2025年5月29日木曜日

俺は星間国家の悪徳領主!~第8話(一部レビュー)

<あらすじ>

星間国家アルグランド帝国の辺境を治める伯爵家に生まれ、幼くして当主となった転生者・リアム。

前世では「善良であるがゆえに奪われる人生」を送ってきた彼は、転生を機に「悪徳領主」として君臨し、民を搾取することを誓う――。


<レビュー>

「悪徳領主」を目指すはずが、なぜか領地が潤っていく――

本作はそんな“すれ違い”をコミカルに描く、異色の転生SFコメディです。


主人公・リアムは真面目で努力家。

悪徳領主として振る舞おうと日々研鑽を積むのですが、その方向性がズレていたり、周囲の人々の“良い方向への勘違い”により、気がつけば「有能で民思いな領主」として名声を集めてしまいます。


このギャップこそが本作最大の魅力であり、「無自覚」「偶然」「勘違い」などの要素がうまく噛み合い、彼をどんどん“理想の領主”へと押し上げていきます。


第8話では、リアムがついに「ハーレム構想」に着手します。

ところが、彼の理想とする“悪徳”ハーレムは、「嫌がる女性を無理やり加える」という倒錯気味な方針。しかし実際の領民はというと、既に敏腕領主としての評判が高まっており、逆に「ハーレムに入りたい」と考える人ばかりという事態に。


そのため、「悪行」としてのハーレム計画はあっさり失敗。

この一連のやりとりもまた、本作らしい皮肉と笑いが効いた展開です。


また、海賊の拠点から回収された“亡国の姫”が、リアムの手によって治療されていたことが明かされ、最終的には彼のそばに仕えるパートナーのような存在となりそうな気配も描かれました(というより、1話の導入で仲間として登場していたので確定ですが)。


リアムは本気で「悪」に徹しようとするのに、周囲の勘違いや彼自身の実直さが仇となり、結果としてどんどん“善政”が進んでしまう――この構造が実に巧妙です。


無双要素と日常ギャグがバランスよく混在しており、SF的な設定もきちんと背景にあるため、作品としての厚みも十分。

CGの使い方も自然で、視聴のハードルが低く、非常に見やすい作品となっています。


「悪人を目指す善人の無双物語」というユニークな切り口で、ギャグとシリアスを自在に行き来する良作。

主人公のズレた思考と、周囲とのかみ合わなさが生む笑いがクセになる作品です。


配信サービスなどで過去エピソードも視聴可能ですので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。



2025年5月27日火曜日

【お知らせ】今後の掲載スケジュールについて

こんばんは!

管理人の緑茶です。


小説のリリースを初めて2週間がたちました。

このサイトの動向を見ていると、全体的な閲覧数は増加傾向にありますが、極端に滞在時間が短い(数秒程度)人も増加しており、アニメレビューを見たい方と、小説から来ている方でニーズが違うため、求めていない記事の場合は離脱してしまうようでした。


そこで、今後は掲載ルールを下記のように変更し様子を見たいと思います。

・小説の投稿は火曜日にします。

・毎月10日前後に前月の活動レポートを掲載します。(変わらず)

・木曜日と日曜日の記事はレビュー/日記系とします。


この影響で、小説が外部サイトよりも遅れてしまう場合もありそうですが、状況によって水曜日など掲載日ではない曜日に投稿することでできるだけ先行状態を引き続き維持できるよう考えています。


様子を見てご不便がありそうであれば、また変更するかもしれませんが一旦この方式で木曜日から掲載スケジュールを組ませていただきます。


何かございましたらDMやメールでご意見を頂戴できれば幸いです。



2025年5月25日日曜日

【小説】人類アンチ種族神《復讐の合間に》

——トラックの運転手は、望んだ形で処理した。 だが、不思議と満たされた感情は少なかった。

神は玉座に腰かけ、思考の深みに沈んでいた。 静まり返った空中の城の一室に、重厚な扉の開く音が響いた。 扉を軽々と開けて入ってきたヴァロンの姿を見て、 神は改めて思う。人に近い姿ではあるが、やはり彼も怪物なのだと。

「お呼びでしょうか」

ヴァロンは少しうつむきながら問いかけた。 その声音には、どこか緊張の色が滲んでいた。

——ああ、エーテルで話し合うこともできたが、あえて直接ここへ招いた。 叱責かと誤解されたか。

「運転手の件、よくやってくれた。まずは直接、労いを伝えたくてな」

神の言葉に、ヴァロンの顔がわかりやすく緩む。

「いえ、神の命令は我らの存在意義そのもの。お褒めいただくには及びません」

——本当に感情のない存在なのか、疑いたくなるな。 その言葉の喜び方は、あまりに人間的だ。



「では、本題に入ろう。次の標的についての進捗を聞きたい」

ヴァロンの表情が切り替わる。職務遂行者としての顔になる。

「弁護士はポイント227の私設シェルターに籠城中です。既に何体かの同胞が突入を試みましたが、銃撃を受けて消滅。2日前からは完全に扉が閉鎖されています。 同胞の攻撃では、扉を破壊できなかったようです」

——ガーゴイルが倒された? 信じがたいが、事実なら相応の備えがあるのだろう。

「少し調べてみる」

神は、意識を地上へと滑らせた。

——地上3階、地下5階。耐熱・耐衝撃コンクリート三重構造。 偽装された外観。これは国家レベルの核シェルターだ。

その理由もすぐに判明した。 地下5階に政治家2名が監禁されていた。 この施設は元々、彼らの所有物。 弁護士はどさくさに紛れて入り込み、SPを買収して占拠していた。

——だが占拠だけではないな。 地下2階には、妻、娘、愛人2人、そして愛人の息子。

「家族もろとも押し込んでいるのか。所有者ごと追い出して……」

シェルターの入口には、重なり合って倒れた子供たちの遺体。

「政治家の家族か……邪魔者は処理したわけだ」

神はさらに調べを進める。 SPは.357マグナムを所持。首には爆薬装置。 弁護士に逆らえば、命はない。

地上部はSPと取り込んだ一般人の居住区。 巡回する若い女と体格の良い男たち。地下1階には倉庫と、拷問部屋。 逃げ遅れた一般人を連れ込み、奴隷のように扱い、時に慰み者としても使っていた。

彼が握る“支配”は恐怖と暴力によって成り立っていた。

ある若い女は、監視カメラの死角で水を多く使ったというだけで、地下1階に連行され、数時間にわたって拘束された末に、衣類をすべて焼却された。 彼女はそのまま、私設の慰み物として連日呼び出されていた。

別の男は、物資の配分に文句を言ったことで見せしめに指を一本ずつ切られ、最終的にはベッドフレームに鎖で繋がれ、食事も与えられず、もはや死ぬのも時間の問題といったところだが、助けることは許されないようだ。

それらの“制裁”は弁護士によって“法的に問題ない裁定”として記録されていた。自分の判断が絶対であることを誇示するための演出だった。

彼はこのシェルターで“王”となっていた。

——なるほど。だから若い女と逞しい男が必要だったわけか。

「357マグナムの弾を至近距離で受けたのなら、確かに同胞の運動機能も停止するか……」

神が呟くと、ヴァロンが視線を上げた。

「強力な銃器ですね。電子部品がない分、エーテルの干渉も避けられる……飽和攻撃で弾切れを狙いますか?」

——やはり賢い。

「いや、ベルガンに任せよう。銃は相手を“認識し、狙い、撃つ”までに工程が多い。 ベルガンの身体能力なら、狙われた瞬間にはすでに間合いに入っているはずだ」

ヴァロンは数秒沈黙し、検討する。

——神の言葉すら疑い、検証する。見事だ。

「その場合、入り口の突破が課題になります。 シェルター用の扉は並の攻撃では開きません」

「問題ない。ベルガンには“ファイアバレット”を持たせてある」

「……火の玉、ですか?」

「そうだ。周囲のエーテルを吸収し、体内で高温物質を生成して放出する。 ガーゴイルの火炎《ブレス》とは別物。威力は小型隕石並みだ」

「施設ごと吹き飛ばさぬよう、威力制御が必要ですね」

「その通り。ゆえに、今すぐ命令を出せ」

神が命じると、ヴァロンはすぐに通信を開いた。

《目標2:ポイント227。強力な銃器を所持。サーチは上空より索敵、ベルガンはファイアバレットで入口を破壊、侵入せよ。》 《ベルガンへ補足:過剰破壊は避けること。射線上への進入に注意》

神は静かに笑った。

——さて、第2幕の始まりだ。

2025年5月22日木曜日

アポカリプスホテル(一部レビュー)

 <あらすじ>

人類が滅び、長い年月が経った地球。

東京・銀座にあるホテル「銀河楼」では、ホテリエロボットのヤチヨと従業員ロボットたちが、オーナーの帰還と再び人類の客を迎えるその時を、ただ静かに待ち続けていた。

しかし、100年ぶりに訪れた“お客様”は、なんと地球外生命体だった――。


<レビュー>

人類不在の地球に残されたロボットたちの姿を描く、エモーショナルかつユニークな作品です。


作品の舞台となるのは、東京・銀座にぽつんと残った高級ホテル「銀河楼」。そこでは、すでに人類が絶えてしまった後も、ロボットたちがかつての役割を忠実に守り続けています。

ドアを開け続けるドアマン、定期的に環境情報を送り続けるチェックロボット。誰もそれを必要としていないと理解しつつも、彼らは「命令」を果たそうとし続けているのです。


物語は、人類滅亡から100年後から始まります。この時点で、ロボットたちの数も半分以下にまで減っており、温泉の掘削ロボットが故障し、廃棄されるシーンからも、静かに進行する“終わり”の気配が感じられます。


そんな停滞した日常に訪れる転機が、「異星人」の来訪です。

敵なのか、客なのか、正体も目的もわからないまま、ロボットたちは“お客様”として丁重に彼らをもてなします。100年ぶりに仕事ができることに喜びを見せるロボットたちの姿がどこか切なく、それでいて微笑ましくもあります。


やがて、地球人に変身できる“タヌキ星人”が登場し、物語はよりにぎやかに展開していきますが、部品が手に入らず修理できないロボットたちの“寿命”を思うと、どこか儚さも同居していて、この世界観の深みを感じさせます。


日々の営みを失った地球で、忠義と希望を捨てずに“おもてなし”を続けるロボットたち。

その姿に、観る側の心も静かに揺さぶられます。




2025年5月20日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅳ 《復讐ⅰ》

 黒い空を背景に、神は虚空へ右手を伸ばした。

「……エーテルを操るのも、懐かしいな」

その声には、ほんのわずかに、かつて人であったころの名残が滲んでいた。


神の視界に、青白い粒子が舞い上がる。

それはこの世界の根幹に触れる“力の種”——エーテル。


かつて神の子として修業していた時代、神はこの粒子の性質を学び、そして今、無限に生成する力を得ていた。


自然界にはほとんど存在しないエーテルを、神は“意志”だけで無から作り出すことができる。


エーテルは、神の創造を可能にし、神の命令で構成された存在を形作る基礎となる。

だがその本質は生命の源ではなく、創造物を物質化するための材料である。


つまり、エーテルを使って生み出したものは、死ねばすべてエーテルへと戻り、霧散する。

肉体も血も、存在の痕跡すらも、世界のどこにも残らない。


このエーテルは高度な科学を拒絶する。

ミサイル、レーダー、人工衛星、パソコン。

精密であるほどに、エーテルはその機能を狂わせる。


ヘリや信号機などが誤動作していたのは、ガーゴイルとともに霧散してきたエーテルが一定の濃度を超えたためであった。


◆   ◆   ◆


神の手に集まる粒子。それは神の意志と同調したエーテルの核であり、神の内から発せられる指令に応じて、かたちを得ようと震えていた。


「次は……多少賢い者を創ろう」


今までのガーゴイルは本能に従う獣にすぎなかった。

だが今、神は“命令を遂行する”という、オオカミ程度の協調性をもつ特別な個体の創造を試そうとしていた。


神はベルガン、サーチ、ヴァロンの3体の創造を始めた。


濁った光の中から最初に現れたのは、筋肉の鎧をまとった屈強な男型。

——名はベルガン。格闘と破壊を好む粗暴な個体。

筋肉と神経にこだわっており、剛腕ながら緻密《ちみつ》な手さばきが可能だ。


次に、滑らかな肌と流れる銀髪を持つ女性型。

 ——名はサーチ。遠距離索敵《えんきょりさくてき》と感知に優れた個体。 動体視力や識別能力、高度な視力を持ち、さらに見たものを神やベルガン、ヴァロンに共有する視界共有能力を備えている。


最後に、沈黙と共に生まれた影のような存在。

——名はヴァロン。彼は計算し、制御し、判断する個体。

神が与えた命令の行間や、現在の状況を複合的に思考する知性にこだわっており、サーチとベルガンにエーテルを介して指示を出すことができる。


「命令だ」


神の声が、三体の創造体に染み渡るように届く。


「“あれら”を探し出し、殺せ。妻を殺した運転手。そして……それを擁護した弁護士を」


ヴァロンは静かに居城の執務室へと向かい、サーチとベルガンは、朝焼けの街へと滑り出した。



◆   ◆   ◆


——その頃、神の命令など知る由もない地上では、ひとりの運転手が逃走を続けていた。


それは、あの神災が発生した当日のことだった。トラックの運転手は仕事で東京都内にいた。

黒いモヤが怪物になって人々を襲い始めた光景を見た運転手は、本能的に逃げ始めた。

この判断が他の運転手よりも数分早かったことが、運転手をここまで生かしていた。


だが、大きな道はどこも事故や渋滞となっており、運転手はトラック仲間と無線で連絡を取り合いながら、まだ通れる道を選んで進んでいた。


しかしついに、多摩川をトラックで渡れる橋がなくなり、車両を捨てて徒歩で橋を渡ろうとしていた。


幸運にも、この地域にはまだガーゴイルは到達しておらず、多くの住民が我先にと徒歩で渡れる橋を使い、山梨方面へと逃げていた。


一人の女性が悲鳴を上げた。


「キャー!見て!あそこ!!!」


彼女の指先のはるか先、普段なら絶対に気づかないであろう距離に、1つの黒い点が8の字を描くように飛んでいた。


「鳥じゃないのか?」

近くにいた男性が口火を切ると、周囲は騒然とし始めた。

そして、初老の男がつぶやいた。


「襲ってくる気配がない……あれは、何かを探しているのか……?」


その黒い点の正体はサーチだった。 彼女は機動力を活かし、高高度から目標を探していた。 これまではトラックに乗っていたため、上空からでは認識できなかったが、車を降り橋の上を逃げる運転手を、サーチは容易に発見した。


「動きが変わった!!こっちへ来るぞ!」

誰かが叫んだ。


◆   ◆   ◆



——群衆にいてはダメだ。まとめて丸焦げにされてしまう!


ガーゴイルの恐ろしさを直接見ていた運転手は、すぐに川に飛び込む決意をした。


「ドボン」


運転手はためらわずに飛び込んだが、その音は群衆の悲鳴にすぐかき消された。


——冷たい。


運転手は川の中を必死に泳ぎながら、息を切らしていた。頭上では何かが飛ぶ音が響いている。振り返る余裕などない。ただ、水面に浮いていたタイヤを掴み、流れに身を任せるしかなかった。


「これでアイツは群衆に引き付けられるはず……ふふふ」


軽薄な自己中心的な笑みと言葉が漏れた。


両腕は震え、指先の感覚は麻痺しはじめていた。足を動かす余裕もなく、ただタイヤにしがみつきながら、彼は思った。


——下流は安全なのだろうか。


思考が熱を帯び始めたその瞬間だった。


◆   ◆   ◆



川の中へ消えた目標を探していたサーチは再び目標を補足、分析を開始した。


《目標確認:人物、年齢40前後、浮遊物につかまり下流へ移動中》


サーチは瞬時にエーテル通信を開き、その情報をヴァロンとベルガンへ共有し、まるで防犯カメラが何かをとらえたときのように、機械的に視覚情報の中継を開始した。


彼女の網膜に映る人影——その苦悶も、願いも、恐怖も、彼女にとっては“動きの変化”以上の意味を持たないが、間違いなく目標の運転手であった。


サーチの視界に、ヴァロンからの命令がテキスト化された映像として浮かび上がった。


《命令:目標1発見。川へ逃走中。》


《命令:ベルガンは下流でサーチと合流し、目標を地上へ引きずり出せ。》


命令を確認した瞬間、彼女の視界には自動的に地形と風速、運動予測が投影された。

ベルガンとの交差点が最も効果的となる座標が算出され、即時行動が最適化される。


無言のまま、彼女は風を切って降下した。


◆   ◆   ◆


多摩川の下流、500m付近でサーチとベルガンが合流。


流れてくる運転手を待ち構えた。

そこへ、車のタイヤに抱きついて流されてくる運転手が現れた。


即座にサーチが拾い上げ、河原にいるベルガンの前へ投げ捨てる。


運転手は疲れ切った眼差しでベルガンを見上げ、即座に背を向けて逃げようとする。


だが、その先にサーチは立ちふさがった。


「う……うわああああっ!」


サーチの視界に、対象の音声情報、筋肉の伸縮情報、心拍数の急上昇、瞳孔の拡大などが観測される。


《反応解析:極度の恐怖。逃走本能優位。生存意識:強》


彼女にとって、“生存意識”は実はよく理解できていなかった。 死は、命令を終えるだけの工程。 そこに意味も、恐れも、回避の必要性もない。


——なぜ、彼は叫ぶのだろう?



この反応も理解はできなかった。 サーチは、命令された対象が死を前にあがくその様に、純粋な分析対象としての“観察興味”すら覚えていた。 運転手が最初に砕かれたのは左足だった。痛みに顔を歪め、「誰か!誰かー!」と助けを呼んだ。


サーチの知能でも、2体のガーゴイルがいるこの空間に、人間などいるはずもなく、全く理解のできない反応だった。


そこへベルガンの追撃。

次は右腕だった。

まるで小枝を折るように、軽々と二の腕を胴体から切り離し、切り離した腕を川へ投げ捨てた。


悲痛な叫び声が河原にこだまするが、ベルガンは続けた。

次は右足、そして左腕。


サーチは一歩引いた位置からその光景を静かに見つめていた。


運転手の悲鳴は、鼓膜ではなく皮膚に触れるように空気を震わせる。

骨が砕け、肉が裂けるたびに、サーチの視界には神経伝達の異常数値と血圧の急上昇が明示されていく。


《苦痛レベル:高/意思維持:強》


彼女にはそれが、なぜか心地よく感じられた。


それは“快楽”ではない。ましてや“喜び”でもない。


ただ、神の命令が確かに果たされていること、神の望みがこの場所でかたちになっているという“整合性”が、

彼女の内部構造にごく微細な振動として反応していた。


それはまるで、神の命令にぴたりと合った動作をしたときに感じる、脳の裏側が静かに震えるような感覚だった。



一つ一つ丁寧に、時間をかけて解体していく。


運転手が失神すればサーチが川の水をかけて起こす。 この行為は、他のガーゴイルの殺戮とは明らかに別種だった。


運転手に、自分がこれから死ぬことを確実に認識させ、何かを後悔させるような、手間のかかる“作業”だった。


やがて、ベルガンとサーチにヴァロンから指令が届く。


「目標1の処分を神が承認。仕上げを」


サーチとベルガンに仕上げの詳細が、視界にテキストとして表示された。


すると四肢を失った運転手を河原に放置したまま、2体のガーゴイルは一旦飛び去った。


◆   ◆   ◆


——助かったのか? いや、ゆっくり死ぬまで放置されたのか。


運転手が、二体の奇妙な行動に自分なりの解釈をつけていると、空を見上げたその視界に、あるはずのないものが映る。


宙に舞う、自分のトラックだった。

サーチとベルガンは運転手のいた橋まで戻り、乗り捨てられたトラックを取りに行っていたのだ。


——なんで俺の車が……?


思考が走った瞬間に、空中のトラックは運転手めがけて投げ捨てられた。

四肢を失い、逃げることもできない運転手は、なすすべもなくトラックに潰された。


◆   ◆   ◆


——なぜ、トラックに殺させたのか。


サーチが思考しようとしたが、ヴァロンからの最終報告が、思考を妨げる。


《命令完了:目標1、排除済み。》


《次命令:目標2、追跡開始。対象は弁護士。識別優先順位:高》



サーチは再び上空へ舞い上がった。


既に昼を過ぎた東京都内を俯瞰しながら、彼女の視界には無数の熱源と行動パターンが浮かぶ。 その中から、特定の条件に一致する動きと痕跡を洗い出していく。


《探索開始:エリアスキャン・フェーズ2》


サーチは旋回を続けながら、自身の回路に残る微かな振動を解析していた。


先ほど、運転手の苦悶を観測していたとき、なぜか応答信号に小さな変化が生じていた。


——なぜ、私はあの音と動きが終わったあと、気が晴れたように感じたのだろう。


それが命令の完了による正常な反応なのか、それとも私の内部構造が何か異常な挙動を示したのか。


サーチは答えを出せぬまま、視界の奥で目標を走査し続けていた。


2025年5月18日日曜日

片田舎のおっさん、剣聖になる 3〜6話(一部レビュー)

 <あらすじ>

片田舎で道場を営むしがない剣術師範の中年男、ベリル・ガーデナント。

剣士としての頂点を目指した日々は遠い昔のこととなり、長年の鍛錬によって極めたその剣の腕は、今や“片田舎の剣聖”と称されるほどの領域に達していた――。


<レビュー>

“おじさん無双系”として分類される本作ですが、単なるテンプレ展開にとどまらず、設定と演出の一貫性において非常に完成度の高い作品となっています。


まず特筆すべきは、タイトルにもある「片田舎のおっさん」と「剣聖」という両極端なイメージが、作中で一切ブレることなく丁寧に描かれているという点です。


このジャンルでは、どうしても無双系の宿命としてバトルシーンでキャラクターの精神年齢が若返りがちになる傾向があります。熱い戦闘や中二病的なセリフを「かっこよさ」として演出した結果、見た目は中年、言動は少年というギャップが生まれてしまう例も少なくありません。


しかし本作では、そのようなバランスの崩壊を避け、あくまで“大人としての視点”から描かれる戦闘スタイルを維持しています。無駄に派手なバトルではなく、熟練された技と読み合いによる静かな熱量こそが本作の醍醐味です。


例えば、ネズミを捕まえるのにも苦労していたりと、“剣聖”でありながらもすべてが完璧ではないという描写もあり、人間味のある「おっさん像」がとても好印象です。


また、剣術だけではなく“子育て”的な側面のエピソードも差し込まれ、キャラクターの厚みを増しています。

せっかくのハーレムフラグを自らへし折ってしまうような主人公の振る舞いも、本作ならではの魅力と言えるでしょう。


全体としては、派手さこそ控えめですが、「大人のための無双ファンタジー」として非常に高品質な作品です。




2025年5月15日木曜日

【告知】人類アンチ種族神を小説投稿サイトに掲載します。

こんばんは、管理人の 緑茶 です!

今日は――ついに!――オリジナル小説の投稿スケジュール をお知らせします。


◆ 公開スケジュール

タイトル:『人類アンチ種族神

投稿先:

・小説家になろう

・カクヨム

・アルファポリス


公開日時:明日(16日)

※同じ日にアップできるよう準備中ですが、サイトの反映状況で多少前後するかもしれません。


ペンネームは当ブログと同じ 「緑茶」 で統一しています。

見かけたらぜひブックマークやレビューで応援していただけると励みになります!


◆ バージョンについて

当サイトに置いているものは “初稿版(1st)”

各投稿サイトにアップするものは “加筆版”


・セリフや情景をブラッシュアップした回もあれば、新シーンを足した回もあります。

・逆に初稿とほぼ同じ回もあり、一方が完全版というわけではありません。


「初稿はもう読んだから二度手間かな…?」と思う方も、加筆によって印象が変わるシーンがきっとあるので、ぜひもう一度のぞいてみてください。


◆ ブログ読者さまへ

当ブログを見てくださる皆様は、“最速で読める先行読者” です。更新は今後もこちらが一番早い予定なので、引き続きチェックしていただければ嬉しいです。


それでは、明日の公開をお楽しみに。

どうぞよろしくお願いいたします!


――緑茶




2025年5月13日火曜日

【小説】人類アンチ種族神III《誕生》

――今から五十年前。東京を焼いた「神災」より半世紀さかのぼる時代──

後に〈人類アンチ種族神〉と呼ばれる存在が目覚めた、その記憶である。


◆   ◆   ◆


俺は、死んだのだと思った。

けれど恐怖はなく、痛みもない。

深い海の底でようやく息を吐き切ったかのような静けさだけがあった。

この終わりを、ずっと待っていた気がする。



◆   ◆   ◆


 歪みの始まり


二歳の春。――他人の不注意で信号無視の自転車が歩道に突っ込み、俺は跳ね飛ばされた。

脊髄を損傷し、左半身は中等度の麻痺。

医師は「奇跡的に命は助かった」と言ったが、その奇跡は幼児には重すぎた。


外見にはほとんど傷が残らない。立てば、ぎこちなくても歩ける。

だから大人たちは言った。


> 「努力が足りないだけさ」

> 「ほら、手を抜くな、怠けるな」

> 「泣くのは甘えだろ?」


左足が思うように上がらず、指先の感覚が半分しか戻らない、と訴えても

「できるはずだ」 と笑うだけ。健常な価値観で計った物差しは、俺の痛みを計測不能と切り捨てた。


家の中でさえ、両親は後に生まれた妹へ視線を注ぎ、

「お兄ちゃんは静かでいい子だものね」と微笑んだ。

黙れば家が保たれる。だから黙ることを覚えた。


◆   ◆   ◆


 働くという罰


十八で就職。体に負担の少ない軽作業を選んだ――つもりだった。

だが健常な上司は、自分のミスで止まったラインを

「遅いお前が原因だ」と言い張り、俺はあっさり切られた。

障害者雇用枠は求人票より狭く、抗議する力は麻痺より早く萎えた。


二十二で再就職。見下す視線と無言の圧が職場全体を湿らせていた。

「手が遅い」 「給料泥棒」――耳障りな陰口は、やがて自分の心音と区別がつかなくなった。


◆   ◆   ◆


 奇跡の光景と崩壊


そんな泥の底で、たった一輪の花が咲く。

彼女――昼休みに渡した紙コップのコーヒーを「ありがとう」と言って受け取る人。

特別な台詞ではなかった。けれど真正面から向けられた声は、俺だけを見ていた。


家庭ができ、男の子と女の子が生まれた。

小さな靴音が廊下を駆け、ベビーカーの笑い声が風鈴のように響く。

その光景は、間違いなく奇跡だった。


だが奇跡は長く続かない。


彼女は夜勤明け、横断歩道の青を渡っていた。そこへ大型トラックが赤信号を無視して突っ込み、ブレーキ音もなく彼女をはねた。運転席の男は明らかに首をがくりと傾け、ハンドルを握ったまま瞼を閉じていた――居眠り運転。


事故調書が上がる前に、運転手はこう証言した。


> 「いえ、歩行者が急に飛び出したんです。避けきれませんでした」


「そんなはずはない」

俺は現場近くの文具店から防犯カメラの映像を入手した。赤信号を突っ切るトラックと、青を歩く彼女。決定的だった。


だが運転手の雇われ先は大手運送会社だった。事故からわずか三日で、店主は映像を『紛失』したとくつがえした。後に知る――会社が高額で買収し、口止め料を添えてデータを封印したのだ。


法廷で俺は弁護士に翻弄された。


> 「確かに過失はあります。しかし故意ではない。居眠りという主張は原告のかってな想像にすぎません。証拠も証人もなく、妻を思う原告が被告への私怨から作り上げた妄想であると、われわれは主張せざるを得ません」

> 「事故後の調査では歩行者がわずかに前のめりに見えますね。急いでいた可能性は?」


眠っている姿がはっきり映った防犯カメラの映像を示そうとしても、手元に映像はなく。裁判官は運転手に禁錮一年、執行猶予三年を言い渡し、会社は業務改善命令だけで済んだ。


俺はただ、謝罪が欲しかった。すまなかったの一言でよかった。だが会社も男も「保険が降りますので」と頭を下げただけで、その眼に感情はなかった。


正義は金で買われる。 その現実が胃の奥で錆びた鉄の味を広げ、胸を焼く憎悪に変わった。


残された子どもを守るため、俺は働き続けた。

食べることも眠ることも感じることも忘れ、

気づけば、笑い声は過去形でしか思い出せなくなっていた。


◆   ◆   ◆


心臓停止


その日は朝から少し体が重かった。しかし体の不自由な俺は人よりも作業に時間がかかる。

俺はいつものように昼休みも取らず、倉庫の奥で三十キロの段ボールを抱えていた。照明は切れかけ、たった一本の蛍光灯がジジジと鳴り、影が床をゆらす。額を伝った汗が右目に入り、視界が滲む。


そのときだ。胸のまん中を、赤く焼けたナイフでいきなり刺されたような痛みが走った。


「――っぐ……!」


荷が落ち、つぶれた箱からネジが散る。ひざが折れ、ほこりのにおいが鼻を突いた。


やめろ、まだ倒れられない。給料日までは、あと三日なんだ。


左手を伸ばすが、指先から力がすべて抜ける。心臓が一発ごとに強く打ち、そのたび視界のふちが暗くなる。


痛みは徐々に強くなり、一つの思考が俺の中でこだまする。


――死ぬ? 今ここで?


恐ろしい。けれど同じくらい理不尽だった。


なんなんだ、このくそみたいな人生は。 せめて子どもたちの成長を見届けさせろ。父親まで死んでしまえば、残された子供の小さな肩にどれほどの重荷がのしかかるか──それだけは避けたい。 いや、それどころか――最後のことばひとつ残す時間さえくれないのか。


息が吸えず、口がぱくぱくと音もなく開くだけ。誰もいない倉庫に爪を立てても、助けは来ない。


ふざけるな……ふざけるな……!


胸を殴っても鼓動は弱まる一方で、世界の音が遠ざかる。ネジが転がるカラカラという音だけが、むなしく響いた。


俺は、ただ、ちゃんと謝ってほしかっただけだ。

彼女をころした運転手も、笑っていた上司も、この社会も。


涙は出なかった。かわりに熱い血が耳のうしろで波打ち、視界は真っ白に発光した。


「誰か――」


せめて――最後に……!


心臓が、ひとつ、ぐしゃりと音を立てた気がした。次の鼓動は来なかった。


白い世界だけが残り、そして静けさがすべてを飲みこんだ。


◆   ◆   ◆


(……おかえりなさい)


音ではなく光そのものが語りかける。

次の瞬間、宇宙規模の記憶が洪水のように流れ込む。


星々の上での修行。宇宙意思との問答。俺は“神の子”であることを思い出した。守るべき対象の種族を自身で体験し、理解し、愛するため 人間へ転生した観測者だった。


だが俺が見たのは愛ではなく、醜さと暴力だった。

傲慢、残酷、自ら築いた仕組みに押し潰されながらそれを正しいと唱える愚かさ。

その総和が怒りとなり、俺の内側で再結晶した。


「人間の種族神か。ならば存分に破壊から始めるべきだろう。このクソ種族は守るべき価値から

 作り出してやろう。面白い。実に面白い。あははははは」


人間として生きた生涯で、妻と別れてから忘れていた表情と感情が結晶の中で凝縮し

神の子は「種族神」として誕生した。


人類を最も憎む人類の種族神。

「人類アンチ種族神」の誕生の瞬間だった。


神として力を得た俺は、お台場の空に浮かぶ大地を創り、その中央に漆黒の塔をそびえさせる。

のちに人間はそこを「デスランド」と呼ぶだろう──だが名など要らない。ただの城だ。


黒いモヤを凝集し、石の翼を持つ兵を作り出した。

喰らわず、眠らず、人とその文明の破壊だけを使命とする影。人は《ガーゴイル》と呼ぶだろう。


これは復讐ではない。選別だ。

人間が守るに値するか、進化の資格を持つかを見極める試験。


祈る者には与え、立ち上がる者には道を残す。選ぶのは人間だ。

俺は冷酷に、正確に、一滴の雫を世界へ垂らすように試験を始める。


けれど胸の奥でまだ疼くものがある。

あの日の笑顔、小さな手の温もり、四人で落とした影――

それが完全に消えるまでは、秤を傾けてはならない。


塔のバルコニーに立ち、指先で夜空を弾く。

黒い粒が散り、都市の上空へ転移し、モヤへ、そして影へ。


下界の灯が遠く瞬き、やがて悲鳴に塗り替わる。


第一の試験を始めよう。


――この瞬間から人間は、それを神災と呼ぶ。



2025年5月11日日曜日

活動レポート 2025年4月

 管理人の緑茶です。こんばんは!

 今回は先月の活動レポートとなります。

 【実績】
 作家関連のお仕事は・・・・0(ZERO!)
 今月も安定の0!(ZERO!)でした。
  

 【雑感】
『レビューの話題』----------------------
春アニメを中心に、一部ドラマ作品もレビューとして掲載しました。
驚いたことに、ドラマのレビューも意外と読まれており、アニメが専門の私にとっては少し恐縮しつつも、興味を持っていただけたことに感謝しています。

当サイトでは、いわゆる“覇権アニメ”にこだわらず、自分が「面白い」と思った作品を紹介しています。
作品のジャンルも内容もまちまちですが、そうした“クセ”を楽しんでいただければ嬉しいです。
知らないアニメのレビューをきっかけに、新しい作品に触れていただけたら本望です。

『DQXの話題』----------------------
最近は魔法使いが強化されたので、サブキャラで魔法使いのレベルを上げています。
ただ……魔法使いとメタル系モンスターの相性が壊滅的で、かなり苦戦しています。

普通に「ゴーレム呼び」などで育成すれば良いのでしょうが、ペアメタルが余っているので、ついそちらで育てたくなります。
しかし武器が「杖」「鞭」「短剣」しか選べず、会心が狙える特技が鞭に少しある程度で範囲も狭く、効率が出ません。

もし「魔法使いでペアメタル育成するならこれ!」というおすすめ武器と特技をご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えていただけると嬉しいです!

『YouTubeの話題』----------------------
春になったので、夏野菜の栽培方法をYouTubeで調べていたところ……
以後、トップ画面が完全に“農家チャンネル”に占領されてしまいました。

爺さん・婆さんの農業指南動画や、プロ農家YouTuberの動画がずらりと並び、
肝心のアニメ関連動画がどこかへ飛んでいってしまいました。

まだ、探しにくいだけなら100歩譲って我慢できますが、トップが年配の方だらけになってしまったことで、
「自分まで老けた気持ちになる」のはどうにか避けたいところです(笑)

『その他の話題』----------------------
GWのNサークルでは、「5月11日までを集中強化期間」として活動しておりました。
その結果、ゲーム2本のリリースと、1本のバージョンアップに成功!

あとは、

・体験版1本
・バージョンアップ1本
・新規リリース1本

が残っています。
バージョンアップの方は、すでにリリース手続きに入っているので、近日中に出る見込みです。

問題は体験版です……。
メイン開発担当のニック氏のお子さんが食中毒でキーボードに嘔吐してしまうという事故が発生し、2日ほど開発が完全停止。
その影響で全体スケジュールを見直すことになり、体験版の優先度が大幅にダウンしました。
年内に出せるかどうか怪しい雰囲気ですが、ここはニック氏の孤軍奮闘に期待するしかなさそうです(汗)
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以上、4月の活動レポートでした。
今月もお付き合いいただき、ありがとうございました!

これからもズズズイッとよろしくお願いいたします!!

2025年5月8日木曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅱ 《神災》

 秋葉原・中央通り 午後二時二十八分


「コメントの波が止まらない……!」

ミナトは震える手でスマホを握りしめた。


画面には猛スピードで流れる《秋葉原が燃える!》《渋谷でも爆発!》といった文字の奔流。その視界の向こう、現実では悲鳴とガラスの割れる音が重なり、まるで文字列が音に姿を変えたかのように錯覚する。


コトハが黒い怪物に掴まれ、上空から落とされる瞬間——。

石畳に当たった骨はバラバラに砕け、鮮血が水風船を破裂させたような音を立てて四散した。まるで生きた人間がどのくらいの高度から落下したら砕け散るのか確認したかのような無機質な行動に、ミナトの恐怖は一気に跳ね上がる。


「やめろ、配信を切れ……!」

理性が囁く。しかし視聴者数は跳ね上がり、虹色の投げ銭通知が止まらない。

──このまま続ければ大金が入る──でも映し続けるのか? 友だちの死体を……

──俺だって逃げなきゃ死ぬ!


三つ巴の葛藤が胸を掻きむしる。結局ミナトは配信停止ボタンを強くタップした。


ポケットのスマホが通知の振動で熱い小石のように脈打つ。

そのとき足元のアスファルトが波打った。ビルの看板が落下して地面を叩きつけ、路面が跳ね上がったのだ。ミナトは咄嗟に身を伏せた。


◆   ◆   ◆


 渋谷警察署・交通管制室 午後二時三十一分


「カメラ12番、信号も電源も落ちました!」

新人巡査・千田美里の声が裏返る。壁一面のモニターでは、スクランブル交差点が炎の渦となっている。


隣席の警部補が唸った。

「EMPか? 磁気嵐で機器がやられてるのか?」


美里は息を整え、冷静さを装って答えた。

「磁気嵐にしては局所的かつ範囲が広すぎます。衝撃による破損が濃厚です!」


スピーカーからは途切れ途切れの報告と悲鳴。

「スクランブル、封鎖不能! 封鎖車両が炎で溶解!」

「未確認飛来生物、頭上通過!」

政府が決めたばかりの汎用呼称“未確認飛来生物(UFB)”が、無線ごとに語尾を震わせた。


◆   ◆   ◆


 SNSタイムライン(日本時間 14:33)


 #秋葉原壊滅  12,400件/分

 #渋谷炎上    14,900件/分

 #デスランド   18,200件/分


秒単位で積み上がる真偽不明の動画と悲鳴。突然、お台場上空を撮影した写真が爆発的に拡散される。

巨大な岩盤と黒い尖塔——投稿者は「#デスランド」と添えた。


千田美里の端末にもその画像が流れ込み、彼女は息を呑む。

「UFBだけじゃない……お台場の空に島? 合成じゃないの?」

コメント欄が一気に恐怖と絶望の単語で染まる様子が、モニターの色温度を下げていくようだった。


◆   ◆   ◆


官邸・緊急対策会議室 午後二時四十六分


「静粛に!」

内閣危機管理監・大江は拳で円卓を叩いた。


大型モニターには、お台場上空に静止した浮遊岩盤と尖塔。カメラがピントを合わせるたび、尖塔の周囲に黒いモヤが絡みつく。


防衛庁の技官が青ざめながら報告する。

「UFBが都内数か所で同時発生、尖塔周辺にも多数確認。しかし発生源は不明のままです!」


「尖塔を破壊したらどうなる?」

技官はその案の浅さに眉をしかめ、眼鏡を押し上げた。

「瓦礫が落下すればお台場一帯は壊滅です」


大江はかぶせるように問いを重ねる。

「被害を無視すれば対空ミサイルで破壊できるのか?」


技官の上司、制服組の統合幕僚監代理が腕を組んで椅子を軋ませた。

「安易にミサイルなんて撃てませんよ。標的ロックは不安定、誘導エラーは頻発。それに民間機がまだ上空にいる。万が一巻き込めば――責任は取っていただけるんですか?」


責任という単語で勢いは失ったが、大江は続けた。

「ならレールガンは? 尖塔だけを穿てばいい」

代理が鼻で笑った。

「射程も威力も足りませんよ。あの乱流じゃ弾道の予測もできません」


嫌味と苛立ちが交差し、会議室の空気はさらに鉛を載せた。

大江は二人を睨みつけ、唇の端で呟く。

「否定はするが代案は出さない。さすがは制服組ですな……」

そして腕を組んで黙ってしまった。


緊迫した沈黙を破ったのは、ビル全体の微かな揺れだった。非常灯が赤く点滅し、モニターの映像が一瞬ブラックアウトする。

大江は口元を硬く結び、決定的な一文を呟く。

「今言えることは……空と地、二つの未知の脅威が同時に襲来した、ということだな。」


◆   ◆   ◆


 お台場上空・偵察ヘリ〈エコー1〉 午後二時五十二分


「官邸より。映像をもっと寄せろ!」

機長兼操縦士・安西一尉はヘッドセット越しの命令に苛立ちを隠せない。

浮遊岩盤の下面からは、雨雲のような黒いモヤの粒が次々滴り、風に乗って各方位へ散っていく。


「視界クリア。10秒後さらに30メートル接近」

その瞬間、計器が一斉に警告音を発した。

「高度計ノイズ! ジャイロ暴走!」


ヘリが見えない力に押されたように揺れ、ローターが軋む。

安西は操縦桿を引きつつ叫んだ。

「接近不能! 〈エコー1〉、機長権限で離脱します!」


副操縦士の山口三曹が青ざめた顔で続ける。

「安西さん!HUDオールレッド! コンパスもスピン!」


そこへ黒いモヤが凝集し、鋭い翼をもつ影に変わった。影はヘリと並走し、口腔から赤熱のブレスを吐きつける。

キャノピーに火柱——ガラスが蜘蛛の巣状に砕け、安西は絶叫した。

「でかすぎる……振り切れない!」


ヘリは海上を目指して急降下し、その機影は煙に飲まれていった。


◆   ◆   ◆


 秋葉原・中央通り 午後三時〇四分


ミナトは瓦礫の影に身を潜め、喉奥へまとわりつく甘焦げと鉄の匂いを吐き出した。


上空——ビル屋上から垂れ下がる電線がスパークし、その火花の裏で小さな黒いモヤが無数に生まれる。モヤは人型へ凝集し、翼を備えた影へ姿を変えた。


秋葉原、渋谷、新宿——都心の空は黒い斑点で埋め尽くされる。

夜空の星のように見えるそれは、確実に死を運ぶ種子だった。


「これを配信できたら……いくら投げ銭が来る?」

ミナトの口端が引きつる。同時に背中を汗が流れる。

「いや、スマホを構えた瞬間に俺もコトハのように……」


震える指がカメラ起動ボタンへ触れ、結局、長押しして電源を落とした。真っ黒な画面には、照明の消えた秋葉原と、自分の歪んだ笑みだけが映った。


◆   ◆   ◆


 SNSタイムライン(世界標準時 06:15/日本時間 15:15)


# Breaking: Mystery floating island appears over Tokyo metropolitan area.

 (速報:東京上空に謎の浮遊島出現)

# Breaking: Japan declares State of Catastrophe.

 (速報:日本政府、特別災害事態を宣言)

#PrayForTokyo  2,100,000 tweets

#Deathland     2,800,000 tweets


世界中のモニターが東京を映し、各国のニュースキャスターが声を失う。誰も正体を知らない黒い影と岩盤——。


人々は理解し始めた。日常の破壊は、これが序章にすぎないということを。





2025年5月6日火曜日

ゴリラの神から加護された令嬢は王立騎士団で可愛がられる(一部レビュー)

<あらすじ>

16歳になると、さまざまな動物神から加護を授かる世界。

主人公・ソフィア・リーラーは、戦闘系最強と言われる「ゴリラの神」の加護を引き当ててしまう。

同じ学校に通う年上の従騎士ルイ・スカーレルをはじめ、有望な若手騎士たちは、そんな彼女を優しく見守る。

――“ゴリラの力”から始まる、予想外の胸キュンラブコメディ!


<レビュー>

本作は、「突然怪力を手に入れた地味系女子の逆ハーレムラブコメ」という一風変わった設定の物語です。

一見すると聖女系アニメのようですが、“聖なる力”の部分が 「ゴリラの力」 に置き換わった、ユニークな亜種作品といえます。


王子様のような美男子たちから注目を浴び、他の女性たちの嫉妬に巻き込まれつつも、

結果的には周囲から愛され、応援される展開。

根っこの部分は王道の「聖女系アニメ」の流れを踏襲しており、女性向けの安心感ある物語です。


主人公のキャラクター像は、以下のような“定番”要素がしっかり盛り込まれています。


・目立ちたくない

・事件に巻き込まれがち

・優しさにあふれる

・結果的に活躍する

・やたらと好感度が上がりやすい

・ちゃんと化粧すれば美人


この「定番の塊」ともいえる構成に加え、“ゴリラの力”という超個性的な要素が加わることで、「王道の枠の中で個性が際立つ」 主人公像に仕上がっています。

まさにラブコメからバトルまで対応可能な万能型ヒロインです。


現在5話まで視聴しましたが、ゴリラの力に助けられたり、力加減を間違えて物を壊してしまったり、ラブ要素とコメディ要素のバランスがとても心地よい作品だと感じました。


また、ソフィアの感情が高ぶると、背後にゴリラのイラストが浮かび上がり、「内面描写をビジュアルで表現する」 演出もユニーク。

“聖女系アニメ”のフォーマットを守りつつ、“ゴリラの神の加護”という設定をしっかり活かしています。


正直、シナリオ自体は可もなく不可もなく、「聖女系あるある」の展開が続くため、先の読める部分も多いです。

しかし、時折挟まれる“ゴリラの神の加護”によるデメリットや笑いを誘うシーンが、良いアクセントになっており、飽きることなく楽しめる印象です。


タイトルのインパクトが強く、女性層が敬遠してしまいそうなイメージがありますが、中身は完全に“女性向け逆ハーレム聖女系作品” なので、女性視聴者も安心して楽しめる作品だと思います。




2025年5月4日日曜日

最強の王様、二度目の人生は何をする?(一部レビュー)

 <あらすじ>

史上最強の王様・グレイ。

比類なき力と地位を持ちながら、孤独に生きた彼に寄り添う者はいなかった。

そんな彼が“アーサー”として魔法世界に転生する。

前世とは異なる愛と冒険に満ちた、“二度目の人生”がいま始まる──!


<レビュー>

本作は、最強の王が“知識だけ”を持ち越して異世界に転生する物語です。

しかも、転生元の文明は現代以上に高度な発展を遂げた世界。

この「文明レベルのギャップ」が作品の大きな特徴となっています。


普通、異世界転生ものでは「知識チート」が無双の武器になることが多いですが、

この作品では、高度な知識であっても 技術やインフラが追いついていない異世界では活かしきれない という現実が描かれます。

たとえるなら「スマホの設計図を知っていても、通信網も半導体技術もない中世では作れない」ような状況です。


主人公のアドバンテージは、“大人びた思考力”や“精神力”、“技術的な身体操作”といった、

知識そのものではなく 知識を活かせる土台の部分 に限られています。

この「限定的なチート」が、逆に物語の魅力を高めています。


物語序盤では、魔法への早期覚醒により、主人公アーサーはわずか6歳で大人を不意打ちで倒せるほどの力を得ます。

しかし、あくまで「不意打ち限定」。

体格差や経験差の前に、正面からの戦いではまだまだ劣勢に立たされる場面があり、

その “完璧ではない強さ”が視聴者の緊張感を生んでいる のです。


「最強転生主人公なのに負けるかも?」という一抹の不安が、

テンプレの無双作品との差別化に成功しているポイントだと感じました。


さらに本作では、モノローグを通じて前世の自分と向き合うシーンも多く描かれます。

前世の冷徹な性格に対する“後悔”や、今の肉体で初めて芽生える“感情”に戸惑う様子。

「大人の精神で、子供の体と新しい感情を自己分析する」 という心理描写が非常に丁寧です。

この内面描写こそ、物語に深みを与える重要な要素だと思いました。


また、子供時代のエピソードがハイテンポで進むのも特徴です。

このテンポ感から、「早めに青年編に移るのでは?」「この先、何を成し遂げるのか?」

と自然に物語の未来が気になる構成になっています。


一方で、序盤から物語が丁寧に積み重ねられており、

「2クール構成?」「2期ありき?」「書籍誘導型の“俺たた”エンド?」

と終わり方への不安も感じ始めました。


まだ物語は序盤ですが、早くも今後の展開や結末が気になる、

見ごたえある異世界転生作品だと思います。



2025年5月1日木曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅰ 《異変》 

東京都・秋葉原、午後二時二十三分。

高校生ストリーマー ミナト は歩行者天国でスマホ用ジンバルを構え、メイド喫茶の新人メイド コトハ を映していた。

「いいね! ライブも盛り上がってるよ!」

ピースサインを返すコトハに、コメント欄は《かわいい》《尊い》《いいね×100》とハートまみれ。


ところが画面の背景――青空の一点に、黒い“モヤ” がぽつりと浮かんだ。

ミナトがズームすると、コメントは一転してざわつく。

――《ドローン?》《ゴミ袋?》《なんか増えてね?》《上見ろ上!》《もっと拡大できる?》《やばくね?》――


モヤは濃度を増し、翼を持つ人型の影に変質。さらに真紅の裂孔がぽっかり開き、黒い怪物が誕生する。しかも一体ではない。あっという間に三メートル級の怪物が無数に形成され、東京上空へ散っていく。


◆   ◆   ◆


渋谷スクランブル交差点。

就活帰りの大学生 蒼井隆司 は赤信号で立ち止まり、ハンカチで額の汗を拭った。

横目に映る大型ビジョンではミナトのライブが転載され、“黒い怪物が増殖中” のテロップが躍る。

「今時の生成AIは何でもありかよ……」と苦笑した直後、頭上を覆うほど巨大な黒影が現れ、気温が一気に下がった。


影は凝集して羽ばたき、真紅の口腔を開く。

ゴゥッ!――炎が横断歩道を薙ぎ、観光バスが爆裂。ガラス片と悲鳴が雨のように降る。

隆司は反射で走り出すが、視界の端にはまだ“現実”を飲み込めずスマホを掲げたままの人々がいた。


◆   ◆   ◆


逃げ惑う群衆。

手を繋いでいたカップルが必死に走るが、ヒールの彼女は速度が上がらない。

「はぁ、はぁ……待って……!」

「だ、だめだ! もっと速く!」

振り返った彼氏は、黒い怪物が彼女を獲物と定めた瞬間を見てしまう。自分にも伝播する底なしの殺意。

「ごめん!」

彼は手を振り払い、群衆へ紛れて逃げ去った。


「ヤダ……待って! たすけ――!」

彼女の悲鳴が途切れ、骨の砕ける鈍音と焼け付く匂いだけが残る。

隆司は耳を塞いでも鼓膜の奥でその音が反響し、胃液がこみ上げた。


◆   ◆   ◆


秋葉原。

ミナトのライブは瞬時に炎上し、コメント欄は阿鼻叫喚。

――《やばい》《秋葉だけじゃない渋谷も燃えてるぞ!》《黒い怪物多すぎ》《ガーゴイルじゃね?》――

“ガーゴイル”という単語が怒涛の勢いでタグ化されていく。


「嘘だろ……これ、現実?」

ミナトがコトハへ視線を戻した刹那、黒い怪物が彼女を掴み無機質に天高く連れ去り――無慈悲に放り捨てた。

声にならない悲鳴がライブ音声に乗り、十万を超えた視聴者へと響き渡る。


ミナトの手が震え、カメラがブレる。

秋葉原駅前ビルの壁面にも怪物が着地し、コンクリートを爪で抉った。


誰も正式な名前を知らない。

それでもSNSのタイムラインはこう決めつけた――

『ガーゴイル』――それが、この黒い怪物の名だ。


――都市は、奈落へ落ちた。