2025年6月24日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決④ 救出》

 神災《じんさい》から27日が経過した。


前日の閣議決定でこの日、私有シュエルター救出部隊が設立された。


隊長は足立《あだち》 昭介《しょうすけ》である。


簡易的な結成式典で大仲大臣が壇上に立つ。


「みなさん。今回は急な招集に応じていただきありがとうございます。今、私有シェルターに取り残された人々は飢えや、渇き、燃料問題に苦しんでいるかもしれません。

 みなさんの、お力でどうか彼らを救出していただきたい。」


「ですが、私は私有シェルターの皆様と同じくらいに、自衛隊の皆様にも損害を出さないようにしていただきたい。命さえあれば、何度でも救出に挑戦できます。

 どうかこの私の思いも忘れずに、今回の任務にあたってください」


大仲が壇を降りると、副隊長・仲原《なかばら》香《かおり》三佐が代わって前へ。


「本隊は救出部隊であって討伐部隊ではない。指示を誤解するな」


そう釘を刺すと、兵器の編成を発表した。


「偵察ドローン ×20 機 + ドローン母艦(ベース)×1

 二七式自走レールガン ×3 / 二七式戦車(特装)×2

 特殊耐熱装甲車 ×2 / 耐熱輸送車 ×3

 二七式迫撃砲 ×1

 人型パワーユニット(二足歩行)×2」


「以上 8 種類 の最新装備、要員五十名。質問は?」


「すべて陸路で、航空支援は……?」


「航空機はこのエリアで計器異常が頻発する。原因不明。よって陸路のみ」と仲原。


この発表に隊員がざわつく


「27式ってどれも最新鋭じゃないか」

「人型パワーユニットは秘匿兵器じゃないか」

「国内に3台しか存在しないドローンベース(ドローンの母艦)が配備されるのか!」

「自分レールガンを見るの初めてです」


「質問はないな。次にルートを説明する。我々は埼玉シェルターのDゲートから地上へ出る。国道17号で荒川を渡り、池袋付近のシェルターの救出。救護者は輸送車に乗せそのままDゲートへ帰還する。

 昨日の索敵では、このあたりは怪物も少なく、本隊の戦力で制圧は可能と判断している」


「その後、輸送車の後退を荒川まで援護し、再び進軍、新宿、渋谷と行軍する。なお、この辺りは地獄のど真ん中だ。避けたいところだがシェルターも多い。一日目の行軍は以上である。質問はあるか?」


「つまり航空支援のない代わりに戦車と自走砲で進路を切り開いて進めと。その為の最新鋭兵器ですか・・・」


「そうだ。これらは1台1台が各地方の切り札として配置されていたものだ。大仲大臣が職権を行使して無理やり集結させたものだ。我が国の陸戦兵器の最新鋭はここに集結している。 諸君の働きにも期待している」


そういうと、中原はひな壇を降りた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


6時間後


荒川付近


「隊長。偵察ドローンが怪物を発見しました。数7です」

「誘導レーザー照射。レールガンとリンクしろ」

「ドローン1、飛行中の目標の1体に照射しました。」

「よし、撃て!」


キィィィィン。電圧の高まる独特の音がする。その直後、ドンと音速を突き破る衝撃がはしる。


「弾着確認。目標を粉砕しました」


一撃で怪物を破壊する威力に隊員たちから思わず声が上がる。


「すごい」

「これはいけるぞ!」


「ドローン1、飛行中の次の目標に照射完了」


キィィィィン。ドン!


「弾着確認。この目もを粉砕しました。しかし、のこり5体は高度が低く、射線がとれません」


「ふむ。リンクを迫撃砲に切り替えろ」


迫撃砲は放物線を描くため、遮蔽物があっても攻撃が可能なのだ。


「ドローン1、地上の目標の1体に誘導レーザー照射しました。」


「27式発射!」


ボゥン


レールガンとは違い、低く火薬特有の爆発音が響く。


「弾着確認。・・・土埃が酷いな・・・」


数秒の沈黙があたりを包む


「目標粉砕!こちらの威力も十分です!」


「おおおお!!!」


主力兵器の活躍に部隊は沸いた。その時


「隊長!8時の方向より怪物接近!数2。はやい!接触まで20秒」


物陰からガーゴイルの奇襲を受ける。


「人型展開!!時間を稼げ!!総員車両に退避!!」


人型のパワーユニットが8時の方向を向く。しかし、携行サーベルを構える前にガーゴイルはユニットを強襲。


そのまま空高く持ち上げて50mほど上昇し、ユニットを地面にたたき落とす。


「うあああああぁぁぁ・・・・」

「ザザッザザッ」


一瞬で途切れた悲鳴と無線で、状況は伝播した。


落下した破片が、車両に退避しようとしている兵士を襲う。


その混乱を狙ったように、ガーゴイルが急降下し、混乱を極める部隊を蹂躙する。


ーー全滅する。


誰もが思ったその時、戦車の機銃が味方の死体ごとガーゴイルをハチの巣にする。


撃ったのは中原副隊長だ。車中で待機していた彼女は、味方の状況を即座に判断すると、2体のガーゴイルが近づいた瞬間を狙い

まとめて機銃で薙ぎ払った。


それを見た足立隊長は声を荒げる


「まだ生きていた隊員もいたかもしれないのに、何故撃った!1発目2発目は威嚇、3発目から当てろと習わなかったのか!」


「隊長!これは実践です。威嚇なんてしていたら全滅していました。確かに生きていたかもしれません。ですが全滅とどちらを選ばれますか?」


「どちらも選ばん!仲間の犠牲を出さずに敵を無力化する方法を考えるのが士官だアホたれ!」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


同時刻・地下、防衛省指揮所。


地下司令室。モニターには赤い “重要事項” の文字。


大仲は無線越しの報告に目を閉じた。「生存 35うち負傷 11、死亡15 以上」


近くにいた官僚が思わず声に出る。


「出撃から6時間で、最新鋭機の精鋭部隊が・・・」


隣席の幕僚が囁く。「いえ、正体不明の相手です。想定より被害が少ない、という見方も……」


官僚たちの動揺に大仲が声を上げる。


「撤退。即時撤退だ!」


これまで以上に険しい表情に、誰もが大仲の心情を察し冷静を取り戻した。


この日、50名の隊員のうち15名を失い、救出作戦は荒川を渡ることなく失敗に終わったのであった。

2025年6月22日日曜日

片田舎のおっさん、剣聖になる(終) レビュー

 <あらすじ>

片田舎で細々と道場を営む中年の剣術師範、ベリル・ガーデナント。

かつて剣の高みを目指していた日々は遠い過去となり、今では落ち着いた暮らしを送りながらも、その鍛錬の成果によって「片田舎の剣聖」と呼ばれるまでの腕前に至っていました。


<レビュー>

物語のクライマックスでは、ベリルが王権と宗教の対立に巻き込まれ、自らの弟子と戦うことになります。そして、王から「聖剣」として認められることで、ひとつの区切りを迎えました。


本作の特徴は、いわゆる“無双系”作品でありながら、主人公ベリルが「偽りの謙遜」ではなく、「本心からの謙遜」を貫く点にあります。

彼は常に控えめでありながらも、「おっさん」としての決断力や人生経験に裏打ちされた落ち着きを随所で見せ、戦いを避けながらも必要な場面ではしっかりと行動に出ます。その姿勢が、作品全体に安心感と説得力を与えていました。


戦闘シーンは非常に緊張感があり、ただの力任せではない「技」と「知恵」による戦いが魅力的です。

相手の戦闘スタイルや癖、間合いを読み、状況に応じてスピードや体術を柔軟に使い分けるなど、ベリルならではの老練な戦い方が描かれており、「異常な身体能力」や「派手なスキル演出」で押し切るタイプの無双作品とは一線を画しています。まさに“静かな凄み”といった印象です。


また、恋愛要素や子育て要素といったサブストーリーもよく練られており、作品全体の味わいを深めていました。

特に、ミュイとの同居生活では、食事のシーンが幾度となく描かれ、それが二人の関係の変化を自然に伝えてくれました。

戦い以外のベリルの人間としての成長が表現されていたのも、本作の魅力の一つです。


恋愛的な描写としては、アリューシアがベリルに想いを寄せている様子が描かれましたが、ベリル本人は気づくことなく、アリューシア自身も「彼が幸せになるのであれば自分でなくてもいい」と語る場面がありました。彼女の本心がどこにあるのかは視聴者の想像に委ねられていますが、恋愛が大きく進展することはなく、余韻を残す形になっています。


なお、本作は2期の制作がすでに決定しているため、こうしたヒロインたちとの関係性については、今後さらに掘り下げられることが期待されます。


とはいえ、タイトルにもある「片田舎のおっさん、剣聖になる」というテーマは、1クールの中でしっかりと描き切られており、非常に満足度の高い締めくくりとなっていました。

ラストの静かな余韻も含め、心に残る作品だったと思います。


「派手さ」よりも「深み」で魅せる、静かな熱量に満ちた異色の無双作品でした。

ベリルという主人公の在り方が物語全体に芯を通し、見ごたえのある戦闘と人間味に満ちた日常描写が高い完成度で融合していました。

続編となる2期が、今から楽しみです。




2025年6月19日木曜日

機動戦士ガンダム Gundamジークアクス(一部レビュー)

<あらすじ>

宙に浮かぶスペース・コロニーで平穏に暮らしていた女子高生・アマテ・ユズリハ。彼女は、ある日現れた謎の少女・ニャアンと出会ったことで、非合法なモビルスーツ決闘競技《クランバトル》の世界へと巻き込まれていきます。

「マチュ」というエントリーネームを名乗ったアマテは、専用機「GQuuuuuuX ジークアクス」を駆り、熾烈なバトルの日々に身を投じることになります。


<レビュー>

本作は、1stガンダムの世界とは異なる“別世界線”を描いた新しいガンダム作品です。ファーストガンダムの象徴的な要素を一部受け継ぎつつ、まったく新しいオリジナル要素を大胆に組み込むことで、独自の世界観を築いています。


第1話はオリジナルの時間軸で物語がスタートします。戦争終結後の静かな始まりから、非合法のモビルスーツバトル《クランバトル》に至るまで、段階的に世界観を紹介していく構成です。しかし、この作品の真価が発揮されるのは第2話からだと感じます。


2話では、ファーストガンダム第1話の展開を大きく改変し、アムロがまったく活躍せず、ガンダムとホワイトベースがまさかのシャアによって鹵獲(ろかく)されてしまいます。さらに、ガンダムは赤く再塗装され、赤い機体として新たに登場しますが、直後に謎の現象により焼失。以降は、緑色に再塗装された旧ホワイトベースのみが“1stの名残”として残る形になります。


このような予想外の展開は、新規ファンにとっては斬新に映り、旧作ファンにとってもインパクトのある構成だと感じました。1話で大胆なオリジナル要素を示し、2話で懐かしいキャラクターと設定を登場させるという二段構えの構成が、非常に巧みに機能している印象です。


また、1stガンダムの名物キャラたちが、令和の高精細なアニメーションで当時と変わらないキャラクターデザインのまま登場している点も魅力的です。キャラデザインに関しては、本作オリジナルのキャラクターと、1stから継承されたキャラクターが明確に描き分けられており、まるで異なるアニメ作品のキャラが1つの世界に共存しているような、不思議な視覚効果もあります。


作画や演出も非常に力が入っており、展開スピードも目を見張るものがあります。次々に新しい要素が投入されるため、「これは本当に1クールで収まるのか?」と不安になるほどの情報量と広がりを感じさせる構成です。


設定の奥深さや勢力構図の緻密さから考えると、むしろ4クール(1年放送)でも問題なく構成できるだけの下地がありそうです。それほどまでに本作の世界観は広く、しかも物語の進行が早いため、視聴者は常に集中して物語を追わなければ置いていかれてしまうほどです。


今回のレビューでは、1話・2話を中心とした「さわり」の紹介に留めておりますが、間もなく迎える最終回を経て、改めて全体を通した総合的なレビューをお届けしたいと考えています。


『Gundamジークアクス』は、ファーストガンダムの伝統を引き継ぎながらも、大胆かつスピーディーにオリジナリティを展開していく、熱量の高いガンダム作品です。

ガンダムシリーズファンはもちろん、新規のアニメファンにも強くおすすめしたい、今期注目の1作です。



2025年6月18日水曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決③ 野党vs野党》

神災《じんさい》から25日が経過した。


防衛省の大臣である、大仲《おおなか》 晴彦《はるひこ》は野党の攻勢に苦しんでいた。


ーー早く国民を安全な場所へ避難させないと。

ーーしかし、今や避難民は10万人になっている。


人口140万人の大都市東京。あの大災害で10万人もの人々が国有シェルターに避難できたのは、大仲大臣のスピードのある政策と的確な意思決定の成果である。

だが皮肉にも、この人数が避難先の選定に大きな影を落としていた。


ーー1万でも、2万でもいい。受け入れ先はないのか。


大仲は、あらゆる分野の受け入れ先と調整をしていたが、数万人の単位の避難先となると簡単にはみつからない。

そこへ追い打ちをかけるのが野党「帝都復権党」の掲げる「地上奪還論」だ。


SNSの巧みに使い、大仲を弱腰と揶揄《やゆ》し、世論の大きな流れとして「避難よりも奪還」という風潮が時間とともに増していた。


国会答弁では野党第一党である「立国平和党」が地上奪還案を野党内で提案を取りまとめ中という形で、帝都復権党の攻勢を抑えてくれているが、世論も地上奪還に流れていく中で苦しい国会が続いた。


この日、ついに帝都復権党の舞岡議員が立国平和党の制止を無視して切り込んだ。


「大仲大臣。もうすぐ災害からひと月が立ちますよ。いつまで国民を地下に閉じ込めておくつもりですか?」


大仲も切り返す。


「シェルター内の状況は安定しています。自警団方々の協力もあって治安もいい。食料も燃料も十分にあります。

 そのうえで、やはり県外への脱出も必要ですから、受け入れ先と調整をしています。

 まずは、医療が必要な方を率先して2日後に脱出できるように、受け入れ先の病院が必死にベットを準備してくれています」


先ほど調整がついた内容をカードして切りかえす。病院の確保について、この数日で調整できたことは、昼夜を問わない大仲と官僚たちの成しえた奇跡にも近い。


だが、舞岡は止まらない


「医療が必要な人を逃がす。そんなの当然ですよ。では大臣、その他の多くの避難民について、いつ、どのように脱出できるのでしょうか?」


「舞岡さん、まさに今、その調整をしています。シェルターには10万人もの人々がいるんです。安全にかつ、継続的に避難できる場所、避難ルートには慎重になるべきです。

 先ほど申し上げたように、シェルターは安定しています。国民の安全を考えるのも私の仕事だと認識しています」


「そうでしょう。10万人の避難なんて難しいのです。ですから大臣、私たち帝都復権党が最初から申し上げたように、地上奪還が最も現実的で優先すべき課題ではありませんか?」


すかさず立国平和党の津田が割り込む


「舞岡さん、その計画は立国平和党と帝都復権党で提案書を作成している最中です。ここで大臣に提案しても大臣も判断に困ると思いますよ。提案書をもって、別途議論しませんか?」


野党第一党の党首である津田の心証を悪くして提案書が遅れることを危惧した舞岡はトーンを落とした。


「わかりました。では、最後に一言だけ大臣に進言をして答弁を終えます。」


「大仲防衛大臣、自衛隊のレールガンは何のために開発したんですか?地下鉄の防衛に100両近い戦車は必要ですか?東京にある歴史的な建造物、私有のシェルターに取り残された人々は放置ですか?

 防衛大臣というのは避難誘導係でしょうか。国土を防衛しないんですか?以上です」


この発言は中継を聞いていた神災を受けていない地域を中心に、大きな共感を生んだ。


「弱腰大臣」「地上奪還」「自衛隊は国土を守れ」と地方の国民が声を上げ始め、大仲の活動に支障をきたすほどであった。


当初は形だけの「地上奪還計画案」を作成する予定であった立国平和党も、ある程度まじめに取り組まざるをおえない状況に追い込まれた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


翌日の国会。



まずは、大仲が現状を説明。


続いて津田が地上奪還計画に切り込んだ。


「帝都復権党の皆様と協議している地上奪還計画についてお話します。大仲大臣はずっと県外脱出をお考えでしたが、私はこれが実際の避難民の皆様のご希望なのか、この点についてずっと疑問でした。

 普通に考えて、住み慣れた土地を捨てて知らない土地に避難をするのは誰だって心配があるのではないでしょうか?」


この切り出しに、帝都復権党が前の面りに声を上げる。


「そうだ!」

「シェルターの人々の気持ちも考えろ!」

「地上を奪還するしかないだろう!」


だが津田の奇策に絶句することになる。


「この3日間、3つのシェルターの避難民の方々に私を含め、立国平和党の議員が現地の声を聴いてきました」


「私は驚きました。どのシェルターの幅広い年齢層、しかも性別を問わない皆様が、大仲大臣をとても高く評価されているんです。皆さん避難生活に不満はあるそうです。ですが、それ以上に

 大仲大臣への感謝の気持ちが大きいと。我々の調査では他県への脱出に対して賛成75%反対20%無回答5%という結果です」


「また脱出するとしたらどれくらい待てるか?という質問には3ヵ月が一番多く、中には無期限でもよいという意見もありました。明日ですか。医療が必要な人が避難できれば、健康な大多数の方の避難には

 少し時間がもらえるということが分かりました」


思わぬ援護に大仲は内心驚いていた。野党第一党の津田はいわば与党で大仲の最大のライバルであった。

だが、津田も単なる擁護ではおわらない。


「ただ、地上の奪還に関しては、期限を定めずにしてほしいという声が80%以上ありました。ですから、私は大仲大臣の進める脱出計画と、平行して地上奪還案も時間をかけて精査していくことで

 確実性があがると思います。どうですか大臣?」


事実上の地上奪還計画の「延期」である。


この発言に舞岡は声を上げずにはいられない。


「津田さん。何を言ってるんですか?早々に地上を奪還しないと、私有シェルターの人々が死んでしまいますよ!津田さんまで弱腰でどうするんですか!!」


無断発言に議長から注意を受ける舞岡を横目に津田が手を挙げてマイクに立つ。


「私有のシェルターについては、確かにそうですね。私も少し配慮が足りておらず、捕捉します。地上の奪還と私有のシェルターの救出は別軸で進める方向で大臣には考えていただきたい。

 私有ですので、何日分の備蓄があるのか。耐久性の詳細も分かりません。国民の救出は自衛隊の任務であり、これは流石に大臣にも早急にご対応いただきたいと思います」


こうして、地上奪還計画は「延期」、救出計画のみ早急に実行というシナリオが成立した。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


帝都復権党 控室──本会議終了直後


「舞岡さん!なんで延期に同意したんですか!!」


帝都復権党のNo2の議員が早々に詰め寄った。


「せざるを得ない!反対したら津田は必ずいうぞ ”帝都復権党の支持基盤である富裕層を助けたいだろ”ってな」


「そんなこと全国中継で言われたらウチも、支持者も大損害だ。うちらの都合で自衛隊を動かすように受け止められたら選挙も大敗決定だ!」


その言葉に帝都復権党の議員も、苦々しい顔で見つめあった。


ーーこの代償は必ず払わせるぞ。津田ぁぁ


舞岡の怨念が控室にこだまするようだった。


2025年6月17日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決② 野党の追及》

神災《じんさい》から20日が経過した。


防衛省の大臣「大仲 晴彦《おおなか はるひこ》」の大胆でスピード感のある政策の効果もあり、東京の生存者は私有のシェルターに避難している富裕層と、国有シェルターに避難している一般人。そして政府の閣僚や事務次官があつまる内閣シェルターに分かれて生き延びていた。

 

ガーゴイルは東京23区を中心に無数に地上と上空にはいかいしている。そんな状況でも、地下鉄に関しては自衛隊によって治安は守られ、申請すればシェルター間の往来も許されていた。


目先の脅威が去ると、大仲大臣への野党議員の追及が本格化してきた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


内閣シェルターにて答弁が行われていた。


質問しているのは、野党第一党「立国平和党」の党首「津田 一郎《つだ いちろう》」だ。


「まずは大仲大臣。スピード感のある避難対応について、私個人として非常に評価すべきだと感じております」


「その前提でお話ししますが、大切なことは持続可能であることであります。各シェルターにあと何日くらいの食料、燃料が残されているのかご回答ください」


大仲はまっすぐに手を挙げると、マイクに立つ。


「その件について、何日という期限はお伝え出来ません。なぜなら、食糧も燃料も日々、自衛隊の皆様、そして民間の方々が補充していただいており、変動しているからです。一つ言えるのは、その補充がすべて止まったとしても最低10日間の備蓄は各シェルターにあります。食料が必要としている人に食事を届ける。これについてはどのシェルターについても十分に対応可能であります」


再び津田が質問する


「では大臣、埼玉のシェルターも十分に備蓄があると。あのシェルターは一度破棄されたものを修繕して使用しています。食料も燃料も全く備蓄されていなかったと思いますが、改善されたと認識してよいですか?」


「はい。埼玉については当初こそ食糧が不足気味ではありました。しかし埼玉の商社の方、農家の方、一般の方から本当に多くのご支援をいただき、今では他のシェルターと同等の備蓄を行っています。これには大臣として、協力していただいた全ての方に感謝を申し上げたいと思います」


質問者の津田は、わずかに笑みを浮かべ少しうなずくと質問を終えた。備蓄状況については津田も事前に知っていた。これは"あえて"追及という形で大臣に答弁を迫り、国民にシェルターの状況を知らせ、安心させる津田流のパフォーマンスであった。


次に野党「帝都復権党」の「舞岡 幸三《まいおか こうぞう》」の質問だ


「大仲大臣はスピード感を重視したといいますが、その結果として地下鉄の駅に向かう途中に多くの国民が命を落としています。自衛隊を地上に派遣して、地上にも避難経路を作らなかった責任をお聞かせください」


再び大仲が回答する


「大臣である私が、決断し権限の下でおこないました。当然責任は私にあり、その一つとして今、説明責任を果たしています」


舞岡は声を大きくして追及する。


「では説明してください。見殺しになった国民への責任はどう取られるおつもりか?」


この攻撃的な質問にも大仲は屈しない。


「見殺しといいますが、どこから避難してくるのか予測もできない状況でした。その状態でむやみに自衛隊を地上に出せば、地上は危険な状態ですので、自衛隊にも被害がでる恐れがありました。それに、これは後から自衛隊員から聞いて驚いたのですが、自衛隊の皆さんは地下鉄の入り口で待機して、避難民を見つけた場合は、危険を顧みず地上へ出て地下鉄へと誘導したそうです。私は、防衛省の担当大臣として、彼らを代表しているわけですから、彼らの勇気ある行動を称賛《しょうさん》することはあっても、見殺しにしたという認識には断固否定します。」


舞岡はそれでも勢いを止めない


「あなたが地下鉄へ避難を促したばかりに、隠れていた場所から移動して死亡した人も沢山いる。それを称賛するなんて理解できません。では質問を変えます。リスクを負ってシェルターに避難した人々ですが、ずっとこのままとはいきません。地上の奪還はどうされるお考えですか?」



「舞岡さん、奪還というのはつまり自衛隊を地上へ出す計画があるかということでしたら、計画はありません。シェルターの方々は時期を見て県外に脱出していただくつもりです。今、一番大切なのは地上の奪還ではありません。生き残った人々の命であります」


「それはご冗談ですよね?大臣の発言は未曽有の災害に直面したら、東京を捨てるということですよ?東京に資産を持つ人、思い出のある人、なによりもこの国の首都をテロリストに明け渡せというのでしょうか?」


この言葉に呼応するように「帝都復権党」の議員たちが声を上げる


「そうだー」

「首都だぞ、首都!」

「皇居を放棄するんですか!」

「無責任すぎるぞ!」


一気に過熱する議場。


「静粛に!」


議長が静止をかけるが「帝都復権党」のヤジは止まらない。


すると先ほどの津田が手を挙げてマイクに立った。


「野党を代表して申し上げます。地上の件ですが。これについては私も思うところはあります。今、「立国平和党」の党内で提案をまとめています。よろしければ「帝都復権党」の皆様もご参加いただき、作成しませんか?」


野党第一党と協力を組める。この美味しい話に「帝都復権党」は直ぐに乗った。


「では、大仲大臣、地上については我々「立国平和党」と「帝都復権党」で提案を少し協議のお時間をいただきますが、お出ししますので、大仲大臣だけではなく、与党の皆様でこれを吟味していただければと思います」


こうして、議会は何とか終了したが、「帝都復権党」を中心とする地上奪還派が勢いを持つ結果となってしまった。



◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


立国平和党 控室──本会議終了直後



「……代表、いまの発言、党の了承は得ていませんよね?」


控室の空気が一瞬凍る。

言ったのは、一期目の若手議員・矢部(やべ)だった。

不安と苛立ちがまざりあった声。周囲の同僚も、どこか同調するように目を向けている。


津田は、テーブルの上の書類を手に取ると一瞬矢部を見て、すぐに視線を落とし椅子に腰を下ろす。

そして、ゆっくりと水をひとくち飲み、テーブルに戻した。


「……まぁ。これも政治だよ。」


それだけを言って、視線を矢部に返さない。

控室の空気がまた、ざわつく。

その沈黙を断ち切るように、ひとりの年配議員がゆっくりと立ち上がった。


「矢部君、そして君たちも。あの発言を“地上奪還の開始宣言”と受け取ってはいけないよ」


「……でも、あれじゃまるで、我々も計画を持っているように──」


「“持っているように見せる”必要があった、ということだ」


矢部が困惑を露わにすると、年配議員は歩を進めてそっと手を肩に置いた。


「舞岡議員は、党派を越えた復興協議の場を“自分の理想を語る場”にしていた。

 津田代表は、ああいう場で感情を煽られて政治が停滞するのを、何よりも恐れている。

 現場ではまだ自衛隊が必死に活動を続けている。時間が、命を左右することもある。そういうことだよ」


「でも……じゃあ、地上奪還は、やるんですか? 代表の言葉を信じた国民が──」


「“計画書”は作るさ。だが、中身のページは白紙でいい。

 ページ数と予算目録だけ、派手にしておけばそれで良い。

 あれは“見せる計画”だ。“やる計画”じゃない」



若手たちは黙り込んだ。

その言葉の重みを、それぞれの心で咀嚼《そしゃく》していた。


年配議員は落ち着いたトーンで咀嚼《そしゃく》を助ける。

「理想を語る時間が、現実を壊してしまうこともあるということだよ」



机の端で、津田は依然として書類に視線を落とし、何も言わなかった。

ただ静かに、一行ずつ赤ペンを走らせていた。

まるで、騒がしさなど聞こえていないかのように。


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編集後記:明日、定例外更新で対決③を掲載します。

2025年6月15日日曜日

片田舎のおっさん、剣聖になる 7〜11話(一部レビュー)

<あらすじ>

片田舎で道場を営むしがない剣術師範の中年男、ベリル・ガーデナント。

剣士としての頂点を目指した日々は遠い昔のこととなり、長年の鍛錬によって極めたその剣の腕は、今や“片田舎の剣聖”と称されるほどの領域に達していた――。


<レビュー>

今期の注目ファンタジー作品のひとつです。

前半では、年配の剣士である主人公が名だたる剣豪や魔法使いたちと戦い、圧倒的な強さを見せつける「無双展開」が続きました。しかし後半では、娘のような存在との同居生活が始まり、要人の護衛や国策への協力など、剣の実力だけでなく「剣聖」としての社会的な責務も担うようになってきました。


この手の無双系作品は、最初から最後まで力押しで進むパターンが多いのですが、本作では世界観を丁寧に広げながらも、主人公の「剣士としての強さ」という軸をぶらさずに物語を進めており、構成の巧みさを感じます。読者を引き込む力も十分にある作品だと思います。


今期のラストは、隣国における「宗教団体」と「国王軍」の政権争いに巻き込まれ、なんと宗教側の指導者が主人公の元弟子だった――という衝撃の展開で終わりそうです。


また、伏線として騎士団の女団長との恋愛の可能性や、娘の成長、魔法系勢力との戦いなどが残されたままなので、ぜひ第2期でこれらのエピソードを描いてほしいと期待しています。


なお、本作ではまだ主人公が正式に「剣聖」と名乗る場面は登場していません。ラノベアニメでは「とりあえず1クールやって終わる」作品も多く見られますが、できることなら最後まできちんと描き切ってほしいと思わせる完成度の高い物語です。


CGを上手に活用してはいるものの、アクションシーンが多く作画の負担も大きそうなので、仮に2期が決まったとしても、制作にはある程度の時間がかかりそうな印象を受けます。


とはいえ、時間がかかってもぜひ続きを観たいと思わせるだけの魅力があります。


単なるバトルものではなく、恋愛や日常も丁寧に描かれているため、ファンタジー作品がお好きな方には幅広くおすすめできるアニメです。




2025年6月12日木曜日

活動レポート 2025年5月

管理人の緑茶です。こんばんは!

 

今回は先月の活動レポートとなります。


【実績】

 

 作家関連のお仕事は・・・・0(ZERO!)

 今月も安定の0!(ZERO!)でした。


【雑感】

『レビューの話題』------------------

アニメ、ドラマ、ゲームと幅広いジャンルを掲載しました。特にドラマのレビューは難しさを痛感しています。アニメは絵や演出から制作者の苦労が想像できますが、一方不慣れなドラマについては役者のセリフや演技が台本通りなのかアドリブなのか判断しにくく、カメラワークもアニメとは異なる技術が評価されるのでレビューに苦戦しています。それらの点で、ドラマをレビューするにはもっと勉強が必要だと感じました。


『DQXの話題』-------------------

竜術士4人+海賊(応援要員)構成でVer.3フィールドにいるイーギュアなどの強敵に挑みました。すべてがドラゴラム一択のため、引ければ勝ち、引けなければ負けのシンプルな構成です。海賊の応援で必殺チャージ率が25%ほど上がり、3人以上がドラゴラムを放てる場面がありました。ただし全滅すると復帰に手間がかかるため、ネタとしては面白いのですが繰り返しにはあまり向いていない点もあります。


『Youtubeの話題』-----------  

小説連載が始まり視聴時間が減りました。主にUnreal Engine 5の技術系動画をチェックしています。ただし、中級以上の内容になると前提知識がある方向けになりすぎて、初心者にはついていきにくくなる印象です。一方で「みなみよつば」さんのRPGツクールMZ解説は初心者を常に意識していて非常に参考になっています。


『小説の話題』-------------------

「人類アンチ種族神」の連載を開始しました。数年かけた構想で、導入部は残虐描写を多めにしています。プロットでは性的描写も検討しましたが、今回は残虐描写に絞りました。2話完結型の予定でしたが、V話以降は少し長めの展開になります。人類側の描写も増え、読みやすくなると思います。


『その他の話題』-------------------

6月に入り、夏野菜の植え付け後半戦です。プランターは大きめにして、水分が飛びやすい季節に備えましょう。虫被害なら葉裏のチェックを忘れずに。手袋を使えば刺される心配も軽減できます。家庭菜園は物価上昇の対策にもなりますので、このタイミングで始めてみてはいかがでしょうか。


以上、5月の活動レポートでした。

今月もお付き合いいただき、ありがとうございました!


これからもズズズイッとよろしくお願いいたします!!

2025年6月10日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決① 防衛大臣》

神災から10日目、都心の地下シェルターで政府の対策会議が行われていた。


このシェルターは都内5か所にある、他のシェルターや他県のシェルターと光ケーブルで接続されていた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


その日、防衛省の大臣である真田 権蔵《さなだ ごんぞう》が国民に向けてメッセージを発信していた。



既にスカイツリーが機能していないため、放送は神奈川や大阪といった電波塔を持つ地域を中継して

全国民へ発信している。



真田は淡々と呼びかける。


「みなさん、落ち着いて行動してください。現在東京は謎の怪物。えー。我々はこれを“未確認飛来生物(UFB)”と呼んでおりますが、えー。現在情報を収集しており、対策を検討する準備の話し合いを始めようとしております。えー。東京都全域にUFBが確認されており、えー。都民の皆様におきましては、えー。お住いの地方自治体からの指示に従い、えー。最善の行動をとっていただきますよう、お願いいたします」


この放送はインターネットにもアップされ、SNSを中心に実質ゼロ回答と非難を浴びた。半日後に再度放送が行われ真田大臣から釈明はあったものの、その内容が「未曽有の状況であり、各人の判断が最良と言わざるを得ない」というもので、その発言が無責任すぎるとの批判をあおり、翌日には辞任に追い込まれた。


この有事に、担当大臣の辞任は政府にとって大きな打撃となり、総理は元自衛官という異色の経歴をもつ大仲 晴彦《おおなか はるひこ》を急遽後任に抜擢した。


議員としては、まだ若い48歳の大臣の誕生である。


大仲大臣は翌日には就任会見を開いた。


「昨日より防衛省の大臣に任命されました、大仲 晴彦《おおなか はるひこ》です。現在、我が国は危機的な状況にあります。昨日の就任から、つい先ほどまで夜を徹して事務方と優先すべき事項を話してきました」


「結論を申し上げますと、まずは国民。とくに被害の大きい首都圏で、今、この瞬間も救助を必要としている人を迅速に助けることが必要です!」


「経験のない国難に対し、軽率に動くべきではないという意見もあると思います。しかし私は大臣としてスピード感をもって対応することが大切だと思います」


「そこで、国の所有するシェルターを解放します。シェルターは2か所、神奈川県側と千葉県側にあります。詳しい場所は防衛省のホームページに、このあと、1時間後には掲載できる見込みです」


「シェルターの解放時期ですが、これも自衛隊のみなさんと、一部民間の皆様のお力でなんとか12時間後には、第一陣としてケガ人や高齢者、妊婦など緊急性がある方を各シェルターで10,000名ずつ受け入れられる見込みです」


「また、第一陣受け入れ後、6時間程度の準備を経て第二陣として、女性と子供を各シェルターで10,000名ずつ受け入れます」


「男性の皆様には大変申し訳ないのですが、まずは体力の少ない人々を優先することにしました。この件については私が大臣としての権限と責任をもって決断いたしました」


「男性の皆様には、少し遠いのですが埼玉県側に現在急ピッチで使用されていなかったシェルターの再整備を進めております。こちらは、地元の建設業者さまのご協力で、すでに作業が始まっており24時間後には解放できる見込みです」


「埼玉県側のシェルターの広さは十分にありますので性別、年齢問わず無制限に受け入れる準備を進めております。家族が離れ離れになるのがどうしてもつらい方は、ご家族でこちらのシェルターに避難してください」


「次に避難方法です。都内の地上部はUFB・・・みなさんの間ではガーゴイルと呼ばれる怪物が、数多く目撃されております。そのため、比較的安全な地下鉄に自衛隊を展開し、地下鉄網を避難ルートにできるよう昨晩から、地下鉄内のガーゴイルの排除を行いました。すでに幾つかのルートで安全が確保されましたので、まずは最寄りの地下鉄へ行き、自衛隊の指示に従っていただければ地上よりも数倍安全にシェルターまで移動できるように調整いたしました」


「医療体制や、食糧問題、抜本的なUFBへの対応などの課題はありますが、まずは緊急を要する方へスピード感を持った避難を優先したいと思います」


「以上を持ちまして就任会見といたします。今、私がお伝えした内容はこの後すぐに文字に起こして、防衛省のホームページおよび、私のSNSでも発信いたしますので、聞き取れない部分などございましたらご確認ください。」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


一礼して、大臣が壇上を下りようとすると、リモート参加の記者の一人が声を上げた。


「ヨウツベ新聞の田中と申します。大臣、避難優先順位についてですが、“女性と子供”を第二陣に含め、“健康な男性”を後回しにするとの方針は、性別による明確な線引きと受け取れます。これは現代の価値観において不適切ではないですか?」


会場が一瞬ざわつく。


だが、大仲は間髪入れずに返答した。


「不適切かもしれません。けれど、私は“助けられる命”を先に助ける決断をしました。議論している時間で、誰かが死亡するかもしれない。それが今の東京です」


「しかし、その線引きに納得できない男性もいます。命の価値に差をつけたと批判される可能性もありますが?」


「批判は承知の上です。命の価値に差をつけたわけではありません。体力、移動力、環境耐性を総合して、現時点で危険度が最も高い層を優先した。それだけです。全員を守れるよう尽力します。が、段階的対応が必要です」


別の記者がマイクをONにする。


「エックス新聞の今村です。地下鉄網の避難ルートは画期的ですが、すでに停電している路線もあります。通気や照明などインフラの確保はできているのでしょうか?」


「限界はあります。ただ、自衛隊が先行してポータブル電源と投光器、空調ファンを展開しています。完璧ではありませんが、屋外よりは遥かに安全です」


その直後、会見場の隅に控えていた防衛省事務次官が静かに近寄り、声を低くして耳打ちした。


「大臣、よろしいでしょうか」


「……ああ、何か?」


「このまま細かいシェルターの話に及ぶと、まだ調整中で実現性の乏しい部分に関しても言質を取られてしまいます」


「……わかってる。けれど、もう言った。やるしかない」


「大臣、それは政治的には無謀かと」


大仲は、しばし無言で次官の目を見つめて、少しだけ語気を強めた。


「“政治的に正しい”だけじゃ、子供は守れない。君も、それくらいはわかってるだろ?」


事務次官は目を伏せ、何も言わなかった。


この会見は国内に賛否を巻き起こした。


「政府は都民しかみていない」「地下鉄の駅に行けたら苦労はしない」といった否定的なものから「国有シェルターの稼働には前大臣が6か月かかると言っていたのにすごい」「地下鉄に戦車がいた。心強い」など肯定的なものまでさまざまな意見が飛び交ったが、この発言の時間よりも早く、実際には各シェルターに多くの人々が本当に避難ができる状態になり、大仲大臣は一定の評価を得るに至った。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


一方、シェルターの会議室では、野党関係者や他省庁から派遣された幹部たちがざわついていた。


「……勝手に決めすぎじゃないか?」


「確かに早いが、我々の確認もなく隠し玉の埼玉シェルターを公表するとは」


「そもそも“無制限に受け入れる”など、政治的なアピールにしても言い過ぎだ」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


だがその夜──


大仲のSNSには、地下鉄から避難した家族の感謝が次々に投稿された。


「赤ちゃんと一緒に地下鉄へ向かったら、自衛隊の人が助けてくれました」

「息子がケガをしていたのですが、担架でシェルターまで連れて行ってくれました」


その一つひとつの投稿が、大仲の表情を引き締める。


「──責任は取る。全部、俺が引き受ける」


誰にも聞かれないように、彼はもう一度自分にそう言い聞かせた。

2025年6月8日日曜日

【スイッチ2】マリオカート ワールド(レビュー)

奇跡的に抽選に当選し、初日からマリオカート ワールドをプレイできたので

自慢・・・もといレビューします。 

<概要>

2025年6月5日にNintendo Switch 2と同時発売された『マリオカート ワールド』は、シリーズ初のオープンワールド形式を採用した最新作です。最大24人でのレースや新モード「サバイバル」など、多彩な要素が追加され、従来のマリオカートとは一線を画す進化を遂げています。


<レビュー>

本作は、任天堂のフラッグシップタイトルとして、期待を裏切らないクオリティを誇っています。どの場面を切り取っても楽しさが溢れており、キャラクター選択やオンラインマッチング中、さらにはプレイ中も常にワクワク感が持続します。


特筆すべきは、周回プレイの中でも新たな発見がある点です。多彩なギミックやルートが配置されており、周回するたびに新しいルートを見つけたり、見た目が変わるアイテムを入手して使用可能なキャラクターが増えたりと、ユーザーを飽きさせない工夫が随所に見られます。


また、サバイバルモードでは、24台でのレースが可能となり、チェックポイントごとに下位の数名が脱落していく形式が採用されています。この新しいモードは、プレイヤーに緊張感と興奮を提供し、何度も挑戦したくなる魅力があります。


グラフィック面でも、Nintendo Switch 2の性能を活かし、美麗な映像と滑らかな動作を実現しています。特に、天候や時間帯の変化がリアルに表現され、臨場感あふれるレース体験を提供しています。


マリオカートというタイトルを消費するのではなく、さらに魅力を追加して付加価値をつけ、タイトルのもつ総合力を上げていく戦略は、ほとんどのソフトメーカーがビックタイトルの作品名を消費して売り上げを上げていく中で真逆の制作方式を取れるのは任天堂という組織の強みだろうと思います。


『マリオカート ワールド』は、シリーズの伝統を守りつつ、新たな要素を大胆に取り入れた意欲作です。オープンワールド形式や新モードの追加により、これまでのマリオカートとは一味違った楽しみ方が可能となっています。シリーズファンはもちろん、新規プレイヤーにもおすすめできる一作です。




2025年6月5日木曜日

【ドラマ】ジョフウ~女性に××××って必要ですか?~(終)(レビュー)

<あらすじ>

ひょんなことから“パラディーソ”という女性用風俗店の内勤として働くことになったアカリ(山崎紘菜さん)。最初は男性セラピストと女性客のマッチングに悪戦苦闘しながらも、「セックスレスを解消したい」「彼氏を含めて身の回りの男性に疲れてしまった」など、多様なお悩みを持つお客様に寄り添っていきます。個性豊かなセラピストたちと協力しながら、アカリ自身も少しずつ成長していくお仕事ドラマです。


<レビュー>

原作が未完のため、ドラマも完全な結末には至らず、「俺たちの戦いはこれからだ」風のエンディングとなっていました。


テーマが「女性向け風俗」ということで、地上波ドラマとしてはかなり攻めた内容ですが、アダルトビデオのような露骨な描写ではなく、ムードや言葉、心のつながりに重きを置いたシーンが多く、感情の流れに沿った丁寧な描写が印象的でした。演出は繊細で、女性視点から描かれていることもあり、官能的でありながらも安心して観ることができる作りになっています。


主演の山崎紘菜さんは、どこか新垣結衣さんを思わせる柔らかく自然な演技で、重くなりがちなテーマを明るくコミカルに包んでくれました。男性キャスト陣がイケメン揃いという中で、彼女がヒロインとしての存在感をしっかり放っていたのも見どころの一つです。


この作品は「女性向け風俗」を描いたものでありながら、むしろ男性にもおすすめしたい内容でした。というのも、基本的に女性視点で描かれているため、恋愛や接し方に不安を抱える男性にとって、異性との関係を考える一つの参考になるかもしれないからです。


特に最終話では、アカリが恋人との別れに心を病み、自らサービスを利用することで「風俗=性サービス」だけではない、心のケアとしての役割を強く印象づけました。この描写によって、女性風俗に対する偏見を和らげるきっかけにもなると思います。


また、全体を通して、「風俗に甘えすぎない」「距離感を大切にする」「ハマりすぎない」といったメッセージも込められており、利用を肯定するだけでなく啓蒙的な一面もきちんと描かれていました。


脚本は原作者のヤチナツさんの意見も反映されており、コミカルな作風です。しかし実際に女性風俗利用者への取材を重ねて制作されたこともあって、現実的かつリアルな人間ドラマとして描かれています。


タイトルから敬遠されがちな作品ですが、性に対する先入観を一度外して観てみると、「人との距離感」「心の癒やし」「働くことの意味」など、深いテーマが込められた良質なヒューマンドラマだと感じました。性別を問わず、18歳以上の方には一度観ていただきたい作品です。

※一定の性描写はありますので、18歳未満にはお勧めしません。



2025年6月3日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅳ《復讐ⅱ 前編・後編》(6/10:後編を追加)

弁護士である私は、あの日の記憶を繰り返していた。



——神災。

空が裂け、黒いモヤが都市を包み、人々が焼かれ、逃げ惑い、倒れた。


あの日、私は二人の国会議員とともに、訴訟に関する打ち合わせをしていた。

騒動が始まるとすぐにSPが議員を近くの国有シェルターへ誘導を始めた。

同席していた私もこのシェルターへ同行を許され、命を拾った。


シェルターは外見は大きめの雑居ビル。地上部が3階あり屋上にはヘリポートもあった。

3階は「通信室」と「ヘリの備品の格納庫」、2階は「いくつかの会議室」と「大ホール」、1階は「侵入者に備えた検疫施設」

地下は5階もあり、こちらが本命らしい


このシェルターですべての生活が完結する、国有シェルターの1つだった。


本来なら、この施設は国会議員とその親族のみが入れる。彼らの指紋が登録されておりパスワードを入力すると

その指紋を読み取り、指紋とパスワードが一致するとシェルターの扉が開く仕組みだ。


私が到着したときには、議員の親族が数名程、先に避難していた。


その中に「婆様」と呼ばれる老婆がおり、どうやら議員の母親で議員を含む親族の仕切り役として

議員以上に厚遇されていた。


やがて、続々と議員の他の家族もやってきた。その頃はまだ秩序があって、議員とその家族以外の人間

つまり私のような部外者も、同行していればシェルターに入ることができた。


だが、生存者の救助で扉を開けるたびに怪物に襲われる危険があり、二日目からは完全に閉鎖された。


そして議員の「婆様」を頂点とする一族は当然のように、私やSPたち、そして初日に逃げ込んできた数十人の一般人を下僕のように使い始めた。


私は不安になって懇意にしていた議員に尋ねた。

「もし私の家族がこの近くにいたら、シェルターに入れてもらえるだろうか?」


シェルターの収容定員は250名。200人以上の余裕があった。

だが返答は、冷たく「No」だった。


扉を開ければ怪物が入り込む可能性がある。一般人のために銃弾の浪費は許されない——それが、彼らの線引きだった。

この議員の汚職を法廷で無関係の人物に擦り付け、助けてやった恩は感じていないらしい。


次に、一族を束ねる「婆様」に同じことを訊いた。

彼女は考える素振りもなく「開ける利点はない」と言い捨てた。


私は「婆様」にも過去に恩を売っていた。彼女の孫が半グレを殺したとき、「事故死」として無罪を勝ち取った。だがその記憶もないらしい。


——恩など、もはや価値を持たない。私は確信した。


三日目、老婆の指示でシェルター内の区画整理が行われた。

危険な地上部を一族以外の避難区域とし、私たちはそこで寝起きすることになった。


地上階には空調もなく、建物の外では怪物の咆哮と人々の断末魔だけがこだましていた。 SPすらも動揺を隠せず、恐怖と憔悴《しょうすい》で暴動が起きるのは時間の問題だった。


そのとき、衛星通信が奇跡的に信号を拾い、携帯電話が使用可能になった。監視当番だった私は、真っ先に妻や愛人にショートメールを送った。

「麻布の金物センターへ来い。シェルターがある」

それだけだ。


すると、妻と、数人の愛人から返信があった。

それぞれ、自分の位置とシェルターまでの所要時間が書いてあった。概ね数時間後に到着するようだ。


だがこのままでは、到着してもシェルターの扉は開かれない。

そこで私はあるSPに話を持ちかけた。

「このままでは恐怖で暴動が起きる。SPであるお前たちは議員やその一族を守らねばならない。だが相手は数十人の一般人だ。混乱すれば、SP側にも死傷者が出る。お前たちはそれでも命令に従って死ぬのか?それを避けるためには、一族から主導権を奪うしかない」


SPは少し相談すると。

「報酬次第では、協力してもいい。先生のような“交渉のプロ”が指揮を執るなら、むしろ安心できますよ」

と快諾した。どうやら、弁護士として鍛えた交渉術が功を奏した。


——こうして私は、SPを掌握した。


議員たちは、SPに騙されて地下へ誘導され、監禁された。 彼らは知恵も話術もあり、万が一この場を切り抜ければ、SPたちを再度掌握し、私の支配を覆しかねない——その危険性があった。


老婆も同様に排除すべき対象だった。

一族の象徴としての立場をもち、彼女の言葉は民衆の心を一つにまとめる力を持っていた。

私がこの場所を制圧し、王として君臨するためには、彼女の存在はあまりに大きすぎた。



しかし、老婆は疑り深く応じなかった。

時間が過ぎる中で、先に監禁した議員の姿がみえないと、異変を察知しはじめた。

徐々に「婆様」とその一族がざわつき始める。


ーー駄目だ。話術では「婆様」に勝てない。それならーー


私は武力制圧を決断した。 「老婆の足を撃ち抜け。護衛の男も関節を外して無力化しろ」


乾いた銃声。悲鳴。混乱。


空気は一瞬にして塗り替えられた。

それは、支配者の交代を告げるようだった。


だが老婆は、まだ声をあげた。

「冷静に!我らは名門の血族。選ばれし者だ。恐怖に屈するな——誇りを持て!」


その言葉に、一族の目が輝きを取り戻しかけた。


私は強い焦りを感じた。ここで老婆に場を支配されれば、再び一族が団結してしまう。


「ババアを殺せ。婆様の一族の男は全員射殺しろ」


SPは淡々と動いた。

あのうるさい「婆様」の額に丸い穴が開くと、目から赤い液体が噴き出した。

同じように、一族の男たちも、あっという間に崩れ落ちた。


「死体は外に捨てろ。議員の目に触れさせるな。ババアの一族の女や子供も全員目撃者だ。シェルターの外へ追い出せ」


反論の声はなかった。


扉の前で、一人の少年が振り返った。

鋭い眼差し。殺意に満ちた目。


その母親が同じ目をして吐き捨てた。 「婆様の無念は忘れない。生き延びて、お前の家族、友達、すべてを皆殺しにしてやる」



この目を法廷で何度か見た。狂人の目だ。失うことを恐れず、冷静に計画的を練って目的達成のために手段を択ばない狂人の目。


——直感が危険信号を送る


私は直ぐにSPにインカムを通じて指示を出した。


「外に出たらすぐ殺せ。見逃すな」


数時間後、私の家族が次々とシェルターに到着した。もちろん外の死体は怪物に殺されたと説明した。


家族を救出し、排除すべき一族がいなくなったあと、私が最も警戒すべきは監禁している議員たちの反撃だと考えていた。

彼らは言葉で人を操る力を持っている。もしSPたちが議員側につけば、この王国の支配は崩れる。そうなれば私の家族が危険だ。

その危険を未然に防ぐため、SPたちには遠隔操作式の小型爆弾を首に装着させた。


首に爆弾を装着されたSPたちは、ただ黙って頷いた。


連絡が付いたすべての家族が到着した頃、私はようやく地下1階にあった応接室の高級なソファーに腰を下ろす。


——俺の王国が、完成した。


そして、第四日目が明けた。

(後編へ続く)

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6/10 : 後編をアップするタイミングがないので、前編の後ろに後編を追記しました
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人類アンチ種族神Ⅳ《復讐ⅱ 後編》

その衝撃は、突如「ドン」という爆音とともに始まった。

建物全体が横に揺れ、弁護士は即座にSPを連れて警備室へ向かった。

「どうした、何があった?」

警備当番が答える。
「突然、外部扉の温度が急上昇し、破損しました!」

——外部扉が? 厚さ30センチ、核攻撃にも耐えるはずだ。

「内部扉は?」「すでに破壊されています。怪物が侵入中、保護扉はまだ健在です」

「よし、保護扉の内側の隔壁を閉じろ。時間の問題だ」

警備当番が不安を漏らす。「隔壁の強度では時間稼ぎにも……」

「だからこそSPを配置する。隔壁を背にして357マグナムで迎撃すれば、奴らに避ける場所はない」

SPの一人が口を挟む。「弾が心もとないですよ。全弾使い切るかも」

「構わん。3人は隔壁へ。残りは私に同行しろ」

弁護士は全館放送で告げる。
「怪物が侵入。隔壁を閉鎖し、SPが排除に当たる。一般人は隔壁の外に退避せよ」

警備当番にも避難を命じ、自らは地下3階へと向かった。

◆ ◆ ◆

その頃、ガーゴイルたちは攻撃準備を整えていた。

「こちらヴァロン。ファイアバレット再発射まであと120秒。サーチ、警戒を続けろ」

上空から索敵するサーチは、ベルガンの攻撃力に興味を抱いていた。
自分にはない能力。直撃を避けられるか、無力化できるか。計算が止まらなかった。

そして120秒後、2発目のファイアバレットが発射された。
轟音が空を震わせる。

◆ ◆ ◆

一方、地上のベルガンは満足していた。今度の任務は“手応え”がある。

1枚目の扉を破壊し、2枚目の耐熱扉は鉄骨を剣代わりにして突破。

次の保護扉も、再びファイアバレットの出番だ。

2発目を撃った直後、内部から357マグナムの銃弾が降り注いだ。
高熱で立ちこめた蒸気が視界を奪う。
ベルガンは崩れた扉の陰に潜み、息を殺した。

——通常のガーゴイルには真似できない行動だ。

やがて蒸気が晴れた。
3人のSPが、静寂に気を緩めた瞬間だった。

ベルガンは中央のSPに飛びかかり、心臓を貫く。
その身体を盾に突進し、右のSPの頭を尻尾で砕き、左のSPの喉を切り裂いた。

ー最高だ。
たった、4秒の戦闘時間にベルガンは手ごたえを楽しんでした。


◆ ◆ ◆

だが、余韻を楽しむ時間もなくヴァロンから次の指示が入る。

「周囲に隠れている一般人は無視していい、地下3階にいる弁護士を確保しろ」

地下3階のホールの扉を破ると、待ち構えていたSPがサブマシンガンを撃ち込んできた。

だが、広い空間ではベルガンの機動力が勝る。一瞬でSPは無力化されてしまった。

弁護士が逃げようとしたので、ベルガンは順次に首根っこを掴んだ。

直後にサーチが現れ、拘束を引き継ぐ。

場の掌握が完了したとき、ヴァロンから連絡が入った。

「ベルガン、サーチに次ぐ。神がそちらへ転移される」

その言葉にベルガンの背筋に瞬間的に緊張が走る。サーチも同様に顔から余裕がなくなった。

その時、神がその場に現れた。何もない空間からまるで煙のようにふわりと姿を出した神は弁護士に話しかけた

「久しぶりですね。覚えていますか?……まあ、昔の面影はありませんか」

神は弁護士にフレンドリーな口調に、冷たい笑みで語り掛けた。

「誰だ、お前……ストーカーを憎んでた女の知人か? 政治家の遺族か?」

「違いますよ。まあ、誰でもいい。今から法廷を開きます。被告はお前の家族と愛人。裁判官は私、弁護人はあなたです」

ベルガンが扉を開け、一人の老婆を連れてきた。

「一人目の被告。あなたの母。罪状は、息子の教育に失敗したことです。異議は?」

弁護士が口を開こうとした瞬間、サーチが指を折る。

「ぎゃあああっ!」

それを見た髪は、少々高揚した声で宣言する。

「異議なしとみなします。死刑」

母の首が切り落とされた。

次に、不貞行為の罪で愛人が処刑された。

さらに妻と娘が連行されると、弁護士は絶叫した。

「やめろ! 二人だけは!!」

神は一段と高揚した声で告げる。

「異議がありますか? 10秒以内にどうぞ」

弁護士は、さらに指を折られてもここだけは譲れないという、つよい感情で異議を叫ぼうとした
しかしその瞬間、サーチが弁護士の右目を潰す。

「目、目が、ああああああ!」

神はふざけてたように時間を告げる

「10秒経過ー」

だが余りの痛みに弁護士には届かない。
神はその様子を満足げに見下しながら告げた。

「15秒待ちました。これは確実に異議なしでいいですねー。死刑!」

ベルガンは二人の即座に頸椎を砕く。おそらく二人苦痛を感じる間もなく、その命が散った。

「さて、残りの被告はまとめて処刑。異議は?」

弁護士は、もはや言葉を発せなかった。

「では、執行」

ベルガンはヴァロンからブレス焼き払えと指示を受け、黙って実行する。
ファイアバレットではなく、普通の炎。だがその高温は部屋を瞬く間に灰に変えた。

神は弁護士を見下ろす。
「お前は法律という暴力で同じことをしてきた。弱者の気持ち、少しは理解できたか?」

そして最後にこう告げる。

「お前は殺さない。だが、生き延びた先で再び守りたいものを得たとき……また、この法廷を開きに来る」

神は煙のように消え、ガーゴイルたちも姿を消した。

復讐は完了した。

——第Ⅰ章・第2部、完。
(次回、第3部「神の軍勢 vs 国家」へ)




2025年6月1日日曜日

【ドラゴンクエストX オンライン】Ver7.4 アップデートレビュー【DQX】

こんにちは。管理人の緑茶です。

今回は先日配信された、ドラゴンクエストX オンラインのバージョン7.4について、シナリオには触れずにアップデート全体をレビューしていきます。

(※シナリオ部分のネタバレなし)


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 異界アスタルジアの改修について


今バージョンで特に注目したいのは、「異界アスタルジア」における「異界のなかま」のレベル解放です。

ようやくストレスなく周回できるようになったのは大きな進展だと感じました。


ただし、レベル解放にはボス討伐が必須で、そのためには強い「異界のなかま」が必要というジレンマがあります。

この構造から見えるのは、運営が意図的に「最初は不自由→強化によって爽快感」という昔ながらのバランス調整を採用していることです。


現在主流のゲームでは、

・初期状態で「普通」

・少しプレイすれば「爽快」

・やり込めば「無双」


と、プラス方向にのみ強化が進みます。これに対してDQXは、

・初期状態で「かなり弱い」

・少しプレイしても「まだ弱い」

・やり込んでようやく「普通」


という形になっており、結果として「面白さ」に到達する前に「面倒くささ」を感じてしまいやすい印象です。


たとえるなら、かつてのスポ根アニメが受け入れられていた時代のような設計思想です。今の時代はもっと即効性のある「変身」「チート」「転生」などが人気を博していますので、やや古いモデルに感じるのも無理はないのかもしれません。


 輝石のベルト・戦神のベルトの改修


今回のアップデートで「輝石のベルト」の効果が月に1回選べるようになりました。一見、戦神のベルトとの関連性が分かりにくい変更ですが、実際には非常に大きな影響をもたらしています。


戦神のベルトには「武器種縛り」があるため、たとえば魔剣士で「鎌」と「片手剣」の両方を使い分ける場合、それぞれに対応した効果を持つベルトが必要になります。

一方で、輝石のベルトは「闇特技〇%」のように武器種を問わず効果が発動するため、汎用性が高いのです。


魔法使いを例にとると、

・両手杖・炎

・両手杖・氷

・両手杖・雷

・攻撃魔力+

・会心率+


といった効果でベルトの枠が埋まるため、状況によっては持ち替えが非常に不便になります。

賢者は「両手杖・闇」、竜術士は「両手杖・土」など、職ごとの細かな違いにも対応しづらい状況です。


この点で、輝石のベルトのほうが使い勝手に優れていると言えますが、問題は強化素材が月1回しかもらえない点です。課金誘導の要素が強まっているのは少し気になるところです。

とはいえ、火力面で見れば、戦神のベルトの特化性が高いため、最終的には使い分けが鍵となりそうです。


 バランス調整について


 道具使い


こちらについては専門外のため、詳細は割愛いたします。


 竜術士


体感として大きく強化された印象です。特に、チャージタイムなしで使える「超暴走魔法陣」の追加が大きく、魔法使い不在でも序盤から火力を出せるようになりました。

これにより、短時間で敵を一掃するようなフィールド系コンテンツ、たとえば王家の迷宮などでの使い勝手が格段に上がりました。


また、サポート仲間との相性も改善されており、開幕から陣を敷くことで「暴走魔法陣+やまびこの陣」に無理なく乗せることができます。

中でも「異界アスタルジア」のエステラとの相性は抜群です。神速メラガイアーを暴走で連発してくれるため、火力の出方が段違いです。


エステラは移動が多いものの、行動パターン自体はそこまで複雑ではなく、タイミングさえつかめば非常に爽快な連携が可能です。


 全体的な印象とその他


今回のアップデートでは「学園」関連の内容もありましたが、制作コストが高かったとのことで、詳細についてはDQXTVでの報告に期待したいところです。筆者はすでにクリア済みですので、個人的な感想はありませんが、結果だけは気になります。


また、新規コンテンツが少なかったことも印象的でした。

この内容であれば、レベル解放や仲間モンスターの転生開放などがあってもよかったように思います。


新武器や盾に関しては、バザーの価格を見ても、防衛軍で集めたほうが効率が良さそうなため、そちらを軸に楽しんでいくのがよさそうです。


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最後に

今回のレビューではシナリオに触れませんでしたが、もう少し時間が経ち、ネタバレを気にせず語れるタイミングになった際に、改めてシナリオレビューもお届けできればと思っています。

今後もアップデートのたびに、現役プレイヤー目線での感想をお届けしていきますので、よろしくお願いいたします。