2025年10月14日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑱ 大規模攻勢_10_終結》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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内閣シェルター作戦司令部


防衛大臣の大仲《おおなか》晴彦《はるひこ》は、私有シェルターに取り残された民間人を救出すべく、最新鋭の装備を備えた救出連隊「通称:R連隊」の報告を聞いていた。


報告はR連隊の隊長、足立《あだち》昭介《しょうすけ》からの無線で行われている。


「大仲大臣。足立です。不測の事態が発生し、王を取り逃がしました。しかし、周辺のUFBは全滅。再度私有シェルターの救出を再開可能な状況です。ご判断を」


突如出現した、UFBの王。足立と仲原三佐のプランにもない存在だった。ところが彼らは準備していたプランを流用し、これを見事に追い詰めた。


彼らは「取り逃がした」というが、正体不明の敵対生物と交戦し、敵の王を退けたことは大きな功績といってよい。


だが、犠牲が多すぎた。王の熱線による奇襲で前衛の半数を失い、作戦全体としての無事帰還は約30%にとどまっている。この状況での判断は1つしかない。


「撤退してください」


大仲は冷静に告げる。


足立の隣にいた仲原《なかばら》香《かおり》三佐が無線に割って入る。


「大臣! 人命救助のチャンスです。最低でもこの地域に拠点を作ることを進言します!」


すぐに足立が無線を取り返す。


「大仲大臣。足立です。私も仲原三佐を支持します。この好機を活かさなければ死んだ仲間が浮かばれません」


大仲は一瞬だけ、隣に座る津田議員に視線を向ける。


津田は黙って首を横に振っていた。


「駄目です。敗走した王は自尊心が傷ついているはずです。もしUFBに感情があるとすれば、王を傷つけた自衛隊に怒りの反撃を試みるでしょう。そういった意味では、今の安全は一時の静けさ――台風の目のようなものです。すぐに撤退を始めてください。これ以上自衛隊を失えば国有シェルターの防衛や、東京以外の地域の国防に影響が出ます。わかりますよね?」


それでも仲原三佐は引かなかった。


「敵の弱点は把握しました。再度攻撃を受けても撃退してお見せします。ですから拠点だけでも作らせてください!」


大仲は少し沈黙すると、声のトーンを落として小さく告げた。


「実は、先ほどの王の熱波攻撃以降、私有シェルターとの通信が切れたのだ。光回線・銅線・非常波長の順で再試行し、近傍ビーコンも確認したが応答なし。熱波によるケーブル焼損か、施設損壊の可能性が高い」


それを聞くと仲原三佐はさらに語気を強める。


「ならばなおさら――」


その言葉を遮ったのは足立だった。


「了解しました。残存部隊を集め撤退します」


「隊長! 何でですか!」


「確実な人命救助なら俺も前に出る。だが、この状態は違う。もし手遅れだった場合、残存兵力では撃退できたとしても確実に犠牲が出る。大仲大臣の集めたこのR連隊は各地方の防衛ラインに配属されている最新鋭部隊だ。これ以上失うことは国防にかかわる。確実ではない人命救助に対してリスクが高すぎる」


足立の握る拳に仲原は心情を察した。そして自身もまた、国防と不確実な人命救助を天秤にかけ、足立の発言に反論することはできなかった。


自衛隊は即座に再集結すると、埼玉の防衛ラインまで後退した。あれほど多くの最新鋭の兵器が出立したその場所に、無事に帰還できたのはおおよそ30%。また損傷している車両、隊員も多く、この国は忘れかけていた戦の凄惨さを思い出すこととなった。


それでも埼玉シェルターでは凱旋パレードが行われた。


メディアは自衛隊を英雄と称えた。


レポーターのマイクにも感情が乗っている。


「私有シェルターには至りませんでしたが、我が国の自衛隊はUFBの王をあと一歩まで追い詰め、撃退しました。今まで一方的に侵略されていた我が国が、侵略者に対して大規模攻勢を成功させたのです! 勇者の凱旋です!」


内閣広報室は、治安安定化のため戦果の要約のみを公表する方針を決定。強い情報統制の下で、自衛隊側の損失は一切報道されていない。事実として多くのUFBを倒したこと、そして王と対峙し、撤退させたこと――その部分だけが国民に伝えられた。


また凱旋パレードに参加した兵器も、最新鋭装備は出さず、国民が知る型のみが形式的に並べられた。


そのパレードの車列に仲原三佐と足立の姿もあった。


「隊長。これはプロパガンダですよね。実際はほとんど敗走に近いのに」


そういうと、虚しそうに喜ぶ国民を見つめる。


「そうだな。だがこれも仕事だ。世論次第では大仲大臣の議員生命も危うい。世論を徹底的に味方に付けるんだ。ほら、笑顔笑顔!」


足立は乗っていた装甲車のハッチから顔を出し、敬礼して国民に勝利をアピールした。


この光景にSNSは懐疑的だった。


<< ドローン部隊が全然いなくね? >>

<< 勝利? シェルターには行けなかったのに? >>

<< なんで王を追い払ったのに、手ぶらで帰ってきたの? 馬鹿なの? >>


辛辣なコメントが並ぶ。

だが、そのコメントも政府が準備した「賞賛チーム」のポジティブコメントで上書きされていく。


<< 大勝利!! >>

<< あの総理を説得し、勝利をもぎ取った大仲大臣すごい! >>

<< なんか自衛隊が頼もしくなった >>

<< 賛否はあるかもだけど、スピード感はあった >>


それを見る大仲大臣と津田議員は複雑な表情であった。本当は戦死した隊員に最大の感謝と賛辞を送りたい。だが、そこに注目してしまうと国民感情が不安定になり、治安の悪化になりかねない。


大仲は戦死者・行方不明者リストを見ながら、ひとりひとりの家族に宛てて感謝の意と追悼の気持ちを記した手紙を書こうと心に決めていた。


数日後、王との戦いを分析していたチームから報告が入り、大仲は自身の決断が正しかったと確信した。


超高性能偵察ドローンのカメラが恐ろしいモノを捉えていた。


女性のような姿をした未知のUFBが映っていたのだ。この個体は高速で上空から白いシールドを展開しつつ王に接近し、熱源の尾を残してそのまま王を連れ去った。


王のような特殊な個体は、王ひとりではなかった。その真実は自衛隊に大きな衝撃を与えた。


誰かがこの個体をこう呼んだ――「女王」。

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