2017年1月17日火曜日

火曜は本(ほん)の日 ~1話 『名前百景』 後編~

こんばんは!管理人の緑茶です。当サイトでは火曜は本の日ということで
6回に分けて全3本の短編小説を掲載します。
 
本日は第2回目ということで、前回のお話の後編になります。

よろしければご贔屓によろしくお願いします。


※前編を読んでいない方向けに↓に全編バージョンも用意しました。

 ~名前百景~ (なまえひゃっけい)(前編・後編一気読み)
 

後編のみはこちらからー

  
 
~名前百景~ (なまえひゃっけい) 後編
 
 
 
 教師の箸がポロリと落ちる。
 

 「名前の話をしているんだよ。お前さんは子供に「ナベ太郎」とか「ナベ助」なんて
  名前を付くけるのかい!」
  
 
 
 「おおっと先生!それはありませんわ、女の子なんでぇ」
 
 
 「それは失礼。じゃぁ「ナベ子」に「ナベ美」で決まり・・・なわけがないだろう。
  お前さんちゃんと考えなさいな。ナベが付く女性の名前なんてあるわけないだろう」
 
 

 すると男は待ってましたとばかりに即答します。

 「いえいえ、先生。「真ナベ(鍋) かをり」なんてぇ芸能人もいますから。」
 

 教師は一瞬考えますが直ぐに反論いたします。

 「お前さんは苗字を変えたいのかい?そんなダジャレを考えている前に、いい名前の
  ひとつふたつでも思いつくだろう」
 
 
 
 
 教師は呆れて個人授業を始めます。
 
 
 「いいかいお前さん。生まれてくる子供が女の子なら、苗字が変わることもちゃ~ん
  と考えてあげないといけないよ。」
 

 「たとえば、さっき言った雪だって嫁ぎ先によっちゃぁおかしなことになるよ」
 
 
 「へぇ。雪なんてイイ名前だとおもいますが、おかしなことと申しますと?」
 
 

 教師は箸を拾って再び男を箸先でスイッと指すと
 

 「南さんに嫁いだらどうなる」
 

 「へぇ。南 雪ですねぇ」
 
 
 「西さんに嫁いだら?」
 
 
 「西 雪ですねぇ」
 
 
 「北さんに嫁いだら」
 
 
 「北 雪ですねぇ」
 

  
 「それみろ、「みなみゆき」とか「にしゆき」とか電車の案内板みたいじゃないかい」
 
 
 若い男はビールジョッキを机に強く置くと

 「ああ、たしかに!苗字によってはおかしなことになりますね。さすが先生だ」
 
 
 教師は自慢げに箸を自分の鼻に持っていくと声を一段と大きくして
 

 「しかも今の社会はぐろーばるだよ。いんたーねっとだ、ついったーだと世界はどん
  どん狭くなって国際結婚も考えないといけないよ」
 
 
 「国際結婚ですか。」
 

 「そうだよ。特に気をつけなくちゃいけないのは中国人だ」
  
 
 「ほうほう。何でですか?」
 
 
 
 「そりゃぁ、「珍」だ「金」だと名前を滅茶苦茶にするような苗字が沢山あるからねぇ」
 
 
 教師は再び箸先を男に向けると
 
 「長子さんが、珍の家に嫁いだら?」
 

 「へぇ。珍 長子ですねぇ」
 

 「生(せい)さんが金の家に嫁いだら?」
 

 「金 生(金星)ですねぇ・・・むりがないですか?」
 
  
 少しばかり例えが無理やりなことを男が教師にチクリと言いますと、教師は真っ赤に
 なりまして

 
 
 特別に大きな声を張り上げまして

 
 
 「ならば、玉子(たまこ)が金の家に嫁いだら!」
 
 
 と男にまくし立てますと、教師のそばに座っていた知らない客が、肘でチョイチョイと
 何やら教師にボソボソと声をかけてまいりました。

 「ちょいと、お二人方。ここは「金さん」のお店だよ・・・」
 
 
 教師が火照った体を一気に冷まして、厨房を覗きますと烈火のごとく怒りの形相で
 店主がまっすぐに教師を見ておりました。
 

 二人はイチモツが「キュッー」と小さくなりまして、逃げるように金さんに金を払って
 店を去ったのでございます。
 
 
 子供の名前も大切ですが、既に「その名前」で人生を過ごしている人もおります。
 酔った勢いで名前遊びをするときは周りにご用心。
 
 

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