2025年12月11日木曜日

【軽い日記的なもの】ケンタッキー「鳥の日パック」改悪…なのでしょうか?

 12月から、ケンタッキーの毎月28日限定メニュー「鳥の日パック」の内容が変わりました。

以前はオリジナルチキン5本で1,100円、サイドメニューは任意で割引オプションという、いわば“欲しいものだけ足せる”設計で、とても優れたメニューだと感じていました。


この考え方は、KDDIのpovoに近い発想だと思います。

「基本だけ安く買い、必要なトッピングだけを自分で足す」――選択権が購入者側にあることが大きな魅力でした。


一方、他社の一般的な値引きはスマホでいうセット割に近く、必要なもの+半ば強制的なオプションを束ね、総額を大きくしてから割引する方式が多いです。見た目はお得でも、不要品を含むため実質値引きが小さくなることがあります。

その点、旧「鳥の日パック」は主力(チキン)だけで完結でき、サイドが欲しい人だけ割安で追加できるため、納得感とお得感の両立がありました。


数字で見ると、当時は――


チキン通常価格:1本 310円

旧パック:5本 1,100円 → 1本あたり 220円

ところが今回、内容が「チキン4本+ナゲット5個 1,250円」に変更されました。

チキンが食べたい人にとっては

1,250円 ÷ 4本 = 1本あたり 312.5円(ナゲット分を無視した場合)

あるいは“チキン1本は実質192円に見える”という訴求も成立しそうですが、ナゲット(5個)が約480円と高額なため”いらない感”が一層強まってしまいます。


つまり、純粋にチキンだけ食べたい人にとっては、不要なナゲットが“抱き合わせ”に感じられ、選択権が後退した印象になります。これは、折角の個性を捨て、他社に埋もれてしまうセット割的な束ね方に近い考え方です。


私はこの変更を“改悪寄り”と受け止めました。とはいえ、ケンタッキー側にも年末の繁忙期に28日に注文が集中しないよう平準化したいといった狙いがあるのだろうと推測します。企業側の気持ちは理解できますが、毎月28日はケンタッキーを買うという定期行動の芽を、やや摘んでしまった印象もあります。一度きりの購入より継続購入のほうが長期的な価値が大きいのは言うまでもありません。


もし私が企画するなら、年末の動線は次のようにします。


12/24・25: クリスマス向けの「クリスマスパック」(セット割で客単価を上げる)


12/28〜31: 期間拡張の「ロング鳥の日パック」(旧来の“チキン5本中心”で選択権を担保)


1/1〜3: 「お正月パック」(家族・親族向けの需要に対応・お年玉クーポンを付けてリピート狙い)


こうしてセット割(客単価)と選択権(満足度・リピート)を交互に配置し、「年末年始はケンタッキーがお得」という記憶を育てつつ、28日一点集中の混雑をやわらげます。

ゲーム業界でいう「ナーフ(=意図的な弱体化)」のように、ユーザーの楽しみを削ぐ方向ではなく、“楽しみの場を増やす”方向の調整が、長期のファン形成には効くと考えます。


数字だけが売り上げではありません。未来の常連候補を増やす絶好の機会に、水を差すようでケンタッキーファンとしては残念な気持ちになりましたので、記事にしてみました。

2025年12月9日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才⑥_神の兵_後編》

 この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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大荻山《おおぎやま》剛三郎《ごうざぶろう》は、焦燥に駆られていた。


ここまでは、圧倒的な演算能力を誇る兵器の力で、UFBの特殊個体を蹂躙《じゅうりん》できていたはずだった。だが、直線的で読みやすかった怪物の動きが、突如として変貌したのだ。


AIの予測を超える機動力で「目」となるドローンを次々と破壊し、8機あった機体は残り2機まで数を減らした。


最強のAIは目を失って情報が不足、ただの箱に成り下がろうとしていた。


そしてその牙は今、大荻山の乗る装甲車(DD-24)へ向けられている。



本能的な恐怖が大荻山を突き動かした。「SUB11Fを手動に切り替えろ! 当たらなくてもいい! 直線軌道に弾幕を張れ! 特攻されれば20秒で接近されるぞ!」


度重なるAIの指示変更で右往左往していた副砲は、手動への切り替えでようやくその首振りを止めた。 といっても、狙いが定まったわけではない。高度な迎撃システムはただの『火を噴く筒』へと成り下がり、暴力的に弾丸をばら撒き始めたに過ぎなかった。


「よし、それでいい。戦車(YA-24)とのケーブル切断。我々は戦車を盾に後退する! 散開させていた一般車両も戻せ。もう囮《おとり》にもならん!」


戦車に搭載されたSUB11Fは、本来なら精密なAI制御でドローンを撃墜するシステムだ。

手動での連射など想定外であり、残弾的にも排熱的にも30秒が限界だった。


さらに、AI本体を搭載している装甲車とのケーブル切断は、AIアシストの完全放棄を意味する。AIを前提にした兵装が、AIを切る。

誰の目にも明らかだった。戦車は、捨て駒にされたのだ。


慌てて後退を始める装甲車。それを援護すべく戦車が火を噴くが、手動の乱射が怪物に当たるはずもない。弾丸は怪物の回避行動の前に虚しく空を切り、時間だけが浪費されていく。


それは、まさに「死への時間稼ぎ」でしかなかった。



◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


戦車内では、女性リーダーの鋭い怒号が響いていた。


「もっと右! 相手の切り返しをよく見て! 気合で食らいつきなさい! 主砲、弾種換装! L2炸裂弾よ、信管設定は1秒! 急いで、あと20秒で副砲が尽きるわ!」


しかし、重量級のSUB11Fを手動旋回させ、超高速機動する物体に直撃させるなど、土台無理な話だった。照準は遅れ、焦りだけが募る。



「クソッ! せめてAIのアシストさえあれば……ッ! 換装、急ぎなさい!!」

「あの老害《ジジィ》はどうでもいい! でもね、後ろの同胞と民間人は守るのよ! 気合入れなさい!!」


悲痛な叫びも虚しく、SUB11Fは一発も命中させることなく、静かに弾切れを迎えた。弾幕が止む。

それを見透かしたように怪物は回避行動を止め、一直線に戦車へ突っ込んできた。


「今よ! 主砲、撃てェッ!」

「ズゥゥン!」


低い独特の砲撃音とともに、砲口から閃光が迸《ほとばし》る。放たれたL2炸裂弾は瞬時に起爆し、無数の子爆弾をショットガンのように撒き散らした。


ーーこの至近距離!しかも直進コース!『点』ではなく『面』で叩けば落ちるはず!


 女性リーダーの勝算は、一瞬で砕け散る。


「敵、直前で軌道変更! 上です! かわされました! ダメージなし!」


彼女の目が見開かれ、張り詰めた汗がこめかみを伝う。コンマ一秒の硬直。それを自らの怒号で無理やり断ち切った。


「回避! 全速で下がりなさい!!」


だが、その命令に車両はピクリとも反応しない。


「どうしたの、回避よッ! 上から来るわよ!!」



操縦士が、震える声で答えた。 

「操……作、不能。管理者によるコマンド介入です……コマンドは、『自爆』」


女性リーダーが怒りと絶望に顔を歪めた、その時。


戦車の上部ハッチが飴細工のようにぐにゃりと押し潰され、車内にあの化け物が降り立った。

生じた衝撃波が、搭乗員たちを一瞬で肉塊へと変える。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


数秒前。装甲車(DD-24)内。


「先生! いくら何でも見捨てるなんて!」 


「うるさい! 女風情が口を出すな! それに、無駄死にはさせんよ。YA-24には機密保持機構があってな、私のコマンド一つで火薬庫を誘爆できる。……全弾薬で吹き飛ばせば、たとえ怪物だろうと無事で済むものか!」


「先生! 戦車の上から怪物が!!」


 激しく揺れる車窓越しにも、炸裂弾の閃光を背に影を落とす怪物の姿が見えた。そいつは躊躇なく、戦車の直上から降下を始めている。


「死ね!!」


大荻山は愉悦に顔を歪め、自爆命令を確定させた。


数秒後。


直上から貫かれた戦車が、一拍も置かずに爆縮し、弾け飛んだ。逃げ場のない爆圧が分厚い装甲を内側から押し上げ、鋼鉄の巨体が粘土のように歪む。


裂けた装甲の隙間から紅蓮の炎が噴き上がると、それは驚くほど美しく、そして残酷に、すべてを粉々に爆散させて黒煙に変えた。


「がはははは! サルがぁ! 自ら檻に飛び込んで自殺しおったぁぁ!」


黒煙が風に巻かれ、燃え盛る残骸の中から「白いもの」が揺らめく。


「先生! ああ……あ、あれ!!!」

同乗していた愛人が、引きつった悲鳴と共に指さした。



大荻山は我が目を疑った。


あろうことか、怪物は上空で「女王」と呼ばれる個体と合流し、二人掛かりで戦車へ突入していたのだ。

当然、女王型はあの白いシールドを全方位に展開している。


やがて、傷一つないシールドをすり抜けるようにして、王と呼ばれる怪物が、ゆらりとその姿を現した。



大荻山が、裏返った声で絶叫した。


「全速で逃げろ!! 一般車両は私の盾になれ!! 生き残ったら何でもくれてやる! 死んでも家族に金を出す! とにかく守れ!!」



装甲車(DD-24)は、最高速度こそ戦車を上回るが、唯一の欠点はその初速の鈍さにあった。

重量級の装甲車がトップスピードに乗るまでには、相応の助走距離を要するのだ。


YA-24に自爆コマンドを確実に送るために減速していたことが、ここに来て致命的な仇《あだ》となる。再加速には、絶対的な時間が足りない。


さらに、追い打ちをかけるような事態が発生した。


大荻山の命令に反し、装甲車が急ブレーキをかけて停車してしまったのだ。


「な、な、何をやっている! 速度を上げろ、死にたいのか!! 一般車両も早く盾になれ!! もたもたするな! 私が死ねば恩賞もないのだぞ!」


だが、装甲車はピクリとも動かない。操縦兵が悲鳴に近い報告を上げる。 


「先生! い、一般車両が……前方に停車して進路を塞いでいます……」

「ばかな! 何をやっている!!!」


バス、トラック、乗用車。それらが示し合わせたように、装甲車の進路を塞ぐ形でバリケードを作っていた。人々は次々と車両を放棄し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。


大荻山は慌ててバスの運転手に無線を飛ばした。

「何事だ! 邪魔だ! バスをどかせ!」


無線から、冷え切った、それでいて怒りに震える返答が返る。


『先生! もううんざりだ! 盾になれだと? あんたは、これまで何人殺した! 盾になって死ぬくらいなら、先生を盾にして俺たちは逃げさせてもらう!』


「なっ……きさまら!!」


それを聞いた装甲車の操縦兵が叫ぶ。

「ダメです先生! DD-24はあくまで後続車、戦車ほどのトルクはありません! バスやトラックを無理やり押しのけるには時間がかかります!」


その間にも、怪物の王は確実に距離を詰めてくる。


距離はすでに5mを切っていた。



「いやぁぁ、たすけてぇええ!」


愛人の女がパニックを起こし、その恐怖は同乗する他の要人にも伝播する。


「先生! 何とかしたまえ!」

「これはどういうことですか! ミスター大荻山!」



装甲車はバスの側面に直角に接触すると、エンジンを唸らせて全力で押しのけようとした。焦った操縦兵が、アクセルを床まで踏み込む。


怪物が目前に迫る極限の恐怖。


だが、その状況でも大荻山は、アクセルをベタ踏みする操縦兵のミスを見逃さなかった。


ーー空転するエンジン音

大荻山は操縦兵に具体的な指示をまくし立てた。


「馬鹿者! コイツはタラメア式オートギア制御だぞ! アクセルを一気に踏むな! 回転数に合わせてゆっくり踏み込め! 空転して動かんぞ!!」


その不毛なやり取りの間に、怪物はDD-24へとたどり着いた。



大荻山は、震える声で虚勢を張った。


「狼狽《うろた》えるな! この装甲車はYA-24の主砲すら弾き返す! 耐衝撃、耐熱、最強のシェルターだ。落ち着いてバスをどかせばいい!」


その言葉が終わるか終わらないかの時だった。


装甲車の後方ハッチ、そのロック部分が赤熱し、まるで水飴のようにドロリと溶解し始めた。


「きゃあああああああ!」

愛人の悲鳴が鼓膜を裂く。


直後、溶けた装甲の隙間から怪物の手がねじ込まれた。


「グギィ」


嫌な金属音が響き、分厚いハッチが紙屑のようにこじ開けられる。


大荻山、愛人、要人、そして私兵たちが凍りつく中、怪物は不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。


驚くことに、怪物は流暢な日本語で問いかけた。


「……お前らが指揮官か。俺をここまで無様に追い詰めた人間の顔を拝むために、丁寧におもちゃを壊してみたんだが……どいつが大将だ?」


「この人よ!!」

愛人が即座に叫び、大荻山の背後へ飛び退く。


「この、バカ女ぁぁぁ!!!」

大荻山が激昂するが、他の乗客もこれに乗じた。

こともあろうか、彼が金で雇った私兵たちまでもが、大荻山の背中を怪物の前へと押し出していく。


「やめろ! おまえら!! 私を誰だと思っている! 大荻山だぞ! お前らごときとは命の重さが違うのだ! なぜわからん!!」

「やめろ!! 押すな! こんなことをしてタラメアが黙っていると思うか! おい、お前の今の地位は私があってこそだろう!」

「頼む、やめろ!! なぁ、愛し合った仲だろう! やめてくれ、ああ、おい! 誰か、金ならやる! 助けろぉぉぉ!」


大荻山の必死の訴えに耳を貸す者は、誰一人としていなかった。


怪物の鼻先へ突き出された大荻山は、引きつった顔で怪物にすがった。


「に、日本語が分かるのか! 私は大荻山。この国でもっとも尊い人間だ! 私を殺さずに上手く使えば、この国、いや大国タラメアさえも簡単に占領できる! どうだ! 私を助けてもらえないか!」


怪物は、氷のように冷たい目で大荻山を見下ろした。 

「どんな切れ者かと思えば。はぁ。……時間の無駄だったな」


吐き捨てるように言うと、怪物は装甲車の車内へ向けて、深紅のブレスを解き放った。

超高温の吐息は一瞬ですべての酸素を奪い、肺を焼き、車内の人間は全員、断末魔の一言も発することなく灰となった。



◆◆◆   ◆◆◆  ◆◆◆



ベルガンは自分の無能さを悔いていた。

気高い敵の指揮官に押されていたと思っていたが、顔を拝んでみれば保身しか能のないクズだった。

そんなものに後れを取った自分が、情けなくてたまらない。


だが、感傷に浸る時間はない。神の命令は絶対だ。

『一人でも逃がせば負け』——その勝利条件を満たさねばならない。


ベルガンは冷徹な思考に切り替えると、サーチの追跡能力を借り、散り散りに逃げた人々を一人残らず捕捉し、始末していく。

慈悲も、愉悦もない。ただの作業として、すべての命を刈り取った。



静寂が戻ると、ベルガンはサーチの元へ戻った。


「サーチ、お前大丈夫か?」


サーチは少しだけ勝気な笑みを浮かべる。


「何? 私がこれくらいで、どうにかなると思ったわけ? ふっ。おやさしいこと!」


ベルガンは元気そうなサーチに安堵を覚えつつ、ヴァロンに報告した。


「任務完了。逃亡者なし。……おかげで完全勝利だ。帰還する」




だが、その一部始終をじっと見つめる「目」があった。

超高性能赤外線カメラを搭載した、一機の自衛隊偵察ドローン。


その眼差しの主は、天才——篠原《しのはら》涼音《すずね》であった。

2025年12月7日日曜日

素材採取家の異世界旅行記 #1~#9( 一部レビュー )

<あらすじ>

異世界へ転生した、ごく普通のサラリーマン・神城タケル。

剣と魔法の世界『マデウス』で新たな人生をスタートすることになった彼には、数々の能力が備わっていました。

身体能力の強化にとんでもない魔力、そして価値のあるものを見つけ出せる探査能力。

与えられたチート級の力を駆使して、タケルの異世界大旅行が幕を開けます。


<レビュー>

本作は、シナリオに軸足を置いた異世界チート系のアニメです。序盤こそ能力が物語を引っ張っていましたが、話数を重ねるにつれ、主人公の万能ぶりそのものを楽しむ作りになってきたと感じます。


マスコット的存在に加え、不足していたヒロイン枠にも仲間が加わり、パーティが賑やかになっていく様子は、王道ながらやはり楽しい見どころです。

一方で本作のヒロイン像は、いわゆる“人間的な可憐さ”に寄せず、人外要素の強いキャラクター(例:「いつも汚いエルフ」「馬の姿の女神さま」など)で構成されています。台詞や振る舞いも含めてギャグ寄りの造形が多く、たとえば語尾が「ひひーん」になるようなシーンもあります。

この設計から、作者が積極的にラブコメ的な絡みを抑え、世界観と探索要素を前面に置いている意図が伝わってきます。恋愛を足すと要素が渋滞しやすいタイプの作品だからこそ、あえて“外す”判断をしているのだと思います。


とはいえ、キャラクターデザインはもう一歩洗練できたのでは、という印象もわずかにあります。ヒロインの女性的な魅力を控えた結果、モノノケ感が前面に出すぎるシーンがあり、そこを魅力として楽しめる一方で、ヒロインが少しかわいそうに映る瞬間もありました。


進行テンポは非常によく、1話で1エピソードがまとまり、次のエピソードの導入まで進むことも多いです。裏を返せば、1話見逃すと展開の把握が難しくなる場合がありますので、見逃してしまった際は各配信サービスで追いついておくと、次の回をより楽しめます。


まもなく最終回ということで、かなり序盤から伏線が張られていたヒロイン・ブロライトにスポットが当たるエピソードに突入しました。どのような着地で締めくくるのか、非常に楽しみにしています。




2025年12月5日金曜日

【軽い日記的なもの】日々雑記

こんばんは。管理人の緑茶です。


12月になり、秋アニメ(10月スタート)の最終回ラッシュの時期がやって来ました。毎回日記でもお伝えしていますが、この時期はレビューを書くタイミングが難しく、いま書いてしまうと最終回直後にまた書くことになってしまいます。そのため、どうしても日記が増えがちになります。


ということで、本日は近況の雑記をいくつか書いていきます。


・Nサークルの話題です


私はゲーム制作サークルの Nサークル に所属しています。メンバーの多くが社会人のため、年末年始は例年どおり多忙です。私自身も「年末までにお願いします!」という作業が重なり、コミュニティツールを眺める時間はあるものの、ほとんど参加できていません。ふだんは活発なサークルも、この時期は「シーン」と静まり返っています。


制作進行のあいさんが進捗や成果物の話題を投げてくれているのですが、ほぼ全員が既読スルーの状態が続いており、申し訳なく感じています。私もすぐに良い返事ができていないので、もどかしい気持ちです。


そんな中、ふだんはゲームをイチから作らないイラストレーターのもこもこさんが、RPGツクールMZで試作版のゲームを披露してくれました。手探り感が画面全体から伝わってきたのがかえって印象的で、繁忙期が明けたら私も腰を据えてがんばろう、と良い刺激をもらいました。



・小説の話題です


『人類アンチ種族神』〈混乱と天才〉を書き終えました!(拍手) このサイトでも、外部サイトでも年内に当章は完結させます。かなり手の込んだシナリオで、設定資料とにらめっこしながら書き上げました。大筋は前章の〈対決〉で固まっていたのですが、頭の中の物語を具体的な文字に落とし込むまでに思った以上の時間がかかりました。


当サイトでは、年末年始ごろに総集編として、〈序章〉〈対決〉〈混乱と天才〉の作者再編集版を掲載する予定です。〈序章〉は〈対決〉以前の第1話~〈復讐〉をまとめたものです。連載開始当初は長期連載にするか悩んでいたため、『人類アンチ種族神 I』『II』という短編寄りの形式で公開していましたが、今回あらためて再編集・再構成します。


年末年始の読み物として楽しんでいただけましたら幸いです。〈混乱と天才〉から読み始めた方は、導入部である〈序章〉もぜひ手に取ってみてください。





もちろん物語はこの先も続きます。次章の伏線はすでに張ってありますので、順次回収していきます。骨格だけは書き出してあり、かなり刺激の強い章になりそうです。



・その他の雑記です


ここ最近は物価の上昇が続いており、特に食費のコントロールが難しく感じます。私は少し足を延ばして、地元で有名な安売り店に通うようになりました。このお店は今でも数量限定の告知なし特売があり、キャベツ98円、白菜98円、卵98円といった価格に遭遇できることがあります。うまく当たると本当に助かります。


一方で、ペットボトル飲料の「綾鷹」が220円になるという話を耳にしました(情報源は未確認です)。さすがにお茶に200円を超えて支払うくらいなら、まずは食材を買うべきか……と、家計のバランスを考えてしまいます。需要があるのかもしれませんが、しばらくは様子見になりそうです。


気になる話題は多いのですが、まずは目の前の繁忙期と小説執筆、そして「これはそれ」。に全力で取り組もうと思います。


本日はこんな日記でした。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

2025年12月2日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才⑥_神の兵_中編》

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

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大荻山《おおぎやま》剛三郎《ごうざぶろう》は、焦燥に駆られていた。


ここまでは、圧倒的な演算能力を誇る兵器の力で、UFBの特殊個体を蹂躙《じゅうりん》できていたはずだった。だが、直線的で読みやすかった怪物の動きが、突如として変貌したのだ。


AIの予測を超える機動力で「目」となるドローンを次々と破壊し、8機あった機体は残り2機まで数を減らした。


最強のAIは目を失って情報が不足、ただの箱に成り下がろうとしていた。


そしてその牙は今、大荻山の乗る装甲車(DD-24)へ向けられている。



本能的な恐怖が大荻山を突き動かした。「SUB11Fを手動に切り替えろ! 当たらなくてもいい! 直線軌道に弾幕を張れ! 特攻されれば20秒で接近されるぞ!」


度重なるAIの指示変更で右往左往していた副砲は、手動への切り替えでようやくその首振りを止めた。 といっても、狙いが定まったわけではない。高度な迎撃システムはただの『火を噴く筒』へと成り下がり、暴力的に弾丸をばら撒き始めたに過ぎなかった。


「よし、それでいい。戦車(YA-24)とのケーブル切断。我々は戦車を盾に後退する! 散開させていた一般車両も戻せ。もう囮《おとり》にもならん!」


戦車に搭載されたSUB11Fは、本来なら精密なAI制御でドローンを撃墜するシステムだ。

手動での連射など想定外であり、残弾的にも排熱的にも30秒が限界だった。


さらに、AI本体を搭載している装甲車とのケーブル切断は、AIアシストの完全放棄を意味する。AIを前提にした兵装が、AIを切る。

誰の目にも明らかだった。戦車は、捨て駒にされたのだ。


慌てて後退を始める装甲車。それを援護すべく戦車が火を噴くが、手動の乱射が怪物に当たるはずもない。弾丸は怪物の回避行動の前に虚しく空を切り、時間だけが浪費されていく。


それは、まさに「死への時間稼ぎ」でしかなかった。



◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


戦車内では、女性リーダーの鋭い怒号が響いていた。


「もっと右! 相手の切り返しをよく見て! 気合で食らいつきなさい! 主砲、弾種換装! L2炸裂弾よ、信管設定は1秒! 急いで、あと20秒で副砲が尽きるわ!」


しかし、重量級のSUB11Fを手動旋回させ、超高速機動する物体に直撃させるなど、土台無理な話だった。照準は遅れ、焦りだけが募る。



「クソッ! せめてAIのアシストさえあれば……ッ! 換装、急ぎなさい!!」

「あの老害《ジジィ》はどうでもいい! でもね、後ろの同胞と民間人は守るのよ! 気合入れなさい!!」


悲痛な叫びも虚しく、SUB11Fは一発も命中させることなく、静かに弾切れを迎えた。弾幕が止む。

それを見透かしたように怪物は回避行動を止め、一直線に戦車へ突っ込んできた。


「今よ! 主砲、撃てェッ!」

「ズゥゥン!」


低い独特の砲撃音とともに、砲口から閃光が迸《ほとばし》る。放たれたL2炸裂弾は瞬時に起爆し、無数の子爆弾をショットガンのように撒き散らした。


ーーこの至近距離!しかも直進コース!『点』ではなく『面』で叩けば落ちるはず!


 女性リーダーの勝算は、一瞬で砕け散る。


「敵、直前で軌道変更! 上です! かわされました! ダメージなし!」


彼女の目が見開かれ、張り詰めた汗がこめかみを伝う。コンマ一秒の硬直。それを自らの怒号で無理やり断ち切った。


「回避! 全速で下がりなさい!!」


だが、その命令に車両はピクリとも反応しない。


「どうしたの、回避よッ! 上から来るわよ!!」



操縦士が、震える声で答えた。 

「操……作、不能。管理者によるコマンド介入です……コマンドは、『自爆』」


女性リーダーが怒りと絶望に顔を歪めた、その時。


戦車の上部ハッチが飴細工のようにぐにゃりと押し潰され、車内にあの化け物が降り立った。

生じた衝撃波が、搭乗員たちを一瞬で肉塊へと変える。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


数秒前。装甲車(DD-24)内。


「先生! いくら何でも見捨てるなんて!」 


「うるさい! 女風情が口を出すな! それに、無駄死にはさせんよ。YA-24には機密保持機構があってな、私のコマンド一つで火薬庫を誘爆できる。……全弾薬で吹き飛ばせば、たとえ怪物だろうと無事で済むものか!」


「先生! 戦車の上から怪物が!!」


 激しく揺れる車窓越しにも、炸裂弾の閃光を背に影を落とす怪物の姿が見えた。そいつは躊躇なく、戦車の直上から降下を始めている。


「死ね!!」


大荻山は愉悦に顔を歪め、自爆命令を確定させた。


数秒後。


直上から貫かれた戦車が、一拍も置かずに爆縮し、弾け飛んだ。逃げ場のない爆圧が分厚い装甲を内側から押し上げ、鋼鉄の巨体が粘土のように歪む。


裂けた装甲の隙間から紅蓮の炎が噴き上がると、それは驚くほど美しく、そして残酷に、すべてを粉々に爆散させて黒煙に変えた。


「がはははは! サルがぁ! 自ら檻に飛び込んで自殺しおったぁぁ!」


黒煙が風に巻かれ、燃え盛る残骸の中から「白いもの」が揺らめく。


「先生! ああ……あ、あれ!!!」

同乗していた愛人が、引きつった悲鳴と共に指さした。


大荻山は我が目を疑った。


あろうことか、怪物は上空で「女王」と呼ばれる個体と合流し、二人掛かりで戦車へ突入していたのだ。

当然、女王型はあの白いシールドを全方位に展開している。


やがて、傷一つないシールドをすり抜けるようにして、王と呼ばれる怪物が、ゆらりとその姿を現した。

2025年11月30日日曜日

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか #1~#9( 一部レビュー )

<あらすじ>

舞踏会の最中、婚約者である第二王子・カイルから、理不尽な婚約破棄を告げられた公爵令嬢・スカーレット。

“婚約者”という立場に甘んじて耐え続けてきましたが、ついに我慢の限界を迎えます。

「私の最後のお願いです。このクソアマをブッ飛ばしてもよろしいですか?」

こうして、スカーレットの“拳”が舞い踊る物語が始まります。


<レビュー>

本作は、婚約破棄から始まる悪役令嬢ものですが、最大の特徴は解決手段が“拳”=暴力的制裁である点にあります。さらに、主人公には隠された聖女設定があり、時間を操る能力を備えています。序盤では「超加速」によって周囲の時間を相対的に遅く見せ、自身の行動速度を上げる描写が中心でしたが、物語が進むと、物体を過去の状態へ“巻き戻す”ことで治癒に相当する効果を発揮したり、汚染された構造物を汚染前へ戻すといった応用も可能であることが示されます。


結果として、人の生死を直接左右できるかは別として、物質的な破損や負傷を実質的に「なかったこと」にできるため、彼女はヒーラーとしてもアタッカーとしても一流という、きわめて強力な立ち位置にあります。


この“チート級”の主人公が、「世のため人のため」というスタンスで悪人を見つけては殴って片づけるうちに、いつしか神々の対立に巻き込まれていきます。対立するのは、第1話でスカーレットに「クソアマ」と罵倒され、実際に殴り飛ばされた転生者にして異教徒の女神です。個人間の確執から、次第に神話的スケールへと広がっていく設計が印象的です。


また、ありがちな“王子たちに取り巻かれる”お花畑展開ではなく、どちらかといえば少年漫画的な段階バトルに近い構成です。強敵を打ち破って一区切りつくと、さらなる敵が現れる――その繰り返しによってテンポ良く見せていきます。作画は一見すると女性向けの繊細さがありますが、内容はバトルとギャグの比重が高いため、そのギャップも本作の魅力だと感じます。


総じて、聖女系の定番イメージから意図的に外しつつ、爽快な解決と高火力の能力演出を押し出した作品です。悪役令嬢ジャンルにアクション快感を求める方には特に相性が良いと思います。ご興味があれば、ぜひご視聴をおすすめします。



2025年11月27日木曜日

【軽い日記的なもの】迷惑メール実験。

こんばんは。管理人の緑茶です。

本日は、三連休に実施した小さな実験の結果をご紹介します。題して、「あやしげなサイトにメールアドレスを登録したら、三日後にどうなるのか」です。読者の皆さまには真似を推奨しません。危険回避の観点からの記録としてお読みください。


方法はシンプルです。


実験専用の使い捨てメールアドレスを新規作成します。


そのアドレスを、いかにも怪しいと感じるサイトに登録します。


登録後三日間、受信ボックスの動きを観察します。

※ スクリーンショット等は、手口の拡散防止と読者保護の観点から掲載しません。


それでは、結果です。


登録後・数分以内に、いわゆる恫喝系の迷惑メールが到着しました(「有料サイトにアクセスしたので支払え」等)。

ただし、その後一日目の残り時間は意外と静かで、新着は少なめでした。


二日目に入ると、商材系や投資系などのメールが少しずつ届き始めます。


三日目は、いわばフィーバー状態でした。件名や差出人の傾向は、知り合い装い系・アダルト系・誘導系・恫喝系・金融機関装い系・投資系・出会い系・メルマガ風・当選詐称・広告・○○社とのタイアップ装い系・外国語(中国語、ハングル、タイ語と思われるもの)など、実に多彩でした。

ただし、その後はプロバイダーの迷惑メールフィルターが効いたのか、受信数は減少に転じ、メルマガ風や広告系の、フィルターをすり抜けやすいものが散発的に残る程度になりました。


想定以上の量とバリエーションでしたので、これ以上の継続はプロバイダーや他者に迷惑がかかると判断し、実験用アカウントは削除して終了しました。


結論としては、メールアドレスの登録は極めて慎重に行うべきだとあらためて実感しました。

可能であれば、ふだんは使い捨てアドレスを使い、必要に応じて自動転送でメインのアドレスへ受け取る運用が安全です。間違った登録をしてしまっても、使い捨て側をすぐに停止・作り直しできます。加えて、危険なサイトにはアクセスしないという基本も、やはり最強の予防策です。


以上、本日の日記でした。皆さまも、どうか安全第一でお過ごしください。


本記事はセキュリティ意識向上のための注意喚起です。再現実験やスクリーンショットの公開は推奨しません。

危険なサイトへのアクセスや登録は行わないでください。

2025年11月25日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才⑥_神の兵_前編》

 【ここまでのあらすじ】

ある私有シェルターの代表、日本有数の実力者・大荻山《おおぎやま》剛三郎《ごうざぶろう》は、私兵と要人・愛人のみを連れてシェルターを出て東京脱出を試みていた。

神が作り出した怪物ガーゴイル(通称 UFB)の中でも特別にチューニングされた個体、武闘派ベルガンと支援型サーチは、神の気まぐれな命令で兵も連れずに、大荻山の率いるタラメア製の最新兵器と戦うことになった。

ベルガンはタラメアの戦車 YA-24 と装甲車 DD-24 に搭載された SUB11F(全方位対ドローン迎撃機構) に苦戦。ベルガンをかばい、サーチは負傷してしまった。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


傷ついたサーチを眼下に置いたベルガンの表情は、かろうじて知性を保っていたが、怒号に満ちた猛獣のようでもあった。

残された理性は多くない。だがベルガンは、自分が冷静さと判断力を欠いていることだけはギリギリで理解していた。


ベルガンは即座にヴァロンへ呼びかける。


「ヴァロン。すまない、サーチが負傷した。——また俺だ。俺に策がないばかりに。策をくれ、ヴァロン!頼む」


神の居城「デスランド」の王座。ヴァロンは神と二人、サーチの〈視覚共有〉で現場を眺めていた。


「創造主様。たしか、ベルガンやサーチが求めれば私の参戦は許可されていましたが……」


ヴァロンは、迂闊に口を挟むと不機嫌になる神を横目でうかがう。


「ああ、もちろんだとも! あのプライドの高いベルガンが、自分の欠点を分析してヴァロンに助言を求めるなんて面白い。ヴァロン、好きに手助けしてやれ!」


「私が策を与えれば、必勝となりますが——本当によろしいのですね?」


「くどい! “必勝”とやらにも興味がある。ヴァロン、お前の知性を見せてみろ!」


「では」


ヴァロンの口元が、不敵に緩む。本来は軍師——参謀型の特殊個体。これまで神の気まぐれとベルガンの暴走に振り回されてきた衝動が、解放宣言で一気に爆ぜる。


「ベルガン。視覚共有のマップを見ろ。黄色が敵の位置。小円がドローン、大円が戦車と装甲車、点滅は雑魚車両だ。赤い円が見えるな? そこがドローン陣形の“穴”だ。やつらは 8 機の“目”を立体的に使ってこちらの座標を正確に割り出している。まずは陣形を崩す。——サーチ、損傷は見えている。シールドと飛行は問題ないな?」


傷ついたサーチが応える。


「ええ、やられたのは腕と脚。翼・胴体・頭は硬化を強めて守ってあるわ。加速は厳しいけど、その程度なら」


ベルガンが割って入る。


「サーチ、強がるな! たとえ飛べても、戦闘には耐えられない!」


ヴァロンが冷静に指示を重ねる。


「わかっている。落ち着け、ベルガン。サーチはそのまま隠れて、まずシールドを 100% まで展開。展開できたら、その位置から西へ上昇——高度 1000m までだ。その後はシールド維持。最初は狙われるが、数分で終わる。シールドに専念しろ」


「了解。30 秒もあれば、ベルガンのエーテルも借りてすぐ展開できる」


「よし。ベルガン、サーチが上昇したら 5 数えろ。隠れている瓦礫を破壊して、最短距離で“赤い円”へ直進。可能な限り高度を上げ、同じく 1000m を目安に接近。次の指示はすぐ出す」


30 秒後。サーチはシールドを完全展開し、上昇を開始。


「……1……2……」ベルガンのカウントも始まる。


再び射線に入ったサーチに SUB11F が即反応する。幸い、先ほど吹き飛ばされた位置関係の影響で YA-24 主砲の射程からは外れていた。


「ドドン!」


サーチのシールドに着弾。しかし 100% まで硬化したシールドは SUB11F の副砲程度では大きく損なわれない。


「……4……5!」


「バカン!」と分厚いコンクリ壁をぶち抜き、ベルガンが指定座標を目指して上昇。数秒で到達。


ヴァロンの次の指示が飛ぶ。


「右下のドローンを視認。エーテル滑空で追え!」


サーチの視覚共有により、小さな標的でも最速で捕捉できる。急降下するベルガンに、横方向への回避では逃げ切れない。5 秒で捕獲、破壊成功。


「よし。あのドローンは本体から離れるのを嫌う。エーテル干渉を警戒しているんだろう。サーチが注意を引いた瞬間に“DD-24”と”ドローン”の間へ割って入れば判断を誤る。——読みどおりだ。次! 左・後方のドローン。創造主からもらった飛び道具、ファイアアロー で貫け!」


ベルガンは掌にエーテルを集中させ、線状の熱線を放つ。「ドン!」即爆散する。

ヴァロンが畳みかける。


「相手は AI。初見の攻撃には対応が遅れる——当然だ。次! 爆散方向へ上昇。視覚共有で次の“円”を示した、そこへ」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


(数分前)大荻山陣営。


「SUB11F 正常稼働、命中率 75%。すごい……魔法のような予測射撃だ」


私兵の声に、大荻山が汚く笑う。


「わはは。化け物どもは夜目も利かん。せいぜいドローンを見つけても AI 制御の回避で接近すら不可能。所詮は化け物だ。人間様の知性の前ではサル同然よ」


「先生、まもなく YA-24の主砲の射程に入ります!」


「AI 射撃管制に優先タスク設定。“突撃馬鹿”から始末しろ!」


「後方の女型は後回しで?」


「最強の“矛”と“盾”。どちらかを先に壊せるなら“矛”だ。盾は所詮盾、こちらへの脅威は薄い。まして女型。矛が死ねば逃げ帰るさ。わはは」


AI は確実にベルガンを誘導し、YA-24の主砲の射線へおびき出す。


「先生、射程に入りました!」


「よし。砲撃システムを SUB11F にリンケージ、タイミングを譲渡!」


数秒後——


「ロックオン……!? 女型が急降下、射線に割って入ります!」


「化け物にも同族愛か? くだらんロマンスだ。構わん、リンケージ継続!」


YA-24 の主砲が火を吹く。独特の低い砲声。

着弾——


「命中!……いえ、まだ活動中……嘘だろ……」


大荻山は一瞬だけ目を疑いながらも優勢を崩さない。


「西へ逃がすな。遮蔽物が増えると SUB11F の射線が取りにくい。東へ追い込め!」


数秒、緊張が張り詰める。


「先生、敵は東側の建物残骸に隠れました。射線取れず。ドローンの光学カメラもロスト、迂回ルート計算中」


「いらん! これ以上 DD-24 からドローンを離すな。ジャミングされたら失速してしまう。隠れているならそれもいい。SUB11F を冷却モードへ、予備弾装填、次に備えろ」


1 分後——


「冷却 25% 完了、予備弾装填完了!」


大荻山が SUB11F を即座に射撃モードへ戻す——その瞬間。


「敵、上昇。西です!」


「逃がすな。射線に入り次第、撃ちまくれ!」


「ドドドン!」


SUB11F が西に逃げた個体を正確に叩く。


「ロックオン。高度750m、緩やかに上昇中。命中率 90%!」


攻勢を強める大荻山——その時。


「建物からもう 1 体出現! 上昇しつつ接近! AI がドローン回避モードに自動スイッチ!」


「駄目だ、それでは横回避になる。手動に戻せ! 距離を取れ、DD-24 から離れてもいい!」


「了解——なんてことだ……先生、ドローン 4 号機シグナルロスト!」


「くそがああ!」


「先生、続いて 3 号機もロスト!」


大荻山の計算が崩れる。


「3号機? 二機墜ちた? なぜだ、報告!」


「1号機の光学映像。レーザーでしょうか、敵から発射された線状の何かに貫かれています」


「まずい、飛び道具……! あいつは接近特化ではないのか?!これ以上ドローンを失うな。回避優先! 西側は砲撃続行。ただし YA-24 への誘導は中止、こちらの防衛を最優先!」


私兵が慌てて AI の命令を組み替える——刹那。


「先生、5号機・6号機、シグナルロスト! 4D 移動予測精度が 50% まで低下!」


「何だ、何が起きている。なぜ急に AI の演算を超えてきた? 読まれている? いや、違う……再計算……そうか、“意図的な状況の高速変化”で AI に再計算を強要し、その隙で精度を落とす——そこを突いているのか? しかし、そんな頭脳戦を——」


「先生! 8号機、落ちました!」


大荻山から血の気が引いていく。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 ベルガン


ヴァロンからの通信が入る。


「よくやった。残りのドローンは放置でいい。もう目としては数に劣る。戦車と装甲車を落とすぞ!」


2025年11月24日月曜日

グノーシア #1話~#6話(一部レビュー)

 <あらすじ>

物語の舞台は漂流する宇宙船。

“人間に化けて人間を襲う未知の敵”――『グノーシア』が船内に紛れこんだことを受けて、

乗員たちは疑心暗鬼の中、毎日1人ずつ疑わしい者を投票で選び、コールドスリープさせることを決める。

グノーシアを全てコールドスリープさせることができれば人間の勝利。

なんと主人公・ユーリは、どのような選択をしても、最初の1日目にループする事態に。

わずかな時間を繰りかえす、一瞬にして永遠のような物語が、いま、幕を開ける。


<レビュー>

本作は、ゲーム原作の人狼×タイムリープ作品です。毎回同じスタートから、人に化けた怪物「グノーシア」をあぶり出していきます。グノーシアを見つけても、逆に襲撃されても、投票で凍らされても――主人公が持つ“鍵”が満足するまで、世界は何度でも1日目へ巻き戻ります。


本作は人狼要素にかなり寄せた設計で、ロール(役職)が機能します。

 ・ドクター:前日にコールドスリープさせた人物が人間かどうかを翌日に判定します。

・エンジニア:1日1回、指定した1人が人間かグノーシアかを判定します。

・守護天使:航行(転移)中に起きるグノーシアの強襲から、自分以外の1人を保護します。

 

初期配置によっては実質詰みに近い回から始まることもあります。合理的に考えれば、主人公は“鍵”が要求する情報を集めるため自分の生存を最優先に立ち回るのが得策に思えますが、物語上はグノーシアの排除と人間側の勝利に尽力する姿勢が貫かれます。

ここはゲーム原作ゆえのシナリオと捉えるのが妥当で、知略よりも“誰を信じるか”を選ぶ物語として受け止められるかどうかで評価が分かれるところだと感じます。


とはいえ、“都合の良さ”や“ゲーム的ロール制”を気にしなければ、本作は毎回犯人が入れ替わるタイムリープ型ミステリーとして非常に相性のよい仕立てになっています。同じ時間へ戻りながら“毎回別の並行世界”へ滑り込むため、犯人・人数・関係性が都度変化します。視聴者も途中まで推理に参加できる点が大きな魅力です。


比較対象としては『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下、リゼロ)は、固定世界で死に戻り→最善ルートを探索する構造です。一方で『グノーシア』は、世界側が毎回シャッフルされる“人狼卓”に近い構造を取ります。固定解を目指すルート探索ではなく、確率と会話で切り抜ける反復推理という趣であり、そのため週単位で視聴しても飽きにくいと感じます。第6話時点でも、会話の癖・嘘のつき方・投票の流れが生む“微妙な手触り”にドラマが息づいています。


総じて、繰り返すほど面白くなるタイプの作品だと評価します。世界の“底”に触れていく手応えが少しずつ積み上がっていく感覚は、アニメ化との相性も良好です。まずは数話、続けて視聴してみていただければと思います。



2025年11月21日金曜日

友達の妹が俺にだけウザい #1~#7(一部レビュー)

 <あらすじ>

学校では清楚な優等生として大人気の彩羽は、明照にだけやたらとウザい。

そんなハイテンション系ウザかわ女子・彩羽に振り回される明照の前に、

塩対応女子・真白が出現。

それをきっかけに、明照、彩羽、そして仲間たちの日常は激変し――!?

ウザかわ女子が(頼んでないのに)寄ってくる! 悶絶必至のいちゃウザ青春ラブコメ、開幕

<レビュー>

親友の妹と、お嬢様の同級生から好意を寄せられる主人公が、無自覚にモテまくるという鈍感系主人公ラブコメです。テンプレの鈍感系ラブコメを抑えつつ、独自要素としてゲーム制作チームという裏の顔と、悩みを持っているヒロインを大胆に手助けする青春要素という表の顔を持っている設定多めの作品です。


設定は多いですが、主要登場人物は少なめで5人位覚えれば楽しく視聴できる情報量を上手くコントロールしている作品です。複数のヒロインとの鈍感系ラブコメだと常時「主人公の取り合い」になってしまうので、多くの作品は主人公にフォーカスしすぎないようにモブを投入し、群像劇のような側面をもたせることがありますが、この作品は取り合いを楽しむことにスポットしつつ、設定を盛ることで少ない人数でも単調にならないような工夫を感じます。

 

作画も安定していますし、なによりキメカットのクオリティは結構高いと思います。原画の工数を上手にメリハリをつけて予算を有効に使用している印象です。


また作品の系統的に、親友の妹が負けヒロインぽく見えてしまい、お嬢様が優位になりがちですが妹の露出の回数を増やすことでどちらがヒロインになるのか、先が読めない(むしろ作者も決めていない)ような面白さがあります。


ハーレム要素もありますが、下ネタや露骨なエロ描写での視聴者アピールは少なく、内容で勝負している気合がとても好感の持てる作品ですので、ややタイトルで損をしている感じはありますが一度見ると面白いと感じる作品ですのでご興味があれば、おすすめです。



2025年11月18日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才⑤》

ある私有シェルターの代表、日本有数の実力者、大荻山《おおぎやま》剛三郎《ごうざぶろう》は、私兵と要人・愛人のみを連れてシェルターを出て、東京脱出を試みていた。


しかし、地下のシェルターから大型エレベータで地上に出た車列を襲ったのは、エーテルによる大規模なシステム障害だった。戦車の駆動系など構造的に単純な部分は動いていたが、早期警戒システムや自動照準システムなど精密機器に関しては機能が停止。

最高性能のタラメア製の戦車や装甲車も精密機器が動作しないとなれば、ただの硬くて重い戦車である。


すぐに私兵のリーダーが大荻山に指示を乞う。


「先生。想定以上にジャミング(電子妨害)が強い。そのせいで、性能の高いシステムが全く使えません。脱出を取りやめますか?」


大荻山の回答は早かった。


「何を寝ぼけている! 自衛隊の兵器はドローンやロックオンシステムを使用していた。つまり、このジャミングには穴がある。少なくともR連隊との戦闘地域まで行けば弱まるはずだ! 進め!!」


号令をきっかけに、車列は埼玉方面へ移動を始めた。先頭はタラメア製の最新鋭の戦車YA-24と装甲車DD-24である。そのあとに私兵を乗せた輸送トラック、バス、自家用車などが続く。


一人のリーダーがつぶやく。


「YA-24。なんて恐ろしい戦車なんだ。精密機器が使えない状態でも進行方向にある大きな瓦礫は崩し、後続車両が通れる程度の“地ならし”をしやがる。まるで道を切り開きながら進んでいるようだ」


すると隣の隊員が答える。


「馬力も重量も自衛隊の25式とは比較にならないスケールだからな。さらにこいつは大荻山さんの指示で、オプション装甲のARM40(前方掃討機構)とSUB11F(全方位対ドローン迎撃機構)を装備している。最強の中の最強だな」


しばらく前進していると、突然「ピピピッ」と計器の起動音が鳴り始めた。どうやら精密機器が息を吹き返したようだ。


直後に大荻山から指示が飛ぶ。


「予想通りだ。ジャミングには穴がある! 索敵ドローンを上げろ!」


装甲車DD-24の上部はドローン格納庫になっている。格納庫の扉が重い音を立て開くと、8基のドローンが勢いよく舞い上がった。


装甲車の中にあるモニターに映し出された索敵情報の範囲は、驚くべき速度で拡大し周囲のガーゴイルを発見する。


大荻山はモニターを睨みつつ呟く。


「どの敵も遠い。そして動く気配もない。やはり暗闇ではヤツラは鈍い。このまま瓦礫の山を抜ければ先日の戦闘の高熱で溶けた区域に入る。そこまでだ。そこまで行けば速度が出せる」


20分後、ついに大荻山の車列はR連隊の残骸が点在する区域までやってきた。その時、索敵システムが反応する。


「何事だ!」


大荻山が無線で声を張る。


「後方より急速に接近する敵影です。数2!」


大荻山は直ぐにその正体を看破した。


「例の王とか女王とかいう特殊個体だ! 一般車両は散開しろ! YA-24とDD-24は光ファイバーリンク。座標をYA-24へ送信! YA-24はSUB11F(全方位対ドローン迎撃機構)で迎撃!」


まるで軍人。一般人である大荻山がタラメアの兵器を持っていた理由はここにある。彼は兵器マニアなのだ。彼は実力者である。その分だけ命も狙われてきた。

自分の命を守る武器――それは護身用ナイフから始まり、銃、機銃と強力な兵器になり、行きついたのがこのタラメア製の兵器である。自分の命を守る武器だけに、その性能は熟知していた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


同時刻、ベルガンとサーチは合流し、大荻山の車列を追っていた。


サーチがすぐに異変に気付く。


「ベルガン、人間の車列が散開を始めたわ! あとはドローンが8機上がってきたわよ!」


ベルガンも答える。


「創造主様がエーテルを抑えたからな。ご自慢のコバエが動けるようになったのか! まずはコバエを潰すぜ!」


ベルガンはサーチの視覚共有でドローンを察知すると、一直線に破壊に向かう。


すると、狙われたドローンは即座にベルガンから離れ始める。


「クソがぁ! 逃げてやがる!」


ベルガンがさらにギアを上げた。その瞬間、サーチが制止を促す。


「危ない! よけて!」


ベルガンがその声を理解した瞬間、「ドン」と鈍い衝撃がベルガンの横腹に刺さる。


「痛ってえ!」


「続けてくるわよ! 上昇して!」


反射的に急上昇するベルガン。僅か数秒後に、数発の弾丸が通過していく。


「ベルガン! 私たちの位置がかなり正確に知られているわ! 一旦距離を取りましょう!」


だがベルガンは知っている。距離が離れれば人間が有利になることを。


「駄目だ! むしろコバエを落とし、接近する!!」


そういって、姿勢を立て直したベルガンに再び弾薬が刺さる。「ドン!」


「ぐあああああ!」


ベルガンは上下左右に回避行動を行いつつ、最も近いコバエ(ドローン)を目指す。


だが、ドローンは狙われると離れていく。


「くっそ! コバエの分際で!!」「ドン!」


「ぐああああ!」


サーチがしきりに通信を入れる。


「ベルガン! 相手はあなたの回避を計算し砲弾を撃ってきている! 回避を複雑に!!」


サーチがベルガンに意識を向けていた隙を、ドローンは見逃さない。


「ドン!」「きゃぁ!」


サーチの脚部に着弾。サーチもベルガン同様、肉体の強化を受けているため一撃で致命傷を受けることはない。

だが、タラメアのYA-24のSUB11F(全方位対ドローン迎撃機構)は大型ドローンを想定した自動迎撃システムである。


それゆえに威力の高い弾薬を装備している。


「サーチ! クソ!!! コバエはダメだ! 追えば逃げる! 深追いすれば撃たれる! 先にあの戦車をブチ壊す!!」


ベルガンはサーチが被弾したことで、怒りがさらに増加する。


「ベルガン! だめ! 直線的な動きは相手の――」


言いかけた言葉が終わる前に多数の着弾音。


「ドン! ドドドン!」


「うおおおお!」


被弾しながらもさらに加速するベルガン。


するとタラメアの戦車YA-24の主砲がベルガンを捉える。


「いけない!」


サーチは急降下してベルガンを止めに入る。


当然この直線的な動きも、迎撃システムの餌食となる。SUB11Fの特徴の一つが、主砲とは独立した複数の砲門からなるドローン迎撃攻撃にある。


「ドン! ドドド! ドドン!」


サーチの体に何度も激痛が走る。サーチは新しい体で手に入れた自己硬化能力で、何とか砲弾のダメージを軽減する。そしてさらに加速。ベルガンを助けるため、シールドの展開準備も進めていた。


「お願い! 早く! 早くシールドを!」


サーチのエーテルシールドは、周囲のエーテルを集約し物質化することで盾として機能する。その特性上、エーテルの濃度が低い地域では、必要なエーテルの集約に時間がかかる。


ベルガンもSUB11Fの砲弾を正面から浴び続け、速度が落ちつつあった。


そしてついに、主砲の射程に入ってしまう。


「ズウウウン」


YA-24の主砲が重音を上げて火を吹いた。三種の火薬を多層的に詰め込まれた砲弾は、発砲後に加速する推進力となる火薬、相手の戦車の装甲を貫通して内部でまず小規模な一次爆発、そして強烈な二次爆発で大きなダメージを生む機構だ。


この主砲が直撃すれば、ベルガンといえど無事では済まない。


だが、SUB11Fの砲撃で姿勢を崩されるベルガンも、これを避ける術はなかった。


直撃。


そう見えた瞬間、サーチがベルガンの盾となって割って入った。


エーテルシールドはまだ完全には展開できておらず、主砲の貫通を許す。そして一次爆発。サーチはベルガンに向かって大きく吹き飛んだ。そして直後に二次爆発。大量の鋼の屑を含む殺傷力の高い爆風が、サーチの体に無数に刺さる。


「あああ!」


思わずサーチの声が漏れる。


ベルガンがサーチに目を向けると、あの美しい右腕と足の一部が大きく損傷していた。一方ベルガンは、サーチが盾になったことで大きなダメージは受けていない。


――また助けられた。


ベルガンは己の顔面を殴ると、サーチを抱きかかえ、射線から離れるため、瓦礫の奥に着地した。


「サーチ。すまない」


傷ついたサーチを眼下に置いたベルガンの表情は、かろうじて知性を保っていたが、怒号に満ちた猛獣のようになっていた。

2025年11月16日日曜日

【軽い日記的なもの】AIによる脅威の文字認識!

こんばんは、管理人の緑茶です。

本日は日記記事です。


先日、とある工場を見学しました。そこは、納品された原料を加工して出荷する工場。長年の悩みは「納品書」と「支払い」の突合でした。理由は、この業界では注文数と納品数にバラつきがあり、分納が常態化しているからです。たとえば、4月の発注500個が「5月に300個、6月に150個、同じく6月に50個」といった具合で分納されます。これが複数の原料で毎月発生します。


たとえば5月だけ切り取ると、工場側の受け取りはこんな感じです。

2025年11月13日木曜日

さわらないで小手指くん(新)(一部レビュー)

 <あらすじ>

小手指向陽・高校1年生。

特技は「気持ちよくさせすぎちゃう超絶マッサージ」!

学費を稼ぐため、スポーツ強豪校・星和大付属高校の寮の管理人となった向陽。

そこで出会ったのは、曲者揃いの美少女アスリートたちだった——。


新時代のマッサージ・ラブコメ、ここに開幕!


<レビュー>

本作はいわゆる今期のアダルト寄りラブコメ枠にあたります。

地上波では当然ながら放送基準により一部の表現が規制されていますが、

実際には有料配信版への誘導を兼ねた“お試し放送”としての側面が強い印象です。


作品としては、単なる刺激描写に依存せず、ラブコメとしての軽快なテンポと

「マッサージ」という独特の設定を軸に構成されているため、

地上波でも十分に楽しめる内容に仕上がっています。


惜しいのは作画面です。

カットごとに品質の振れ幅が大きく、特に日常パートでは

顔や体のバランスが崩れたり、作画が不安定になる場面も見受けられます。

本作はアクション重視のアニメではないため、

原画と動画の差によるブレではなく、演出段階での品質統一不足が目立ちます。


ただし、要所要所では非常に完成度の高いシーンも多く、

ヒロインたちの可愛らしさや色気の描写は高水準。

いわば「高低差」ではなく“明確な山谷”があるタイプの作画と言えるでしょう。


物語は2〜3話ごとにメインヒロインが入れ替わる形式を採用しており、

常に新鮮さを保ちながら進行します。

すでに“攻略済み”のヒロインも同じ寮に暮らしており、

シリーズを通じて登場人物が増えていくため、

結果的にハーレム的展開へと自然に移行していく構成です。


このあたりの展開処理が意外に丁寧で、

単なるエピソード消費型ではなく、過去のヒロインたちも

物語上の役割を持って再登場する点は好印象です。

視聴を重ねるほどキャラクターへの愛着が増していく“キャラモノ”として

一定の完成度を感じさせます。


ジャンル的には“深夜アニメのアダルト寄りラブコメ”に位置しますが、

エロティックな要素よりもむしろ、ギャグとテンポ感に重点を置いた作りです。

規制シーンはあるものの、それだけを目的とした構成ではなく、

コメディとしてのテンポとキャラクターの反応劇がメインになっています。


全体として、視聴者に“ちょっと背徳的な笑い”と

“軽めの恋愛コメディ”を同時に提供するタイプの作品です。

性的な要素を売りにしながらも、物語としての誠実さを捨てていない点が評価できます。


■ 総評

作画のムラや演出の粗は見受けられるものの、

ヒロインの魅力や構成の工夫により、作品全体の印象はプラスに転じています。

むしろ、シリーズとしての伸びしろを感じさせる作品であり、

「アダルト枠=軽薄」という固定観念を少し覆す力を持っています。


深夜枠ラブコメとしては安定感のある構成と、適度に遊び心を取り入れた演出で、視聴後の満足度は高いです。

刺激的な要素を含みつつも、あくまでコメディとして成立している点に制作者の“自制と計算”が感じられました。


やや好みが分かれる作品ではありますが、ラブコメのテンポやキャラ描写を楽しみたい視聴者にはおすすめできる一作です。



2025年11月11日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才④_大荻山の決断》

この作品はフィクションです。

登場する人物・地名・国名などすべて実在のものとは無関係です。

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自衛隊が国有シェルターの人々を地方に退避させた翌日。


光ファイバーの損傷で通信が途絶していた一つの私有シェルターでは、大きな動きが始まっていた。


そのシェルターの代表は、日本有数の実力者、大荻山《おおぎやま》剛三郎《ごうざぶろう》である。

彼は他のシェルターとの通信が途絶したあとも、巨大な受信装置を使い、エーテルの妨害を受けながらもラジオ波を拾い情報を集めていた。


そして、国有シェルターの避難民が一斉に地方へ脱出したと知ったのである。

もともと切れのある思考力と先見性を持ち合わせる大荻山は、容易に自分たちが「切り捨てられた」と理解した。


大荻山のシェルターは内閣シェルターに匹敵する規模・設備を備えた大規模なもので、収容人数一万人、備蓄資材は六か月分という、ある種要塞に近いものだった。

大荻山という絶対的な権力者のもと、治安も維持されている。


しかし、この切り捨てによって大荻山は揺れていた。


ーー自衛隊の軸足が変わった。舞岡がしくじったか。使えぬ男だ。


大荻山は、政治的なパイプ役として舞岡を筆頭に「帝都復権党」を支援し、影響力を発揮していた。

だが、切り捨てられたということは影響力の低下を簡単に想像させる。


そしてその事実が、大きな決断を迫った。


ーー救助を待つべきか。自力で脱出すべきか。


ーー救助を待つのであれば、あと五か月以上は持つだろう。だが都民を脱出させたということは、私有シェルター民は死亡扱いの可能性がある。


ーー自力脱出の場合、このシェルターに避難している約八千人の移動は可能だろうか。兵ではない一般人も多い。


だが彼は僅かに口角をあげると、すぐに結論を出す。


ーー私は聖職者ではない。全員を助ける必要もないか。


決断の速い大荻山は、すぐに私兵のリーダーたちを招集した。


「リーダー諸君。これから話す内容は重要機密だ。よいな」


そういうと、しばらく整列したリーダー十人を見回し、一人のリーダーの前に立った。


「携帯電話を見せろ。当然、電源は切れているな? 無線も見せてみろ」


リーダーは即座に携帯電話と無線の状態を提示した。

それを見た他のリーダーも、当然のように同じ行動をとる。


「よろしい。では説明する。我々は二日後の夜、シェルターを脱出する。脱出はタラメアから買い取った最新鋭の戦車『YA-24』と装甲車『DD-24』を使う。ヘリは使えん。破棄する」


YA-24、DD-24、この二つのキーワードにリーダーたちは動揺を隠せない。

この二つの兵器は民間人である大荻山が保持していること自体が違法である。

しかも両兵器ともに同盟国「タラメア合衆国」の最新鋭機で、国としても国内にあってはならない兵器なのだ。


リーダーの一人が一歩前に出ると質問を投げかける。


「よろしいでしょうか。最新鋭機とはいえ、両機とも一台しかありません。他、通常の移送車両などを合わせても全員の脱出には足りません。徒歩随伴となりますと機動力を活かせません。機動力を活かすため、一括脱出ではなくピストン輸送でよろしいでしょうか」


「その必要はない。タラメアの最新兵器だぞ。それを目撃した民間人は存在していいのか? 駄目だろう普通に。つまり私兵と、信頼できる私の友人だけで脱出する。だったら精々三百人だ。物資用の輸送トラックも使えば移動できるだろう」


それを聞いた女性のリーダーも、一歩前に出る。


「では、約七千五百名を残置となります。食料もそれなりに残すことになります。またヘリなど使用できない兵器の秘匿性に問題が残ります。機密保持の観点から、ピストン輸送による全員脱出を意見具申いたします!」


大荻山は呆れた表情でこれに答える。


「機密保持は当たり前だ馬鹿者。脱出人員を選別するということを正しく理解しろ。我々が脱出したあと、このシェルターでは非常に大きな火災が起こる。悲しいことだ。そして消火に有毒ガスが自動的に使用される。外に出るハッチは故障して動かない。換気システムも火災で停止中。とても心が痛い出来事だが、残された人々は焼かれて死ぬか、毒で死ぬか、火災で食料も燃料も失って飢えて死ぬ。全滅だ。だが、火災で機密事項は焼失。死人に口はない。つまり、問題はない」


女性隊員の表情が濁る。それを大荻山は見逃さない。


「だが、君が正義感から残りたいなら残ってもいいぞ。その場合は私の意思に反するということになる。意味は分かるな?」


女性は黙って一歩さがると敬礼し、


「脱出に尽力させていただきます」


と大きな声で宣言した。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


二日後の夜、情報を開示することなく脱出作戦は、残された人々に気付かれることなく始まった。

大荻山の言葉通り、シェルターの治安部隊を含む私兵と、大荻山の愛人、大荻山のシェルターで保護していた財界の要人のみがDD-24(タラメア製最新型装甲車)に搭乗していた。


大荻山は自ら指揮を執る。


「自衛隊の通信を傍受していたが、やつらは視力と聴力で獲物を捜すらしい。夜目は効かず活動も限定的ということだ。闇に紛れ静かに行動しろ。ライトは赤外線を使え。いいな」


大荻山の車列はゆっくりと、埼玉方面——つまりR連隊とベルガンの戦闘の影響で高熱により地形が均され、比較的瓦礫が少なく、車両の残骸によって車列が目立たないようなルートを目指す。



◆◆◆◆  ◆◆◆◆  ◆◆◆◆◆


同時刻。


お台場上空に浮かぶ神の居城「デスランド」。


ヴァロンが一人、執務室にこもり、強化されたベルガンとサーチとの新しい連携方式について思考を巡らせていた。


そこへサーチからの連絡が入る。


「ヴァロン、ポイント129に人間の兵器を発見。映像を送るわね」


すると、ヴァロンの眼前にエーテルを使った視覚共有能力により、サーチの視界が映し出される。


「随分と明るいな」


思わずヴァロンが口にする。


「創造主様のお力で、光の増幅能力と映像の補正能力が強化されたからでしょう。それで、この車列どうしましょう?」


もちろん映し出されているのは大荻山らの脱出車両だ。


大荻山は闇に乗じたつもりだが、それは前回のR連隊とベルガンの戦いで得た情報である。

サーチがいれば新月でもない限り丸見えなのである。この日の状態であれば、日中とさほど変わらない程度の視界を確保できていた。


「ぶっ潰そうぜ!」


ベルガンが通信に割って入る。


「ベルガンの気持ちもわかる。サーチ、映像を拡大できるか? あと、周囲に迫撃砲やドローンの姿はないか?」


ヴァロンの眼前の映像が一気に拡大される。


「1、2、3……十両編成。先頭は見慣れない戦車。後続も見慣れない輸送車。残り八台は軍用車ではないな、輸送トラック、乗用車というところか」


すると気配もなく、神がヴァロンの後ろから声をかける。


「ふーん。最新型のタラメアのおもちゃじゃないか。面白そうだね。な、ヴァロン!」


「急に現れないでください! 創造主様、お言葉ですが今回は私が指揮をとらせていただきます。私の存在理由を奪わないでください!」


神はケラケラと笑う。


「いやだね! 面白そうなおもちゃを前に譲るわけがない。ヴァロンはさ、もっとこう細かいのとか、面倒くさい消耗戦とか、退屈だけど指揮が必要なやつを頼むよ」


ヴァロンは呆れたような目で神を横目に見つつも、食らいつく。


「いえいえ、これも十分つまらないと思いますよ。結果の見えた出来レースです。強化されたベルガン。周囲には五万近い同胞、サーチも健在、さらにエーテルの影響で人間は精密機器が使えません。瞬殺ですよ」


「そういうとこだよヴァロン君。君は手堅い。優秀だけど面白みがない。君がやろうとしているのは、そうだなー例えるなら将棋のプロが小学生相手に全力で叩き潰すようなものだよ」


「駄目ですか?」


「駄目じゃないけどさ、面白くないだろ。だからここはさ、盤面を整えてやろうよ。まず、エーテルの濃度を下げてタラメアのおもちゃが百パーセント性能を出せるようにする。それから、ベルガンはこの前の戦いで兵を減らしすぎたので、今回は兵なしで戦うこと。つまりこっちの手駒はベルガンとサーチのみ。相手は全力。一人でも逃がしたら俺たちの負け。どう? ワクワクしないか?」


悪い笑み。とても神とは思えない表情である。


「指揮は、このヴァロンに任せてもらえるんでしょうな?」


明らかに不満の声。神はしぶしぶ応える。


「だーめ! でもさ、俺も口出ししないから、ベルガン、サーチでやってごらんよ。それでヴァロンが必要になったら、お前たちからヴァロンに協力を求めるのは認める。これでいいだろ」


ーー創造主様の最高の譲歩か、仕方ない。


ヴァロンは渋々了承し、すぐに大荻山の車列の周囲のエーテル濃度が下げられた。


神は楽しそうに宣言する。


「リベンジ戦を始めるぞー!」


ベルガンは返事をしない。

だがその目には燃える意思が強く出ていた。燃えるような闘志と、凍るような怒り。サーチはベルガンを分析して直感した。


あの人間は運が悪い――と。

2025年11月9日日曜日

【考察】なぜRPGアツマールは閉鎖するほど人気が落ちたのか

ドワンゴのコンテンツの一つとして人気を博していたRPGアツマールですが

結果として採算がとれなくなり2022年に閉鎖となりました。


閉鎖前に一度分析しているのですが、当時はまだサービス中だったので控えめに書いていました。

閉鎖から年月も経ち、そろそろ改めて分析してみたいと思います。



結論としては「コンテンツの拡大方向を間違えて強みを失った」これに尽きると思います。


アツマールの強みはツクールMVと手を組んだ気軽なフリーゲーム公開プラットフォームでした。


試作や体験版などを作った製作者が気軽にアップして、遊んだほうもコメントという形で気軽にフィードバックできるというライトなコミュニティは、ドワンゴの得意とするニコニコ動画と同じ設計の一つの完成形でした。


しかし、弱点も同じでした。それは気軽にアップされたデータを消せない。ストレージの容量を圧迫し採算を悪化させるという部分です。


一応作者ごとにアップロード上限はあったものの、いくらでもアカウントを作り直せるので実質無限ストレージになってしまいました。また非公開にして残すこともできるのでプラットフォームに一切貢献しないゴミデータが蓄積しやすいのも弱い部分だったと思います。


ストレージの維持には費用が必要なので、ドワンゴは広告を入れたり課金製作者への優遇を強化しました。そして、これが最大の悪手で、人気作が出るとその作品を上位に出し、プレーヤーを呼ぶため(つまり広告や課金の原資)を確保するための目玉に据えました。


その結果どうなったかというと、サイトを開くといつも同じゲームが上位に並び尖った新作や人気が出そうなタイトルが埋もれる結果になりました。


新しい人気作が出ないので、ずっと既往の作品が上位にいます。そしてその中には、ちょっと性的な表現のゲームもありました。内容的には文句なしに面白い作品ばかりでしたが、開くたびに同じ顔、そしてちょっと性的となると、おそらく女性層からプレーヤーが減り始めたのではないかと思います。


そしてその頃、製作者側も良くない方向にあったと思います。がんばって大作を作成しても埋もれてしまうため、試作や出オチゲー、体験版、釣りサムネなど全体的な新作の質の低下が起こりました。


なぜなら、少ない労力で数を出した方が、埋もれても見つけてもらえる可能性が増えるからです。そうなると毎日のように似たような作品が出ることになります。いわゆるデフォルト素材を使った雑なRPGです。コンセプトなども特になく、プレーヤーが遊んで後悔するようなタイプです。


そんな中、コンセプトを明確にした作品は頭一つ抜けました。「実写」「フルボイス」「●●すぎる勇者系」などです。これらは分かりやすいコンセプトのおかげでゲーム実況者の目に触れて、アツマールのシステムとは別ルートで名を挙げていきました。


それでも桁違いのプレイ数を誇る上位ゲーム層には後発では勝てず、すぐに埋もれてしまうため「実写2」「フルボイス2」など同じ作者がより過激にバージョンアップして人気の維持を図りました。するとアツマールはさらに固定化されています。


(最上位)超人気作・不動の名作


(上位)企業案件・コラボ作品


(今の人気作品) 「実写」「実写2」「実写3」などなど

---ここまでがユーザの目に留まりやすい---

(普通の新作)


(デイリー人気作)


(既存作品のジャンル別人気作)


こうなると新鮮味もありません。ユーザは態々スクロールして下の方の作品を遊び機会は減っていきます。

そして遊んだとしても雑ゲーに当たる確率も増えていました。


何度か雑ゲーにあたれば、もう今のユーザは手堅く人気作で遊ぶか、アツマール自体に興味をなくします。

するとプレーヤーが減るので、製作者はさらに焦り、奪い合うために奇抜・お色気・ネタゲーなど、まずはクリックさせることに集中していきます。


それらを求めてゲーム実況者は見に来るようになりますが、どんどん質が落ちていくため動画映えしない作品も増え、唯一の「下層からの浮上ルート」になっていたゲーム実況者も別のプラットフォームやフリーゲームではなく製品版のゲーム実況に移行していきました。


こうして、プレーヤーが減ってしまったアツマールは増え続ける雑ゲーのデータ容量の負荷に耐え切れず採算割れとなり閉鎖になった。


当時製作者として、そしてプレーヤーとして参加していた私の分析です。感じ方は人それぞれで全てが真理や真実だとはいいません。


しかし、超人気作や企業案件、今の人気作は別ページに送り出し、サイトを開いたときには運営が遊んで面白かった新作がまず並び、その下に投稿順の新作が並ぶようなページ設計であれば、少なくとも新鮮味と一定の質の担保はされるため、プレーヤ離れは起きなかったのではないかと思います。

2025年11月6日木曜日

異世界かるてっと3(新)(一部レビュー)

<あらすじ>

異世界転移を経て学園に戻ってきた

アインズ、カズマ、スバル、ターニャ、尚文たち。

2組には新たな転校生オットーとガーフィールが加わり、

1組にも謎の転校生たちが現れる。

彼らの学園生活の行く末やいかに――?


<レビュー>

本作は、一話完結型の人気異世界作品キャラクター総出演によるドタバタギャグアニメです。

最大の特徴は、まったく異なる世界観のキャラクターたちが「学園」という箱庭を舞台に交流するという、いわば“ファミコンジャンプ的なお祭りクロスオーバー”的な要素にあります。


通常のアニメでは「主役」「準主役」「脇役」と明確に役割が分かれ、登場頻度や演出の強弱も変わります。

学園ものでは特に、脇役キャラは名前すら与えられず、場合によっては顔の描き分けすら行われないこともあります。

そうすることで主役の存在が際立ち、作品全体に濃淡がつくのが一般的です。


一方で、『異世界かるてっと』のような群像劇的作品では、登場人物全員に主役級の個性とキャラ立ちを持たせています。

これほど多くのキャラクターを一人の作者が均等に描き分けるのは通常不可能ですが、

異なる原作作者が作り上げたキャラクターたちを一堂に集めたアニメだからこそ実現できた珍しい試みといえるでしょう。


そのため非常に新鮮で、すでに第3期を迎えながらも毎回飽きずに楽しめる構成になっています。


さらに本作は、複数の人気作品をまとめている性質上、異なるファン層が共通の作品を楽しむという特殊な状況を生んでいます。

しかし、その点についても丁寧な配慮がなされており、各キャラの性格や設定は原作準拠。

登場頻度やセリフ回しもバランスよく調整されているのが印象的です。


たとえば、出番が少ないキャラがいた場合でも、数十秒程度のショートギャグや掛け合いが用意されており、

ギャグアニメとしてのテンポを崩さずにファン満足度を維持する工夫が見られます。


人気作品のキャラをただ寄せ集めた“雑なコラボ”ではなく、

各キャラの個性をしっかり生かしてコメディに昇華している点に強い好感が持てます。


あえて難点を挙げるなら、シリーズを知らない視聴者にとっては「誰だこれ?」というキャラも少なくない点です。

ただ、その場合は“よくできたモブ”程度に受け止めても十分に楽しめる構成となっています。


総じて、異世界ファンにはもちろん、

テンポの良いギャグや多作品コラボを楽しみたい方にもおすすめの作品です。



2025年11月4日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才③》

連日行われる内閣シェルター内でのタラメア合衆国への対応問題会議。


「先送り論」が50%を占めるこの議論は、まるで議論をすることで実質的な先送りを達成しているような、答えのないタラレバの応酬であった。


そんな中、与党と一部の野党が手を組んで通した決議があった。


「国有シェルター民 地方避難措置」である。


文字通り、今もなお東京の地下に設置された三つのシェルター「埼玉側シェルター」「千葉側シェルター」「神奈川側シェルター」の国民を茨城、埼玉、山梨に集団避難させるというものである。


議論の場には、モニター越しに研究者の篠原《しのはら》涼音《すずね》が重要性を説いた。


「皆さんこんにちは。自衛隊UFB研究室長の篠原です。失礼ながら職務上、顔は映せませんし声も変えさせていただきます」


いかにもAIが作成した男性の顔がモニターに映し出され、変声機を通した篠原の、いつもより平板な声が響く。


「議員の皆さん。資料1をご覧ください。こちらがR連隊の残存数と東京周辺の自衛隊の配置状況です。赤く塗られている部分は兵器、もしくは兵士が不足しているエリアになります」


手元の資料を見ると、国有シェルターの周辺以外、ほぼすべてが真っ赤に染まった地図。


「先日の戦闘で一定のUFBは倒しました。ですが、雑魚を蹴散らしたにすぎません。その雑魚ですが、東京都内にはまだ五十万以上いるようです。さて、そのうちの十万がどこかの国有シェルターへ攻めてきたとします。シミュレーションが資料2になります」


1時間置きの自衛隊とUFBの勢力状況が24時間分並んでいた。


「このシミュレーションに、王とか女王と呼ばれるUFBは含んでいません。単純に雑魚十万を相手にしたとしても、24時間以内に東京周辺の自衛隊の残存戦力の95%が消滅します。これはかなり自衛隊が善戦する想定です」


「しかし、前回は自衛隊側が準備を整えて先手を取り、善戦しました。では、後手に回り防衛戦になった場合はどうでしょう。資料3になります」


そこには、たった10時間で全滅するという結果が書かれていた。


一人の議員が立ち上がる。


「バカバカしい! 迫撃砲も、レールガンも、無傷で残っているのだ! 今回も近づく前に叩き落としてやる! こんなものはシミュレーションと呼ぶものか!」


篠原は想定していたかのように返す。


「前回は時間をかけてUFBを事前にロックオンしておきました。一度ロックしてしまえば多少移動しても自動で補正できます。しかし、このケースは突然襲ってきたことを想定しています。ご自慢の迫撃砲も、レールガンもロックオンなしで……いわば、目を閉じた状態でどれだけ精度が出ますか? 熟練の砲兵で10%。レールガンのように特殊な兵器であれば5%程度です。仮に20%命中したとしても80%が残ります。つまり八万が弾幕を突破します。


味方に近すぎるUFBには迫撃砲もレールガンも使えません。最新の対地対空車両はほとんど残っていません。時速100kmで超低空から迫ってくる人型の的に対して、戦車砲が当たると思いますか? 仮に全弾命中したとしても、一万も倒せません。UFB七万との接近戦に、どうやって勝つおつもりですか?」


議員は何かを言い返そうと思考を巡らせるが、ロジカルな説明に自己矛盾しか生み出せず、力なく黙って腰を下ろした。


この後は篠原の独壇場だった。自衛隊が考えた迎撃プランの弱点を説明したり、内閣シェルターが陥落するシナリオを未来予測のように具体的に説明したり、たった30分。この短い時間で反対する議員は一人もいなくなった。


どちらかと言えば、内閣シェルターにいる自分たちの身の危険を直視することで、避難に肯定的な議員が大幅に増えたくらいだった。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


決議の翌日、大仲の演説が各メディアで報じられた。


「防衛大臣の大仲です。今、この国はご存じの通り、大きな国難に直面しております。全国民の皆様が東京の状態を知り、不安に過ごされていることも承知しております。その中で、特に国有シェルターに避難している皆様はずっと、太陽の届かない地下で過ごされております。率直にご説明すると、国有シェルターの皆様に地方への避難をお願いいたします。避難先は確保してあります。期日は明日、自衛隊が皆様をご案内いたしますので、日の当たる新天地へ避難をお願いいたします。急なお願いで心苦しくはありますが、R連隊が一部のUFBを退けた今、この瞬間が移動の好機なのです。ご協力をよろしくお願いいたします」


このニュースは一気に拡散した。

一部の国民は、R連隊がUFBを駆逐して、地上に戻れることを期待していた。しかしそれは、政府が隠蔽したR連隊の損耗率を知らないからである。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


国有シェルター内。


「ねえ、本当に地上に出られるの?」「……『地方へ避難』って言ってたろ」


「東京、もうダメってことじゃないのか……」


「でもさ、陽の当たるとこに行けるなら……もう何でもいいよ」


誰かのため息と、誰かの小さな笑いが交じり合い、ざわめきがシェルターの天井に反響した。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


翌日、大仲の予告通り、昼には各シェルターに自衛隊の先導部隊が現れた。受け入れ先の地方自治体からも多くの車両がシェルターの出口に集結していた。


こうして、その日の夜には、あれだけの人数が避難していたシェルターから、すべての人々が避難を終えた。たったの10時間で、各シェルター合計で五十万にも上る都民の大移動を完遂させた大仲と自衛隊は、世界から賞賛を集めた。


しかしタラメア合衆国の指導者たちは違っていた。尋常ではない脱出速度を成功させた要因を分析し、それが大仲や津田といった与野党の議員、そして足立・仲原といったR連隊の生き残りが、R連隊凱旋直後から地方への脱出を計画し、根回しや車両の調達を進めていたことが分かった。


そのことから、UFBがいかに脅威であるのか。それを再認識する結果となった。


そして私案にすぎなかった、ある一つの案――

「トーキョー・ステイビライゼーション」と名付けられた、東京一帯を核で“安定化”させる計画が、タラメアの中で多数を得る勢いで浮上し始めていた。


2025年11月2日日曜日

転生悪女の黒歴史 死亡フラグ(新)(一部レビュー)

<あらすじ>

自分の名をつけた主人公「コノハ・マグノリア」が可憐に活躍する、恋と魔法の冒険ファンタジー。

中学生の頃に自ら執筆した物語の世界へ転生した佐藤コノハは、なりたかった主人公「コノハ」ではなく、

その妹で稀代の悪女「イアナ・マグノリア」に転生してしまう。


――新感覚!死亡フラグ回避ラブコメ誕生!


<レビュー>

自分の小説の世界に転生してしまう「悪女転生系アニメ」です。

最近の流行に沿って「悪女」とは言いながらも、実際には根は善良な性格で、周囲のイケメンたちから次々と好意を惹かれてしまいます。


近年は「聖女」「悪女」「追放」「令嬢」×「転生」という組み合わせの作品が非常に多く、正直、タイトルだけでは混乱してしまうほどです(笑)。

しかも、どんなタイトルでも主人公は実は善人で、それに気づいた周囲がヒロインを支えていく――という定番の王道展開が多いため、差別化が難しいジャンルでもあります。


そんな中で本作は、「自分の黒歴史(=過去に書いた小説)」の世界に転生してしまうという点が特徴的です。

物語を執筆してから年月が経っているため、内容を断片的にしか覚えておらず、

本来なら未来を知っているはずの主人公が、記憶の曖昧さから後手に回ってしまうのが面白い設定です。


しかし、後手に回ることで物語に緊張感が生まれ、さらにシリアスな場面でその記憶がよみがえることで、

後手から一転して主導権を握る展開が訪れる――このバランスが非常に絶妙です。


また、ヒロインが原作者であるため、物語そのものに介入し、不幸なイベントを回避しようとする過程で世界が少しずつ歪んでいきます。

ところが、まるで修正力が働くかのように、再び本来の不幸なシナリオへと戻ろうとする。

この「運命の修正」が描かれることで、主人公が知り得ないエピソードが新たに発生し、自己創作と運命のせめぎ合いという興味深い構図が生まれています。


全体としては、王道の設定やネタを重ねていくタイプの作品ですが、

「自作世界への転生」というテーマをうまく生かして個性を出しており、

転生ファンタジーが好きな方には十分おすすめできる作品です。



2025年10月30日木曜日

とんでもスキルで異世界放浪メシ2(新)(一部レビュー)

 <あらすじ>

ある日突然、異世界へと召喚された普通のサラリーマン・向田剛志。

彼は固有スキル『ネットスーパー』で取り寄せた現代の調味料を使い、料理を作って食べながら、伝説の魔獣フェル、スライムのスイとともに異世界生活を堪能していた。


<レビュー>

本作は、異世界転移系の“通販メシテロ系アニメ”です。

最大の特徴はやはり『ネットスーパー』の存在で、どう見ても現実世界にある某ネットスーパーそのままの見た目になっており、登場する食材や調味料も S&Bテーブルコショー や キッコウマン『いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ』 など、実在の商品が多数登場します。そのため非常に親近感のある作画となっています。


もちろん、これらの商品を無断で映像化しているわけではなく、公式サイトでは実物を紹介し、コラボ的な扱いで作中に登場しているようです。

そのため、コラボ商品の登場シーンをしっかりと確保する必要があり、通販+メシテロ系アニメの中でも圧倒的に食事シーンが多い作品になっています。


料理シーンの尺が長く、作り方も非常にリアルなのは、レシピ公開で知られる Cookpad(クックパッド) とタイアップしているからのようです。


当然ながら、これらは地上波アニメで放送されているため、無償ではないでしょう。

宣伝効果も高いため、作品の制作資金の一部として収益化されていると考えられます(確証はありませんが)。


もともとドラマなどで特定企業が商品を登場させる手法はありましたが、ここまで多くの商品を明確に登場させるアニメは珍しく、新しい試みといえます。


料理シーンが長いためメインシナリオの進行はゆるやかですが、日常系アニメのような安心感があり、食事描写の完成度の高さも相まって楽しく視聴できる作品です。

また、旅の仲間が定番の美少女ではなく、多彩なモンスターたちという点も個人的には好印象でした。




2025年10月28日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才②》

内閣シェルターで連日のように行われているタラメア合衆国への対応。

論調は分かれていた。

「先送り論」「虚偽報告論」「断片開示論」である。


勢力の割合は、先送りが50%、虚偽報告が10%、断片開示が35%、静観が5%という形になっていた。


メディアを完全排除し、また情報漏洩嫌疑のある「帝都復権党」は自主的に参加を見送ったこともあり、全体的に保守的な議論となっていた。


先送り論は大勢を占めているものの、日々強まるタラメア合衆国からの情報開示要請にどう対処するのか具体案もなく、会議を空転させる。そこへ虚偽報告派が時間稼ぎとしての虚偽報告を推すものの、タラメア合衆国を納得させられるだけの整合性ある報告の作成には時間がかかるという矛盾を抱えていた。


このような状況下で、防衛大臣の大仲は断片開示を支持していた。


理由は複数あった。


R連隊の損耗によって自衛隊全体の戦力が大きく低下していること。再度反転攻勢をかけるためにはタラメア合衆国の戦力が不可欠。


タラメア合衆国に都合の良い情報を渡すことで、ある程度のコントロールが可能になるという点。日々の開示圧力や虚偽報告作りより建設的。


タラメア合衆国を通じて世界の関心を維持すること。物資やエネルギーを国外に頼るこの国にとって、他国の援助は不可欠。


そしてもう一つ。


タラメア合衆国が情報を分析している時間に、都内に残る国有シェルターの避難民を地方へ移動し安全を確保するための時間稼ぎが欲しい。


大仲としては1〜3は本心であり方便でもあった。彼の中にはずっと4が最重要事項としてくすぶっていた。


空転する会議の途中、短い応酬が挟まる。


「二週間、虚偽報告で稼げます。数で押せば合衆国は一時は黙るはずだ」

「露見した後の二週間を、誰が防衛する? 我々か、あなたか」

「……断片開示で主導権を握る。出すのは、こちらが選んだ断片だけだ」


会議を終え、シェルター内の狭い防衛大臣室。大仲がソファーに横になり、議会答弁をシミュレーションしていると、野党の津田議員が護衛も伴わずにやってきた。


「大仲さん、タラメアの件ですが実際どう思いますか?」


探り合いのない率直な問いだった。


「先送りは不可能。虚偽は論外。静観も無責任。となれば私は情報開示一択です。津田さんもそうでしょう?」


体を起こしながら問うと、津田は肩をすくめた。


「常識的に考えて開示一択でしょうな。与党の半分が先送りとは、決めないことで身を守る流儀か」


「だとしても、野党の虚偽報告案には賛成できません。時間も信頼も失う。悪手です」


津田は大きくため息をつき、無言でうなずいた。


「それで津田さん。意見交換だけではないでしょう。何か用件が」


「そうそう、私はタラメアともパイプがあってね。ちょっと“独り言”を言いに来た」


永田町では、わざとらしい独白が情報の通路になることがある。津田は天井を見ながら独白を始めた。


「タラメアの一部には、この国のUFB問題が本国へ波及することを恐れる声がある。情報は出しても出さなくても、不安は“排除”へ流れる」


そして、ため息交じりに続ける。


「強硬派の中には、UFBがこの国にとどまっている間に、核で根絶やしに——というような議論が、委員会の“私案”で真剣に回っている。困ったものだ」


津田は首をさすりながら、そのまま大臣室を出ていった。


ーーこの国に核を。大仲は早急に国民の退避計画を考え始めた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


数日前、神の居城デスランド。


傷ついたベルガンがサーチと共に帰還した。ヴァロンは面倒くさそうに出迎えると早速嫌味を言う。


「まったく。兵の扱いが雑すぎる。自分の兵だけではなく、相手の兵、布陣、将の思考、考えろ、馬鹿者!」


そう言ってヴァロンはベルガンに肩を貸し、神のもとへ連れていく。


玉座にて神は笑みを浮かべてベルガンを待っていた。


「ずいぶん傷ついたな、ベルガン。勝ち戦に負けた気分を聞かせてみろ」


ベルガンはひれ伏したまま搾り出す。


「申し訳ございません」


神は立ち上がり、肩を叩く。


「違うよ。謝罪はいらない。面白かった。俺が聞きたいのは“今の気分”だ」


ベルガンは顔を上げ、溜めていた言葉を吐き出す。


「悔しい。そして自分が許せない。圧倒的に有利な状況に慢心し、何度も相手の手のひらで踊らされた。そのたびに兵を失い、無力を痛感した。神の兵として失格。この身は分解し、新たな手下をお創りください」


神は笑みを深める。


「サーチも戻ったときに似たことを言った。だが君らの本心は分裂している。『分解してほしい』も本心、『人間への怒り』も本心。時間をかけた個体は思考が複雑でいい」


神はヴァロンに向く。


「今回の戦いをどう見た。ベルガンに足りないものは?」


ヴァロンは即答した。


「情報と射程です。人間の将は情報を細かく分析し、行動パターンを予測して複数の策から最良を選んだ。どんな計略も圧倒的暴力の前では脆いはずでしたが、彼らの兵器は射程が長すぎた。近接主体のベルガンは一方的に削られた。結論は明白。運用の小回りが利く長射程兵器が要る」


神は満足げにうなずいた。


「そう、届かぬ拳は意味がない。ベルガン、新しい肉体を用意した。来い」


サーチが待つ玉座の前に、一時間後、ベルガンが現れた。ひと回りスリムな体型、わずかに知的な顔つき。


「世話になったな、サーチ。借りは返す。……この体はすごい。パンパンに膨れた筋肉じゃない。しなやかで鞭のようだ。反射も移動も飛躍的に向上した」


ここでベルガンは、指先に極細の光を一瞬だけ走らせた。ピンホールの熱線が壁の同一点を連続で貫き、点が線へ“縫い合わさる”。


「さあ、人間ども。絶望の時間の始まりだ」


2025年10月23日木曜日

【第6回 隠れスライムフェスティバル】(レビュー)

・このイベントは、参加者とスライムたちとのかくれんぼです。

会場内に隠れているスライムを見つけて、しぐさ「見つけた!」でポイントゲット!

ハイスコアを狙って、ガンガン探し出そう!

※一緒に参加したパーティメンバー全員のスコア合計が自分のポイントになるので、みんなで協力しよう。


・今回の舞台はアグラニの町!

教会や宿屋が高台にある、高低差が特徴のフィールドです。

スライムたちは、回り込まないと「見つけた!」ができない場所にいることも……。

2025年10月21日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才①》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆

自衛隊のR連隊が私有シェルターの救出作戦を行い、救出には至らず新種のUFB「王」と「女王」を発見、撃退したあの日から3日が経過した。


国会では大仲防衛大臣に質疑が集中した。


内容は主に3つ


1.R連隊の帰還率約30%(損耗約70%)に対する責任論

2.私有シェルターへの次なる施策、計画案

3.同盟国から再三要求されているUFBの情報開示対応


まず、1.責任論については大半の議員はポーズに過ぎず、議員として追及すべき姿勢は見せておきながら内心では想定外の新種との遭遇や後任問題を考慮すると大仲続投を期待していた。

そのため、追及も薄氷を踏むような踏み込んだものはなく、継続議論という名前の「先送り」「実質不問」となった。

 

つぎに、2.私有シェルターの件。多くの議員は人命救助を訴えてはいるものの、内心は「切り捨て」の方針だった。重要視していた日本有数の実力者、大荻山《おおぎやま》 剛三郎《ごうざぶろう》氏の生死が不明であること

そして、連絡が継続していた私有シェルターの数も減りつつあり、いくつかの私有シェルター内では内部的な暴動が発生し暴力的な人物のみが生き残っているシェルターもあった。

もはや貴重な自衛隊を再度投入し国民全体を危機に晒すべきではないという感情だった。


また、この件にこだわりを持っていた帝都復権党の舞岡氏は、前回の作戦情報のリーク犯として疑いをかけられており、後ろ盾の大荻山氏の生死不明も相まって強くは主張を出せずにいた。



問題は3である。


同盟国のタラメア合衆国がUFBおよび、王、女王の情報開示を迫っていた。表向きは軍事支援となっているが、UFBが出現したあの日、真っ先に東京から脱出したのがタラメア合衆国の軍隊である。

R連隊への参加打診もあったが、彼らの目的は自衛隊の最新兵器の性能にあることは明白だった。彼らはUFBというモルモットを使って、自衛隊の戦闘能力を知りたいのである。


それには理由があり、ロングレンジ・レールガンも含め、この国が所有する最新鋭機の機密情報は強固に守られていた。平和主義という理念を前面に出すことで兵器を開発・製造・量産していることすら公にはしておらず

配備状況も噂程度にとどめられていた。ところがこの有事にあたって、実践に投入されてきた。これは同盟国からみても予想外の脅威で、UFBは対岸の火事で済むが自衛隊の最新兵器は同盟国としての軍事バランスを揺るがしかねない身に迫る危機なのである。


UFBは死亡すれば霧になって消えてしまう。王と女王は逃がした。となると、UFBの情報開示は最新兵器の戦闘データ開示ということになる。同盟国は軍事的解析能力に優れた大国である。その国に戦闘データを送ることなど出来ようもない。

国会はメディアを追い出して、このテーマについて議論を交わしていたが、紛糾を極めた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


政治家が議論に時間を溶かしているあいだに、自衛隊では戦闘データの解析作業が進んでいた。


解析には変人研究者の篠原《しのはら》涼音《すずね》が指揮を執り、スーパーコンピューターを超えるという天才的頭脳を存分に発揮していた。


研究室にR連隊の隊長、足立《あだち》昭介《しょうすけ》と仲原《なかばら》香《かおり》三佐が進捗を確認するために入ってきた。


涼音は足立を見つけると足早に駆け寄った。


「足立隊長!涼音ですー!」


研究室では鉄の仮面とよばれる無表情の篠原だが、足立には表情豊かに笑顔で声をかける。


「篠原さん、解析はどうですか?」


すると待ってましたとばかりに、研究室の卓上モニター3体のUFBを映し出した。


そして嬉しそうに解説を始める。


「まずはこれ、これはぁ今まで私たちがぁ戦ってきた。ふつうの子」


次に中央の筋肉質の個体を差す


「これがぁ、王?でもぉたぶん王じゃないですねぇ。特攻隊長の子ですぅ」


そして女性の個体を差す


「この子はぁ、たぶんサーチって名前ですぅ。周囲の物質を集約硬化させて白い盾をつくれますぅ。みんなは女王って呼びますが、これはたぶん門番?みたいな守備型の子ですぅ」


足立は驚きが隠せなかった。解析と言えば速度や筋力といったスペックを差す。だが篠原はスペックではなく組織のポジション、特徴、名前などを説明したからだ。


「あの、篠原さん?」


「涼音でいいですぅ」


「じゃあ涼音さん」


黙っていた仲原三佐が割って入る。


「隊長!男性が女性の呼称に名前を使うのは規律が乱れます。篠原とお呼びください」


この言葉を聞いて睨みつける篠原を完全に無視する仲原。


険悪な空気を読んだ足立が話を戻す。


「それで、なぜ王ではないと?あと名前、サーチとは?いや、それ以前に頼んでいたUFBの性能解析はどうなってる?」


「はぁい!これはですね、想定される筋力などはこちらのボタンを押すと表示されまぁす」


そういうと、卓上スクリーンをタッチする。


「こーんな感じでぇ、脚力とかもぉ瞬発力とかぁ持久力とかぁ、稼働性能とかぁ、耐久力とかぁ跳躍力とかぁ、多面的に分析しましたぁー」


これがこの篠原涼音が変人研究者と呼ばれる所以である。普通の人間が想像する数倍斜め上まで詳細に研究してしまう執着力。そして僅かなデータから細かい情報を分析してしまう思考力、20代でUFB研究室の室長に抜擢されただけはある。

余りに細かい数値の羅列に仲原が少し後ずさりする。一方足立は前のめりになっていく。


「すごいじゃないか!UFBの能力が丸裸だ!!想定飛行限界高度4000mか・・・意外と低いな。ふむふむ。」


その様子を見た仲原がすぐに自身も前のめりになると問う


「これらの情報は後でゆっくりみますが、名前とか王ではないといった情報の根拠は?」


仲原の質問に篠原は無表情に答える。


「映像を見れば分かりますよね普通。まず、状況。我々が殲滅したのは池袋付近のUFBのみですよ?それで王様が激怒して城から出てくるのは不自然です。だって池袋の周囲にはまだ何万も兵がいるんですよ」


「それに、この子、王という割には戦闘力も半端。統率力も半端。カリスマ性もないですよ。群れの長は圧倒的な力とかまとめる能力が必要なんですよ。この子はその器ではないです」


「最後は味方のサーチちゃんに助けられてますし、総合的に見れば精々戦闘隊長級。もしくは特攻隊長みたいなポジですね」


足立が反応する


「そうだ。サーチ。なぜ、この女がサーチという名前だと分かった?」


篠原は、得意げに答え始める


「はぁい。それはぁ、この映像ですぅ。ここ、ボロボロになった特攻隊長君が、この女の子の名を呼んでいます。きっと予想外だったのだと思います。例えるならぁ、駅前で終電逃して絶望してたら、同期の異性にばったり出会ったみたいなぁ様子ですねー」


「で、口元を拡大してぇ。コマ送りにするとぉ、ここが「さ」ですね。で、このまま口の形がしばらく変わらないので、「さー」と伸ばしていると推測できますぅ。次のコマが「ち」と言って口を閉じてます。つなげると、この女の子はサーチですね!」


「ついでにぃ、この口の使い方からしてぇ、この子達は日本語を使ってますねぇー」


足立は驚きに声も出なかった。

2025年10月19日日曜日

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか(新)

<あらすじ>

舞踏会の最中、公爵令嬢スカーレットは、婚約者である第二王子カイルから突如婚約破棄を告げられます。しかも、理由はまったくの言いがかりであり、すでに新しい婚約者がいるとまで宣言されてしまいます。耐えがたい屈辱と怒りにスカーレットは「最後のお願い」として、自らに濡れ衣を着せた令嬢を殴らせてほしいと申し出るのでした。それは、彼女の“断罪”が始まる合図に過ぎなかったのです。


<レビュー>

本作は、悪役令嬢もののテンプレートを一度踏襲しつつも、序盤からその枠を破壊するような展開で始まります。主人公スカーレットが「令嬢らしからぬ」暴力で不正を正していくスタイルは非常にインパクトがあり、視聴者を強く引き込みます。


この作品の最大の特徴は、見た目が少女漫画風でありながら、アクション描写が非常にハードでリアルであるという点です。殴打のシーンでは血の描写や顔面の歪み、返り血までもが丁寧に描かれ、ただのギャグや演出ではなく、キャラクターの意思や背景を支える強さとして描かれています。


スカーレットは全員に暴力を振るっているわけではなく、相手の背景や状況に応じて、眠らせるなどの対応もしています。このバランスが、彼女をただの暴力令嬢にせず、正義感と判断力を併せ持つ主人公として成立させている点が非常に巧みです。


さらに、第二王子との婚約破棄によって、第一王子のお気に入りとして迎えられる展開も含まれており、いわゆる“追放”の末により高い地位に昇るという点では、近年の流行である「ざまぁ系」や「逆転劇」の要素も感じさせます。ストーリー構造においても、権力構造が変化することでスカーレットの行動の自由度が増し、それが彼女の持つ正義と行動力をより活かす形になっています。


現在3話時点で物語は最初のボス戦へと進もうとしており、今後どのような悪役が登場し、それをどう成敗していくのかという期待が高まります。作画、演出、キャラ描写、いずれも丁寧で完成度の高い導入でした。


悪役令嬢ジャンルに新風を吹き込む作品として、強烈な第一印象を残すシリーズの始まりでした。暴力系令嬢という異色の切り口に興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。



2025年10月16日木曜日

グノーシア(新)

 <あらすじ>

物語の舞台は漂流する宇宙船。

“人間に化けて人間を襲う未知の敵”――『グノーシア』が船内に紛れこんだことを受けて、

乗員たちは疑心暗鬼の中、毎日1人ずつ疑わしい者を投票で選び、コールドスリープさせることを決める。

グノーシアを全てコールドスリープさせることができれば人間の勝利。

なんと主人公・ユーリは、どのような選択をしても、最初の1日目にループする事態に。

わずかな時間を繰りかえす、一瞬にして永遠のような物語が、いま、幕を開ける。

<レビュー>

『グノーシア』は、ゲーム原作ならではの人狼ゲーム要素と、タイムリープの構造を組み合わせたSFミステリー作品です。視点人物であるユーリは、記憶を引き継ぎながら何度も同じ一日をやり直す立場にあり、ループの中で真実に近づこうと試みます。

冒頭では、ユーリが記憶も状況もわからないまま人狼ゲームに巻き込まれ、あっという間に敗北してしまう展開が描かれます。そこから再びループが始まるという、プレイヤー=視聴者と同じ無知な立場からスタートする導入は非常に没入感がありました。

作中の「グノーシア」は人狼と似た存在ですが、その正体や能力、増殖や移動の可否など、詳細が明かされていません。そのため、単純に「一人ずつコールドスリープさせれば勝てる」といった論理が通用しない点が作品に不気味さと深みを加えています。

とくに印象的だったのは、ユーリが前回の記憶を保ったまま再び同じ一日を迎える描写です。それにもかかわらず、状況が必ずしも前回と同じとは限らず、毎回異なる可能性が提示されることにより、視聴者もまた「何を信じればよいのか」と不安を掻き立てられます。

このあたりから、「実はタイムリープではなく、並行世界を渡っているのではないか」という疑念や、「ユーリ自身も無意識のうちにグノーシアなのではないか」というメタ的な推理を楽しめるようになっており、SF好きにとってはたまらない仕掛けが随所に仕込まれているように感じました。

演出も凝っており、閉鎖空間で進行する心理戦に加えて、キャラクターたちの個性がしっかり描かれているため、今後の人間関係の変化も楽しみです。

ゲーム的な仕掛けと重厚なSFミステリーを融合させた本作は、ループものや人狼系の作品が好きな方には強くおすすめしたい一作です。今後の展開次第では、大きな話題になる可能性も感じさせる作品だと思います。




2025年10月14日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑱ 大規模攻勢_10_終結》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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内閣シェルター作戦司令部


防衛大臣の大仲《おおなか》晴彦《はるひこ》は、私有シェルターに取り残された民間人を救出すべく、最新鋭の装備を備えた救出連隊「通称:R連隊」の報告を聞いていた。


報告はR連隊の隊長、足立《あだち》昭介《しょうすけ》からの無線で行われている。


「大仲大臣。足立です。不測の事態が発生し、王を取り逃がしました。しかし、周辺のUFBは全滅。再度私有シェルターの救出を再開可能な状況です。ご判断を」


突如出現した、UFBの王。足立と仲原三佐のプランにもない存在だった。ところが彼らは準備していたプランを流用し、これを見事に追い詰めた。


彼らは「取り逃がした」というが、正体不明の敵対生物と交戦し、敵の王を退けたことは大きな功績といってよい。


だが、犠牲が多すぎた。王の熱線による奇襲で前衛の半数を失い、作戦全体としての無事帰還は約30%にとどまっている。この状況での判断は1つしかない。


「撤退してください」


大仲は冷静に告げる。


足立の隣にいた仲原《なかばら》香《かおり》三佐が無線に割って入る。


「大臣! 人命救助のチャンスです。最低でもこの地域に拠点を作ることを進言します!」


すぐに足立が無線を取り返す。


「大仲大臣。足立です。私も仲原三佐を支持します。この好機を活かさなければ死んだ仲間が浮かばれません」


大仲は一瞬だけ、隣に座る津田議員に視線を向ける。


津田は黙って首を横に振っていた。


「駄目です。敗走した王は自尊心が傷ついているはずです。もしUFBに感情があるとすれば、王を傷つけた自衛隊に怒りの反撃を試みるでしょう。そういった意味では、今の安全は一時の静けさ――台風の目のようなものです。すぐに撤退を始めてください。これ以上自衛隊を失えば国有シェルターの防衛や、東京以外の地域の国防に影響が出ます。わかりますよね?」


それでも仲原三佐は引かなかった。


「敵の弱点は把握しました。再度攻撃を受けても撃退してお見せします。ですから拠点だけでも作らせてください!」


大仲は少し沈黙すると、声のトーンを落として小さく告げた。


「実は、先ほどの王の熱波攻撃以降、私有シェルターとの通信が切れたのだ。光回線・銅線・非常波長の順で再試行し、近傍ビーコンも確認したが応答なし。熱波によるケーブル焼損か、施設損壊の可能性が高い」


それを聞くと仲原三佐はさらに語気を強める。


「ならばなおさら――」


その言葉を遮ったのは足立だった。


「了解しました。残存部隊を集め撤退します」


「隊長! 何でですか!」


「確実な人命救助なら俺も前に出る。だが、この状態は違う。もし手遅れだった場合、残存兵力では撃退できたとしても確実に犠牲が出る。大仲大臣の集めたこのR連隊は各地方の防衛ラインに配属されている最新鋭部隊だ。これ以上失うことは国防にかかわる。確実ではない人命救助に対してリスクが高すぎる」


足立の握る拳に仲原は心情を察した。そして自身もまた、国防と不確実な人命救助を天秤にかけ、足立の発言に反論することはできなかった。


自衛隊は即座に再集結すると、埼玉の防衛ラインまで後退した。あれほど多くの最新鋭の兵器が出立したその場所に、無事に帰還できたのはおおよそ30%。また損傷している車両、隊員も多く、この国は忘れかけていた戦の凄惨さを思い出すこととなった。


それでも埼玉シェルターでは凱旋パレードが行われた。


メディアは自衛隊を英雄と称えた。


レポーターのマイクにも感情が乗っている。


「私有シェルターには至りませんでしたが、我が国の自衛隊はUFBの王をあと一歩まで追い詰め、撃退しました。今まで一方的に侵略されていた我が国が、侵略者に対して大規模攻勢を成功させたのです! 勇者の凱旋です!」


内閣広報室は、治安安定化のため戦果の要約のみを公表する方針を決定。強い情報統制の下で、自衛隊側の損失は一切報道されていない。事実として多くのUFBを倒したこと、そして王と対峙し、撤退させたこと――その部分だけが国民に伝えられた。


また凱旋パレードに参加した兵器も、最新鋭装備は出さず、国民が知る型のみが形式的に並べられた。


そのパレードの車列に仲原三佐と足立の姿もあった。


「隊長。これはプロパガンダですよね。実際はほとんど敗走に近いのに」


そういうと、虚しそうに喜ぶ国民を見つめる。


「そうだな。だがこれも仕事だ。世論次第では大仲大臣の議員生命も危うい。世論を徹底的に味方に付けるんだ。ほら、笑顔笑顔!」


足立は乗っていた装甲車のハッチから顔を出し、敬礼して国民に勝利をアピールした。


この光景にSNSは懐疑的だった。


<< ドローン部隊が全然いなくね? >>

<< 勝利? シェルターには行けなかったのに? >>

<< なんで王を追い払ったのに、手ぶらで帰ってきたの? 馬鹿なの? >>


辛辣なコメントが並ぶ。

だが、そのコメントも政府が準備した「賞賛チーム」のポジティブコメントで上書きされていく。


<< 大勝利!! >>

<< あの総理を説得し、勝利をもぎ取った大仲大臣すごい! >>

<< なんか自衛隊が頼もしくなった >>

<< 賛否はあるかもだけど、スピード感はあった >>


それを見る大仲大臣と津田議員は複雑な表情であった。本当は戦死した隊員に最大の感謝と賛辞を送りたい。だが、そこに注目してしまうと国民感情が不安定になり、治安の悪化になりかねない。


大仲は戦死者・行方不明者リストを見ながら、ひとりひとりの家族に宛てて感謝の意と追悼の気持ちを記した手紙を書こうと心に決めていた。


数日後、王との戦いを分析していたチームから報告が入り、大仲は自身の決断が正しかったと確信した。


超高性能偵察ドローンのカメラが恐ろしいモノを捉えていた。


女性のような姿をした未知のUFBが映っていたのだ。この個体は高速で上空から白いシールドを展開しつつ王に接近し、熱源の尾を残してそのまま王を連れ去った。


王のような特殊な個体は、王ひとりではなかった。その真実は自衛隊に大きな衝撃を与えた。


誰かがこの個体をこう呼んだ――「女王」。

2025年10月12日日曜日

味方が弱すぎて補助魔法に徹していた宮廷魔法師、追放されて最強を目指す(新)

 <あらすじ>

突然の“追放宣告”をきっかけに、再び運命の歯車が回り出す――。

王太子レグルス・ガルダナを陰で支えてきた宮廷魔法師アレク・ユグレット。

かつての仲間と再び出会い、伝説のパーティーが再集結する。

新たな物語が幕を開ける――。始めよう、新しい伝説を。あの日の続きを。


<レビュー>

今のところ、王道の「追放系ファンタジー作品」という印象です。補助魔法に徹するように命じられ、その通りに戦っていた主人公が、王太子から無能とみなされて追放される、という導入は、ある意味このジャンルのお約束とも言えるでしょう。


物語は、かつての仲間と再会し、冒険者として再スタートを切る形で始まります。作画も安定しており、特にキャラクターの表情描写が豊かで、喜怒哀楽の表現に力が入っているのが印象的でした。声優陣の演技とも相まって、キャラクターの感情や個性がよく伝わってきます。補助魔法専門と思われた主人公が、実は攻撃にも長けた万能タイプだったという設定も、王道でありながら安心感のある構成でした。


追放系の作品はすでに飽和気味のジャンルですが、その中で生き残るには「強烈な個性」か「安心の王道」が求められます。本作は後者の道を選んでおり、視聴者が期待する展開をきちんと抑えてくれている点が魅力です。


また、1話時点でヒロインがすでに主人公に強い好意を持っている様子も描かれており、今後のラブコメ展開や王太子パーティー側の混乱・焦燥も含め、物語としての広がりが感じられました。


まだ1話のみの評価ではありますが、王道の追放ファンタジーが好きな方には安心しておすすめできる作品です。まずは2話目以降の展開を楽しみに視聴を続けてみたいと思います。



2025年10月9日木曜日

素材採取家の異世界旅行記 (新)

<あらすじ>

異世界へと転生したごく普通のサラリーマン・神城タケル。

彼が新たな人生をスタートさせたのは、剣と魔法の世界『マデウス』。

そこでは、身体能力の強化や莫大な魔力、さらに価値あるものを見つけ出せる「探査能力」など、

数々のチート級能力が与えられていた――。

タケルの“異世界・素材採取の大冒険”が今、始まる!


<レビュー>

本作は、いわゆる異世界転生ものの中でも、「採取能力」と「魔力」に焦点を当てたタイプの作品です。


戦闘が主軸ではなく、素材集めや冒険を軸に据えた物語構成のため、「戦闘で無双!」系とは異なり、異世界を旅する雰囲気をじっくり楽しめるのが特徴です。


とはいえ、主人公には明らかなチートスキルが備わっており、「探査能力」や「魔法」によってイージーモードな展開が多いのも事実です。ただし、呪文の使用には発動条件があり、「呪文の言語(基本的に英語)」を知らないと発動できないなど、適度な制約も盛り込まれています。この「少しだけ不便さが残る仕様」が、物語のバランスを上手く保っているように感じました。


ちなみに、呪文の言語は英語ベースになっており、「飛ぶ」は「フライ」、「鑑定」は「サーチ」など、視聴者にも意味が推測しやすい構成になっています。一部では「identificationの方が正確では?」と感じる場面もありましたが、アニメ的演出として受け入れられる範囲でしょう。


さらに本作では、ヒロインよりも先に「マスコットキャラ」が登場します。近年の異世界転生作品では珍しくないパターンですが、マスコットを最初に据えることで、作品全体に落ち着きと継続性を与える狙いがあるように思えます。


マスコットは序盤のインパクトを狙う要素ではなく、物語全体の「可愛げ」や「読後感の良さ」を支える存在です。この点に着目することで、制作陣が安易にヒロインやバトル、セクシャルな要素に頼らずとも「視聴者をつかめる」という自信を感じました。


まだ1話目の段階ではありますが、演出・キャラクター・設定すべてに誠実さと意図が感じられ、今後に期待できる“雰囲気重視の異世界作品”として注目したい一作です。




2025年10月7日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑰ 大規模攻勢_9》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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ベルガンは窮地《きゅうち》に立たされていた。


自衛隊の考え抜かれた作戦行動にベルガンの長所を潰され、自衛隊車両の攻撃や自爆ドローン。

設置されたTNT爆弾を使ったトラップにダメージを受け、翼は機能を失い、片足も失っていた。


そしてまさに今、眼前には20~30の自爆ドローンがベルガンに向かって直進していた。


特殊弾を装備した自爆ドローンの破壊力は、直撃すれば翼を壊すほどの威力である。その自爆ドローンが大量に迫る状況はベルガンに敗北を告げていた。


「くそがあああ!」


最後の力を振り絞り吠えるベルガン。


だが、もはや反撃する体力も、回避する機動力もベルガンに残されていなかった。


迫る自爆ドローン。ベルガンには、その数秒が数分にも感じられ、悔しさ、不甲斐なさ、怒り、様々な感情が渦巻いた。


自爆ドローンは2mまで接近。


ーー駄目だ。


ベルガンがあきらめ、空を見上げると。白い一筋の光が見える。


「チャージ完了!シールド展開!」


円形のエーテルで作られた美しい白い障壁が瞬時にベルガンと、そのシールドを発生させた本人。サーチを包み込んだ。


「サーチ!」


「話はあとにしましょう。この障壁も長くは持たない。私の尻尾をつかみなさい」


その僅かな会話の最中も、幾重もの自爆ドローンが障壁に当たり轟音《ごうおん》をあげる。


サーチはベルガンが差し出された尻尾をつかんだことを確認すると、障壁を展開したまま一気に上昇し、居城デスランドへと撤退を始めた。


ベルガンは助けられたことに驚きながらも、尋ねずにはいられない。


「サーチ、この障壁は一体?、それに何か体型も変わってないか?」


サーチは一瞬振り向くと、すぐに前を向いて答える


「私は自衛隊の最初の攻撃で機能を失って、デスランドに撤退したのよ。そこで、創造主さまからこの体をいただいた」


「以前よりも速く、そして味方を守る力を持ったこの体でもギリギリだったわね。ごめんなさい」


そういうと、さらに加速し、居城へと向かった。



◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


10分ほど前 自衛隊の視点


足立《あだち》昭介《しょうすけ》と副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐は、モニターと無線、計器類を凝視しベルガンの動きを分析していた。


仲原三佐が声をかける


「隊長。やはり、UFBの王であっても目視による索敵ですね。こちらの部隊を見つけると直進してくる行動パターンはUFBと変わりません。ただ、速度が異常に早いですね。あとは被弾してもダメージが見受けられません」


足立は仲原に視線を向けることなく首を振る。


「いや、ダメージはある。先ほど自爆ドローンが左翼に命中した。そこから左側への旋回能力が落ちている。おそらく翼に異常があり、空気抵抗をコントロールしにくいのだろう。右旋回に比べ1.5倍は左旋回の方が大きい」


「え!では特殊弾は効果がありますね」


仲原はすぐに無線を取る。


「UFBは左旋回に異常アリ。各攻撃部隊はUFBの左側面から攻撃。右側面の部隊は攻撃を中断」


ー右側からの中断


この言葉に各部隊の隊員たちは違和感を覚えた。

左側面からの攻撃を優先は理解できる。しかし右側攻撃すれば相手は左右への注意が必要となり、より多くの着弾を狙える。


その疑問は次の命令で納得に変わる。


「いい?徹底的に左から狙い続ければ絶対に、距離を取るか上昇するはず。ダメージが少なくても弱点から攻撃されるのは心理的なプレッシャーになるわ。だから必ず一度冷静になるために距離をとるはずよ。その時に自爆ドローンで右の翼ももらうわよ!」



足立が作戦を聞くと少しだけ表情が緩む


「ほんと、三佐の作戦はおっかないねー。例えるなら敵を水中にたたき落として息継ぎに顔を出したら”顔面いただきます”みたいだもんなぁ」



「隊長。無駄話は後にしてください。作戦中です」


仲原には答えるだけの余裕はなさそうだった。


ーーちょっと緊張をほぐしてやろうと思ったのに……


少々切ない気持ちになる足立であった。


しかし、その間も戦況は仲原三佐の予想通りの展開になっていく。


無線が入る。


「UFBの王。TNTのトラップにかかりました!誘導成功です!」


仲原はすぐに返す


「右側の分かりやすい地点に配置したのだから当然でしょ!そのまま、3時の方向へ追い込んで!ソロソロ距離を取るはずよ!自爆ドローンは近づいて!きづかれないでね!」


まるで予言のようにベルガンの動きは仲原の射撃統制によって誘導されていく


「左の翼の動きがさらに落ちたようね!距離を取りに来るわよ!左側からの弾幕集中!後ろか上に逃げたくなるくらい撃ち込んで」


その予言は直ぐに的中する。ベルガンは大量の発砲音に反応し、本能的に大きく上昇した。


「きた!今よ!自爆ドローン、右側の翼へ全速突撃!」


モノの数秒で接近していた自爆ドローンがベルガンの右羽根の根本で爆発する。



「ぐあああああ」


ベルガンが声を上げ、旋回するように落下していく。


仲原は手を緩めない。


「隊長!レールガンの使用許可を!」


すぐさま足立が許可を出す。


旋回しなが落下するベルガンの頭上で、ロングレンジレールガンの特殊弾が炸裂する。


「埼玉シェルターで待機中の自爆ドローン部隊。全機離陸して!ポイント126にある装甲車に追い込んで!大丈夫!もう飛べない。敵は足の速いチーターよ!」


特殊弾の影響で、移動範囲を大きく制限されたベルガンに対し、逃げ道をふさぐように自爆ドローンが囲いこんでいく。


2分ほどで、ポイント126へ追い込んだ。


そして、そこにある装甲車はTNTを満載しているトラップである。


装甲車に起爆装置はないが、自爆ドローンが衝突することで容易に誘爆した。


「装甲車トラップ成功!」


現場の士気も上がっている。


「これで終わりよ!自爆ドローン全方位から突撃!!TNTのダメージでもう速くは動けないはずよ!」


一斉にベルガンに向かって急降下するドローン群。


ーー勝った。


そう思った、その時。


「自爆ドローン命中!!いや、何だあれは?」


仲原が想定外の出来事にすぐに気づく。


「白い球体が、UFBの王を覆っています。まるで卵の殻のようです。自爆ドローンの爆風でも破壊不能。こちらの残機も減ってきました!」


仲原は指示を出す


「大丈夫!奥の手ってことでしょ!ここまで使わなかったということは、何か弱点があるのよ!ありったけの自爆ドローンで押し切って!」



次々とサーチのシールドに自爆ドローンが衝突する。


「駄目です!残機10%!ダメージ確認できず!」


「隊長!ロングレンジレールガンを再度使います!」


「座標を送れ!レールガンで焼き払う!」


通信兵が急いでドローン部隊から回収した座標情報をロングレンジレールガンに送る。


ーー先頭車両が残っていれば、自動でロックオンできたのに!


焦る仲原に無線が入る。


「UFBが上昇しています。現在は高度150」


「そんな!翼は確実に痛めたはず。回復した?」


「逃がさないで!残りのドローン全機攻撃!」


「UFBは離れていきます!どんどん加速中。近距離用の自爆ドローンでは爆薬が重すぎて追いつけません!」


仲原はそれでも引かない!


「戦車部隊、対地対空車両前進!移動射撃!撃ち落とせ!」


そこへ足立が割って入る


「足立だ!全軍追撃中止!」


「なぜですか!あと少しですよ!」


「あの状態から上昇した上に、あの速度で飛行している。想定を超えた状態だ。深追いは厳禁だぞ!落ち着け!」


そういうと、すぐに内閣の防衛省司令部に無線を取る


「大仲大臣。足立です。不測の事態が発生し、王を取り逃がしました。しかし、周辺のUFBは全滅。再度私有シェルターの救出を再開可能な状況です。ご判断を」


大仲からの返答は早かった。

2025年10月5日日曜日

友達の妹が俺にだけウザい(新)

 <あらすじ>

馴れ合い不要、彼女不要、青春のすべてを“非効率”として切り捨てる高校生・大星明照。

そんな彼の家には、なぜか親友の妹・小日向彩羽が入り浸っている。

ハイテンションな“ウザかわ女子”彩羽に日々振り回される中、塩対応の美少女・真白も現れ――?

思春期のど真ん中、ウザくて可愛い青春ラブコメディが幕を開ける!


<レビュー>

本作は、鈍感系の主人公・明照と、奔放なヒロインたちによる王道ラブコメ作品です。

1話を視聴した限りでは、作画の安定感が高く、ヒロインの描写には特に力が入っている印象を受けました。表情の変化や構図に工夫が見られ、視覚的にも楽しめるアニメに仕上がっています。


構成としては、主人公とヒロインの軽快な掛け合い(いちゃいちゃパート)と、物語を進行させる若干シリアスなパートが交互に展開される構成で、視聴者を飽きさせない工夫がされています。


また、メインヒロイン2人に加え、今後登場すると思われる複数のサブヒロインを含むハーレム構成となっており、ラブコメファンには刺さりやすい内容です。


このジャンルにありがちな「ご都合主義」や「唐突なイベント」もなく、全体的に設定が丁寧に構築されており、シナリオに説得力があるのも魅力だと感じました。


キャラクターの描き分けも的確で、髪型や髪色、話し方などの記号的要素をうまく活かし、登場人物の個性が一目で把握できる構成になっています。作画自体は比較的シンプルなスタイルですが、演出の工夫によって視認性と没入感を両立させているのは好印象です。


まだ第1話のみの視聴ですが、主人公の内面には「ただのハーレム系主人公」では終わらない要素もありそうで、今後の成長やシリアスな側面の掘り下げにも期待が持てそうです。


2025年10月2日木曜日

青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない(終)

 <あらすじ>

「驚いた。わたしのこと見えてるんだ」

どこかで聞いたような台詞。思春期症候群を“プレゼントしている”と語るミニスカサンタは、咲太に告げる。

「……わたしはね、霧島透子って言うの」

SNSで流行する予知夢、正体不明のネットシンガー、ポルターガイスト……

謎めいた現象とともに、心揺れる少女たちとの不可思議な物語が再び始まる。

思春期は、まだ終わらない――


<レビュー>

『青春ブタ野郎』シリーズ第2期がついに完結しました。

全体としては楽しめましたが、個人的には第1期ほどの完成度や感動には届かなかったというのが正直な感想です。


とくに、本作のもう一人のヒロイン「霧島透子」の正体が映画に持ち越しとなった点は賛否分かれると思います。

こうした構成は「続きが気になる」余韻を生む反面、視聴者に対する不親切さや商業的な引き延ばしと受け取られる可能性もあります。


■ それぞれの編の感想と違和感

今期は4人のヒロイン編で構成されていましたが、どれも設定や結末にややモヤっと感が残りました。


卯月編:思春期症候群が「空気を読めるようになる」という成長の一環のようなもので、解決しなくても良いのでは?と感じました。


赤城編:パラレルワールドの自分と入れ替わる設定は面白いですが、「体に落書きできる」仕組みの説明が不十分。


姫路編:恋愛感情が引き金で「相手のことを覗き見られる」設定はロジックの接点が薄く、ややこじつけ感あり。


寧々編:人格が変化したはずなのに、福山拓海と少し話しただけで一気に解決してしまい、描写の省略が気になりました。


■ 映画館への誘導構成と個人的考察


最終的に「霧島透子の正体は映画で」という構成になりました。

私自身はこのように視聴者の時間や興味を引き延ばすようなマネタイズ手法には疑問を感じます。


とはいえ、ここで少し考察を――

私の推測では、霧島透子の正体は「美東美織」ではないかと思います。理由は以下のとおりです:


作中で思春期症候群にかかっていない唯一の登場キャラ


寧々が「誰からも認識されない状態」だったにもかかわらず、美東だけは彼女を認識できていた


PVに登場する透子の髪色・前髪の形状が美東と酷似


不必要なキャラを何度も登場させないという作劇の原則から、彼女の存在は何らかの意味を持っているはず


思春期症候群がSNSや人間関係にまつわるものであることを踏まえると、彼女にも何か心の傷や願望がありそうです。


■ 総評


2期全体としては作画・演出・キャラクターの描き方において高い水準を保ち、「日常に潜む不思議」と「思春期の心の葛藤」を描くシリーズとしての魅力は健在でした。


ただ、終盤で重要な謎を映画へと持ち越すことで、作品単体としての「完結感」にやや欠ける部分があったのも事実です。


私としては映画には行かない予定ですが、本作の良さは確かにあり、シリーズ全体として見れば心に残る作品でした。



2025年9月30日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑯ 大規模攻勢_8》

足立《あだち》昭介《しょうすけ》率いる「R連隊」は急速に接近するUFB特殊個体に対処すべく、散会陣形で待ち受けていた。


副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐はこの短い期間でも、できる限りの情報を集めようと複数のドローンを使い、その挙動を分析した。


「足立隊長。特殊個体の速度ですが水平飛行で時速80kmです」


足立が報告を聞き、仲原に目線を向ける。


「はい。どうやら我々を見失ったようです。先ほどの熱線で破損した戦車の黒煙も視界を遮っています」


「仲原、後方のロングレンジ・レールガンに座標を送れるか?」


「可能です。特殊弾で焼き払いますか?」


「手札としては持っておこう。だが、UFBの王の武器は熱線だ。当然自身の耐熱性能も高いと見よう」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


同時刻 ベルガンの視点


ーーチッ。味方の損耗が早くファイアバレットの出力は40%といったところか。

ーーどこまで破壊できた?


ベルガンは眼下に映る自衛隊の兵器の残骸を眺めつつ、残敵を探していた。


しばらくすると、ふと残骸が途切れる。


ーーここまでか。全滅させたのか?

ーーいや、それにしては綺麗すぎる。半壊車両の一つもないなんてことはあり得るのか?ここまで距離が離れればファイアバレットの威力も相当低下しているはず。


ベルガンがあたりを見回していると、1機のドローンを発見する。


ーーまた羽虫か。


しかし、驚くことにその羽虫はベルガンに語り掛けてきた。


「私に敵意はない。私は自衛隊R連隊隊長、足立である。なぜ我々を攻撃する。話し合う余地はないのか?」


ーーほう。この羽虫が人間どもの隊長か。


ベルガンは羽虫に近寄ると答える。


「貴様らに名乗る名はない。貴様らを攻撃する理由だと?目障りだからだ。虫ケラごときが私と話し合うなど思いあがるな!」


そういうと、高速回し蹴りでドローンを破壊してしまう。


3秒間ほど、ドローンが落下する音だけがその場を支配した。


だが次の瞬間、瓦礫の陰から自衛隊の攻撃が始まった。


「ドドドドン」


ベルガンの背中に数発命中する。


その衝撃で体勢を崩すベルガンに、別の方角から再び攻撃が降りかかる。


ベルガンの体は戦車よりも硬い皮膚に覆われている。だが、対戦車を想定した弾丸の直撃は、一定のダメージをベルガンに与える。


数発被弾したベルガンは、素早く上昇すると攻撃の発射地点を探しだす。


「そこか!」


急降下で自衛隊車両を襲うベルガン。その強襲速度は通常の滑空ではない。エーテルを推進力に変換した超高速滑空である。


ベルガンはその勢いのまま自衛隊の兵器の外装を突き破る。


生き残った隊員が武器を持ち銃口を向けるが、ベルガンを捉えることなどできようもない。銃を構えた瞬間に首をはねられ視界が回転し、落下する。


通常のガーゴイルでも近接戦では自衛隊を圧倒する。これがベルガンとなれば一方的な蹂躙《じゅうりん》。狙われた車両は確実に乗員ともども破壊されていく。


だが自衛隊側も車両を遮蔽物に隠したり、バルーンダミーという車両型の風船を使ってベルガンをかく乱する。


ベルガンは自衛隊の兵器に接近する必要がある以上、ある程度の行動を予測されてしまう。1発のダメージは少ないものの、何度も被弾しているとベルガンにも変化が起こる。


それは偶然の一撃から始まった。10台以上の自衛隊の兵器を破壊したベルガンが索敵のために高度を上げた。


その時、側面から自爆型ドローンがベルガンの翼に直撃する。自爆型ドローンが装備しているのは例の高熱反応を起こす特殊弾である。


直撃を受けた翼には亀裂が走り一部が溶け、ベルガンの機動性を奪った。被弾した左翼が思うように動かないベルガンだったが、それでも自衛隊への攻撃には支障はなかった。


「いてええなあ!おい!万倍にして返してやるよ!」


そう吠えると、ベルガンは次々と自衛隊の兵器を狙う。


やがて変化が起こる。攻撃が左側からばかり狙われるようになったのだ。ダメージを受けた左翼は、ベルガンの左側への旋回能力を制限する。


制限されると、軌道が大きくなり被弾する弾薬も増えていった。


また煙幕を巧みに利用され、左側の視界も封じられた。


「くそがあああ!こんなものを何度当てようと、俺様は止まらねえぞ!隠れているヤツラ全てを破壊するからなぁ!」


そういうと、なんとか接近した自衛隊の戦車を軽々と破壊し、再び上昇する。


再び、左側から幾重もの自衛隊の弾薬が飛んでくる。さすがのベルガンも学習し、さらに高度を上げてこれをかわす。


しかし、その行動は自衛隊に読まれていた。


左側にばかり気を取られていたベルガンの右側に、あの自爆型ドローンが炸裂する。


「ぐあああああ」


思わず声が出る。


もちろん致命的なダメージは受けない。だが、両翼を失ったベルガンは旋回するように高度を落とし、地面へ落とされてしまう。


そこへあの「灼熱の雨」が再び降りかかる。ベルガンは機動力を活かし、すかさず自衛隊と距離をとり被弾を回避した。


だが、距離を取ったことで、戦車の主砲がベルガンを捉える。


「ズゥゥン」


重たい炸裂音は、ベルガンへのダメージを物語る。


「くそぉぉぉぉ!」


大地を蹴り、灼熱の雨を迂回して迫るベルガン。捉えたと思った瞬間、戦車は仕込まれていたTNT火薬によって自爆。


爆風と瓦礫がベルガンにさらなるダメージを与える。


それでもベルガンは止まらない。弾丸の角度から敵を割り出し1つ、また1つと自衛隊車両を破壊していく。


だが、それも長くは続かなかった。


埼玉シェルターに待機していた、数百の自爆ドローンがベルガンに対して攻撃を始めた。


翼を傷め、飛べないベルガンは辛うじて直撃は避けるがダメージは避けられない。これまで蓄積したダメージと合わせ、ベルガンの機動力と体力を確実に削っていた。


頭上からのドローンの自爆攻撃を避け、何とか距離を取ったベルガンだったが、そこには1台の破損した装甲車が置かれていた。


ドローンの追跡を逃れるため、この装甲車を盾にすべくベルガンが接近すると、その装甲車には大量のTNT爆薬が隠されており、自爆ドローンの攻撃で誘爆。


ベルガンは片足を失うほどのダメージを受け、地面にひれ伏した。


そしてベルガンが見たものは、20~30の自爆ドローンが自身に直進してくる光景だった。

この数の直撃には耐えられない。ベルガンは天に吠えた。

2025年9月29日月曜日

その着せ替え人形は恋をする Season 2 (終)

 <あらすじ>

ある日の出会いをきっかけに、コスプレを通して交流を深めていく喜多川海夢(まりん)と五条新菜(わかな)。

まだまだやりたいコスプレ、作りたい衣装はたくさん。

クラスメイトたちとの交流や、新たなコスプレ仲間との出会いを通じて、ふたりの世界はさらに広がっていく──。


<レビュー>

『その着せ替え人形は恋をする』Season 2は、コスプレを主軸にしながら、主人公とヒロインの恋愛要素を織り交ぜたラブコメ作品です。

恋愛の進展自体はスローペースですが、それゆえにコスプレに興味のある視聴者にとっては、リアリティある描写や知識の深さが非常に魅力的でした。


■ コスプレ描写のリアルさと広がり

衣装制作、撮影、スタジオの種類、用語解説など、初心者でもわかりやすい構成が随所に見られました。

中でも、カメラやレンズの取り扱い、ポージングの工夫などを説明するパートは、単なるアニメの枠を超えて“知識コンテンツ”としても楽しめました。


撮影機材に実在するメーカー名が登場するなど、現実の企業とのタイアップが推察されます。

マネタイズの手法として、こうした“作品との親和性が高い広告”は非常に上手な例だと感じました。


■ クライマックスの演出とやや惜しい点

とはいえ、最終回のクライマックスシーンにおいて、特定メーカーのロゴが映し出されていた点は少し引っかかりました。

ヒロイン・海夢が、1期からの思い出をフラッシュバックする感動的な場面だっただけに、商業的な意図が前面に出ることで感情の波から少し離脱してしまった印象です。


ただし、これは作品全体を損なうほどではなく、他の要素が非常に丁寧に作り込まれていたことで十分に帳消しにできる範囲でした。


■ 作画・キャラクター描き分けの工夫

本作はコスプレ描写が多く、髪型や衣装が頻繁に変わるため、記号的なデザインでのキャラ識別が難しい作品でもありました。

それを補うように、所作や表情、表現のトーンなどでキャラクターを描き分け、さらに「このコスプレは誰がしているのか」というテロップまで表示されるなど、視聴者の理解をサポートする細やかな配慮が印象的でした。


■ 総評

恋愛・ファッション・創作が交差する良作。最初から見直したくなる完成度でした。




2025年9月25日木曜日

強くてニューサーガ(終)

 <あらすじ>

4年もの時を遡ったカイルは、前世で失った家族・友人・恋人と再会し、再び訪れる悲劇を防ぐべく、2周目の人生に挑む。

物語は佳境へ。カイルは伝説の武器「聖剣ランド」を手にし、魔族ガニアスを打ち倒す。


<レビュー>

『強くてニューサーガ』は、魔王討伐後にタイムリープした主人公が、今度こそ仲間を失わずに勝利を目指す異世界ファンタジーです。


さて、最終回まで視聴した率直な感想ですが、2期への期待を高める形で幕を閉じたという印象でした。


■ 物語の「区切り」か「未完」か?


最終話では、


カイルが王族に「死ぬか部下になるか」と選択を迫られる


魔王が、部下ユーリガからガニアス討伐の報告を受けて、カイルへの警戒心を強める


という展開が描かれましたが、どちらも“導入”に留まり、大きな進展はありません。

これを「キリの良いクール終了」と好意的に捉えることもできますが、視聴者の目線では『2期ありき』の構成と感じられる部分が強く残ります。


もし仮に2期がなかった場合、全12話が“単なる壮大な原作広告”と受け取られてしまうリスクもあると感じました。


■ 作品としての魅力と課題


本作は低予算を感じさせない工夫が随所に見られた、意欲的な佳作です。

特にキャラクターの背景やタイムリープ設定は丁寧に描かれており、魔族との戦闘シーンも緊張感と爽快感が共存した演出でした。


ただ、最終回が「物語の一区切り」ではなく、「次シーズンへの橋渡し」として終わったことは好みが分かれそうです。


個人的には、せめて最後に“2期制作決定”などのアナウンスがあれば視聴後の満足度も高まったのではないかと感じました。

過去にも「2期を匂わせたまま終わる作品」はありましたが、ファンとしてはそうならないことを強く願っています。


■ もし単体完結なら…


もし本作が1期限りで終わる予定だったとしたら、

「俺たちの戦いはこれからだ」的な演出で綺麗に締めくくった方が、単発作品としての完成度・満足感は高かったかもしれません。


■ 総評


タイムリープの設定と丁寧な人物描写が光る

魔族との戦闘や仲間との再会は胸を打つ展開に

最終話の“導入で終わる感”が惜しい点ではあるが…

2期への期待を強く持たせる終わり方としては納得感あり

→ 結論:2期がある前提で楽しむべき良作。期待して待ちましょう!




2025年9月23日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑮ 大規模攻勢_7》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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池袋周辺の私有シェルターの一つに、自衛隊の車列は接近していた。


目視でも変わり果てた池袋の駅前が確認できる距離だ。



私有シェルターの民間人を保護するための耐熱装甲車3台。その装甲車を守るための戦車3台、対空対地迎撃車両が4台、索敵用のドローンベースが1台で構成された。救護小隊が車列を離れ私有シェルターの方向へ向かい出した。



その後方には、万が一の備えとして、さらに戦車2台、対空対地迎撃車両2台、耐熱装甲車2台の護衛部隊も距離を取って続く。



その時、ドローンベースから発進した索敵ドローンに異変が起こる。


池袋の少し奥、瓦礫の多い地域を中心として扇状にドローンが次々と応答不能となったのだ。


足立《あだち》昭介《しょうすけ》は即座に、部隊の前進を止め、遠距離から望遠レンズを使って扇状の発生源を確認する。


そこにいたのは、通常のUFBよりも一回り大きく、強い熱源を発する1体のガーゴイルであった。


そう。ベルガンである。


副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐が、本能的に危険を察知すると、すぐに足立に進言する。


「隊長!あれは普通じゃないです!一旦防御陣形に戻しましょう!」


足立が返答をしようとした刹那。


ベルガンの固有技「ファイアバレット」が火を吹いた。


深紅の炎が自衛隊に猛烈な速度で接近する。


「退避!」


足立の指示が飛ぶ。


だが、指示と同時に深紅の炎は救護小隊、そして後方の護衛部隊を飲み込む。


各車両は、耐熱装備に助けられながら一斉に進路反転を開始する。


だがベルガンのファイアバレットはこれでは終わらなかった。


深紅の炎はやがて赤みが抜けていく。そして次第に青く、やがて透明度の高い青へと変わっていった。


これは燃焼効率の上昇意味する。


当初、数百℃であった炎は瞬く間に1200℃まで上昇し、車両の限界温度を超えていく。


足立や仲原がいる後方でもその閃光は確認できるほどで、足立は何度も無線を取る。


「退避!退避!!!全軍退避!、ポイント120まで撤退だ!!!」



その声は救護小隊、そして後方の護衛部隊には届かなかった。1200℃の高温は車内の人命を一瞬で焼き払い、兵器の弾薬に誘爆する。


「ボン」・・・「ボボン」


そこかしこで、自衛隊の車両が爆発して停止する。


その被害は護衛部隊のさらに後方、自衛隊の車列本体の一部にも及ぶ。


転回するも余裕もない車両は、全速力で後退を始める。


だが、青い炎に飲まれた兵器は数秒で「ボン」と音を立てて炸裂してしまった。


足立は茫然としていた。


ーー何が起きたんだ?


その様子をみた仲原三佐が、声を張る


「状況報告!ダメージコントロール!ポイント120まで後退!急いで!」


仲原の声で我に返る足立。


無線のチャンネルを防衛大臣に変更するとすぐに報告する。


「正体不明のUFBが出現。数1!強い高熱を広範囲に展開中!救護小隊、および、護衛部隊は全滅。本体車列にも被害が出ており状況確認中!」



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


同時刻 内閣シェルター作戦司令部。


大仲は津田と目を合わせていた。舞岡議員は力なく崩れ落ち天井を仰いでいる。


口火は大仲が開いた。


「UFBの将が城にはいなかった。この規格外の強さ、UFBの王とみて間違いないでしょう。やはり防衛拠点を作るべきだった。早計な判断で多くの自衛隊が一瞬で・・・」


そういうと、力なく席を立ち上がるとフラフラと司令部の出口へ向かっていた。


津田は直ぐに察し、声を張り上げる。


「防衛大臣 大仲晴彦!戦闘継続中だぞ!席に戻れ!指揮を取れ!」


しかし反応はない。ふらふらと出口へ向かう。


津田も席を立ちあがると、床に座り込んでいる舞岡を足で払いのけ、大仲の襟首をつかむ。そして渾身の力を込めて持ち上げると大仲を大臣の席へ投げとばした。


「防衛大臣は貴方だ!これ以上の被害を食い止めるのは誰の仕事だ!」


投げ飛ばされた衝撃と、津田議員から聞いたことがない叱責で大仲は我に返る。


「すみません。ありがとうございます」


そういうと大臣席に座り、無線を取る。


「足立、仲原、埼玉まで撤退できそうか?」


ノイズ交じりの無線から足立の声が返ってくる。


「撤退中にもう一度今の攻撃を受ければ全滅です。仲原の解析では炎の射程は縦方向には長いものの、横幅は広くありません。広く散会陣形をとり、迎撃を進言します。動ける被弾車両はその間に埼玉へ撤退させます」


大仲は一瞬目を閉じて決断する。


「わかった。頼む、一人でも多くの命を守ってくれ!」


「当然です!私と仲原で命に代えても、損害は最小限にして見せます!」


そのやり取りの中、偵察部隊からの無線が割って入る。


「先ほどのUFB特殊個体が移動開始、こちらに向かっている模様です!」


再び緊張が走る


2025年9月22日月曜日

【かるい日記的なもの2】アニメ最終回までの尺つなぎ雑記

こんばんは!管理人の緑茶です。


今週から来週にかけて、夏アニメが最終回を迎えるクライマックス週。

作品に水を差したくないので、この時期はゆるめの日記更新が増えております。


今回は以下の3本立てでお送りします。

2025年9月18日木曜日

【かるい日記的なもの】日々雑感 2025年9月

こんばんは!管理人の緑茶です。


今週来週で多くのアニメが最終回を迎えることもあり、今日は雑記中心の日記回となります。最終回直前の作品にあれこれ語るのも、なんだか少し野暮な気がしてしまって。


というわけで、“つまらない話テンプレ第一位”こと「夢ネタ」から雑感スタートです(笑)。


■ 夢の中の「ルパン三世 vs ルパンレンジャー」


週末に2時間ほど昼寝をしたのですが、その間に見た夢がまさかのフル尺映画並み。

しかも、「ルパン三世」と「ルパンレンジャー」が激突するクロスオーバー作品でした。


導入からクライマックス、オチ、後日談まできっちり構成されており、目覚めたときは2時間映画を観終わったような気分。


もちろん名作というほどではないですが、「そこそこ面白い」のが妙にリアル。

日頃から小説やゲームシナリオを考えている“創作脳”が夢にまで出張してきたのかもしれませんね(笑)。


■ 将棋は魔法?


最近、休憩時間に同僚と将棋を始めました。

同僚も私も“にわか”なので、「定石」から始めて、あとはお互いの攻め方に応じて場当たり的に対処していく、というレベルです。


ところが、上司が混ざると空気が一変。

子どもの頃から将棋に親しんでいたということで、我々の手筋はすべて見抜かれているようです。


一番驚くのは、私自身の意志で動かしているはずの玉(王将)が、気が付くとどこにも逃げ道がなくなって詰まされていること。

数手前に打たれた桂馬が、最終局面で私の退路をふさいでいたときには、もはや魔法かと思いました。


差がありすぎると勉強にもならないし、なにより自分が魔法にかけられてるような気持ちになりますね……(笑)。


■ 田舎の物々交換と鶏経済


先日、里帰りした際に、近所のご家庭に野菜を届けました。

田舎では、野菜が採れすぎたら“不足していそうな家”に持っていくと、自然な流れで物々交換が発生します。



その家では鶏を飼っており、今回は新鮮な卵と交換してもらえました。


ふと見ると、以前は黒い鶏がいたのに、今年はすべて茶色。聞いてみると、鶏は10年以上生きるが、産卵のピークは3年程度とのこと。

そのため、3年で食肉に回して新しい鶏を導入するそうです。


ヒヨコから育てる選択肢もありますが、雄雌の判断が難しいうえに、卵を産むまで育てる手間を考えると、種鶏孵化場から1羽2000円程度で買う方が効率的とのこと。


卵の市販価格は6個200円=1個約33円。

1羽が1日1個を3年間産めば1095個。卵ベースで36500円の“収益”になります。

エサ代等は別途かかるとしても、10羽で年間数万円の副収入……ちょっとした「卵ビジネス」ですね。


ちなみに、月収20万円のサラリーマンは、卵で換算すると鶏200羽分の働きということに……。


卵1個33円 × 200羽 × 30日 = 約19万8000円


うーん、ちょっと複雑な気持ちになります(笑)。


それでは、今日はこのあたりで。

来週はアニメの最終回ラッシュ。しっかり見届けて、また記事にまとめたいと思います。

引き続きよろしくお願いします!

2025年9月16日火曜日

2025年9月14日日曜日

その着せ替え人形は恋をする Season 2 ~21話(一部レビュー)

<あらすじ>

ある出会いをきっかけに、コスプレを通して交流を深めていく女子高生・喜多川海夢(まりん)と、伝統工芸の道を歩む男子高校生・五条新菜(わかな)。

やりたいコスプレや作りたい衣装は尽きることなく、クラスメイトや新たなコスプレ仲間たちとの出会いの中で、ふたりの世界はますます広がっていく。


<レビュー>

『その着せ替え人形は恋をする』は、コスプレと青春恋愛を融合させたラブコメ作品。

Season2では、恋愛要素を保ちつつ、よりコスプレを主軸に置いた構成が目立ってきました。


五条が持つ「日本人形職人」の設定はやや薄れてきた印象がありますが、シナリオは明るく、キャラクターの成長と多様な趣味の世界を丁寧に描いています。


・コスプレ描写の深化


登場キャラクターの増加とともに、コスプレの幅も広がりました。

版権作品、職業コス、オリジナル創作などジャンルが多岐に渡り、視覚的にも飽きさせません。


また、コスプレに興味がない視聴者に配慮された演出も魅力です。

たとえば専門用語のカットインや、モブキャラによる自然な用語解説があり、初心者にも分かりやすい設計が施されています。


・"撮影”パートと違和感


今期では特に「撮影」の描写が強化されています。実在するカメラメーカの一眼レフカメラを用いた撮影シーンや、構図・カメラの設定などの解説が入るほどの丁寧さです。これは作中CM的なものなのかもしれませんが、これはこれで勉強になりました。


ただ、その丁寧さゆえに一部シーンでは尺を多く取りすぎている印象も。

海夢と新菜が、まるでカメラマン志望のように熱中する描写は、やや本筋の“コスプレ製作”から外れて感じられる部分もありました。


とはいえ、日常回としての位置づけであり、今後も過度なPR的演出が続かなければ、気にならない範囲でしょう。


・恋愛描写の進展


Season1に比べて、ふたりの距離感も確実に縮まっており、恋愛要素もじわじわと前進しています。

甘酸っぱくもじれったいやりとりは、視聴者の共感を呼び、コスプレに興味がない層でも恋愛ドラマとして十分に楽しめる構成です。


コスプレに興味がない方でも、青春恋愛ドラマとして楽しめるので、ぜひ一度ご覧になってみてください。


2025年9月11日木曜日

【ゲームレビュー】『ハロルドの日常 コレクターズカード実装版』

 


■ゲーム 概要

『ハロルドの日常 コレクターズカード実装版』は、日常系短編RPG(アドベンチャー寄り)として展開される作品で、砦を舞台にハロルドと仲間たちが盗賊撃退に挑む物語です。

本作は、同名の原作『ハロルドの日常』をベースにしつつ、カード要素の追加とシナリオの強化が施された、事実上のリメイク作品となっています。

<レビュー>

■ 原作との違いと進化

原作の『ハロルドの日常』は、エンジニアが30分で制作するというチャレンジ企画から生まれた作品でした。

そのため導線やテキストは最低限で、コンパクトながらも一定の完成度を持っていました。


今回の「コレクターズカード実装版」では、シナリオライターによるシナリオ全面改稿が行われ、テキスト量は2倍以上に。

一本道ではなく、迷いそうな場面には複数のルートを設けるなど、プレイヤビリティの向上にも配慮がなされています。


■ キャラクター強化と会話演出

原作ではキャラ設定がありませんでしたが、登場キャラクターも再設計されています。

ハロルド:ちょっと弱気な勇者

ルキウス:冷静なツッコミ僧侶

マーシャ:闇落ち気味の天然魔法使い

テレーゼ:ギャップ萌え要素のある女戦士


これらのキャラ設定により、戦闘外の会話や寸劇パートにもテンポと個性が生まれています。

お使いクエストの合間には、「ボケ→ツッコミ→オチ」の構成でコミカルなやりとりが差し込まれ、ちょっと笑えて、心が和む演出が随所に光ります。


また、モブの町人たちにも簡単な設定が付加され、舞台全体に活気が出ています。


■ ミニゲームとゲームバランス

本作には複数のミニゲームが収録されており、息抜きとして楽しめる構成です。

基本的には2~4回のプレイでコツがつかめる難易度設計ですが、「訓練」クエストに関しては原作仕様が維持されており、10回以上かかる可能性も。


ただし、失敗回数に応じてクリア条件が緩和される親切仕様が継続されているため、時間をかければ必ず突破できる点は安心です。


■ コレクターズカードの演出

本作の目玉となる「カードコレクション」では、25種類のキャラクターカードが実装され、カードごとに完全な書き下ろしテキストが用意されています。


イラストは、もこもこさんが担当。特筆すべきは、高レア女性キャラには凝った演出が施されつつも、低レア男性キャラは標準立ち絵に抑えられている点。

このことで「あたり感・はずれ感」が明確になり、収集の楽しさが視覚的にも演出されています。


■ 総評

プレイ時間1時間程度でコンプリート可能なコンパクト作品ながら、シナリオ・演出・カード・ミニゲームと丁寧に作られた満足度の高い1本です。

特に、原作をプレイした方にとっては「別物レベル」の進化が楽しめるでしょう。


ご興味があれば、Nサークルゲーム広場またはふりーむにて配信中ですので、ぜひプレイしてみてください!


2025年9月9日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑭ 大規模攻勢_6》

 この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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池袋付近、戦闘区域。


ベルガンの編成した部隊が自衛隊(R連隊)への波状攻撃を開始した。


5000体規模の部隊による波状攻撃は、戦術というよりも力と数で強引に自衛隊の陣形を崩す強襲に近いものだった。


先頭の部隊が一斉に自衛隊に急速接近を始めた。


無数のガーゴイルが自衛隊のレーダーに捕捉される。その瞬間、自動照準システムが動作し対空対地迎撃車両が猛烈な火力を発揮する。


もともと航空機や速度の速い軽戦車を破壊する対空対地迎撃車両である。その弾薬の破壊力は高く、1~2発を被弾しただけでガーゴイルは次々と霧散、もしくは姿勢制御を失い地面へと崩れ落ちた。


だが、単純に計算しても5000体のガーゴイルを倒すためには5000~10000発の発砲が必要。投入され、射程内に配置されているたった5両の対空対地迎撃車両では、最低でも2分、命中精度や連射による放熱を加味すれば5分は要することになる。


最初の5000体が全滅し、即座に次の5000体が再度攻撃を仕掛ける。この5分でガーゴイル達は自衛隊の部隊へと着実に近づいていく。


幾多の同胞が盾となり、道を切り開き、後方のガーゴイルが遺志を引き継ぐかのように真っすぐに迫る。


1kmもあった自衛隊との距離は、5000体の損失で300m程度前進。次の5000体になると対空対地迎撃車両の性能限界によって、連射速度が落ち、400mの距離を詰めた。


自衛隊は対空対地迎撃車両の援護のため、戦車や装甲車からの機銃攻撃を始め、ついに最後の5000体との対峙となる。


距離は残り300m。対空対地迎撃車両は半数が弾切れ。ベルガンが「やつらのクビに同胞は届く」そう確信した瞬間、自衛隊後方のロングレンジレールガンが放った特殊弾が炸裂する。


空中で炸裂し高熱の雨をもたらす特殊弾だ。


ファイアバレットの準備動作で身動きが取れないベルガンには、信じられない光景だった。


なぜなら、今回の攻撃はスピードを重視した波状攻撃である。しかもロングレンジレールガンに座標を送る時間も、自軍に影響のな地域を計算する時間もなかったはず。


だが彼らは自軍の座標に向けてロングレンジレールガンを使った。放たれた高温の雨は自衛隊の先頭車両の上空で炸裂。灼熱の雨が最後の5000体にも降り注ぐ。


ーー味方ごと焼き払うつもりか!人間は仲間意識が強いはずではなかったのか!


灼熱の雨は、5000体のガーゴイルを、1分程度ですべて飲み込んだ。


ーー全滅?届かなかった?


本来なら1000体程度が生き残り自衛隊の車列に突入。車列をかく乱しつつ相手の注意を引き付けて、手元に残していた手勢4000体が再度強襲。自衛隊の陣形に入ってしまえば近接戦ではガーゴイルが圧倒的に有利となる。

しかし、ベルガンは近代兵器。特に戦車のような火力の高い兵器は高く評価していた。


4000体は奮戦するも恐らく全滅。そこへ1時間かけて練り上げたベルガンの全力ファイアバレットを発動し、自衛隊の8割を薙ぎ払う想定だった。


だが、自衛隊は自軍上空に灼熱の雨を降らせることで最後の5000体を瞬殺するだけでなく、手元の手勢4000が近づくことも困難な状況を作り上げた。さらに驚くべきことに、自衛隊の先頭車両は生き残っていた。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 神の居城デスランド。玉座。


神は上機嫌だった。


「ヴァロン。見ろ、自軍の上に特殊弾を撃って、簡易バリアに仕立て上げた。面白い!人間らしい、こざかしい作戦じゃないか!」


神は手を叩き驚きを隠せないヴァロンに語り掛ける。


「しかも、ほら、特殊弾の炸裂する高度を高くすることで広範囲に時間をかけて高温の液体が飛散するように工夫してきた。あれなら耐熱仕様の地上部隊は耐えられる。もともとガーゴイルの火炎対策で数百度まで耐えるような武装になっているからな!」


「そこまで耐熱性の高くないガーゴイルだけを殲滅できる。いい作戦じゃないか!こりゃーベルガンの敗北かなー」


ふと我に返るヴァロン


「創造主様、戦況は極めて悪い状況です。増援をー!」


「駄目だ。興ざめするようなことを言うな」


上機嫌から一気に不機嫌になった神の声に、ヴァロンは思わず頭を下げ目線をそらす。それでもヴァロンは声を絞り出す。


「人間の勝ち、それもいいでしょう。ならば、ならばせめて、ベルガンに撤退命令を!!」


「撤退?すればいいじゃないか。撤退の判断ができるかどうか。それを見るのも面白い。いいかヴァロン。俺は今、このイベントのクライマックスを楽しんでいるんだ。索敵と射程で有利をとっている自衛隊。数と個々の力で自衛隊を大きく上回るベルガンの部隊」


「そのベルガンの部隊が、間もなく全滅するだろう。その時、部隊の将たるベルガンの行動に期待しようじゃないか。ファイアバレットはまだチャージ30%程度か、想像以上に早く兵を損耗ている。さぁファイナルイベントだ!」


神の不敵な笑いが玉座に響き、ヴァロンはベルガンに祈ることしかできなかった。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 自衛隊司令部。


R連隊の隊長、足立《あだち》昭介《しょうすけ》と副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐は、やや後方の耐熱装甲車に乗車し、ここを司令部としていた。


「前方の部隊に損害ナシ、ロングレンジレールガンの影響を受けていません」


その報告に、息を吐く足立。しかしすぐに仲原が声をかける。


「UFB残存部隊確認。散会しつつ接近中。数4000」


ベルガンの手勢を補足していた。


「隊長。プランA2を発動します」


先ほどの、自軍の上空に特殊弾を撃ち、高温バリアを作り出す作戦がC1。この際に、高温の影響を受けないように下がらせていた前線より少し後ろの部隊を前方の支援に合流させる案がA2である。


足立は無線をとる。


「プランA2へ移行。先頭の部隊は消耗と高温の影響で発砲が出来ない。これを全力で守れ!」


新たに投入される3台の対空対地迎撃車両、および6台の装甲車と2台の戦車。


散会して広範囲に散ったガーゴイルだったが、運悪く高温を避けるために退避していた索敵ドローンの視界に入ることになり、その座標は即座に対空対地迎撃車両連係される。


3台は先頭部隊の前、左右に1台ずつ展開し死角なく撃ち落としていく。


10分後


「UFB残存数50。距離も離れています。やれます」


仲原がそう足立に報告すると、やっと彼女にも笑みがもれる。


「これは勝ちましたね。UFBのさらなる増援に備え、プランA3も発動しますか?」


足立は仲原を横目で見ると問う


「周囲に増援の気配は?」


仲原は当然のように答える


「半径2km以内に敵影なし」


「池袋まで1㎞弱。なら残存UFBに警戒しつつ、さっさと私有シェルターの救出に向かおう。最後まで気を抜くなよ!」


そういうと無線を取る。


「大仲大臣。UFBをほぼ退けました。救出作戦に移行しますがよろしいですか?」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 内閣シェルター作戦司令部。


防衛省の大臣、大仲《おおなか》晴彦《はるひこ》と、野党第一党「立国平和党」の党首「津田《つだ》一郎《いちろう》」は救出作戦の可否について悩んでいた。


足立からの確認に、一旦「待て」と回答し議論をしていた。


「津田さん、客観的に見て戦況は良いといえるでしょう。ですが、救出作戦となると自衛隊員が装甲車を降りることになります。UFBの増援が来た場合、生身の人間では危険があります。しかし、この局面はスピードが大切だと私は思います。少なくとも2㎞以内に増援は居ないようですし、私は行くべきだと思います。どうでしょう?」


津田議員は、少し机を眺め思考をまとめると答える。


「賛成したいのですが、この優勢は本物でしょうか?UFBの兵は確かに討ちました。ですが、あのお台場に浮いている城の主、つまりUFBの将は討っていません。これを政治に置き換えれば、敵対する勢力の事務次官は排除しても議員は排除できていない。そういう政局です。ここでさらに前に進むのはリスクが高いと思います。先頭の部隊は消耗もしていますし、一旦下がらせて後方の部隊を前に出して、今いる場所の防衛拠点化をするのはどうでしょうか?」


その声に大仲も同調する。


「確かに、UFBが近くにいないこの状況は、補給と拠点確保の好機。そうとも取れますね」


その言葉に敏感に反応した議員がいた。野党「帝都復権党」の舞岡《まいおか》幸三《こうぞう》だ。


「なにを寝ぼけてるんですか!!!要救護者がすぐそこにいる!私有シェルターまで1㎞じゃないですか!!自衛隊は何の組織ですか?飾りですか?拠点を作る大工ですか?違うでしょ!国民を助ける組織でしょ!その為の装備でしょ!!今勝ってんだから、ホラ、どう見ても勝ってる!地盤固めとか政治的な発想ではなく、人命を優先してください!ほら!はやく!」


「要救護者」・「人命救助」 このキーワードは政治家にとって覆しがたい言葉である。


大仲は決断し、無線を取る。


「救助開始!だが、細心の注意を払え」


2025年9月7日日曜日

強くてニューサーガ ~10話(レビュー)

<あらすじ>

4年もの時を遡ったカイルは、前世で失った家族・友人・恋人と再会し、再び訪れる悲劇を防ぐべく、2周目の人生に挑む。


物語は佳境へ。

カイルは伝説の武器「聖剣ランド」を手にし、魔族ガニアスとの戦闘においてツノの切断に成功。戦況が優勢に傾く中、彼は戦いの一時中断を提案し、ツノと聖剣を賭けた一騎打ちが始まる──。


<レビュー>

『強くてニューサーガ』は、魔王討伐後にタイムリープした主人公が、今度こそ仲間を失わずに勝利を目指すという設定の異世界転生作品です。


1〜3話が導入、4〜6話が世界観の展開、7話以降が決戦フェーズという、非常に王道的な構成で物語が進行しており、アニメ視聴者にとってもわかりやすいテンポ感が保たれています。


原作はアルファポリス発の小説作品ですが、アニメ化に際して無理なくテンプレートに落とし込まれている印象を受けます。


■ 作りの丁寧さと工夫


制作面では、限られた予算を工夫でカバーしている好例といえます。


たとえば滑らかなアニメーションに頼らずとも、構図や台詞回し、演出でしっかりと盛り上げています。

キャラクターの個性を活かしたセリフ運び、止め絵やズーム、口元や足元の一部を切り取るような“演出的省略”が違和感なく用いられており、視聴における没入感を損ねていません。


明らかに「動いてない」と感じさせない構成力とテンポの良さがあり、作り手の熱意と原作の底力を感じられる良作です。




2025年9月4日木曜日

盾の勇者の成り上がり Season4(レビュー)

<あらすじ>

復活の時が迫る“四霊・鳳凰”との戦いに備える盾の勇者・岩谷尚文は、対立していた三勇者とついに和解。

その一方で、ラフタリアが王位継承の意思ありと誤解され、クテンロウという国から刺客を差し向けられる事態に巻き込まれてしまう。


<レビュー>


『盾の勇者の成り上がり』第4期は、かつて「追放系×転生ファンタジー」の代表格として始まった物語の、新たな局面を描いています。


尚文は、異世界に「盾の勇者」として召喚されながらも、当初は冤罪で貶められ、勇者パーティーから追放されるという波乱のスタートを切りました。

しかし仲間となるラフタリアやフィーロらと共に信頼関係を築き、「波」という世界的災厄と向き合う使命に気づいていきます。


シリーズ初期は、当時流行していた「追放→成り上がり」テンプレートを踏襲しつつも、王族を断罪するなど早期に“復讐パート”を終え、物語の主軸を王道ファンタジーへとシフトしていきました。


第4期の立ち位置


Season4では、尚文を英雄として信仰する国が登場。彼を“守られる存在”から“守る側”へと押し上げたことで、物語はさらに成熟したフェーズに入ります。


一方で、波の対処と並行して、“クテンロウの陰謀”や“信仰国家での事件”など、サブストーリー的な展開も増加。

これにより進行のテンポがやや落ちた印象を受けるかもしれません。


ただし、これらのサブシナリオによって、尚文以外のキャラクターの視点が強調され、物語が群像劇的な構造へと変化しています。

単なる成り上がり作品に留まらず、多角的な人物描写を通して物語に奥行きをもたせている点は本作の魅力の一つです。


 総評


今作は、初期のテンプレから脱却し、長期シリーズとしての深みを見せつつある内容です。

バトル・陰謀・政治劇がバランスよく織り交ぜられており、4期単体でも楽しめる丁寧な構成になっています。


「追放系作品は苦手…」という方にも、今期の内容はむしろ王道ファンタジーとしておすすめできる仕上がりです。

また、1期からの成長や仲間との絆に触れることで、シリーズを追ってきたファンにとってはより一層感慨深い内容となるでしょう。


群像劇×ファンタジーが好きな方には、特におすすめです。


2025年9月2日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《対決⑬ 大規模攻勢_5》

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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サーチが居城デスランドを飛び立つ少し前、後退していたベルガンの部隊1万9000体が待ち伏せている地帯に自衛隊が接近していた。


ベルガンは配下に低空飛行を指示。自衛隊の特殊弾による高熱から残った瓦礫に隠れるように分散して待ち構えている。


作戦は部隊を円形に散会、伏兵《ふくへい》として、自衛隊の車列を円形の中心付近まで誘い込んでから、360度全方位から一斉攻撃を仕掛けるというものだった。


しかし、実際は自衛隊は円形の外縁付近で停止。隠れているガーゴイルを攻撃し始めていた。


ーーなぜだ。なぜ伏兵がわかる?


ベルガンは自衛隊の目、偵察ドローンの存在を軽視していた。もともとパワータイプのベルガンは小さいもの、弱々しいものを見ると油断する傾向があった。それは自身に対して無力で気を配るに値しないという認識に基づいた行動だった。


しかし、自衛隊の偵察ドローンは性能が高く、高度500mから容易にガーゴイル達を視認していたのだ。これは、戦闘が長引いて夜が明け始めたことも関係していた。


なすすべもなく、1体、また1体とガーゴイルは集中砲火を浴びて消えていく。


ーー創造主に……指示を……いや、ヴァロンに作戦を……いや、駄目だ。。俺が弱気になるな!


ベルガンは敵がこちらの位置を把握していると認識を改め、陣形を変更した。


「残存兵は、ポイント120に集結、5000の集団を3部隊編成しろ。 残りは俺のところへ来い」


潜んでいたガーゴイルは一斉に動き出した。中には遮蔽物を飛び出して自衛隊に攻撃されてたどり着けなかったガーゴイルもいたが、なんとか陣形を立て直した。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 居城デスランド。 サーチが飛び出し、神は玉座に戻っていた。


「ヴァロン、ベルガンの戦況をどうみる?」


神はヴァロンの能力を試すように問う。


「良いとは言い難いですね。自軍の位置が把握されているというのは、作戦上致命的です。その原因を潰すことなく続行したところで劣勢は変わりません。しかし、部隊を集めたのは正解でしょう。これで人間も攻撃しにくい。警戒すべきは例のロングレンジレールガンですね」


神の笑みを見て、自分の能力を証明するかのようにヴァロンは饒舌《じょうぜつ》に分析を進める。


「おそらくベルガンは、3部隊による連続的な正面突撃を狙っていると思います。これは恐らく全滅します。その間に左右に散った3000体程度が挟み撃ちでしょうな。この挟み撃ちで正面から敵の注意をそらし、ベルガンはファイアバレットを正面から最大火力で放つつもりです。3部隊の突撃はこのファイアバレットの時間稼ぎといったところかと」


「はははは、面白そうじゃない。ファイアバレットを最大火力まで溜め込むには相当なエーテル量が必要だ。練りこんで密度を上げるのには1時間はかかるだろう。間に合うのかー」


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


神とヴァロンの予想は的中し、ベルガンは5000体の部隊3体に、20分間隔で突撃するように指示をだしていた。


最初の部隊が自衛隊の車列に突入した。高度を上げている余裕はなく、なんとか数十メートル上昇して即座に攻撃に入った。


「光る玉に気をつけろ!視界を奪われた場合は直進、体当たりで敵の位置を把握し、破壊しろ!足を止めるな!また灼熱の雨にやられるぞ!」


ベルガンの檄《げき》が飛ぶ


指示を出し終えるとベルガンはすぐにファイアバレットの射撃準備に入る。体内にエーテルを練り込み、超高温の炎を育てていく。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


10分前 自衛隊司令部。


R連隊の隊長、足立《あだち》昭介《しょうすけ》と副長の仲原《なかばら》香《かおり》三佐は、やや後方の耐熱装甲車に乗車し、ここを司令部としていた。


偵察ドローン部隊から報告が入る。


「UFBが前方に集結中。5000規模の集団を複数形成中。3個群」


仲原は直ぐに意図を読み解く


「こちらの偵察ドローンを無視?レールガンに撃たれないように短期間で距離を詰める損耗戦術ですかね?」


話の相手は足立だ。


「だろうな。UFBの指揮官は1900年代の戦争をしたいらしい。だがさすがに、あの数と距離だ。防げるか?」


「発光弾も、夜明けに伴い効果は落ちますが、それでも視界を奪う程度にはなるはずです」


足立はチラリと仲原を見るとトーンを落として話を進める。


「発光弾か。仲原三佐は前回と、今回でUFBの戦術に違いを感じないのか?」


予想外の会話に戸惑う仲原。


「まぁいい。前回は高低差をつけるなど工夫が見られた。これは兵の損耗を考慮した理性ある戦いとみていい。だが、今回は団子状に固めた兵の弾丸を感情的にぶつけている。これはつまり、理性が欠けている。だとすれば、発光弾で視界が奪われようがお構いなしに突撃してくる。これは全滅覚悟の玉砕攻撃に近い」


「全滅覚悟ですか。酷い時代錯誤ですね。ではプランC1でどうでしょう。もともと想定が大規模奇襲用なので適切かと」


足立は仲原の的確で素早い思考回路に、若さと才能を感じ、少し笑みを浮かべ


「君が味方でよかったよ。了承だ」


と答えた。


僅か5分でベルガンの作戦は看破され、対応策が講じられた。


「全車両に通達。前方からUFB15000接近。プランC1で迎撃する」


その時、シェルターにいる大仲防衛大臣から連絡が入る。


「足立隊長。大仲です。プランC1と聞き、急ぎ連絡をしました。作戦は君たちに一任するが、単なる大規模突撃だろうか?いや、何か懸念があるわけではない。だが、私も、ここにいる津田議員も、政治家としての勘が何かを警戒させるのだ。増援か、何か他の脅威か、正体は分からないが警戒を頼む。自衛隊を頼んだぞ」


ベルガンのファイアバレットの存在も知らない。それどころかベルガンの存在すら認識していない人類だが、長年駆け引きを行ってきた政治家は、その脅威を「勘」というあいまいなもので察知した。


「分かりました大臣。C1のあと、増援に備えプランA2も準備しておきます」


数分後、ついに両者は再び激突することとなった。