2021年1月31日日曜日

【小説】俺の妹がこんなにハイスペックなわけがない【卓球】

 温泉地に来ている俺。風呂上がりで、ゆっくりくつろいでいる。


「あ~快適だ~」


俺がマッサージ器で風呂上がりで火照った体を冷ましていると、妹とその友達である小夏ちゃんが歩み寄ってきた。


「お兄ちゃ~ん、あと10分後に卓球だよー」


無邪気な笑みに見えるが、兄妹の俺には判る。あの小悪魔っぽい表情は絶対に何か企んでいる。


おれが警戒心を全開にしていると、小夏ちゃんが声をかけてきた。


「お兄さん。負けてもいいんですよ。そしたら・・・」


小夏ちゃんが何か言いかけたが、妹がとっさに口を挟む


「ダメダメ!勝負は勝負。お兄ちゃんも本気でやってね!で、負けたら罰ゲームとして何でも言う事一つ聞いてもらうからね!」


妹が小夏ちゃんにアイコンタクトを送ると、小夏ちゃんが慣れない感じで煽ってきた。


「お兄さんはテニス部のお姉ちゃんとペアですし、年下相手に負けたり・・・その・・しないですよね!」

 

妹の減らず口とは違い、いい慣れない初々しさが非常に良い。一瞬だが負けても良いような気がしてしまった。


10分後、湯上りで最高にかわいい鮎川姉がやってきた。


お肌プルプル。髪の毛サラサラ。近くに来ただけでいい匂いがする。湯上りの女子ってここまで魅力的なのか!妹と同じ生き物とは思えん。


「お兄ちゃん!そんなにジロジロみたら、鮎川姉ちゃん困っちゃうよ!」


妹に指摘されて我に返る。これが魅了って状態か!いやいや。嫌われちゃうから程々にしないとな。目のやり場に困った俺は視線を妹に固定し、意識をそらす。


「それでは、小夏ちゃんと鮎川お姉ちゃんとお兄ちゃんが揃ったところで、卓球大会を始めまーす!ルールを発表して小夏ちゃん!」


「はーい。勝負は3回戦です!初戦は「私とハルちゃんペア 対 お姉ちゃんお兄さんペアのダブルスです!」二戦目は「私とお兄さんの1対1です!」三戦目は「ハルちゃん 対 お姉ちゃんの大将戦でーす!」」


「おいおい、こっちのチームの大将、俺じゃないの?」

 

「あら。あなた、私と勝負して勝てる自身でもあるの?」


鮎川姉が意外そうな表情で問いかけてきた。


「あ、それはむり。やっぱり鮎川が大将だな。うん。任せた」


くっ。女子とのペアでリードされる屈辱。でも「さも当然」という鮎川の表情を見ていると、これはこれでいいような気がしてきた。いい。なんか尻にひかれる気弱な夫みたいでグッっとくる。


俺が複雑な心境で呆けていると小夏ちゃんがラケットを持ってやってきた。


「適度に頑張ってくださいね!お兄さん!」


なにか言いたげである。俺が小夏ちゃんにその真意を訪ねようとすると、妹が説明を続けた。


「はいはーい。ラケットはお手元にありますかー。シェークハンドのラケットですが、使いにくければペンタイプもあるので言ってくださいねー」


「シェークハンド?ペン?何の事かしら?」


鮎川姉がこちらにコソコソと話しかけてきた。

 

「あ、ああ、持ち手に凹凸があるのがペンタイプ。凹凸がないのシェークハンドラケットだな。初心者はシェークハンドラケットでいいと思うぞ」


「へぇ。流石は文学部。どうでもいいことをよく知っているのね」


鮎川に感心される貴重な体験だが、この発言から鮎川姉が「卓球ど素人」とうことが分かってしまった。これはもしかしてヤバいんじゃなかろうか。


「そ・れ・か・ら、負けた方のペアは勝った方のペアのいう事を何でも一つだけ叶える。いいですね!特に鮎川お姉ちゃん!」


「なっ。もちろんよ!でも帰宅部のハルちゃんが私に勝てるのかしら・・・私が勝ったら・・。教えちゃったらつまらないわね。ただし覚悟した方がいいわよ」


こわっ。そして完全に蚊帳の外である俺。ま、実際戦力外だから反論はないが。


5分後。卓球台を設置した俺たちは、試合を始めることになった。初戦はペアマッチだ。

 

これは地獄絵図だった。妹も、小夏ちゃんも実は学校のクラブ活動が「卓球」という事実が発覚。経験者二人相手に、素人二人が戦うわけである。


しかも、運動部で基本スペックが高い鮎川姉と、文芸部で運動スペックが底辺の俺。完全に俺が鮎川の足を引っ張り、「ぶつかる」「もつれる」「ゆずりあう」その中にはラッキースケベ的なイベントもあったのだが全くそれどころではない。勝負にこだわる鮎川姉の殺気を一心に受けながら右へ左へ走り回っているうちに、俺たちは負けてしまった。


妹二人は大喜び

「やったね小夏ちゃん!」

「ハルちゃん!やったー!」


そのころ俺はというと、殺気立つ鮎川姉の狂気の視線に怯えていた。

 

鮎川がゆっくりと近づいてくる。「これは死んだ」俺は覚悟を決めていた。

 

すると鮎川は俺の耳元でこう囁いた


「次の試合は、あなたと小夏よね。殺す気でやっていいわよ。負けたら・・・。いいえ。勝利しか許されないわよ」

 

怖い。スポーツが絡んだ勝負になると鮎川姉はまじで怖い。


しかし、これで負けたら本当に今日が命日になりそうだ。

 

第二試合。俺対小夏ちゃん。

 

「お兄さん。お手柔らかに・・・ひっ」


「マケ・・ラレ・・ナイ・・・マケ・・ラレ・・・ナイ・・・」

俺は恐怖心から、狂人のようになっていた。


半分怯えている小夏ちゃん(女子中学生)に、手加減なしの狂人(男子高校生)が卓球で勝負をしたら・・・ギリギリだったが狂人の方が強かったらしい。


「怖かったよー」

半泣きの小夏ちゃん

「がんばったよ小夏ちゃん!」

抱き合う二人。妹同士の絆は深まったようである。


そして迎えた、大将戦。


俺が小夏ちゃんに勝ったことで、機嫌が良くなった鮎川姉が宣戦布告のごとく口火を切った

「ハルちゃん。前回はTVゲームで一本取られたわけだけれど。今回は、汚名挽回させてもらうから本気でかかってきていいわよ」


先ほどまでの殺気と違い、運動部特有のむさくるしいような熱量を放ち妹に挑む鮎川姉。しかし、ずいぶん前のTVゲーム対決をまだ覚えていたのか。よほど悔しかったんだろう。


対する妹のハルは・・・


「じゃぁ。お言葉に甘えて・・・」


ラケットをシェークハンドラケットからペンタイプに持ち替えた。


それを見た鮎川姉は


「なるほど。使い慣れないラケットを使って実力を隠していた。そういうことで良いかしら?」

と一層闘志を燃やしているようである。


「鮎川お姉ちゃんには悪いけど、私は勝ちに行くからね!」


妹の第一サーブ。俺は驚いた。鮎川姉が全く反応できない程、強烈なサーブである。一般人の俺からしたら殆どチートレベルである。


驚いている俺に小夏ちゃんがコッソリ教えてくれた。

「ハルちゃんは、球技大会で卓球部に卓球で勝ってるんですよー」

おいおい。俺の妹がこんなにハイスペックなわけがないだろう。



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【次回予告】


後編の予定でしたが、長くなったのでもう1話続きます。

チート妹の猛攻撃に鮎川姉は対応できるのか。

勝負の行方は意外な展開に。そしてお願いとは・・・


勝負にこだわる鮎川姉は負けを認めることができるのか?!

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