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〈デスランド、神の居城の王座――神災から27日目〉
――これは、まだ誰も知らない上空の出来事。
神である俺は、居城の王座に座り少しぼんやりしていた。
何度かヴァロンから人間達の蹂躙状況を聞く。
しかし、人間としていて生きた時代に受けた悪意は、神の力で断罪した。
その結末が俺から人間達への興味を失わせる。
「暇だ。暇だぁぁぁ!」
つい声として出てしまうくらいに俺は暇を持て余している。
俺が作り出したガーゴイル。1体で人間3人分の戦力に相当する。
これが50万も放たれたのだ。東京は掌中に収めたといって過言ではない。
散発的に行われる人間の反撃も、俺やヴァロン達が手を出すほどの脅威もなく
遭遇の報告を聞いて、意識を向けてみた時には、早々に人間側は全滅していた。
その時、現場のガーゴイル達を統率する「ちょっと良いガーゴイル」正式名称は小隊長個体から報告が入った。
「創造主様。未知なる兵器を携えた自衛隊の小隊を発見」
「埼玉方面から、ポイント101の橋へ向かっています」
俺は直ぐに意識を向けた。急がないとまた全滅してしまうからだ。俺にとっては
動画サイトのショート動画程度のエンターテインメントだが、ライブで見れるものは
見て楽しみたい。
意識を向けると、自衛隊の最新鋭兵器を並べた1個小隊が荒川へ向かっていた。
兵器の中にはレールガンまである。昨年ロールアウトしたばかりの兵器を投入するなんて
自衛隊の本気を感じざるを得ない。
俺は即座に指示をだす。小隊長個体だが、知的レベルはヴァロン達とは比較にならない。
当然理解力も乏しいので、ヴァロンを使うよりも俺が直接情報を付加して言葉で命令したほうが早い。
「気づかぬふりをして、2体を荒川付近に潜ませろ。あとは出方を待て」
地図情報や潜伏方法、出方を待つ陣形など細かい部分は情報として直接小隊長の脳へ送る。
やがて、埼玉と東京を分断する荒川の手前で小隊は停止すると、ドローンを飛ばして偵察行動を開始した。
--おいおい。そんな精密機器がエーテルの充満するエリアで使えるはずがないだろう。
俺は暇をつぶしたいがゆえに、最低限だが彼らに協力してやることにした。
--エーテルの濃度を少し下げてやるか。無線が使える程度にしておけば、多少楽しめるだろう。
その後、ドローンを使った弾道誘導で最新兵器が何体かのガーゴイルを倒した。
強じんなガーゴイルも、対戦車を想定した兵器の攻撃が直撃すれば一撃で爆散してしまう。
別にガーゴイルが何体倒されようと俺は気にもとめない。
彼らは定めた規則に沿って動いている生体ロボットに過ぎないからだ。
そもそもエーテルで構成されている肉体なので「生体」と言っても「生体風」なのだが。
彼らに与えた基本概念はこうだ。
1.神の命令は絶対である
2.神への危害/予兆は即時、これを排除する。
3.1.2に反しない限りできるだけ味方を攻撃してはいけない。また可能な限り協力する。
4.1.2.3.を遵守して、人間を襲う
これだけだ。
あとは行動範囲などは神の命令として、今は東京から主体的に出ることを禁じている。
俺は小隊長個体に相手の出方で臨機応変に対応しろと命じてみた。
だが、1体、2体と倒されても指示を出す気配はない。
一方、潜んでいた2体のガーゴイルは自衛隊の発砲音に反応し、撃退を開始した。
これは恐らく「2.神への危害/予兆は即時、これを排除する。」に抵触したからだろう。
自衛隊の最新鋭兵器相手だが、ガーゴイルの性能は素晴らしいものだった。
急降下飛行による加速。
その速度を利用して重い兵器を空中へ持ち上げ、落下させることで破壊した。
自衛隊の二足歩行兵器のカーボン素材を使った自慢の防御性能も、高度50mからの落下は想定していない。
瞬時に近接戦では破壊が難しい相手の弱点を突いた的確な判断である。
それに加え、陣形が崩れた自衛隊の懐に飛び込んで歩兵を狙うことで、自衛隊に立て直す隙を与えない。
計算ではないだろうが、人間を狩る生体兵器としては合格点の戦術だ。
想定外だったのは、自衛隊の中に全滅と同士討ちを天秤にかけ、全滅回避のために仲間ごと機銃でガーゴイルを
薙ぎ払うことができる胆力の持ち主がいたこと。
そして増援が到着する前に、撤退を判断し速やかに撤収した判断力のある人物がいたことだ。
--面白い人間を発見した。
俺は暇つぶしの1シーンから、楽しめそうな素材を見つけてしまった。俺の知る醜悪な人間とは違うタイプの人類。
生かすに足るものか、俺の種族神としての本能が好奇心で踊っていた。
さらにもう一つ、今回の戦闘で小隊長個体の性能不足も明らかになった。
まず判断が遅い。判断しても配下への命令が曖昧で「増援に行け」としか命令せず、配下は飛行するのか歩いていくのか
そもそもどの地点に増援に行くのか混乱を極めていた。
結局、増援が到着したころには2体のガーゴイルは倒れ、自衛隊は撤退していた。
改善の余地がある。創造主としての俺も少し楽しくなってきた。
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