2023年1月3日火曜日

【小説】俺の年越しがこんなに充実しているはずがない【元旦】

登場人物:

俺:主人公 高校生 男子 文芸部

鮎川:ヒロイン 高校生 女子 テニス部

ハル:主人公の妹 中学生 女子 小夏の同級生 帰宅部

小夏ちゃん:鮎川の妹 中学生 女子 ハルの同級生


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2023年元旦。俺は地球上にいなかった。なんて、一人でテレビ見ながら年越しの瞬間にジャンプしただけなんだが。


妹のハルは小夏ちゃんと初詣に出かけている。中学生のくせに俺より青春している気がして、少し負けたような嬉しいような複雑な心境になった。

 

その心境が色々と歪みまくって、少しでもリア充に擬態しようとした結果、年越しに一人でジャンプするという奇行につながったわけだ。


ちなみに両親はハルを心配するあまり、後ろからこっそり尾行…いや見守ることにしたらしい。

 

「さて寝るかぁ」


数分前まで厳かな雰囲気だったTV番組が年明けとともに急にお祝いムード全開になったところで、俺は大きく体を伸ばし自分の部屋へと向かおうとした。


その時、こんな時間にLIMEにメッセージが届いた。


相手はなんと鮎川姉である。


「生きてる?」


新年早々ひどいメッセージである。

 

「あけましておめでとう。起きてるよ」


あえて、打ち間違いだよね。という体裁で返す。


「そう。通話してもいい?」


な、なんだと!通話?これは罠なのか?いや、あの鮎川だ。そんな陰湿なことはしないだろう。


「OK」


とりあえず動揺を悟られないようにスタンプで返信した。


するとすぐにスマホが鳴った。


「もしもし、一人寂しく新年を迎えてるって本当?」


何故そのことを!いや動揺しないほうがいいだろう。


「まあね。随分情報が早いじゃないか。探偵なの?」


電話越しに鮎川がクスッと笑ったのがわかる。どうやら動揺を悟られたようだ。


「一時間くらい前に、ハルちゃんから電話があってあなたが家で独りぼっちの年越しを迎えているようなので、年が明けたら電話をしてあげって言ってきたのよ」


ハル!ナイスゥ!てか両親の尾行はバレてんじゃん。まぁいい。最高に出来る妹のアシストを無駄にはできない。


「そうなんだ。鮎川は何してるの?小夏ちゃんはハルと一緒でしょ?」


すると10秒くらいの沈黙が。あれ?なんか地雷踏んだかな?


「私?そうね。ま、年越しとはいえ、ウチは親戚が旅館をやっているから毎年両親は手伝いでいないし。ただの祝日よ」


あれ?鮎川も両親が不在なの?妹もいないと。自分と同じ境遇に彼女もいる。妙にうれしくなってテンションがあがってきた。


「つまり、鮎川も年越しを一人で過ごしていたと…」


電話越しに彼女が照れているのが伝わってくる。


「いいでしょ!いつもは小夏がいるから仕方なく年越しに付き合っていたけれど、今年は気楽でいいわ」


強がる鮎川の意外な一面に俺のテンションはさらに上がり、饒舌になる。


「うんうん分かる。もしかして、年越しの瞬間にジャンプとかしてませんよね」


「はぁ?!」


しまった。テンションが上がりすぎて自分の黒歴史を暴露してしまった。


「あなた一人で飛んだの?」


明らかにドン引きしている鮎川の声。だが俺が返事に困っていると小さな声で話をつづけた。


「あたしもよ。テレビで芸能人が煽っていたからつい。あなたもでしょ」


いえいえ。俺のは妹とリア充への偏見と焦りから生じた気の迷いですよ。


「あ、ああ。誰も見てないし煽られてやるのも一興かと思って」


とりあえず繕う。


「でも意外だわ。もっと冷めてるというか、一人なら年越しだろうと普通に小説でも読んでいるかと思ってたわ」


鮎川の声のトーンが少し高くなってどこか嬉しそうな声に変った。


「まぁなんだ。1年に1回しか味わえないイベントだし、折角なら経験しとこうかと思ってな」


鮎川の嬉しそうな声に恥ずかしくなった俺は屁理屈を付けてごまかそうとした。


「そう。でもそうね。確かに今しか経験できないことは今のうちに経験しておかないと損かもしれないわね」


それでも鮎川はうれしそうだ。


これは、過去最高に鮎川の機嫌がいいのでは?この時、なぜか俺は初めて鮎川という高スペックな幼馴染と同じ舞台に立てたような気がした。


そしてつい


「そうそう。だから明日になったら、俺たちも初詣に行かないか?昼過ぎなら元旦でも少しはすいてるだろ」


「え?」

鮎川の声が急にいつものトーンに戻った。


しまった。調子に乗ってやってしまった。顔が見えなくて鮎川が無表情でドン引きしている姿が脳裏に浮かぶ。終わった。俺の2023年は午前1時で終了した。


慌てて発言を取り消そうとする俺。


「あ、いや、なんだ、今のは」


すると遮るように鮎川が一言こういった。


「いいわよ。明日の12時に駅前の公園で待ち合わせでいいかしら。じゃ、私はそろそろ寝る準備をするから切るわよ」


「あ、え?ああ」


「おやすみなさい」


通話が切れた。俺はしばらく状況が把握できずスマホを握りしめたまま、硬直していた。


そして翌日…


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<あとがき>


今回はここまでになります。


いままで進展がなかった主人公と鮎川姉。ついに進展するのか?


次回、「【小説】俺が幼馴染と初詣とか想像ができない【初詣】」をお楽しみに!








 

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