

地下3階のホールの扉を破ると、待ち構えていたSPがサブマシンガンを撃ち込んできた。

だが、広い空間ではベルガンの機動力が勝る。一瞬でSPは無力化されてしまった。

弁護士が逃げようとしたので、ベルガンは順次に首根っこを掴んだ。

直後にサーチが現れ、拘束を引き継ぐ。

場の掌握が完了したとき、ヴァロンから連絡が入った。

「ベルガン、サーチに次ぐ。神がそちらへ転移される」

その言葉にベルガンの背筋に瞬間的に緊張が走る。サーチも同様に顔から余裕がなくなった。

その時、神がその場に現れた。何もない空間からまるで煙のようにふわりと姿を出した神は弁護士に話しかけた

「久しぶりですね。覚えていますか?……まあ、昔の面影はありませんか」

神は弁護士にフレンドリーな口調に、冷たい笑みで語り掛けた。

「誰だ、お前……ストーカーを憎んでた女の知人か? 政治家の遺族か?」

「違いますよ。まあ、誰でもいい。今から法廷を開きます。被告はお前の家族と愛人。裁判官は私、弁護人はあなたです」

ベルガンが扉を開け、一人の老婆を連れてきた。

「一人目の被告。あなたの母。罪状は、息子の教育に失敗したことです。異議は?」

弁護士が口を開こうとした瞬間、サーチが指を折る。

「ぎゃあああっ!」

それを見た髪は、少々高揚した声で宣言する。

「異議なしとみなします。死刑」

母の首が切り落とされた。

次に、不貞行為の罪で愛人が処刑された。

さらに妻と娘が連行されると、弁護士は絶叫した。

「やめろ! 二人だけは!!」

神は一段と高揚した声で告げる。

「異議がありますか? 10秒以内にどうぞ」

弁護士は、さらに指を折られてもここだけは譲れないという、つよい感情で異議を叫ぼうとした
しかしその瞬間、サーチが弁護士の右目を潰す。

「目、目が、ああああああ!」

神はふざけてたように時間を告げる

「10秒経過ー」

だが余りの痛みに弁護士には届かない。
神はその様子を満足げに見下しながら告げた。

「15秒待ちました。これは確実に異議なしでいいですねー。死刑!」

ベルガンは二人の即座に頸椎を砕く。おそらく二人苦痛を感じる間もなく、その命が散った。

「さて、残りの被告はまとめて処刑。異議は?」

弁護士は、もはや言葉を発せなかった。

「では、執行」

ベルガンはヴァロンからブレス焼き払えと指示を受け、黙って実行する。
ファイアバレットではなく、普通の炎。だがその高温は部屋を瞬く間に灰に変えた。

神は弁護士を見下ろす。
「お前は法律という暴力で同じことをしてきた。弱者の気持ち、少しは理解できたか?」

そして最後にこう告げる。

「お前は殺さない。だが、生き延びた先で再び守りたいものを得たとき……また、この法廷を開きに来る」

神は煙のように消え、ガーゴイルたちも姿を消した。

復讐は完了した。

——第Ⅰ章・第2部、完。
(次回、第3部「神の軍勢 vs 国家」へ)




2025年6月1日日曜日

【ドラゴンクエストX オンライン】Ver7.4 アップデートレビュー【DQX】

こんにちは。管理人の緑茶です。

今回は先日配信された、ドラゴンクエストX オンラインのバージョン7.4について、シナリオには触れずにアップデート全体をレビューしていきます。

(※シナリオ部分のネタバレなし)


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 異界アスタルジアの改修について


今バージョンで特に注目したいのは、「異界アスタルジア」における「異界のなかま」のレベル解放です。

ようやくストレスなく周回できるようになったのは大きな進展だと感じました。


ただし、レベル解放にはボス討伐が必須で、そのためには強い「異界のなかま」が必要というジレンマがあります。

この構造から見えるのは、運営が意図的に「最初は不自由→強化によって爽快感」という昔ながらのバランス調整を採用していることです。


現在主流のゲームでは、

・初期状態で「普通」

・少しプレイすれば「爽快」

・やり込めば「無双」


と、プラス方向にのみ強化が進みます。これに対してDQXは、

・初期状態で「かなり弱い」

・少しプレイしても「まだ弱い」

・やり込んでようやく「普通」


という形になっており、結果として「面白さ」に到達する前に「面倒くささ」を感じてしまいやすい印象です。


たとえるなら、かつてのスポ根アニメが受け入れられていた時代のような設計思想です。今の時代はもっと即効性のある「変身」「チート」「転生」などが人気を博していますので、やや古いモデルに感じるのも無理はないのかもしれません。


 輝石のベルト・戦神のベルトの改修


今回のアップデートで「輝石のベルト」の効果が月に1回選べるようになりました。一見、戦神のベルトとの関連性が分かりにくい変更ですが、実際には非常に大きな影響をもたらしています。


戦神のベルトには「武器種縛り」があるため、たとえば魔剣士で「鎌」と「片手剣」の両方を使い分ける場合、それぞれに対応した効果を持つベルトが必要になります。

一方で、輝石のベルトは「闇特技〇%」のように武器種を問わず効果が発動するため、汎用性が高いのです。


魔法使いを例にとると、

・両手杖・炎

・両手杖・氷

・両手杖・雷

・攻撃魔力+

・会心率+


といった効果でベルトの枠が埋まるため、状況によっては持ち替えが非常に不便になります。

賢者は「両手杖・闇」、竜術士は「両手杖・土」など、職ごとの細かな違いにも対応しづらい状況です。


この点で、輝石のベルトのほうが使い勝手に優れていると言えますが、問題は強化素材が月1回しかもらえない点です。課金誘導の要素が強まっているのは少し気になるところです。

とはいえ、火力面で見れば、戦神のベルトの特化性が高いため、最終的には使い分けが鍵となりそうです。


 バランス調整について


 道具使い


こちらについては専門外のため、詳細は割愛いたします。


 竜術士


体感として大きく強化された印象です。特に、チャージタイムなしで使える「超暴走魔法陣」の追加が大きく、魔法使い不在でも序盤から火力を出せるようになりました。

これにより、短時間で敵を一掃するようなフィールド系コンテンツ、たとえば王家の迷宮などでの使い勝手が格段に上がりました。


また、サポート仲間との相性も改善されており、開幕から陣を敷くことで「暴走魔法陣+やまびこの陣」に無理なく乗せることができます。

中でも「異界アスタルジア」のエステラとの相性は抜群です。神速メラガイアーを暴走で連発してくれるため、火力の出方が段違いです。


エステラは移動が多いものの、行動パターン自体はそこまで複雑ではなく、タイミングさえつかめば非常に爽快な連携が可能です。


 全体的な印象とその他


今回のアップデートでは「学園」関連の内容もありましたが、制作コストが高かったとのことで、詳細についてはDQXTVでの報告に期待したいところです。筆者はすでにクリア済みですので、個人的な感想はありませんが、結果だけは気になります。


また、新規コンテンツが少なかったことも印象的でした。

この内容であれば、レベル解放や仲間モンスターの転生開放などがあってもよかったように思います。


新武器や盾に関しては、バザーの価格を見ても、防衛軍で集めたほうが効率が良さそうなため、そちらを軸に楽しんでいくのがよさそうです。


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最後に

今回のレビューではシナリオに触れませんでしたが、もう少し時間が経ち、ネタバレを気にせず語れるタイミングになった際に、改めてシナリオレビューもお届けできればと思っています。

今後もアップデートのたびに、現役プレイヤー目線での感想をお届けしていきますので、よろしくお願いいたします。

2025年5月29日木曜日

俺は星間国家の悪徳領主!~第8話(一部レビュー)

<あらすじ>

星間国家アルグランド帝国の辺境を治める伯爵家に生まれ、幼くして当主となった転生者・リアム。

前世では「善良であるがゆえに奪われる人生」を送ってきた彼は、転生を機に「悪徳領主」として君臨し、民を搾取することを誓う――。


<レビュー>

「悪徳領主」を目指すはずが、なぜか領地が潤っていく――

本作はそんな“すれ違い”をコミカルに描く、異色の転生SFコメディです。


主人公・リアムは真面目で努力家。

悪徳領主として振る舞おうと日々研鑽を積むのですが、その方向性がズレていたり、周囲の人々の“良い方向への勘違い”により、気がつけば「有能で民思いな領主」として名声を集めてしまいます。


このギャップこそが本作最大の魅力であり、「無自覚」「偶然」「勘違い」などの要素がうまく噛み合い、彼をどんどん“理想の領主”へと押し上げていきます。


第8話では、リアムがついに「ハーレム構想」に着手します。

ところが、彼の理想とする“悪徳”ハーレムは、「嫌がる女性を無理やり加える」という倒錯気味な方針。しかし実際の領民はというと、既に敏腕領主としての評判が高まっており、逆に「ハーレムに入りたい」と考える人ばかりという事態に。


そのため、「悪行」としてのハーレム計画はあっさり失敗。

この一連のやりとりもまた、本作らしい皮肉と笑いが効いた展開です。


また、海賊の拠点から回収された“亡国の姫”が、リアムの手によって治療されていたことが明かされ、最終的には彼のそばに仕えるパートナーのような存在となりそうな気配も描かれました(というより、1話の導入で仲間として登場していたので確定ですが)。


リアムは本気で「悪」に徹しようとするのに、周囲の勘違いや彼自身の実直さが仇となり、結果としてどんどん“善政”が進んでしまう――この構造が実に巧妙です。


無双要素と日常ギャグがバランスよく混在しており、SF的な設定もきちんと背景にあるため、作品としての厚みも十分。

CGの使い方も自然で、視聴のハードルが低く、非常に見やすい作品となっています。


「悪人を目指す善人の無双物語」というユニークな切り口で、ギャグとシリアスを自在に行き来する良作。

主人公のズレた思考と、周囲とのかみ合わなさが生む笑いがクセになる作品です。


配信サービスなどで過去エピソードも視聴可能ですので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。



2025年5月27日火曜日

【お知らせ】今後の掲載スケジュールについて

こんばんは!

管理人の緑茶です。


小説のリリースを初めて2週間がたちました。

このサイトの動向を見ていると、全体的な閲覧数は増加傾向にありますが、極端に滞在時間が短い(数秒程度)人も増加しており、アニメレビューを見たい方と、小説から来ている方でニーズが違うため、求めていない記事の場合は離脱してしまうようでした。


そこで、今後は掲載ルールを下記のように変更し様子を見たいと思います。

・小説の投稿は火曜日にします。

・毎月10日前後に前月の活動レポートを掲載します。(変わらず)

・木曜日と日曜日の記事はレビュー/日記系とします。


この影響で、小説が外部サイトよりも遅れてしまう場合もありそうですが、状況によって水曜日など掲載日ではない曜日に投稿することでできるだけ先行状態を引き続き維持できるよう考えています。


様子を見てご不便がありそうであれば、また変更するかもしれませんが一旦この方式で木曜日から掲載スケジュールを組ませていただきます。


何かございましたらDMやメールでご意見を頂戴できれば幸いです。



2025年5月25日日曜日

【小説】人類アンチ種族神《復讐の合間に》

——トラックの運転手は、望んだ形で処理した。 だが、不思議と満たされた感情は少なかった。

神は玉座に腰かけ、思考の深みに沈んでいた。 静まり返った空中の城の一室に、重厚な扉の開く音が響いた。 扉を軽々と開けて入ってきたヴァロンの姿を見て、 神は改めて思う。人に近い姿ではあるが、やはり彼も怪物なのだと。

「お呼びでしょうか」

ヴァロンは少しうつむきながら問いかけた。 その声音には、どこか緊張の色が滲んでいた。

——ああ、エーテルで話し合うこともできたが、あえて直接ここへ招いた。 叱責かと誤解されたか。

「運転手の件、よくやってくれた。まずは直接、労いを伝えたくてな」

神の言葉に、ヴァロンの顔がわかりやすく緩む。

「いえ、神の命令は我らの存在意義そのもの。お褒めいただくには及びません」

——本当に感情のない存在なのか、疑いたくなるな。 その言葉の喜び方は、あまりに人間的だ。



「では、本題に入ろう。次の標的についての進捗を聞きたい」

ヴァロンの表情が切り替わる。職務遂行者としての顔になる。

「弁護士はポイント227の私設シェルターに籠城中です。既に何体かの同胞が突入を試みましたが、銃撃を受けて消滅。2日前からは完全に扉が閉鎖されています。 同胞の攻撃では、扉を破壊できなかったようです」

——ガーゴイルが倒された? 信じがたいが、事実なら相応の備えがあるのだろう。

「少し調べてみる」

神は、意識を地上へと滑らせた。

——地上3階、地下5階。耐熱・耐衝撃コンクリート三重構造。 偽装された外観。これは国家レベルの核シェルターだ。

その理由もすぐに判明した。 地下5階に政治家2名が監禁されていた。 この施設は元々、彼らの所有物。 弁護士はどさくさに紛れて入り込み、SPを買収して占拠していた。

——だが占拠だけではないな。 地下2階には、妻、娘、愛人2人、そして愛人の息子。

「家族もろとも押し込んでいるのか。所有者ごと追い出して……」

シェルターの入口には、重なり合って倒れた子供たちの遺体。

「政治家の家族か……邪魔者は処理したわけだ」

神はさらに調べを進める。 SPは.357マグナムを所持。首には爆薬装置。 弁護士に逆らえば、命はない。

地上部はSPと取り込んだ一般人の居住区。 巡回する若い女と体格の良い男たち。地下1階には倉庫と、拷問部屋。 逃げ遅れた一般人を連れ込み、奴隷のように扱い、時に慰み者としても使っていた。

彼が握る“支配”は恐怖と暴力によって成り立っていた。

ある若い女は、監視カメラの死角で水を多く使ったというだけで、地下1階に連行され、数時間にわたって拘束された末に、衣類をすべて焼却された。 彼女はそのまま、私設の慰み物として連日呼び出されていた。

別の男は、物資の配分に文句を言ったことで見せしめに指を一本ずつ切られ、最終的にはベッドフレームに鎖で繋がれ、食事も与えられず、もはや死ぬのも時間の問題といったところだが、助けることは許されないようだ。

それらの“制裁”は弁護士によって“法的に問題ない裁定”として記録されていた。自分の判断が絶対であることを誇示するための演出だった。

彼はこのシェルターで“王”となっていた。

——なるほど。だから若い女と逞しい男が必要だったわけか。

「357マグナムの弾を至近距離で受けたのなら、確かに同胞の運動機能も停止するか……」

神が呟くと、ヴァロンが視線を上げた。

「強力な銃器ですね。電子部品がない分、エーテルの干渉も避けられる……飽和攻撃で弾切れを狙いますか?」

——やはり賢い。

「いや、ベルガンに任せよう。銃は相手を“認識し、狙い、撃つ”までに工程が多い。 ベルガンの身体能力なら、狙われた瞬間にはすでに間合いに入っているはずだ」

ヴァロンは数秒沈黙し、検討する。

——神の言葉すら疑い、検証する。見事だ。

「その場合、入り口の突破が課題になります。 シェルター用の扉は並の攻撃では開きません」

「問題ない。ベルガンには“ファイアバレット”を持たせてある」

「……火の玉、ですか?」

「そうだ。周囲のエーテルを吸収し、体内で高温物質を生成して放出する。 ガーゴイルの火炎《ブレス》とは別物。威力は小型隕石並みだ」

「施設ごと吹き飛ばさぬよう、威力制御が必要ですね」

「その通り。ゆえに、今すぐ命令を出せ」

神が命じると、ヴァロンはすぐに通信を開いた。

《目標2:ポイント227。強力な銃器を所持。サーチは上空より索敵、ベルガンはファイアバレットで入口を破壊、侵入せよ。》 《ベルガンへ補足:過剰破壊は避けること。射線上への進入に注意》

神は静かに笑った。

——さて、第2幕の始まりだ。

2025年5月22日木曜日

アポカリプスホテル(一部レビュー)

 <あらすじ>

人類が滅び、長い年月が経った地球。

東京・銀座にあるホテル「銀河楼」では、ホテリエロボットのヤチヨと従業員ロボットたちが、オーナーの帰還と再び人類の客を迎えるその時を、ただ静かに待ち続けていた。

しかし、100年ぶりに訪れた“お客様”は、なんと地球外生命体だった――。


<レビュー>

人類不在の地球に残されたロボットたちの姿を描く、エモーショナルかつユニークな作品です。


作品の舞台となるのは、東京・銀座にぽつんと残った高級ホテル「銀河楼」。そこでは、すでに人類が絶えてしまった後も、ロボットたちがかつての役割を忠実に守り続けています。

ドアを開け続けるドアマン、定期的に環境情報を送り続けるチェックロボット。誰もそれを必要としていないと理解しつつも、彼らは「命令」を果たそうとし続けているのです。


物語は、人類滅亡から100年後から始まります。この時点で、ロボットたちの数も半分以下にまで減っており、温泉の掘削ロボットが故障し、廃棄されるシーンからも、静かに進行する“終わり”の気配が感じられます。


そんな停滞した日常に訪れる転機が、「異星人」の来訪です。

敵なのか、客なのか、正体も目的もわからないまま、ロボットたちは“お客様”として丁重に彼らをもてなします。100年ぶりに仕事ができることに喜びを見せるロボットたちの姿がどこか切なく、それでいて微笑ましくもあります。


やがて、地球人に変身できる“タヌキ星人”が登場し、物語はよりにぎやかに展開していきますが、部品が手に入らず修理できないロボットたちの“寿命”を思うと、どこか儚さも同居していて、この世界観の深みを感じさせます。


日々の営みを失った地球で、忠義と希望を捨てずに“おもてなし”を続けるロボットたち。

その姿に、観る側の心も静かに揺さぶられます。




2025年5月20日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅳ 《復讐ⅰ》

 黒い空を背景に、神は虚空へ右手を伸ばした。

「……エーテルを操るのも、懐かしいな」

その声には、ほんのわずかに、かつて人であったころの名残が滲んでいた。


神の視界に、青白い粒子が舞い上がる。

それはこの世界の根幹に触れる“力の種”——エーテル。


かつて神の子として修業していた時代、神はこの粒子の性質を学び、そして今、無限に生成する力を得ていた。


自然界にはほとんど存在しないエーテルを、神は“意志”だけで無から作り出すことができる。


エーテルは、神の創造を可能にし、神の命令で構成された存在を形作る基礎となる。

だがその本質は生命の源ではなく、創造物を物質化するための材料である。


つまり、エーテルを使って生み出したものは、死ねばすべてエーテルへと戻り、霧散する。

肉体も血も、存在の痕跡すらも、世界のどこにも残らない。


このエーテルは高度な科学を拒絶する。

ミサイル、レーダー、人工衛星、パソコン。

精密であるほどに、エーテルはその機能を狂わせる。


ヘリや信号機などが誤動作していたのは、ガーゴイルとともに霧散してきたエーテルが一定の濃度を超えたためであった。


◆   ◆   ◆


神の手に集まる粒子。それは神の意志と同調したエーテルの核であり、神の内から発せられる指令に応じて、かたちを得ようと震えていた。


「次は……多少賢い者を創ろう」


今までのガーゴイルは本能に従う獣にすぎなかった。

だが今、神は“命令を遂行する”という、オオカミ程度の協調性をもつ特別な個体の創造を試そうとしていた。


神はベルガン、サーチ、ヴァロンの3体の創造を始めた。


濁った光の中から最初に現れたのは、筋肉の鎧をまとった屈強な男型。

——名はベルガン。格闘と破壊を好む粗暴な個体。

筋肉と神経にこだわっており、剛腕ながら緻密《ちみつ》な手さばきが可能だ。


次に、滑らかな肌と流れる銀髪を持つ女性型。

 ——名はサーチ。遠距離索敵《えんきょりさくてき》と感知に優れた個体。 動体視力や識別能力、高度な視力を持ち、さらに見たものを神やベルガン、ヴァロンに共有する視界共有能力を備えている。


最後に、沈黙と共に生まれた影のような存在。

——名はヴァロン。彼は計算し、制御し、判断する個体。

神が与えた命令の行間や、現在の状況を複合的に思考する知性にこだわっており、サーチとベルガンにエーテルを介して指示を出すことができる。


「命令だ」


神の声が、三体の創造体に染み渡るように届く。


「“あれら”を探し出し、殺せ。妻を殺した運転手。そして……それを擁護した弁護士を」


ヴァロンは静かに居城の執務室へと向かい、サーチとベルガンは、朝焼けの街へと滑り出した。



◆   ◆   ◆


——その頃、神の命令など知る由もない地上では、ひとりの運転手が逃走を続けていた。


それは、あの神災が発生した当日のことだった。トラックの運転手は仕事で東京都内にいた。

黒いモヤが怪物になって人々を襲い始めた光景を見た運転手は、本能的に逃げ始めた。

この判断が他の運転手よりも数分早かったことが、運転手をここまで生かしていた。


だが、大きな道はどこも事故や渋滞となっており、運転手はトラック仲間と無線で連絡を取り合いながら、まだ通れる道を選んで進んでいた。


しかしついに、多摩川をトラックで渡れる橋がなくなり、車両を捨てて徒歩で橋を渡ろうとしていた。


幸運にも、この地域にはまだガーゴイルは到達しておらず、多くの住民が我先にと徒歩で渡れる橋を使い、山梨方面へと逃げていた。


一人の女性が悲鳴を上げた。


「キャー!見て!あそこ!!!」


彼女の指先のはるか先、普段なら絶対に気づかないであろう距離に、1つの黒い点が8の字を描くように飛んでいた。


「鳥じゃないのか?」

近くにいた男性が口火を切ると、周囲は騒然とし始めた。

そして、初老の男がつぶやいた。


「襲ってくる気配がない……あれは、何かを探しているのか……?」


その黒い点の正体はサーチだった。 彼女は機動力を活かし、高高度から目標を探していた。 これまではトラックに乗っていたため、上空からでは認識できなかったが、車を降り橋の上を逃げる運転手を、サーチは容易に発見した。


「動きが変わった!!こっちへ来るぞ!」

誰かが叫んだ。


◆   ◆   ◆



——群衆にいてはダメだ。まとめて丸焦げにされてしまう!


ガーゴイルの恐ろしさを直接見ていた運転手は、すぐに川に飛び込む決意をした。


「ドボン」


運転手はためらわずに飛び込んだが、その音は群衆の悲鳴にすぐかき消された。


——冷たい。


運転手は川の中を必死に泳ぎながら、息を切らしていた。頭上では何かが飛ぶ音が響いている。振り返る余裕などない。ただ、水面に浮いていたタイヤを掴み、流れに身を任せるしかなかった。


「これでアイツは群衆に引き付けられるはず……ふふふ」


軽薄な自己中心的な笑みと言葉が漏れた。


両腕は震え、指先の感覚は麻痺しはじめていた。足を動かす余裕もなく、ただタイヤにしがみつきながら、彼は思った。


——下流は安全なのだろうか。


思考が熱を帯び始めたその瞬間だった。


◆   ◆   ◆



川の中へ消えた目標を探していたサーチは再び目標を補足、分析を開始した。


《目標確認:人物、年齢40前後、浮遊物につかまり下流へ移動中》


サーチは瞬時にエーテル通信を開き、その情報をヴァロンとベルガンへ共有し、まるで防犯カメラが何かをとらえたときのように、機械的に視覚情報の中継を開始した。


彼女の網膜に映る人影——その苦悶も、願いも、恐怖も、彼女にとっては“動きの変化”以上の意味を持たないが、間違いなく目標の運転手であった。


サーチの視界に、ヴァロンからの命令がテキスト化された映像として浮かび上がった。


《命令:目標1発見。川へ逃走中。》


《命令:ベルガンは下流でサーチと合流し、目標を地上へ引きずり出せ。》


命令を確認した瞬間、彼女の視界には自動的に地形と風速、運動予測が投影された。

ベルガンとの交差点が最も効果的となる座標が算出され、即時行動が最適化される。


無言のまま、彼女は風を切って降下した。


◆   ◆   ◆


多摩川の下流、500m付近でサーチとベルガンが合流。


流れてくる運転手を待ち構えた。

そこへ、車のタイヤに抱きついて流されてくる運転手が現れた。


即座にサーチが拾い上げ、河原にいるベルガンの前へ投げ捨てる。


運転手は疲れ切った眼差しでベルガンを見上げ、即座に背を向けて逃げようとする。


だが、その先にサーチは立ちふさがった。


「う……うわああああっ!」


サーチの視界に、対象の音声情報、筋肉の伸縮情報、心拍数の急上昇、瞳孔の拡大などが観測される。


《反応解析:極度の恐怖。逃走本能優位。生存意識:強》


彼女にとって、“生存意識”は実はよく理解できていなかった。 死は、命令を終えるだけの工程。 そこに意味も、恐れも、回避の必要性もない。


——なぜ、彼は叫ぶのだろう?



この反応も理解はできなかった。 サーチは、命令された対象が死を前にあがくその様に、純粋な分析対象としての“観察興味”すら覚えていた。 運転手が最初に砕かれたのは左足だった。痛みに顔を歪め、「誰か!誰かー!」と助けを呼んだ。


サーチの知能でも、2体のガーゴイルがいるこの空間に、人間などいるはずもなく、全く理解のできない反応だった。


そこへベルガンの追撃。

次は右腕だった。

まるで小枝を折るように、軽々と二の腕を胴体から切り離し、切り離した腕を川へ投げ捨てた。


悲痛な叫び声が河原にこだまするが、ベルガンは続けた。

次は右足、そして左腕。


サーチは一歩引いた位置からその光景を静かに見つめていた。


運転手の悲鳴は、鼓膜ではなく皮膚に触れるように空気を震わせる。

骨が砕け、肉が裂けるたびに、サーチの視界には神経伝達の異常数値と血圧の急上昇が明示されていく。


《苦痛レベル:高/意思維持:強》


彼女にはそれが、なぜか心地よく感じられた。


それは“快楽”ではない。ましてや“喜び”でもない。


ただ、神の命令が確かに果たされていること、神の望みがこの場所でかたちになっているという“整合性”が、

彼女の内部構造にごく微細な振動として反応していた。


それはまるで、神の命令にぴたりと合った動作をしたときに感じる、脳の裏側が静かに震えるような感覚だった。



一つ一つ丁寧に、時間をかけて解体していく。


運転手が失神すればサーチが川の水をかけて起こす。 この行為は、他のガーゴイルの殺戮とは明らかに別種だった。


運転手に、自分がこれから死ぬことを確実に認識させ、何かを後悔させるような、手間のかかる“作業”だった。


やがて、ベルガンとサーチにヴァロンから指令が届く。


「目標1の処分を神が承認。仕上げを」


サーチとベルガンに仕上げの詳細が、視界にテキストとして表示された。


すると四肢を失った運転手を河原に放置したまま、2体のガーゴイルは一旦飛び去った。


◆   ◆   ◆


——助かったのか? いや、ゆっくり死ぬまで放置されたのか。


運転手が、二体の奇妙な行動に自分なりの解釈をつけていると、空を見上げたその視界に、あるはずのないものが映る。


宙に舞う、自分のトラックだった。

サーチとベルガンは運転手のいた橋まで戻り、乗り捨てられたトラックを取りに行っていたのだ。


——なんで俺の車が……?


思考が走った瞬間に、空中のトラックは運転手めがけて投げ捨てられた。

四肢を失い、逃げることもできない運転手は、なすすべもなくトラックに潰された。


◆   ◆   ◆


——なぜ、トラックに殺させたのか。


サーチが思考しようとしたが、ヴァロンからの最終報告が、思考を妨げる。


《命令完了:目標1、排除済み。》


《次命令:目標2、追跡開始。対象は弁護士。識別優先順位:高》



サーチは再び上空へ舞い上がった。


既に昼を過ぎた東京都内を俯瞰しながら、彼女の視界には無数の熱源と行動パターンが浮かぶ。 その中から、特定の条件に一致する動きと痕跡を洗い出していく。


《探索開始:エリアスキャン・フェーズ2》


サーチは旋回を続けながら、自身の回路に残る微かな振動を解析していた。


先ほど、運転手の苦悶を観測していたとき、なぜか応答信号に小さな変化が生じていた。


——なぜ、私はあの音と動きが終わったあと、気が晴れたように感じたのだろう。


それが命令の完了による正常な反応なのか、それとも私の内部構造が何か異常な挙動を示したのか。


サーチは答えを出せぬまま、視界の奥で目標を走査し続けていた。