「よっこらしょっと」
高校生でも温泉に入るとこんな言葉が出る。我ながら不思議な感じだ。
寒さで失いかけた手足の感覚が、温泉の熱で温められてしびれるような心地よい快感を伝えてくれる。
今年は感染症が流行して旅行などはあきらめていたが、幼なじみの鮎川姉妹の親戚が経営する旅館に無料で宿泊できることとなり、俺と妹、そして両親は温泉地箱根に来ているのだ!
しかもほぼ貸し切り。鮎川姉妹もご両親と宿泊しているが、それ以外の客は全員感染症の流行を理由にキャンセルしたらしい。
しかも何組かはドタキャンで、食材の廃棄ももったいないし、従業員のシフトも今さら変えられないという事で、急きょ、俺たちと鮎川家が無料で宿泊できることになった。
「こりゃ天国だぁぁ」
温泉の心地よい香り、そして露天風呂ならではの顔をかすめる冷たい空気。体で温められた血液が頭でよい具合に冷やされて体に戻っていく感覚は、天国としか表現のしようがない。
と、俺が温泉ソムリエのごとく思考を巡らせていると、突然すぐとなりで女性の声がする
「まだまだだよお兄ちゃん?これで満足したらだめだよー」
いつの間にか、妹のハルが同じ露天風呂に入りこんでいた。
俺は慌てて背中を向けると
「な、なんだよ!入ってくるなよ!」
と妹を追い払う。
しかし妹は
「なーに気持ちの悪い反応をしているの。こっちの露天風呂はね、今日はウチの貸し切りなんだって。だから久しぶりにお兄様の成長を確認しようと思ってね!」
俺の成長?俺はハッとして、妹から離れようとしたが既に品定めは終わっていたようで
「ふむふむ。筋肉は並かなぁ。体形はー。うーん。好みじゃないけどお兄ちゃんだから不問にしてあげる。あと、アソコはさすがは高校生ってかんじですなぁ」
妹のなめまわすような視線を遮るように俺が言い返す
「どこの痴女なんだよ!おまえは恥ずかしくないの?兄とはいっても俺だって男だぞ?!」
形勢逆転を図る俺。妹を相手に大人げないが、兄の威厳は大切なのだ。
しかしハルは全く気にかけていないようで
「男って(笑)お兄ーちゃんを男に見ろって(笑)無理に決まってるじゃん。お兄ちゃんだって私を女に見れないでしょ(笑)」
そういって、胸を寄せて見せる。
思春期真っ最中の俺としては、たとえ妹とはいえ刺激が強い。つい目線が胸元へ誘導されてしまう。
その目線を見たハルは、少し頬を赤らめると俺に背を向けて話を続けた。
「と、とにかく、この後は鮎川姉ちゃんと、小夏ちゃんと、お兄ちゃんの4人で卓球をやる予定だから、お兄ちゃんイイトコロを見せてよね!」
俺は耳を疑った。温泉でお風呂上がりの鮎川と卓球・・・なんだその夢のようなシチュエーションは!
しかし俺は気が付いてしまう。
鮎川妹(小夏ちゃん)は帰宅部。だがしかし、鮎川はテニス部・・・文学部の俺に良いところなんて見せられるのか・・・。
不安そうな俺の顔色をうかがっていたハルが、安心しなさいと言わんばかりにささやいてくる
「大丈夫。お兄ちゃんは、鮎川姉ちゃんとペアにしてあげる。ハルと小夏ちゃんが相手なら余裕でしょ?」
そういうことか!コイツは俺に華を持たせるために、敵のチームとして小夏ちゃんと参加するつもりなのか。
一瞬だけハルに全力感謝をした俺だが、ふとわれに返る。
「おい。ハル。それっておまえになんのメリットがあるの?」
そう聞き返すと、ハルは上目遣いでのぞき込むと
「万が一、お兄ちゃんと鮎川姉ちゃんのペアが負けたら、ハルのお願いを一つだけ何でも聞いてねっ」
くっ、かわいい!妹ゾクセイを全力で出すんじゃねえ!
俺が妹の小悪魔的な魅力にもん絶しているとハルが言葉を重ねてきた。
「まぁ、負けず嫌いの鮎川姉ちゃんに本気を出されたら、お兄ちゃんは立ってるだけでも勝てそうだけどね(笑)」
妹の安い挑発に乗った俺は
「負けたら何でも聞いてやる。だがな、ハル達が負けたら何でも言う事を1つ聞いてもらうからな!」
俺の渾身の一言に、ハルは妖艶な笑みを浮かべ、一言だけ残して露天風呂から出て行った。
「お兄ちゃん達が、勝てたらね」
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【次回予告】
2021年 初の小説は、この小説の後編です。
ついに卓球勝負を迎えた、兄+鮎川姉vs妹+鮎川妹。スポーツ万能な鮎川姉に妹たちが挑みます。
勝負の行方は意外な展開に。そしてお願いとは・・・
兄は鮎川姉にイイトコロを見せることが出来るのか。
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