2025年11月30日日曜日

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか #1~#9( 一部レビュー )

<あらすじ>

舞踏会の最中、婚約者である第二王子・カイルから、理不尽な婚約破棄を告げられた公爵令嬢・スカーレット。

“婚約者”という立場に甘んじて耐え続けてきましたが、ついに我慢の限界を迎えます。

「私の最後のお願いです。このクソアマをブッ飛ばしてもよろしいですか?」

こうして、スカーレットの“拳”が舞い踊る物語が始まります。


<レビュー>

本作は、婚約破棄から始まる悪役令嬢ものですが、最大の特徴は解決手段が“拳”=暴力的制裁である点にあります。さらに、主人公には隠された聖女設定があり、時間を操る能力を備えています。序盤では「超加速」によって周囲の時間を相対的に遅く見せ、自身の行動速度を上げる描写が中心でしたが、物語が進むと、物体を過去の状態へ“巻き戻す”ことで治癒に相当する効果を発揮したり、汚染された構造物を汚染前へ戻すといった応用も可能であることが示されます。


結果として、人の生死を直接左右できるかは別として、物質的な破損や負傷を実質的に「なかったこと」にできるため、彼女はヒーラーとしてもアタッカーとしても一流という、きわめて強力な立ち位置にあります。


この“チート級”の主人公が、「世のため人のため」というスタンスで悪人を見つけては殴って片づけるうちに、いつしか神々の対立に巻き込まれていきます。対立するのは、第1話でスカーレットに「クソアマ」と罵倒され、実際に殴り飛ばされた転生者にして異教徒の女神です。個人間の確執から、次第に神話的スケールへと広がっていく設計が印象的です。


また、ありがちな“王子たちに取り巻かれる”お花畑展開ではなく、どちらかといえば少年漫画的な段階バトルに近い構成です。強敵を打ち破って一区切りつくと、さらなる敵が現れる――その繰り返しによってテンポ良く見せていきます。作画は一見すると女性向けの繊細さがありますが、内容はバトルとギャグの比重が高いため、そのギャップも本作の魅力だと感じます。


総じて、聖女系の定番イメージから意図的に外しつつ、爽快な解決と高火力の能力演出を押し出した作品です。悪役令嬢ジャンルにアクション快感を求める方には特に相性が良いと思います。ご興味があれば、ぜひご視聴をおすすめします。



2025年11月27日木曜日

【軽い日記的なもの】迷惑メール実験。

こんばんは。管理人の緑茶です。

本日は、三連休に実施した小さな実験の結果をご紹介します。題して、「あやしげなサイトにメールアドレスを登録したら、三日後にどうなるのか」です。読者の皆さまには真似を推奨しません。危険回避の観点からの記録としてお読みください。


方法はシンプルです。


実験専用の使い捨てメールアドレスを新規作成します。


そのアドレスを、いかにも怪しいと感じるサイトに登録します。


登録後三日間、受信ボックスの動きを観察します。

※ スクリーンショット等は、手口の拡散防止と読者保護の観点から掲載しません。


それでは、結果です。


登録後・数分以内に、いわゆる恫喝系の迷惑メールが到着しました(「有料サイトにアクセスしたので支払え」等)。

ただし、その後一日目の残り時間は意外と静かで、新着は少なめでした。


二日目に入ると、商材系や投資系などのメールが少しずつ届き始めます。


三日目は、いわばフィーバー状態でした。件名や差出人の傾向は、知り合い装い系・アダルト系・誘導系・恫喝系・金融機関装い系・投資系・出会い系・メルマガ風・当選詐称・広告・○○社とのタイアップ装い系・外国語(中国語、ハングル、タイ語と思われるもの)など、実に多彩でした。

ただし、その後はプロバイダーの迷惑メールフィルターが効いたのか、受信数は減少に転じ、メルマガ風や広告系の、フィルターをすり抜けやすいものが散発的に残る程度になりました。


想定以上の量とバリエーションでしたので、これ以上の継続はプロバイダーや他者に迷惑がかかると判断し、実験用アカウントは削除して終了しました。


結論としては、メールアドレスの登録は極めて慎重に行うべきだとあらためて実感しました。

可能であれば、ふだんは使い捨てアドレスを使い、必要に応じて自動転送でメインのアドレスへ受け取る運用が安全です。間違った登録をしてしまっても、使い捨て側をすぐに停止・作り直しできます。加えて、危険なサイトにはアクセスしないという基本も、やはり最強の予防策です。


以上、本日の日記でした。皆さまも、どうか安全第一でお過ごしください。


本記事はセキュリティ意識向上のための注意喚起です。再現実験やスクリーンショットの公開は推奨しません。

危険なサイトへのアクセスや登録は行わないでください。

2025年11月25日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才⑥_神の兵_前編》

 【ここまでのあらすじ】

ある私有シェルターの代表、日本有数の実力者・大荻山《おおぎやま》剛三郎《ごうざぶろう》は、私兵と要人・愛人のみを連れてシェルターを出て東京脱出を試みていた。

神が作り出した怪物ガーゴイル(通称 UFB)の中でも特別にチューニングされた個体、武闘派ベルガンと支援型サーチは、神の気まぐれな命令で兵も連れずに、大荻山の率いるタラメア製の最新兵器と戦うことになった。

ベルガンはタラメアの戦車 YA-24 と装甲車 DD-24 に搭載された SUB11F(全方位対ドローン迎撃機構) に苦戦。ベルガンをかばい、サーチは負傷してしまった。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


傷ついたサーチを眼下に置いたベルガンの表情は、かろうじて知性を保っていたが、怒号に満ちた猛獣のようでもあった。

残された理性は多くない。だがベルガンは、自分が冷静さと判断力を欠いていることだけはギリギリで理解していた。


ベルガンは即座にヴァロンへ呼びかける。


「ヴァロン。すまない、サーチが負傷した。——また俺だ。俺に策がないばかりに。策をくれ、ヴァロン!頼む」


神の居城「デスランド」の王座。ヴァロンは神と二人、サーチの〈視覚共有〉で現場を眺めていた。


「創造主様。たしか、ベルガンやサーチが求めれば私の参戦は許可されていましたが……」


ヴァロンは、迂闊に口を挟むと不機嫌になる神を横目でうかがう。


「ああ、もちろんだとも! あのプライドの高いベルガンが、自分の欠点を分析してヴァロンに助言を求めるなんて面白い。ヴァロン、好きに手助けしてやれ!」


「私が策を与えれば、必勝となりますが——本当によろしいのですね?」


「くどい! “必勝”とやらにも興味がある。ヴァロン、お前の知性を見せてみろ!」


「では」


ヴァロンの口元が、不敵に緩む。本来は軍師——参謀型の特殊個体。これまで神の気まぐれとベルガンの暴走に振り回されてきた衝動が、解放宣言で一気に爆ぜる。


「ベルガン。視覚共有のマップを見ろ。黄色が敵の位置。小円がドローン、大円が戦車と装甲車、点滅は雑魚車両だ。赤い円が見えるな? そこがドローン陣形の“穴”だ。やつらは 8 機の“目”を立体的に使ってこちらの座標を正確に割り出している。まずは陣形を崩す。——サーチ、損傷は見えている。シールドと飛行は問題ないな?」


傷ついたサーチが応える。


「ええ、やられたのは腕と脚。翼・胴体・頭は硬化を強めて守ってあるわ。加速は厳しいけど、その程度なら」


ベルガンが割って入る。


「サーチ、強がるな! たとえ飛べても、戦闘には耐えられない!」


ヴァロンが冷静に指示を重ねる。


「わかっている。落ち着け、ベルガン。サーチはそのまま隠れて、まずシールドを 100% まで展開。展開できたら、その位置から西へ上昇——高度 1000m までだ。その後はシールド維持。最初は狙われるが、数分で終わる。シールドに専念しろ」


「了解。30 秒もあれば、ベルガンのエーテルも借りてすぐ展開できる」


「よし。ベルガン、サーチが上昇したら 5 数えろ。隠れている瓦礫を破壊して、最短距離で“赤い円”へ直進。可能な限り高度を上げ、同じく 1000m を目安に接近。次の指示はすぐ出す」


30 秒後。サーチはシールドを完全展開し、上昇を開始。


「……1……2……」ベルガンのカウントも始まる。


再び射線に入ったサーチに SUB11F が即反応する。幸い、先ほど吹き飛ばされた位置関係の影響で YA-24 主砲の射程からは外れていた。


「ドドン!」


サーチのシールドに着弾。しかし 100% まで硬化したシールドは SUB11F の副砲程度では大きく損なわれない。


「……4……5!」


「バカン!」と分厚いコンクリ壁をぶち抜き、ベルガンが指定座標を目指して上昇。数秒で到達。


ヴァロンの次の指示が飛ぶ。


「右下のドローンを視認。エーテル滑空で追え!」


サーチの視覚共有により、小さな標的でも最速で捕捉できる。急降下するベルガンに、横方向への回避では逃げ切れない。5 秒で捕獲、破壊成功。


「よし。あのドローンは本体から離れるのを嫌う。エーテル干渉を警戒しているんだろう。サーチが注意を引いた瞬間に“DD-24”と”ドローン”の間へ割って入れば判断を誤る。——読みどおりだ。次! 左・後方のドローン。創造主からもらった飛び道具、ファイアアロー で貫け!」


ベルガンは掌にエーテルを集中させ、線状の熱線を放つ。「ドン!」即爆散する。

ヴァロンが畳みかける。


「相手は AI。初見の攻撃には対応が遅れる——当然だ。次! 爆散方向へ上昇。視覚共有で次の“円”を示した、そこへ」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


(数分前)大荻山陣営。


「SUB11F 正常稼働、命中率 75%。すごい……魔法のような予測射撃だ」


私兵の声に、大荻山が汚く笑う。


「わはは。化け物どもは夜目も利かん。せいぜいドローンを見つけても AI 制御の回避で接近すら不可能。所詮は化け物だ。人間様の知性の前ではサル同然よ」


「先生、まもなく YA-24の主砲の射程に入ります!」


「AI 射撃管制に優先タスク設定。“突撃馬鹿”から始末しろ!」


「後方の女型は後回しで?」


「最強の“矛”と“盾”。どちらかを先に壊せるなら“矛”だ。盾は所詮盾、こちらへの脅威は薄い。まして女型。矛が死ねば逃げ帰るさ。わはは」


AI は確実にベルガンを誘導し、YA-24の主砲の射線へおびき出す。


「先生、射程に入りました!」


「よし。砲撃システムを SUB11F にリンケージ、タイミングを譲渡!」


数秒後——


「ロックオン……!? 女型が急降下、射線に割って入ります!」


「化け物にも同族愛か? くだらんロマンスだ。構わん、リンケージ継続!」


YA-24 の主砲が火を吹く。独特の低い砲声。

着弾——


「命中!……いえ、まだ活動中……嘘だろ……」


大荻山は一瞬だけ目を疑いながらも優勢を崩さない。


「西へ逃がすな。遮蔽物が増えると SUB11F の射線が取りにくい。東へ追い込め!」


数秒、緊張が張り詰める。


「先生、敵は東側の建物残骸に隠れました。射線取れず。ドローンの光学カメラもロスト、迂回ルート計算中」


「いらん! これ以上 DD-24 からドローンを離すな。ジャミングされたら失速してしまう。隠れているならそれもいい。SUB11F を冷却モードへ、予備弾装填、次に備えろ」


1 分後——


「冷却 25% 完了、予備弾装填完了!」


大荻山が SUB11F を即座に射撃モードへ戻す——その瞬間。


「敵、上昇。西です!」


「逃がすな。射線に入り次第、撃ちまくれ!」


「ドドドン!」


SUB11F が西に逃げた個体を正確に叩く。


「ロックオン。高度750m、緩やかに上昇中。命中率 90%!」


攻勢を強める大荻山——その時。


「建物からもう 1 体出現! 上昇しつつ接近! AI がドローン回避モードに自動スイッチ!」


「駄目だ、それでは横回避になる。手動に戻せ! 距離を取れ、DD-24 から離れてもいい!」


「了解——なんてことだ……先生、ドローン 4 号機シグナルロスト!」


「くそがああ!」


「先生、続いて 3 号機もロスト!」


大荻山の計算が崩れる。


「3号機? 二機墜ちた? なぜだ、報告!」


「1号機の光学映像。レーザーでしょうか、敵から発射された線状の何かに貫かれています」


「まずい、飛び道具……! あいつは接近特化ではないのか?!これ以上ドローンを失うな。回避優先! 西側は砲撃続行。ただし YA-24 への誘導は中止、こちらの防衛を最優先!」


私兵が慌てて AI の命令を組み替える——刹那。


「先生、5号機・6号機、シグナルロスト! 4D 移動予測精度が 50% まで低下!」


「何だ、何が起きている。なぜ急に AI の演算を超えてきた? 読まれている? いや、違う……再計算……そうか、“意図的な状況の高速変化”で AI に再計算を強要し、その隙で精度を落とす——そこを突いているのか? しかし、そんな頭脳戦を——」


「先生! 8号機、落ちました!」


大荻山から血の気が引いていく。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


同時刻 ベルガン


ヴァロンからの通信が入る。


「よくやった。残りのドローンは放置でいい。もう目としては数に劣る。戦車と装甲車を落とすぞ!」


2025年11月24日月曜日

グノーシア #1話~#6話(一部レビュー)

 <あらすじ>

物語の舞台は漂流する宇宙船。

“人間に化けて人間を襲う未知の敵”――『グノーシア』が船内に紛れこんだことを受けて、

乗員たちは疑心暗鬼の中、毎日1人ずつ疑わしい者を投票で選び、コールドスリープさせることを決める。

グノーシアを全てコールドスリープさせることができれば人間の勝利。

なんと主人公・ユーリは、どのような選択をしても、最初の1日目にループする事態に。

わずかな時間を繰りかえす、一瞬にして永遠のような物語が、いま、幕を開ける。


<レビュー>

本作は、ゲーム原作の人狼×タイムリープ作品です。毎回同じスタートから、人に化けた怪物「グノーシア」をあぶり出していきます。グノーシアを見つけても、逆に襲撃されても、投票で凍らされても――主人公が持つ“鍵”が満足するまで、世界は何度でも1日目へ巻き戻ります。


本作は人狼要素にかなり寄せた設計で、ロール(役職)が機能します。

 ・ドクター:前日にコールドスリープさせた人物が人間かどうかを翌日に判定します。

・エンジニア:1日1回、指定した1人が人間かグノーシアかを判定します。

・守護天使:航行(転移)中に起きるグノーシアの強襲から、自分以外の1人を保護します。

 

初期配置によっては実質詰みに近い回から始まることもあります。合理的に考えれば、主人公は“鍵”が要求する情報を集めるため自分の生存を最優先に立ち回るのが得策に思えますが、物語上はグノーシアの排除と人間側の勝利に尽力する姿勢が貫かれます。

ここはゲーム原作ゆえのシナリオと捉えるのが妥当で、知略よりも“誰を信じるか”を選ぶ物語として受け止められるかどうかで評価が分かれるところだと感じます。


とはいえ、“都合の良さ”や“ゲーム的ロール制”を気にしなければ、本作は毎回犯人が入れ替わるタイムリープ型ミステリーとして非常に相性のよい仕立てになっています。同じ時間へ戻りながら“毎回別の並行世界”へ滑り込むため、犯人・人数・関係性が都度変化します。視聴者も途中まで推理に参加できる点が大きな魅力です。


比較対象としては『Re:ゼロから始める異世界生活』(以下、リゼロ)は、固定世界で死に戻り→最善ルートを探索する構造です。一方で『グノーシア』は、世界側が毎回シャッフルされる“人狼卓”に近い構造を取ります。固定解を目指すルート探索ではなく、確率と会話で切り抜ける反復推理という趣であり、そのため週単位で視聴しても飽きにくいと感じます。第6話時点でも、会話の癖・嘘のつき方・投票の流れが生む“微妙な手触り”にドラマが息づいています。


総じて、繰り返すほど面白くなるタイプの作品だと評価します。世界の“底”に触れていく手応えが少しずつ積み上がっていく感覚は、アニメ化との相性も良好です。まずは数話、続けて視聴してみていただければと思います。



2025年11月21日金曜日

友達の妹が俺にだけウザい #1~#7(一部レビュー)

 <あらすじ>

学校では清楚な優等生として大人気の彩羽は、明照にだけやたらとウザい。

そんなハイテンション系ウザかわ女子・彩羽に振り回される明照の前に、

塩対応女子・真白が出現。

それをきっかけに、明照、彩羽、そして仲間たちの日常は激変し――!?

ウザかわ女子が(頼んでないのに)寄ってくる! 悶絶必至のいちゃウザ青春ラブコメ、開幕

<レビュー>

親友の妹と、お嬢様の同級生から好意を寄せられる主人公が、無自覚にモテまくるという鈍感系主人公ラブコメです。テンプレの鈍感系ラブコメを抑えつつ、独自要素としてゲーム制作チームという裏の顔と、悩みを持っているヒロインを大胆に手助けする青春要素という表の顔を持っている設定多めの作品です。


設定は多いですが、主要登場人物は少なめで5人位覚えれば楽しく視聴できる情報量を上手くコントロールしている作品です。複数のヒロインとの鈍感系ラブコメだと常時「主人公の取り合い」になってしまうので、多くの作品は主人公にフォーカスしすぎないようにモブを投入し、群像劇のような側面をもたせることがありますが、この作品は取り合いを楽しむことにスポットしつつ、設定を盛ることで少ない人数でも単調にならないような工夫を感じます。

 

作画も安定していますし、なによりキメカットのクオリティは結構高いと思います。原画の工数を上手にメリハリをつけて予算を有効に使用している印象です。


また作品の系統的に、親友の妹が負けヒロインぽく見えてしまい、お嬢様が優位になりがちですが妹の露出の回数を増やすことでどちらがヒロインになるのか、先が読めない(むしろ作者も決めていない)ような面白さがあります。


ハーレム要素もありますが、下ネタや露骨なエロ描写での視聴者アピールは少なく、内容で勝負している気合がとても好感の持てる作品ですので、ややタイトルで損をしている感じはありますが一度見ると面白いと感じる作品ですのでご興味があれば、おすすめです。



2025年11月18日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才⑤》

ある私有シェルターの代表、日本有数の実力者、大荻山《おおぎやま》剛三郎《ごうざぶろう》は、私兵と要人・愛人のみを連れてシェルターを出て、東京脱出を試みていた。


しかし、地下のシェルターから大型エレベータで地上に出た車列を襲ったのは、エーテルによる大規模なシステム障害だった。戦車の駆動系など構造的に単純な部分は動いていたが、早期警戒システムや自動照準システムなど精密機器に関しては機能が停止。

最高性能のタラメア製の戦車や装甲車も精密機器が動作しないとなれば、ただの硬くて重い戦車である。


すぐに私兵のリーダーが大荻山に指示を乞う。


「先生。想定以上にジャミング(電子妨害)が強い。そのせいで、性能の高いシステムが全く使えません。脱出を取りやめますか?」


大荻山の回答は早かった。


「何を寝ぼけている! 自衛隊の兵器はドローンやロックオンシステムを使用していた。つまり、このジャミングには穴がある。少なくともR連隊との戦闘地域まで行けば弱まるはずだ! 進め!!」


号令をきっかけに、車列は埼玉方面へ移動を始めた。先頭はタラメア製の最新鋭の戦車YA-24と装甲車DD-24である。そのあとに私兵を乗せた輸送トラック、バス、自家用車などが続く。


一人のリーダーがつぶやく。


「YA-24。なんて恐ろしい戦車なんだ。精密機器が使えない状態でも進行方向にある大きな瓦礫は崩し、後続車両が通れる程度の“地ならし”をしやがる。まるで道を切り開きながら進んでいるようだ」


すると隣の隊員が答える。


「馬力も重量も自衛隊の25式とは比較にならないスケールだからな。さらにこいつは大荻山さんの指示で、オプション装甲のARM40(前方掃討機構)とSUB11F(全方位対ドローン迎撃機構)を装備している。最強の中の最強だな」


しばらく前進していると、突然「ピピピッ」と計器の起動音が鳴り始めた。どうやら精密機器が息を吹き返したようだ。


直後に大荻山から指示が飛ぶ。


「予想通りだ。ジャミングには穴がある! 索敵ドローンを上げろ!」


装甲車DD-24の上部はドローン格納庫になっている。格納庫の扉が重い音を立て開くと、8基のドローンが勢いよく舞い上がった。


装甲車の中にあるモニターに映し出された索敵情報の範囲は、驚くべき速度で拡大し周囲のガーゴイルを発見する。


大荻山はモニターを睨みつつ呟く。


「どの敵も遠い。そして動く気配もない。やはり暗闇ではヤツラは鈍い。このまま瓦礫の山を抜ければ先日の戦闘の高熱で溶けた区域に入る。そこまでだ。そこまで行けば速度が出せる」


20分後、ついに大荻山の車列はR連隊の残骸が点在する区域までやってきた。その時、索敵システムが反応する。


「何事だ!」


大荻山が無線で声を張る。


「後方より急速に接近する敵影です。数2!」


大荻山は直ぐにその正体を看破した。


「例の王とか女王とかいう特殊個体だ! 一般車両は散開しろ! YA-24とDD-24は光ファイバーリンク。座標をYA-24へ送信! YA-24はSUB11F(全方位対ドローン迎撃機構)で迎撃!」


まるで軍人。一般人である大荻山がタラメアの兵器を持っていた理由はここにある。彼は兵器マニアなのだ。彼は実力者である。その分だけ命も狙われてきた。

自分の命を守る武器――それは護身用ナイフから始まり、銃、機銃と強力な兵器になり、行きついたのがこのタラメア製の兵器である。自分の命を守る武器だけに、その性能は熟知していた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


同時刻、ベルガンとサーチは合流し、大荻山の車列を追っていた。


サーチがすぐに異変に気付く。


「ベルガン、人間の車列が散開を始めたわ! あとはドローンが8機上がってきたわよ!」


ベルガンも答える。


「創造主様がエーテルを抑えたからな。ご自慢のコバエが動けるようになったのか! まずはコバエを潰すぜ!」


ベルガンはサーチの視覚共有でドローンを察知すると、一直線に破壊に向かう。


すると、狙われたドローンは即座にベルガンから離れ始める。


「クソがぁ! 逃げてやがる!」


ベルガンがさらにギアを上げた。その瞬間、サーチが制止を促す。


「危ない! よけて!」


ベルガンがその声を理解した瞬間、「ドン」と鈍い衝撃がベルガンの横腹に刺さる。


「痛ってえ!」


「続けてくるわよ! 上昇して!」


反射的に急上昇するベルガン。僅か数秒後に、数発の弾丸が通過していく。


「ベルガン! 私たちの位置がかなり正確に知られているわ! 一旦距離を取りましょう!」


だがベルガンは知っている。距離が離れれば人間が有利になることを。


「駄目だ! むしろコバエを落とし、接近する!!」


そういって、姿勢を立て直したベルガンに再び弾薬が刺さる。「ドン!」


「ぐあああああ!」


ベルガンは上下左右に回避行動を行いつつ、最も近いコバエ(ドローン)を目指す。


だが、ドローンは狙われると離れていく。


「くっそ! コバエの分際で!!」「ドン!」


「ぐああああ!」


サーチがしきりに通信を入れる。


「ベルガン! 相手はあなたの回避を計算し砲弾を撃ってきている! 回避を複雑に!!」


サーチがベルガンに意識を向けていた隙を、ドローンは見逃さない。


「ドン!」「きゃぁ!」


サーチの脚部に着弾。サーチもベルガン同様、肉体の強化を受けているため一撃で致命傷を受けることはない。

だが、タラメアのYA-24のSUB11F(全方位対ドローン迎撃機構)は大型ドローンを想定した自動迎撃システムである。


それゆえに威力の高い弾薬を装備している。


「サーチ! クソ!!! コバエはダメだ! 追えば逃げる! 深追いすれば撃たれる! 先にあの戦車をブチ壊す!!」


ベルガンはサーチが被弾したことで、怒りがさらに増加する。


「ベルガン! だめ! 直線的な動きは相手の――」


言いかけた言葉が終わる前に多数の着弾音。


「ドン! ドドドン!」


「うおおおお!」


被弾しながらもさらに加速するベルガン。


するとタラメアの戦車YA-24の主砲がベルガンを捉える。


「いけない!」


サーチは急降下してベルガンを止めに入る。


当然この直線的な動きも、迎撃システムの餌食となる。SUB11Fの特徴の一つが、主砲とは独立した複数の砲門からなるドローン迎撃攻撃にある。


「ドン! ドドド! ドドン!」


サーチの体に何度も激痛が走る。サーチは新しい体で手に入れた自己硬化能力で、何とか砲弾のダメージを軽減する。そしてさらに加速。ベルガンを助けるため、シールドの展開準備も進めていた。


「お願い! 早く! 早くシールドを!」


サーチのエーテルシールドは、周囲のエーテルを集約し物質化することで盾として機能する。その特性上、エーテルの濃度が低い地域では、必要なエーテルの集約に時間がかかる。


ベルガンもSUB11Fの砲弾を正面から浴び続け、速度が落ちつつあった。


そしてついに、主砲の射程に入ってしまう。


「ズウウウン」


YA-24の主砲が重音を上げて火を吹いた。三種の火薬を多層的に詰め込まれた砲弾は、発砲後に加速する推進力となる火薬、相手の戦車の装甲を貫通して内部でまず小規模な一次爆発、そして強烈な二次爆発で大きなダメージを生む機構だ。


この主砲が直撃すれば、ベルガンといえど無事では済まない。


だが、SUB11Fの砲撃で姿勢を崩されるベルガンも、これを避ける術はなかった。


直撃。


そう見えた瞬間、サーチがベルガンの盾となって割って入った。


エーテルシールドはまだ完全には展開できておらず、主砲の貫通を許す。そして一次爆発。サーチはベルガンに向かって大きく吹き飛んだ。そして直後に二次爆発。大量の鋼の屑を含む殺傷力の高い爆風が、サーチの体に無数に刺さる。


「あああ!」


思わずサーチの声が漏れる。


ベルガンがサーチに目を向けると、あの美しい右腕と足の一部が大きく損傷していた。一方ベルガンは、サーチが盾になったことで大きなダメージは受けていない。


――また助けられた。


ベルガンは己の顔面を殴ると、サーチを抱きかかえ、射線から離れるため、瓦礫の奥に着地した。


「サーチ。すまない」


傷ついたサーチを眼下に置いたベルガンの表情は、かろうじて知性を保っていたが、怒号に満ちた猛獣のようになっていた。

2025年11月16日日曜日

【軽い日記的なもの】AIによる脅威の文字認識!

こんばんは、管理人の緑茶です。

本日は日記記事です。


先日、とある工場を見学しました。そこは、納品された原料を加工して出荷する工場。長年の悩みは「納品書」と「支払い」の突合でした。理由は、この業界では注文数と納品数にバラつきがあり、分納が常態化しているからです。たとえば、4月の発注500個が「5月に300個、6月に150個、同じく6月に50個」といった具合で分納されます。これが複数の原料で毎月発生します。


たとえば5月だけ切り取ると、工場側の受け取りはこんな感じです。

2025年11月13日木曜日

さわらないで小手指くん(新)(一部レビュー)

 <あらすじ>

小手指向陽・高校1年生。

特技は「気持ちよくさせすぎちゃう超絶マッサージ」!

学費を稼ぐため、スポーツ強豪校・星和大付属高校の寮の管理人となった向陽。

そこで出会ったのは、曲者揃いの美少女アスリートたちだった——。


新時代のマッサージ・ラブコメ、ここに開幕!


<レビュー>

本作はいわゆる今期のアダルト寄りラブコメ枠にあたります。

地上波では当然ながら放送基準により一部の表現が規制されていますが、

実際には有料配信版への誘導を兼ねた“お試し放送”としての側面が強い印象です。


作品としては、単なる刺激描写に依存せず、ラブコメとしての軽快なテンポと

「マッサージ」という独特の設定を軸に構成されているため、

地上波でも十分に楽しめる内容に仕上がっています。


惜しいのは作画面です。

カットごとに品質の振れ幅が大きく、特に日常パートでは

顔や体のバランスが崩れたり、作画が不安定になる場面も見受けられます。

本作はアクション重視のアニメではないため、

原画と動画の差によるブレではなく、演出段階での品質統一不足が目立ちます。


ただし、要所要所では非常に完成度の高いシーンも多く、

ヒロインたちの可愛らしさや色気の描写は高水準。

いわば「高低差」ではなく“明確な山谷”があるタイプの作画と言えるでしょう。


物語は2〜3話ごとにメインヒロインが入れ替わる形式を採用しており、

常に新鮮さを保ちながら進行します。

すでに“攻略済み”のヒロインも同じ寮に暮らしており、

シリーズを通じて登場人物が増えていくため、

結果的にハーレム的展開へと自然に移行していく構成です。


このあたりの展開処理が意外に丁寧で、

単なるエピソード消費型ではなく、過去のヒロインたちも

物語上の役割を持って再登場する点は好印象です。

視聴を重ねるほどキャラクターへの愛着が増していく“キャラモノ”として

一定の完成度を感じさせます。


ジャンル的には“深夜アニメのアダルト寄りラブコメ”に位置しますが、

エロティックな要素よりもむしろ、ギャグとテンポ感に重点を置いた作りです。

規制シーンはあるものの、それだけを目的とした構成ではなく、

コメディとしてのテンポとキャラクターの反応劇がメインになっています。


全体として、視聴者に“ちょっと背徳的な笑い”と

“軽めの恋愛コメディ”を同時に提供するタイプの作品です。

性的な要素を売りにしながらも、物語としての誠実さを捨てていない点が評価できます。


■ 総評

作画のムラや演出の粗は見受けられるものの、

ヒロインの魅力や構成の工夫により、作品全体の印象はプラスに転じています。

むしろ、シリーズとしての伸びしろを感じさせる作品であり、

「アダルト枠=軽薄」という固定観念を少し覆す力を持っています。


深夜枠ラブコメとしては安定感のある構成と、適度に遊び心を取り入れた演出で、視聴後の満足度は高いです。

刺激的な要素を含みつつも、あくまでコメディとして成立している点に制作者の“自制と計算”が感じられました。


やや好みが分かれる作品ではありますが、ラブコメのテンポやキャラ描写を楽しみたい視聴者にはおすすめできる一作です。



2025年11月11日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才④_大荻山の決断》

この作品はフィクションです。

登場する人物・地名・国名などすべて実在のものとは無関係です。

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自衛隊が国有シェルターの人々を地方に退避させた翌日。


光ファイバーの損傷で通信が途絶していた一つの私有シェルターでは、大きな動きが始まっていた。


そのシェルターの代表は、日本有数の実力者、大荻山《おおぎやま》剛三郎《ごうざぶろう》である。

彼は他のシェルターとの通信が途絶したあとも、巨大な受信装置を使い、エーテルの妨害を受けながらもラジオ波を拾い情報を集めていた。


そして、国有シェルターの避難民が一斉に地方へ脱出したと知ったのである。

もともと切れのある思考力と先見性を持ち合わせる大荻山は、容易に自分たちが「切り捨てられた」と理解した。


大荻山のシェルターは内閣シェルターに匹敵する規模・設備を備えた大規模なもので、収容人数一万人、備蓄資材は六か月分という、ある種要塞に近いものだった。

大荻山という絶対的な権力者のもと、治安も維持されている。


しかし、この切り捨てによって大荻山は揺れていた。


ーー自衛隊の軸足が変わった。舞岡がしくじったか。使えぬ男だ。


大荻山は、政治的なパイプ役として舞岡を筆頭に「帝都復権党」を支援し、影響力を発揮していた。

だが、切り捨てられたということは影響力の低下を簡単に想像させる。


そしてその事実が、大きな決断を迫った。


ーー救助を待つべきか。自力で脱出すべきか。


ーー救助を待つのであれば、あと五か月以上は持つだろう。だが都民を脱出させたということは、私有シェルター民は死亡扱いの可能性がある。


ーー自力脱出の場合、このシェルターに避難している約八千人の移動は可能だろうか。兵ではない一般人も多い。


だが彼は僅かに口角をあげると、すぐに結論を出す。


ーー私は聖職者ではない。全員を助ける必要もないか。


決断の速い大荻山は、すぐに私兵のリーダーたちを招集した。


「リーダー諸君。これから話す内容は重要機密だ。よいな」


そういうと、しばらく整列したリーダー十人を見回し、一人のリーダーの前に立った。


「携帯電話を見せろ。当然、電源は切れているな? 無線も見せてみろ」


リーダーは即座に携帯電話と無線の状態を提示した。

それを見た他のリーダーも、当然のように同じ行動をとる。


「よろしい。では説明する。我々は二日後の夜、シェルターを脱出する。脱出はタラメアから買い取った最新鋭の戦車『YA-24』と装甲車『DD-24』を使う。ヘリは使えん。破棄する」


YA-24、DD-24、この二つのキーワードにリーダーたちは動揺を隠せない。

この二つの兵器は民間人である大荻山が保持していること自体が違法である。

しかも両兵器ともに同盟国「タラメア合衆国」の最新鋭機で、国としても国内にあってはならない兵器なのだ。


リーダーの一人が一歩前に出ると質問を投げかける。


「よろしいでしょうか。最新鋭機とはいえ、両機とも一台しかありません。他、通常の移送車両などを合わせても全員の脱出には足りません。徒歩随伴となりますと機動力を活かせません。機動力を活かすため、一括脱出ではなくピストン輸送でよろしいでしょうか」


「その必要はない。タラメアの最新兵器だぞ。それを目撃した民間人は存在していいのか? 駄目だろう普通に。つまり私兵と、信頼できる私の友人だけで脱出する。だったら精々三百人だ。物資用の輸送トラックも使えば移動できるだろう」


それを聞いた女性のリーダーも、一歩前に出る。


「では、約七千五百名を残置となります。食料もそれなりに残すことになります。またヘリなど使用できない兵器の秘匿性に問題が残ります。機密保持の観点から、ピストン輸送による全員脱出を意見具申いたします!」


大荻山は呆れた表情でこれに答える。


「機密保持は当たり前だ馬鹿者。脱出人員を選別するということを正しく理解しろ。我々が脱出したあと、このシェルターでは非常に大きな火災が起こる。悲しいことだ。そして消火に有毒ガスが自動的に使用される。外に出るハッチは故障して動かない。換気システムも火災で停止中。とても心が痛い出来事だが、残された人々は焼かれて死ぬか、毒で死ぬか、火災で食料も燃料も失って飢えて死ぬ。全滅だ。だが、火災で機密事項は焼失。死人に口はない。つまり、問題はない」


女性隊員の表情が濁る。それを大荻山は見逃さない。


「だが、君が正義感から残りたいなら残ってもいいぞ。その場合は私の意思に反するということになる。意味は分かるな?」


女性は黙って一歩さがると敬礼し、


「脱出に尽力させていただきます」


と大きな声で宣言した。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


二日後の夜、情報を開示することなく脱出作戦は、残された人々に気付かれることなく始まった。

大荻山の言葉通り、シェルターの治安部隊を含む私兵と、大荻山の愛人、大荻山のシェルターで保護していた財界の要人のみがDD-24(タラメア製最新型装甲車)に搭乗していた。


大荻山は自ら指揮を執る。


「自衛隊の通信を傍受していたが、やつらは視力と聴力で獲物を捜すらしい。夜目は効かず活動も限定的ということだ。闇に紛れ静かに行動しろ。ライトは赤外線を使え。いいな」


大荻山の車列はゆっくりと、埼玉方面——つまりR連隊とベルガンの戦闘の影響で高熱により地形が均され、比較的瓦礫が少なく、車両の残骸によって車列が目立たないようなルートを目指す。



◆◆◆◆  ◆◆◆◆  ◆◆◆◆◆


同時刻。


お台場上空に浮かぶ神の居城「デスランド」。


ヴァロンが一人、執務室にこもり、強化されたベルガンとサーチとの新しい連携方式について思考を巡らせていた。


そこへサーチからの連絡が入る。


「ヴァロン、ポイント129に人間の兵器を発見。映像を送るわね」


すると、ヴァロンの眼前にエーテルを使った視覚共有能力により、サーチの視界が映し出される。


「随分と明るいな」


思わずヴァロンが口にする。


「創造主様のお力で、光の増幅能力と映像の補正能力が強化されたからでしょう。それで、この車列どうしましょう?」


もちろん映し出されているのは大荻山らの脱出車両だ。


大荻山は闇に乗じたつもりだが、それは前回のR連隊とベルガンの戦いで得た情報である。

サーチがいれば新月でもない限り丸見えなのである。この日の状態であれば、日中とさほど変わらない程度の視界を確保できていた。


「ぶっ潰そうぜ!」


ベルガンが通信に割って入る。


「ベルガンの気持ちもわかる。サーチ、映像を拡大できるか? あと、周囲に迫撃砲やドローンの姿はないか?」


ヴァロンの眼前の映像が一気に拡大される。


「1、2、3……十両編成。先頭は見慣れない戦車。後続も見慣れない輸送車。残り八台は軍用車ではないな、輸送トラック、乗用車というところか」


すると気配もなく、神がヴァロンの後ろから声をかける。


「ふーん。最新型のタラメアのおもちゃじゃないか。面白そうだね。な、ヴァロン!」


「急に現れないでください! 創造主様、お言葉ですが今回は私が指揮をとらせていただきます。私の存在理由を奪わないでください!」


神はケラケラと笑う。


「いやだね! 面白そうなおもちゃを前に譲るわけがない。ヴァロンはさ、もっとこう細かいのとか、面倒くさい消耗戦とか、退屈だけど指揮が必要なやつを頼むよ」


ヴァロンは呆れたような目で神を横目に見つつも、食らいつく。


「いえいえ、これも十分つまらないと思いますよ。結果の見えた出来レースです。強化されたベルガン。周囲には五万近い同胞、サーチも健在、さらにエーテルの影響で人間は精密機器が使えません。瞬殺ですよ」


「そういうとこだよヴァロン君。君は手堅い。優秀だけど面白みがない。君がやろうとしているのは、そうだなー例えるなら将棋のプロが小学生相手に全力で叩き潰すようなものだよ」


「駄目ですか?」


「駄目じゃないけどさ、面白くないだろ。だからここはさ、盤面を整えてやろうよ。まず、エーテルの濃度を下げてタラメアのおもちゃが百パーセント性能を出せるようにする。それから、ベルガンはこの前の戦いで兵を減らしすぎたので、今回は兵なしで戦うこと。つまりこっちの手駒はベルガンとサーチのみ。相手は全力。一人でも逃がしたら俺たちの負け。どう? ワクワクしないか?」


悪い笑み。とても神とは思えない表情である。


「指揮は、このヴァロンに任せてもらえるんでしょうな?」


明らかに不満の声。神はしぶしぶ応える。


「だーめ! でもさ、俺も口出ししないから、ベルガン、サーチでやってごらんよ。それでヴァロンが必要になったら、お前たちからヴァロンに協力を求めるのは認める。これでいいだろ」


ーー創造主様の最高の譲歩か、仕方ない。


ヴァロンは渋々了承し、すぐに大荻山の車列の周囲のエーテル濃度が下げられた。


神は楽しそうに宣言する。


「リベンジ戦を始めるぞー!」


ベルガンは返事をしない。

だがその目には燃える意思が強く出ていた。燃えるような闘志と、凍るような怒り。サーチはベルガンを分析して直感した。


あの人間は運が悪い――と。

2025年11月9日日曜日

【考察】なぜRPGアツマールは閉鎖するほど人気が落ちたのか

ドワンゴのコンテンツの一つとして人気を博していたRPGアツマールですが

結果として採算がとれなくなり2022年に閉鎖となりました。


閉鎖前に一度分析しているのですが、当時はまだサービス中だったので控えめに書いていました。

閉鎖から年月も経ち、そろそろ改めて分析してみたいと思います。



結論としては「コンテンツの拡大方向を間違えて強みを失った」これに尽きると思います。


アツマールの強みはツクールMVと手を組んだ気軽なフリーゲーム公開プラットフォームでした。


試作や体験版などを作った製作者が気軽にアップして、遊んだほうもコメントという形で気軽にフィードバックできるというライトなコミュニティは、ドワンゴの得意とするニコニコ動画と同じ設計の一つの完成形でした。


しかし、弱点も同じでした。それは気軽にアップされたデータを消せない。ストレージの容量を圧迫し採算を悪化させるという部分です。


一応作者ごとにアップロード上限はあったものの、いくらでもアカウントを作り直せるので実質無限ストレージになってしまいました。また非公開にして残すこともできるのでプラットフォームに一切貢献しないゴミデータが蓄積しやすいのも弱い部分だったと思います。


ストレージの維持には費用が必要なので、ドワンゴは広告を入れたり課金製作者への優遇を強化しました。そして、これが最大の悪手で、人気作が出るとその作品を上位に出し、プレーヤーを呼ぶため(つまり広告や課金の原資)を確保するための目玉に据えました。


その結果どうなったかというと、サイトを開くといつも同じゲームが上位に並び尖った新作や人気が出そうなタイトルが埋もれる結果になりました。


新しい人気作が出ないので、ずっと既往の作品が上位にいます。そしてその中には、ちょっと性的な表現のゲームもありました。内容的には文句なしに面白い作品ばかりでしたが、開くたびに同じ顔、そしてちょっと性的となると、おそらく女性層からプレーヤーが減り始めたのではないかと思います。


そしてその頃、製作者側も良くない方向にあったと思います。がんばって大作を作成しても埋もれてしまうため、試作や出オチゲー、体験版、釣りサムネなど全体的な新作の質の低下が起こりました。


なぜなら、少ない労力で数を出した方が、埋もれても見つけてもらえる可能性が増えるからです。そうなると毎日のように似たような作品が出ることになります。いわゆるデフォルト素材を使った雑なRPGです。コンセプトなども特になく、プレーヤーが遊んで後悔するようなタイプです。


そんな中、コンセプトを明確にした作品は頭一つ抜けました。「実写」「フルボイス」「●●すぎる勇者系」などです。これらは分かりやすいコンセプトのおかげでゲーム実況者の目に触れて、アツマールのシステムとは別ルートで名を挙げていきました。


それでも桁違いのプレイ数を誇る上位ゲーム層には後発では勝てず、すぐに埋もれてしまうため「実写2」「フルボイス2」など同じ作者がより過激にバージョンアップして人気の維持を図りました。するとアツマールはさらに固定化されています。


(最上位)超人気作・不動の名作


(上位)企業案件・コラボ作品


(今の人気作品) 「実写」「実写2」「実写3」などなど

---ここまでがユーザの目に留まりやすい---

(普通の新作)


(デイリー人気作)


(既存作品のジャンル別人気作)


こうなると新鮮味もありません。ユーザは態々スクロールして下の方の作品を遊び機会は減っていきます。

そして遊んだとしても雑ゲーに当たる確率も増えていました。


何度か雑ゲーにあたれば、もう今のユーザは手堅く人気作で遊ぶか、アツマール自体に興味をなくします。

するとプレーヤーが減るので、製作者はさらに焦り、奪い合うために奇抜・お色気・ネタゲーなど、まずはクリックさせることに集中していきます。


それらを求めてゲーム実況者は見に来るようになりますが、どんどん質が落ちていくため動画映えしない作品も増え、唯一の「下層からの浮上ルート」になっていたゲーム実況者も別のプラットフォームやフリーゲームではなく製品版のゲーム実況に移行していきました。


こうして、プレーヤーが減ってしまったアツマールは増え続ける雑ゲーのデータ容量の負荷に耐え切れず採算割れとなり閉鎖になった。


当時製作者として、そしてプレーヤーとして参加していた私の分析です。感じ方は人それぞれで全てが真理や真実だとはいいません。


しかし、超人気作や企業案件、今の人気作は別ページに送り出し、サイトを開いたときには運営が遊んで面白かった新作がまず並び、その下に投稿順の新作が並ぶようなページ設計であれば、少なくとも新鮮味と一定の質の担保はされるため、プレーヤ離れは起きなかったのではないかと思います。

2025年11月6日木曜日

異世界かるてっと3(新)(一部レビュー)

<あらすじ>

異世界転移を経て学園に戻ってきた

アインズ、カズマ、スバル、ターニャ、尚文たち。

2組には新たな転校生オットーとガーフィールが加わり、

1組にも謎の転校生たちが現れる。

彼らの学園生活の行く末やいかに――?


<レビュー>

本作は、一話完結型の人気異世界作品キャラクター総出演によるドタバタギャグアニメです。

最大の特徴は、まったく異なる世界観のキャラクターたちが「学園」という箱庭を舞台に交流するという、いわば“ファミコンジャンプ的なお祭りクロスオーバー”的な要素にあります。


通常のアニメでは「主役」「準主役」「脇役」と明確に役割が分かれ、登場頻度や演出の強弱も変わります。

学園ものでは特に、脇役キャラは名前すら与えられず、場合によっては顔の描き分けすら行われないこともあります。

そうすることで主役の存在が際立ち、作品全体に濃淡がつくのが一般的です。


一方で、『異世界かるてっと』のような群像劇的作品では、登場人物全員に主役級の個性とキャラ立ちを持たせています。

これほど多くのキャラクターを一人の作者が均等に描き分けるのは通常不可能ですが、

異なる原作作者が作り上げたキャラクターたちを一堂に集めたアニメだからこそ実現できた珍しい試みといえるでしょう。


そのため非常に新鮮で、すでに第3期を迎えながらも毎回飽きずに楽しめる構成になっています。


さらに本作は、複数の人気作品をまとめている性質上、異なるファン層が共通の作品を楽しむという特殊な状況を生んでいます。

しかし、その点についても丁寧な配慮がなされており、各キャラの性格や設定は原作準拠。

登場頻度やセリフ回しもバランスよく調整されているのが印象的です。


たとえば、出番が少ないキャラがいた場合でも、数十秒程度のショートギャグや掛け合いが用意されており、

ギャグアニメとしてのテンポを崩さずにファン満足度を維持する工夫が見られます。


人気作品のキャラをただ寄せ集めた“雑なコラボ”ではなく、

各キャラの個性をしっかり生かしてコメディに昇華している点に強い好感が持てます。


あえて難点を挙げるなら、シリーズを知らない視聴者にとっては「誰だこれ?」というキャラも少なくない点です。

ただ、その場合は“よくできたモブ”程度に受け止めても十分に楽しめる構成となっています。


総じて、異世界ファンにはもちろん、

テンポの良いギャグや多作品コラボを楽しみたい方にもおすすめの作品です。



2025年11月4日火曜日

人類アンチ種族神Ⅴ《混乱と天才③》

連日行われる内閣シェルター内でのタラメア合衆国への対応問題会議。


「先送り論」が50%を占めるこの議論は、まるで議論をすることで実質的な先送りを達成しているような、答えのないタラレバの応酬であった。


そんな中、与党と一部の野党が手を組んで通した決議があった。


「国有シェルター民 地方避難措置」である。


文字通り、今もなお東京の地下に設置された三つのシェルター「埼玉側シェルター」「千葉側シェルター」「神奈川側シェルター」の国民を茨城、埼玉、山梨に集団避難させるというものである。


議論の場には、モニター越しに研究者の篠原《しのはら》涼音《すずね》が重要性を説いた。


「皆さんこんにちは。自衛隊UFB研究室長の篠原です。失礼ながら職務上、顔は映せませんし声も変えさせていただきます」


いかにもAIが作成した男性の顔がモニターに映し出され、変声機を通した篠原の、いつもより平板な声が響く。


「議員の皆さん。資料1をご覧ください。こちらがR連隊の残存数と東京周辺の自衛隊の配置状況です。赤く塗られている部分は兵器、もしくは兵士が不足しているエリアになります」


手元の資料を見ると、国有シェルターの周辺以外、ほぼすべてが真っ赤に染まった地図。


「先日の戦闘で一定のUFBは倒しました。ですが、雑魚を蹴散らしたにすぎません。その雑魚ですが、東京都内にはまだ五十万以上いるようです。さて、そのうちの十万がどこかの国有シェルターへ攻めてきたとします。シミュレーションが資料2になります」


1時間置きの自衛隊とUFBの勢力状況が24時間分並んでいた。


「このシミュレーションに、王とか女王と呼ばれるUFBは含んでいません。単純に雑魚十万を相手にしたとしても、24時間以内に東京周辺の自衛隊の残存戦力の95%が消滅します。これはかなり自衛隊が善戦する想定です」


「しかし、前回は自衛隊側が準備を整えて先手を取り、善戦しました。では、後手に回り防衛戦になった場合はどうでしょう。資料3になります」


そこには、たった10時間で全滅するという結果が書かれていた。


一人の議員が立ち上がる。


「バカバカしい! 迫撃砲も、レールガンも、無傷で残っているのだ! 今回も近づく前に叩き落としてやる! こんなものはシミュレーションと呼ぶものか!」


篠原は想定していたかのように返す。


「前回は時間をかけてUFBを事前にロックオンしておきました。一度ロックしてしまえば多少移動しても自動で補正できます。しかし、このケースは突然襲ってきたことを想定しています。ご自慢の迫撃砲も、レールガンもロックオンなしで……いわば、目を閉じた状態でどれだけ精度が出ますか? 熟練の砲兵で10%。レールガンのように特殊な兵器であれば5%程度です。仮に20%命中したとしても80%が残ります。つまり八万が弾幕を突破します。


味方に近すぎるUFBには迫撃砲もレールガンも使えません。最新の対地対空車両はほとんど残っていません。時速100kmで超低空から迫ってくる人型の的に対して、戦車砲が当たると思いますか? 仮に全弾命中したとしても、一万も倒せません。UFB七万との接近戦に、どうやって勝つおつもりですか?」


議員は何かを言い返そうと思考を巡らせるが、ロジカルな説明に自己矛盾しか生み出せず、力なく黙って腰を下ろした。


この後は篠原の独壇場だった。自衛隊が考えた迎撃プランの弱点を説明したり、内閣シェルターが陥落するシナリオを未来予測のように具体的に説明したり、たった30分。この短い時間で反対する議員は一人もいなくなった。


どちらかと言えば、内閣シェルターにいる自分たちの身の危険を直視することで、避難に肯定的な議員が大幅に増えたくらいだった。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


決議の翌日、大仲の演説が各メディアで報じられた。


「防衛大臣の大仲です。今、この国はご存じの通り、大きな国難に直面しております。全国民の皆様が東京の状態を知り、不安に過ごされていることも承知しております。その中で、特に国有シェルターに避難している皆様はずっと、太陽の届かない地下で過ごされております。率直にご説明すると、国有シェルターの皆様に地方への避難をお願いいたします。避難先は確保してあります。期日は明日、自衛隊が皆様をご案内いたしますので、日の当たる新天地へ避難をお願いいたします。急なお願いで心苦しくはありますが、R連隊が一部のUFBを退けた今、この瞬間が移動の好機なのです。ご協力をよろしくお願いいたします」


このニュースは一気に拡散した。

一部の国民は、R連隊がUFBを駆逐して、地上に戻れることを期待していた。しかしそれは、政府が隠蔽したR連隊の損耗率を知らないからである。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


国有シェルター内。


「ねえ、本当に地上に出られるの?」「……『地方へ避難』って言ってたろ」


「東京、もうダメってことじゃないのか……」


「でもさ、陽の当たるとこに行けるなら……もう何でもいいよ」


誰かのため息と、誰かの小さな笑いが交じり合い、ざわめきがシェルターの天井に反響した。


◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


翌日、大仲の予告通り、昼には各シェルターに自衛隊の先導部隊が現れた。受け入れ先の地方自治体からも多くの車両がシェルターの出口に集結していた。


こうして、その日の夜には、あれだけの人数が避難していたシェルターから、すべての人々が避難を終えた。たったの10時間で、各シェルター合計で五十万にも上る都民の大移動を完遂させた大仲と自衛隊は、世界から賞賛を集めた。


しかしタラメア合衆国の指導者たちは違っていた。尋常ではない脱出速度を成功させた要因を分析し、それが大仲や津田といった与野党の議員、そして足立・仲原といったR連隊の生き残りが、R連隊凱旋直後から地方への脱出を計画し、根回しや車両の調達を進めていたことが分かった。


そのことから、UFBがいかに脅威であるのか。それを再認識する結果となった。


そして私案にすぎなかった、ある一つの案――

「トーキョー・ステイビライゼーション」と名付けられた、東京一帯を核で“安定化”させる計画が、タラメアの中で多数を得る勢いで浮上し始めていた。


2025年11月2日日曜日

転生悪女の黒歴史 死亡フラグ(新)(一部レビュー)

<あらすじ>

自分の名をつけた主人公「コノハ・マグノリア」が可憐に活躍する、恋と魔法の冒険ファンタジー。

中学生の頃に自ら執筆した物語の世界へ転生した佐藤コノハは、なりたかった主人公「コノハ」ではなく、

その妹で稀代の悪女「イアナ・マグノリア」に転生してしまう。


――新感覚!死亡フラグ回避ラブコメ誕生!


<レビュー>

自分の小説の世界に転生してしまう「悪女転生系アニメ」です。

最近の流行に沿って「悪女」とは言いながらも、実際には根は善良な性格で、周囲のイケメンたちから次々と好意を惹かれてしまいます。


近年は「聖女」「悪女」「追放」「令嬢」×「転生」という組み合わせの作品が非常に多く、正直、タイトルだけでは混乱してしまうほどです(笑)。

しかも、どんなタイトルでも主人公は実は善人で、それに気づいた周囲がヒロインを支えていく――という定番の王道展開が多いため、差別化が難しいジャンルでもあります。


そんな中で本作は、「自分の黒歴史(=過去に書いた小説)」の世界に転生してしまうという点が特徴的です。

物語を執筆してから年月が経っているため、内容を断片的にしか覚えておらず、

本来なら未来を知っているはずの主人公が、記憶の曖昧さから後手に回ってしまうのが面白い設定です。


しかし、後手に回ることで物語に緊張感が生まれ、さらにシリアスな場面でその記憶がよみがえることで、

後手から一転して主導権を握る展開が訪れる――このバランスが非常に絶妙です。


また、ヒロインが原作者であるため、物語そのものに介入し、不幸なイベントを回避しようとする過程で世界が少しずつ歪んでいきます。

ところが、まるで修正力が働くかのように、再び本来の不幸なシナリオへと戻ろうとする。

この「運命の修正」が描かれることで、主人公が知り得ないエピソードが新たに発生し、自己創作と運命のせめぎ合いという興味深い構図が生まれています。


全体としては、王道の設定やネタを重ねていくタイプの作品ですが、

「自作世界への転生」というテーマをうまく生かして個性を出しており、

転生ファンタジーが好きな方には十分おすすめできる作品です。