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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
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神災《じんさい》から39日が経過した。
この日、ついに私有シェルターに取り残された人々を救うための、1000人規模の自衛隊。呼称「R連隊」が作戦を開始した。
深夜2時。
埼玉シェルターを出た先遣隊は東京と埼玉の県境にある荒川で偵察ドローンを展開していた。この偵察ドローンも、無線方式ではなく光ケーブルを使った有線式のもので、月明かりだけでも十分に映像を捉え、地上のガーゴイル達を映し出す。
先遣隊の中に、連隊長である足立と副長の仲原の姿があった。
足立は偵察ドローンの映像を見て確信した。
「仲原三佐、やはり予想通りだ。ヤツらも視覚に頼っている以上、夜間の飛行は少ない。ほとんどが地上におり、動くものも少ない」
仲原は興奮気味の足立に同調するように言葉を返す。
「寝ているのとは違いますね。刺激がないので反応していないような感じです」
「ああ、あいつらは人間を見つければ襲ってくる。いなければ探す。しかし、暗闇では探すこともできない。だからこそ、ああして夜明けを待っているのだろう」
「よし仲原、やつらの位置を特定して片っ端から後方のレールガンへ座標を送れ」
こうして、地上にいるガーゴイル達は、何も察知できないままレールガンの射撃管制機能に座標登録されていく。
「まだ撃つなよ。できるだけ多くの座標を送るんだ」
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
同時刻、埼玉シェルターGゲート付近。
テレビ局のリポーターが暗闇の中スタンバイをしていた。
先遣隊からは数キロ離れた位置、荒川の下流。川から少し埼玉側に入った山の上でテレビクルーが中継を始めたのだ。
迷彩服を着た若い女性リポーターが険しい表情でモニターに映る。
「ここは、埼玉県にある小さい山の山頂です。この後、自衛隊による私有シェルターの民間人救出作戦が始まるとの情報を得ました。我々は独占生中継で放送したいと思います!」
この放送が始まると、政府官邸は慌ただしくなった。
議員の怒鳴り声が聞こえる。
「おい!極秘作戦だぞ!なんで中継されているんだ!今すぐ止めさせろ!」
ところが、この放送は中継車には強力な通信機器が搭載されており、エーテル濃度が薄い埼玉側では依然、地上光ファイバーが生きていた。その回線を強力な送信装置で掴み、ネットへ直流配信していた。
その為、TV局に放送を止めるように連絡を入れても、スマホやPCで中継が続いてしまう。
TV放送だけを止めても意味がなかった。抜け穴に気が付いたTV局も、一度はやめた中継を再開し逆に話題性を高めてしまった。
これは、舞岡議員が仕組んだパフォーマンスだった。懇意のTV局長に作戦の場所、時間を漏洩し独占配信させようと画策したのだ。
当然中止要請が入ることは想定しており、スタッフの携帯電話はすべて回収し中継車の金庫に入れさせた。
これにより、ロケ部隊は外部から隔離され、中止の指示を聞くことはない。
しかも、ロケ地を詳しく言わないように指示しているため、TV局のスタッフや政府関係者が現地へ行こうにも場所が分からないのだ。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
同時刻、内閣シェルター内、作戦本部。
防衛大臣の大仲のもとに自衛隊の制服組が詰め寄る。
「大臣!作戦前に情報が洩れている!即刻作戦を中止すべきです!」
他の制服組も続く
「もしUFBがこの中継を見ていたら救出どころじゃありません。自衛隊の隊員の命が危ない!」
大仲も想定外の事態に「中止」の二文字が脳裏に浮かぶ。
だが、その声を遮るように舞岡議員の声が大音量のマイクに乗って響き渡る。
「おいおいおい、そんな弱腰でどうするの!中継をちゃんと見た方がいいですよ!迫撃砲の場所もばれてない。時間も正確にはばれていない。作戦内容もばれてない。規模もばれてない。なーんにも、なんにも漏れていませんよ!おそらくTV局が話題作りにでっち上げた番組がたまたま作戦とかぶってしまった。それだけじゃないですか!」
津田議員や大仲大臣が何かを言い返そうとしても、マイクのボリュームが絞られており舞岡議員の発言だけが作戦本部を支配した。
直後に大仲大臣の席に官僚の一人が駆け寄る。
「放送設備が故障したようです。舞岡議員のマイク以外のマイクは電源が切れました!」
そんな都合のいい故障はあり得ない。何らかの方法で意図的に起こした状況なのは明白だった。だが、追及しようにも声が届かない。
大仲大臣の黙れのジェスチャーを横目に、舞岡は持論をマイクにのせる。
「ちょうどいいじゃないですか!民間人を助ける自衛隊の有志を国民に、直接見てもらいましょう!もしかしたら私有シェルターの人々も視聴できるかもしれません。そうしたら、ほら、私たちが頑張っている姿も見せられるじゃないですか!」
津田議員は即座に察した。
--この男、私有シェルターに残された自分の支援者にアピールするために極秘情報を漏らしたな。
--なんという。なんという思慮のない男だ。もし作戦が失敗したら全国民が自衛隊に対して不信感を抱くことになるんだぞ!せっかく大仲大臣が不安を払しょくしているのに台無しだ。
津田は席を立つと、大仲の隣に座り、耳元で声をかけた。これなら舞岡のマイクの雑音も通らない。
「大臣。今回ばかりは野党としてではなく、同じ国会議員として言わせてもらいます。作戦の中止の決断をアナタがしてはいけない。続行もおなじだ。決断をすれば責任が生まれる。ここはこらえて、決断を現場に任せてみてはどうだろうか」
この発言は完全に議員として失言である。だが、この局面で大仲大臣への政治的なダメージは避けるべき。議席ではなく国益を考えた発言だった。
大仲もこの発言には驚いたが、津田議員の真っすぐな真剣なまなざしに少し冷静に考えた。そして責任の所在は自分にあるとしながらも、現場の意見を聞いてみることに価値は見出した。
大仲は作戦本部の別室へ移動すると、足立に無線で問う。
「作戦の実施がマスコミにバレている。中止か継続か。最終的には私が決めるが現場の意見を聞かせてくれ」
足立は仲原とアイコンタクトをとると即答する。
「継続を支持します。ドローンでの偵察状況見る限りですが、UFBに目立った動きはありません。またヤツラの知性で中継をみたところで理解できないでしょう。いま、まさにかなりの数のUFBをレールガンでロックオンしています。この好機は逃したくはありません」
大仲は無線を切ると目を閉じて情報を整理した。
そして答えは出た。
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