この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
-----
副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐が連隊長の足立《あだち》昭介《しょうすけ》に報告する。
「連隊長。荒川渡河の状況報告です。現状、UFBを特殊弾で殲滅した区域への橋の建設は完了しました。」
細かい報告はこのようだった。
<渡河完了状況>
・地面冷却用の特殊車両・・・20台
・25式戦車・・・・・・・・・・・・・・20台
・25式耐熱装甲車・・・・・・・・40台
・25式対空対地迎撃車両・・・40台
全体の75%が渡河完了、ということだ
レールガンや迫撃砲は射程が届くため、渡河は行わない。
足立は直ぐに次の指令を出した。
「特殊弾で生き残ったUFBの反撃がくるぞ。ここからが本番だ。気を引き締めていけ! 全車両、安全装置解除。UFBは発見次第撃て」
ほどなくして、足立の予測は的中する。
埼玉から池袋方面に長く伸びた車列の側面や前方の上空からUFBの強襲が始まる。
しかし、特殊弾によって遮蔽物がすべて溶け落ちた視界の良い地形のおかげで、UFBを早期に発見し、近づかれる前に戦車や装甲車の積んだ大口径の対空砲がロックオンできる。
この対空砲の威力はガーゴイルを一撃で粉砕できる。この地域は、神が戦闘を長く楽しむためエーテルの濃度を薄めており、精密機器も正常に動作する。
これにより、レーダーで発見したUFBを即座に対空砲に送信し、自動で迎撃することが可能になっていた。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
同時刻、神の居城デスランド
神と指揮官であるヴァロンは、神が映し出した最前線の状況を、まるで映画を鑑賞するような緩い空気で眺めていた。
時折ヴァロンが口を開く
「創造主様。ガーゴイルですが個体としては人間の3倍の強さを誇りますが、人間の兵器が相手では劣勢のようです。増援を出しますか?」
しかし、神はこれを受け入れない。神は瞬時に数万のガーゴイルを生産できる。だがこれは人間を守護するに値するかを見定める余興。
持ち駒を無限に増やすのは得策ではないと考えていた。
「ヴァロン。つまらないことを言うなよ。人間が全力で戦っているのだから、彼らの基準で戦ってやろうよ。エーテルの濃度も少し下げたから近代兵器も使えるし、どのくらいもつのか興味が湧かないか?」
ヴァロンは神の言動に納得はしつつも、指揮官として意見を出す。
「しかし、よく考えましたな。通常の進軍であればあのように車列を組んで進むことはないでしょう。ですが、視界の良い地形と、我らガーゴイルが近接戦闘を得意としていることを考慮して、どこから攻撃しても接近する前に複数の兵器から迎撃可能になっています」
神は嬉しそうにうなずく
「うんうん、戦車、装甲車、対空車両の配置もいい。お互いの兵器が弱点をカバーしたすばらしい車列じゃないか。これは、池袋まで行けるんじゃないか?」
その時、ヴァロンに行動不能のベルガンから通信が入る。
「ヴァロン!ベルガンだ!なんだこれは!地面は灼熱のマグマのようで思うように歩けん!しかも翼をやられて浮上もできん!サーチの映像情報も来ない!どうなってる!」
人間の予測不能な攻撃で、行動不能になったことでイラだつベルガン。神も聞いている通信にもかかわらず苛立ちが伝播する。
「落ち着けベルガン。それは人間の高温特殊砲撃の影響だ。荒川から池袋の範囲すべてが、そんな状況だ。お前は耐熱性能が高いので無事だが、周囲の同胞は全滅した」
「はぁ?全滅?クソがぁぁ。ん?サーチはサーチもやられたのか!!!!」
「安心しろ、高高度を飛行していたため直撃はしていない。だが、熱波と閃光、加えて轟音で感覚器官にダメージ。いまは神の城へ帰還中だ」
「サーチがダメージ?うおおああああ!人間ッ!矮小《わいしょう》な存在でありながら、神に作られた特別な我らを害するなんて!万死に値する!」
このやり取りを見ていた神は、一つの遊びを思いついた。
「ベルガン。俺だ。後方のガーゴイルをお前のもとに向かわせる。そいつに薬を持たせておくので飲むといい損傷が修復され飛べるようになるだろう。そのまま、そのガーゴイル5万の指揮をとり、ポイント122付近へ迎って敵の進軍部隊を壊滅せよ」
通信を切ると神はヴァロンに話しかけた
「指揮を代行してすまなかったな。ただ、このまま池袋まで無難に到着されてもつまらないだろ?秋葉にいるガーゴイル5万をベルガンの指揮下に入れて戦わせたら面白そうじゃないか」
そういうと、何もない空間から緑色の液体の入った瓶を生み出した。
「これがベルガンの修復材。まぁ破損した部分を自動的に補うエーテルの塊だけどね」
手元に出した瓶を、そのまま宙になげると瓶は煙のように消えてしまう。
「これで秋葉のガーゴイルに渡したので、あとは戦況を見守ろう。おっと、今回はベルガンのターンだからね、ヴァロンは余計なことは言わないでよね」
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
30分後
ベルガンのもとに、薬を持ったガーゴイルと5万のガーゴイルがやってきた。薬を飲むとベルガンの翼はボロボロと崩れ去る。また皮膚などに受けた損傷部分もパリパリと音を立てて崩れていった。その直後、緑の光が損傷個所を包み込み、新しい翼、新しい皮膚がベルガンにあたえられた。
「これが神の力。うおおおおおおおおお!」
勢いよく浮上すると、5万のガーゴイルに指示を出す。
ポイント122へ向かう。100体の分隊を10分隊作成しろ、本隊の前に出て障害を排除するんだ。
残りは3万の1部隊編成で先行する。先行する100体分隊へ続け、万が一100体分隊で欠員がでたら増援に入り、100体分隊を維持しろ。
残った1万9千は後方の俺と来い、敗走する雑兵を掃討する。一人も生かして返すな!
指示を出すと、隊列を形成しベルガンは自衛隊の車列の先端に向かって行動を開始した。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
居城デスランド。
ヴァロンは驚いていた。
「あのベルガンが指揮を。翼が回復したら怒りに任せて全軍突撃コースかと思いましたが・・・」
神も楽しそうだ。
「だろ?筋力重視の個体だが知能だって小隊長個体よりも高い。激情していても最低限の冷静さは持っていたな」
「ま、ヴァロンに比べたら分隊の組成も、陣形も稚拙《ちせつ》極まりないがな」
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
10分後、ベルガンの指揮する100体分隊の視界は、自衛隊の車列を捉えた。
ベルガンは細かい指示を出す。
「まずは高度100mに2分隊。300mに2分隊、残りは50mに分かれろ、左右の間隔あけて陣形を整えろ!」
すぐさま、100体分隊が陣形に合わせる。
「よし、高度100m隊は滑空しつつ、ブレスで攻撃しろ!30秒後に、50m隊が滑空開始、さらに30秒後に300m隊が滑空開始」
「これでブレスに気を取られた人間を、上空から高速攻撃しつつ、低空から大量のガーゴイルが襲う。人間の車列に潜り込み混乱しているところへ、3万が増援。これで壊滅だ。敗走するだろうが、それは俺たちが全て殺し、神の力を思い知らせてやる!」
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
3分前。自衛隊早期警戒車両
「UFBの大群を発見。約3万。指示をーー」
これを聞いた仲原は無線を取る。
「連隊長。本命が来ましたね」
「ああ、三佐の作戦に移行する。戦車部隊に次ぐ発光弾用意!早期警戒車両は後方のレールガンに座標を送れ!大まかでいい!」
仲原は自分の作戦に自信はあったが、それでも不安は隠せない。
「連隊長。彼らは高度を上げて滑空で速度を上げてくるでしょうか?」
「来るさ。先ほどの攻撃で、遠距離攻撃を警戒するはずだ。ならどうする。速度を上げるために高度を上げて滑空するしかない。だが高度を上げた瞬間に、発光弾を撃つ。これで再びヤツラは光に飲まれ視界を失う。そうなれば高速滑空は不可能。そこへ後方のレールガンから高熱の特殊弾を再度叩き込む。半分、1万~2万はこれで消滅だ」
数分後
「UFBの先方が分隊に分かれ、高度300、100、50に移動しました!」
足立は読みが当たってやや興奮気味に
「来るぞ!発光弾発射」
25式戦車から再び、真夏の3倍の光量の発光弾が空中に放たれる。すべてが光の中に溶けて視界は失われる。
「UFB移動速度減少。視界を奪いました」
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
同時刻 ベルガン
落ち着き始めた空に再び閃光が走る。
「くそ!何も見えん!滑空中止!同胞と衝突するぞ!」
「人間の対応が早い!ワナか?いったん引く、後退!!」
ガーゴイルが転身しようとしたその時、聞き覚えのある発砲音が聞こえる
「ドドドドドド」
ほぼ同時に、あの雨、灼熱の雨が降り始めた。
高度300mにいた部隊は瞬時に消滅。
100m、50mも数秒遅れて消滅した。
その後ろにいた3万の部隊は2万が消滅、残り1万もダメージを受けていた。
かろうじて後方にいたベルガンの部隊だけが残された状態だった。
「この攻撃。何度も何度も同胞を忌々《いまいま》しい!だが、今回は違う。俺が!このベルガンが無傷で残っている!」
「残兵を本体に戻せ!人間達はこの攻撃で再び、俺らを一掃したと思っている!そこを突く!」
「1km後退!高度20まで降下し、待機。今度はこちらが待ち伏せしてやる!!」
発光が消え、夜が戻る。闇の縁で、逆襲の弓が静かに引き絞られていた。