2018年6月10日日曜日

異世界転生 ~転生したら世界の終りまで残り5分でした~

働き方改革。素晴らしい制度だった。会社に残ることを規制され
自宅で自由に好きなだけ仕事ができる。

素晴らしき世界。しかし私は死んだ。寝食を忘れ趣味である仕事に
没頭し倒れて果てた。

悔いはない。

ふと、神の啓示を受ける。

神の声「転生しますか?」

俺は首を横に振る。いやだねめんどくさい。生きるなんて本当に
めんどくさい。静かに穏やかに眠れるのならそれがいい。

仕事なら生前十分にやったじゃないか。もう悔いはない。

神の声「そんな事を言ってはなりません!転生しますか?」

しつこい神様だ。

睨みつけてやろうと思ったが、あたり一面真っ白で何もない。いや
これは白という色でもないただの光の塊だ。

とりあえず、自分の意思はハッキリ言う。それが信条だ。
例え相手が上司でも、取引先でも俺はNoと言える人間なのだ。

ハッキリと示す「NO」であると。

だがその意思は神には聞こえてもいないらしい。

神の声「では、転生するという事でよろしいでしょうか?」

何が何でも転生させたいらしい。
ならば問わなければよい。命令すればよい。社畜に対して絶対的な
効力を持つ「業務命令」で「転生しろ」と言えばよい。

神ならば命令したらどうですか?神に暴言を吐くように挑発してみた。
 
これで「業務命令」となれば断るのは容易い「退職」すればよいのだ。
業務命令は雇用関係によって成立する。ならば関係を絶てば命令は無効
であるとスジが通る。

神の声「自分の意思で転生するのです。では転生しますか?」

しつこい。なんだこいつ。

もう一度声を大にして答える「NOである」

神の声「では、転生するという事でよろしいでしょうか?」

先ほどと全く同じ質問に違和感を覚える。気がかりを解消すべく言い方を
変えてみた。

物腰柔らかく、神を敬う感じにしてみた。
「俺は転生はしません。他を当たってください。」

間髪入れずに返答が帰ってきた。

神の声「そんな事を言ってはなりません!転生しますか?」

これは間違いない。この神。いやポンコツはバグっていやがる。
なんて答えても絶対に転生以外のルートを選べないこれは交渉の方向を
変えたほうが良さそうだ。

転生してもいいけど、直ぐに終わる人生でお願いします。

神の声「よかった。これでノルマが達成できる。」

え? ノルマ?

まさかのノルマ制に驚く間もなく俺は異世界に生まれ落ちた。
空には赤く染まる大きな太陽。

どうみても、誰が見ても世界の終りだ。

5分後。一言「オギャー」と泣いて再び果てた。
 
ふと、神の啓示を受ける。

神の声「転生しますか?」

嘘だろ…こいつ、もしかして俺を転生させて点数を稼ぎ速攻で
殺してまた転生させる気なのか・・・・?

面白い。その業務受けてやろう。

直ぐに転生した。目の前には巨大な蟲。5分ほど父らしき人物に抱えられ
逃げまどい父ごと食われた。
 
ふと、神の啓示を受ける。

神の声「転生しますか?」

受けて立つ。

気が付くと空を舞っていた。5分ほど落下を続けてペシャンと果てた。

こうなったら神の持つ終焉のバリエーションを視させてもらおうと
ちょっとやる気になった。

ところが・・・

神の声「定時になりました。本日の業務は終了です。」

は?なにそれ?

神の声「いやー。働き方改革で神様も残業禁止でさ、それでもノルマは
減るわけじゃないから、今日は助かったよ。お礼に天国のイイところに
飛ばしてあげよう。ホィ」

ホィじゃねーよー!お前も社畜かよー!と俺は最期の言葉を神に投げつけた。
ま、寿命5分の永久ループよりはマシか。天国のイイ所とやらが楽しみに
なったところで俺の自我は薄れて消えた。

ー完ー

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