2026年1月27日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《ターニングポイント⑤》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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リーク大佐が太平洋上の空母『クシャルボコス』へ帰還した翌日、埼玉県内の地下会議室で「会食」が開かれた。


出席者は大仲大臣、津田議員をはじめとする各省庁の大臣と与野党の大物政治家。そしてR連隊の隊長足立、副隊長仲原、さらにリモート参加としてUFB研究所室長の篠原である。


リーク大佐を除く、タラメアの使節団が国会に滞在している。


そのため、本会議で議論できない「対タラメア外交」について話し合うためにセッティングされた会食であった。


冒頭、大仲大臣が料理も待たずに状況を説明する。


「みなさま、急な招集にご賛同いただき、ありがとうございます。舞岡議員や同盟国使節団の耳に入らないよう、情報漏洩のリスクを最低限に抑える必要がありました。」


「さて、重要な情報です。先日、タラメアの最新鋭戦車YA-24および装甲車DD-24が、池袋周辺でUFBと交戦いたしました。結果はタラメア兵器の完敗です。YA-24は自爆、DD-24は炎上。搭乗員全員が死亡しました」


僅か1分程度の情報共有だったが、議員たちのざわめきは低く不安の渦を巻いているようだった。その状況で一人の議員が挙手をして質問を投げかけた。


「なぜ、タラメアの最新鋭戦車や装甲車が我が国に?R連隊の車両ですか?」


大仲は想定通りといった面持ちで返す。


「いえ、これは民間。大荻山氏所有とみられる兵器です。真実を聞こうにも、大荻山氏もこの戦闘で命を落とされております」


ここまで黙っていた津田議員は大荻山というキーワードで大筋の因果関係を読み取ると、議論を混沌から対策へと導き始める。


「大仲大臣。だとすれば、これは明らかに我が国へのタラメア側の内政干渉ですな。いや、権力を持った一個人に兵器を供与した。これはテロのほう助と言ってもいいでしょう。このカードをどう扱うおつもりか」


津田の一言で、議論の方向はカードの有効な使い道へ流れ始める。議員が乱雑に我先にと案を出し始める。


「このカードでタラメアに食料品を提供させましょう!」

「そんな安いカードではない!YA-24にDD-24を5台ずつ、無償供与を受けるべきです!」

「R連隊をタラメアの兵器と混成するのは危険です!ここは、この災害で住まいや家族を失った人々への支援金を要求すべきです!」

「いやいや、タラメアに東京のUFBを排除させましょう!それくらいは当然だ!」


そんな中、津田議員は大仲に意見を求めた。その眼光は鋭く大仲の防衛大臣としての資質を問うような深い探求にみちた眼差しだった。


「防衛大臣の立場としては、何かを要求すればタラメア国内での説明責任が発生します。つまり不問にすることを前提に何かを要求すれば矛盾が発生するのです。ですから私は、使節団の退去。および舞岡議員のタラメア訪問を要求したいと思います」


「がはははは」


場にそぐわない大きな笑い声の主は意外にも津田議員本人だった。


「使節団の退去。まぁそれが筋。というかこのカードの最良の使い方でしょう。私も同意見です。だが扱いが難しい「内通者」になっている舞岡議員を訪問という言葉で、国外に追放してしまうなんて、これは予想外だ。大仲大臣も人が悪い。がははは」


他の議員が恐る恐る質問をした。


「しかし、舞岡議員がタラメアで国家機密を売ったりしませんかね?」


その質問には大仲が答える。


「すでにタラメアを埼玉の臨時内閣本部に武装したまま滞在させています。彼が知る情報は全てタラメアに知られているとみていいでしょう。それに彼は例のマスコミへの情報流出以来、機密情報にはアクセスできません。彼の脳の価値はゼロだと見積もっています」


ご機嫌の津田が補足する。


「そうそう。今の舞岡議員の価値は我が国の内情を引き出すパイプ役。追放されてしまえばその機能も失うだろう。役にも立たない、成功実績もない、そんな議員を来賓として国費でもてなすタラメアのにがり顔が目に浮かぶようだ!がははは!」


騒然とした食事会だったが、料理が運ばれてくると次第に和やかになってくる。議員たちは大仲の考案した「使節団退去」と「舞岡追放」の話題で盛り上がった。この国は得はしないが、損もしない。だがタラメアは内通者を失い、無期限で内通者を自国で保護しなければならない。この皮肉が、緊張続きで疲弊していた議員の胸を撃ち抜いたのだ。


数分の間、会食の名にふさわしい楽し気な時間が流れた。


だが、その空気を断ち切ったのは、意外にもR連隊の隊長足立だった。


「議員の皆様、これはそういう問題ではないと思います。意見をよろしいでしょうか」


そう切り出すと、彼は自衛官としての視点から持論を語りだした。その内容は、自国の最新鋭兵器が他国で破壊された。これは戦略的にもっとも憂慮すべき事態であり。タラメアとしては残骸が自衛隊に回収されることを恐れるはず。といった内容だった。


だが議員たちには、真意は伝わらず軽くあしらわれてしまう。


「では、使節団の退去、舞岡の追放に加えて、怪物に破壊された自国の廃品回収もお願いしますかなぁ」


こんな具合で、議論にも発展しない。そこへ壁に投影されたプロジェクタから突然AI篠原が現れた。


マイクのハウリング音が「キィィィン」と鳴り響き、楽観ムードに水を差された議員の視線がAI篠原に集まる。


「篠原です。こちらの表をご覧ください。これは自衛隊の兵器の情報です」


そういうと、「耐衝撃性」「耐熱性」「耐貫通性」「重量」「薬剤耐性」など30項目もの詳細な情報が提示された。議員たちは突然細かい文字の羅列を提示され頭の数項目だけ読むと、面倒そうに篠原に意味を問う。


「これは自衛隊の戦車に使われている装甲「5cm角」の破片から導き出せる情報です。最新鋭機「2台分」の残骸となれば情報量は百倍を超えるでしょう」


この言葉に、津田が反論する。


「だが篠原君。外交とは信頼の積み重ねだ。リスクがあるからと言って対話を閉ざせば、それこそ戦端の口実を与えることになる。我々が誠意を見せれば、タラメアも引かざるを得ない。それが国際社会のルールではないかね?」


政治家として歴戦の猛者である津田の言葉に、数人の議員が無言でうなずき同意する。


「その理論には条件があります。それは自国に大きな損害がでなければ、という前提です。今回は違います。最新鋭機2台分の情報と国際社会のルールを天秤にかけているのです」


そういった、前提付きの政治交渉は数多く経験してきた。津田は慣れた表情で反論を重ねる。


「言いたいことは分かる。残骸は情報。タラメアに正しく返さなければ交渉は成立しない。そういいたいのだろう」


「違います。正しくも返してはなりません。兵器の価値は二つに分かれます。一つは純粋な性能。もう一つは秘匿性です。特に最新鋭兵器は「性能が分からない」ことにとても意味があるのです。1つの兵器が10の力なのか1000の力なのか曖昧にすることで、他国へのけん制になるのです」


「だから、正しく返せば秘匿性は守られる。よかろう?」


「いえ、秘匿性は守られません。正確には守られたことを証明できません。渡した残骸は本当に全部なのか?渡す前に解析したのでは?とタラメアに疑問を持たれた時点で秘匿性は下がり、兵器の価値が下がります。これは、タラメアの国家防衛にかかわる事態なのです。まだ分かりませんか?もし、正直に残骸を全て解析せずに渡したとしても、タラメアは信じない。秘匿性を守るために、関係した人物、施設は全て破壊してもおかしくはないのです。そこに例外はなく議員の皆様も標的になり得るのです」


この発言に言葉を返す議員は誰も居なかった。大仲だけは自身が自衛官出身でありながら永田町の思想に染まっていたことを認識し奥歯に力がこもる、そして即座に対抗策を考え始めていた。


だが、篠原の冷静な言葉は思考に大きな打撃を与えた。


「皆さん。99%タラメア軍が来ます。おそらく一週間以内でしょう」


凍り付いた空気が、事態の深刻さを物語っていた。

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