2025年6月24日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決④ 救出》

 神災《じんさい》から27日が経過した。


前日の閣議決定でこの日、私有シュエルター救出部隊が設立された。


隊長は足立《あだち》 昭介《しょうすけ》である。


簡易的な結成式典で大仲大臣が壇上に立つ。


「みなさん。今回は急な招集に応じていただきありがとうございます。今、私有シェルターに取り残された人々は飢えや、渇き、燃料問題に苦しんでいるかもしれません。

 みなさんの、お力でどうか彼らを救出していただきたい。」


「ですが、私は私有シェルターの皆様と同じくらいに、自衛隊の皆様にも損害を出さないようにしていただきたい。命さえあれば、何度でも救出に挑戦できます。

 どうかこの私の思いも忘れずに、今回の任務にあたってください」


大仲が壇を降りると、副隊長・仲原《なかばら》香《かおり》三佐が代わって前へ。


「本隊は救出部隊であって討伐部隊ではない。指示を誤解するな」


そう釘を刺すと、兵器の編成を発表した。


「偵察ドローン ×20 機 + ドローン母艦(ベース)×1

 二七式自走レールガン ×3 / 二七式戦車(特装)×2

 特殊耐熱装甲車 ×2 / 耐熱輸送車 ×3

 二七式迫撃砲 ×1

 人型パワーユニット(二足歩行)×2」


「以上 8 種類 の最新装備、要員五十名。質問は?」


「すべて陸路で、航空支援は……?」


「航空機はこのエリアで計器異常が頻発する。原因不明。よって陸路のみ」と仲原。


この発表に隊員がざわつく


「27式ってどれも最新鋭じゃないか」

「人型パワーユニットは秘匿兵器じゃないか」

「国内に3台しか存在しないドローンベース(ドローンの母艦)が配備されるのか!」

「自分レールガンを見るの初めてです」


「質問はないな。次にルートを説明する。我々は埼玉シェルターのDゲートから地上へ出る。国道17号で荒川を渡り、池袋付近のシェルターの救出。救護者は輸送車に乗せそのままDゲートへ帰還する。

 昨日の索敵では、このあたりは怪物も少なく、本隊の戦力で制圧は可能と判断している」


「その後、輸送車の後退を荒川まで援護し、再び進軍、新宿、渋谷と行軍する。なお、この辺りは地獄のど真ん中だ。避けたいところだがシェルターも多い。一日目の行軍は以上である。質問はあるか?」


「つまり航空支援のない代わりに戦車と自走砲で進路を切り開いて進めと。その為の最新鋭兵器ですか・・・」


「そうだ。これらは1台1台が各地方の切り札として配置されていたものだ。大仲大臣が職権を行使して無理やり集結させたものだ。我が国の陸戦兵器の最新鋭はここに集結している。 諸君の働きにも期待している」


そういうと、中原はひな壇を降りた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


6時間後


荒川付近


「隊長。偵察ドローンが怪物を発見しました。数7です」

「誘導レーザー照射。レールガンとリンクしろ」

「ドローン1、飛行中の目標の1体に照射しました。」

「よし、撃て!」


キィィィィン。電圧の高まる独特の音がする。その直後、ドンと音速を突き破る衝撃がはしる。


「弾着確認。目標を粉砕しました」


一撃で怪物を破壊する威力に隊員たちから思わず声が上がる。


「すごい」

「これはいけるぞ!」


「ドローン1、飛行中の次の目標に照射完了」


キィィィィン。ドン!


「弾着確認。この目もを粉砕しました。しかし、のこり5体は高度が低く、射線がとれません」


「ふむ。リンクを迫撃砲に切り替えろ」


迫撃砲は放物線を描くため、遮蔽物があっても攻撃が可能なのだ。


「ドローン1、地上の目標の1体に誘導レーザー照射しました。」


「27式発射!」


ボゥン


レールガンとは違い、低く火薬特有の爆発音が響く。


「弾着確認。・・・土埃が酷いな・・・」


数秒の沈黙があたりを包む


「目標粉砕!こちらの威力も十分です!」


「おおおお!!!」


主力兵器の活躍に部隊は沸いた。その時


「隊長!8時の方向より怪物接近!数2。はやい!接触まで20秒」


物陰からガーゴイルの奇襲を受ける。


「人型展開!!時間を稼げ!!総員車両に退避!!」


人型のパワーユニットが8時の方向を向く。しかし、携行サーベルを構える前にガーゴイルはユニットを強襲。


そのまま空高く持ち上げて50mほど上昇し、ユニットを地面にたたき落とす。


「うあああああぁぁぁ・・・・」

「ザザッザザッ」


一瞬で途切れた悲鳴と無線で、状況は伝播した。


落下した破片が、車両に退避しようとしている兵士を襲う。


その混乱を狙ったように、ガーゴイルが急降下し、混乱を極める部隊を蹂躙する。


ーー全滅する。


誰もが思ったその時、戦車の機銃が味方の死体ごとガーゴイルをハチの巣にする。


撃ったのは中原副隊長だ。車中で待機していた彼女は、味方の状況を即座に判断すると、2体のガーゴイルが近づいた瞬間を狙い

まとめて機銃で薙ぎ払った。


それを見た足立隊長は声を荒げる


「まだ生きていた隊員もいたかもしれないのに、何故撃った!1発目2発目は威嚇、3発目から当てろと習わなかったのか!」


「隊長!これは実践です。威嚇なんてしていたら全滅していました。確かに生きていたかもしれません。ですが全滅とどちらを選ばれますか?」


「どちらも選ばん!仲間の犠牲を出さずに敵を無力化する方法を考えるのが士官だアホたれ!」


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


同時刻・地下、防衛省指揮所。


地下司令室。モニターには赤い “重要事項” の文字。


大仲は無線越しの報告に目を閉じた。「生存 35うち負傷 11、死亡15 以上」


近くにいた官僚が思わず声に出る。


「出撃から6時間で、最新鋭機の精鋭部隊が・・・」


隣席の幕僚が囁く。「いえ、正体不明の相手です。想定より被害が少ない、という見方も……」


官僚たちの動揺に大仲が声を上げる。


「撤退。即時撤退だ!」


これまで以上に険しい表情に、誰もが大仲の心情を察し冷静を取り戻した。


この日、50名の隊員のうち15名を失い、救出作戦は荒川を渡ることなく失敗に終わったのであった。

2025年6月22日日曜日

片田舎のおっさん、剣聖になる(終) レビュー

 <あらすじ>

片田舎で細々と道場を営む中年の剣術師範、ベリル・ガーデナント。

かつて剣の高みを目指していた日々は遠い過去となり、今では落ち着いた暮らしを送りながらも、その鍛錬の成果によって「片田舎の剣聖」と呼ばれるまでの腕前に至っていました。


<レビュー>

物語のクライマックスでは、ベリルが王権と宗教の対立に巻き込まれ、自らの弟子と戦うことになります。そして、王から「聖剣」として認められることで、ひとつの区切りを迎えました。


本作の特徴は、いわゆる“無双系”作品でありながら、主人公ベリルが「偽りの謙遜」ではなく、「本心からの謙遜」を貫く点にあります。

彼は常に控えめでありながらも、「おっさん」としての決断力や人生経験に裏打ちされた落ち着きを随所で見せ、戦いを避けながらも必要な場面ではしっかりと行動に出ます。その姿勢が、作品全体に安心感と説得力を与えていました。


戦闘シーンは非常に緊張感があり、ただの力任せではない「技」と「知恵」による戦いが魅力的です。

相手の戦闘スタイルや癖、間合いを読み、状況に応じてスピードや体術を柔軟に使い分けるなど、ベリルならではの老練な戦い方が描かれており、「異常な身体能力」や「派手なスキル演出」で押し切るタイプの無双作品とは一線を画しています。まさに“静かな凄み”といった印象です。


また、恋愛要素や子育て要素といったサブストーリーもよく練られており、作品全体の味わいを深めていました。

特に、ミュイとの同居生活では、食事のシーンが幾度となく描かれ、それが二人の関係の変化を自然に伝えてくれました。

戦い以外のベリルの人間としての成長が表現されていたのも、本作の魅力の一つです。


恋愛的な描写としては、アリューシアがベリルに想いを寄せている様子が描かれましたが、ベリル本人は気づくことなく、アリューシア自身も「彼が幸せになるのであれば自分でなくてもいい」と語る場面がありました。彼女の本心がどこにあるのかは視聴者の想像に委ねられていますが、恋愛が大きく進展することはなく、余韻を残す形になっています。


なお、本作は2期の制作がすでに決定しているため、こうしたヒロインたちとの関係性については、今後さらに掘り下げられることが期待されます。


とはいえ、タイトルにもある「片田舎のおっさん、剣聖になる」というテーマは、1クールの中でしっかりと描き切られており、非常に満足度の高い締めくくりとなっていました。

ラストの静かな余韻も含め、心に残る作品だったと思います。


「派手さ」よりも「深み」で魅せる、静かな熱量に満ちた異色の無双作品でした。

ベリルという主人公の在り方が物語全体に芯を通し、見ごたえのある戦闘と人間味に満ちた日常描写が高い完成度で融合していました。

続編となる2期が、今から楽しみです。




2025年6月19日木曜日

機動戦士ガンダム Gundamジークアクス(一部レビュー)

<あらすじ>

宙に浮かぶスペース・コロニーで平穏に暮らしていた女子高生・アマテ・ユズリハ。彼女は、ある日現れた謎の少女・ニャアンと出会ったことで、非合法なモビルスーツ決闘競技《クランバトル》の世界へと巻き込まれていきます。

「マチュ」というエントリーネームを名乗ったアマテは、専用機「GQuuuuuuX ジークアクス」を駆り、熾烈なバトルの日々に身を投じることになります。


<レビュー>

本作は、1stガンダムの世界とは異なる“別世界線”を描いた新しいガンダム作品です。ファーストガンダムの象徴的な要素を一部受け継ぎつつ、まったく新しいオリジナル要素を大胆に組み込むことで、独自の世界観を築いています。


第1話はオリジナルの時間軸で物語がスタートします。戦争終結後の静かな始まりから、非合法のモビルスーツバトル《クランバトル》に至るまで、段階的に世界観を紹介していく構成です。しかし、この作品の真価が発揮されるのは第2話からだと感じます。


2話では、ファーストガンダム第1話の展開を大きく改変し、アムロがまったく活躍せず、ガンダムとホワイトベースがまさかのシャアによって鹵獲(ろかく)されてしまいます。さらに、ガンダムは赤く再塗装され、赤い機体として新たに登場しますが、直後に謎の現象により焼失。以降は、緑色に再塗装された旧ホワイトベースのみが“1stの名残”として残る形になります。


このような予想外の展開は、新規ファンにとっては斬新に映り、旧作ファンにとってもインパクトのある構成だと感じました。1話で大胆なオリジナル要素を示し、2話で懐かしいキャラクターと設定を登場させるという二段構えの構成が、非常に巧みに機能している印象です。


また、1stガンダムの名物キャラたちが、令和の高精細なアニメーションで当時と変わらないキャラクターデザインのまま登場している点も魅力的です。キャラデザインに関しては、本作オリジナルのキャラクターと、1stから継承されたキャラクターが明確に描き分けられており、まるで異なるアニメ作品のキャラが1つの世界に共存しているような、不思議な視覚効果もあります。


作画や演出も非常に力が入っており、展開スピードも目を見張るものがあります。次々に新しい要素が投入されるため、「これは本当に1クールで収まるのか?」と不安になるほどの情報量と広がりを感じさせる構成です。


設定の奥深さや勢力構図の緻密さから考えると、むしろ4クール(1年放送)でも問題なく構成できるだけの下地がありそうです。それほどまでに本作の世界観は広く、しかも物語の進行が早いため、視聴者は常に集中して物語を追わなければ置いていかれてしまうほどです。


今回のレビューでは、1話・2話を中心とした「さわり」の紹介に留めておりますが、間もなく迎える最終回を経て、改めて全体を通した総合的なレビューをお届けしたいと考えています。


『Gundamジークアクス』は、ファーストガンダムの伝統を引き継ぎながらも、大胆かつスピーディーにオリジナリティを展開していく、熱量の高いガンダム作品です。

ガンダムシリーズファンはもちろん、新規のアニメファンにも強くおすすめしたい、今期注目の1作です。



2025年6月18日水曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決③ 野党vs野党》

神災《じんさい》から25日が経過した。


防衛省の大臣である、大仲《おおなか》 晴彦《はるひこ》は野党の攻勢に苦しんでいた。


ーー早く国民を安全な場所へ避難させないと。

ーーしかし、今や避難民は10万人になっている。


人口140万人の大都市東京。あの大災害で10万人もの人々が国有シェルターに避難できたのは、大仲大臣のスピードのある政策と的確な意思決定の成果である。

だが皮肉にも、この人数が避難先の選定に大きな影を落としていた。


ーー1万でも、2万でもいい。受け入れ先はないのか。


大仲は、あらゆる分野の受け入れ先と調整をしていたが、数万人の単位の避難先となると簡単にはみつからない。

そこへ追い打ちをかけるのが野党「帝都復権党」の掲げる「地上奪還論」だ。


SNSの巧みに使い、大仲を弱腰と揶揄《やゆ》し、世論の大きな流れとして「避難よりも奪還」という風潮が時間とともに増していた。


国会答弁では野党第一党である「立国平和党」が地上奪還案を野党内で提案を取りまとめ中という形で、帝都復権党の攻勢を抑えてくれているが、世論も地上奪還に流れていく中で苦しい国会が続いた。


この日、ついに帝都復権党の舞岡議員が立国平和党の制止を無視して切り込んだ。


「大仲大臣。もうすぐ災害からひと月が立ちますよ。いつまで国民を地下に閉じ込めておくつもりですか?」


大仲も切り返す。


「シェルター内の状況は安定しています。自警団方々の協力もあって治安もいい。食料も燃料も十分にあります。

 そのうえで、やはり県外への脱出も必要ですから、受け入れ先と調整をしています。

 まずは、医療が必要な方を率先して2日後に脱出できるように、受け入れ先の病院が必死にベットを準備してくれています」


先ほど調整がついた内容をカードして切りかえす。病院の確保について、この数日で調整できたことは、昼夜を問わない大仲と官僚たちの成しえた奇跡にも近い。


だが、舞岡は止まらない


「医療が必要な人を逃がす。そんなの当然ですよ。では大臣、その他の多くの避難民について、いつ、どのように脱出できるのでしょうか?」


「舞岡さん、まさに今、その調整をしています。シェルターには10万人もの人々がいるんです。安全にかつ、継続的に避難できる場所、避難ルートには慎重になるべきです。

 先ほど申し上げたように、シェルターは安定しています。国民の安全を考えるのも私の仕事だと認識しています」


「そうでしょう。10万人の避難なんて難しいのです。ですから大臣、私たち帝都復権党が最初から申し上げたように、地上奪還が最も現実的で優先すべき課題ではありませんか?」


すかさず立国平和党の津田が割り込む


「舞岡さん、その計画は立国平和党と帝都復権党で提案書を作成している最中です。ここで大臣に提案しても大臣も判断に困ると思いますよ。提案書をもって、別途議論しませんか?」


野党第一党の党首である津田の心証を悪くして提案書が遅れることを危惧した舞岡はトーンを落とした。


「わかりました。では、最後に一言だけ大臣に進言をして答弁を終えます。」


「大仲防衛大臣、自衛隊のレールガンは何のために開発したんですか?地下鉄の防衛に100両近い戦車は必要ですか?東京にある歴史的な建造物、私有のシェルターに取り残された人々は放置ですか?

 防衛大臣というのは避難誘導係でしょうか。国土を防衛しないんですか?以上です」


この発言は中継を聞いていた神災を受けていない地域を中心に、大きな共感を生んだ。


「弱腰大臣」「地上奪還」「自衛隊は国土を守れ」と地方の国民が声を上げ始め、大仲の活動に支障をきたすほどであった。


当初は形だけの「地上奪還計画案」を作成する予定であった立国平和党も、ある程度まじめに取り組まざるをおえない状況に追い込まれた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


翌日の国会。



まずは、大仲が現状を説明。


続いて津田が地上奪還計画に切り込んだ。


「帝都復権党の皆様と協議している地上奪還計画についてお話します。大仲大臣はずっと県外脱出をお考えでしたが、私はこれが実際の避難民の皆様のご希望なのか、この点についてずっと疑問でした。

 普通に考えて、住み慣れた土地を捨てて知らない土地に避難をするのは誰だって心配があるのではないでしょうか?」


この切り出しに、帝都復権党が前の面りに声を上げる。


「そうだ!」

「シェルターの人々の気持ちも考えろ!」

「地上を奪還するしかないだろう!」


だが津田の奇策に絶句することになる。


「この3日間、3つのシェルターの避難民の方々に私を含め、立国平和党の議員が現地の声を聴いてきました」


「私は驚きました。どのシェルターの幅広い年齢層、しかも性別を問わない皆様が、大仲大臣をとても高く評価されているんです。皆さん避難生活に不満はあるそうです。ですが、それ以上に

 大仲大臣への感謝の気持ちが大きいと。我々の調査では他県への脱出に対して賛成75%反対20%無回答5%という結果です」


「また脱出するとしたらどれくらい待てるか?という質問には3ヵ月が一番多く、中には無期限でもよいという意見もありました。明日ですか。医療が必要な人が避難できれば、健康な大多数の方の避難には

 少し時間がもらえるということが分かりました」


思わぬ援護に大仲は内心驚いていた。野党第一党の津田はいわば与党で大仲の最大のライバルであった。

だが、津田も単なる擁護ではおわらない。


「ただ、地上の奪還に関しては、期限を定めずにしてほしいという声が80%以上ありました。ですから、私は大仲大臣の進める脱出計画と、平行して地上奪還案も時間をかけて精査していくことで

 確実性があがると思います。どうですか大臣?」


事実上の地上奪還計画の「延期」である。


この発言に舞岡は声を上げずにはいられない。


「津田さん。何を言ってるんですか?早々に地上を奪還しないと、私有シェルターの人々が死んでしまいますよ!津田さんまで弱腰でどうするんですか!!」


無断発言に議長から注意を受ける舞岡を横目に津田が手を挙げてマイクに立つ。


「私有のシェルターについては、確かにそうですね。私も少し配慮が足りておらず、捕捉します。地上の奪還と私有のシェルターの救出は別軸で進める方向で大臣には考えていただきたい。

 私有ですので、何日分の備蓄があるのか。耐久性の詳細も分かりません。国民の救出は自衛隊の任務であり、これは流石に大臣にも早急にご対応いただきたいと思います」


こうして、地上奪還計画は「延期」、救出計画のみ早急に実行というシナリオが成立した。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


帝都復権党 控室──本会議終了直後


「舞岡さん!なんで延期に同意したんですか!!」


帝都復権党のNo2の議員が早々に詰め寄った。


「せざるを得ない!反対したら津田は必ずいうぞ ”帝都復権党の支持基盤である富裕層を助けたいだろ”ってな」


「そんなこと全国中継で言われたらウチも、支持者も大損害だ。うちらの都合で自衛隊を動かすように受け止められたら選挙も大敗決定だ!」


その言葉に帝都復権党の議員も、苦々しい顔で見つめあった。


ーーこの代償は必ず払わせるぞ。津田ぁぁ


舞岡の怨念が控室にこだまするようだった。


2025年6月17日火曜日

【小説】人類アンチ種族神Ⅴ《対決② 野党の追及》

神災《じんさい》から20日が経過した。


防衛省の大臣「大仲 晴彦《おおなか はるひこ》」の大胆でスピード感のある政策の効果もあり、東京の生存者は私有のシェルターに避難している富裕層と、国有シェルターに避難している一般人。そして政府の閣僚や事務次官があつまる内閣シェルターに分かれて生き延びていた。

 

ガーゴイルは東京23区を中心に無数に地上と上空にはいかいしている。そんな状況でも、地下鉄に関しては自衛隊によって治安は守られ、申請すればシェルター間の往来も許されていた。


目先の脅威が去ると、大仲大臣への野党議員の追及が本格化してきた。


◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


内閣シェルターにて答弁が行われていた。


質問しているのは、野党第一党「立国平和党」の党首「津田 一郎《つだ いちろう》」だ。


「まずは大仲大臣。スピード感のある避難対応について、私個人として非常に評価すべきだと感じております」


「その前提でお話ししますが、大切なことは持続可能であることであります。各シェルターにあと何日くらいの食料、燃料が残されているのかご回答ください」


大仲はまっすぐに手を挙げると、マイクに立つ。


「その件について、何日という期限はお伝え出来ません。なぜなら、食糧も燃料も日々、自衛隊の皆様、そして民間の方々が補充していただいており、変動しているからです。一つ言えるのは、その補充がすべて止まったとしても最低10日間の備蓄は各シェルターにあります。食料が必要としている人に食事を届ける。これについてはどのシェルターについても十分に対応可能であります」


再び津田が質問する


「では大臣、埼玉のシェルターも十分に備蓄があると。あのシェルターは一度破棄されたものを修繕して使用しています。食料も燃料も全く備蓄されていなかったと思いますが、改善されたと認識してよいですか?」


「はい。埼玉については当初こそ食糧が不足気味ではありました。しかし埼玉の商社の方、農家の方、一般の方から本当に多くのご支援をいただき、今では他のシェルターと同等の備蓄を行っています。これには大臣として、協力していただいた全ての方に感謝を申し上げたいと思います」


質問者の津田は、わずかに笑みを浮かべ少しうなずくと質問を終えた。備蓄状況については津田も事前に知っていた。これは"あえて"追及という形で大臣に答弁を迫り、国民にシェルターの状況を知らせ、安心させる津田流のパフォーマンスであった。


次に野党「帝都復権党」の「舞岡 幸三《まいおか こうぞう》」の質問だ


「大仲大臣はスピード感を重視したといいますが、その結果として地下鉄の駅に向かう途中に多くの国民が命を落としています。自衛隊を地上に派遣して、地上にも避難経路を作らなかった責任をお聞かせください」


再び大仲が回答する


「大臣である私が、決断し権限の下でおこないました。当然責任は私にあり、その一つとして今、説明責任を果たしています」


舞岡は声を大きくして追及する。


「では説明してください。見殺しになった国民への責任はどう取られるおつもりか?」


この攻撃的な質問にも大仲は屈しない。


「見殺しといいますが、どこから避難してくるのか予測もできない状況でした。その状態でむやみに自衛隊を地上に出せば、地上は危険な状態ですので、自衛隊にも被害がでる恐れがありました。それに、これは後から自衛隊員から聞いて驚いたのですが、自衛隊の皆さんは地下鉄の入り口で待機して、避難民を見つけた場合は、危険を顧みず地上へ出て地下鉄へと誘導したそうです。私は、防衛省の担当大臣として、彼らを代表しているわけですから、彼らの勇気ある行動を称賛《しょうさん》することはあっても、見殺しにしたという認識には断固否定します。」


舞岡はそれでも勢いを止めない


「あなたが地下鉄へ避難を促したばかりに、隠れていた場所から移動して死亡した人も沢山いる。それを称賛するなんて理解できません。では質問を変えます。リスクを負ってシェルターに避難した人々ですが、ずっとこのままとはいきません。地上の奪還はどうされるお考えですか?」



「舞岡さん、奪還というのはつまり自衛隊を地上へ出す計画があるかということでしたら、計画はありません。シェルターの方々は時期を見て県外に脱出していただくつもりです。今、一番大切なのは地上の奪還ではありません。生き残った人々の命であります」


「それはご冗談ですよね?大臣の発言は未曽有の災害に直面したら、東京を捨てるということですよ?東京に資産を持つ人、思い出のある人、なによりもこの国の首都をテロリストに明け渡せというのでしょうか?」


この言葉に呼応するように「帝都復権党」の議員たちが声を上げる


「そうだー」

「首都だぞ、首都!」

「皇居を放棄するんですか!」

「無責任すぎるぞ!」


一気に過熱する議場。


「静粛に!」


議長が静止をかけるが「帝都復権党」のヤジは止まらない。


すると先ほどの津田が手を挙げてマイクに立った。


「野党を代表して申し上げます。地上の件ですが。これについては私も思うところはあります。今、「立国平和党」の党内で提案をまとめています。よろしければ「帝都復権党」の皆様もご参加いただき、作成しませんか?」


野党第一党と協力を組める。この美味しい話に「帝都復権党」は直ぐに乗った。


「では、大仲大臣、地上については我々「立国平和党」と「帝都復権党」で提案を少し協議のお時間をいただきますが、お出ししますので、大仲大臣だけではなく、与党の皆様でこれを吟味していただければと思います」


こうして、議会は何とか終了したが、「帝都復権党」を中心とする地上奪還派が勢いを持つ結果となってしまった。



◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆  ◆◆◆


立国平和党 控室──本会議終了直後



「……代表、いまの発言、党の了承は得ていませんよね?」


控室の空気が一瞬凍る。

言ったのは、一期目の若手議員・矢部(やべ)だった。

不安と苛立ちがまざりあった声。周囲の同僚も、どこか同調するように目を向けている。


津田は、テーブルの上の書類を手に取ると一瞬矢部を見て、すぐに視線を落とし椅子に腰を下ろす。

そして、ゆっくりと水をひとくち飲み、テーブルに戻した。


「……まぁ。これも政治だよ。」


それだけを言って、視線を矢部に返さない。

控室の空気がまた、ざわつく。

その沈黙を断ち切るように、ひとりの年配議員がゆっくりと立ち上がった。


「矢部君、そして君たちも。あの発言を“地上奪還の開始宣言”と受け取ってはいけないよ」


「……でも、あれじゃまるで、我々も計画を持っているように──」


「“持っているように見せる”必要があった、ということだ」


矢部が困惑を露わにすると、年配議員は歩を進めてそっと手を肩に置いた。


「舞岡議員は、党派を越えた復興協議の場を“自分の理想を語る場”にしていた。

 津田代表は、ああいう場で感情を煽られて政治が停滞するのを、何よりも恐れている。

 現場ではまだ自衛隊が必死に活動を続けている。時間が、命を左右することもある。そういうことだよ」


「でも……じゃあ、地上奪還は、やるんですか? 代表の言葉を信じた国民が──」


「“計画書”は作るさ。だが、中身のページは白紙でいい。

 ページ数と予算目録だけ、派手にしておけばそれで良い。

 あれは“見せる計画”だ。“やる計画”じゃない」



若手たちは黙り込んだ。

その言葉の重みを、それぞれの心で咀嚼《そしゃく》していた。


年配議員は落ち着いたトーンで咀嚼《そしゃく》を助ける。

「理想を語る時間が、現実を壊してしまうこともあるということだよ」



机の端で、津田は依然として書類に視線を落とし、何も言わなかった。

ただ静かに、一行ずつ赤ペンを走らせていた。

まるで、騒がしさなど聞こえていないかのように。


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編集後記:明日、定例外更新で対決③を掲載します。

2025年6月15日日曜日

片田舎のおっさん、剣聖になる 7〜11話(一部レビュー)

<あらすじ>

片田舎で道場を営むしがない剣術師範の中年男、ベリル・ガーデナント。

剣士としての頂点を目指した日々は遠い昔のこととなり、長年の鍛錬によって極めたその剣の腕は、今や“片田舎の剣聖”と称されるほどの領域に達していた――。


<レビュー>

今期の注目ファンタジー作品のひとつです。

前半では、年配の剣士である主人公が名だたる剣豪や魔法使いたちと戦い、圧倒的な強さを見せつける「無双展開」が続きました。しかし後半では、娘のような存在との同居生活が始まり、要人の護衛や国策への協力など、剣の実力だけでなく「剣聖」としての社会的な責務も担うようになってきました。


この手の無双系作品は、最初から最後まで力押しで進むパターンが多いのですが、本作では世界観を丁寧に広げながらも、主人公の「剣士としての強さ」という軸をぶらさずに物語を進めており、構成の巧みさを感じます。読者を引き込む力も十分にある作品だと思います。


今期のラストは、隣国における「宗教団体」と「国王軍」の政権争いに巻き込まれ、なんと宗教側の指導者が主人公の元弟子だった――という衝撃の展開で終わりそうです。


また、伏線として騎士団の女団長との恋愛の可能性や、娘の成長、魔法系勢力との戦いなどが残されたままなので、ぜひ第2期でこれらのエピソードを描いてほしいと期待しています。


なお、本作ではまだ主人公が正式に「剣聖」と名乗る場面は登場していません。ラノベアニメでは「とりあえず1クールやって終わる」作品も多く見られますが、できることなら最後まできちんと描き切ってほしいと思わせる完成度の高い物語です。


CGを上手に活用してはいるものの、アクションシーンが多く作画の負担も大きそうなので、仮に2期が決まったとしても、制作にはある程度の時間がかかりそうな印象を受けます。


とはいえ、時間がかかってもぜひ続きを観たいと思わせるだけの魅力があります。


単なるバトルものではなく、恋愛や日常も丁寧に描かれているため、ファンタジー作品がお好きな方には幅広くおすすめできるアニメです。




2025年6月12日木曜日

活動レポート 2025年5月

管理人の緑茶です。こんばんは!

 

今回は先月の活動レポートとなります。


【実績】

 

 作家関連のお仕事は・・・・0(ZERO!)

 今月も安定の0!(ZERO!)でした。


【雑感】

『レビューの話題』------------------

アニメ、ドラマ、ゲームと幅広いジャンルを掲載しました。特にドラマのレビューは難しさを痛感しています。アニメは絵や演出から制作者の苦労が想像できますが、一方不慣れなドラマについては役者のセリフや演技が台本通りなのかアドリブなのか判断しにくく、カメラワークもアニメとは異なる技術が評価されるのでレビューに苦戦しています。それらの点で、ドラマをレビューするにはもっと勉強が必要だと感じました。


『DQXの話題』-------------------

竜術士4人+海賊(応援要員)構成でVer.3フィールドにいるイーギュアなどの強敵に挑みました。すべてがドラゴラム一択のため、引ければ勝ち、引けなければ負けのシンプルな構成です。海賊の応援で必殺チャージ率が25%ほど上がり、3人以上がドラゴラムを放てる場面がありました。ただし全滅すると復帰に手間がかかるため、ネタとしては面白いのですが繰り返しにはあまり向いていない点もあります。


『Youtubeの話題』-----------  

小説連載が始まり視聴時間が減りました。主にUnreal Engine 5の技術系動画をチェックしています。ただし、中級以上の内容になると前提知識がある方向けになりすぎて、初心者にはついていきにくくなる印象です。一方で「みなみよつば」さんのRPGツクールMZ解説は初心者を常に意識していて非常に参考になっています。


『小説の話題』-------------------

「人類アンチ種族神」の連載を開始しました。数年かけた構想で、導入部は残虐描写を多めにしています。プロットでは性的描写も検討しましたが、今回は残虐描写に絞りました。2話完結型の予定でしたが、V話以降は少し長めの展開になります。人類側の描写も増え、読みやすくなると思います。


『その他の話題』-------------------

6月に入り、夏野菜の植え付け後半戦です。プランターは大きめにして、水分が飛びやすい季節に備えましょう。虫被害なら葉裏のチェックを忘れずに。手袋を使えば刺される心配も軽減できます。家庭菜園は物価上昇の対策にもなりますので、このタイミングで始めてみてはいかがでしょうか。


以上、5月の活動レポートでした。

今月もお付き合いいただき、ありがとうございました!


これからもズズズイッとよろしくお願いいたします!!