神災《じんさい》から27日が経過した。
前日の閣議決定でこの日、私有シュエルター救出部隊が設立された。
隊長は足立《あだち》 昭介《しょうすけ》である。
簡易的な結成式典で大仲大臣が壇上に立つ。
「みなさん。今回は急な招集に応じていただきありがとうございます。今、私有シェルターに取り残された人々は飢えや、渇き、燃料問題に苦しんでいるかもしれません。
みなさんの、お力でどうか彼らを救出していただきたい。」
「ですが、私は私有シェルターの皆様と同じくらいに、自衛隊の皆様にも損害を出さないようにしていただきたい。命さえあれば、何度でも救出に挑戦できます。
どうかこの私の思いも忘れずに、今回の任務にあたってください」
大仲が壇を降りると、副隊長・仲原《なかばら》香《かおり》三佐が代わって前へ。
「本隊は救出部隊であって討伐部隊ではない。指示を誤解するな」
そう釘を刺すと、兵器の編成を発表した。
「偵察ドローン ×20 機 + ドローン母艦(ベース)×1
二七式自走レールガン ×3 / 二七式戦車(特装)×2
特殊耐熱装甲車 ×2 / 耐熱輸送車 ×3
二七式迫撃砲 ×1
人型パワーユニット(二足歩行)×2」
「以上 8 種類 の最新装備、要員五十名。質問は?」
「すべて陸路で、航空支援は……?」
「航空機はこのエリアで計器異常が頻発する。原因不明。よって陸路のみ」と仲原。
この発表に隊員がざわつく
「27式ってどれも最新鋭じゃないか」
「人型パワーユニットは秘匿兵器じゃないか」
「国内に3台しか存在しないドローンベース(ドローンの母艦)が配備されるのか!」
「自分レールガンを見るの初めてです」
「質問はないな。次にルートを説明する。我々は埼玉シェルターのDゲートから地上へ出る。国道17号で荒川を渡り、池袋付近のシェルターの救出。救護者は輸送車に乗せそのままDゲートへ帰還する。
昨日の索敵では、このあたりは怪物も少なく、本隊の戦力で制圧は可能と判断している」
「その後、輸送車の後退を荒川まで援護し、再び進軍、新宿、渋谷と行軍する。なお、この辺りは地獄のど真ん中だ。避けたいところだがシェルターも多い。一日目の行軍は以上である。質問はあるか?」
「つまり航空支援のない代わりに戦車と自走砲で進路を切り開いて進めと。その為の最新鋭兵器ですか・・・」
「そうだ。これらは1台1台が各地方の切り札として配置されていたものだ。大仲大臣が職権を行使して無理やり集結させたものだ。我が国の陸戦兵器の最新鋭はここに集結している。 諸君の働きにも期待している」
そういうと、中原はひな壇を降りた。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
6時間後
荒川付近
「隊長。偵察ドローンが怪物を発見しました。数7です」
「誘導レーザー照射。レールガンとリンクしろ」
「ドローン1、飛行中の目標の1体に照射しました。」
「よし、撃て!」
キィィィィン。電圧の高まる独特の音がする。その直後、ドンと音速を突き破る衝撃がはしる。
「弾着確認。目標を粉砕しました」
一撃で怪物を破壊する威力に隊員たちから思わず声が上がる。
「すごい」
「これはいけるぞ!」
「ドローン1、飛行中の次の目標に照射完了」
キィィィィン。ドン!
「弾着確認。この目もを粉砕しました。しかし、のこり5体は高度が低く、射線がとれません」
「ふむ。リンクを迫撃砲に切り替えろ」
迫撃砲は放物線を描くため、遮蔽物があっても攻撃が可能なのだ。
「ドローン1、地上の目標の1体に誘導レーザー照射しました。」
「27式発射!」
ボゥン
レールガンとは違い、低く火薬特有の爆発音が響く。
「弾着確認。・・・土埃が酷いな・・・」
数秒の沈黙があたりを包む
「目標粉砕!こちらの威力も十分です!」
「おおおお!!!」
主力兵器の活躍に部隊は沸いた。その時
「隊長!8時の方向より怪物接近!数2。はやい!接触まで20秒」
物陰からガーゴイルの奇襲を受ける。
「人型展開!!時間を稼げ!!総員車両に退避!!」
人型のパワーユニットが8時の方向を向く。しかし、携行サーベルを構える前にガーゴイルはユニットを強襲。
そのまま空高く持ち上げて50mほど上昇し、ユニットを地面にたたき落とす。
「うあああああぁぁぁ・・・・」
「ザザッザザッ」
一瞬で途切れた悲鳴と無線で、状況は伝播した。
落下した破片が、車両に退避しようとしている兵士を襲う。
その混乱を狙ったように、ガーゴイルが急降下し、混乱を極める部隊を蹂躙する。
ーー全滅する。
誰もが思ったその時、戦車の機銃が味方の死体ごとガーゴイルをハチの巣にする。
撃ったのは中原副隊長だ。車中で待機していた彼女は、味方の状況を即座に判断すると、2体のガーゴイルが近づいた瞬間を狙い
まとめて機銃で薙ぎ払った。
それを見た足立隊長は声を荒げる
「まだ生きていた隊員もいたかもしれないのに、何故撃った!1発目2発目は威嚇、3発目から当てろと習わなかったのか!」
「隊長!これは実践です。威嚇なんてしていたら全滅していました。確かに生きていたかもしれません。ですが全滅とどちらを選ばれますか?」
「どちらも選ばん!仲間の犠牲を出さずに敵を無力化する方法を考えるのが士官だアホたれ!」
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
同時刻・地下、防衛省指揮所。
地下司令室。モニターには赤い “重要事項” の文字。
大仲は無線越しの報告に目を閉じた。「生存 35うち負傷 11、死亡15 以上」
近くにいた官僚が思わず声に出る。
「出撃から6時間で、最新鋭機の精鋭部隊が・・・」
隣席の幕僚が囁く。「いえ、正体不明の相手です。想定より被害が少ない、という見方も……」
官僚たちの動揺に大仲が声を上げる。
「撤退。即時撤退だ!」
これまで以上に険しい表情に、誰もが大仲の心情を察し冷静を取り戻した。
この日、50名の隊員のうち15名を失い、救出作戦は荒川を渡ることなく失敗に終わったのであった。