2016年4月11日月曜日

【オリジナル小説】 子供使い。(こどもつかい) -後編-

こんばんわ。管理人の緑茶です。

 「子供使い」の後編を掲載します。 前編は登場人物が少なかったので、父親・母親・子供と
 表現しましたが、後編は登場人物が増えるので、名前で表記している部分があります。
 
 父親:哲雄(てつお) ※設定のみで名前での登場はありません。
 母親:良子(りょうこ) 
 子供:圭吾(けいご)

では、目に余る酷い行動をとる母親に対して、父親がとった行動とは一体
何なのか、後編で明らかになります。

ーーーーー

後編

 その日から、数年間父親は「ある人物」を探しつつ必死にお金をため始めました。
 
  そして、ついに父親は人物を探し出して、テーマパークで決めた覚悟を実行に移すときが
 やってきました。

 決行当日。

 父親は、母親と息子を車に乗せて山奥の旅館に来ていました。
 
 「なんなのよ!急に旅館で家族会議したいなんて!めんどくさい!」と悪態をつく母親を
 よそに、父親は語り始めました。

 「良子、お前結婚前は、そんなんじゃなかったよな?思いやりがあって、優しくて、家庭的
  だった。どうして急に変わってしまったのか自分でも不思議にならないかい?」
 
 「あのね。女は結婚するまでは「女子」出産するまでは「妻」その頃までの女はね「イイ女」を
  演じるのが仕事なの。でもね、子供が出来たら「母」であり「親」なんだ。だから今は
  「母親」を演じてるんだよ。他人に遠慮していたら生きていけないのよ!」

 「やはりそうか。」

 予想どおりとばかりに、納得する父親に少し母親がイラ立ち始めます。

 「は?」

 目線すら合わせず、懐疑的な表情の母親に向かって、父親は話を続けます。

 「実は、俺はここ数年、良子の過去を追って来た。良子のお母さんや古いクラスメイトなん
  かにあってね。」

 「あんた。なにキモイことしているの!!」
 
 視線を急に父親に向け、激しい表情で睨み付ける母親。それでも父親は冷静に続けます。

 「絶対におかしいと核心したんだ。僕が結婚して子供を授かった良子とは人格が違いすぎる。
  良子は「演じている」と言っていたけれど、そいうレベルではなく人間の本質まで変わる
  のは絶対におかしいと思ったんだ。」
 
 「なに?じゃぁ離婚する?妻が変わっちゃたので、捨てまーすって慰謝料沢山貰うわよ」
 
 「馬鹿をいうな。結婚式で誓ったろ「その健やかなるときも、病めるときも共に」ってさ」
 
 「ふぅん。じゃあ何?キチガイ認定して病院にでも入れるつもり?」
 
 完全にケンカ腰の母親に向けて、父親が一枚の写真を見せました。
 初老の男性で丸いメガネが時代を古さを感じさせます。
 
 「まぁ、聞きなよ。この人覚えているかい?」
  
 「これは・・・、見覚えがあるような・・・随分昔にあったような」

 「あってるよ。良子が小学生のときに。」

 「この人が何なのさ?」
 
 「この写真の男は、西村と言ってね」
 
 「西村さん、西兄だ!思い出した!」
 
 「この男、良子に沢山の本を見せてくれなかったかい?」
 
 「え?ええ。西兄は児童書作家さんで、色んな本を書いて見せてくれたわ」
 
 父親は、ズバリと言わんばかりに母親を指差すと声を一回り大きくして言います。

 「その本さ。すべてはその本が原因。」

 「は?なによそれ」

 母親は父親が何を言いたいのか理解できず、不意を突かれたような顔をしています。

 「西村は、記録こそないが一度逮捕されている。」
 
 「え?」

 「昔は沢山居ただろう、いわゆる「思想家」ってやつ。こいつもその一人。」

 「戦争を終えて豊かになっていく日本に危機感を覚えて、軍国思想を広めようとした男
  だよ。」

 「そんな・・・でも、普通の本だったわよ」
 
 「見た目はな。この西村という男の思想を広める手口が【禁書】だよ」
 
 「禁書?」

 父親から発せられた非日常的な禁書というキーワードに母親は少し興味を持ちました。

 「そう。禁書ってのは、当時の政府や世論に否定的で発売禁止や閲覧そのものを禁止に
  された本。しかし中には「読むことで人生観が一変してしまうような心理作用のある
  危険な本
」も含まれている。」

 「この危険な、禁書のロジックを利用して、比較的思想に染まりやすい児童向けに
  書き直していたのが、この西村だよ」
 
 「良子は今でも自分を「子供使い」って言うだろ?その単語自分で考えたのか?」
 
 「そうよ」

 「違うね。これを見てみなさい。西村の書いた児童向け禁書の表紙が写った写真を
 撮影したモノさ。さて題名はなんて書いてあるか読めるかい?」
 
 「こどもつか・・い・・

 「つまり良子は、小学生時代に思想家の作った「軍国思想」を深層心理に
  埋め込まれた。これが、良子が子供が出来て突然変わった本当の理由さ」

 「ウソでしょ・・・。私・・どうすれば・・?」
 
 「残念だけど、十数年も前に埋め込まれた深層心理を今更、変えるのはムリだろう。だが
  手はあるよ」
 
 「何?」
 
 「禁書による深層心理操作の発動条件は、おそらく「自分の子供」だろう。だから、子供を
  手元から手放す。現実的に言えば、全寮制の私立に行ってもらおう」

 「そんなお金・・・」
 
 「大丈夫!お金は工面したさ。というわけで、俺は良子に優しい「妻」に戻って欲しい。
  だから圭吾。お前は、私立の中学へ行け。これが家族会議の内容だ」
 
 「圭吾・・・」
 
 「僕なら大丈夫だよ。ちょっと速い親離れだと思えば平気だよ!それより僕は「妻を演じる
  母さん」を見てみたい!」
 
 「よし、決まりだな。俺の長い探偵ごっこもコレで終了!圭吾、来月入試だ!頑張れよ」
 
 「わかった!」
 
 こうして、母親は子離れをすることになりました。
 
 一方数日後、父親と息子はとあるクリニックにおりました。

 「先生!うまく行きました。息子も1年前から入試に向けて勉強してますから、まず入学
  できるはずです。」
 
 この先生とは、実は「子供の虐待を扱うメンタルクリニック」の医師。

 「作戦成功ですね。子育てのストレスから母親が攻撃的になることは珍しくありません。
  ムリに戻そうとすると反発しますから、お子さんが中学生になる節目を狙って子離れ
  させることで、ストレスを開放してやれば、自然と治りますよ」


 実は、父親が探していた人物は「精神科医」だったのです。母親になったとたんにあんなに
 横柄になるのはおかしいと考えた父親は「子供の虐待」を専門に扱う名医を探していたの
 です。

 全ては父親・息子・精神科医による「母親救出プログラム」だったというわけです。
 
 「先生が書いた、禁書のシナリオって事実なんですか?」
 
 「あはは。どうでしょうね。ようは子離れの切っ掛けを作るのが目的でしたから。
  今回は、旦那様が調べて下さった母親の【本当に体験した過去】を脚色してリアリティを
  出しました。」

 先生は少し苦笑いし、少々間をおいて一言付け加えました。

 「幼少期に覚えたことは人格形成に大きく関わりますが、本で2,3度読んだ程度で
  人格が変わっていたら、世の中洗脳し放題ですけどね。」
 
 「それもそうですね。あ、この禁書の偽造写真はどうすればいいですか?」
 
 「ああ、そういうモノは後で母親が冷静にみると、疑いを持つ可能性があるので、こちらで
  処分しましょう。母親には禁書の写真だから燃やしたとでも言ってください。」

 「分かりました。ありがとうございます。旦那さん、圭吾君、5年間よく頑張ったね」
 
 「いえいえ、先生のおかげです。ありがとうございます」

・・・6年後・・・・

 大学生になった、圭吾が戻った実家には、見たことのない「優しい母親」が待って
 おりました。もはや「子供使い」の面影はなく「子供大好き」に変わっておりました。

ー完ー 

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