2025年6月3日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅳ《復讐ⅱ 前編・後編》(6/10:後編を追加)

弁護士である私は、あの日の記憶を繰り返していた。



——神災。

空が裂け、黒いモヤが都市を包み、人々が焼かれ、逃げ惑い、倒れた。


あの日、私は二人の国会議員とともに、訴訟に関する打ち合わせをしていた。

騒動が始まるとすぐにSPが議員を近くの国有シェルターへ誘導を始めた。

同席していた私もこのシェルターへ同行を許され、命を拾った。


シェルターは外見は大きめの雑居ビル。地上部が3階あり屋上にはヘリポートもあった。

3階は「通信室」と「ヘリの備品の格納庫」、2階は「いくつかの会議室」と「大ホール」、1階は「侵入者に備えた検疫施設」

地下は5階もあり、こちらが本命らしい


このシェルターですべての生活が完結する、国有シェルターの1つだった。


本来なら、この施設は国会議員とその親族のみが入れる。彼らの指紋が登録されておりパスワードを入力すると

その指紋を読み取り、指紋とパスワードが一致するとシェルターの扉が開く仕組みだ。


私が到着したときには、議員の親族が数名程、先に避難していた。


その中に「婆様」と呼ばれる老婆がおり、どうやら議員の母親で議員を含む親族の仕切り役として

議員以上に厚遇されていた。


やがて、続々と議員の他の家族もやってきた。その頃はまだ秩序があって、議員とその家族以外の人間

つまり私のような部外者も、同行していればシェルターに入ることができた。


だが、生存者の救助で扉を開けるたびに怪物に襲われる危険があり、二日目からは完全に閉鎖された。


そして議員の「婆様」を頂点とする一族は当然のように、私やSPたち、そして初日に逃げ込んできた数十人の一般人を下僕のように使い始めた。


私は不安になって懇意にしていた議員に尋ねた。

「もし私の家族がこの近くにいたら、シェルターに入れてもらえるだろうか?」


シェルターの収容定員は250名。200人以上の余裕があった。

だが返答は、冷たく「No」だった。


扉を開ければ怪物が入り込む可能性がある。一般人のために銃弾の浪費は許されない——それが、彼らの線引きだった。

この議員の汚職を法廷で無関係の人物に擦り付け、助けてやった恩は感じていないらしい。


次に、一族を束ねる「婆様」に同じことを訊いた。

彼女は考える素振りもなく「開ける利点はない」と言い捨てた。


私は「婆様」にも過去に恩を売っていた。彼女の孫が半グレを殺したとき、「事故死」として無罪を勝ち取った。だがその記憶もないらしい。


——恩など、もはや価値を持たない。私は確信した。


三日目、老婆の指示でシェルター内の区画整理が行われた。

危険な地上部を一族以外の避難区域とし、私たちはそこで寝起きすることになった。


地上階には空調もなく、建物の外では怪物の咆哮と人々の断末魔だけがこだましていた。 SPすらも動揺を隠せず、恐怖と憔悴《しょうすい》で暴動が起きるのは時間の問題だった。


そのとき、衛星通信が奇跡的に信号を拾い、携帯電話が使用可能になった。監視当番だった私は、真っ先に妻や愛人にショートメールを送った。

「麻布の金物センターへ来い。シェルターがある」

それだけだ。


すると、妻と、数人の愛人から返信があった。

それぞれ、自分の位置とシェルターまでの所要時間が書いてあった。概ね数時間後に到着するようだ。


だがこのままでは、到着してもシェルターの扉は開かれない。

そこで私はあるSPに話を持ちかけた。

「このままでは恐怖で暴動が起きる。SPであるお前たちは議員やその一族を守らねばならない。だが相手は数十人の一般人だ。混乱すれば、SP側にも死傷者が出る。お前たちはそれでも命令に従って死ぬのか?それを避けるためには、一族から主導権を奪うしかない」


SPは少し相談すると。

「報酬次第では、協力してもいい。先生のような“交渉のプロ”が指揮を執るなら、むしろ安心できますよ」

と快諾した。どうやら、弁護士として鍛えた交渉術が功を奏した。


——こうして私は、SPを掌握した。


議員たちは、SPに騙されて地下へ誘導され、監禁された。 彼らは知恵も話術もあり、万が一この場を切り抜ければ、SPたちを再度掌握し、私の支配を覆しかねない——その危険性があった。


老婆も同様に排除すべき対象だった。

一族の象徴としての立場をもち、彼女の言葉は民衆の心を一つにまとめる力を持っていた。

私がこの場所を制圧し、王として君臨するためには、彼女の存在はあまりに大きすぎた。



しかし、老婆は疑り深く応じなかった。

時間が過ぎる中で、先に監禁した議員の姿がみえないと、異変を察知しはじめた。

徐々に「婆様」とその一族がざわつき始める。


ーー駄目だ。話術では「婆様」に勝てない。それならーー


私は武力制圧を決断した。 「老婆の足を撃ち抜け。護衛の男も関節を外して無力化しろ」


乾いた銃声。悲鳴。混乱。


空気は一瞬にして塗り替えられた。

それは、支配者の交代を告げるようだった。


だが老婆は、まだ声をあげた。

「冷静に!我らは名門の血族。選ばれし者だ。恐怖に屈するな——誇りを持て!」


その言葉に、一族の目が輝きを取り戻しかけた。


私は強い焦りを感じた。ここで老婆に場を支配されれば、再び一族が団結してしまう。


「ババアを殺せ。婆様の一族の男は全員射殺しろ」


SPは淡々と動いた。

あのうるさい「婆様」の額に丸い穴が開くと、目から赤い液体が噴き出した。

同じように、一族の男たちも、あっという間に崩れ落ちた。


「死体は外に捨てろ。議員の目に触れさせるな。ババアの一族の女や子供も全員目撃者だ。シェルターの外へ追い出せ」


反論の声はなかった。


扉の前で、一人の少年が振り返った。

鋭い眼差し。殺意に満ちた目。


その母親が同じ目をして吐き捨てた。 「婆様の無念は忘れない。生き延びて、お前の家族、友達、すべてを皆殺しにしてやる」



この目を法廷で何度か見た。狂人の目だ。失うことを恐れず、冷静に計画的を練って目的達成のために手段を択ばない狂人の目。


——直感が危険信号を送る


私は直ぐにSPにインカムを通じて指示を出した。


「外に出たらすぐ殺せ。見逃すな」


数時間後、私の家族が次々とシェルターに到着した。もちろん外の死体は怪物に殺されたと説明した。


家族を救出し、排除すべき一族がいなくなったあと、私が最も警戒すべきは監禁している議員たちの反撃だと考えていた。

彼らは言葉で人を操る力を持っている。もしSPたちが議員側につけば、この王国の支配は崩れる。そうなれば私の家族が危険だ。

その危険を未然に防ぐため、SPたちには遠隔操作式の小型爆弾を首に装着させた。


首に爆弾を装着されたSPたちは、ただ黙って頷いた。


連絡が付いたすべての家族が到着した頃、私はようやく地下1階にあった応接室の高級なソファーに腰を下ろす。


——俺の王国が、完成した。


そして、第四日目が明けた。

(後編へ続く)

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6/10 : 後編をアップするタイミングがないので、前編の後ろに後編を追記しました
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人類アンチ種族神Ⅳ《復讐ⅱ 後編》

その衝撃は、突如「ドン」という爆音とともに始まった。

建物全体が横に揺れ、弁護士は即座にSPを連れて警備室へ向かった。

「どうした、何があった?」

警備当番が答える。
「突然、外部扉の温度が急上昇し、破損しました!」

——外部扉が? 厚さ30センチ、核攻撃にも耐えるはずだ。

「内部扉は?」「すでに破壊されています。怪物が侵入中、保護扉はまだ健在です」

「よし、保護扉の内側の隔壁を閉じろ。時間の問題だ」

警備当番が不安を漏らす。「隔壁の強度では時間稼ぎにも……」

「だからこそSPを配置する。隔壁を背にして357マグナムで迎撃すれば、奴らに避ける場所はない」

SPの一人が口を挟む。「弾が心もとないですよ。全弾使い切るかも」

「構わん。3人は隔壁へ。残りは私に同行しろ」

弁護士は全館放送で告げる。
「怪物が侵入。隔壁を閉鎖し、SPが排除に当たる。一般人は隔壁の外に退避せよ」

警備当番にも避難を命じ、自らは地下3階へと向かった。

◆ ◆ ◆

その頃、ガーゴイルたちは攻撃準備を整えていた。

「こちらヴァロン。ファイアバレット再発射まであと120秒。サーチ、警戒を続けろ」

上空から索敵するサーチは、ベルガンの攻撃力に興味を抱いていた。
自分にはない能力。直撃を避けられるか、無力化できるか。計算が止まらなかった。

そして120秒後、2発目のファイアバレットが発射された。
轟音が空を震わせる。

◆ ◆ ◆

一方、地上のベルガンは満足していた。今度の任務は“手応え”がある。

1枚目の扉を破壊し、2枚目の耐熱扉は鉄骨を剣代わりにして突破。

次の保護扉も、再びファイアバレットの出番だ。

2発目を撃った直後、内部から357マグナムの銃弾が降り注いだ。
高熱で立ちこめた蒸気が視界を奪う。
ベルガンは崩れた扉の陰に潜み、息を殺した。

——通常のガーゴイルには真似できない行動だ。

やがて蒸気が晴れた。
3人のSPが、静寂に気を緩めた瞬間だった。

ベルガンは中央のSPに飛びかかり、心臓を貫く。
その身体を盾に突進し、右のSPの頭を尻尾で砕き、左のSPの喉を切り裂いた。

ー最高だ。
たった、4秒の戦闘時間にベルガンは手ごたえを楽しんでした。


◆ ◆ ◆

だが、余韻を楽しむ時間もなくヴァロンから次の指示が入る。

「周囲に隠れている一般人は無視していい、地下3階にいる弁護士を確保しろ」

地下3階のホールの扉を破ると、待ち構えていたSPがサブマシンガンを撃ち込んできた。

だが、広い空間ではベルガンの機動力が勝る。一瞬でSPは無力化されてしまった。

弁護士が逃げようとしたので、ベルガンは順次に首根っこを掴んだ。

直後にサーチが現れ、拘束を引き継ぐ。

場の掌握が完了したとき、ヴァロンから連絡が入った。

「ベルガン、サーチに次ぐ。神がそちらへ転移される」

その言葉にベルガンの背筋に瞬間的に緊張が走る。サーチも同様に顔から余裕がなくなった。

その時、神がその場に現れた。何もない空間からまるで煙のようにふわりと姿を出した神は弁護士に話しかけた

「久しぶりですね。覚えていますか?……まあ、昔の面影はありませんか」

神は弁護士にフレンドリーな口調に、冷たい笑みで語り掛けた。

「誰だ、お前……ストーカーを憎んでた女の知人か? 政治家の遺族か?」

「違いますよ。まあ、誰でもいい。今から法廷を開きます。被告はお前の家族と愛人。裁判官は私、弁護人はあなたです」

ベルガンが扉を開け、一人の老婆を連れてきた。

「一人目の被告。あなたの母。罪状は、息子の教育に失敗したことです。異議は?」

弁護士が口を開こうとした瞬間、サーチが指を折る。

「ぎゃあああっ!」

それを見た髪は、少々高揚した声で宣言する。

「異議なしとみなします。死刑」

母の首が切り落とされた。

次に、不貞行為の罪で愛人が処刑された。

さらに妻と娘が連行されると、弁護士は絶叫した。

「やめろ! 二人だけは!!」

神は一段と高揚した声で告げる。

「異議がありますか? 10秒以内にどうぞ」

弁護士は、さらに指を折られてもここだけは譲れないという、つよい感情で異議を叫ぼうとした
しかしその瞬間、サーチが弁護士の右目を潰す。

「目、目が、ああああああ!」

神はふざけてたように時間を告げる

「10秒経過ー」

だが余りの痛みに弁護士には届かない。
神はその様子を満足げに見下しながら告げた。

「15秒待ちました。これは確実に異議なしでいいですねー。死刑!」

ベルガンは二人の即座に頸椎を砕く。おそらく二人苦痛を感じる間もなく、その命が散った。

「さて、残りの被告はまとめて処刑。異議は?」

弁護士は、もはや言葉を発せなかった。

「では、執行」

ベルガンはヴァロンからブレス焼き払えと指示を受け、黙って実行する。
ファイアバレットではなく、普通の炎。だがその高温は部屋を瞬く間に灰に変えた。

神は弁護士を見下ろす。
「お前は法律という暴力で同じことをしてきた。弱者の気持ち、少しは理解できたか?」

そして最後にこう告げる。

「お前は殺さない。だが、生き延びた先で再び守りたいものを得たとき……また、この法廷を開きに来る」

神は煙のように消え、ガーゴイルたちも姿を消した。

復讐は完了した。

——第Ⅰ章・第2部、完。
(次回、第3部「神の軍勢 vs 国家」へ)




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