2025年8月19日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑪ 大規模攻勢_3》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐が連隊長の足立《あだち》昭介《しょうすけ》に報告する。


「連隊長。荒川渡河の状況報告です。現状、UFBを特殊弾で殲滅した区域への橋の建設は完了しました。」


細かい報告はこのようだった。

<渡河完了状況>

・地面冷却用の特殊車両・・・20台

・25式戦車・・・・・・・・・・・・・・20台

・25式耐熱装甲車・・・・・・・・40台

・25式対空対地迎撃車両・・・40台


全体の75%が渡河完了、ということだ

レールガンや迫撃砲は射程が届くため、渡河は行わない。


足立は直ぐに次の指令を出した。


「特殊弾で生き残ったUFBの反撃がくるぞ。ここからが本番だ。気を引き締めていけ! 全車両、安全装置解除。UFBは発見次第撃て」


ほどなくして、足立の予測は的中する。


埼玉から池袋方面に長く伸びた車列の側面や前方の上空からUFBの強襲が始まる。


しかし、特殊弾によって遮蔽物がすべて溶け落ちた視界の良い地形のおかげで、UFBを早期に発見し、近づかれる前に戦車や装甲車の積んだ大口径の対空砲がロックオンできる。


この対空砲の威力はガーゴイルを一撃で粉砕できる。この地域は、神が戦闘を長く楽しむためエーテルの濃度を薄めており、精密機器も正常に動作する。


これにより、レーダーで発見したUFBを即座に対空砲に送信し、自動で迎撃することが可能になっていた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻、神の居城デスランド


神と指揮官であるヴァロンは、神が映し出した最前線の状況を、まるで映画を鑑賞するような緩い空気で眺めていた。


時折ヴァロンが口を開く


「創造主様。ガーゴイルですが個体としては人間の3倍の強さを誇りますが、人間の兵器が相手では劣勢のようです。増援を出しますか?」


しかし、神はこれを受け入れない。神は瞬時に数万のガーゴイルを生産できる。だがこれは人間を守護するに値するかを見定める余興。


持ち駒を無限に増やすのは得策ではないと考えていた。


「ヴァロン。つまらないことを言うなよ。人間が全力で戦っているのだから、彼らの基準で戦ってやろうよ。エーテルの濃度も少し下げたから近代兵器も使えるし、どのくらいもつのか興味が湧かないか?」


ヴァロンは神の言動に納得はしつつも、指揮官として意見を出す。


「しかし、よく考えましたな。通常の進軍であればあのように車列を組んで進むことはないでしょう。ですが、視界の良い地形と、我らガーゴイルが近接戦闘を得意としていることを考慮して、どこから攻撃しても接近する前に複数の兵器から迎撃可能になっています」


神は嬉しそうにうなずく


「うんうん、戦車、装甲車、対空車両の配置もいい。お互いの兵器が弱点をカバーしたすばらしい車列じゃないか。これは、池袋まで行けるんじゃないか?」


その時、ヴァロンに行動不能のベルガンから通信が入る。


「ヴァロン!ベルガンだ!なんだこれは!地面は灼熱のマグマのようで思うように歩けん!しかも翼をやられて浮上もできん!サーチの映像情報も来ない!どうなってる!」


人間の予測不能な攻撃で、行動不能になったことでイラだつベルガン。神も聞いている通信にもかかわらず苛立ちが伝播する。


「落ち着けベルガン。それは人間の高温特殊砲撃の影響だ。荒川から池袋の範囲すべてが、そんな状況だ。お前は耐熱性能が高いので無事だが、周囲の同胞は全滅した」


「はぁ?全滅?クソがぁぁ。ん?サーチはサーチもやられたのか!!!!」


「安心しろ、高高度を飛行していたため直撃はしていない。だが、熱波と閃光、加えて轟音で感覚器官にダメージ。いまは神の城へ帰還中だ」



「サーチがダメージ?うおおああああ!人間ッ!矮小《わいしょう》な存在でありながら、神に作られた特別な我らを害するなんて!万死に値する!」


このやり取りを見ていた神は、一つの遊びを思いついた。


「ベルガン。俺だ。後方のガーゴイルをお前のもとに向かわせる。そいつに薬を持たせておくので飲むといい損傷が修復され飛べるようになるだろう。そのまま、そのガーゴイル5万の指揮をとり、ポイント122付近へ迎って敵の進軍部隊を壊滅せよ」


通信を切ると神はヴァロンに話しかけた


「指揮を代行してすまなかったな。ただ、このまま池袋まで無難に到着されてもつまらないだろ?秋葉にいるガーゴイル5万をベルガンの指揮下に入れて戦わせたら面白そうじゃないか」


そういうと、何もない空間から緑色の液体の入った瓶を生み出した。


「これがベルガンの修復材。まぁ破損した部分を自動的に補うエーテルの塊だけどね」


手元に出した瓶を、そのまま宙になげると瓶は煙のように消えてしまう。


「これで秋葉のガーゴイルに渡したので、あとは戦況を見守ろう。おっと、今回はベルガンのターンだからね、ヴァロンは余計なことは言わないでよね」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


30分後


ベルガンのもとに、薬を持ったガーゴイルと5万のガーゴイルがやってきた。薬を飲むとベルガンの翼はボロボロと崩れ去る。また皮膚などに受けた損傷部分もパリパリと音を立てて崩れていった。その直後、緑の光が損傷個所を包み込み、新しい翼、新しい皮膚がベルガンにあたえられた。


「これが神の力。うおおおおおおおおお!」


勢いよく浮上すると、5万のガーゴイルに指示を出す。


ポイント122へ向かう。100体の分隊を10分隊作成しろ、本隊の前に出て障害を排除するんだ。


残りは3万の1部隊編成で先行する。先行する100体分隊へ続け、万が一100体分隊で欠員がでたら増援に入り、100体分隊を維持しろ。


残った1万9千は後方の俺と来い、敗走する雑兵を掃討する。一人も生かして返すな!


指示を出すと、隊列を形成しベルガンは自衛隊の車列の先端に向かって行動を開始した。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


居城デスランド。


ヴァロンは驚いていた。


「あのベルガンが指揮を。翼が回復したら怒りに任せて全軍突撃コースかと思いましたが・・・」


神も楽しそうだ。


「だろ?筋力重視の個体だが知能だって小隊長個体よりも高い。激情していても最低限の冷静さは持っていたな」


「ま、ヴァロンに比べたら分隊の組成も、陣形も稚拙《ちせつ》極まりないがな」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


10分後、ベルガンの指揮する100体分隊の視界は、自衛隊の車列を捉えた。


ベルガンは細かい指示を出す。


「まずは高度100mに2分隊。300mに2分隊、残りは50mに分かれろ、左右の間隔あけて陣形を整えろ!」


すぐさま、100体分隊が陣形に合わせる。


「よし、高度100m隊は滑空しつつ、ブレスで攻撃しろ!30秒後に、50m隊が滑空開始、さらに30秒後に300m隊が滑空開始」


「これでブレスに気を取られた人間を、上空から高速攻撃しつつ、低空から大量のガーゴイルが襲う。人間の車列に潜り込み混乱しているところへ、3万が増援。これで壊滅だ。敗走するだろうが、それは俺たちが全て殺し、神の力を思い知らせてやる!」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


3分前。自衛隊早期警戒車両


「UFBの大群を発見。約3万。指示をーー」


これを聞いた仲原は無線を取る。


「連隊長。本命が来ましたね」


「ああ、三佐の作戦に移行する。戦車部隊に次ぐ発光弾用意!早期警戒車両は後方のレールガンに座標を送れ!大まかでいい!」


仲原は自分の作戦に自信はあったが、それでも不安は隠せない。


「連隊長。彼らは高度を上げて滑空で速度を上げてくるでしょうか?」


「来るさ。先ほどの攻撃で、遠距離攻撃を警戒するはずだ。ならどうする。速度を上げるために高度を上げて滑空するしかない。だが高度を上げた瞬間に、発光弾を撃つ。これで再びヤツラは光に飲まれ視界を失う。そうなれば高速滑空は不可能。そこへ後方のレールガンから高熱の特殊弾を再度叩き込む。半分、1万~2万はこれで消滅だ」


数分後


「UFBの先方が分隊に分かれ、高度300、100、50に移動しました!」


足立は読みが当たってやや興奮気味に


「来るぞ!発光弾発射」


25式戦車から再び、真夏の3倍の光量の発光弾が空中に放たれる。すべてが光の中に溶けて視界は失われる。


「UFB移動速度減少。視界を奪いました」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 ベルガン


落ち着き始めた空に再び閃光が走る。


「くそ!何も見えん!滑空中止!同胞と衝突するぞ!」


「人間の対応が早い!ワナか?いったん引く、後退!!」


ガーゴイルが転身しようとしたその時、聞き覚えのある発砲音が聞こえる


「ドドドドドド」


ほぼ同時に、あの雨、灼熱の雨が降り始めた。


高度300mにいた部隊は瞬時に消滅。

100m、50mも数秒遅れて消滅した。


その後ろにいた3万の部隊は2万が消滅、残り1万もダメージを受けていた。


かろうじて後方にいたベルガンの部隊だけが残された状態だった。


「この攻撃。何度も何度も同胞を忌々《いまいま》しい!だが、今回は違う。俺が!このベルガンが無傷で残っている!」


「残兵を本体に戻せ!人間達はこの攻撃で再び、俺らを一掃したと思っている!そこを突く!」


「1km後退!高度20まで降下し、待機。今度はこちらが待ち伏せしてやる!!」


発光が消え、夜が戻る。闇の縁で、逆襲の弓が静かに引き絞られていた。


2025年8月17日日曜日

青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない(赤城郁実編)

<あらすじ>

咲太の中学時代のクラスメイトで、現在は同じ大学の看護学科に通う赤城郁実。

ある日、SNSに書き込んだ夢が次々と正夢になると噂されている「#夢見る」の話を聞き……。


<レビュー>

今回のヒロインである赤城郁実の思春期症候群は、「パラレルワールドの自分と入れ替わる」という現象でした。

これは、1期で描かれた「桜島麻衣と豊浜のどかの姉妹入れ替わり」に近い、発展型といえる構造です。

前回の広川卯月編よりも、SF的な設定が強く打ち出されており、シリーズの原点に近い不思議さが戻ってきた印象で楽しめました。


ただ、視聴中にいくつかの疑問も残りました。


たとえば、パラレルワールドの自分と体に文字を書くことで連絡が取れるという設定、

そして同窓会で誰からも赤城が認識されなくなるという描写。

これらは、単一の症候群としては整合性に欠けているように感じられました。


視聴者の理解としては、

「入れ替わり」(姉妹編の亜種)

「体の異変」(かえで編の要素)

「存在が認識されない」(麻衣編の要素)


の3種類の思春期症候群がミックスされたような状況に見え、やや混乱を招く構成になっていたとも言えます。

1期に比べて物語構造が複雑化した影響か、説明不足が少し気になりました。


一方で、これらの説明不足は、今後明かされていくであろう2期のメインキャラクター「霧島透子」に関わる伏線である可能性もあり、「わざと謎を残している」と考えれば納得がいく部分もあります。


毎回、1期のヒロインたちがチラリと登場し、成長した姿を見せてくれる構成は非常に好印象です。

特に「双葉理央」が説明役として続投していることで、物語全体の骨格に一貫性が保たれていると感じます。


物語は後半に突入し、いよいよ「霧島透子」の行方を追う本筋が動き出します。

この不思議な連鎖が、どのように繋がっていくのか――今後の展開が非常に楽しみです。




2025年8月14日木曜日

異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~ ~6話

 <あらすじ>

ユーザーランキング1位を獲得した伝説のプレイヤー・伊良拓斗は、入院中に意識を失う。

気が付くと、彼はまるでゲームの中のような世界「イドラギィア大陸」に降り立っていた──。


<レビュー>

本作のレビューは今回で2回目です。

今回は特に第5話の展開を中心に振り返りたいと思います。


ここまで、内政を中心に比較的平和的な路線で進行してきた本作ですが、5話ではついに作品の裏の顔とも言える「残虐な描写」が表に出てきました。


導入としては、聖騎士が主人公の支配する森へ無理やり侵入しようとする、というもの。しかし、この程度の理由で即座に過激な手段に出るのは、動機としてやや薄く感じられました。

「ユーザーランキング1位」の知略を持つ主人公であれば、相手を森に誘導した上で騙して撤退させるなど、より狡猾な対応があってもよかったように思います。


実際、作中でも語られていたように、調査団を全滅させれば相手の警戒レベルは当然上がります。

これを逆手に取って、相手を欺いたり誤魔化したりできていれば、主人公の知的な魅力がより際立ち、印象的な展開になった可能性もあったでしょう。


とはいえ、作り手の視点から見れば、4話にわたって地味な内政パートが続いた後に、緩急をつけるためのバトル回を挟むという判断は非常によく理解できます。

実際、このエピソードは物語のアクセントとしてよく機能しており、ヒロインの強さや冷酷さがしっかりと表現された見応えのある回でした。


特に、聖騎士との戦いにおいて、あえて手の内を隠して戦い、

「もしかしたら勝てるかも」と思わせたうえで一気に絶望へ突き落とす──という演出は、悪役主人公としてのカタルシスが非常に強く、シリーズ随一の名シーンだったと感じます。


作画についても、相手に絶望を与える瞬間の表情やカメラワーク、演出が非常に優れており、

この作品の持つ「残虐さ」や「容赦のなさ」を映像としてしっかり成立させていました。

特に、**悪い笑みを浮かべるヒロインの邪悪な表情(誉め言葉です)**は非常に印象的でした。


バトルシーン全体も、単なる戦いというよりは一方的な蹂躙劇。

まるで遊んでいるかのように描かれつつ、戦闘開始 → 前衛崩壊 → 聖騎士の反撃 → 聖騎士敗北 → 残党敗走 → 足止め → 全滅 → 絶望、という一連の流れがテンポよく繋がっており、アニメ的な演出力が光る構成になっていたと思います。


次回は「同盟国の模索」がテーマになるようですが、まだ第6話。

今後もまた、あのような冷徹かつ衝撃的な展開が待ち受けているのではないかと思うと、思わずワクワクしてしまいます。




2025年8月10日日曜日

軽い日記的なもの【お知らせ】

こんばんは!管理人の緑茶です。


次回(8/12)の更新は休載となります。本来は火曜日の小説更新日ですが、今回は木曜日または日曜日に振り替え予定です。


休載理由は毎年恒例の帰省です。行き先は、電波がほとんど届かない「陸の孤島」のようなど田舎。

祖母も高齢になってきたため、今年から滞在日数を短縮することになりました。大人数で押しかけると何かと負担が大きいので、親戚同士で話し合い、前半組と後半組に分けて帰省する方式に。中1日だけは全員が揃い、顔合わせができるようにしています。


前半・後半ともに滞在日数は短くなったものの、合計すれば例年とほぼ同じ。ただし一度に集まる人数が減るため、祖母への負担も軽くなるはずです。


個人的には、毎年目にする“巨大昆虫”も密かな楽しみです。信じられないほど大きなバッタやクモなど……あれを見たあとだと、自宅で遭遇するGが可愛く思えるほど。


ちなみに出発は明日。ですが、なんとクーラーボックスが破損してしまいました。これから急いで買いに行ってきます(執筆時:8/10 AM)。


それでは、引き続き本サイトをよろしくお願いいたします。




2025年8月7日木曜日

転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 第2期(一部レビュー)

<あらすじ>

魔術への探求心が止まらないロイドが次に目をつけたのは「神聖魔術」!

その習得のため、教会を訪れるロイドたちだったが……?

原作シリーズ累計発行部数800万部突破の異世界魔術バトルファンタジーが、いよいよ新章“教会編”に突入!


<レビュー>

第2期第5話までのレビューです。


本作は、かつて魔術師だった主人公が転生し、圧倒的な魔力と知識を持った状態でさらに魔術を極めていく物語です。

第1期では、魔術の実験や知識探求の描写が印象的でしたが、第2期では実戦パートと仲間の活躍に焦点が当てられている印象です。


第1期後半からの傾向として、仲間たちが苦戦する敵を、主人公が軽く片づけるという爽快展開が特徴でしたが、

第2期ではその描写がさらに強化されています。


また、コミカルな描写が随所に挿入されており、特に戦闘中にゆるい画風を織り交ぜることで、主人公の“圧倒的な余裕”を際立たせる演出が多く見られます。

仲間たちが驚くシーンでも同様の演出が使われており、メリハリをつけるための工夫だと思われます。


ただ個人的には、この日常系のゆるい画風がバトルシーンに入り込むことで、せっかくの緊張感が削がれてしまうようにも感じました。視聴者によって好みが分かれそうです。


第2期全体の印象としては、テンポがやや落ち着いた分、会話やサブキャラクターの掘り下げが増え、群像劇的な雰囲気が出てきたように思います。

特に、サブキャラクターたちが苦戦し、主人公が最後に圧倒的な力で片をつけるという「当て馬構造」はより顕著になりました。

主人公が“ラスボス的なポジション”として悠然と構えているような描写も目立ちます。


その一方で、視聴者の中には「どうせ最後は主人公が出てきて勝つんでしょ」という先の展開が読めてしまう点に対して、

緊張感が薄れると感じる人もいるかもしれません。


この点に関しては、最強系主人公の圧倒的制裁を楽しむ層と、出来レース的な展開を退屈に感じてしまう層に評価が分かれそうです。


演出やテンポに変化はあるものの、物語の骨格や演出の流れは第1期をしっかり踏襲しており、

第1期を楽しめた方なら、今期も十分楽しめる内容になっていると思います。

魔術バトルとスーパーチート主人公の魅力を引き続き堪能できる第2期。今後の展開にも期待です!




2025年8月5日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑩ 大規模攻勢_2》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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夜明けまであと1時間。


月夜の中で、私有シェルター救出連隊の隊長、足立《あだち》昭介《しょうすけ》と先遣隊《せんけんたい》は、暗闇で動かないUFBの座標情報を1000以上

後方に設置したロングレンジレールガンの射撃管制機能に登録していた。


ロングレンジレールガンには、対地面制圧用の弾薬が装填されていた。


この弾薬は高度200mで炸裂し、小型の特殊弾を散布する。特殊弾は散布後数秒で化学反応を起こし、数千度の高熱を発し落下する。この熱は地上に灼熱の雨となって降り注ぎあらゆるものを燃やし、溶かしてしまう。


副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐が、心配そうに足立へ確認する。


「私有シェルター場所への落下は制御していますが、離れていてもこの高熱に耐えられるでしょうか?」


足立は作り笑いで答える。


「大丈夫だ。私有シェルターのほとんどが核を想定している。直撃しなければ問題ない」


その時に、防衛大臣の大仲《おおなか》晴彦《はるひこ》から指令が入る。


「射撃開始180秒前」


ロングレンジレールガンが座標を最適化し、連射モードで動き出す。


また、通常の25式迫撃砲も、ロングレンジレールガンのダミーとして配置されており、これらもレールガンの射撃管制機能と接続され、射程に応じて実際に使用される。


「装填開始」


各迫撃砲も足立の指示で対地面制圧用の弾薬が装填される。



「3・・・、2・・・、1・・・」


大仲のカウントダウンが進む。


「ゼロ」


月明かりの夜空に200発の光の玉が炸裂する。


仲原が即座に確認する。


「足立連隊長。先遣隊の戦車から発光弾の一斉発射を完了。池袋から荒川付近までの全区域が光に飲まれました」


足立は即座に作戦を進める。


「よし、これでヤツラの目は奪った。暗闇から真夏の3倍の光量だ!光の弾幕でUFBの視界はゼロ。射撃管制機能を解放。砲撃開始!」


前回の戦いでは、最初の砲撃で脅威を察知したUFBに場所を視認され強襲された。その教訓から発光弾で視界を奪ってから砲撃を行ったのだ。



「ドドドドド」



レールガンの高い射撃音と迫撃砲の低い射撃音が混ざり合い、地鳴りのような音を立てた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻、埼玉県内の山頂。


TV局のリポーターは、数キロ先の森林から無数の光の筋が、池袋方面に伸びていくのを発見した。


「作戦が始まったのでしょうか!」


実況を始めた直後、無数の雷鳴のような轟音《ごうおん》が山頂を揺らした。


「すごい音圧です!これは発砲音でしょうか?」


耳を抑えながら必死に解説をするが、イヤホンに中継車から指示が飛ぶ。


「もっと大きな声で!」


「すごい音圧です!これは発砲音でしょうか!!!」


怒鳴るような発声でもわずかに聞こえる程度だった。


その裏で一人のスタッフがその攻撃をみてつぶやいた。


「綺麗‥‥‥。まるで虹色の光線が地平線に吸われていくみたい」


そのライブを映したSNSではコメントの投稿が止まらない。


<これはもう戦争じゃね?>

<何?あれ全部ミサイル?>

<本気の自衛隊マジ怖い>

<ガーゴイル終了のお知らせ>

<これがリアル地ならしだw>


そのほとんどが、勝利を確信したコメントであふれていた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


池袋から1キロほど埼玉に近づいた付近。


レールガンと迫撃砲から放たれた無数の砲弾が地上を灼熱の海に変えていた。


付近の再開発ビルが熱で一瞬にして骨格だけを残し崩れ落ちた


ガーゴイル達は混乱し、飛び上がろうとする者、物陰に隠れようとする者、どの個体も何が起こったか

把握をしていなかった。


「ガアアァァ!!」「ギィィィア」と叫び熱波に溶かされていく。


また、自衛隊が存在すら知らない特殊個体。サーチやベルガンにもこの攻撃は影響を与えていた。


サーチは自身の長所である、感知能力があだとなり、視覚・聴覚を奪われた。


「何が起きた?熱?光?音?ベルガン!ヴァロン!状況を!!」


平衡感覚を失ったサーチは、呼びかけながらかろうじてグライダーのように翼を広げ、お台場方面に滑空していた。


ベルガンは強い熱波を浴びたが、耐熱性能の高さに助けられた。

だが、溶ける大地に足を取られ、身動きが取れない状態になっていた。


「クソッ。なんだこれは!高熱で翼をやられたか!」


混乱はしていないものの、正体不明の攻撃にイラだつベルガン。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


神の居城デスランド



「創造主様。攻撃が始まりました。」


ヴァロンが冷静に分析をしつつ、神へ報告する。


「正常なのはヴァロンだけか。ベルガンは行動不能。サーチは撤退中。思ったより面白いじゃないか」


「ガーゴイルも随分減ったな。巻き添えも含めて10万は消えたか」


神は笑みが止まらない。

必死に攻撃する自衛隊。状況伝えようと奮闘するレポーター。弾薬の雨に混乱するガーゴイル。熱で霧散するガーゴイル。

少し手間をかけた特殊個体の状況。どのシーンも神の心を高揚させる。


「創造主様。サーチの視覚共有が途絶。以降、私では敵位置の再計測が困難です」


「ならば俺が見てみよう。どれどれ。ふむ。荒川に橋を架けているようだな。よいアイディアじゃないか」


2時間で即席の橋を作ることができる架橋兵器。前回と違い、既存の橋を使わずに渡河を試みる工夫にも神には楽しみとして映った。

まるで、蟻がアリジゴクを工夫して脱出している姿を観察する子供のような視線だった。


ーー迎撃か?いやまだ現場の小隊長ガーゴイルに任せてみるか?指揮ならヴァロンを使うか?


神の妄想が捗る。


神の目には架橋兵器の後ろに並ぶ25式戦車、25式耐熱装甲車、25式対空対地迎撃車両なども映る。


ーー絶対に成功させるという意思を感じる。特に指揮をしている二人の人間の作戦は見事だ。


足立と中原である。二人は連携してガーゴイルを一層した区域から橋を架けて部隊を送り込む指揮を行っていた。


対地面制圧用の弾薬の効果で高温になった大地に特殊な金属片をドローンで散布していた。この金属に先頭車両がジェル状の液体を噴射すると急激に温度が下がる。まるで科学の実験のような作戦だが、短時間で揃う物資を巧みに使った作戦だった。


だが、このまま進めばエーテルの濃度が上がり、先頭車両やドローンが制御不能になるのは明白だった。


神はその点についても迷っていた。誘い込んで長く楽しむか。エーテルの洗礼を受けさせて反応を楽しむか。どちらにしようかと。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻、内閣シェルター内作戦本部


大仲大臣と津田議員がならんでモニターを見つめていた。自衛隊からは絶えず状況が報告される。


「荒川渡河開始します」


「侵入区域周辺、地上・上空ともに敵影なし」


「着弾地点の数か所でプロパンガスが爆発している模様。想定の範囲内です」


悪い報告はない


だが、大仲の表情は厳しかった。


「津田議員。どう思います?自衛隊の制服組は順調だといいますが・・・・・・・」


津田も表情は冴えない。


「ふむ。難しい法案を通す過程に置き換えると・・・・・・なにか引っ掛かりますね」


二人は神の存在を知らない。だが長年永田町で駆け引きを経験した猛者としては、なにか得体のしれない懸念を感じていた。


そんな中、舞岡は違った。


「見てよ見てよ!圧倒的じゃない自衛隊!強い強い!!!いけー!!いけー!!!」


「はぁ」


大仲と津田のため息が懸念をより強くした。

2025年8月3日日曜日

気絶勇者と暗殺姫(一部レビュー)

 <あらすじ>

勇者トトは、3人の美女――シエル、アネモネ、ゴアから突然パーティーへと誘われる!

女性耐性がゼロで、少しドキドキしただけで気絶してしまう極度の人見知り勇者と、

それぞれの目的のために勇者の命を狙う3人の美女が繰り広げる、ハーレムDEATHラブコメディ!


<レビュー>

女性耐性ゼロの勇者・トトと、3人の美女たちによるハーレム作品です。

ただし本作は、「仲良しハーレム」ではなく、お互いがトトを奪い合うギスギス感を楽しむタイプのハーレムものになっています。


そして注目すべきは、3人の女性キャラが本当にトトを好きで集まってきたわけではなく、

暗殺対象として勇者を狙っているという設定です。

その上で、トト自身が女性に免疫がなさすぎて、すぐに気絶してしまうという“隙だらけな勇者”として描かれていることで、

ラブコメと緊張感が絶妙に同居する独特の空気感を生んでいます。


作画は、いわゆる深夜アニメの標準的なレベルといった印象ですが、

戦闘やアクションシーンでは、止め絵や効果演出を巧みに使いながら躍動感を演出しており、

動かしすぎずに迫力を出す工夫が随所に感じられ、アニメ演出としても非常に参考になります。


また、3人のヒロインの「裏表の使い分け」も見どころです。

パーティーメンバーとして仲よくふるまう“表の顔”と、勇者を暗殺しようとする“裏の顔”。

その切り替えは、表情・所作・声のトーンといった面に明確に現れており、

とても分かりやすく、かつキャラの印象を深める効果があります。


これらの描き分けは、少しコミカルな演出としても機能しており、作品全体のテンポや魅力を引き上げているように感じます。


単話視聴では本作の良さが少し伝わりにくい面もあるため、

ぜひ第1話からネット配信などで、じっくりと視聴してみることをおすすめします。

ギスギス系ハーレム×ラブコメ×暗殺サスペンスという独特のジャンルを、テンポよく仕上げた意欲作です!