2025年6月22日日曜日

片田舎のおっさん、剣聖になる(終) レビュー

 <あらすじ>

片田舎で細々と道場を営む中年の剣術師範、ベリル・ガーデナント。

かつて剣の高みを目指していた日々は遠い過去となり、今では落ち着いた暮らしを送りながらも、その鍛錬の成果によって「片田舎の剣聖」と呼ばれるまでの腕前に至っていました。


<レビュー>

物語のクライマックスでは、ベリルが王権と宗教の対立に巻き込まれ、自らの弟子と戦うことになります。そして、王から「聖剣」として認められることで、ひとつの区切りを迎えました。


本作の特徴は、いわゆる“無双系”作品でありながら、主人公ベリルが「偽りの謙遜」ではなく、「本心からの謙遜」を貫く点にあります。

彼は常に控えめでありながらも、「おっさん」としての決断力や人生経験に裏打ちされた落ち着きを随所で見せ、戦いを避けながらも必要な場面ではしっかりと行動に出ます。その姿勢が、作品全体に安心感と説得力を与えていました。


戦闘シーンは非常に緊張感があり、ただの力任せではない「技」と「知恵」による戦いが魅力的です。

相手の戦闘スタイルや癖、間合いを読み、状況に応じてスピードや体術を柔軟に使い分けるなど、ベリルならではの老練な戦い方が描かれており、「異常な身体能力」や「派手なスキル演出」で押し切るタイプの無双作品とは一線を画しています。まさに“静かな凄み”といった印象です。


また、恋愛要素や子育て要素といったサブストーリーもよく練られており、作品全体の味わいを深めていました。

特に、ミュイとの同居生活では、食事のシーンが幾度となく描かれ、それが二人の関係の変化を自然に伝えてくれました。

戦い以外のベリルの人間としての成長が表現されていたのも、本作の魅力の一つです。


恋愛的な描写としては、アリューシアがベリルに想いを寄せている様子が描かれましたが、ベリル本人は気づくことなく、アリューシア自身も「彼が幸せになるのであれば自分でなくてもいい」と語る場面がありました。彼女の本心がどこにあるのかは視聴者の想像に委ねられていますが、恋愛が大きく進展することはなく、余韻を残す形になっています。


なお、本作は2期の制作がすでに決定しているため、こうしたヒロインたちとの関係性については、今後さらに掘り下げられることが期待されます。


とはいえ、タイトルにもある「片田舎のおっさん、剣聖になる」というテーマは、1クールの中でしっかりと描き切られており、非常に満足度の高い締めくくりとなっていました。

ラストの静かな余韻も含め、心に残る作品だったと思います。


「派手さ」よりも「深み」で魅せる、静かな熱量に満ちた異色の無双作品でした。

ベリルという主人公の在り方が物語全体に芯を通し、見ごたえのある戦闘と人間味に満ちた日常描写が高い完成度で融合していました。

続編となる2期が、今から楽しみです。




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